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髑髏天使

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第十八話 力天その一


                   髑髏天使
                 第十八話  力天 
 死神がいたのは。虚空だった。
 黒く何もない。何一つない世界に彼はいた。そこに一人座り何もしていない。ただそこにいるだけだった。
「暇かい?」
「いや」
 ふと出て来た声に対して応える。
「別にな」
「暇そうに見えるけれど?」
「しかし暇ではない」
 こう声に返すのだった。
「実はな」
「っていうと何か考えてるの?」
「そうだ。考えていることがある」
 また声に返す死神だった。
「少しな」
「そういえば人間の世界ではあれだったかな」
 声はふと気付いたようにして言ってきた。声だけで姿は見えない。しかし死神はその声の主が誰なのかわかっているようであった。
「また髑髏天使が出て来てるんだよね」
「会っている」
 声に素っ気無く述べた。
「既に何度もな」
「考えているのはその髑髏天使のことかな?」
 声は彼の話からそれを感じ取ったのだった。
「やっぱり。それ?」
「それだと言えば?」
 死神は虚空の中で述べた。
「何を聞きたい?今度は」
「髑髏天使ねえ」
 しかし声は答えるより前にその髑髏天使に対して言うのだった。
「あれじゃない。人間じゃない」
「人間か」
「そうだよ。たった五十年に一度現われて魔物と闘うだけで」
 実に小さいもののように話していた。
「それだけじゃない、本当にね」
「そうだな。あれは確かに人間だ」
 死神もそれは認めた。
「人間だ、紛れもなくな」
「人間はやっぱり人間じゃない」
 声は笑いながらまた言ってきた。
「所詮はね。そうでしょ?」
「人間か」
 死神は声のその言葉を聞いてまた呟いた。
「人間は人間だ。しかし」
「しかし。どうしたの?」
「面白い存在だ」
 こう言うのであった。
「人間としてな。面白い存在だ」
「何かわからないけれど興味持ってるの?」
 声は死神のその言葉を聞いてまた述べた。
「その人間がなってる髑髏天使に」
「興味がないと言えば嘘になる」
 虚空を見ながら述べる。そこに見えるものは何もないがそれでも何かを見ていた。彼はそれを見ながらそのうえで話をするのだった。
「全くな」
「何かわからないよ、言ってることがさ」
 しかし声は死神の言葉に首を捻るようだった。声だけでその動作はわからないがそれでもだった。声はそうした響きになっていた。
「そりゃ僕達の中にも元は人間だった存在だっているよ」
「そうだな」
「まあ僕達はそうじゃないけれどね」 
 このやり取りは死神の素性をそのまま語っていた。実に率直に。
「私もだ。だが」
「興味を持つんだ」
「ただの人間だがそれが変わろうともしている」
「変わるって?」
「何かが出ようとしている」
 彼はまた言った。
「あの人間からな」
「何かが?」
「はっきり言えば危険な存在だ」
 死神の目が動いた。だが前には何もない。渦巻く漆黒があるだけで存在しているものは何もありはしない。しかしそれでも彼はそこに何かを見ているのだった。 
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