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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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無印編
  第十六話 迷える思い

 相変わらずなのはの様子がおかしい。
 温泉から帰ってきても案の定というかはまだ悩んでいるようだ。
 最近は特にひどく、授業中でも完全に上の空だ。

 だがそれも仕方がないのかもしれない。
 ジュエルシードの反応があればフェイトとまだ向かい合う事が、ぶつかり合う事が出来る機会がある。
 しかし最近はジュエルシードの反応自体がない。

 迷いながらでも前に進みたくても、進むために向かい合わないといけない相手がいないのだ。
 進みたくても進めない状況では思考する時間が増えてさらに迷いを生む悪循環だ。
 
 さらにこの状態が続くと

「いい加減にしなさいよ! この間から何話しても上の空でぼうっとして!」
「あ、ご、ごめんね。アリサちゃん」
「ごめんじゃない! 
 私達と話してるのがそんなに退屈なら一人でいくらでもぼうっとしてなさいよ!
 行くよ。すずか」

 やはりアリサが爆発したか。

 教室を出ていくアリサに困惑するすずかに歩みより静かに頷いて見せる。
 すずかも俺に頷き返して、アリサの後を追う。

「大丈夫か?」
「うん。今のはなのはが悪かったから」
「完全には否定は出来ないが、多少アリサも言い過ぎだな」

 それにしても厄介だな。

 ジュエルシードが発動すれば一歩間違えば一般の人たちの平穏を壊しかねない。
 だがアレが発動しなければ、フェイトとなのはが出会い、向かい合う事も叶わない。
 つまりは、なのはが迷いながらでも前に進みたくてもその機会すら得る事が出来ない。

 勿論手段が全くないわけではない。
 今、俺の手元にあるジュエルシード。
 アレを囮にすれば、なのはとフェイトが向かい合う機会も出来るだろう。
 だが周りにどれだけ影響を与えるかわからない、そんな不安定なモノを使う気にはなれない。

「なのは、前に進めないからといって悩みすぎるな。顔色も良くないぞ」
「うん。ありがとう。
 でも大丈夫だから」

 なのはが無理に笑って見せる。
 ずいぶんと頑固だな。
 もう少し頼ってくれてもいいんだけど

「困ったことがあったらいつでも言ってくれ。出来る限り力にはなるから」
「うん、ありがとう」

 俺がアーチャーという事をばらさずに言えるのはここまでだ。
 さて、アリサの様子も見に行かないとな。




side なのは

 温泉から帰ってからも悩み続けていた。
 最初はユーノ君の力になりたかった。
 こんな私でも何かに役に立てればと思った。
 でも今はわからない。

 ジュエルシードは見つからないからフェイトちゃんとも会えない。
 勿論アーチャーさんにも会えない。
 士郎君が応援してくれたから前に進みたいけど前に進めない焦り。

 最近はずっと考えてしまって、あんまり眠れていないし食欲も微妙にない。
 そんな私なんかに気がついてくれたのか、士郎君が心配してくれたけど大丈夫。
 大丈夫だから。
 私は前に進んで見せるから

「レイジングハート、お願い……」

 私はレイジングハートを握りしめて、気がつかないうちに涙を流していた。




side 士郎

 アリサとすずかが消えたほうに歩みを向けると階段のところで話をしていた。
 アリサは確かに怒っていた。
 でも

「少なくとも一緒に悩んであげられるか」

 まったくいい友達を持ったものだな。
 大切な友達だからこそ、悩んで苦しんでいることを打ち明けてくれないのがつらいか。

「まったく、なのはの唯一ともいえる悪いところだな。
 人にあまえるのが、頼るのが下手というのは」

 アリサには俺がフォローするまでもない。
 さてと、俺は戻るとするか。
 踵を返そうとした時

「士郎君、盗み聞きは良くないと思うよ」
「……気がついてたのか?」

 誤魔化すのもなんなので二人の前に姿を見せる。

「ほら、私って音にも匂いにも敏感だから」

 匂いって、まあ夜の一族、吸血鬼の血を引く者としてはそうなのだろう。
 とはいえアルフにしろ、すずかにしろ、匂いでばれるとは平穏な生活で少し鈍ったかもな。

 にこやかなすずかとは対照的に、アリサは顔を真っ赤にして口をパクパクしている。
 まあそうだろうな。

 なのはの事が大好き等々結構恥ずかしいことは言っていたのを聞かれていたとわかれば当然だろう。

「ゴホン。
 で士郎、あんたは何か知ってんの?」
「……多少はな」
「ならっ!」

 俺の言葉にアリサが睨むが

「悪いが教える気はないぞ。
 なのはがそれを選んだなら俺が教えるわけにはいかない」
「むう」

 アリサもその辺りはよくわかるのか、黙ってしまった。
 アリサもかなり頭の回転が速いからなそこら辺は察することができるのだろう。

「俺から言えるのはただ一つだ。
 待ってやってほしい。彼女が自分で言える時まで。
 そして、その時優しく迎えてやってほしい」

 ジュエルシード。
 アレが本当に危険なモノと判断した時にどの道を選ぶのか決まってもいない自分がいう言葉ではないと苦笑してしまう。

 俺はどうするのだろう。
 なのはとフェイトを守るために、助けるために剣を執る?
 いや、そもそも既になのはやフェイトに殺意を込めなかったとはいえ刃を向けた。

 ならば、もし二人が自分の障害になると判断したら、二人に剣を躊躇わずに突き立てるのだろうか?
 一を切り捨て九を救う正義の味方になるために……

 思考を止めろ。
 今はそれを考える時ではない。
 心を覆え、剣で、剣で、剣で、硬い剣で覆い隠せ。

「彼女が一体どれほど悩んでるかはわからんがな……」

 そう言い残して、俺は踵を返す。




side アリサ

「……言われるまでもないわよ」

 士郎がいなくなった方に向かって静かにつぶやく。

「士郎君」

 すずかも士郎のいなくなった方を見つめてる。
 なんなのよあいつ。

「俺から言えるのはただ一つだ。
 待ってやってほしい。彼女が自分で言える時まで。
 そして、その時優しく迎えてやってほしい」

 そう私達に向けた言葉は何であんなに悲しそうで、寂しそうで、まるで懇願するかのように。
 そして、私やすずかでも、勿論なのはにもでなく、自分自身に向けた苦笑。

 たぶん士郎は一番今のなのはや私達の事を理解しているのだろう。
 それと同時に、一番苦しんでるのかもしれない。

 温泉のときだってそうだ。
 あのなのはに絡んできた女の人。
 あの女の人の背中を追っていた時の士郎の眼。
 忘れるはずがない。
 すぐそばにいるあいつがはるか遠くに見えた。
 感情を感じさせない眼。

 そう、それからだ。
 あいつと帰り道で別れる度に、このまま消えて二度と会えなくなるような錯覚を感じるのは。
 だけどあんたが言うまで私も聞かない。
 でも黙っていなくなるような事だけは絶対には許さないんだから。




side アルフ

 私は扉の前でじっと立っていた。
 ほんとならばもう少し後に一回戻ってくる予定だったのだけど、士郎とあの白い子の三つ巴という想定外の状況の報告も兼ねて、一旦戻ることにしたのだ。
 今回のジュエルシードは二つ。

 今の状況から見れば十分すぎる戦果だとは思うけど、あのババアがどう判断するかはわからない。
 でも今度は助け出せる。
 そのために士郎も武器を貸してくれた。
 赤い布に包まれた剣を握りしめる。
 フェイトには怪しまれたけど誤魔化したから気が付いていないはずだし、私と直接会ってないババアが気がつくはずもない。

 次の瞬間、鞭を打つ音とフェイトの悲鳴が響いた。

「やっぱり!!」

 フェイトに手を出した。
 赤い布を剥ぎ取り、剣を鞘から抜き、鞘を投げ捨てる。
 黒くて見惚れるような刀身。
 それを振り上げて

「うりゃあっ!」

 力任せに剣を扉に叩きつける。
 と

「あれ?」

 異様に手応えが軽い。
 それに剣の腕もない私が振った所為か扉には傷一つ入ってない。
 士郎の奴、鈍らでも渡しやがったのか?
 それとも私が使いなれない武器に間合いを間違ったか?

 そんな事を思ったら
 ズルリと扉がずれて倒れた。
 ……なんて斬れ味。
 私が振ってこれなんだから士郎なんかが振ったらバリアごと斬られそうだ。
 って固まっている場合じゃない。

「フェイト!」

 フェイトを拘束するバインドに剣を叩きつけて、バインドを破壊する。
 崩れ落ちるフェイトを剣を投げ捨てて、抱きとめる。

「大丈夫かい?」
「……アルフ? なんで」
「心配だからに決まってんだろ」

 フェイトを抱きしめて、ババアを睨みつける。
 だけどババアは私なんて興味を持たず、さっき私が投げ捨てた剣を拾って見つめている。
 そして、フェイトに視線を向けて

「フェイト、傷の治癒といい、この剣といい、一体何をしたの?」

 え?
 傷の治癒?
 フェイトの身体を見てみると傷がない。
 服は破けているから確かに鞭で打たれたはずだ。
 でも傷跡も残さず完全に治ってる。

 これって士郎の治療と同じ現象?
 確か士郎が治療に使った光るアレはフェイトに吸収された。
 まさかアレがまだ働いてる?

「……私は何もしていません」
「そう。アルフ、この剣はどこで手に入れたの?」

 初めてババア、プレシアが私に視線を向けた。
 私はプレシアをにらみ返し

「ふん。あの世界の魔導師から少し拝借しただけだよ」
「バカげたことを言うのね。あの世界に魔法技術は」
「現実にあったんだよ」
「……そう」

 剣を私に放り投げて、踵を返す。

「次は母さんを喜ばせて頂戴」

 そう言い残して、プレシアは奥に消えた。
 なんだったんだろう?
 あの剣を見て、あの世界に魔法技術があるとわかった途端これだ。
 フェイトがこれ以上傷つくことがないので一安心だけどあの女が考えてることはわからない。

「フェイト、戻ろう」
「……うん」

 フェイトを抱きかかえて、剣を拾って部屋を後にする。
 あの女が何を考えてるかは知らない。
 でも何をしたってフェイトだけは必ず守ってみせる。




side 士郎

 日は沈み、街には闇が満ちる。
 今日は執事のバイトだったのでフェイトの家にも行ってはいない。
 ちゃんとご飯を食べただろうか?

「ん? フェイトとアルフ」

 海鳴市を巡回させていた鋼の使い魔三体のうちの一体がフェイトとアルフの姿を捉えた。
 こんな街中で防護服を纏って杖を持っているとなると

「ジュエルシードがあるのか?」

 ジュエルシードが発動するまではさすがに結界を張っているとはいえ感知は出来ない。
 俺も出るか。
 黒の戦闘服を纏って外套とフードを纏い、仮面を付ける。
 さて、あんな街中で何もなければいいんだが。
 庭に出て、一気に跳躍して闇の中を駆ける。




side フェイト

 建物の上から街を見下ろす。
 反応はこの辺りのはずなんだけど

「フェイト、この辺かい?」
「うん。この辺りだと思うんだけど大まかな位置しかわからないんだ」
「確かにこれだけゴミゴミしていると探すのも一苦労だね」

 ゴミゴミしてるは言い過ぎな気もするけど、アルフの言う通り。
 この前の森みたいに周りに人とかがいないと結構細かい位置まで絞り込めるんだけど、これだけ多くの人と光が溢れていると見つけにくい。
 だけど方法がないわけじゃない。

「ちょっと乱暴だけど周辺に魔力流を撃ちこんで強制発動させるよ」

 乱暴な方法だけど一番簡単な方法。
 結構魔力を使うから疲れるのが難点だけど

「待った。それは私がやる」

 アルフがそう言ってくれるのはうれしいけど

「それはだめ。アルフには他にしてほしいことがあるから」
「他に?」
「うん。広域の結界を張ってほしいんだ」

 士郎との約束。
 一般人を巻き込まない。
 もしそれを破ったら間違いなく士郎は私達の敵になる。
 そうなったらジュエルシードどころじゃなくなる。
 それに……もう士郎と話せなくなるなんていやだ。

「はあ、仕方がないね。でも私も手伝うからね。
 私が広域結界を張った後一緒に魔力流を撃ち込むよ」
「うん」

 アルフも結構頑固だよね。
 でもそれがうれしい。

「ほんじゃ、行くよ!」

 頑張らないと母さんのためにも




side 士郎

 まあ、ずいぶんと街中で派手にやっている。
 一応、ユーノが前にすずかの家の裏で張ったような結界を張っているのが唯一の助けではある。
 それにしたって

「……天候を操作するほどの魔術、いや魔法か」

 まあ、とんでもないとしかいいようのない魔法だ。
 それになのはの魔力も感知した。
 かなり近くにいるな。
 その時、青い光が溢れる。
 ジュエルシードが発動したようだ。
 俺とジュエルシードの距離は結構近い。
 俺が立っているビルのすぐそばだ。
 そして、なのはとフェイトのジュエルシードまでの距離はほぼ同じ。
 ある意味、なのはにとっては待ちわびた時だろう。
 フェイトに真正面からぶつかり合える、前に進めるチャンスなのだから。

 ならば俺はギリギリまで手を出さないことにするとしよう。
 いい加減になのはにも前に進んでほしい。
 なのはとフェイト、お互いがジュエルシードに向かって杖を構える。
 二人の杖から放たれた桃色の光と金色の光がジュエルシードに突き刺さる。

「リリカル、マジカル」
「ジュエルシード、シリアル19」
「「封印!」」

 二人の詠唱と共にさらに一回り大きな魔力砲撃がジュエルシードに突き刺さり、ジュエルシードの溢れる光は治まった。
 そこには静かに佇むジュエルシードだけ。

 さあ、なのは

 お前の思いをフェイトにぶつけろ。

 前に進むときだ。 
 

 
後書き
第十六話でした。

次回更新は来週です。
来週の更新の時には三話ぐらい一気に更新したいなと思いつつ。

それではまた来週

ではでは 
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