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髑髏天使

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第十四話 能天その十八


「翼も炎も使えないというのに」
「どちらも使えなくとも」
 彼は全身に己の残っている全ての力を満たさせた。
「俺は髑髏天使だ。髑髏天使として闘うのみだ」
 言いながらさらに力を満たさせる。
「行くぞ、貴様を倒す」
 両手の剣を握り締めそのうえで何と自分からグールに向かおうとする。するとその時だった。
「!?」
 グールは思わず目を瞠った。何と髑髏天使の色が変わったのだ。
 権天使の赤から白になっていく。それと共に動きも変わった。それまでは水の抵抗を受けていたがそれが全くなくなった。まるで風のような動きであった。
「水の抵抗がなくなった!?まさか」
「これは」
 髑髏天使はその身違えるまでに速くなった己の動きを感じつつ言った。
「また力が備わったのか」
「その力は」
 グールは動きを変えた髑髏天使を見ながら考えを巡らせる。
「風!?その動きは」
「風か」
 髑髏天使は彼女の言葉から己に新たに備わった力を察した。
 確かに今の動きは風のそれだった。水の中にありながらそれを切り裂くものだった。この動きにより彼は。今まさにグールに迫る。
「けれど」
 しかしだった。グールはまだ己の絶対の優勢を信じていた。
「今は水の中。私に分があるわ」
「それはどうか」
 髑髏天使はグールに向かって突き進みながら動きだした彼女に対して告げた。
「今の俺は風だ」
「風がどうかしたというの?」
「風は水を切り裂く」
 これが彼の言葉だった。
「鋭い風はな。そして」
「そして?」
「その中にあるものもまた」
 言いながらその両手の剣を構える。グールに突き進みながらその剣を構えたのだった。
「切り裂く。こうしてだ」
 グールに向かって剣を放った。しかしそれは間合いではなかった。だがその剣から白銀の刃が飛びそれがグールを撃った。刃はグールの身体を切り裂きその巨体から血煙を湧き起こさせた。水の中がその紅い血で急激に染まっていく。
「貴様の血は赤か」
「私に傷を付けた!?」
 グールが驚いたのはこのことだった。
「しかも。この傷は」
「深いな」
 髑髏天使はその水を染め上げていく血の量を見つつ冷静に述べた。
「最早。動くことも辛いだろう」
「くっ、確かに」
 グールも忌々しいがこのことを認めるしかなかった。
「その通りよ。私はもう」
「腹を切った」
 見ればその通りだった。血は腹から噴き出ている。しかも傷は二つだ。
「鱗のない腹をな」
「そこまで見ていたというのね」
「敵の弱点はすぐに見抜きそこを狙う」
 はっきりとした声で言い切ってきた。
「それが闘いの常識の筈だ」
「そうね。それはその通りだわ」
「俺はそれをしただけだ」
 またしても簡潔な言葉であった。
「それにより今こうして貴様を倒すことになった」
「どうやら。私は慢心していたようね」
 今になってそれを実感したグールだった。
「貴方のことはわかっていたつもりだったけれど」
「確かに権天使までなら敗れていた」
 これは髑髏天使自身が最もよくわかっていることだった。実際に能天使になるまでは防戦一方というのもおこがましい状況だった。それは否定しようがなかった。
「しかし。俺は勝った」
「まさかここで能天使になるなんて」
 流石にグールもそれは考えもしていなかったのだ。
「それも。風を使えるなんて」
「運が俺に味方したということだ」
 こう述べたのだった。
「そしてそれにより俺は勝った」
「見事だと言っておくわ」
 今まさに息絶えんとする声で言ってきた。
「私を倒したことは事実だから」
「その言葉受け取っておく」
「行くといいわ。勝者が闘いの場から去るものよ」
 グールの身体もまたあの青い炎が包もうとしていた。その巨体が徐々に青く燃え上がっていく。
「貴方がね」
「そうさせてもらう。それではな」
「このまま次々に強くなっていくのね」
 グールはその身体を急激に青く燃え上がらせながら最後の言葉を出した。
「どうなるか見てみたい気もするけれど敗者にその資格はないわね」
 これを最後の言葉にして青い炎に変わった。闘いに勝利した髑髏天使は上に飛び水から出た。そうしてサイドカーの上に着地すると牧村来期の姿に戻った。そうしてそのサイドカーに乗りダムを後にした。
 その彼をダムの門の橋から見る男がいた。それは死神だった。彼は去っていく彼のサイドカーを見ながら一人呟くのだった。
「あと五つか」
 一言こう呟いただけで姿を消した。後には誰も、そして何も残ってはいなかった。ただ静寂があるだけだった。死闘の後の静寂が。


第十四話   完


                2009・4・3 
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