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髑髏天使

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第十三話 衝突その七


「今はな。それでそのミルクは」
「私が選んだミルクをコンデンスしたものです」
 それだというのである。
「コンデンスも一からしました」
「それがそこにあるミルクか」
「はい、そうです」
 見れば盆にはコーヒーが入っていると思われる白と青の欧風、それもドイツのそれを思わせる陶器のティーポットの横に白い小さな陶器の壺があった。
「ここに」
 そしてろく子は次にその壺に触れて述べた。
「入っています」
「では。それを頼む」
「やっぱりあれですよね。ミルクもよくないと駄目ですよね」
「全てがよくなってこそ完璧な味が出る」
 牧村もまた述べる。
「コーヒーだけではないがな」
「コーヒーだけじゃないですか」
「全ての料理がそうだ」
 話をあえて広いものにさせてきた。
「全てがよくなってこそだ」
「そうですよね。最近それがわかってきました」
 ろく子も彼の言葉に納得した顔で頷いた。
「やっぱり。作ってみないとわからないことですよね」
「作ってみないと?」
「実はずっと作ったことなかったんですよ」
 ろく子は今度はその知的な顔に屈託のない笑みを浮かべて言ってきた。
「お料理は」
「作ったことがない」
 牧村はその言葉をまずは怪訝な顔で受けてそのうえでまた問うた。
「それは人の世界にいなかったからか」
「いえ、ずっといました」
 ところがろく子はこう彼に返す。
「それで仕事もしていましたけれど。人間の世界で」
「なら作ったことはある筈だが」
「人間の食べ物を料理してはいなかったんです」
 こう言うのであった。
「実は」
「人間の食べ物をか」
「その辺りの草とか虫を食べてたんですよ」
 また牧村に対して話す。
「最近まで。作るようになったのは。そうですね」
 眼鏡の奥の目を右斜め上にやったうえで考える顔になって話す。
「五十年程度ですかね」
「五十年だとかなりのものではないのか?」
 牧村はここでは人間の時間を基準にして話をしていた。
「長いぞ。人間五十年といっていたからな」
「私三百歳なんですよ」
 自分の年齢について話してきた。
「実は。それだけ生きてるんですよね」
「三百歳か」
「はい。それで二百五十年の間あちこちで尼さんとか旅芸人になっていたりして」
「それで道でそうしたものを食べて生きていたのか」
「そういうことです。ろくろっ首って首が伸びますよね」
「ああ」 
 だからこそろくろっ首なのだ。首が伸びるものと首が飛ぶものがあるがどちらにしろその首に秘密があるのがろくろっ首なのである。
「それで虫とか木の実とか草をですね」
「食べていたのか」
「それでずっとやっていけたんですよ」
 また笑って話す。
「食べることは」
「だから作る必要はなかったのか」
「夏でも冬でも」
 そういうことらしい。
「人間の食べるもの以外にも食べることできますから」
「それでどうして料理をはじめたんだ?」
 牧村はその料理をする必要がなかった彼女に対して問うた。
「五十年前から」
「五十年前にですね」 
 にこにことしながら彼に話す。
「博士に御会いしまして」
「博士にか」
「ほっほっほ、その時丁度秘書を探しておったのじゃよ」
 ここで博士が楽しそうに笑って言ってきた。 
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