髑髏天使
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第十二話 大鎌その六
「これは」
「アンコールワットか」
「うむ、そこの奥から見つけてきたものだそうじゃ」
実際にその象徴とも言えるアンコールワットの話が出て来た。言わずと知れた東南アジア最大の仏教遺跡の一つである。カンボジアはタイの領土であった時代もタイを征服していたような時代もあったのだ。東南アジアの民族史も実に複雑なものがあるのだ。
「これはな」
「何語だ?」
「当時のタイの言葉じゃがな」
博士は言語についてはこう答えた。
「しかし。それでもこれは」
「わかりにくいか」
「今のタイ語ならわかる」
あくまで今は、であった。
「しかしこの時代になるとな。どうにもな」
「だが。わかったと今言った」
「多少は読める」
これが返答だった。
「解読中というわけじゃよ。それでここに書いてあったのじゃよ」
「どういったことがだ?」
「やはり東南アジアにも過去髑髏天使は現われた」
やはり話は髑髏天使のことであった。これしかなかった。
「千年以上にも前にな」
「俺の前の髑髏天使の一人か」
「その通りじゃ。その髑髏天使もまた魔物達と戦い続けておった」
この辺りは変わりはしないのだった。髑髏天使は五十年に一度この世に現われてそうして魔物達を滅していく。これが宿命なのだから。
「そして」
「そして?」
「魔物に近付いた」
博士は巻物を見ながら述べた。
「こう書かれておるのう」
「魔物に?」
「まだよくわからんが」
巻物を見ながら首を捻るのだった。
「そう書かれておるぞ」
「魔物に近付くだと」
「何じゃ、書かれておるのはこれだけじゃ」
博士は今度はこう言った。
「この巻物には」
「魔物に近付く」
「どういう意味じゃ?」
博士は身体を起こして腕を組んだうえで述べた。
「これは。意味がわからんな」
「髑髏天使は魔物を倒す存在だな」
「今の君がそれそのものじゃな」
「それが魔物に近付く」
牧村の表情は動いてはいないがそれでも目が動いていた。
「意味がわからないが」
「これについても文献を探していくかのう」
「じゃあさ、博士」
「今度はさ」
ここでそれまでめいめい勝手に部屋の中でたむろってあれこれしていた妖怪達が博士の周りに来て声をかけてきた。見ればから傘に一つ目小僧である。
「南米の文献なんてどう?」
「そこ調べてみたら?」
「南米の?」
「そこのはまだじゃない。だから」
「調べてみたら?」
「あそこは難しいのう」
博士はそのから傘と一つ目小僧に顔を向けて答えたのだった。
「南米はのう」
「あれっ、どうして?」
「あそこなら何かあるんじゃないの?」
「あるものはあるがないものもあるのじゃよ」
博士はいぶかしむ彼等にこう答えたのだった。
「あそこはな」
「あるものはあるけれどないものはない」
「何、それ」
「じゃから。ないものはないのじゃよ」
また妖怪達に対して言うのだった。
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