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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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双葉時代・共闘編<後編>

 
前書き
封印式を持っていないのでぶっちゃけ不利です。 

 
「――さ、流石は尾を持つ獣……。ここまで追いつめられるとは……」

 ゼエゼエと肩で息をする。
 体のあちこちが痛いし、無茶な動きをしまくったせいか、全身の筋肉が悲鳴を上げている。
 チャクラを使っては兵糧丸でドーピングしたせいもあって、口の中は血の味と兵糧丸の苦味で一杯だ。

「けど……、オレも中々やるもんだろ……?」

 血の味がする唾を吐き捨て、口元を拭う。
 ミトに見つかったらお行儀が悪いと窘めされそうだが、そうでもしないと口の中が気持ち悪くてしょうがない。

「なんとか……どうにか、なったか……。良かった」

 ちらりと視線を動かして、周囲に誰もいない事を確認する。
 良かった、巻き添えを食らった者は誰もいない様だ。
 戦っている最中は無我夢中だったので周囲に気配りが出来なかったから内心は不安で一杯だったのだが、杞憂で済んだ様だ。安心した。

 抑え付けられている事に耐え兼ねてか、七尾が尾を振り回しながら怒りに満ちた咆哮を上げる。木遁による呪縛から逃げ出そうと全身を動かせば、何本かの巨木が根元から引き千切られるものの、直ぐさま私が生み出した無数の木々が七尾の巨躯を拘束した。

「マジで……つ、疲れた。扉間、ミトを早く連れて来てくれ……!」

 右手を前に差し出して、私の創った森へとチャクラを流す。
 結構頑張っているが、流石にマダラと戦った後に七尾と戦う事になるとは思っていなかったから、かつて無い程私は疲弊していた。

 どちらか一方だけだったら兎も角、最強クラスの猛者二人を続けざまに相手にしたら……流石に、ね。

 弱音が口から零れるが、それでも怒り狂う七尾から視線を逸らさない。
 でもこれ以上続けば本当に不味い、扉間早く……!
 そんな事を考えていれば、突如として声が響いた。

「――柱間!」
「馬鹿野郎! なんで戻って来たんだ、マダラ!?」

 草原を囲む森の向こうから現れた長い黒髪の青年の姿に、思わず悲鳴の様な声を上げてしまった。
 ――くそ、なんで戻って来たんだよ!?

「お前が来た所で何にも出来る事は無い! 早く一族の元へ戻れ!!」
「巫山戯るな、貴様!!」

 私が怒声を上げれば、向こうも声を荒げてくる。
 何の目的かは知らないが、今回ばかりは付き合っていられない。

「相手は七尾! こうして抑えられてはいるが、それだって長くは続かない。一族の者達を守るのがお前の仕事だとさっき言ったろ! それなのに何故ここに戻って来た!!」

 そう叫べば、相手の赤い目が私を睨みつける。

「黙れ! 千手の貴様がオレに指図をするな!」
「この分からず屋!!」
「ウスラトンカチ!!」
 
 なんでか物凄く低次元な言い争いになってしまって、思わず脱力してしまう。

 ――――それが、失敗だった。

 一瞬の気の弛みは、戦場では命取りだ。
 そう何度も、父上からも先輩忍者達からも教わって来たのに、私はそのミスを犯してしまった。

 七尾の尾の一本が、木々の拘束から解放される。
 その尾の落とされる方向を見て、私は自分の顔色が変わってしまうのを感じた。

 ――――マズイ、そっちには……!

 残り少ないチャクラを使って、自身に瞬身の術を掛ける。
 頼むから間に合ってくれよ! その一念だけで、必死に地を蹴った。



「う、ああああぁぁっ!」
「――!!」

 足を貫いた灼熱に、口から押さえ切れなかった声が漏れた。
 痛い、痛い、痛い!! 何か鋭い物で足を抉られ、目尻に涙が浮かぶ。

 けれどもこれ以上の泣き言は私の意地と矜持が許さなかった。涙で滲んだ視界に映る巨大な影に向かって、無我夢中で手を向ける。そのままありったけのチャクラを込めて、相手を叩きのめす様をイメージする。

 半ば悲鳴の様な声が上がったのと同時に、大きな物が地に落とされた鈍い地響きが私の体の奥まで震わせた。

「貴様、何故……?」
「知るか! 勝手に体が動いたんだ、私にだって分かるか馬鹿野郎!!」

 押し倒した形のマダラが唖然とした声を上げているが、無視だ無視! つーか、マジで痛いよ!
 滲んだ視界を必死に凝らして、痛みの原因を見つめる。
 七尾の尾に砕かれて凶器の様に尖った長い木片が、私の足の防具の隙間を貫いた様だ。
 木遁使いが木にやられるなんて、洒落にならないよ……!

 そう言えばどさくさに紛れて一人称・私を使ったけど大丈夫だよね? どうでもいい事を考える事で、痛みから気を逸らす。

「こうなったのも、オレのせいだ。すまん、抑え切れなかった」

 ものすごく痛いが、足から破片を抜くのはもう少し我慢した方がいいだろう。
 普段から使用している自動治癒の術を意図的に解除して、敢えて負傷したままでいる。
 木片を取り除かないままに治癒を行えば、肉の中に破片が刺さった状態で傷口を治してしまう。
 それだけはごめんこうむる。

 木の欠片が止血弁代わりになっているので、出血に関してはそう考えなくてもいい。
 後で落ち着いた場所で処置を行うのが最善の手段だろう。

「――っつ! マダラ!」

 動けば同時に肉が抉られる。その痛みを必死に堪えて、覆い被さっていたマダラから身を起こす。
 低い声で名を呼ぶと、何処か動揺した様子のマダラの赤い目が私を見つめていた。

「そこらへんに、巾着が落ちていないか……? 中に兵糧丸が入ってる、筈だ」
「――……口を開けろ」
「おう! って、なんか普段よりマズイ!!」

 右手を七尾の方へと差し出したまま、口に放り込まれた兵糧丸を噛み砕く。思わず吐き出したくなる苦味に、顔が引き攣った。
 あれれ? なんかこれ、さっきまでの私が食べていた千手製の兵糧丸と味が違くね。どっちも不味いのは同じだけど、こっちの方が苦味が酷いと言うか……。

「……うちは製の兵糧丸だ。文句あるか?」
「いいえ、ありません」

 苦いけど、体の底からチャクラが湧き出てくる。
 顔を顰めながらも立ち上がって七尾と対峙しようとしていた私の前に、マダラが立った。
 
「……怪我人はそこで大人しくしていろ」
「は? 何をするつもりなんだ?」
「……別に。オレの方も試してみたい術があったからな――相手が七尾であると言うのであれば丁度いい」
 
 肩を押しのけられ、負傷した足を押さえて地面に片膝をつく。
 そのままマダラの背中を眺めていたら、不意にその全身を猛る紫の炎が覆った。

 普段マダラが使っている骸骨の鎧でも、捻れた一角の鬼でもない。
 それは巨大な天狗を思わせた。

 しかも、形が未だに不明瞭でチャクラが定まっていないとはいえ、あの七尾と同じ位……いや、それ以上に大きいかもしれない。
 ……あれも、万華鏡の能力の一つなんだろうか。

「――チッ。やはり未完成の様だな……まあいい」

 巨大な天狗の頭部に収まっているマダラは不満そうに言いながらも、天狗を模した巨大武者の腕を振るう。
 文字通り大地を砕く豪腕が七尾の巨躯へと叩き付けられ、七尾が声にならない苦痛の叫びを上げた。

 ……え、えげつねー。

 木遁のせいで碌に身動きが取れない七尾の、人間で言えば鳩尾に当たる部分に天狗の豪腕が叩き込まれたのを目撃した私は、頬が引き攣るのを押さえ切れなかった。

 いやだわ何なのさ、あのデカイの。
 まだ未完成っぽいけど、私将来あんな奴と渡り合わなきゃいけなくなる訳? やだなぁ、あれとやり合うの。下手すれば腕の一振りでミンチにされてしまいそうだ。

 現実逃避気味にそんな事を考えていれば、巨大天狗を構成していたチャクラが不安定に揺れて、天狗の姿が掻き消える。
 荒い息を吐いているマダラの様子からして、やはり未完成であり、体にかかる負担は相当の物であるようだ。奥の手中の、奥の手……といった所か。

 そうしてから、私は向こうに見えた赤い頭にほっと肩を落とした。
 
「あね、兄上! 遅くなって済みません、ミトを連れてきました!!」
「柱間様! それに、そこにいるのは……!」
「今はこいつの事気にしなくていいから! ミト、七尾を鎮めたい! 頼めるか!?」
「――はいっ!」

 生命力に溢れた鮮やかな赤い髪を振り乱しながら現れたミトが私の姿を見て顔色を変えるが、微笑みを浮かべながら頼み込めば、力強い輝きを灯した灰鼠色の瞳が私を見つめ返す。

 千手の集落の方で前もって用意していたのだろう。
 ミトと扉間が同時に背負っていた巻物を広げると、複雑な文様や呪文で埋め尽くされた書が勢い良く広がって七尾の体を取り囲んだ。
 印を組んだミトの体から莫大な量のチャクラが迸る。
 ミトのチャクラに呼応して金の輝きを帯びた鎖が広がった巻物から伸び、そのまま七尾の体を強力な力で縛り上げていく。

 七尾が最後の悪あがきとばかりに、鎖で縛られた体を大きく身じろがせる。
 金の鎖から解放された一本の翡翠色の羽の様な尾が、私の方へと振り落とされたが――その前に紫の炎を帯びた髑髏の手で弾かれた。
 不機嫌そうな横顔に気付いて、小さく苦笑しながら封印が最後の仕上げに入るのを見つめる。
 一際強い光が周囲に満ちた瞬間、それまで草原に横たわっていた七尾の巨体は視界から消え失せていた。



「……疲れたー。当分働きたくない気分だ」
「柱間様が弱音を吐く所を始めて見ましたわ……」
「そりゃあ、オレだって人間だからね。尾獣なんて規格外相手によくぞここまで保ったもんだよ」

 暗くなった空を見上げながら呟けば、私の足に刺さった木片を取り除いてくれていたミトが眉根を下げる。
 こりゃあ、近いうちに封印術をミトから本格的に習った方がいいかな。もしもまた尾獣と戦う羽目になったら、封印術を持っているかいないかでかなり勝率も変わるだろうし。
 そんな事をつらつらと考えていれば、少し離れた所でマダラを睨んでいた扉間が大袈裟な溜め息を吐いた。

「普通なら尾獣相手に一人で立ち向かっていける忍びなんていませんよ」
「うるさいぞ、扉間」

 足に刺さっていた破片を抜いてくれたミトに一言礼を告げる。
 それから意図的に中断していた自己治癒を開始した。

「――――ミト。七尾はどれくらい抑えられる?」
「三年くらいなら問題ありませんわ。今回は急でしたので碌に準備はできませんでしたけど、それくらいなら」
「充分だよ。とにかく、これで一段落付いたな」

 見る見る内に傷口が隆起して、あんなに酷かった傷跡が塞がっていく。こんな光景見ていたらつくづく自分も人間離れして来たなあ……と感じます。

「千手の体質って凄いな、本当に」
「そんなに早く怪我が治るのは兄上だけです。オレだって出来ませんよ」

 しみじみと感慨深く嘯けば、扉間が嘆息する。
 弟から差し出された手を握りしめて、私は立ち上がった。

「扉間、先に行っておいてくれ」
「……兄上」

 非難の眼差しを向けた弟の頭を軽く撫でる。
 そうしてから年々がっしりとして来た肩を軽く叩いて促した。

「一分だけですからね。それ以上は兄上が何を言っても引離します」
「扉間の言う通りですわ。いくら何でも相手は……」
「いいから」

 不安そうな目の弟妹達を見つめて薄く笑えば、諦めた様に二人して肩を落とした。
 そうしてから私は傷が癒えた足で大地を踏みしめて、向こうで一人腕を組んでいるマダラへと視線を合わせた。

「ありがとな、マダラ。お蔭で助かったよ」
「……借りを返しただけだ」

 取りつく島も無い返答に、軽く笑う。
 なんだかんだ言って、この黒髪長髪青年が素直でない事に私はようやく気付いたのだった。

「マダラって実はいい奴だな」
「はぁ!?」

 うんうんと一人で頷いていると、こいつ頭が可笑しいんじゃないだろうかと言わんばかりの目で睨まれていた。
 納得いかん。思った事を告げただけなのに。

「でも、もうちょっと弟君に向ける様な優しさを他の人にも向けた方がいいぞ。ただでさえお前は目付きが悪いからな」
「……余計なお世話だ」

 あ、なんか目に見えて苛々し出した。

「千手柱間」
「なんだ、うちはマダラ」

 返事をすれば、効果音が付きそうな物凄い眼差しで睨みつけられる。
 三つ巴の紋が浮かぶ写輪眼には、以前垣間見た様々な感情がごちゃごちゃと混ざり合っていて。

「――――オレは、貴様が大嫌いだ」

 そう言って立ち去ろうとする後姿に、敢えて朗らかな声を投げ掛ける。

「そうか。オレは大分お前の事が好きになって来たところだけどな」

 そう告げれば、離れた所で様子を伺っていた扉間から後で怒られてしまいました。
 
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