木の葉芽吹きて大樹為す
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双葉時代・対峙編<後編>
「――火遁・豪火滅失!」
「――木遁・木錠壁!」
迫り来る炎から身を守るために、木遁の盾である木錠壁を形成。
木錠壁の長所はこれを使用すれば相手の目から自分の姿を隠せると言う事、そして相手は攻撃を防いでいる間、術者である私が木錠壁の後ろに隠れていると思い込む事にある。
その思い込みを利用して木錠壁が攻撃を防いでいる間、木分身を作って本体の私は土中に身を隠す。
案の定、相手は火遁の攻撃が止むと同時に突っ込んで来た。
――よし、かかった!
相手の振るった刀が、木分身の首を刎ねる。
途端、人の形を崩した私の木分身が絡み合う木の幹へと姿を変え、相手を捕縛した。
「――水遁・黒雨の術! これで火遁は使えない。そこで大人しくしておけ」
黒い油を雨の様に周囲に降らせる水遁の術。
可燃性の油を周囲に撒き散らしたため、ここで火遁を使えば敵諸共味方にも大ダメージが来るという、ある種の火遁封じの忍術である。
私の木分身に捕縛されたまま、黒い雨を被ったマダラがギラギラとした目でこちらを睨んでくる。
……正直言って、優勢なのは私であるにもかかわらず、こいつ滅茶苦茶怖い。
「どうやら、他の戦場でも決着が付きかけているみたいだな。今回も、引き分けか」
私の木遁の威力は正直な所、一対多の戦場でこそ活躍する。
そのため、乱戦状態に陥った戦闘こそが私の最も苦手とする戦場でもあった。
にしてもこいつ、私の厭がる所を的確に付いてくるなぁ……。
木分身から逃げ出そうと暴れているマダラを軽く見つめて、小さく嘆息する。
マダラ率いるうちはの連中は私の木遁の大規模攻撃を防ぐためにか、千手との交戦中は必ず乱戦状態へと持ち込んでくる。
そうなったら私としても木遁の樹界降誕を始めとする大技無しに、うちはの忍び達と戦うしかない。
「千手柱間」
「――……なんだ」
不敵に笑う、うちはマダラ。
なんでしょう、嫌な予感しかしないんすけど。
「貴様、うちはを見くびり過ぎだ。――オレの事もな」
「……っ、馬鹿!!」
力任せに私の木分身の拘束を引き千切り、マダラは印を組む。
その組んだ印の示す所に気付いて、私は顔色を変えた。
「――火遁・豪火球の術!」
マダラが放った火球が、周囲の油を浴びて爆発的に火力を向上させる。
しまった! 火遁封じに使った黒雨の術が敵の術の助けになってしまうなんて。
ああもう、これだから戦闘種族は嫌いなんだ!!
「――土遁・土流壁の術! あの、大馬鹿者!」
口から汚い言葉が出るが、それもしょうがないだろう。
あの馬鹿マダラめ! あんな技を使えば自爆と同じじゃないか!
土流壁の後ろに隠れて、悪態を吐く。
幸いと言っていいのか、私とマダラの戦闘の巻き添えになる事を恐れて他の忍び達は離れた所で戦っている。この火災が他の場所にまで届かなければいいのだが。
「馬鹿はどっちだ。油断し過ぎだ、柱間」
「……っ!」
咄嗟に左腕の篭手を差し出し、防御する。叩き割られた篭手の間から、血が噴き出した。
噴き出す血を無視して、そのまま大樹林の術を使用して相手を追撃する。
後ろに飛び跳ねて攻撃を避けたマダラは、私の方を見て小さく舌打ちした。
「チッ。浅かった様だな」
「お生憎様って奴だ」
自動治癒の始まった左腕から手を放して、土流壁を背後にマダラを観察する。
可笑しい。
黒雨の術の追加効果で威力が増大した火遁の攻撃の直中にいて、無傷だなんて。
いくら動体視力を極限にまで上げてくれる写輪眼の恩恵があるにしても、少しは手傷を負う筈だ。
でもまあ、マダラだからなぁ……。
「先に言っておく。前と同じだと思わない事だな」
「どうやらそうらしいな」
三つ巴の写輪眼が、マダラが両瞼を閉ざして再び開いた時には、姿を変えていた。
げ。あれって、ひょっとして……!
「万華鏡写輪眼……写輪眼の上位に位置する目だ」
「――……ああ、そう」
爛々と輝く赤い瞳に、絶望したくなった。
もう最悪、普通の写輪眼でさえ厄介な相手だったのに、その一段上の万華鏡だなんて……!
頭を抱えてのたうち回りたい気分に襲われるが、必死に我慢する。
でもここが戦場でなければ、実際にそうしてたと思う。
「――っ、やば!」
「遅い!!」
三角形を作った三つ巴の紋に気付いて、慌てて目を逸らそうとするが、遅かった。
赤い目が私の目を捉え――そうして。
幻術眼としての威力も持つ写輪眼。
万華鏡に進化した今、更に強力な幻術が私を襲う。
――気付く間もないうちに、マダラが作り出した幻術世界が私を捕えていた。
「――……これで、オレの、うちはの勝ちだな」
大きく肩で息を吐きながらそう告げたマダラの言葉に、遠ざかっていた意識が我に返る。
ったく、けったいな映像を見せてくれやがって……! 幻術とは元々相手を精神的に攻撃する技ではあるが、今回の幻術は過去に食らったどれよりも兇悪だった。
「千手と言えど、首を落とされば死ぬだろう。……お前の父同様にな」
――その言葉で、何かが切れた。
「お前こそ、オレの事を舐め過ぎだ……っ!」
「……あれだけ食らって、まだそこまで動けるとはな。流石は千手柱間……忍びの頂点だと謳われているだけある」
左手を軸に、右足を伸ばして相手の懐に蹴りを入れる。
相手の油断を誘えたと思っていたんだけど、そうも上手くいかなかった。
くそ! 今程こいつをぶん殴ってやりたいと思った事は無い。
ミトが聞いたらお行儀が悪いと怒られそうだが、思わず舌打ちが出る。
「見たくもない光景を見せやがって……並の人間だったら精神崩壊を起こしてたぞ」
「確かに、並の忍びではそうなっていただろうな」
肩で息をしながら、ふらつく足を叱咤して大地を踏みしめる。
自慢じゃないが、私の幻術に対する抵抗力は、他の忍びとは比べようが無い。
それがここまで疲弊させられるなんて……。
しかし、相手の方も私同様に疲弊している様だ。
これでマダラだけ元気一杯だったらどうしようと思っていた分、その事実に一安心する。
周りでは未だに黒雨の術で活性化した先の豪火球の炎が燃え盛ってるままだ。
余程の量の水を出さない限り、並の水遁ではこの炎は消えないだろう。
――それを利用させていただく。
「木遁・大樹林の術!」
巨木と化した私の左腕。
無数に分岐する木の攻撃をマダラに向ける一方、枝分かれした数本に敢えて炎を点火させる。
そんでもって、踊り狂う炎を付けたままの大樹林をマダラの背後から襲いかからせた。
名付けて、木遁・火だるま大樹林の術――なんちゃって。
前後左右からの大樹林の攻撃だ。
これを避けるには、それこそ地面の中に潜るか、空に跳ぶしか無い。
マダラが土遁を使わないのは確認済み。それに、マダラが敢えて身動きの取れない空中に身を投げ出す様な危険度の高い真似をするとは思えない。
――となれば、先程燃え盛る炎の中から無傷で生還したのと同じ方法を使うしか無いだろう。
じっと目を細めて観察していれば、マダラの姿が大樹林に覆われて見えなくなる。
後方に点火していた燃え盛る炎が他の枝に移って火勢を増す。
無数に絡み合っていた大樹林が嫌な音を立てたのに気付いて、大樹林と一体化させていた左腕をそこから引き抜いた。
一際嫌な破砕音が上がったのと同時に、燃え盛る炎を纏った大樹林の幹が内側から爆発した。
「……っ! 成る程、それのお蔭で無傷だったのか」
「これを見せるつもりは無かったんだがな……」
不吉に燃え盛る紫の炎を纏った、骸骨。
身を守る鎧の様に、紫の炎と骸骨で周囲を包まれているマダラの姿に合点がいく。
成る程、あれならば先の炎から身を守る事も出来よう。なんにせよ、厄介な事だ。
「万華鏡を開眼した者の中でも、異なる二種の能力を瞳に宿した者だけに許される最強防壁――須佐能乎だ」
なんていうか……写輪眼ってずっこいな。
木遁使ってる自分がなんだか虚しくなって来たわ。
頭痛がして来た頭を必死に抑えて、戦意を一生懸命掻立てる。
もうやだ、こいつ。
次から次へと新術を披露してくれやがって、付き合うこっちの身にもなれってんだ。
頑張れ自分、頑張れ私。
こいつを倒せば、集落に帰れる。そんでもってミトに癒してもらうんだ。頑張れ……!
「土遁・土流壁の術! 木遁・大樹林の術!!」
土遁でマダラの周囲を囲む様に、小山程の大きさがある一繋がりの土の壁を形成する。そうして出来上がった土台の上で、木遁の印を組んだ。
そっちが新術で来るなら、こっちだって新術で迎え撃ってやらぁ……!
「何を考えている……!?」
「先に謝っとくわ、死ぬなよ!」
多分、こいつ以外にやったら物凄く悲惨な火傷を負った死体が出来ると思うけど、あの厄介そうな鎧を崩すのにはこれぐらいしないと無理だろう。
これからするのは、戦場初披露になる木遁の術。私が操るのは、樹木だけとは限らないのだ。
「――木遁・花樹界降臨!」
土の壁の内部に編み目を張り巡らせる様に発生した無数の木々。それだけなら普通の樹界降誕と同じだが、これには続きがある。
樹界降誕時には無かった、焦げ茶色の幹の所々に点在する薄桃色の蕾の数々。
――それが一気に花開いて、土の壁の内部に大量の花粉を撒き散らした。
催眠効果のある花粉だが、相手は腐ってもうちはマダラ。
万華鏡にまで至ったうちはの天才だ。
この程度で倒れてくれる様な生易しい相手でない事は身に染みて知ってる。
花粉で満たされる壁の内側を見下ろしながら、外部の方へと向けていた大樹林をそのまま一気に壁の内部へと放り落とした。
――――燃え盛る炎を纏わせたままの、大樹林の木々を。
同時に勢い良く土の壁から飛び降りて、その場から離れる。
背後で着火した花粉が爆発している音が断続して響いてくる。
……私が起こしたのは俗に言う粉塵爆発だが……あいつ、大丈夫かなぁ……?
引き上げの合図が聞こえてきたので、背後を気にしながら集合場所へと急いだ。
その際、土の壁が粉砕される音が聞こえて来たのでマダラは大丈夫だろう。――多分だけどね。
因みに、次に戦場で会った時の彼は、ぴんぴんしていた事を追記しておく。
後書き
戦場で悲惨な事と言えば、味方の攻撃で命を落とす事も含まれます。ゲームじゃないので、味方の攻撃が自分に当たらないなんて事は無い。だからこそ、主人公はなるだけ周囲に味方がいる状況では大技は使いません。
木遁は基本、バトロワ状態でこそ最大限の効果を発揮すると考えています。
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