髑髏天使
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第七話 九階その十二
「あいつがそうだったっけ」
「ああ、あいつがいたんだっけ」
「そういえばそうだったね」
「知り合いか。そのゴーレムが」
「そうだけれどね」
答えは返ってはきたが今一つ歯切れの悪いものだった。
「けれどさ。今はいないよ」
「この日本にはね」
「いないか」
「イスラエルに帰ってるんだ」
「戻って来るかな」
「あと百年後じゃないの?」
妖怪の時間間隔での言葉だった。
「百年したら帰って来るんじゃないの?」
「どうかな。あいつ呑気だしね」
「二百年かも知れないなあ」
「だよね。けれどそれだけ長い時間は」
「人間には無理だ」
牧村は人間の時間間隔で答えた。
「とてもな。そこまでは」
「そうだよね。土に還ってるよね」
「人間だとね」
「じゃああいつに話を聞くのは無理か」
「何なら呼ぶ?」
こんな話も出るには出る。
「あいつ。ひょっとしたら出て来るかもよ」
「いや、無理みたいだよ」
だがこの話はすぐに打ち消された。
「何でもあいつ今寝ているらしいから」
「寝てるって?」
「イスラエルに帰ったのはそのせいらしいんだ」
妖怪同士でしかわからない言葉だった。牧村は聞いているだけだ。だがそれでも聞き逃すことなく聞いていた。妖怪の話に興味を覚えたからだ。
「かなり起きていたらしいからね」
「そうだったんだ」
「だからあいつ呼んでも無駄だよ」
こういう結論になった。
「今はね」
「じゃあ待つか」
「それかやっぱりあれじゃない?」
また話が変わった。
「博士を待つしかないんじゃないの?」
「やっぱりそれ?」
「そうそう、それそれ」
妖怪達の中では結論が出たようであった。
「博士ならやっぱりさ。わかるだろうしね」
「それしかないか。やっぱり」
「そうだよ。それしかね」
「じゃあ牧村さん」
ここまで話したうえで牧村に顔を向けてきた。
「それでいい?」
「博士が帰って来るのを待つってことでさ」
「わかった」
饅頭を食べながら妖怪達の言葉に頷く。
「それでな。少なくともそれまでは生きている」
「うん、頑張って生きて」
「死んだら駄目だよ」
髑髏天使としては洒落にならない言葉のやり取りだった。何しろ彼は実際に命を賭けて闘ってきているからだ。だからこそこのやり取りが重いものになっていた。
「絶対にね」
「じゃあさ。今度会う時はね」
「果物。一緒に食べようよ」
そしてこう提案してきたのだった。
「果物ね。どうかな」
「用意しておくよ」
「果物か」
果物と聞いて牧村の目が少し動いた。
「それで何だ?その果物は」
「まあ色々」
「柿とかね」
最初に出たのはこれだった。
「あと蜜柑とか」
「まあ何でもね」
「無花果もあるか」
牧村は不意に無花果を言葉に出してきた。
「いいな、それは」
「あっ、無花果好きだったんだ」
「かなり好きだ」
珍しく強い肯定をしてみせた。
「あれはな」
「そう。じゃあそれも用意しておくよ」
「あと柿もいける?」
「蜜柑は?」
「そのどちらも好きだ」
やはり返事は肯定のものだった。
「どちらもな」
「結構果物好きなんだね」
「そういえば甘党だったっけ」
妖怪達はこのことを思い出した。
「この前言ってたしね」
「何だ、じゃあそれでいいんだ」
「ああ、それでな」
「わかったよ。無花果をまず用意して」
何にかけてもまずはこれであった。
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