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髑髏天使

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第五十一話 解放その七


「それでなの」
「コロッケなあ」
「お父さん好きでしょ」
「ああ、好きだよ」
 それはその通りだというのであった。
「特にソースをかけたらいいね」
「そうでしょ。来期も未久も好きだし」
 子供達もだというのである。
「だからそれにしたのよ」
「コロッケねえ。いいねえ」
 そして父は今度は笑顔になって言った。
「食べやすいしね。ジャガイモだし」
「お父さんジャガイモは何でも好きよね」
「身体にいいんだよ」
 それが理由だというのだ。
「それに味もいい」
「でしょ?ジャガイモとサツマイモはね」
 どちらもであった。サツマイモもだというのだ。
「献立に困った主婦の助っ人なのよ」
「助っ人だったんだ」
「そうよ。もうそれを使えばいいってね」
 そしてだ。出す献立は。
「肉じゃがにカレーに。ビーフシチューにジャーマンポテトにね」
「本当にイモばかりだね」
「御飯が少ないとサツマイモ」
 サツマイモはそれだというのだ。
「一個食べたら充分でしょ」
「三個だな」
 ここで息子が言った。
「いや、四個か」
「まあ何個でもいいけれどね」
 母はこう言われると数はいいとした。
「それはね」
「数はか」
「そうよ。その数だけれど」
 ここでまた言う母だった。
「コロッケの数ね」
「そういえば随分多いな」
 父が大皿の上のそのコロッケをあらためて見て少し驚いた声をあげた。見ればコロッケがうず高く、これでもかと積まれている。
「一体何個あるんだ」
「四十は買ったかしら」
「四十!?」
「ミンチカツもあるわよ」
 それもあるというのである。
「そっちは明日ね」
「明日はそっちか」
「安かったから一杯買ったの」
「それでも四十もあるのか」
「そうよ。お父さんも来期も未久も好きだから」
 それでそれだけ買ったというのである。
「だからね」
「それでもこれは」
「多過ぎるかしら」
「今日だけじゃ食べられないだろ」
 こう妻に言うのだった。顔を顰めさせてだ。
「全くな。どうなんだ」
「だったら明日もあるし」
「明日もか」
「そう、明日もあるわよ」
 今日だけではないというのだ。食べるのは。
「だからね。今日食べきれなくてもいいから」
「まあコロッケは好きだけれどな」
 またこう話す夫だった。
「いいか、それだったら」
「納得してくれたのね」
「納得しなかったらどうするんだ」
「それでもコロッケはあるから」
 どちらにしても同じだというのである。
「だからね」
「食べるしかないっていうんだな」
「そういうことよ」
「全く。まあコロッケは好きだからいいけれどな」
 結論はここにあった。好きならばであった。それで父はコロッケを一個自分の皿に取ってソースをかけてだ。食べるのであった。
 そして牧村もだ。コロッケを食べ続けている。母はその彼にもまた声をかけた。
「来期もね」
「明日はミンチカツか」
「それとこれの残り」
 コロッケのだというのである。
「だからね」
「わかった。遠慮なく食べさせてもらう」
「そうよ。どんどん食べてね」
 我が子に対してさらに声をかける。 
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