スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇
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第五十四話 ヴォルクルスの影
第五十四話 ヴォルクルスの影
ゼツの死と共にバゴニアは正気を取り戻した。そしてラングランとの和平交渉に取り掛かった。こうして両国の戦いはとりあえずは終結に向かうことになった。
「とまあそういうことだ」
「そうか」
ジノはゴラオンのモニターに出ているトーマスに対して頷いていた。
「あんたのことも不問になったぜ。何時帰って来てもいいそうだ」
「それは有り難いな」
「けどまだそっちにいるんだろう?」
「うむ」
ジノは戦友の言葉に頷いた。
「これは私の仕事だからな。全てが終わるまで留まらせてもらう」
「そうかい」
「貴公はそのままバゴニアに留まるのだな」
「ああ、こっちの生活に気に入ってるんでな」
彼はニヤリと笑ってこう言った。
「ずっといさせてもらうぜ。別に構わないよな」
「私はいいが」
「とりあえず留守は任せな。俺が守っておくからよ」
「頼むぞ」
「まあ今までみたいにどっかの国と戦争になるってことはねえだろうしな。適当にやっとくさ」
「その油断はよくないぞ」
「おいおい、相変わらず厳しいな」
トーマスはその言葉に苦笑した。
「けどいいや。どっちにしろ任せておいてくれ」
「うむ、わかった」
こうして二人の会話は終わった。トーマスはモニターから消えた。
「案外いい奴だったんだね」
リューネはそれを見てジノにこう言った。
「DCの時は変な奴だとしか思わなかったけれど」
「あれでな。気がきくのだ」
ジノはそんなリューネに対して言った。
「彼には感謝している。今回も何かと動いてくれたのだろう」
「へえ」
「少なくともバゴニアのことは心配ない。私も後顧の憂いがなくなった」
「やっぱり祖国が心配だったんだね」
「それは否定しない。だがこれで安心した」
そして言葉を返す。
「あらためてこれから宜しく頼む」
「ああ、こちらこそ」
ジノもこうしてロンド=ベルに入っていった。その時格納庫ではセニアが図面を前に色々と物思いに耽っていた。
「何か、凄いわね」
彼女は格納庫で胡坐をかき図面の前に座っていた。そして腕を組んで考えていた。
「よくもまあこんなの考えられたわね。やっぱり天才の名は伊達じゃないってことかしら」
「随分悩んでおられるみたいですね」
ここでウェンディが声をかけてきた。
「うん、まあね」
「それがクリストフから送られてきた新型機の図面ですか」
「そうよ、二機あるわ」
セニアはそう言って図面をウェンディにも見せた。
「見て、凄いでしょ」
「確かに」
彼女もそれを見て頷いた。
「これは・・・・・・完成したらかなりのものになりますね」
「一機はマジンガーとかダイターンの能力を参考にしたものらしいわ」
「はい」
「そしてもう一機はバルマーのものらしいけれど」
「これですね」
彼女はそれに応え図面に写っている二機のマシンのうちの一機を指差した。
「これはまた大胆な外見ですね」
「それで無駄もないしね。何でも地上の二人の科学者が設計したものにクリストフが手を加えたらしいのよ」
「それで」
「確かグランゾンにもバルマーの技術が使われていたのよね」
「それは聞いたことがありますが」
「それに地上やラ=ギアスの技術も入れて。やっぱり天才よね、あいつは」
「何かセニア様が言われると本当に聞こえますね」
「あたしは他人を否定したりしないから」
彼女はこう述べた。
「だからね。あいつの能力も素直に認められるのよ」
「そうですか」
「あれで。性格がもうちょっとわかりやすければ」
「少なくとも今は敵ではありませんよ」
「それはね。前みたいなドス黒さはないし」
彼女もそれはわかっていた。
「けれど。相変わらず腹の底は見えないから。それが怖いのよ」
「何か考えている」
「それは確実ね」
そして頷いた。
「そうじゃなきゃあたし達のところには来ないし」
「はい」
「用心はしておきましょ。敵じゃなくても何を考えているのかわからないし」
「ですね。けれどこれの開発はしないと駄目ですね」
「というかあたしが開発してきたくなったわ」
にこりと笑ってこう返す。
「何かね、燃えてきたわよ」
「そうですか」
「それでね、手伝ってもらえるかしら」
「私がですか」
「貴女しかいないのよ、いいでしょ」
「困りましたね」
そうは言いながらも顔は笑っていた。
「子供の頃から私に頼られてばかりで」
「だって信頼できるから。いいでしょ」
「セニア様」
ここでウェンディは言った。
「何」
「私が今までセニア様の願いを聞き入れなかったことがありますか?」
「いえ、ないけれど」
覚えている限りはなかった。素直にそれに頷いた。
「ですね。では今回も宜しくお願いします」
「よし、じゃあ早速取り掛かるわよ」
「はい」
こうして二人はすぐに作業に取り掛かった。だがそれはまだ表には出ていなかった。ロンド=ベルの面々は今はシュウに案内されていく道のことにその関心の殆どを示していたのであった。
「山がどんどん険しくなってきたね」
ヒメが辺りを見回しながら言う。
「まるで日本アルプスみたいだ」
見れば山々は雪に覆われていた。そして銀色に輝いていた。
「綺麗だよ、これって」
「そうね」
そんな彼女にカナンが応えた。
「けれどここにヴォルクルスとやらが眠っているのよね。それを思うと」
「綺麗なのも考えものかあ」
「綺麗なものの中にこそ邪悪なものがある」
ヒギンズが呟いた。
「ここでもそれは同じなのかな」
「また詩的なこと言うとんな」
十三がそれを聞いて言った。
「わいはこの風景は素直に気に入ったんじゃけれどな。何時までも見ていたいわ」
「けれどそうはいかないのですよね」
小介が話に入る。
「僕達はこれからヴォルクルスを倒しに行かなくてはいけないのですから。この風景を何時までも見られるわけではないです」
「残念でごわす」
大作が言う。
「けどそのヴォルクルスって何なのかしら」
ちずるが小介に問うてきた。
「シュウさんの話だと邪神か何からしいけれど」
「機械じゃねえのか、それじゃあ」
「どうやら違うようです」
豹馬が入ってきたところで小介は述べた。
「何でも怨霊とかそういう類のものらしいです」
「怨霊」
「また非科学的やな」
「けれど否定はできないわよね」
「そやけど」
十三はちずるに言われても今一つ納得しないようであった。
「あたし達も今まで色々と常識じゃ考えられないもの見てきたんだし」
「そうだな、それは認めるしかねえや」
豹馬もそれは認めた。
「けど怨霊っていうけど何の怨霊なんだと。人間か?」
「どうやら違うようです」
「じゃあ化け猫とかよ」
「それやったらキリーさんが逃げちゃうわよ」
「この前ビデオの佐賀の化け猫見てえらく怖がっておられたでごわす」
「あっ、そうなのか」
「もっとも本当にそうだったら大変だけれどね」
「大阪やったら黒猫は喜ばれるんやけどな、残念や」
「御前のとこはまた別だろ」
「まあそやけどな」
「それで怨霊のことですが」
小介はメンバーの雑談にも心をとらわれることなくこう言ってきた。
「ええ、それ」
「何の怨霊なんだ?」
「マサキさん達のお話ですとこのラ=ギアスには遥かな昔巨人族という種族がいたそうです」
「巨人」
「はい。彼等の残留思念が集まってヴォルクルスという邪神になったのがその正体なのだそうです」
「そうだったの」
「はい。また巨人といってもゼントラーディトは全く違う別の種族だそうです」
「人間とはまた違うってこと?」
「どうやらそのようです。何でも魔族とかそういった存在だったようです」
「魔族か」
「何かおどろおどろしいわね」
「彼等が滅亡しその残留思念が残り。それが長い間ラ=ギアスを悩ませていたそうです」
「その集合体がヴォルクルス」
「厄介な奴みたいだね」
それまで話を聞いていたヒメも言った。
「それでそれはどんな姿をしているのかしら」
「僕にもそれはわかりません」
カナンの問いに申し訳なさそうに返す。
「ただ、とんでもない力を持っていることは事実のようです」
「力か」
「恐竜帝国とかより強いの?」
「一人で恐竜帝国と同じ程度の力があるようです」
「だから破壊神っちゅうわけやな」
「はい。今回も辛い戦いになるでしょうが」
「まあそれはいつものことさ」
豹馬が言った。
「気にしてちゃいられないぜ。またやってやるぜ」
「もう、気楽なんだから」
「けど豹馬どんの力は頼りになるでごわす」
「大作、そんなん言うからこいつが調子に乗るんやで」
「勇と一緒だね、子供なんだよ」
「ふふ、確かに」
「何だよ、ヒメちゃんやカナンさんまで」
コンバトラーチーム以外に言われて口を尖らせる。
「俺と勇じゃ全然違うじゃねえか」
「あら、似てるわよ」
「ちずる」
「子供っぽいところなんか。もう少し大人になりなさいよ」
「ちぇっ」
「シュウさんみたいにとはいかないけれど」
「何だよ、あいつに惚れたのかよ」
「そんなのじゃないわよ」
少しムキになって否定してきた。
「あの人はね、ちょっと近寄り難いし。どうも側にいたらプレッシャーを感じるのよ」
「それはあるわね」
カナンがそれに頷いた。
「確か貴女達は未来であの人と戦ったのよね」
「はい」
「その時はもっと不気味なものがあったというけれど。今はどうかしら」
「今はそれはないですね。ただ近寄り難い雰囲気はそのままで」
「おまけにキザだしな」
「隼人以上にキザな奴なんてはじめて見たわ」
「一平もな。呆れてたぜ」
「キザ、ね」
ヒギンズはそれを聞いて考える目になった。
「どうしたの、ヒギンズ」
「いや、あの人のあれはキザじゃないんじゃないかと思って」
彼女は答えた。
「自然とそうした雰囲気なのかもな。そして何か心の中に持っている」
「企んでるってことか?」
「そんなのじゃない。けれど何を求めている」
「何かを」
「それが何かはわからないけれど。きっとあの人にとって大切なものだと思う」
「その大切なものの為にヴォルクルスを倒すの?」
「そうかも知れない」
ヒギンズはちずるの問いにも答えた。
「だから今私達に協力を要請したのかも」
「じゃあ俺達は利用されてるってことかよ、あいつに」
「豹馬」
ちずるがここで豹馬を咎める。
「あまりそうしたことは。シュウさんがここにいるかも知れないし」
「おっと、そうか」
「聞いたら気を悪くするわ。気をつけましょう」
「けどよお」
「気持ちはわかるけど。いいわね」
「チェッ」
やはり以前に激しく戦った過去があった。しかし今はとりあえずは味方なのである。ちずるの方が正論であった。
三隻の戦艦は複雑な気持ちの彼等を乗せて北に向かう。そしてある山の側にまで来た。
「もうすぐですよ」
その側に来るとシュウが言った。
「ですがそろそろ危険な場所です」
「危険な」
「はい」
シュウはロンド=ベルの面々に対して頷いた。
「そろそろ。ヴォルクルスの僕達が来ますから」
「僕?」
「ええ。まあ人形のようなものですが」
「一体何なんだよ、それ」
「デモンゴーレムですよ」
「あれかよ」
マサキ達がそれを聞いて不快な顔になった。
「!?知ってるのかよ」
「嫌になる程な」
マサキは宙の問いに応えた。
「結構色んな場所で出て来るんだよ。まあ邪教のロボットみたいなものさ」
「何だ、じゃあ雑魚じゃねえか」
「雑魚でもよ、数が半端じゃねえんだよ。一度に千や二千も出て来るんだぜ。鬱陶しいたらありゃしねえ」
「またそりゃ大変な数だな」
「何を言っているのですか。今ここにそれが出るのですよ」
「何っ」
宙はシュウの言葉に反応した。
「ここにかよ」
「はい、もう出て来ています」
シュウが言うや否や不気味な土の魔物のような者達が山から出て来た。それがデモンゴーレムであるということはもう言うまでもないことであった。
「二千位ですね」
「噂をすれば何とやらかよ」
「何、大したことはありませんよ」
しかしシュウはそれだけの数を前にしても平然としていた。
「所詮は心を持たない人形ですからね」
「けど戦わなくちゃいけないんだよな」
「勿論」
「そうとわかれば話は早いぜ。行くぞミッチー」
「宙さん、出るの?」
「当然だろ。おい、皆も行くぞ」
「出るのかよ」
「二千もいちゃ皆出ないわけにはいかないだろ。それともやり過ごすってのかよ」
「いや、それは」
皆そのつもりはなかった。
「やり過ごせる数じゃなさそうだしな」
「そういうことだ。じゃあ行くぜ」
「あ、ああ」
「まあここは彼の言葉に従うとしようか」
万丈が面白そうに笑いながら言った。
「そのヴォルクルスのお手並み拝見という意味でもね」
「万丈様、ダイターンのワックスがけは今終わりました」
「グッドタイミングだ、ギャリソン」
「戦いの後は夕食に致しましょう。今晩はここで採れた鳥のオリーブ煮でございます」
「よし、じゃあ夕食の前の運動だ。行くぞ!」
そう言いながら大空魔竜の艦橋から飛び出た。
「カムヒアーーーーーーー、ダイターーーーーンスリーーーーーーーッ!」
そして叫ぶ。するとダイターンが轟音と共に出て来た。そして万丈を乗せる。
「ダイターンザンバーーーーーッ!」
いきなりそれでデモンゴーレムを切り裂いた。瞬く間に数機両断される。
「あっ、最初は俺だぜ!」
少し遅れてジーグが来た。だが既にダイターンは戦場にいた。
「御免御免、けれどこういうのは早い者勝ちだよね」
「ちぇっ、仕方ねえな」
「それじゃあ皆も来たし。派手に暴れるか」
「おう」
済んだことは水に流して戦いをはじめた。やはり心を持たないクグツではロンド=ベルの相手にはならなかった。瞬く間にその数を大きく減らしていった。
中でもシュウのネオ=グランゾンの戦闘力は突出したものであった。デモンゴーレムの岩石による攻撃をことごとくかわし反撃で屠っていく。重力による攻撃で次々とデモンゴーレム達を倒していく。
「ワームスマッシャーーーーッ!」
重力波を使いデモンゴーレムを潰す。だが数が違っていた。気がつけば周りを囲まれてしまっていた。
「おいシュウ」
「気にすることはありませんよ、マサキ」
マサキに対してこう言う。
「この程度の数では。ネオ=グランゾンの相手は」
「あれをやるつもりかよ」
「はい」
余裕の笑みと共に頷いた。
「では、いきますよ」
そして攻撃に入った。
「ビッグバンウェーブ・・・・・・発射!」
突如としてグランゾンが光った。そして黒い衝撃波がデモンゴーレム達を襲う。
「グオオオオオオオオーーーーーーーー・・・・・・」
悪霊達の断末魔の叫びが聞こえる。だがそれは一瞬のことであった。
彼等は土に還った。一瞬のことであった。ネオ=グランゾンはその圧倒的な力を見せつけたのであった。
「如何ですか、これで」
「ヘッ、またとんでもない強さになってやがるな」
「このネオ=グランゾンもまた進化するということです」
シュウはまたマサキに応えた。
「このビッグバンウェーブが何よりの証。グラビトロンカノンだけではないのですよ」
「そうやって何処までも強くなっていくんだな」
「はい」
シュウは頷いた。
「そうでなければ。これからのこともありますし」
「ヴォルクルスかよ」
「まあそれもありますが」
そして思わせぶりに笑った。
「まだあるかもしれませんね。フフフ」
「ヘッ、また秘密かよ」
「さて」
「まあいいさ。何はともあれこれで戦いは終わりだ」
「はい」
「道案内を続けてくれ。もうすぐなんだろ」
「ええ。では行きますか」
戦いはほぼ一瞬で終わった。ロンド=ベルはそれぞれの戦艦に戻り再び出発した。この時マサトは美久と話をしていた。
「さっきのネオ=グランゾンの攻撃だけれど」
「マサト君も気付いた?」
「うん。何かゼオライマーのメイオウ攻撃に似ている」
彼は自分のマシンの攻撃とネオ=グランゾンの攻撃に対して類似性を見出していたのであった。
「その他にも何か似ている気がする」
「そうね」
「それは当然でしょう」
シュウがそれに応えてきた。
「何故ですか、それは」
「秋津マサト君ですね」
「はい」
「かっては木原マサキ博士。違いますか」
「その通りです」
今も言われるとあまりいい気はしない。だがマサトはこれに頷いた。
「それが何か」
「私はかってゼーレとも交流がありまして」
「じゃあ」
「はい。鉄甲龍のことも知っていました。当然八卦衆のこともね」
「それじゃあゼオライマーのことも」
「ネオ=グランゾンの設計及び開発の参考にさせてもらいましたよ」
シュウはそれを認めた。
「そのメイオウ攻撃も。グラビトロンカノンや先程のビッグバンウェーブにね」
「ではネオ=グランゾンもまた」
「いえ、次元連結システムは採用しておりません」
シュウはそれは否定した。
「このネオ=グランゾンは重力を操ります」
「はい」
「エネルギーにはブラックホールを使っておりますので。それを採用することはなかったのですよ」
「ブラックホールをですか」
「はい」
シュウはまた頷いた。
「これを扱うのには苦労しましたがね。けれどかなりの力を得ることができましたよ」
「何ということを」
「何、こうでもしなければこれからの戦いには勝てはしませんので」
「これからの戦いに」
「そうです。私達の敵はヴォルクルスだけではありません」
ここで彼は私達と言った。
「宇宙怪獣もいればバルマー帝国もいます。それをお忘れなきよう」
「はい」
その時シュウの顔が変わったのを見た。その顔に険がさしていた。
「それでは話もこれで終わりですので行きますか」
「終わりですか」
「私のお話することは。ネオ=グランゾンのことだけでしたから」
「そうだったのですか」
「ええ。では行きましょう」
「はい」
「これからも戦いが続きますからね」
「わかりました」
彼等はさらに北に向かった。だがそれを苦々しげに見る者達がいた。
「あの者達はさらに北に向かっております」
イキマがククルにそう報告していた。彼等はまだラ=ギアスに残っていたのである。
「左様か」
「如何致しますか、我等を無視して進んでいるようですが」
「言わずともわかっていよう」
玉座にいるククルの声が険しくなった。
「全軍出撃用意じゃ」
「ハッ」
「今より彼奴等を追い皆殺しにする。そしてこの基地を放棄せよ」
「この基地をですか」
「最早我等に退路はないものと思え」
彼女は言った。
「背水の陣じゃ。そして何としてもロンド=ベルを討つ」
「畏まりました」
「ではすぐに出撃準備に取り掛かれ。よいな」
「御意」
こうしてイキマはククルの前から姿を消した。彼女は一人それを眺めていた。
「どのみちあの者達もわらわには真に忠誠を誓ってはおらぬ」
かっての戦いでそれがわかった。邪魔大王国の者達はまだ前の女王であるヒミカを慕っていたのだ。
「ヒミカ様にはまだ及ばぬか」
それはククル自身が痛感していた。だからこそ辛いものがあった。
「だが今度こそ」
だからこそ自身を見せなければならなかった。それ故の背水の陣であった。
「そしてゼンガーよ」
彼女はまたもう一つのものを見ていた。
「今度こそうぬを消してくれる。わらわの手でな」
あくまで彼への憎悪を消そうとはしなかった。その目が赤く輝いていた。
そして邪魔大王国はその全軍を以ってロンド=ベル追撃に向かった。破壊神の前で別の戦いがはじまろうとしていたのであった。
第五十四話 完
2005・11・15
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