スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇
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第五十一話 ファイアーボンバー
第五十一話 ファイアーボンバー
「さて、と」
バサラはマクロスの市街地にある喫茶店に腰掛けてから辺りを見回した。そしてこう言った。
「これから面白いことになるだろうな」
「何馬鹿なこと言ってるのよ」
それに向かいに座るミレーヌが反論する。
「戦争に参加するなんて。何考えてあんなことしたのよ」
「俺のこの手で戦いを終わらせる為だって言わなかったか」
「ホンットに馬鹿ね、あんた」
流石に呆れてしまったようであった。
「そんなことできると思ってるの!?」
「俺の歌ならできるんだよ」
バサラは話を聞いてはいなかった。
「絶対にな」
「できないとは思っていないのね」
「何でだよ」
当然思ってはいない。
「俺の歌には不可能はないんだよ。今までだってそうだっただろうが」
「何処がよ」
ミレーヌは思いきり不満であった。
「インディーズでデビューしていきなりトップに躍り出たな」
「そういえばそうだったかしら」
「そしてあれよこれよという間にこうなった。俺の歌がそうさせたんだ」
「あたしもいたでしょ」
「俺もな」
「・・・・・・・・・」
見れば他のメンバーもいた。彼等はミレーヌと同じように不満を露わにしていた。
「あんた一人でどうにかなると思ってるの?」
「俺一人でもやってやるさ」
「・・・・・・だから人の話は聞け」
たまりかねたレイが言った。
「御前一人じゃ危なっかしくて仕方がない」
「何が言いたいんだよ」
「俺達も一緒に行く。いいな」
「えっ、御前達もか」
バサラはそれを聞いて驚きの声をあげた。
「戦場だぜ。いいのかよ」
「いいも悪いもないだろう」
それが彼の答えであった。
「俺達はメンバーだ。それ以外に何がある」
「けどよ」
「危険に身を置くのは承知のうえだ」
「伊達にあんたと同じバンドにいないわよ」
ミレーヌはまた言った。
「あたしも一緒よ。いいわね」
「・・・・・・・・・」
ビヒーダも一言も発しないがこれは同じであった。
「ファイアーボンバーは宇宙でも一緒だ。いいな」
「あ、ああ」
バサラもこれに頷いた。
「それじゃあ決まりね。お願いするわ」
「ああ、宜しくな」
彼等は宇宙でもバンドを組むことになった。このことはすぐにグローバルにも伝えられた。
「そうか」
彼は艦橋でそれを聞いていた。話を聞きながらパイプを口にやろうとする。
「艦長、艦橋は禁煙です」
「おっと」
キムに言われて慌ててパイプを引っ込める。だがいささか不満そうであった。
「済まない。それでバサラ君達だが」
「はい」
これに早瀬が応える。
「それぞれバルキリーに乗ってもらうのだったな」
「そうです。バサラ君はもう自分のバルキリーを持っていますが」
「他のメンバーか。これについては何か考えがあるかね」
「ミレーヌちゃんに関しては一人で乗ってもらいます」
早瀬はこう答えた。
「彼女の音楽センスは傑出したものがありまして」
「ほう」
「バサラ君のそれに匹敵します。ですから一人乗りで頑張ってもらいます」
「パイロットとしての技量はどうかね」
「先程テストしたのですが」
「ふむ」
「かなりのものです。やはり血筋でしょうか」
「ジーナス少尉の従妹だったか」
「そのせいでしょうか。天才的なものがあります」
「彼女は元々かなりの音感を持っておりまして」
クローディアも言った。
「それも大きく影響していると思います。その動きは類稀なセンスを感じます」
「それは何よりだ」
グローバルはそれを聞いて満足そうに頷いた。
「バサラ君もそれは同じでして。やはり音楽センスがパイロットとしての能力に大きく影響しています」
「私はよくわからないが」
グローバルは一言そう断ったうえで言った。
「リズム感といったものか」
「はい、おそらくは」
二人はその言葉に頷いた。
「そのせいでしょうか。後の二人も同じです」
「そうか」
「ただレイさんとビヒーダさんには二人一緒に乗ってもらいます」
「どうしてかね」
「そちらの方が音楽的に効果があるとの判断からです。これは安西博士からの提案ですが」
「彼女からか」
「はい、先程相談してみたところ。そう仰いました」
「彼女が言うと信憑性があるな」
グローバルはその言葉に頷くところがあった。
「そういえば彼女は今まで何をしていたのかね」
「博士ですか」
「そうだ。最近姿を見なかったが」
「何か色々と研究していたそうです、ロバート=オオミヤ博士と」
「彼とか」
「それが終わったとかで。それで相談に乗ってもらいました」
「そうだったのか」
「その彼女からのアドバイスでして。如何でしょうか」
「私はそうした音楽のことはよくわからないがいいのではないか」
彼はそう述べた。
「ここは早瀬中尉に任せる。いいかね」
「わかりました。それでは」
「ただ気をつけてくれたまえ」
「といいますと」
「バサラ君はどうやらかなり手強いようだぞ。用心しておきたまえ」
「それでしたら」
その整った大人びた顔にうっすらと苦笑を浮かべさせた。
「もう慣れていますから。一条君やイサム君で」
「だといいがな」
「ロイ程じゃないでしょうし」
「フォッカー少佐よりもか」
「まだ彼に比べればましでしょう」
「それもどうかな」
彼はクローディアの言葉にあえて笑ってみせた。
「彼はフォッカー少佐より凄いかもしれないぞ」
「まさか」
「それもすぐわかることだ」
グローバルは楽しそうに笑いながら言う。
「すぐにな。ではそろそろネオ=ジオンの勢力圏か」
「そうですね。ここはゼクス=マーキスの部隊が展開していた筈です」
「彼がか」
「ライトニングカウントは手強いです。用心していきましょう」
「うむ」
マクロスの艦橋ではバサラ達とネオ=ジオンについて話が為されていた。だが他の艦では別の会話が話されていたのである。
「何かバンドまで入って来ると思わなかったね」
「バンド?」
レッシィがエルの言葉に反応した。
「バンドって何だい?」
「あっ、ペンタゴナにはないのか」
「楽器を演奏するグループならあるけれどね」
「そう、それ。ファイアーボンバーってそうしたグループなんだ」
「そうだったのか」
「一杯あるけれどね。ファイアーボンバーはその中でも特に人気があるグループの一つなのよ」
「アヤさんも好きだしね」
ルーも言った。
「派手な音楽が売りだし。ヴォーカルもいいし」
「そうそう」
エルがこれに相槌を打つ。
「男と女の二人がいるのがいいよね」
「それでファンの層も厚くなってるしね」
モンドが言った。
「俺はミレーヌちゃんがいいな」
「おいおい、モンドはそっちかよ」
ビーチャがそれを聞いて茶化してきた。
「ビヒーダさんみたいな大人の女の人がよかねえか?」
「ビヒーダさんかあ」
だがモンドの好みはそうではないようであった。
「あの人大きいだろ。だからなあ」
「ゼントラーディの人だから仕方ないんじゃないかなあ」
「あっ、あの人ゼントラーディさったの」
アムがイーノの言葉を聞いてキョトンとした顔になった。
「あれ、知らなかったの?」
「ええ。そういえばそんな感じがするわね」
「私やミリアさんと同じなのよ、彼女も」
ミスティがやって来た。そして皆に対してこう言った。
「かってはね、同じ戦場で戦ったわ」
「そうなんですか」
「ミリアさんはその時から凄かったわね。もう天才的な動きで」
「今みたいに」
「今よりは荒かったけれどね、動きは」
「へえ」
「ついていくのだけで大変だったわ。まあそのおかげで腕は上がったけれど」
「ミスティさんも大変だったんですね」
「あら、そうでもないわよ」
だが彼女はそれは笑って否定した。
「ゼントラーディではそれが普通だったから。戦うことだけが全てだったし」
「そうなんですか」
「私も地球の音楽や文化を知って変わったのよ。キリュウやレトラーデちゃんとも知り合ったし」
「そういえばミスティさんってキリュウさんと仲いいですね」
「そうかしら」
「あとハーリー君とも。どうしてなんですか?」
「ハーリー君とはね。何か長い付き合いのような気がするのよ」
「えっ、けどここに来てからですよね。知り合ったのは」
「それでもね」
彼女は笑いながら応えた。
「何か。ずっと一緒にいたみたいな。そんな気がするの」
「そうなんですか」
「そういえばミスティさんの声ってアマノさんにそっくりよね」
「アマノさん?」
ミスティはその名前に顔を向けた。
「それは誰なの?」
「あっ、前いた仲間でして」
それにルーが応えた。
「ガンバスターっていうロボットに乗ってたんですよ。タカヤ=ノリコさんって人と一緒に」
「そうだったの」
「今は遠く銀河に行っちゃってますけれど。いい人達ですよ」
「そうなの。じゃあ会うことはできないわね」
「もうね。けれどまた会いたいなあ」
「そうだな」
ガンダムチームの面々はふと遠い目をした。
「もっとも会う時は宇宙怪獣もまた一緒だろうけれど」
「あの連中がいなければな」
「全くだぜ」
「宇宙怪獣」
それを聞いたミスティの顔が急に険しくなった。
「地球にも来ていたのよね」
「ええ、凄い数が」
「何とか追っ払いましたけれど」
「彼等を甘く見ては駄目よ」
だがミスティの顔は険しいままであった。
「私もゼントラーディにいた頃何度も戦ったけれど」
「やっぱり手強かったのですね」
「バルマーなんかよりもね。苦労したわ」
そしてこう言った。
「彼等は本能のまま動いているの。それでいて進化し続ける」
「はい」
「だからこそ注意が必要なの。そして諦めることを知らない」
「それじゃあ」
「また来るんですか」
「それはわかってることだと思うけれど」
「・・・・・・・・・」
皆沈黙してしまった。その通りだったからだ。先の戦いのあれはほんの一時凌ぎに過ぎなかった。それはよくわかっていた。
「宇宙には色々いるんだね」
レッシィがそこまで聞いて言った。
「ペンタゴナにはそんな連中は来なかったけれどね、幸いに」
「そういえばガイゾックも来なかったわよね」
「単に運がよかっただけだろうけれどな」
ダバがそう述べた。
「ダバ」
「来てたの」
「うん。ここに皆いたからね。気になってね」
彼は笑いながらこう応えた。
「けれど別の存在が来た。彼等が」
「ポセイダルが」
「あのオルドナ=ポセイダルというのはバルマー星人なんだろうか」
「よくわからないけれど」
タケルがそれに応えた。
「そうじゃないかな。俺も兄さんもそうだったし」
「タケル」
「どうも彼等はその統治にバルマー人を送り込むみたいだ。そして統治する」
「じゃあ彼女はやはり」
「俺みたいに爆弾は仕掛けられてはいないだろうけれどね。可能性はあるよ」
「そうか」
ダバはそこまで聞いて頷いた。
「けれど何か引っ掛かるな」
「何が?」
「いや、そのポセイダルなんだが」
だがリリスの問いに答えた。そして言う。
「何か。人形の様な気がするんだ」
「人形?」
「ああ。無機質で。しかも感情が見られない」
「ポセイダルって元々そういう女だよ」
レッシィが言った。
「氷みたいな女さ。だから特に気にすることはないよ」
「そうだろうか」
「心配し過ぎじゃないの?まさか黒幕がいるなんて思っていないでしょうね」
「ないかな」
「ないって、そんなの。幾ら何でも」
アムは笑いながらそう言った。
「単にポセイダルがバルマー人だってだけでしょ。心配することはないわよ」
「だったらいいんだけれど」
「まあそのうちここにもまた来るだろうけれどね」
エルがいささか気楽な声でこう言った。
「いつものパターンで。今頃またあのでかいのが来ていたりして」
「ヘルモーズだったね」
イーノがそれに合わせた。
「そんな名前だったっけ。そう、あの花みたいな形したやつ」
「花ってより何か油さしみたいな形だよな」
「そういえばそうだね」
モンドはビーチャの言葉に相槌を打った。
「似てるね、確かに」
「そうだろ。前からそう思ってたんだよ」
「油さしにしてはでかいけれどね」
ルーはそれを聞いて苦笑していた。
「最初見た時はびっくりしたわよ。あんなので乗り込んで来るんだから」
「あれでもバルマーにとっては些細な戦力なのよ」
「そうらしいですね」
皆ミスティのその言葉に頷いた。
「辺境方面だけで七個艦隊あるから」
「あたし達はその一個をやっつけただけか」
「その他にも七つも」
「私も彼等の艦隊と戦ったことはあるわ。凄い戦力だったわ」
「あんなのがまだまだいるんですね」
「ええ。本国にはもっといるそうよ」
「うわ」
「何か嫌になっちゃう」
「幸か不幸か彼等も宇宙怪獣に狙われているそうだけれど」
「連中もですか」
「ええ。それもかなり大規模にね」
ミスティはタケルに応えた。
「本国の近くに彼等の巣があるそうだから」
「それは大変だ」
「敵とはいえ同情するぜ」
「そのせいかわからないけれど周りにはそれ程戦力を送ってはいないようで。それでもあれだけの戦力を送られるのだけれど」
「普通に凄いわね、それって」
アムはそれを聞いて素直に感嘆した。
「かなりでかい帝国みたいね」
「そうでなければあそこまでなれないでしょ」
レッシィが突っ込みを入れる。
「もっとも宇宙怪獣にそこまでやられて大丈夫かどうかまではわからないけれど」
「実情はかなり苦しいみたいね」
「やっぱり」
「けれど凌いではいるらしいわ。そして相変わらず戦力を各地に向けている」
「その一つが俺達ってわけかよ」
「あ、ジュドー」
皆ジュドーの言葉にハッとした。
「あんたも来たの」
見ればプルとプルツーも一緒である。
「来ちゃ悪いのかよ」
「いや、何かいつもの顔触れが集まったなあ、って」
「何処に行ってたの?」
「ちょっとシーブックさん達と話してたんだよ。セシリーさんのパンを食べながら」
「そうだったのか」
「ウラキさん達は訓練でいなかったけれどな。バニングさんがやってるらしいから」
「バニング大尉も相変わらずね」
「そうだな。かなり厳しかったみたいだぜ。カミーユさん達も一緒だった」
「そういえばいないと思ったら」
「カミーユさんも」
「ジュピトリスが来てから何か前よりも訓練に身を入れているよな」
「そうだね」
「あの人にも思うところがあるんだろうな」
ダバは考えながらこう述べた。
「俺もギャブレーとは色々あるからな」
「あいつはかなり違うと思うよ」
「そうか、レッシィ」
「あいつには何かシリアスなところがないのよ。抜けているしね」
「そうそう、だから食い逃げもするし」
「いつも勝手に自滅してんだよな、ペンタゴナの時から」
キャオもそれに合わせて笑っていた。
「だからあいつはちょっと違うでしょ」
「そういえばそうか」
「って納得するのね」
「まあね」
ダバは少しぼんやりとしたような声を返した。
「それは否定できないかな、と思ってね」
「あいつ妙に憎めないからね」
「そうなんだよな。敵の筈なのに」
「結構惚れっぽいし」
「そうそう」
「見ていると飽きないのよね。また来るだろうし」
「しぶといんだよな、おまけに」
「その時はまた相手になってやるさ」
ダバは強い声でこう言った。
「あいつも俺と戦いたいだろうしな」
「そうだろうね。あの声はライバルの声だ」
「おい、マックスさんがそれ聞いたら苦い顔するぜ」
「おっと」
レッシィはジュドーにそう言われ口を塞ぐ仕草をしてみせた。
「いけないいけない、そうだったね」
「まあレッシィさんも結構似てる声の人がいるし」
「それあたしのこと?」
ルーがこう言ったところでクェスがやって来た。
「あ、いたの」
「訓練も終わったしね。それで戻って来たのだけれど」
クェスはそう答えた。
「あたしもよく言われるな、って思ってたのよ。レッシィさんにリリスちゃんでしょ、それにファムちゃん」
「そうそう」
「それにヒギンスさん。やけに多いな、って思ってたのよ」
「そういえばそうよね」
「あとは・・・・・・ユングさんよね」
「あの人もどうしてるのかなあ」
「とりあえずは無事なんじゃないかな。よくわからないけれど」
「アムロ中佐に聞けばわかるかも」
「あの人だって銀河の彼方のことなんてわからないわよ」
「そうか、ははは」
そんな気軽なやりとりをしていた。だがそれは突如として破られることになった。
警報が鳴った。皆それに即座に反応した。
「敵!?」
「多分ね」
ミスティがそれに応える。
「ここはネオ=ジオンの勢力圏だから」
「それじゃあ」
「おい、そこにいたのか」
そこにケンジがやって来た。他のコスモクラッシャー隊のメンバーも一緒である。
「出撃だ。ネオ=ジオンだ」
「やっぱり」
「そして指揮官は!?」
「ゼクス=マーキス特佐さ」
ナオトが言った。
「率いている部隊はモビルドールだ。覚悟はいいか」
「相手にとって不足はないってね」
ジュドーがそれに返した。
「それじゃあ行きますか」
「よし」
皆それに頷く。
「総員戦闘配置」
トーレスの声が響く。
「パイロットは格納庫に向かえ。そしてすぐに出撃だ」
「よし」
こうしてロンド=ベルの面々は出撃した。そして四隻の戦艦の前方に布陣したのであった。
「来たか」
ウーヒェイが彼等を見据えてこう言った。彼等も出撃していた。
「ゼクス、まだわからないというのか」
「そういうところは御前さんとそっくりだな」
「どういう意味だ、デュオ」
彼はデュオにそう問い返した。
「頑固なところがさ。まあうちのメンバーは皆そうだけれどな」
「それは俺もか」
トロワがそれを聞いて問うてきた。
「そうさ。当然俺もな」
「僕もなんですね」
「御前さんもな。外見に似合わず」
「そして俺か」
「わかってんじゃねえか」
ヒイロにそう返す。
「御前さんが一番頑固だからな。参るぜ」
「そうなのか」
だがヒイロはそれを聞いても顔色一つ変えない。やはり無表情であった。
「だからわかるだろ。あの仮面の旦那の考えていることが」
「ああ」
ヒイロは頷いた。
「何となくわかるつもりだ」
「なら話は早え。ここで説得できるかな」
「説得してどうするつもりだ?」
「勿論俺達の仲間になってもらうのさ」
デュオは軽い声でそう言った。
「そうなれば鬼に金棒だぜ。ライトニング=カウントまで参加するんだからな」
「それはいい話だ」
ヒイロはそれに賛成したようであった。
「だろう?それじゃあ」
「しかし俺では無理だ」
だがヒイロはここでこう言った。
「何でだよ」
「俺だけが説得をしても何の効果もないということだ」
「それじゃあ俺達全員で」
「それも愚だな」
トロワがそれに対してこう反論した。
「ヒイロが駄目ならば俺達全員でやっても無駄だ」
「そんなことやってみなきゃわかんねえだろ」
「いや、俺もそう思う」
ウーヒェイもそれを否定した。
「おめえもかよ」
「俺達ではあいつを説得できない。例え剣を交えてもな」
「じゃあどうすればいいんだよ」
「よくわからないですけれど他の方法があるんじゃないですか」
「他の方法って」
それを聞いてかえって混乱するデュオであった。
「何があるっていうんだよ」
「そのうちわかる」
答えにはなっていないがこれがヒイロの返答であった。
「それもすぐにな」
「どうやってだよ」
「戦っていればわかる」
ヒイロの言葉はあくまで感情がない。無機質であるがそこに分析がないというわけでもなかった。
「すぐにな」
「ちぇっ、教えてくれたっていいだろ。俺は何でもわかるってわけじゃねえんだからな」
「アムロさんやカミーユさんとは違うんですね」
「あの人達は特別だろ。ニュータイプ以前に天才だろうが」
「おいおい、俺は別に天才でも何でもないぞ」
それを聞いたアムロの苦笑いが聞こえてきた。
「あっ、聞こえてました?」
「最初からな。俺は少し勘がいいだけさ」
「勘だけではじめて乗ったガンダムであそこまでできるのか」
ブライトがそこに突っ込みを入れた。
「御前を天才と言わなくて誰を天才と呼ぶんだ」
「おいブライト、おだてても何も出ないぞ」
アムロはそうブライトに返した。
「ははは、そうか」
「それよりそっちの方も頼むぞ」
「わかっている」
ブライトは真剣な顔になり頷いた。
「任せておけ、こっちはな」
「ああ、頼んだぞ」
「もうすぐ来るぞ。機数は五百」
「それだけか」
「とりあえずはな。そして援軍もこちらに向かっている」
「その数は」
「三百だ。こちらはモビルスーツ部隊だ」
「やけに念を入れているな」
「それだけ敵も真剣だということだろう」
ブライトは率直にこう述べた。
「地球に効果できるかどうかがかっかっているからな」
「それでネオ=ジオンは地球の何処に効果するつもりなんですか?」
ジュドーがそう問うてきた。
「ヨーロッパはティターンズやドレイク軍がいるし太平洋は守りが堅いし」
「限られていますよね」
シーブックもそれに頷いた。
「これはまだ確証を得ていないが」
「それでも」
彼等はブライトにさらに突っ込んだ。
「何処なんですか。教えて下さい」
「ダカールだ」
彼は言った。
「ダカール」
連邦政府の本部が置かれている場所である。かってここをティターンズと争ったこともある。この時カミーユがフォウを説得しサイコ=ガンダムから降ろしている。
「そこを狙っているらしい。そして一気に地球圏を掌握するつもりのようだ」
「連邦政府を牛耳ってか」
「ハマーンめ、大胆なことをする」
「ハマーンらしいといえばらしいな」
クワトロはそこまで聞いて静かにこう言った。
「ここぞという時に思い切ったことをする。ただ単にジオンの亡霊に取り憑かれているだけではない」
「むしろその亡霊を己がものとするということか」
「その通りだ」
アムロの言葉に頷いた。
「だからこそ恐ろしい。あの女は危険だ」
「それは肌身で感じたことか」
アムロはクワトロにそう問うてきた。
「シャア=アズナブルとして」
「・・・・・・・・・」
「それともキャスバル=ズム=ダイクンとしてか」
「・・・・・・私はクワトロ=バジーナだ」
クワトロの返答はこうであった。
「クワトロ=バジーナとして語っている。これでいいかな、アムロ中佐」
「ああ。それならいい」
アムロもそれを認めた。
「それではクワトロ大尉に聞きたい」
「何か」
「これからのこの戦いの戦術だ。どうするべきか」
「そうだな」
クワトロは一呼吸置いたうえで語りはじめた。
「まずはモビルスーツ部隊を中心にしてもビルドール部隊を叩く」
「そして」
「次に来るモビルスーツ部隊に対しては戦艦とエステバリス、そして先のモビルドール部隊に向けた戦力から余剰分を向ける。これでいいと思う」
「わかった。それではそれでいくか」
「いいのか」
「俺はそれでいいと思っているからな」
アムロはそう返しただけであった。
「それじゃあやるか。そして早く終わらせて次の戦いに向かおう」
「よし」
まずアムロのニューガンダムとクワトロのサザビーが動いた。他の者はそれに続く。その後ろでバーニィはふとクリスに声をかけてきた。
「なあ」
「何?」
「アムロ中佐とクワトロ大尉の関係ってかなり変わってるよな」
「そうね」
クリスもそれに頷いた。
「何か他の人達とは違う。そうした関係よね」
「やっぱり連邦の白い流星とジオンの赤い彗星だからかな」
「それだけじゃないかも」
「じゃあやっぱり」
「ララァ=スン少尉かしら」
「それかな、やっぱり」
バーニィはその名を聞いて考える顔になった。
「あの二人の関係は」
「それだけじゃないかも知れないけれどね」
「それは」
「口では上手く言い表せないけれど」
クリスはそう言いながらも言った。
「何かそうしたしがらみや因縁も越えた。そうした縁もあるわね」
「そうなんだ」
「私もよくはわからないわよ」
そう前以て断りを入れた。
「けれど・・・・・・。何となくそう思えるのよ」
「女の勘ってやつ?」
「ばか」
そう言われて顔を少し赤くさせた。
「そんなのじゃないわよ」
「けれど俺にはよくわからないから。こうしたことは」
「そのうちわかるかもよ」
キースが二人に対してこう言った。
「キース中尉」
「これは俺がそう思うだけだけれどね」
「そうなんですか」
「まあ今はそれより戦争戦争」
そう言いながら前を向く。
「コウはもう先に言ってるぜ。ぼやぼやしてると放っておかれるぞ」
「あっ、いけない」
「待って下さいよ」
二人が少し慌ててキースの後を追う頃には既に戦いははじまっていた。まずはアムロとシャアがファンネルを放っていた。
「うおおおおおおおおおーーーーーーっ!」
「これなら!」
一斉に無数のファンネルが飛び立つ。そして敵に襲い掛かり屠っていく。二人が暴れているところにケーラやクェスも到達する。
ケーラは主に二人の援護に回る。だがクェスは二人と同じように積極的に攻撃を仕掛けていた。
「行けっ、ファンネル達!」
赤いヤクト=ドーガのそれをまるで生き物のように言う。そしてファンネルを放つ。それにより小隊単位で敵を薙ぎ倒していく。それにより敵の陣に穴が開く。するとそこに四機のガンダムが雪崩れ込んで来た。
「用意はいいよな!」
「無論!」
デュオの言葉にウーヒェイが頷く。
「俺はいい」
「僕もです」
トロワとカトルも頷いた。こうして四機のガンダムがネオ=ジオンの陣に切り込んだ。
「いっくぜえええええええっ!」
まずはデュオの乗るガンダムデスサイズヘルカスタムが飛翔する。そのシルエットが月をバックにした。まるで死神の様に映った。
敵の小隊に踊り込むとその手に持つ鎌で斬っていく。ネオ=ジオンのモビルドール達はそれにより次々とその首や胴を断ち切られ爆発して消えていく。
「今度は俺だ!」
ウーヒェイが叫んだ。アルトロンガンダムカスタムはその手にツインビームトライデントを出した。そしてそれを頭上で旋回させる。その後で構えて切り込む。その姿はまるで双頭の竜であった。
デュオの攻撃が縦横無尽なものであったのに対してこちらは演舞のようであった。左右にいる敵達を舞うように斬っていく。そして敵を倒していった。
トロワも動いていた。ガンダムヘビーアームズカスタムの左眼が光った。突如としてその胸が開いた。
「邪魔するなら・・・・・・容赦はしない」
トロワの静かな声が戦場に響く。そして敵にミサイルとガトリングガンを斉射する。前にいる敵はそれだけで戦場から消えていった。そしてそれが終わると今度はミサイルをまた放つ。先の二人とは正反対に遠距離攻撃で敵を倒していた。
カトルのガンダムサンドロックカスタムは先の二人と同じような戦いを繰り広げていた。その手に持つ二本のショーテルを振り敵を倒す。だがそれだけではなかった。
「カトル様!」
「お助けに参りました!」
そこに数十機のモビルドール達が姿を現わした。マグアナック隊である。彼等はカトルの周りを囲み一斉に攻撃に入った。
「カトル様には指一本触れさせん!」
「邪魔だ、どけ!」
カトルは彼等を指揮しながら戦いを続ける。四機のガンダムとマグアナック隊によりロンド=ベルは一気に優勢に立った。
「どうやらあの四人は相変わらずみたいね」
「嬉しいか?」
この時ヒルデとノインはようやく戦場に辿り着いたところであった。それぞれヴァイエイトとウイングゼロに乗っている。
「そうね。元気そうで何よりだわ」
「そう言う私達も戦場にいるのだがな」
「それはわかってるわよ。用意はいい?」
「ああ」
ノインは頷いた。そしてバスターライフルを構えた。
「まずはこれを放つ」
「ええ」
「それから突撃する。一緒に行くぞ」
「それはいいけれど」
「まだ何かあるのか?」
「ヒイロの姿が見えないけれど。どうしたのかしら」
「彼なら大丈夫だ」
ノインはスッと笑って同僚にそう返す。
「大丈夫」
「そうだ。今頃自分の戦いを行っている」
「そうなの」
「だから私達も私達の戦いをしよう」
「ええ、わかったわ」
二条の光の帯が輝いた。そしてまた戦士達が参戦した。
この時ゼクスは後方で全軍の指揮にあたっていた。乗っているのはガンダムエピオンであった。
「特佐」
彼のもとに傷ついたモビルドールが一機やって来た。
「第一防衛ラインが突破されました」
「そうか」
ゼクスはそれを聞いて頷いた。
「敵はモビルスーツ部隊を中心としてこちらに攻勢を仕掛けてきております」
「そして第二ラインにも接近しているのだな」
「はい」
部下はそれに対して頷いた。
「増援は」
「間も無くだとは思いますが」
「このままでは間に合いそうもないか」
「残念ながら」
彼は項垂れてこう答えた。
「しかも敵の戦意が異常に高く」
「何かあったのか?」
「後方に変わったバルキリーが三機程おりまして」
「変わったバルキリー」
「はい。赤とピンク、そして青緑の派手な色の新型のバルキリーですが」
「それが何かしているのか」
「報告によりますと音楽を奏でているとのことです」
「音楽を」
それを聞いたゼクスの仮面の下の顔が動いた。
「どういうことだ」
「詳しいことはわかりませんが」
彼が知っているのはそれまでだった。それ以上は何も知らなかった。
「ロックをかけているとか」
「ううむ」
ゼクスはそれを聞いて呻いた。
「気になるな。よし、私も行こう」
「宜しいのですか?」
「丁度戦線自体の危機だ。前線に出る必要もある」
彼は戦線を立て直す為にも前に出るつもりだったのだ。
「行こう。ここは頼む」
「ハッ」
こうしてゼクスは前線に出た。そこで彼は大規模な攻勢を受け為す術もなく倒されていく自軍の兵士達を見た。だがそれを見ても彼は冷静なままであった。
「ダメージを受けた者は無理をするな」
彼は落ち着いた声でこう指示を下した。
「そして散開しろ。このままではまとまえてやられるだけだ」
「ハッ」
「了解しました」
部下達はそれに応え陣を組み替えていく。そしてロンド=ベルにあたった。
「そして聞きたいことがあるのだが」
「何でしょうか」
傍らにいたモビルドールにいる部下に対して問うた。
「変わったバルキリーがいると聞いたのだが」
「バルキリーですか」
「そうだ。何処にいる?」
「それでしたらあれです」
彼はそれに応えて前を指差した。
「あの小隊です」
「あれか」
見れば確かにその通りであった。風変わりな程派手なカラーリングのバルキリーが三機いた。そして何やら派手な演奏を奏でていた。
「俺の歌を聴けーーーーーーっ!」
「バサラ、今度はあたしの曲の番よ!」
相変わらず自己主張が激しいバサラに対してミレーヌが反発する。
「ちょっとは演奏のバランスも考えなさいよ!」
「バランスなんざ壊す為にあるんだよ!」
だが予想通りであるが彼は話を聞こうとはしない。
「そんなこと戦場で言ってられっかよ!」
「その皆を励ます為にあたし達は今ここにいるんでしょ!」
「それは違うな」
バサラの声が一変した。
「俺達はここにいるのは皆を励ます為じゃない」
「どういうこと!?」
突然真面目になったバサラの声にミレーヌはキョトンとしていた。
「何かあるの?」
「そうだ。俺がここにいるのはな」
一人称になっていた。
「戦いを終わらせる為だ!行くぜ!」
彼はまた叫んだ。
「トライ=アゲインだ!」
「もう、マイ=フレンドはどうなるのよ!」
「それは後だ!とりあえず俺の歌だ!」
こうしてバサラの歌がはじまった。ミレーヌは仕方なくそれに演奏を合わせる。ゼクスはそれを見ていた。
「あれなのだな」
「はい」
部下の一人がそれに頷いた。
「変わった戦い方だな」
「軍楽隊とはまた全然違いますな」
「例えて言うならばリン=ミンメイか」
彼は言った。
「彼女に近い。歌で敵味方問わず何かを語り掛けているようだ」
「その通りだ」
ここで声がした。
「ゼクス、御前もあの歌を聴いているだろう」
「貴様か」
ゼクスはその声に反応した。
「そうだ」
「何処にいる」
「此処にいる」
そう言って天使が舞い降りた。ウイングゼロカスタムであった。
「ヒイロ=ユイ」
「暫く振りだな。元気そうで何よりだ」
ヒイロは感情が見られない声でこう言った。
「今あの曲が戦場を支配している」
「ああ」
「あの曲に答えがある。御前自身のな」
「私自身の」
「わかっている筈だ。御前はネオ=ジオンにいるべき人間ではない」
「・・・・・・・・・」
「義理は果たした筈だ。なのに何故まだそこにいる」
「私は自分の信念で動いている」
「信念か」
「そうだ。ガトー殿に言われた。それこそが人の生きる道だと」
「ではガトーは御前の心を縛るのか?」
「!?」
ゼクスの仮面が動いた。まるで割れたように動いた。
「それは」
「あの男は誰かを縛ったりするような男ではない。自分を縛ることはあっても」
「では私は」
「そうだ。御前は自分で自分自身を縛っているだけだ」
ヒイロは静かにこう言った。戦場に似つかわしくない程の静かな声で。
「それに気付くことだな。そうすれば道が開ける」
「その道標があれだというのか」
「そういうことになる」
ゼクスはバサラ達を指差した。ヒイロはそれを肯定してきた。
「考えてみるのだな」
「・・・・・・・・・」
ゼクスは答えられなかった。ただバサラの歌が耳に入る。それが徐々に自分の中に浸透していくのは感じていた。だがそれが結果として何をもたらすのかはまだわからなかった。
ここで増援が遂に到着した。アナベル=ガトーの部隊であった。
「ゼクス殿、御無事か!?」
GP-02に乗っていた。その禍々しい程の威圧的なシルエットの中から謹厳な声が聞こえてきた。
「ガトー殿か」
「遅れて申し訳ない。かなりの損害を出しているようだが」
「彼等は手強い」
ゼクスは一言こう言った。
「我が軍はこれ以上の戦闘は無理かも知れない」
「ならば下がられよ」
ガトーは撤退を勧めた。
「ここは我等が引き受ける」
「しかし」
「既にこのエリアの放棄は決定している」
「何!?」
「ここにティターンズ及びポセイダル軍が接近している。もうすぐ彼等の軍とも遭遇しかねん。これ以上ここで戦力を消耗することはないという決定だ」
「全ては地球降下作戦の為だな」
「そうだ」
ガトーはそれに頷いた。
「撤退されよ。もうここでの戦闘は終わった」
「わかった」
ゼクスはそこまで聞いて頷いた。
「それではお願いする。いいか」
「うむ」
こうしてゼクスとその部隊は撤退にかかった。だがここでロンド=ベルは追撃に向かった。
「逃すな!」
ブライトの指示が下る。それに従いロンド=ベルは追撃をはじめた。だがその前にガトー率いるモビルスーツ部隊が出て来た。
「やらせはせん!」
「ガトー!」
コウが彼の姿を認めて叫ぶ。
「また出て来たか!」
「言った筈だ!」
彼はそれに対して言い返した。
「私は大義の為に生きていると!その為には何度でも戦う!」
「クッ!」
「さあ来いロンド=ベルの戦士達よ!私は逃げも隠れもしない!」
「流石だな」
クワトロは彼の姿を認めて呟いた。
「ジオンきっての戦士だっただけのことはある。だが」
しかしここでその鋭い目が光った。
「我々とて無闇にここにいるわけではない。ブライト艦長」
彼はブライトに声をかけてきた。
「今だ。すぐに動こう」
「わかった」
ブライトはそれに頷いた。そして指示を下す。
「モビルスーツ部隊はこのままモビルドール部隊の追撃に向かえ」
「了解」
「その他の部隊でモビルスーツ部隊への迎撃に向かう。戦艦も前に出ろ」
「ということはエステバリスもですよね」
「う、うむ」
突然モニターに出て来たユリカに少し驚きながらも答える。
「その通りだ」
「わっかりました。アキト」
ユリカはそれを聞いた後でアキトに対して声をかけてきた。
「活躍の場面よ。頑張ってね」
「気軽に言ってくれるなあ」
「アキトなら大丈夫だから。頑張ってね」
「丁度アキトさんの方にヴァルヴァロが一機向かっています」
「ヴァルヴァロが」
ルリの言葉にコウが反応した。そしてアキトに対して言った。
「アキト君、気をつけろ」
「どうしたんですか?」
「そいつはケリィ=レズナーだ」
「ケリィ=レズナー」
「一年戦争で活躍したジオンのパイロットじゃなかったかしら」
「その通り」
コウはハルカの言葉に頷いた。
「エマ中尉、御名答です」
「えっ、私!?」
ハルカはエマと間違われキョトンとした。
「私ハルカだけれど」
「あっ」
コウはそれを聞いてしまったと思った。
「声が似てるって言われてるけど。違うわよ」
「す、すいません」
「もう、しっかりしてよね、ウラキ中尉も。そんなのだとエマさんに怒られるわよ」
「私そんなことで怒ったりはしないけれど」
「あら」
ここでエマもモニターに出て来た。
「声は似ているかも知れないけれど外見は全然違うじゃない」
「案外似ている部分はあったりして」
「そうかしら」
軽い調子で言うハルカに対してエマは堅い調子であった。
「まあそれはいいわ。アキト君」
「はい」
今度はエマが言ってきた。
「気をつけてね。強敵よ」
「わかりました」
「無理はしないようにね。いざとなれば皆で」
「はい」
「俺もいるしな」
サブロウタが出て来た。
「ナガレもな。頼りにしろよ」
「私もか」
「同じ小隊だろ。まあ宜しく頼むぜ」
「まあいいだろう」
「ったく何時になってもキザだな。どうもこうした声はキザなのが多いな」
「どっかのエレガントな人もそうだったらしいわね」
「ハルカさんよく知っていますね」
「あの人有名だったから。案外何処かで生きてるんじゃないかしら」
「まさか」
「わからないわよ、インド人なんだから」
「それインドの人に対する偏見ですよ」
「そうかなあ。クェスちゃんなんかあっちでニュータイプに目覚めたんでしょ?やっぱり何かあるわよ」
そうルリに答える。
「あそこは。特別だから」
「というよりトレーズさんってインド人だったの」
「そうよ。名前見ればわかるでしょ」
「ううん」
それでもエマは懐疑的であった。
「何か。フランス辺りの貴族かと思っていたわ」
「父はアーリア系でした」
マリーメイアが話に参加してきた。
「それは確かですよ。DNAでもはっきりとしています」
「そうだったの」
「そして私も。インド人ですよ」
「ううん」
「何かイメージが壊れたみたいね、エマ中尉は」
「少しね。何かインド人っていうと独特のイメージがあるから」
「独特なのね」
「あの国は特にね。訳がわからないところがあるし」
「それならトレーズさんにぴったりじゃないかしら」
「それを言うと」
「まあそれはそれで。ところで誰か忘れているような」
「俺を忘れるなあっ!」
ダイゴウジが叫んだ。
「このダイゴウジ=ガイを忘れるとは何事だ!俺は戦場にいるんだぞ!」
「ヤマダさん、あまりエステバリスから離れないで下さいね」
ルリがそれに対して冷静に返す。
「さもないとまたエネルギー切れですよ」
「そんなことはどうでもいい!」
「どうでもよくありません」
ルリの声はピシャリとしたものであった。
「何かあったら困りますから」
「そんなものは根性でどうにかなる!」
「なったら戦争は誰でも勝てます」
「うう・・・・・・」
いつものことであるがルリが圧倒的に優勢であった。ダイゴウジは分が悪い。
「わかりましたね。決して前には出ないで下さい」
「わかった」
渋々であったが頷くしかなかった。
「だが見せ場は用意してあるんだろうな」
「それは有り余っています。是非お願いします」
「わかった。それでは行くぞ」
「ってダイゴウジさんがリーダーだったのかよ、うちの小隊って」
「どうやらそうらしいな」
「嫌なのか?」
「いえ、そうは要っていないですけれどね」
サブロウタはダイゴウジの言葉に応えた。
「まああまり熱くはならないで下さいよ」
「馬鹿者ぉっ!」
それを聞いて激昂して叫んだ。
「貴様はあのリュウセイ=ダテ少尉と声が似ているのに何とだらしないのだ!」
「だから別人なんですってば」
「私もライ少とは別人だが」
「そんなことはどうでもいいっ!男は気合だ!」
「はいはい」
「わかったな!わかったならば行くぞ!」
そう言って二人を無理にでも引っ張って行こうとする。やはり強引であった。
「ヴァルヴァロだろうが何だろうが倒す!例え相手がジオンのエースであろうとも!」
「アナベル=ガトーが相手でもですか?」
「無論!」
普通の者なら怖気付くようなやりとりであったが彼は臆するところがなかった。
「例え宇宙怪獣が銀河を埋め尽くさんばかりに来ようとも俺は背は向けん!それがダイゴウジ=ガイの生き様だ!」
「よし、その意気だ」
ナガレはそれを聞いて満足したように笑った。
「では行こうか、リーダー」
「アカツキ」
意外な者から声がかかりダイゴウジはキョトンとした。
「行かないのか?今行くと言った筈だが」
「あっ、いや」
「行くのだろう。では私も一緒だ」
「いいんだな」
「悪い筈がないだろう、ここは戦場だしな」
物腰こそクールであったがそこには何かが宿っていた。
「それはそうだが」
「では行こう。何なら私が先に出るぞ」
「おい、それは俺の役目だ」
「それでは行ってくれ。後はフォローする」
「わかった。では」
「うむ。行くぞ、サブロウタ」
「了解」
サブロウタはナガレの思わぬ発言と行動に戸惑いながらも頷いた。
「アキトも。いいな」
「は、はい」
話から取り残されていた感のあったアキトも頷いた。
「では行くぞ。エステバリス隊突貫!」
「こっちはもう先にやってるよ!」
リョーコから声が返ってきた。
「あらっ」
「あらっじゃねえよ、戦争中にちんたら話してる暇があったら撃ちやがれ!」
「今何処を見ても敵ばかりですしね」
「敵機を倒した後で食べるのはステーキ。素敵」
「・・・・・・強引なのもここまでいくともう何だかわかんねえな」
「とにかく行けばいいのだな」
「だからさっきからそう言ってるじゃねえか」
「僕もいますし」
「副長も」
見ればアオバも出撃していた。
「最近は何かエステバリスでばかり出ているような」
「人が少ないからな」
それにリョーコが応えた。
「仕方ないさ。まあ頑張ってくれ」
「はい」
「とにかく旦那、早くきな!」
「おう!」
ダイゴウジはそれに対して叫んだ。
「行くぜ!そして一気にやるぞ!」
「わかった!では派手にやらせてもらおう!」
「そうこなっくちゃな!パーティーのはじまりだぜ!」
「よし!」
こうして八機のエステバリスのパーティーがはじまった。八機は周りのモビルスーツ達を派手に倒していく。
「じゃいっくよおおーーーーーーーーーっ!」
「美味しくいただきまーーーす」
「真面目にやれって言ってるだろ!」
だがそんな中でアキトは少し違っていた。何か考えていた。
「エネルギーか」
先程のダイゴウジとルリのやりとりを思い出していたのだ。
「エステバリスはそれで大きな制約があるな」
フィールドを離れれば自由な行動がとれない。エステバリスは母艦の周りでしか自由な行動がとれないのはこの為であった。離れればすぐにエネルギーを大量に消耗してしまうようになるのだ。
「そこか」
彼はエステバリスの弱点に気付いた。気付いたというよりは再認識させられたと言うべきか。
「けれどどうすれば」
だがどうするかまではわからなかった。エステバリスはフィールドの中で行動するものだからだ。これが常識となっていた。
「おい、アキト!」
ここでリョーコの声がした。
「!?」
「上だ、来るぞ!」
「わかった!」
それに反応してすぐに動いた。そしてかわした。
ヴァルヴァロの攻撃であった。咄嗟にかわして助かったのであった。
「危なかったな」
「クッ、なかなかやるな」
ヴァルヴァロに乗る褐色の肌に金髪の男がそれを見て言った。彼がケリィ=レズナーであった。
「これがエステバリスか。どうして中々性能がいい」
「あんたがケリィ=レズナーか」
「如何にも」
ケリィはこれに頷いた。
「若いの、そちらの名は何という」
「アキト、テンカワ=アキトだ」
彼はこれに応じて名乗った。
「そうか、アキトというのか」
「何故俺の名を聞くんだ?」
「戦士の名は覚えておかなければなるまい」
ケリィはこう言った。
「俺の攻撃をかわすとは見事だ。だがそれが何時まで持つかな」
「クッ」
アキトはその気迫に押されそうになった。だが踏み止まった。
「来い、戦士よ。今戦いとは何であるかを教えてやろう」
「戦いを」
「そうだ。見たところまだ若い。違うか」
「よくわかってんねえ、この人」
サブロウタがそれを聞いて呟いた。
「アキト、一人で大丈夫なのか?」
「何なら我々も」
「いや、ここは一人でやらなきゃ」
だが彼はダイゴウジとナガレの助っ人を断った。
「何かこの人は俺に大切なことを教えてくれそうな気がする」
「敵がか」
「いや、それはある」
ナガレはそれを否定しようとした。しかしダイゴウジは違っていた。
「強敵と書いて友と呼ぶのだな」
「何か世紀末救世主みたいだね」
「だからそれを言うな」
「強敵か」
軽いやり取りのサブロウタ達に対してアキトのそれは重くなっていた。
「それから学べるもの」
「来るか、若者よ」
ケリィはまた言った。
「来ぬのならばそれもよしだが」
「いや」
アキトはそれに首を横に振った。
「やってやる。それしかないみたいだしな」
「わかってはいるようだな」
ケリィはそれを聞いて笑った。
「では来るがいい。ただし、手加減はしないぞ」
「言われなくても」
こちらも手を抜くことは許されないと思った。アキトのエステバリスは右に動いた。
それに対してケリィのヴァルヴァロは左に動いた。互いに隙を窺う。
「君はどうやらいい戦士になれる素質があるな」
彼はアキトの動きを見てまた言った。
「俺から生き延びることができたならば。楽しみだ」
「有り難うございます」
アキトはそれに応えた。だがここで言葉を付け加えた。
「けど俺は戦士の他になりたいものがあるんです」
「それは何だ」
「ラーメン屋です」
彼は言った。
「ラーメン屋」
「ええ。宇宙一のラーメン屋になる。それが俺の夢なんです」
彼は自分の夢を語った。
「その為にも。ここで死ぬわけにはいかない」
「面白い若者だ」
ケリィはそれを聞いてまた笑った。
「戦士よりもラーメン屋になりたいか。こんなことを聞いたのははじめてだ」
「駄目でしょうか」
「人それぞれだ。それについてとやかく言うつもりはない」
「ケリィさん」
「俺はこうした生き方しかできない。だからラーメン屋がどんなものかは知らないが」
「案外話のわかる人みたいだな」
「そうですね。何か大人って感じで」
「あの声がそうさせるのかも」
三人娘はそれを聞いてヒソヒソと話をした。
「ラーメン屋を目指すのならば目指せばいい」
ケリィはそれをよしとした。
「だが戦場にいる限り君は戦士だ。それを忘れるな」
「戦場にいる限り」
「そうだ。そして俺は戦士に対して容赦はしない。わかるな」
「はい」
アキトもそれに頷いた。
「では行くぞ、覚悟はいいか」
「覚悟はしません。ただ生きるだけ」
「ならば生きるがいい。俺は何としても君を倒す」
「ならば僕も貴方を倒す」
「ならば」
「行きます!」
こうして二人は激突した。互いに射撃を行う。
「ムンッ!」
「これでっ!」
だがそれはそれぞれ外れてしまった。両者は交差しまた距離を開けた。だがここでまた両者は向かい合った。
「あれをかわすとはな。やはり見所がある」
「何て強さだ。歴戦の戦士っていうのは伊達じゃないな」
二人はそれぞれ呟いた。そしてまた対峙する。
ユリカはそれをナデシコの艦橋から見ていた。その目がキラキラと輝いている。
「アキト、格好いい」
彼女は純粋にアキトの姿を格好いいと思っていた。
「何か相手も凄いけれどアキトも凄いわよねえ」
「そう簡単に言える状況じゃないと思いますけれど」
ルリがそう突っ込みを入れてきた。
「何で?」
「あのヴァルヴァロのパイロットはかなりの技量です。油断はできないかと」
「けれどアキトだってかなり腕はあがってるし。大丈夫よ」
「経験の差があります」
「経験の差?」
「はい。あのヴァルヴァロのパイロットは見たところかなり場数を踏んでいます。けれどアキトさんは」
「アキトだってもうかなり戦ってきてるわよ。それでも駄目なの?」
「数のケタが違います」
ルリはまた言った。
「その違いはどうしようもないです。ですからアキトさんにとっては苦しいです」
「じゃあ負けるかもしれないってこと?アキトが」
「可能性はあります」
「そんな」
「けれどアキトさんも頑張っています。ここからが肝心です」
「肝心」
見れば勝負は接近戦に入っていた。アキトはエステバリスの機動力を発揮してヴァルヴァロに襲い掛かる。だがケリィはそれを技量でカバーしていた。寄せ付けない。
「まだだっ!」
「巨体なのに!」
思いも寄らぬヴァルヴァロの素早い動きにアキトは戸惑った。
「何て速さなんだ!」
「この俺と、そしてヴァルヴァロを甘く見てもらっては困るな!」
ケリィは叫んだ。
「ムッ!」
そしてヴァルヴァロはその爪で攻撃にかかってきた。それがアキトのエステバリスを切り裂いた。
「アキトォッ!」
「大丈夫だっ!」
驚きの声をあげるユリカに対して言った。
「ほんのかすり傷!」
「確かにな」
ケリィもそれに頷いた。
「もう少しで急所だったが。運がいい」
その通りであった。ヴァルヴァロの爪はエステバリスをかすめただけであった。
「だが次もそういくかな」
「今度はかわしてみせる」
アキトはケリィを見据えて言葉を返してきた。
「今度はな」
「いいな。さらに気に入った」
ケリィはそれを聞いて笑った。
「ではかわしてみせよ。いくぞ」
「来い!」
ヴァルヴァロは突進してきた。だがアキトは動かない。ジッとそれを見ている。
「えっ、逃げないの!?」
ユリカはそれを見て身体を硬直させた。
「逃げて!さもないと!」
「心配することはありません」
ここでまたルリが言った。
「けど」
「今のアキトさんなら大丈夫です」
「大丈夫なの!?」
「はい。必ずかわします。ですから安心して見ていて下さい」
「ルリちゃんがそう言うのなら」
作戦参謀である。彼女の言葉には従うことにした。
「けど・・・・・・怖いわね」
「アキトさんはもっと怖い筈です」
「それもそうですね」
メグミがそれを聞いて頷いた。
「実際に前にいるのはアキトさんですから」
「けれどアキトさんは逃げていません。何かを掴まれようとしています」
「何かを」
「それが今わかります。ほら」
そう言ってアキトを見た。今まさにヴァルヴァロの爪が切り裂かんとしているところであった。
「若者よ、どうする!」
ケリィはアキトに問うてきた。
「この爪を避けなければ死あるのみだぞ!」
「こうするんだ!」
アキトはそれに対して叫び返した。そしてエステバリスを動かした。
「ヌッ!」
「これでどうだっ!」
アキトのエステバリスが分身した。そしてヴァルヴァロの爪をかわした。
「なっ!」
ユリカもダイゴウジ達もそれを見て思わず声をあげた。
「物理分身だと!?」
F91が得意とする技であった。だが彼は今それをエステバリスで行ったのである。
「まさかエステバリスで」
ダイゴウジがそれを見て驚きの声をあげた。
「何ということだ」
「かってドモンさんに言われたんだ」
アキトはそれに応えるようにして言った。
「どんな機体でも技を極めればできないことはないって。それにはまず覚悟が必要だって」
「覚悟か」
「今俺は覚悟を決めたんだ。切られれば仕方がないって。それでやってみた」
「そうだったのか」
「何とかできたみたいだな。危なかったけれど」
「見事だと褒めておこう」
ケリィはそれをよしとした。
「だがそれでも俺を倒せるか?かわすだけでは戦いにはならないぞ」
「そんなこと言われなくても」
前に出ようとする。だが突如としてエステバリスの動きが鈍った。
「!?」
アキトはそれを見て思わず呆然となった。
「これは一体」
「無理をし過ぎたのだ」
ケリィはそれを見てこう言った。
「物理分身はエステバリスにとって無理があったのだ。今その無理が来たのだ」
「クッ」
「機体のことも考えておくべきだったな。それもまた戦士の務めだ」
「しまった・・・・・・」
アキトはそれを聞いて顔を苦くさせた。だがどうにもならなかった。
「さて、どうするのだ。もう満足にも動けまい」
「それでも」
「無理はするな、若者よ」
だが彼はこう言ってアキトを下がらせた。
「何故」
「俺は万全の相手としか戦うことはない。今の君では俺の相手とはなり得ない」
「・・・・・・・・・」
「また会おう。その時こそ君の万全の姿を見たい」
「帰るのか」
「そうだ。今の君に勝ってもそれは俺の誇りとはならない」
彼は言った。
「ではな。また会おう」
そして彼は戦場から離脱した。後にはエステバリス達とナデシコが残された。
「助かったのね、アキト」
「はい。ですが」
ルリの顔はそれでも晴れなかった。
「それ以上のものをアキトさんは感じておられるでしょう」
「それ以上のもの」
「得られたものは大きかったですが。傷も大きいです」
「なあアキト」
リョーコが声をかけてきた。
「何だい」
「いいことは言えねえけれどよ」
彼女はそう断ったうえで言った。
「悪いことは気にするなよ。いいことだけを覚えておけ」
「有り難う」
「おい、礼なんざいらねえよ」
そう言われてかえってリョーコの方が照れてしまった。
「あたしは別に礼を言われることなんか言ってねえよ」
「じゃあそう思っておくよ」
「ちょっと待てよ、それじゃあ何かあたしが」
「そうは言っても嬉しいくせに」
そんな彼女にヒカルが突っ込みを入れてきた。
「素直じゃないんですから」
「あのなあヒカル」
「素直にアイムソーーーリーーーーー♪」
イズミはイズミでまた懐かしい歌を出してきた。
「何時も上手く言えないけれど♪」
「・・・・・・イズミ、その曲中々いいな」
「そういえばそうだな」
サブロウタ達もそれに頷いた。
「何かこう落ち着くな」
「しっとりした感じが」
「そうだな。あたしも何か・・・・・・って話が変な方向に行っちまったじゃねえか、おい」
「それが狙いだったりして」
「狙いを狙う、えらーーーーい」
「・・・・・・強引を通り越してもう無理矢理になってきてるぞ」
「まあそれはいいとしましょう」
「とりあえずリラックスリラックスゥ」
「ちぇっ」
そんなやりとりをしているうちに話はうやむやになった。そして彼等は再び陣を整え戦いに備えるのであった。だが戦いは既に終わりに向かっていた。
「よし、これ以上の戦闘は必要ない」
ガトーは戦局を見定めた後でこう言った。
「全機撤退せよ。後詰は私が引き受ける」
「少佐が」
「そうだ。ここは私に任せろ。諸君等はその間に後方まで下がれ。いいな」
「は・・・・・・はい」
「了解しました」
そんな話をした後で彼等は戦場を離脱にかかっていった。だがここでガトーは一機宇宙空間に仁王立ちしてロンド=ベルの前に立ちはだかってきた。
「ガトー、またしても」
「ウラキ中尉、そのデンドロビウムで私の相手をするつもりか」
「そうだと言ったら」
コウは彼に向かってこう言った。
「どうするつもりだ、ガトー」
「私が今ここにいるのは同志達を逃がす為」
彼は静かな、それでいて力のある声でこう言った。
「それを阻むのならば容赦はしない!」
「ではどうするつもりだ!」
「わかっている筈だ」
彼はそう言うと右手に持つバズーカを前に構えた。そしてデンドロビウムを見る。
「これでも来るというのか」
「行ってやる!」
それでもコウは臆するところがなかった。
「貴様の覚悟は知っている!だがそれで俺を阻めるか!」
「阻んでみせる!」
ガトーもまた引き下がらなかった。
「この私の手で!」
「ならばやってみろ!」
コウも負けてはいなかった。そう言って身構える。
「貴様のその核で俺を阻めるのならばな!」
「では見せてやる!私の大義を!」
「待て!」
だがその両者の間に誰かが入って来た。熱気バサラであった。
「何だ、貴公は」
「俺は熱気バサラだ、ファイアーボンバーのヴォーカル兼ギターさ」
「ファイアーボンバー」
「今人気沸騰中のバンドさ。知らねえのか」
バサラはガトーの問いに答えた。だが戦場のみに生きている彼はそうした音楽のことなぞ知る由もなかったのである。
「どうやらあんたも俺の曲を聴きたいようだからな。来てやったんだ」
「何を言う、私は音楽なぞ」
そう言って否定しようとする。だがバサラはそれを遮るようにして言った。
「聴きなって。悪いようにはしねえからよ」
「ムウウ」
「じゃあ行くぜ、俺の歌だ!」
そう叫んでギターを構えてきた。そして歌いはじめた。
「パワー=トゥ=ザ=ドリーム!聴きやがれ!」
「ムウッ!」
戦場に派手な曲が流れはじめた。そしてそれがガトーを覆う。それによりガトーの動きが止まった。
「馬鹿な」
コウもそれを見て思わず叫んでしまった。
「あのガトーが。まさかこんな」
「人間戦いだけで生きているんじゃねえんだよ!」
バサラは音楽を奏でながらそう叫んだ。
「人を導くのは音楽だ!そして俺の歌だ!」
いささか暴論ながらもそう言ってのけた。そう言えるのは確かに彼だけであった。
「どうだ、俺の歌は!心に響くだろうが!」
「戯れ言を」
だがガトーはそれを頑なに拒否してこう返してきた。
「たかがこの程度のもので!私を止められると思っているのか!」
「そうかい。だがその心には届いている筈だぜ!」
「何っ!?」
「俺の歌は人の心を掴む!そして離さねえんだ!」
「馬鹿を言え!」
「馬鹿かどうかはあんたが一番よく知っている筈だぜ!」
バサラはまた叫んだ。
「その心にあるものが見えてきている筈だ!あんたは何を望んでいる!」
「わ、私は・・・・・・」
彼はこの時自分の心の中を見た。そこには確かにあった。彼が求めていたものが。
「私は大義に生きている!他には何もいらぬ!」
「何!」
「その為に今ここに立っている!若者よ、少なくとも君の歌には屈しはせぬ!」
「何だって!何ておっさんだ!」
「そりゃそうなって当然でしょ!」
ミレーヌがここに来て言った。見ればバトロイドに変形している。
「歌は人の心を綺麗にするんだから。こうした人にやったらもっと生真面目な方向に行っちゃうに決まってるじゃない」
「おう、そうだったのか」
「そうだったのかじゃないわよ」
バサラの声を聞き呆れた声を出した。
「全く。これからどうするのよ」
ミレーヌはまたバサラに言った。
「この人、これから大暴れするかも知れないわよ」
「いや、その心配はないよ」
だがここでコウがこう言った。
「もう戦場にはガトー以外いないから。少なくとも時間稼ぎにはなった」
「あれっ、そうなんですか」
ミレーヌはそれを聞きキョトンとした顔になった。彼女の肩にいるグババも同じであった。
「その証拠にもう撤退をはじめている」
「あっ」
見ればその通りであった。ガトーは既に戦場から去ろうとしていた。
「何でまた」
「その大義の為だろうな」
コウはミレーヌに対してこう言った。
「大義の為、ですか」
「そうさ。その為に命は置いておかなくちゃいけない。あいつはそう考えているのさ」
「何かまたとんでもないことするつもりですかね」
「ソロモンの時もそうだったしな。そしてコロニー落としの時も」
彼はこの時彼と戦ってきた幾多の戦場を思い出して言っていた。
「そして今も。少なくとも今はあいつが命をかける場面じゃなかったってことさ」
「そうだったんですか」
「それに気付かせただけでも凄いことさ。しかし」
ここでコウの顔が険しくなった。
「今度会う時がもしその時なら。覚悟が必要だな」
「そうですね」
「グババ」
ミレーヌとグババはそれに頷いた。だがバサラは相変わらずであった。
「その時こそ俺の歌が力を発揮する番だぜ!」
彼はいつものテンションでこう言っていた。
「今と同じでな!また派手にやってやるぜ!」
「派手にやるのはもういいわよ!」
ミレーヌはまたバサラに対して叫んだ。
「もうちょっと大人しくしなさいよ!せめて後方で歌うとか!」
「そんなことやってちゃ俺の歌のよさが伝わらないんだよ!」
バサラもこう言って引き下がらなかった。
「それに俺には敵の弾は当たらないんだよ」
「どうしてよ」
「俺は不死身だからさ!そんなものに当たって俺が死ぬかよ!」
「もう、いい加減に馬鹿言うのは止めてよ!」
ミレーヌもやはり切れてきた。
「あんたはそれでいいかも知れないけれどあたし達はどうなるのよ!」
「知るか、御前は自分でよけろ!どうにかなるだろ!」
「どうにかなったら戦争なんかいらないわよ!」
「その戦争を終わらせる為にやってるんだ!いいじゃねえか!」
「よくないわよ!」
そんなこんなな口喧嘩の中で今回の戦いは終わった。とりあえずはバサラ達の活躍が光った。そしてアキトにも得るものがあった戦いであった。
「アキトさん」
ナデシコに帰還してきたアキトにルリが声をかけてきた。
「もうすぐナデシコの新型艦が完成します」
「新型艦が」
「はい。ナデシコCです」
彼女は言った。
「地球でそれを譲り受ける予定ですが」
「ネルガルからだね」
「はい。そしてその時に」
ここでまた彼女は言った。
「新しい機体の開発も頼むことができるのですが」
「新しい機体」
それを聞いたアキトの顔色が少し変わった。
「まさかそれは」
「それはアキトさん御自身で考えて頂きたいのです」
「俺に」
「はい。エステバリスのことはもうよく御存知ですね」
「まあ」
アキトはそれを認めた。
「もしかするとね。かなり知っているかも」
「少なくとも私よりは。それでお願いしたいのです」
「新しいエステバリスを」
「どんなものがいいか。おおよそでいいからお願いします」
「おおよそで」
「それだと可能でしょうから。お願いできますか」
「そうだな」
アキトはそれを聞いて考える顔になった。
「大体なら。協力させてもらうよ」
「ええ。それではお願いします」
「わかった。それじゃあ」
「はい」
こうして彼は新しいエステバリスの設計をとり行うことになった。それが一体どのようなものになるのかはまだ誰にもわからな
かった。アキト自身にも。
この戦いもまたロンド=ベルの勝利に終わった。ネオ=ジオンはまた戦域を縮小させ、次なる戦いに備えることとなった。ここで彼等はそれぞれの想いを胸に持つこととなった。
まずガトーであるが戦場から帰った彼はさらに精悍な顔になっていた。そして戦場に想いを馳せることがさらに強くなっていたのであった。
それはケリィやカリウス達も同じであった。この戦いで彼等はそれぞれ何かを感じたようであった。だがここに彼等とはまた違った心を抱く者がいた。
ゼクスであった。彼は戦場から帰ると一人ネオ=ジオンの旗艦であるグワダンにある自分の部屋に篭った。そして考えに耽るのであった。
「・・・・・・・・・」
「どうしたのだ、ゼクス=マーキス」
部屋の扉が開いた。そして誰かが入ってきた。
「その様に考え込んで。何があったというのだ」
「貴殿か」
見ればそれはハマーン=カーンであった。彼女はネオ=ジオンの軍服とマントに身を包みそこに立っていた。
「先の戦いのことか」
「わかっていたか」
彼は静かにそう答えた。
「何でもお見通しというわけかな」
「そんなことはない」
ハマーンはそれは笑って否定した。
「何となく勘で語っただけだ。どうやら当たったようだな」
「そうか」
ゼクスはそれを聞いて頷いた。
「では私の考えていることもわかるというわけか」
「無論」
ハマーンはそれを認めた。
「私とてネオ=ジオンの摂政だ。見抜けぬと思ったか」
「流石と言うべきかな」
ゼクスはそう言いながら自らの仮面に手をかけた。そしてそれを外した。
「そこまで見ていたとは」
そしてミリアルド=ピースクラフトに戻った。こうしてゼクス=マーキスはいなくなった。
「ではミリアルド=ピースクラフトよ」
「何か」
「これからどうするつもりだ」
「もう考えてある」
ミリアルドは言った。
「おそらく今度会う時は敵と味方だ」
「そうか」
「それでもよいのだな、ハマーンよ」
「貴殿は元々ジオンの人間ではない」
ハマーンは答えた。
「ジオンの者ではないのならば言う必要もない。違うか」
「これからジオンが宇宙を支配するというのに寛大なのだな」
「その時は貴殿はこの世にはいない」
ハマーンの声は峻厳なものであった。
「それも覚悟のうえではないのか」
「そうだな」
そしてゼクスもそれに頷いた。
「私はジオンの大義は信じてはいない。そしてジオンが人類を支配するとも思ってはいない」
「言ってくれるな」
ハマーンはそれを聞いてシニカルに笑った。
「私を前にして」
「言うべきことは言わなければな。後で後悔する」
「そうなのか」
「また貴殿も私が言ったからといってそれを阻むつもりもあるまい」
「それもそうだ」
ハマーン自身もそれを認めた。
「私はジオンの為に生きている。ミネバ様の為にな」
「あの少女の為にか」
「あの方を王座にお就けする。その為には如何な犠牲も払う」
「血を分けた妹と分かれてもか」
「知っていたのか」
それを聞いたハマーンの顔がさらに険しくなった。
「少しな。今は敵味方だそうだな」
「貴殿と同じだった」
ハマーンは苦虫を噛み潰すようにして言った。
「今まではな」
「そうか」
「だが貴殿は妹のもとに帰るのだな」
「リリーナがそれを望んでいるのならな」
彼の返答はこうであった。
「私はあの娘を守ることが宿命のようだ。それに従う」
「守るのか」
「所詮私にできることはそれだけだ。私はトレーズでもなければリリーナでもない。単なる軍人だ」
「本当にそう思っているのか?」
「それはどういうことだ」
ミリアルドはハマーンの言葉に顔を向けてきた。
「ピースクラフト家の嫡子。それだけではないと思うが」
「買い被ってもらっては困る」
だがミリアルドはその言葉を意に介そうとはしなかった。
「私は只の軍人だ。それ以外の何者でもない」
「では軍人として生きていくのか」
「それ以外にあるまい」
彼は一言こう言った。
「今までの仮面の報いなのだからな」
「シャアとはまた違うな」
「ジオンの赤い彗星か」
「あの男も私の許を離れた」
「・・・・・・・・・」
「そして今貴殿も。私はどうやら男運は悪いらしい」
「それを苦としているのか」
「それが許される状況でもない」
笑ってこう返してきた。
「さっきも言ったが私はミネバ様の為、ジオンの為にいるのだからな」
「そして動いている、か」
「そういうことになる」
「そしてその障害となるものは全て取り除いていく、というわけか」
「それをわかっていて貴殿も袂を分かつのだろう」
「それも否定しない」
「ではな。行くがいい。トールギスは整備してある」
「用意がいいな」
「せめてもの餞別だ」
ハマーンは言った。
「ただし敵として会ったならばこちらも手加減はしない」
「それはお互い様だな。では」
「さらばだ」
こうして二人は別れた。赤い巨艦からトールギスが飛び立った。ハマーンはそれを一人艦橋から眺めていた。
「男運が悪い、か」
そして自嘲するようにして呟いた。
「そうかもな。だがもう言っても仕方がない」
「ハマーン様」
ここで後ろから声がした。
「どうした」
「ミネバ様が御呼びですが」
「ミネバ様が」
声は侍従のものであった。ミネバの侍従の一人である。
「少しお話されたいことがあるそうですが」
「わかった」
ジオンの主といってもまだ年端もいかぬ少女である。常に誰かいないと寂しいのだろう。そうした意味でもハマーンは彼女にとってなくてはならない存在であった。
「わかった、行こう」
ハマーンもそれはわかっていた。頷きそちらに脚を向けた。
そして艦橋から姿を消した。彼女の全てはミネバの為にあった。だからこそ行かねばならなかったのだ。
第五十一話 完
2005・10・29
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