スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇
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第四十六話 狂った錬金術士
第四十六話 狂った錬金術士
「チカ」
シュウはマサキ達との約束通り地上にいた。今は赤道上においてチカと共にいた。
ネオ=グランゾンに乗り込んでいる。その中から真下に広がる海を眺めていた。それは何処までも広がっていた。
「マサキ達は今頃どうしてるでしょうね」
「さあ」
チカはそれには首を横に振った。
「あんな奴が何処で何してようとあたしには関係ありませんから」
「おやおや」
「御主人様はどうしてあんなのをいつも気にかけていらっしゃるんです?全然取るに足らない奴じゃありませんか」
「貴女はそう思いますか」
「当たり前ですよ」
彼女はそう答えた。
「十を越える博士号を持っていて王族でしかもDCの大幹部だった御主人様がですよ。あんなのを相手にするなんて」
「手厳しいですね」
「それだけわからないんですよ、本当に」
彼女はまた言った。
「時間の無駄ですよ、相手にするだけ」
「私はそうは思いませんけれどね」
だが彼は自らのファミリアに対してそう言葉を返した。
「彼とは何か運命的なものを感じますしね」
「そうなんですか」
「はい」
そしてあらためて頷いた。
「マサキとサイバスターは地球を、いえ人類を守る大きな力となるでしょう」
「あんな方向音痴でですか」
「ええ。そんなものは問題にならない位にね。世界を守る風となるでしょう」
「風、ですか」
チカは風と聞いて考える顔をした。
「けれどあいつ一人じゃどうにもなりませんよ」
「確かにそうでしょうね」
それは認めた。
「しかし彼は一人ではありません。そう、一人では」
「ロンド=ベルですか」
「それだけではありませんよ。運命です」
「運命」
チカはそれを聞いてさらにわからなくなった。
「どういうことなんですか、本当に」
「わかりませんか」
「ええ。わかるように説明して下さい」
そして逆にそう言った。
「何かこんがらがるだけですから」
「風がさらに大きなものを持ち込んで来ます」
「マサキがですか」
「ラ=ギアスも収めてね。それからさらに動くでしょう」
「あの、もっとわからなくなってきたんですけど」
「おや、そうですか」
「はい。何か困るんですけど、ここまでわからないと」
「そうですか。仕方ありませんね」
「もっとわかり易くお願いしますよ」
「要するにマサキとサイバスターが世界を救う力の一つになるということです」
「それだけですか?」
「はい、それだけです」
シュウは言った。
「少なくともラ=ギアスでは動いてくれますよ。だから彼に行ってもらったのですよ」
「そうそう上手くいけばいいですよ」
「では私が判断ミスをするとでも」
「いや、そうじゃないですけれどね」
主はからかうように笑ったのを見て慌ててそう返す。
「けど。大丈夫ですかね」
「安心していいですよ。それより」
シュウは眼下の海を見下ろしながらまた言った。
「地球はまた騒がしくなりますよ」
「地球が!?」
「はい。また一人動こうとしています」
そう言いながら今度は上を見上げた。
「あの女が」
「ああ、彼女ですか」
シュウにはそれが誰であるのかすぐにわかった。
「予想通りですね」
「えっ、そうなんですか!?」
「はい。必ず動くと思っていました、彼女は」
「何とまあ」
チカはそれを聞いてまたもや驚いていた。
「何か御主人様の読みって凄いですね」
「大したことはありませんよ。彼女の性格を考えると当然のことです」
だが当人の態度は至ってしれっとしたものであった。
「これでまた一人新たな力が加わります」
「そうなります?」
「なりますよ」
懐疑的なチカにもそう答える。
「ですから安心していて下さいね。当面は」
「当面は、ですか」
「大切なのはこれからです。宇宙からある者が来ます」
「バルマーですか?」
「はい。そこに彼がいます」
そう言いながら上を見上げる。
「彼が。果たしてどうなるか」
その顔に何かが差し込んでいた。
「それが問題なのです。地球にとっても、私達にとっても」
シュウはそう言いながら空を見上げて続けていた。その空は彼が今まで見下ろしていた海のそれとは全く違う青を映し出していた。しかしその青は海のそれに勝るとも劣らぬ程美しいものであった。
ミケーネ帝国は恐竜帝国が崩壊した後はあまり大きな軍事行動を起こしてはいなかった。暗黒大将軍も七大将軍も前線にはあまり出ず、ミケーネの侵略はとりあえずは沈静化していると言えた。
それは邪魔大王国も同じであるように見えた。しかし彼等の姿は何時の間にかミケーネ帝国から消えてしまっていたのであった。
「ククル殿の居場所はまだわからぬか」
暗黒大将軍はミケーネの基地の奥深くで七大将軍達に対してそう問うていた。
「ハッ、残念ながら」
まずは超人将軍ユリシーザがそれに答える。
「地上にもおられませぬし。一体何処に行かれたのか」
「見当もつきませぬ」
ドレイドウもそれに続く。彼等はそれぞれククルの居場所を探していたのだ。
「そうか。困ったことだな」
暗黒大将軍はそれを聞いて溜息と共にこう言った。
「闇の帝王が復活されれば。我等は地上に対して全面的な攻撃に出るというのに」
「その為にあの者達も甦らせましたしな」
昆虫将軍スカラベスが口を開いた。
「抜かりなきように」
「あの者達にも働いてもらわなければならんしな」
「はい」
スカラベは暗黒大将軍に対して恭しく頭を垂れた。
「兜甲児にはあの者達をぶつけましょう。それが最も効果的でしょうから」
「兜甲児か。あの男にも我々は今までかなり煮え湯を飲まされておるな」
「だからこそです。あの男はあの者達に任せて我々は剣鉄也を」
「いや、待て」
しかし彼はその言葉には首を縦には振らなかった。
「!?何か」
「あの男はわしがやる」
「暗黒大将軍自らですか」
「そうだ。そうでなければあの男は倒せはせぬ」
彼は胸を張ってこう言った。
「だから任せておけ」
「わかりました」
ここで悪霊将軍ハーディアスが部屋に入って来た。まるで影の様にすうっと姿を現わした。
「ハーディアスか。どうした」
「ククル殿の居場所がわかりました」
「ほう。何処におられるのだ?」
「ラ=ギアスです。そこで邪魔大王国の手勢を引き連れて何かを為されようとしておられますが」
「そうだったのか」
「如何致しますか?御呼びしますか?」
「待て」
だが暗黒大将軍はそれをよしとしなかった。
「今は好きなようにさせておけ」
「宜しいのですか?」
「よい。今はな」
「はあ」
「それに上手くいけばラ=ギアスを占領できる。確かあの地にはロンド=ベルはいなかったな」
「以前はいたようですが」
彼等はロンド=ベルがシュウによりラ=ギアスに送られていることをまだ知らない。今ロンド=ベルは日本か何処かにいるとばかり思っているのである。
「そうか。ならよい」
「わかりました。それでは」
「うむ。ただし闇の帝王が甦られたならわかっているな」
「はい」
ハーディアスだけでなく他の将軍達もそれに応えた。
「その時こそ我等が地上を支配する時」
「ミケーネの手で」
「そなた等が兵を率いるのだ。よいな」
「ハッ」
暗黒大将軍を中心として彼等は話を続けていた。そして次の侵攻に備えるのであった。
ロンド=ベルはミケーネの予想に反してラ=ギアスにいた。そしてシュメルの家の近くで待機していたのであった。
「そのゼツって爺さんだけどよ」
トッドがウェンディにゼツについて尋ねていた。
「ショットとかとは全然違うみたいだな」
「ショット。ショット=ウェポンのことですね」
ウェンディはそれを受けてトッドにそう言葉を返した。
「ああ。あの旦那はああ見えても苦労人でな」
トッドは彼について述べはじめた。
「地上じゃからり苦労してきたんだ。それでバイストンウェルでやっと成功した」
「そうだったのですか」
「その苦労のせいか野心持っちまってああなったんだがな。けどそのゼツって爺さんは何か野心とかそんなのはねえみたいだな」
「そうですね」
ウェンディはそれに頷いた。
「確かに彼には権力欲や金銭欲といったものはありません。以前よりそうしたものには一切興味がありませんでした」
「やっぱりな」
「女性関係についても聞きませんしそういった面では問題はありません」
「ただ頭がおかしいだけか」
「結果としてそういうことになりますね」
「何かわかり易いわね」
トッドの横にいたマーベルがそれを聞いて呟いた。
「所謂マッドサイエンティストってやつだな」
「ショウ、古い言葉を知ってるわね」
「それ以外に適当な言葉を思い付かなかったんでね」
ショウはマーベルにそう返した。
「けれど間違ってはいないだろう?」
「そうですね」
ウェンディもそれを認めた。
「科学と錬金術の違いはありますが大体において同じです」
「じゃあゼツはその研究に狂ったということか」
「若い頃からそうした錬金術士の倫理には問題があったと聞いています」
「やっぱりな」
ショウはそれに頷いた。
「そして人を実験材料にしたのです。その脳を取り出して」
「いかれてやがるな」
「それで何をしたのですか?」
「そこからコンピューターを作ろうとしたのです。生体コンピューターを」
「そうしたものは案外あるのじゃないかしら」
マーベルはそれを聞いてふと呟いた。
「色々な方法はあるにしろ」
「そうですね。問題はそれが生きた人間のものを取り出したことであり、それで大量破壊兵器を作ろうとしたことなのです」
「だからか。ラングランを追放されたのは」
「はい。そして今も剣聖シュメルを狙っているようですが」
「どうせ碌なことじゃねえな」
「それにより彼が恐るべき兵器を開発したならばラングランにとって大きな災いになります。それだけは防がなくてはなりません」
「そうでなきゃここにまた来た意味はないか」
「そうね」
「シュウに言われた時は何でまた、なんて思っちまったけどな。こうなりゃ仕方がねえ」
「協力してくれますか」
「協力も何も仕方ねえだろ」
トッドはまた仕方ないという言葉を使った。だがその顔はそうした感じではなかった。
「戦友なんだからよ」
「戦友」
「そうよ。ウェンディさんもマサキ達も私達にとっては大切な戦友よ。それは変わらないわ」
マーベルも言った。
「俺は正直何か強制的な感じで反発もないわけじゃないけどな。それでもそれが聖戦士の務めならやってやるさ」
「ショウも」
「そういうことだ。ウェンディさんよ、安心しな」
「はい」
あらためてトッドに言われて頷いた。
「それでは宜しくお願いします」
「おう」
「宜しくね」
聖戦士達とウェンディはそんな話をして絆を固めていた。そしてマサキ達もマサキ達でそれぞれ話をしていた。
「シュメルっておっさんはそんなに強かったのかよ」
「知らなかったのか!?」
「ああ。今はじめて詳しく聞いたぜ」
マサキはファングにそう答えた。
「そんなに凄かったなんてよ」
「ゼオルート先生から何も聞いてはいなかったのか」
「生憎な。まだこっちにも慣れちゃいなかったしな」
「そうだったのか」
「おめえに言われたのが最初だな。詳しいことは」
「なら仕方がないか」
「だがそれにしてもどうかと思うがな」
ヤンロンがそれに付け加える。
「プレセアからは何も聞いてはいなかったのか」
「わたしもパパからはあまり聞いてはいないんです」
プレセアはヤンロンにそう答えた。
「パパおうちじゃお仕事のこととか全然話さなかったから。わたしもファングさんのお話聞いてびっくりしてます」
「そうだったか」
「あの人家じゃ冴えないおじさんだったからね」
ベッキーがここで言った。
「宮廷でもどこかぼんやりしてたし。伝説的な剣皇って言われてもどこかピンとこなかったよ」
「俺はそうではなかったがな」
だがアハマドは違っていた様である。
「あの気・・・・・・。明らかに只者ではなかった」
「そうなの」
「かなりの腕の持ち主だと思った。そしてその通りだった」
「アハマドはずっと戦いの中に生きてきたからね」
シモーヌが口元にうっすらとした笑みを浮かべてそう述べる。
「だからわかるんだろうね」
「何か私とは全然違いますね」
「どっちかっていうとデメクサに近かったね、普段は」
ベッキーはデメクサが口を開くとそう言った。
「そういえば似ておるな、雰囲気といい」
チェアンもそれに同意する。
「もっとも拙僧もあの御仁は最初は単なる貴族か何かかと思っておったが」
「チェアンはまた煩悩が強過ぎてわからなかったんじゃないの?」
「シモーヌ、言ってくれるな」
「あんたはね。まあそこがいいところなんだけれど」
「いいところなのかなあ、それって」
それを聞いて呆れずにはいられないプレセアであった。
「けれどあのシュメルって人も普段は静かな人みたいだね」
話が一段落したのも束の間ふとリューネがそう言った。
「絵なんか描いてさ。ちょっと見じゃ剣を使うなんてわからないよ」
「それでも昔はホンットに凄かったんだから」
セニアがそれに答える。
「その時あたしはまだほんの子供だったけれど。ゼオルートとの試合見て感激したわ」
「それで次の日から棒振り回したんだね」
「ウッ、何でそれ知ってるの?」
リューネに言われギクッとした顔になる。
「ウェンディさんから聞いたよ。それでテリウスの頭殴って泣かしたそうじゃない」
「子供の頃の話よ、それ」
「まああたしも子供の頃は結構暴れたからね、気持ちはわかるよ」
「そうそう、女の子が元気でなくちゃ」
「けどそれが姫さんだと問題だろ?」
マサキはそれを聞いてぼやいた。
「テリウスも災難だな」
「マサキ、何か言った!?」
「いや、何も。けどそんな人がゼツなんかの手に渡ったらマジでえらいことになるな」
「そうね。だから私達がここにいるのだし」
テュッティがそれに頷く。
「何とかしなくちゃ駄目よ。マサキ、それはわかってるわね」
「わかってるけどよ」
それでもマサキは何か言いたそうであった。
「何かあるの?」
「テュッティ、さっきから紅茶に角砂糖何個入れてるんだよ。もう十個だぜ」
「あら、それが普通よ」
「普通じゃねえだろ、そんなの」
「けれど美味しいわよ」
「美味いまずいの問題じゃなくてな」
とりあえずはシュメルに関する話は終わった。彼等は甘いものの話に転じた。そして夜になっていった。
ラ=ギアスの夜は地上の夜とは違う。太陽は昇ったり沈んだりするのではなく、出たり消えたりするのである。月もまた同じである。タダナオとオザワはそれを大空魔竜の下から見ていた。
「何か久し振りに見るとあらためて驚くな」
「ああ」
二人はそのラ=ギアスの夜空を眺めながら話をしていた。
「最初見た時はもっと驚いたものだが」
「御前もか」
「驚かない筈がないだろ?」
オザワはタダナオにそう言葉を返した。
「いきなりここに来てだ。それで太陽が昇ったり降りたりしないんだからな」
「それは俺もだ」
タダナオは相槌を打った。
「全くな。何て場所だと思ったよ」
「それで魔装機に乗せられてな。しかも僕と御前は敵同士だった」
「ほんの少し前のことなのにもうかなり昔のようだな」
「あの戦いもな。夢のようだった」
「それでそのシュテドニアスだがな」
「ああ」
「一体どうなったんだ?あれだけ派手に負けちゃ後がかなり大変だろう」
「強硬派は失脚したらしいな」
「まあそうだろうな」
「そして元々議会で主流を占めていた穏健派が中心になって国の建て直しにあたっている。ゾラウシャルドも落選したよ」
「あいつも失脚したのか。当然だな」
タダナオはそれに頷いた。
「シュテドニアスも選挙があるからな。戦争に負ければ当然だな」
「そうだな。しかしそれでロボトニー元帥が大統領になったのは意外だったな」
「ロボトニー元帥?ああ、あの人か」
名前を聞いてすぐには思い出せなかった。だがタダナオはそれに関して何も思わなかった。
「シュテドニアス軍の良識派で重鎮でもある」
「軍人だけれど軍事の知識だけじゃない。幅広い視野を持つ人だぜ」
「よく知ってるな」
「当たり前だろ」
彼はそう言って笑った。
「シュテドニアス軍にいたんだからな、僕は」
「そういやそうだったな」
「・・・・・・ってさっき話しただろうに」
「人間忘れることもあるさ」
「しょっちゅうだろうが、それは」
「まあ気にしない気にしない」
「連邦軍にた頃から全然変わってないな、本当に」
「そうそう急に変わったらかえって怖いだろ」
「それはそうだけれどな。しかし」
「しかし、何だ?」
「御前あのロザリーって娘どう思う?」
「何だ!?ホレたか!?」
「違うよ。生憎今一つタイプじゃなくてな」
「おやおや」
「赤い髪の女の子には昔ふられたことがあってな。それからどうも」
「ミレーヌちゃんはいいのかよ」
「あの娘はピンクだろ。また違うさ」
「どっちも似たようなもんだろうに」
「それが違うんだよ。それがわからないから御前は駄目なんだよ」
「どのみち俺は年下にはあまり興味がないけれどな。それでそのロザリーだがどうしたんだ?」
「おかしいと思わないか?何か」
「そう言われてもなあ」
タダナオはオザワのその言葉に首を傾げさせた。
「何処かどうおかしいのか。まずはそれを言ってくれよ」
「言わなくてもわかるのが本当のプレイボーイだと前言ってなかったか?」
「無茶言うな。いきなり言われてわかるか」
「どうやら本当のプレイボーイじゃないみたいだな」
「ごたくはいい。それでどうおかしいんだ?」
少し苛ついてそう言い返した。
「俺は特におかしいとは思わないけれどな」
「目だ」
オザワはそう言った。
「目!?」
「そうだ。彼女がシュメルさんを見る目だ。おかしいとは思わないか?」
「俺は別に」
腕を組み考えながらそう述べた。
「おかしいとは思わないけれどな」
「そうか。しかし僕は違う」
「どう違うんだよ」
「何かね、フィアンセと言ってる割には目の色が違うんだ」
「そうかねえ」
「普通押し掛けてまでフィアンセというからには愛している筈だよな」
「当然だろう?そんなこと」
今更何を言っているのかとさえ思った。
「恋愛小説や少女漫画の基本だぜ、それは」
「御前もそう思うか。だが彼女の目は違う」
「どう違うんだよ」
「何かな、憎しみを感じるんだ」
「憎しみ!?」
タダナオはそれを聞いてさらに首を傾げさせた。
「また訳のわからねえこと言うな、おい」
「どう訳がわからないんだ?」
オザワも反論してきた。
「あのな、押し掛けフィアンセだぞ。押し掛け」
「押し掛け押し掛けしつこいがまあいいだろう」
「それでどうして憎しみなんてあるんだ!?どう考えてもおかしいだろ」
「普通に考えればな」
「普通じゃないっていうのかよ」
「よく考えてみろ。ロザリーはバゴニアの人間だな」
「ああ」
タダナオはそれに頷いた。
「そう、バゴニアだ。ではゼツと関係があるとは考えないか?」
「まさか」
タダナオは首を横に振った。
「そんなこと有り得ねえだろうが」
「断言できるか?」
「うっ」
しかしオザワにそう言われかえって黙り込む羽目になってしまった。
「言えないだろう。スパイである可能性は否定できない」
「しかしな」
「一年戦争の時にホワイトベースに潜り込んだジオンの女スパイの話は知っているな」
「ああ、カイさんのあれか」
タダナオもその話は知っていた。カイが出会ったジオンのスパイのことである。彼女は弟や妹達を養う為にジオンに協力していたのだ。だがカイに見つかり身を引いた。一歩間違えれば彼女もカイも命を落としていたかも知れない危険な状況下において。
「けれどあれは」
「剣聖シュメル、事前に何か手を打たれていてもおかしくはない」
オザワは冷静にそう述べた。
「そうではないか」
「そりゃ軍隊では常識だけれどよ」
「可能性は大いにある否定はできないな」
「そうだが今回はそれではない」
「ゼンガーさん」
二人の前にゼンガーが姿を現わしてきた。闇夜の中に赤い軍服と銀の髪が浮かび上がる。
「どうしてここに」
「鍛錬を積んでいた」
彼は静かにそう言った。
「示現流は一日で極められはしない。剣の道はな」
「それでですか」
「それはそうと話は聞かせてもらった」
「はい」
「あのロザリーという娘がスパイかという疑念だな」
「ええ。ゼンガーさんはどう思われますか?」
オザワは彼にも尋ねてきた。
「そうじゃないですよね」
タダナオもであった。それぞれでゼンガーが答えることを願っている内容はそれぞれ違うが。
「そうだな」
彼はまず一テンポ置いてから言った。
「俺はそうではないと思う」
「やった」
「何故ですか!?」
それを聞いて喜ぶタダナオ。だがオザワはそれでも問うた。
「どうしてなんですか、教えて下さい」
「動きだ」
「動き!?」
オザワはそれを聞いて眉を動かせた。
「あの娘の動きは確かに剣の嗜みがある者の動きだ」
「はい」
「それもかなりの熟練の。若いが剣の腕は確かなようだ」
「けれどそれだけじゃ」
「それだけだった」
ゼンガーはまた言った。
「だがそこには軍人としての動きはなかった」
「軍人の」
「そうだ。このロンド=ベルにも民間人は多いな」
「ええ、まあ」
「かなりの割合で」
「彼等と軍人の動きは違う。訓練を受けているからな」
「訓練ですか」
「軍人は何事も訓練だ。それで戦いを身に着ける」
「まあ」
「その通りですね」
タダナオもオザワも軍人である。だからこそわかることであった。彼等も入隊からラ=ギアスに召還されるまでずっと訓練を受けてきた。それはもう骨身に染みついている。だからよくわかった。
「彼女にはそれがない。軍人の動きではなかった」
「けれど民間人のスパイじゃ」
「それにしては目の色が違う」
「目、ですか」
またそれについて触れられた。
「そう、彼女の目は探る目ではない。そこからも違うとわかる」
「じゃあ完全にフィアンセなんですね。いいことだ」
「だがそれもまた違う」
「っていいますと?」
「その目だがあれは憎しみの目だ」
「やはり」
オザワはその言葉に大きく頷いた。
「やっぱりゼンガーさんもそう思いますか」
「今までよく見てきた目だ。仇を見る目だ」
「仇を」
「詳しいことはまだわからないが。あれは決して愛しい者を見る目でないのは確かだ」
「そうなんですか」
「だからか、あの目は」
そうやら二人の言っていることはそれぞれ一面においては正解であって一面においては外れであったようだ。
「剣聖シュメル、決して他人から恨みを買うような者には見えないが」
ゼンガーは静かにそう言った。
「だが人というものはわからない。何処で恨みを買うのかはな」
「そうですね」
「けど。仇討ちだとすると厄介だな」
タダナオはポツリとそう言った。
「厄介なことになるな、ドロドロとしてて」
「ドロドロか」
「時代劇でもよくあるじゃねえか。父の仇、とかいってな」
「よく知ってるな」
「知ってるも何も時代劇つったらお決まりだからな。嫌でも知ってるさ」
「バゴニアも気懸りだ」
「それもありますしね。何かこの話思ったより厄介なものみたいですね」
「うむ」
ゼンガーは最後に頷いた。三人は闇夜の中最後までそう話をしていた。
翌日ロンド=ベルはシュメルの邸宅を中心として哨戒活動を行っていた。哨戒にあたるのは魔装機達であった。他のマシンと三隻の戦艦はシュメルの邸宅近辺で警戒にあたっていた。
「マサキ、今度は迷うんじゃないよ」
「チェッ、またそれかよ」
マサキはシモーヌにそう言われて顔を顰めさせた。二人はペアで哨戒にあたっていたのだ。
「いい加減俺を信用してくれよな」
「それは無理な相談だね」
しかしシモーヌは辛辣であった。
「あんたには前科があり過ぎるからね」
「そう言われるとまるで俺が犯罪者じゃねえか」
「少なくともこの件に関して信用がないのは本当だニャ」
「自覚してないところが凄いよな」
「御前等ちょっとは御主人様をフォローしようとは思わないのかよ」
影からひょっこりと出て来たクロとシロに対して言う。
「守ろうとかよ。それでもファミリアかよ」
「ファミリアだから言うんだよ」
「そうじゃなきゃ他に誰が言うんだよ」
「ちぇっ」
マサキはまたふてくされた。
「わかったよ。じゃあ大人しくシモーヌについて行くぜ」
「そうそう」
「それが一番だよ」
こうしてマサキとシモーヌは哨戒を続けた。だが二人は敵にはあたらなかった。幸か不幸かは別にして。
「こちらミオでぇ~~~す」
「はい」
ミオとプレシアのチームから連絡が入った。シーラがそれに出る。
「敵発見しました。そっちに向かってます」
「どれだけですか?」
「数にして二百。魔装機ばかりです」
「わかりました。それでは迎撃用意を整えます」
シーラは冷静にそう返した。
「お疲れ様です。それでは戻って下さい」
「わっかりましたあ。ところでうちのサモノハシが何か言いたいみたいなんですけれど」
「カモノハシがですか」
しかしそれを聞いても特に変わりはしない。シーラはいつものままであった。
「はい。女王様に新しい芸を披露したいって言ってます」
「芸?」
「はい。いいでしょうか」
「ちょっと師匠」
ここでジュン達が出て来た。
「最初に言うたらあきまへんがな」
「けれど言っておかないとお姫様驚いちゃうよ」
「それがええんですがな。お笑いは驚かせてナンボ」
「それにお姫様じゃなくて女王様やし」
ショージとチョーサクも出て来た。
「まあここはパッといかなあきまへんのや。戦争の前の景気付けに」
「そうそう」
「ではほまいきまっせ」
「わし等の新しい芸」
しかしそこでモニターは切られた。次にはプレシアが出て来た。
「とりあえずそっちに戻りますね」
「わかりました」
こうして三匹の新しい芸とは何であるのか結局はわからなかった。何はともあれロンド=ベルは迎撃態勢を整えるのであった。
ロンド=ベルが迎撃態勢を整え終わるとそこにバゴニア軍が来た。その先頭には何やら異様な魔装機があった。それが何なのかロンド=ベルにはよくわからなかった。
「変なのが先頭にいやがるな」
それに最初に気付いた甲児が言った。
「悪趣味なデザインだぜ。ドクター=ヘルに対抗できるな」
「ヒョヒョヒョ、誰じゃそれは」
するとその魔装機からしわがれた老人の声が聞こえてきた。
「わしのことではないようじゃが」
「あんた、一体何者なんだ?」
「まともな人間じゃないのはわかるが」
サンシローとリーがそれぞれ問うた。そして老人はそれに答えた。
「わしか?わしはゼツじゃ」
「来たのね」
ウェンディはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「遂に」
「おや、そこにいるのはウェンディじゃな」
ゼツの方も彼女の存在に気付いた。
「元気そうじゃな。どうやらいい女になったようじゃ」
「お久し振りです。博士」
ウェンディは内心はともかく表面上は冷静さを守ってそう応えた。
「お元気そうで何よりです」
「ヒョヒョヒョ、お互いな」
ゼツはそれに対して相変わらず笑ったままであった。
「御苦労なことじゃ。わざわざこんなところにまで」
「そして御用件は何でしょうか」
「いや、何でもない。貴様等ラングランに復讐するだけじゃ」
彼は何気なくそう言った。
「その為にそこにいるシュメルを貰い受けてやろう。さあさっさとどくがいい」
「おい爺さん」
そんな彼に宙が言った。
「何かあんたに一方的に有利な話だと思うんだがどうなんだ」
「それがどうしたというのじゃ?」
しかしゼツはそれに対しても平気であった。
「貴様等のことなんぞ知ったことではないわ。わしだけがよければな」
「何て奴だ」
ピートはそれを聞いて嫌悪感を露わにさせた。
「わしがラングランの愚か者共を成敗するのにシュメルが必要なのじゃ。さあさっさとどくがいい」
「どけと言われてそうそうどく奴なんかいないわよ」
マリアがそれに反論する。
「大体あんたみたいにいかにも危なそうなのの言うことなんか聞ける筈ないでしょ」
「何じゃとて?」
「あんたみたいなのはねえ、今まで飽きる程見てきたのよ。まんまマッドサイエンティストじゃない」
「見たまんまだな、おい」
甲児がそれに突っ込む。
「けどそうとしか思えないだわさ」
「あんたみたいなのがいるから世の中よくならないのよ。さっさと諦めて帰りなさいよ」
「帰れと言われてそう帰るわけにもいかんのう」
当然聞く筈もなかった。
「わしはそこにいるシュメルに用があるんじゃからのう、フォフォフォ」
「この・・・・・・」
「よせ、マリア」
飛び出そうとするマリアのドリルスペイザーを兄が止めた。
「兄さん」
「どうやら何を言っても無駄だ。話が通じる相手ではないらしい」
「じゃあ」
「そうだ。やるしかない。皆用意はいいか」
「と言われても最初からこうなるとはわかっていただろう」
神宮寺は大介にそう言葉を返す。
「全軍攻撃用意。シュメル氏をお守りするんだ」
「了解」
そして大文字の指示に頷く。
「じゃあまた派手にやってやるか」
「HAHAHA武蔵、ミーも一緒にいるってこと忘れでは駄目デーーーース」
「兄さんこそ調子に乗ったら駄目よ」
ロンド=ベルは展開した。そしてそこにバゴニア軍が突進する。戦いはバゴニア軍の攻撃からはじまった。
「死ねいっ!」
まずはゼツがビームを放つ。しかしそれはダイザーにあっけなくかわされてしまった。
「どうやら姿形の割りには大したことはないようだな」
大介はリブナニッカプラスの蠍に似た異様な外見を見ながらそう呟いた。
「だが油断するわけにはいかない。マリア」
「ええ、兄さん」
マリアはそれを受けて前に出た。そして宙を飛ぶ。
「合体ね」
「よし、ドリルスペイザーだ!」
ダイザーも空を飛んだ。そして合体する。こうしてグレンダイザーはドリルスペイザーとなりそのままバゴニア軍に向けて急降下する。
「行くぞ!」
そのまま眼下にいる敵に攻撃を仕掛けた。
「ドリルミサイル!」
そしてミサイルを放つ。それによりまずはバゴニア軍の魔装機を一機撃墜する。
それから地中に潜る。飛び出ると同時に真上にいた敵を貫く。
「ドリルアタック!」
「やったわね兄さん!」
変幻自在の動きであった。空中と地中から攻撃を次々に放ち敵を屠る。バゴニア軍が動揺しだしたところで後ろから新たな敵が姿を現わした。
「どうやら間に合ったみたいだな」
それはマサキ達であった。敵を発見した後でこちらに向かっていたのだ。そして今戦場に姿を現わしたのである。
「一気に行くぜ、皆」
「いや、待て」
はやるマサキをゲンナジーが止める。
「どうしたんだ?」
「ミオがいない。何処に行ったのかわからないが」
「あれっ、ついさっきまでここにいましたよ」
デメクサがおっとりした声でそう言う。
「けれどいませんね。おかしいなあ」
「見ればプレシアもいないな」
ファングはプレシアにも気付いた。
「これは一体どういうことなんだ」
「ああ、大体わかったよ」
しかしベッキーにはその事情がわかったようであった。声をあげる。
「わかったって何がだよ」
「二人はね、下にいるよ」
「下に!?」
「そうさ。心配無用だよ」
そう言いながら前に出る。そしてバスターキャノンを放った。それで敵の魔装機を一機撃破した。
「だからね、どんどん行けばいいからね」
「けどよ」
「マサキ、迷うなんてあんたらしくないわよ」
シモーヌがまたマサキをからかうようにして言う。
「今は前に出る。それとも怖いの?坊や」
「俺は坊やじゃねえ!っていうかその言い方は止めろ!」
「それじゃあ前に出る。いいね」
「ちぇっ、わかったよ」
「ふふふ」
マサキの操縦は手馴れたものであった。こうしてサイバスターも前に出る。そしてサイフラッシュを放とうとしたその時であった。
「ん!?」
突如としてその眼前に何かが姿を現わした。地中からであった。
「レゾナンスクエイク!」
それはザムジードであった。ミオは出現と同時にレゾナンスクエイクを放ってきたのだ。
「うわっ!」
マサキは慌てて身を退いた。レゾナンスクエイクは敵も味方も巻き込むかなり派手な攻撃なのである。
サイバスターはそれを間一髪でかわすことができた。しかしバゴニア軍はそうはいかなかった。彼等はその攻撃によりかなりのダメージを受けてしまっていたのだ。
「今度はプレシアの番よ」
「はい」
そして次にはプレシアのディアブロが姿を現わした。どうやらこの二機は最初からこれを狙っていたらしい。すぐに攻撃に移った。それによりバゴニア軍がまた撃破された。
「よし、上手くいったね」
「はい」
「師匠お見事!」
「流石でんなあ!」
「ピーピー!」
二人は顔を見合わせて喜ぶ。三匹のカモノハシ達がその周りではしゃいでいる。だがそんな彼女達にマサキが声をかけてきた。
「流石じゃねえ、今までそうやって隠れてたのかよ」
「あ、お兄ちゃん」
「どうマサキ、上手くいったでしょ」
「上手くいったも何もいきなりレゾナンスクエイクぶっ放つなんてどういうつもりだ!こっちまでやられるところだったろうが!」
「仕方ないじゃない。そういう攻撃なんだから」
しかしミオはしれっとしたものであった。
「それによけてるし。結果オーライってことで」
「それで済むと思ってんのかよ!大体そんなことやる前に俺達に断りを入れておきやがれ!」
「意味ないじゃない、それじゃあ」
「何!?」
「兵とは軌道なり、って言うでしょ。騙すのはまず味方から」
「確かにその通りだな」
そこにやって来たヤンロンがそれに頷く。
「ミオも戦いがわかっているな」
「ヤンロン、手前」
「まあここはマサキの負けだよ。二人のおかげでかなりこっちに有利になってるし」
「リューネ」
「それよりも敵の真っ只中だよ。それわかってる?」
「おっと、いけね」
マサキは我に返った。そしてそこに来た敵を切りつけた。
「魔装剣アストラル斬り!」
両断した。袈裟切りにされた敵はパイロットが命からがら脱出した直後に爆発した。だが敵は一機ではなかった。
「チッ、まだいるのかよ!」
「マサキ、そこにいるのか!」
「ショウ!」
オーラバトラー達が敵を切り伏せながらこちらにやって来た。
「どうやら無事みたいだな」
「ああ、何とかな」
ショウにそう返す。
「ちょっと危ないっていやあ危なかったけれどな」
そう言ってミオをチラリと見るが当然ながら本人は意には介していない。
「そうか。だがもう大丈夫だ」
「敵はまだまだ多いけれどな。俺達もいるしな」
トッドがそう述べて不敵に笑っていた。
「ああ、それじゃあ頼りにさせてもらうぜ」
「ああ」」
「任せておいて」
マーベルも言った。オーラーバトラー達は舞い上がってそのまま敵を倒していく。その剣はまるで敵を斬れば斬る程その斬れ味を増していくようであった。
「何かあちらさんは凄いことになってるわね」
レミーがそんなオーラバトラー達を見ながら楽しそうに声をあげた。
「まるで時代劇みたい。群がる敵を次から次に」
「荒木又右衛門みたいだな、こりゃ」
「キリー、よくそんなの知っているな」
「この前深夜放送で見たのさ。案外楽しいな」
「一人身は夜寂しいからね」
「へっ、それはお互い様だろレミー」
「あら、言ってくれるわね」
「戦士ってやつは孤独なのさ」
「そういうわりにはいつも一緒にいるけれどね」
「野暮なことは言いっこなし」
「それはそうとして目の前にいる敵を何とかしないとな」
「あら」
「おいおい、忘れてたとか言うなよ」
「よりどりみどりだったから。どれを相手にしようか考えてたら」
「それでどれを相手にするんだ?」
「ここは何か大物を狙いたいわね」
「じゃあ決まりだな」
真吾はそう言ってゼツの乗るリブナニッカプラスを指差した。
「あれをやろう」
「ボスキャラをやっちゃうのね」
「それじゃあ何を使うかはもう決まっているな」
「ああ。それじゃあ行くぞ」
「了解」
「いっちょ派手にいきますか」
「よし!」
ゴーショーグンは構えに入った。そしてその全身を緑の光が包む。
「ゴーーーーフラッシャーーーーーーーーッ!」
そして数本の光の矢を背中から放った。それはそれぞれ一直線にゼツに向かって行った。
「おう!?」
反応が遅れた。どうやらゼツはパイロットとして腕はそれ程ではないらしい。彼が気付いた時にはもうゴーフラッシャーの直撃を受けてしまっていた。
「ウゴゴ・・・・・・」
「何かドンピシャって感じかしら」
「こんなに見事に当たるのってそうそうないよな」
「しかし何か今までとは違うな」
「というと?」
「いや、今までよりもビムラーのパワーが上がっている気がするんだ」
真吾はゴーフラッシャーの感触を思い出しながらそう言った。
「何かな、今までよりレベルアップしている」
「つまり強くなったってこと?ビムラーが」
「ああ、どうやらそうらしい。その証拠に敵さんのダメージも半端じゃない」
「そう言われれば」
「何かいつもより三割増し派手にやられてるな」
「ヒョヒョヒョ、どうやら今日のところは引き上げてやる時じゃな」
「けれど全然懲りてないわね」
「負けたとは思っていないみたいだぜ、奴さん」
「それはまあいいさ。どっちにしろあの爺さんは今回は退くしかないさ」
「冷静ね、真吾」
「ここは格好よくクールって言ってくれよ」
「そう言われるようになるまでドジでなかったらね」
「運がよくなきゃな、ヒーローってのは」
「随分言ってくれるな」
「愛情表現よ」
「仲間へのな」
「そう言えば許してもらえるわけじゃないぞ」
「まあまあ」
「気にしない気にしない」
そんなやりとりの間にゼツは戦線から離脱していた。部下のことは知ったことではなかった。
「しかしこれでシュメルが今何処にいるかはわかったわい。後は・・・・・・」
笑っていた。狂気が露になった笑みであった。
「お楽しみじゃな。ヒョヒョヒョヒョヒョ」
不気味な笑い声を撒き散らしながら姿を消した。それを見てバゴニア軍も撤退するのであった。
「何か呆気なく行っちゃいましたね」
ザッシュがそんな彼等を見送ってそう呟いた。
「意外とあっさりしていますね。話を聞いただけだとどんなにしつこいかと思っていたのに」
「おそらくこれで諦めたりはしないだろう」
アハマドはザッシュに対してこう述べた。
「また来る。覚悟めされよ」
「はい」
「もっとも連中の行動パターンはわかり易いけれどな」
「そうなんですか」
ザッシュは今度はマサキに顔を向けた。
「こっちにしか来ねえだろ。シュメルの旦那が狙いなんだからな」
「そうですね」
「とりあえずは守ってりゃいいさ。何か俺の性に合わねえけれどな」
「マサキもやっと戦いというものがわかってきたようだな」
「へっ、お世辞はいらねえぜ」
アハマドにそう返す。
「だがまだほんの少しだけだ」
「それが本音かよ」
「戦いというものは奥が深い。それは覚えておくといい」
何はともあれ戦いは終わった。ロンド=ベルはそれぞれ戦艦に帰投し休息に入ることにした。しかしそこでフェイルから通信が入った。
「殿下から?」
「一体何だろうね」
そんな話をしながらそれぞれの艦橋のモニターに集まる。そしてモニターに姿を現わしているフェイルに注目した。
「よく集まってくれた」
フェイルはまず一同に対してそう述べた。
「どうやら頑張ってくれているようだな。本当に何よりだ」
「まあこっちはそれ程敵も多くありませんしね」
それに万丈が答えた。
「作戦も今までのとは比べて楽ですし。心配はいりません」
「そうなのか」
「それより大変なのはそちらでは?確かバゴニアの主力と戦闘中でしたよね」
「いや、実はそうでもない」
だがフェイルはそれを否定した。
「といいますと」
「我が軍の主力とバゴニア軍の主力は国境を挟んで対峙したままだ。どうやら敵は積極的に攻撃に出るつもりはないらしい」
「そうなのですか」
「そして士気も奮わないようだ。目の前にいる彼等からは積極的に戦おうという意志は見られない」
「バゴニアも実はそれ程ラングランと戦うつもりはないということでしょうか」
「おそらくは。どうやら本気で我が国と戦おうと考えているのはゼツだけらしい」
「彼だけ」
「だが彼もそれはよくわかっている。政府や軍の上層部を洗脳しているらしい」
「それでですか」
「何て酷いことを」
リムルがそれを聞いて顔を顰めさせた。
「だから戦い自体は続いている。対峙したままとはいえな」
「それじゃああの爺さんをやっつけちまえばいいんだな」
豹馬があっけらかんとした調子でそう言った。
「それで万事解決なんじゃねえの?」
「アホ、そんな簡単に話がいくかい」
「全く。それで戦争が終わったら苦労しないわ」
「いえ、案外豹馬さんの言う通りかもしれませんよ」
豹馬の言葉に呆れた十三とちずるだったがそんな二人に対して小介が言った。
「どういうことでごわすか、小介どん」
「今バゴニアは実質的にゼツ博士の独裁体制になっていますね」
「その通りだ」
フェイルはそれに頷いた。
「今バゴニアはゼツの私物といってもいい状況だ。全てが彼の思うがままだ」
「けれどそれは僕達にとって狙い目なのです」
「爺さん一人やっつけりゃいいだけだからな」
「豹馬さんの言う通りです。それで我々は勝てます」
「けどそんなに上手くいくもんかいな」
「ユーゼスみたいに影でコソコソやられたら厄介よ」
「いえ、それはないと思います」
小介はまた二人の仮説を否定した。
「それはどうしてなの?」
「彼はさっきも前線に出て来ましたし。どうやら自分の手でシュメル氏を捕らえたいようです」
「そうなんかい」
「はい。ですから僕達は彼が前線に出て来たところをやればいいです。それで全てが終わります」
「それやったら楽やな」
十三は考えながらそう述べた。
「あの爺さんはパイロットとしてはそれ程やないからな」
「はい」
「そこを狙うか。それで万事解決だぜ」
「豹馬、それで全部終わりじゃないわよ」
「あれっ、そうなのか?」
「まだヴォルクルスってのがいるし。油断はできないわよ」
「そうか。じゃあ気を引き締めていくか」
「そうそう。しっかりしてよ、貴方リーダーなんだから」
「わかってるよ」
「もっとしっかりしてくれないと困るのよ」
「だからわかってるって言ってるだろ」
「わかってなさそうだから言ってるのよ。大体貴方はいつも・・・・・・」
そしていつもの口喧嘩になった。間に十三と大作が入る。そして止めるのであった。
「そして殿下」
今度は大文字がフェイルに語りかけてきた。
「はい」
「今回の御用件は。戦局をお伝えに来られただけでしょうか」
「いえ、実はそれだけではなくて」
「何でしょうか」
「援軍をそちらに送らせてもらおうと思いまして」
「援軍を」
「はい。こちらは戦力が足りていますし。それでそちらの助けになるかと思いまして」
「ふむ」
「如何でしょうか。宜しければすぐにでも送らせて頂きますが」
「有り難いですな、それは」
彼はそう言って頷いた。
「そしてその援軍とは」
「今からそちらに送らせて頂きます」
フェイルはそう答えた。
「頼りになると思いますよ。二人と魔装機達です」
「ほう」
「期待しておいて下さい。宜しいでしょうか」
「わかりました。それでは」
「はい。そしてモニカ、セニア」
「はい」
「何、兄さん」
フェイルは話が終わったのを見計らって妹達に声をかけてきた。二人もそれに応えた。
「どうやら元気そうだね。何よりだ」
「御愁傷様で」
「モニカ、それ意味違うわよ」
「あら、そうでしたの?」
「おかげ様で、でしょ。大変な間違いよ」
「そうでしたの。それではお疲れ様で」
「・・・・・・もういいわ」
「どうやらモニカも変わりないようだな」
「そうね。けれど兄さんも元気そうじゃない」
「そうでもないけれどね」
「えっ、無理とかしてない!?」
セニアはそう言われて少し不安になった。
「あまり無理しちゃ駄目よ。カークス将軍もいるんだし」
「戦いの方はそれ程でもないのだけれどね。ただ」
「ただ?」
「御前達のことが心配でね。クリストフのところに行ったテリウスのことといい」
「知ってたの」
「テリウスは元気にしているのだろうね」
「とりあえず元気みたいよ。あんまり影響を受けていないみたいだし」
「そうなのか」
「結構気が合ってるみたいよ。今は地上で二人でいるわ」
「本当でしたらあたくしがいる筈でしたのね」
「おめえはまたいたら何するかわかんねえんだよ」
マサキがハンカチを口に噛んで悔しそうにするサフィーネに対して言った。
「只でさえ危ないのによ」
「御言葉ね、坊や」
「実績があり過ぎるんだよ、ちょっとはまともにやれよ」
「どうやら坊やにはあたくしの高貴な趣味は理解出来ないようですわね」
「理解できなくてもいいってんだよ、そんなの」
「何だったら今度部屋に来てみる?」
「お断りだね」
「あらあら」
「セニアにはいいものを届けられると思う」
「何かしら」
「それはすぐにわかる。期待しておいてくれ」
「何かよくわからないけれどわかったわ」
セニアは言われるがままに頷いた。
「それじゃあ楽しみに待ってるわね」
「うん。ところで地上はどうだった」
「地上?」
「そうだ。かなり大変だったようだが」
「まあね。けれど楽しかったわよ」
「楽しかったのか」
「あちこち行けたし。色んな人に会えたしね」
「何か凄い人もいるけれど」
「それって誰のこと!?」
ポツリと呟いたシンジにアスカがくってかかる。
「あたしのことじゃないでしょうね」
「アスカって凄い人だったの?」
「えっ、違うの!?」
「凄いっていうのはつまり」
そう言いながら横目でドモン達を見る。
「常識を超える人達のことなんだけれど」
「あのね、あたしは人間を対象にしてるのだけれど」
「タケルさん達はいいの?」
「超能力はね。それにバルマー星人もあたし達も一緒でしょ」
「うん」
「今ここにはいないけれどダバさんやミリアさんも。それはいいのよ」
「そうなんだ」
「けれどあからさまに人間じゃないのは論外なの。何処の世界に素手で使徒やっつける人がいるのよ」
「何かそれにやけにこだわってない?前から」
「ニュータイプや聖戦士って問題じゃないでしょ。あんなの見たことも聞いたこともないわよ」
「あら、それはアスカの経験が足りないだけよ」
「ミサトさん」
見ればミサトが姿を現わした。
「あれ位普通よ」
「そうなんですか」
「世の中にはね、秘孔を突いたりコスモを感じたりする人がいるんだから」
「何か言ったか?」
「俺が呼ばれたような気がするんだが」
竜馬と宙がやって来た。
「あら、噂をすれば」
「言っておくが俺は北斗神拳は知らないぞ」
「俺は魔球も知らないぞ」
「何かよく知ってますね」
「それは言わない約束よ、シンジ君」
「そう言うミサトも色々と過去があるじゃない」
「ギクッ」
リツコに言われ顔を崩す。
「セーラー服はもう卒業したのかしら」
「そんなのはどうでもいいでしょ。大体私だけじゃないし」
「僕も何か記憶があるなあ」
「タキシードを着たアムロ中佐とね」
「何かそれって全然似合いそうもないですね」
「若しくは宙君とか」
「俺はそんなの着ないぞ」
「わかってるわよ。大体私の歳でセーラー服着たらおかしいでしょ」
「確かに」
「異様だな」
竜馬と宙がそれに頷く。
「とにかくね、セーラー服はもう十年も前に卒業したのよ。今はこのネルフの制服よ」
「そうなんですか」
「そうよ。これって案外動き易くて気に入ってるのよ」
「ミサトには赤も似合うしね」
「わかってるじゃない、リツコ」
「長い付き合いだからね。私には黒と白よ」
「何で黒なの?白はわかるけれど」
ミサトはリツコの白衣を見てそう言った。
「クロちゃんとシロちゃんよ」
「ああ、成程」
「あの子達がいるとね。やっぱり違うわ」
「リツコって猫好きだもんね」
「ええ。何かね、落ち着くの」
「犬はどうなんですか?」
「犬も好きよ」
「そうなんですか」
シンジの問いに答える。
「全体的に動物は好きなのよ。昔からね」
「けれど飼ってはいないわよね」
「部屋がなくてね。この戦いが終わったらペットも飼えるマンションに引っ越したいのだけど」
「まあ頑張りなさい」
ミサトとリツコはそうした軽いやりとりを続けていた。フェイルの通信も終わった。こうしてシュメルを巡る戦いはまたロンド=ベルの勝利に終わった。だがそれで戦いは終わりではなかった。敵も彼等だけではなかった。
「イキマよ」
暗闇の中から女の声が聞こえてきた。
「ハッ」
それに従いイキマが闇の中から姿を現わした。
「用意はできておろうな」
「既に」
イキマは畏まってそれに頷いた。
「後はククル様の御言葉だけです」
「うむ。ならばよい」
それに応えるかのようにククルが闇の中から姿を現わした。
「アマソとミマシはどうしているか」
「二人も同じです」
「そうか。では後はわらわの声だけだな」
「如何為されますか」
「そうじゃの。そろそろ動くか」
彼女はにやりと笑ってそう述べた。
「時が来た。よいな」
「はっ」
「このラ=ギアス、来るのははじめてだが」
「中々壊しがいのある場所のようですな」
「それは違う」
だがククルはイキマのその言葉を否定した。
「といいますと」
「わらわはここには興味はない。あるのはあの者達だけだ」
「ロンド=ベル」
「左様。特にあの男にな」
その脳裏に銀髪の髪の男の顔が浮かんだ。
「マガルガの恨み、ここで晴らしてくれる」
赤い目に憎悪の炎が宿る。だがそれはすぐに消された。
「ククル様」
そこにアマソとミマシも来たのである。三人はククルの前で並んで畏まった。
「来たか」
「はい。御命令を」
「わかった。では行くがいい」
「はっ」
「ただしあの男はわらわが相手をする。手出し無用ぞ」
「わかっております。それでは」
「うむ」
三人は姿を消した。後にはククルだけが残った。
「わらわも行かねばば」
そう言いながら奥へ消えた。そして玄室に入るとその服を脱いだ。白い裸身が姿を現わす。それはまるでギリシア彫刻の様に整っていた。幻の様に美しかった。
髪も解く。銀色の髪がその裸身を覆う。そのまま玄室の向こうにある扉を開けた。そこは巨大な浴室であった。
その浴室にある浴槽に身体を浸す。そしてその中で一人思索に耽っていた。
「ゼンガー=ゾンボルト」
彼女はあの男の名を呟いた。
「今度こそ必ずやぬしの首を討つ」
その脳裏で首を断ち切られるゼンガーの姿が思い浮かんでいた。
「覚悟しておれ」
彼女は戦いに赴く為にその身を清めていた。それはそのまま戦いへの決意であった。ゼンガーに対する憎しみの表われでもあった。
第四十六話 完
2005・9・24
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