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最期の祈り(Fate/Zero)

作者:歪んだ光
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凶宴のとき……中 (改訂)

 
前書き
少し修正しました。 

 
「ねえ、もう終わりなの?」
最後に幾つか、申し訳程度の花火が空に散った後、僕は父にそう尋ねた。
「そうだよ。日本のお祭りはね、派手な代わりに短いんだ」
「何か勿体無いな……」
子供心ながらにそんなことを思った。
「そうだね……でも、だからこそ綺麗なんだろう」
今なら解るかもしれない。
「美しいものも、やがては醜く朽ち逝く……美しいままに儚く消えるのが一番いいのかもしれない」
魔術師としては失格だけどね、と照れたように続けた。
確かにそうかもしれない。どんな好物だって食べ続ければ嫌いになる……そんな側面も含んでいるのだろう。
「安心してくれ。父さんの研究は後少しで形になる。お前を不幸にはしない」
……あぁ、それでも
「しかし、最後に日本の祭りをお前に見せられて良かった。これまで父親らしい事は何一つしてやれなかったからな……」
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僕は父さんとずっと一緒にいたかった。
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「さあ、ここを出よう切嗣。次の家は、アリマゴ島だ」
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酷く懐かしい夢を見た。たった一度だけ、父さんに手をひかれて行った夏祭り。小さな田舎の夏祭り。屋台も両手の指で数えられる程しかなく、花火も三十発にも満たない。それでも楽しかった。物心ついて初めて父と遊んだ記憶。
いつからだろう……その思い出が僕を苛み始めたのは。
――――――――――――――――――――――――
カーニバル2日 pm5.00
目が覚めた。
「……父さん」
つい先程まで見ていた夢を反芻し、思わず目尻に手をやる。
「……大丈夫だ。未だ壊れていない」
たかが夢ごときで泣くわけにはいかない。今まで蔑ろにしてきた命のためにも……
「それに、涙なんて……」
人の死を悼んで泣いたのは、あれが最後だ。
もしもの話を考えてしまう。
――もし、僕が父と一緒に逃げていたら――
――もし、犠牲を許容しナタリアの生還を願ったら――
――もし……アイリを選んで、幸せを受け入れられたら――
「……やめよう」
幾ら思ったところで、失われた者は帰ってこない。
うっ……
ふいに、隣から啜り泣く音が聞こえた。
「シャルロット……」
見ると、彼女は何かにすがり付くように寝ていた。ある筈の無いモノを、絶対に壊さないように優しく、でも強く抱き締めるように泣いていた。
その様が余りにも儚げだったから、つい近くに椅子を持ってきて……頭を撫でようとして、その手を止めてしまった。 ――今ここで、彼女の涙を止めたとしてなんになるのか――
自分がどういう人間かは良く知っている。嘗て、愛した家族でさえ天秤に載せてしまった自分に「たった一人」を守れるのか……
「僕に……そんな資格は、無い……!」
どれほど楽だったか……あの時、たった二人の喜びを探せたなら……
どれほど楽だろうか……この手が、彼女の涙を止めるだけに使われたのなら……
いや、それすらも建前に過ぎない。答えは単純、怖いのだ。幸せを手にし、いつか失われる瞬間が……恐ろしくてたまらないのだ。故に、あの日を境に切嗣は何も持たない機械になった。舞弥も自分を正常に稼働させる部品として扱い、衛宮切嗣は「人」であることを止めた。……彼女と出会うまでは。
「……切嗣」
寝言であろう、彼女の発した意図しない呟きが衛宮切嗣を大きく狂わせた。嘗て、「魔術師殺し」を衛宮切嗣に正常に破壊したように……
その瞬間、彼が何を想い、何に葛藤し、何を決意したかは解らない。ただ、衛宮切嗣の手は……
「シャルロット」
彼女の頭の上におかれた。
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夢を見た。思い出したくもない、嫌な夢を。
母さんが死に、僕がデュノアに引き取られる場面。
それが何回もリピートする夢。
はじめの内は、泣き叫ぶ事が出来た。それが繰り返す内に……泣くことすら出来なくなった。夢を見ているというより、見せられているという方が正しいだろう。
母さんが死ぬ、次の瞬間、もう見慣れてしまった場所に居た。
「母さん……!」
また、自分の居場所が失われる瞬間、耐えきれず母に抱きついた。それは冷たく……嫌がおうにも彼女の死を実感させられた。
「逝かないで……お願いだから」
しかし、その温もりは戻ることなく……母の体は薄らいでいった。
「い、嫌だ……」
どれほどしっかりつかんでも崩壊は覆らず、やがて
「あ……ああ」
いつもの場所に居た。
「もう嫌だ……」
涙が枯れきった後、嘆きの言葉が紡がれた。
「……助けてよ」
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―― 切嗣 ――
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突然、光が現れた。どこから溢れたかは解らないが……それは小さく、頼り無いながらも、優しい光だった。
不意に悟る。
――大丈夫だ……この光さえあれば、まだ歩ける――
リピートは止まない。現実も変わらない。そこまで、この光は強くない。けれど、彼女の道を照らすには十分すぎるほど明るく……柔らかかった。

――――――――――――――――――――――――
pm6.00
「う、うん……」
目が覚めた。
(カーニバル2日目か……)
何であんな夢を見てしまったのだろう。きっと、祭りの後の寂寥感のせいだ。
(これが、日本の祭り……切嗣の故郷の……)
そこではたと思い当たる。
「切嗣……」
まだ寝ているのかなと思い、少し顔を左に傾ける。
その時、ドサッという音がして頭から何かが落ちた。切嗣の手だ。
見ると、こちらを伺うように椅子に座って眠っていた。
(多分僕が魘されていたから、ついていてくれたのかな)
そう考えると、何だかこそばゆい気持ちになった。
だけど、そんな気持ちに長く浸っている事は出来なかった。不意に、彼の腕の辺りが白い光に包まれ出したのだ。みると、腕に付けているアクセサリーが光を放っていた。
(これは……切嗣のISかな?)
寝惚け頭で呑気に考える……次の瞬間、唐突に光は止み
「え……?」
代わりに、人が浮いていた。
「……綺麗」
ありえない現実を見て、一番最初にでる感想がこれというのは自分でもおかしいと思う。でも、そんな考えしか残さない程、その人は綺麗だった。
薄く……淡く光り、流れるような銀色の髪に、純白のドレス。紅い宝石のような瞳を際立たせる、白い肌。そんな女性がそこに居た。
その女の人は、一つ寂しげに微笑むと、切嗣の頭を優しく抱いた。まるで子供をあやすかのように……
時間にして僅か五秒程の事だった。でも、それは一秒を世界の果てまで伸ばしたように感じられるほど、神秘的な光景だった。
優しい抱擁を終えた後、その人は僕を正面から見据え、頭を下げた。
「この人を、お願いします」
「え、あの」
混乱する脳をおいてきぼりにして、その女性は話を続けた。
「この人は弱いから、支えてあげて下さい」
「あ、あの貴女は」
漸く脳が状況に追いついた瞬間、しかしその人は消えてしまった。まるで最初から居なかったかのように……
薄暗さが戻った後、静寂が空間を支配した。
不思議とさっきの光景が異常とは思えなかった。あたかも、その女の人の抱擁は日常のひとこまとすら錯覚してしまう程に、あの瞬間違和感を感じることすら無かった。
……ただ、そこに胸に何か鋭いものを刺されたような感覚だけを除いて。
「少しだけ……僕も……」
あの女の人がしたように切嗣を抱き締めたい、そんな欲求にかられ、直ぐに白旗を上げた。
ベッドから体を起こし、ゆっくり彼の傍に寄る。
さっきから、心臓の音がうるさい。切嗣を起こしたらどうするんだ。理不尽な難癖を心臓につけ、恐る恐る彼の頭に手を回す。
ギュッと、離さないようにしっかり胸の位置で抱える。
「はぁ……」
冷たさが布一枚を隔てて伝わる。
もう少し、このままで……
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pm11.30
現在シャルロットは真っ赤になった顔を俯け、切嗣と若干距離を空けながら町を歩いていた。

以下、シャルロットの心情から抜粋。
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結論だけ書く。
失敗した
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
切嗣の抱き心地が思いの外良く、三十分以上抱き締めていたら流石に起きてしまった。僕がその時の状況を冷静に分析し終わった頃には、切嗣の目はばっちり開かれていた。もし、過去にメールを遅れるなら、こんな結末を変えたい。抱くにしても20分程度にしておけと。

その後の、気まずさはお察しの通り。二人とも目が合わせられないでいた。……何だかんだで、一緒に祭りに行っている辺り、関係は良好を通り越しているのだが……
まぁ、実際さっきから二人は歩いているだけなのだが……
side 切嗣

気まずい……
朝の一件依頼、どうもシャルロットと目が合わせられていない。いや、気まずいというより罪悪感の方が大きい。
(アイリに隠れて浮気をしているような感じだ)
舞弥の時とは大分状況が違う。彼女との関係はアイリも知っていたし、少なくとも心から愛しているのはアイリだとお互いに解っていた。だが、今の状況は……
もう生きてはいないとはいえ、さっきの行為は彼女に隠れて浮気をしているようなものだ。

……一応、補足すると彼に下心は無かったと言っていい。彼女の不遇を嘆き、その涙を拭き取ったのは事実だ。だが、そこから嘗ての愛を踏みにじるつもりは一切無かった。
最も、ここまで彼が特定の個人に肩入れする理由は本当に限られているのだが……その理由に彼が気付くのはいつになることか。
切嗣が気まずさと罪悪感に苛まされていたとき
くぅ~
間抜けな音がした。つい、音源の方を見てしまった。
「あ……」
そこには、顔を真っ赤にしたシャルロットがいた。
(そう言えば……もうお昼時かな)
お互い朝食は殆ど食べれず終いだった。そろそろ腹が空っぽになってもおかしくは無い。
「何か屋台で買おうか?」
「い、いや、これはその……!」
顔を真っ赤にして、手をパタパタふり、お腹がなった事を誤魔化そうとするシャルロット。
「いや、実は僕もお腹が空いていてね。良ければそろそろお昼にしないか?」
「う、うん」
しかし、切嗣の譲歩に折れて恥ずかしそうに手を下ろした。
「とりあえず、何か買ってくるからここで待っていて」
告げると、足早に屋台に向かって行く。
side シャルロット
「優しいな」
自然と口から言葉が漏れる。
理由は、言わずがもがな。
(それにしても、疲れたな)
何せ二時間ずっと歩きっぱなしだったのだ。幾ら鍛えているとはいえ、流石に足が痛い。
「切嗣には悪いけど、少し……」
丁度近くにベンチがあったので、腰を下ろす。
「ふぅ……」
「暇そうだな嬢ちゃん」
「ひゃう!?」
一息着いた瞬間、急に後ろから声がかかり、つい変な悲鳴が漏れてしまった。
振り返ると、そこにはアロハシャツを着た、何故か全身青タイツが似合いそうな蒼い髪の男の人がいた。
「え、あ、貴方は……?」
「ん、俺か?まぁ、ランサーとでも呼んでくれや。それより」
ランサーと名乗ったその男の人は、僕の正面に回り込むと顔を近づけてきた。
「暇なら俺と遊ばねーか?」
「や、あの……切嗣……」
少し怖くて上手く喋れない。
「ん?その反応もしかしているのか、これが?」
そう言うとランサーさんは小指を立てた。
小指って、もしかして……//

「ははーん、その反応……」
恐らく真っ赤になっているだろう僕の顔をニヤニヤしながら見ると、ランサーさんはあっさり身を引いた。
「やめだやめだ。惚れた男がいるならさっきの話は無しだ」
……あれ?見た目よりは悪い人じゃないのかな。
「ま、おもしれー反応見せて貰ったしそれで良しとしとくか。じゃあな嬢ちゃん」
何の未練も感じさせないような軽やかさで踵を返し、彼は曲がり角の方に向かっていった。そして、後ろ手にサムズアップをし
「幸運を祈ってるぜ」
.
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御輿に轢かれた……
.
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.
「……へ?」
ワッショイワッショイという妙にアクセント位置のおかしい掛け声がやたら平和で怖かった。
時間にして一分間。お神輿のラッシュが過ぎるまで痛々しい悲鳴が響き渡った。

「ら、ランサーが死んだ」
『この人でなし!!』
「だ、誰!?」
思わず呟いた言葉にどこからともなく答えが返ってきた。
「ぐ……」
「あ、ランサーさん!」
見るとランサーさんは、息も絶え絶えと言った風に片膝をつき立ち上がろうとしていた。
「この程度でくたばれるんならよ、オレは英雄なんぞなってねぇくぺ!?」
「あ、犬に噛まれた」
何か格好いい台詞を喋ろうとした瞬間、犬に噛まれていた。
「お待たせ、シャルロット……って何かあったのかい?」
「あ、切嗣。うん、ちょっとね。生の儚さについて考えさせられて……」
これが諸行無常か……
「そ、そうか。まぁ、はいこれ」
苦笑いを浮かべながら、発泡スチロールのケースを渡された。
「たこ焼きって言うんだ。此方は焼きそば……」
……うん、今はお祭りを楽しもう。人の生は限られているんだ。
「切嗣、次は何をして遊ぼうか」
「そうだね、次は……」
幸運な事に、シャルロットからはさっきまで感じていた気まずさは消え去っていた。
ランサーの死によって……
 
 

 
後書き
駄目だ、収まりきらん…… 
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