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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第四十三話 月の異変

                  第四十三話 月の異変
 ネオ=ジオンによるコロニー落としはロンド=ベルにより防がれた。しかし地球の危機はまだ去ってはおらず月に本拠地を置くギガノスのマスドライバーがまだ地球を狙っていた。ロンド=ベルはそれも防がなくてはならなかったのだ。
「マスドライバーはジャブローに照準を合わせているようです」
 ルリがロンド=ベルの主立った者達を集めた作戦会議室においてそう述べた。
「ジャブローをか」
「はい。それも軍事施設ばかりピンポイントで狙っているようです」
「ジオンみてえに無差別攻撃はしねえんだな」
 ケーンがそれを聞いて一言こう言った。
「随分面倒なやり方をするな、ギガノスは」
「それがギルトール元帥のやり方だ」
 グローバルがそれに答えた。
「あの人は地球を無差別に攻撃したりはしない」
「それは何故です?」
 フォッカーがそれに尋ねた。
「あの人は理想主義者なのだ。人間にしろ優秀な者だけがいればいい」
 それは危険思想とも言えるものではあるが。
「そして地球は美しいままで留めておきたいのだ。少なくともあの人はそう考えている」
「ギレン=ザビやジャミトフ=ハイマンとは違うということですね」
「うむ」
 アムロの言葉に頷いた。
「そういうことだ。独裁者ではあるだろうが根本で違う。彼は無差別攻撃を好んだりはしない」
「そうなのですか」
「だからといって危険な人物であることには変わりはありませんね」
 ここでブライトが口を挟む形で入ってきた。
「少なくとも彼が選民思想を持つ独裁者であることには変わりがありませんから」
「それは否定しない」
 グローバルはそれを認めた。
「そうした意味でギレン=ザビやジャミトフ=ハイマンと同じだ」
「それもかなり優秀な」
「何か独裁者ってのは優秀な奴ばかりなんだな」
 ジュドーはそれを聞いて首を傾げさせた。
「そうじゃなきゃ駄目なのかね」
「独裁者というのはある意味神だ」
 クワトロがそれに答えた。
「神ならば絶大な力を持っているのは当然だろう。違うだろうか」
「じゃあアムロ中佐やクワトロ大尉なんかもそうなりますね」
「むっ」
 それを聞いたアムロとクワトロの顔色が一変した。
「ジュドー」
 まずはアムロが口を開いた。
「生憎俺は一軍人に過ぎない。そんな能力はとてもない」
「そうなんですか」
「私もだ。私も所詮は一パイロットだ。独裁者になぞなれる力量なぞはない」
「・・・・・・・・・」
 だがアムロとブライトはそれに対しては疑念を覚えていた。しかしそれは決して口には出さない。
「神といっても色々な神がある。独裁者は出来ることならこの世には存在しない方がいい神だ」
「そんなもんですかね」
「それもわかるようになる。歳をとればな」
「ヤングにはわからない話ってやつですね」
「まあそうだな」
「ウッソにもわからねえか」
「何で僕に話を振るんですか」
「いや、ここで一番若いからな」
「女の子には一番不自由してねえみたいだけどな」
「ケーンさんまでそんな」
「こらこら二人共」
 そんな二人をライトが窘める。
「子供をからかっちゃいけないぜ」
「そういう御前はどうなんだよ」
「んっ、俺がどうした」
「ローズさんとだよ。進展あったのか?」
「残念ながら」
「そりゃどういうことだ?」
「ベン軍曹とお付き合いしているようで。まあ俺にはミレーヌちゃんがいるし」
「っていうかアイドルかよ」
「何か空しいな、おい」
 タップも話に入ってきた。いつもの面々である。
「まあ俺にはどうも大人のお付き合いってのは合わないみたいでね。それよりも年下の娘の方が」
「そんなもんかね」
「ミレーヌちゃんつってもここに来たらそんなに子供じゃないと思うけれどな」
「まあ来る筈がないから」
「バサラ君は来て欲しいけれどね」
「おおっ」
 意外なことにアヤが話に参戦してきた。
「彼みたいにワイルドなのがいたら面白いと思わないかしら」
「いや、ワイルドなら獣機戦隊がもういますけれど」
「藤原中尉達も格好いいけれど」
「おっ、コバヤシ大尉は見る目があるじゃねえか」
「おかげさまで」
 忍の言葉に頷いてみせる。
「藤原中尉みたいに破天荒なのでそれで歌も歌えるなんて人がいたらいいのだけれど」
「俺歌も歌えるぜ」
「そういうのじゃなくて」
「アヤさんが欲しいのは歌手なんですよね」
「御名答、恵子ちゃん」
「ファイアーボンバーって格好いいですから。あの熱気バサラの派手派手なヴォーカルがいいですよね」
「そうそう、あの歌い方ってついつい真似しちゃうのよね」
 アヤはかなり乗ってきた。
「俺の歌を聴けーーーーーーーって」
「私学校で真似してたんですよ」
「私はカラオケで。本当に病みつきになるわよね」
「はい!」
「ああした音楽って戦争に案外重要だし」
「そうなのか?」
 コウはそれを聞いて首を捻った。
「俺はあまり意識したことはないけれど」
「いえ、これが案外重要なのよ」
「ん、ニナ!?」
 違った。ミスティだった。
「残念だけど違うわ」
「あ、御免」
「コウ、私はこっちよ」
 見れば隣の席にいた。ふてくされた顔になっていた。
「何で間違えるのよ」
「いやあ、何か声が似ているから」
「よく言われるわ、それ。確かに似てるけれど」
「私もよ」
 ミスティもそれに同意した。
「マリーメイアちゃんにも似てるって言われたことがあるし」
「銀河の中央に行っちゃったカズミちゃんにもね。私達に声が似てる人って多いみたいね」
「そうみたいね。あとブライト艦長にアムちゃんなんかも」
「まあ声のことは置いておこう」
 アムロがそれを中断させた。
「俺もそんなことを言ったら宙と声が似ているしな」
「アムロ中佐の場合そっくりだよね」
「特徴あり過ぎよね」
 エルとルーがヒソヒソと話をしていた。
「だから止めておこう。キリがない」
「わかりました」
「それでマスドライバーのことですが」
「はい、ルリルリ」
 ハルミが皆をルリに注目させた。
「何かしら」
「まだ射撃できる状況にはないですが間も無く全ての準備が整うと思われます」
「そうか」
「それは報告通りだな」
「はい。そしてギガノスは我々が来ることを予想して月に防衛ラインを敷いております。既にかなりの数のメタルアーマーが展開しております」
「そしてそれを指揮するのはギガノスの蒼き鷹、か」
「あの旦那も忙しいことだな」
「ケーン、あの旦那は御前に任せたぜ」
「俺かよ」
「そうさ、御前以外に誰が相手をするんだよ」
「できれば三人で相手をされた方がいいです」
 ルリはドラグナーチームの三人に対してそう述べた。
「三人で」
「それはまた慎重な」
「プラート大尉の力量は確かです。おそらくアムロ中佐やフォッカー少佐にも匹敵するでしょう」
「まあそうだろうな」
 ケーンはそれを認めた。
「あの旦那は半端じゃねえ」
「だからこそです。プラート大尉が来たならば三人で対処して下さい。宜しいですね」
「了解」
「まあ絶対来るだろうな、それがヒーローものの掟ってやつだし」
「タップが何時の間にヒーローになったんだよ」
「昨日からさ」
「へっ、よく言うぜ」
「マスドライバーの防衛ラインですが」
 ルリの話は続く。ドラグナーチームの馬鹿話をよそに。
「月面上空に第一次ラインが敷かれております。そしてマスドライバーの側に第二次ラインが」
「二重か」
「はい」
「ネオ=ジオンと同じだな。堅固なことだ」
「それは予想されたことです。ただ、予想外のこともありました」
「ギガノス内部の対立だな」
 シナプスが述べた。
「はい。これは最初想定していませんでしたが」
「この作戦にも影響してくるかもな」
「既に高級将校と若手の将校の間で対立が生じております」
 ルリの報告は淡々としたものであった。だからこそ真実味があった。
「この防衛ラインにおいても考え方の相違があったようです」
「それはどんなのですか?」
 ユリカが問うた。
「積極的に攻撃を仕掛けようという若手将校と防衛に務めるべしであるという高級将校の間でかなり衝突があったようです。ギルトール元帥が高級将校達の案を取り入れることで話は収まったようですが」
「そうか」
「他にはそれで何か見るべきものは」
「高級将校の中でも過激派がいる模様です」
「過激派が」
「ギルトール元帥のマスドライバーの使用自体に対する考えに異論を述べる者達がいるようです」
「何か複雑だな、ギガノスも」
 リュウセイはそれを聞いてぼやいた。
「独裁国家だともっと単純なものかと思ってたが違うんだな」
「まあそんなものだ」
 ライがリュウセイにそう述べた。
「人間がいればそれだけ派閥が生じる」
「独裁者がいてもか」
「その独裁者の寵を得たいのもいる。そして互いに争う」
「へえ」
「中には独裁者自体になりたいのもいるだろうしな」
「要するに自分がお山の大将になりたいってわけか」
「簡単に言うとそうなる」
「何かどっかのガキの喧嘩みてえな話だな」
「人間の世界ってのはあまり変わらないものだから」
 アヤが二人に対してそう述べた。
「何処でも大なり小なり同じよ」
「それでその過激派とは」
「ドルチェノフ中佐がその中心にいるようです」
 ルリはブライトの問いに答えた。
「ドルチェノフ中佐」
 それを聞いた連邦軍にいたメンバーの多くが顔を顰めさせた。
「あいつか」
「そういえばギガノスにいたんだったな」
「何か有名人みてえだな」
 勝平はそれを見て呟いた。
「何かとんでもねえ野郎みてえだけど。どんな奴なんだ?」
「一言で言うと最低な奴だ」
 ビルギットは吐き捨てるようにそう言った。
「傲慢で底意地が悪くてな。それでいて無能だ」
「何か凄い御仁みたいだな」
 ライはそれを聞いて呆れたような言葉を漏らした。
「あんな奴がギガノスのいるだけでギガノスにとってマイナスになるぜ」
「だとすると今後のギガノスが楽しみだな」
「何でだよ」
「そのドルチェノフが何かしでかす可能性があるということだ。敵の勢力が衰えるのならばそれにこしたことはない」
「そんなもんかね」
 リュウセイはそうしたことには疎かった。
「俺はどっちかって言うと全力で戦いたいんだがな」
「それはわかるがこれは戦争だ」
 だがライはそれよりも戦争全体を見据えていた。
「敵の衰退はこちらの勝利に直結するからな」
「戦って勝つだけじゃねえのかよ」
「それもわかってくる。今は無理でもな」
「あまりわかりたくもねえなあ」
「嫌でもわかるようにるさ。嫌でもな」
 思わせぶりな言葉であった。ロンド=ベルはそのまま月に向かっていた。

 その頃月ではルリやライが予想した通り内部において衝突が起こっていた。若手将校と高級将校達の対立である。若手将校達はマイヨの前に殺到していた。無機質な基地の中で激しい喧騒が起こっていた。
「大尉殿、これ以上待ってはいられません!」
 若い将校の一人が叫んでいた。
「このままではギガノスはその理想を失います!」
「これも全て無能な将軍達のせいです!」
「人事の刷新を!」
「そしてギガノスの理念の再生を!」
「待て!」
 マイヨは彼等に対して一言そう言った。
「今ここで御前達が騒ぎを起こして何になるというのだ!」
 彼は将校達を見回しながらそう述べた。
「ギガノスはまだその戦いをはじめたばかり。そこで亀裂を起こして何になるというのだ!」
「しかし!」
 それでも彼等は引かなかった。
「このままではギガノスは腐敗してしまいます!」
「ギルトール閣下はどう御考えなのでしょうか!」
「閣下の行われることに今まで過ちがあったとでもいうのか!?」
「そ、それは・・・・・・」
 それを言われると沈黙せざるを得なかった。
「ありません」
「そうだろう。ではここは閣下の御考えに従え」
「はい」
 マイヨにギルトールの名を出されては頷くしかなかった。
「わかったな。それぞれの責務を果たせ。そして本当の意味で腐敗しきった地球連邦に勝利を収めるのだ」
「わかりました」
「ティターンズ、そしてネオ=ジオンもいる。我々の敵は一つではない」
 彼等は月にいた。従ってその敵もまた宇宙にいる者達だけであったのだ。
「わかったな。戦いはまだこれからだ」
「はい」
「軽挙妄動は慎め。さもないと御前達のせいでギガノスは敗北する」
「我々のせいで・・・・・・」
「そうだ。そうした愚かな結果にならない為にも」
 マイヨは最後にこう言った。
「自身の責務にのみ専念するのだ。よいな」
「わかりました」
 こうして騒ぎは何とか収束した。そして若手将校達は別れてそれぞれの場所に帰った。しかしそれを見届けるマイヨの顔は晴れはしなかった。
「困ったことだ」
 彼はこれからのギガノスについて憂いていた。最早若手将校達の不満は彼が宥めても限界が見られるようになっていた。それに対して高級将校達は彼等を鎮圧する機会を窺っている。不穏な空気がギガノスを支配しようとしていることは他ならぬ彼が最もわかっていることであったのだ。
「あの者達の言うことも最もだ」
 内心ではそう思っていた。彼も高級将校達の腐敗には気付いていた。そしてそれを苦々しく思っていたのだ。特にある男のことを。
「ドルチェノフの様な輩は。除かなくてはならない」
 そう思っていた。しかしそれは出来ない。少なくとも彼には。それができるのはギガノスにおいては一人しかいなかったのだ。
「プラート大尉」
 ここで一人の若い兵士が彼に声をかけてきた。
「何だ」
「ギルトール閣下が御呼びですが」
「閣下が」
 それを聞いて丁度いいと思った。直接話をしたいと思っていたところであったのだ。
「すぐに執務室に来て欲しいとのことですが」
「わかった。すぐに行こう」
 それに答えるとすぐにギルトールの執務室に向かった。そして部屋の前でまずはノックをした。
「入れ」 
 一言そう声がした。それに従い入ると質素な部屋の中に彼がいた。ギガノスの総司令官であり国家元首でもあるギルトールである。
「よく来てくれたな」
「閣下の御呼びとあらば」
 マイヨはギガノスの敬礼をしながらそれに応えた。
「何処にいようとも」
「うむ」
 ギルトールはそれを聞き頼もしそうに頷いた。
「話があってな」
「若手将校達のことでしょうか」
「やはりわかっていたか」
 ギルトールはそれを聞き席を立った。そして窓の外を見た。そこには月の荒涼たる大地と銀河、そして青い地球が映っていた。
「閣下、御言葉ですが」
「言いたいことはわかっておる」
 ギルトールは重い声でそう言った。
「それでは」
「だがそれはできぬ」
「何故ですか、彼等の言っていることはギガノスを真剣に思って・・・・・・」
「マイヨ」
 ギルトールは彼に顔を向けてきた。
「はい」
「わしも彼等の気持ちはわからぬでもない。いや!」
 自分の言葉を否定した。
「わかり過ぎている程わかる。だがな」
「それでも駄目なのでしょうか」
 マイヨは問うた。
「腐敗した上層部の刷新は」
「それは確かに重要だ」
 ギルトールはそれも認めた。
「我々は地球連邦やティターンズなどとは違う。理想によってのみ立っている」
「ならば」
「この戦いには勝たなければならないな」
「はい」
 ギルトールはここでマイヨの機先を制するようにして言った。
「だがその後はどうなるか」
「その後ですか」
「問題は勝利の後だ。戦いの後の地球、そして選ばれた人類の当地と管理には老練な将軍達の力が必要なのだ」
「では彼等の言う通りに鎮圧を!?」
 マイヨの心に戦慄が走った。
「それも愚だ」
 しかしギルトールはそれもよしとはしなかった。
「勝利するには、そして将来のギガノスの為に若き者達も必要だ」
 彼は全てわかっていた。だからこそ悩んでいたのだ。
「武力による解決はならん。彼等のどちらも失ってはギガノスは崩壊する」
「・・・・・・・・・」
「将軍達はわしが止める。何としてもな」
「はい」
「マイヨ、御前は若い者達を頼む。さもなければギガノスは破滅してしまうだろう」
「わかりました」
 やはりギルトールは優れた指導者であった。全てがわかっていた。そして彼はギルトールであった。ギレン=ザビでもジャミトフ=ハイマンでもなかったのだ。
 彼は再び窓の外に目をやった。そして地球を見る。
「美しいな」
「はい」
 マイヨもそれに同意した。
「美しい星だ、地球は。だからこそ正しい者によってこそ治められなければならん」
「その通りです」
「だが・・・・・・あまりにも美し過ぎる」
 彼は一言漏らした。
「地球を見ていると思うのだ。わしは重大な過ちを犯してはいないだろうか」
「過ちを」
「そうだ。あの地球を。攻撃してもいいものだろうか」
「腐敗した者達への粛清ならば」
「最低限の攻撃はな。今まではそう考えていた」
 彼は地球を見据えていた。その青い輝きの前に全てを見ているようであった。
「だが・・・・・・。それは違うのではないか。わしはマスドライバーなぞ作らせてはならなかったのではないか」
「閣下、御言葉ですが」
 マイヨがそれに対して言おうとする。
「あれは腐敗した無能な者達に対する正義の裁きの為です」
「そうだったな。わしも今まではそう思っていた」
「ならば」
「だが・・・・・・あの青い光を見ていると心が揺らぐのだ。使用してはならぬではないかと」
「限定的ならば問題はないのではないでしょうか」
「そう思うか」
「はい」
 マイヨはそれに頷いた。
「全面使用には反対なのだな」
「それでは地球を汚すだけです」
 それはマイヨも反対であった。
「美しい地球を・・・・・・。それでは我等の理念はどうなるでしょうか」
「そうだ。だが急進派の中ではそれをわしに強硬に求めている者もいる」
「ドルチェノフ中佐でしょうか」
「そうだ」
 マイヨはそれを聞いてやはり、と思った。彼こそが今の高級将校の腐敗の中心であり、若手将校の粛清も目論んでいる者達の領袖であったのだ。同じギガノスにいながらマイヨとは決して相容れない存在であったのだ。
「それだけはならん。わかるな」
「はい」
「ならばよい。御前は若い者達をまとめよ。わしは上層部を何とかする」
「わかりました」
「人類の為に・・・・・・。頼むぞ」
「ハッ」
 マイヨは返礼して退室した。とりあえずは安心した。だが騒動が長く続くこともわかっていた。だからこそ完全には安心してはいなかった。
「これから・・・・・・どうなるか」
 それを思うと不安である。だが今はそれを心の中だけに留めることにした。戦いも目前に迫ろうとしていたからである。彼はそのまま港に向かった。
「出撃準備はできているか」
「はい」
 整備将校がそれに応えた。
「全機すぐにでも出撃が可能です」
「わかった。ではすぐに第一次防衛ラインに向かうぞ」
「すぐにですか」
「そうだ。敵は待ってはくれぬ」
 彼は簡潔にそう述べた。
「先んずれば人を制す、だ。いいな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
「御気をつけて」
「ここを頼むぞ」
「はい」
 こうして彼はファルゲン=マッフに乗り込んだ。そしてそのまま宇宙へと飛び立った。

 ロンド=ベルとギガノスの戦いがはじまろうとしていることはティターンズからも確認されていた。それを遠くから見る一人の男がいた。
 彼は巨大な宇宙船にいた。それは戦艦ではなかった。木星のヘリウムガス運搬の為に建造された巨大輸送船ジュピトリスであった。今そこに白い軍服を着た紫の髪の切れ長い目の男がいた。ティターンズの将校の一人であるパプテマス=シロッコである。かってはバルマーにいたがバルマー敗北後木星に戻りそこでティターンズに加わったのである。ティターンズにおいては宇宙のモビルスーツ部隊の指揮を任されている。彼は艦橋で部下からの報告を受けていた。
「そうか、いよいよか」
 彼はロンド=ベルとギガノスの動きを聞いてその目を動かせた。
「思ったより早いな」
「まさかコロニー落としを阻止した後ですぐにマスドライバーに向かうとは思いませんでした」
 報告をした部下がそれに応える。
「相変わらずの動きの速さというところでしょうか」
「それだけ彼等に時間的な余裕がないということにもなる」
 シロッコはそれに応えるようにして言った。
「ギガノスは本気でマスドライバーを使用しようとしているのだからな」
「はい」
「ならば当然だろう。だが敵は手強いぞ」
「マイヨ=プラート大尉ですか」
「そうだ。果たして彼に勝てるかな」
「そこまではわかりませんが」
 部下は返答に困りながらもそう述べた。
「ただ、この戦いは我が軍にも影響が出ると思われますが」
「それはわかっている」
 シロッコはそれに頷いた。
「ロンド=ベルが勝ってもギガノスが勝ってもな」
「ではどうされますか」
「今は静観していていい」
 しかしシロッコは動こうとはしなかった。
「よいな。静観だ」
「わかりました」
「趨勢ははっきりしてからでもいい。それに今はネオ=ジオンの動きも気になる」
「彼等は今コロニー落としの失敗とその際の損害の多さで暫くは動けないと思いますが」
「ハマーン=カーンを侮るな。あの女はその程度のことは予測済みの筈だ」
「左様ですか」
「そうだ。この時に何かを仕掛けて来る可能性が高い。油断するな」
「わかりました」
「差し当たってはこのセダンの門の守りをさらに固めるぞ」
「はっ」
「ポセイダル軍もいることだしな。バルマーもいずれ来るだろう」
「そういえば彼等はまだポセイダル軍を派遣してきただけですな」
「あの者達はまだこちらには来てはいないがな」
「はい」
「だが油断してはならない。あのギワザという男も狸だろう」
「狸ですか」
「器は大きくはないだろうがな。だが小者は小者なりに動くもの」
「ですな」
「油断してはならないということだ」
「わかりました」
「ジャミトフ閣下から御言葉があれば伝えてくれ。バスク大佐のものだ」
 シロッコはそう言い残すと踵を返した。
「どちらに行かれるのですか?」
「少しやることを思い出してな」
 薄い笑いを浮かべながらそう答えた。
「それではな。後を頼む」
「わかりました」
 シロッコは艦橋を降りるとそのまま廊下を進み格納庫に向かった。そしてそこに置かれているモビルスーツ達を悠然と見上げていた。
「ジ=Oもかなり修復が進んだな」
「はい」
 傍らにいるジュピトリスの技術将校の一人がそれに頷いた。

「あと暫くでまた戦場に送り出せるようになると思いますが」
「それは何よりだ」
「やはり大尉が乗られるのですね」
「いや、私はもうこれに乗るつもりはない」
「何故ですか?」
 技術将校はそれを聞いて驚きの声をあげた。
「ジ=Oは大尉のものではなかったのですか」
「最早ジ=Oでは足らないのだ」
 彼は素っ気無くそう答えた。
「より上のものが必要だ」
「左様ですか」
 将校は一呼吸置いてからまた問うた。
「ではジ=Oはどうされるのですか?」
「メッサーラと同じようにすればいい」
「ではジェリド大尉に」
「そうだ。彼も何かと大変だろうからな」
 笑いながらそう述べた。
「私からのささやかな贈り物とだけ伝えてくれ。いいな」
「わかりました」
「彼なら無難に乗りこなせるだろう。だが私はそれより上に進む」
「上とは」
「それもわかることだ」
「はあ」
「それよりも他のモビルスーツの開発も順調なようだな」
「ええ、まあ」
「ボリノーク=サマーンもパラス=アテネもな」
「どちらも間も無く実戦配備可能と思われますが」
「それについて話がしたい。サラ=ザビアロフ少尉とレコア=ロンド中尉はいるか」
「今それぞれ自室で待機中だと思われますが」
「すぐに呼んでくれ。いいな」
「わかりました」
 こうしてピンクの髪の小柄な少女と茶髪の女が格納庫に呼ばれた。それぞれティターンズの軍服を着ている。ピンクの髪の少女がサラ、茶色の髪の女がレコアであった。なおレコアはかってエゥーゴにいたことがある。紆余曲折を経て今はこのティターンズに身を置いている。
「よく来てくれた、二人共」
「パプテマス様、何の御用件でしょうか」
「実は二人に渡したいものがあってな」
「渡したいもの」
「そうだ。あれだ」
 シロッコはレコアに応え格納庫の後方を指差した。そこには二機のモビルスーツが置かれていた。
「ボリノーク=サマーンとパラス=アテネだ」
「あれが」
「今後戦いの際にはあれに乗って戦ってもらいたいのだ。いいか」
「喜んで」
 まずはサラが頷いた。
「パプテマス様の御命令なら」
「そうか。ではレコア中尉、君はどうなのだ」
「私も搭乗させて頂きます」
 レコアは強い声でそう答えた。
「それがこれからの世界の為ならば」
「そう。これからの世界は今までとは違う」
 シロッコは静かにそう述べた。
「いつも私が言っていることだが」
「はい」
「これからの世界はニュータイプの女性が指導する社会になるのだ」
「ニュータイプの女性が」
「そうだ。その為にもやってもらわなければならないのだ。出来るか」
「勿論です」
 サラは少し上気して言った。
「これからの世界の為にも」
「レコアは」
「私もです」
「そうか」
 だがシロッコはそこにサラとは違う醒めたものを感じていた。しかし今はそれを口には出さなかった。
「では頼むぞ。期待している」
「はい」
「わかりました」
 やはりレコアの声は醒めていた。だがシロッコはそれを置いておいたままそのまま格納庫を後にした。サラとレコアだけが残る形となった。
「サラ」
 レコアが年少の部下に声をかけてきた。
「貴女は何に乗りたいのかしら」
「私ですか」
「ええ。まずは貴女が選んで」
「中尉は宜しいのですか?」
「私は便利屋だから」
 うっすらと微笑んだ。大人の女の笑みであった。
「どんなのでも大抵乗れるからね。前からそうだったし」
「わかりました。それじゃ」
 サラはそれを受けてモビルスーツを見回した。
「私はボリノーク=サマーンを」
「じゃあ私はパラス=アテネね」
 いささか事務的な声となっていた。
「それでいいわね」
「はい」
「それじゃあまた宜しくね。どうやらパラス=アテネの方が装備はあるみたいだけれど」
「それは対艦を意識して設計、開発されたそうです」
 ここで先程の技術将校が言った。
「対艦」
「はい。敵の戦艦を攻撃する為に。だから装備も重厚なものになったというのがシロッコ大尉の御言葉です」
「そうだったの」
「ボリノーク=サマーンはそれとは変わって偵察用です」
「偵察用」
「機動力を重視しているそうです。ただ、武装はそれなりにありますが」
「戦闘も可能なのね」
「はい」
「ならいいわ。私はスピードがある方が好きだから」
「丁度よかったわね」
「はい。レコア中尉はそれで宜しいのですね」
「だから言ったでしょ。便利屋だって」
 そう言ってまた笑った。
「気にしなくていいからね」
「わかりました。それじゃ」
「ええ」
 サラは早速ボリノーク=サマーンのコクピットに乗り込んだ。そして色々と見回している。だがレコアは格納庫でパラス=アテネを眺めているだけであった。
「これでまたカミーユの前に出ることになるのね」
 かっては弟のような存在であった。だが今はそれについても何とも思わなくなってしまっていた。
「不思議なものね、人間なんて」
 今度はふっきれた笑みであった。
「寂しくなくなったらどうでもいいのかしら」
 カミーユにはフォウがいる。ファもいればエマもいる。かっては自分も側にいたのだが。その時は彼女はあるものを求めていた。しかしそれは手に入らず今こうしてティターンズにいる。
「カミーユの相手が務まるかどうかはわからないけれど戦場には行かないとね」
「レコア中尉」
 ここでまた御呼びがかかった。
「何かしら」
「サラ少尉が御呼びです」
「今度は一体何の御用?」
「ちょっと操縦について御聞きしたいことがあるそうですが」
「わかったわ。今行くわ」
 彼女はボリノーク=サマーンのコクピットに向かった。そしてサラに色々と話をする。ジュピトリスにおけるささやかな一場面であった。

 ロンド=ベルはいよいよ月に接近しようとしていた。だがここで補充のパイロットが到着していた。
「はじめまして」
 それは女性であった。まだ少女と言ってもいい年齢であった。
「ヒルデ=シュバイカーです」
 彼女は敬礼して自身の名を名乗った。
「階級は少尉であります」
「そうか、これから宜しくな」
 グローバルは彼女に対して鷹揚に言葉を返した。
「かってはOZにいたそうだが」
「はい」
 彼女はそれに頷いた。
「その関係で今搭乗している機体もオズのものです」
「一体何かね?」
「ヴァイエイトです」
「ヴァイエイトか」
「はい。それなら今後の戦いでも問題ないと思いますが」
「そうだな。では宜しく頼む」
「わかりました」
「配属はヒイロ=ユイとノイン大尉の小隊でいいな。付き合いもあるだろうから」
「喜んで」
「うん。配属がスムーズに決まって何よりだ」
 こうしてヒルデがロンド=ベルに補充された。彼女はすぐにアルビオンに入った。
「暫く振りだな」
「お久し振りです、ノイン特尉」
「おい、その階級ではもうないぞ」
 ノインはかってのOZでの階級を言われて苦い笑いを浮かべた。
「今は連邦軍の大尉だ。いいな」
「そして私も少尉ですね」
「ああ。もっともあの五人は相変わらずだが」
「変わり無しですか、彼等も」
「変われと言われてそうそう変わってもらっても困るがな」
「確かにそうですね」
「まああの五人のことはいい。しかしまさかここに配属されるとはな」
「意外でしたか」
「ヘンケン中佐の部隊はそこまで余裕があるのかと思ってな」
 彼女もヘンケン隊に今までいたのである。だがマスドライバー攻略作戦を機にこちらに配属されたのである。
「そちらはどうなのだ」
「防衛、哨戒が主な任務ですからね」
「それは聞いているが」
「ベテランパイロットが多くて戦闘も苦労しませんし。リュウさんやスレッガーさんもおられますし」
「あの二人も健在か」
「もう元気過ぎる程ですよ」
 ヒルデはここで朗らかな笑みになった。
「おかげで雰囲気もいいですし」
「そうか、それは何よりだ」
「私がここに来る前も送迎会開いてくれましたし」
「いい話だ」
「こっちじゃそんなのはないですよね」
「すぐにパーティーがはじまるが」
「そっちですか」
 それを聞いて彼女も苦い笑いになった。
「やっぱりロンド=ベルブライト隊は違いますね」
「そうぼやくな。ぼやいても何もはじまらない」
「それはわかっていますけれど」
「丁度艦橋に御前と同じような声のオペレーターもいるし言ってみればどうだ?」
「いえ、声はもう」
「禁句だったな、ふふふ」
「あとカムジンさんもあっちにいるんですよ」
「カムジンさん!?ああ、彼か」
 それを聞いて誰だかすぐにわかった。
「グラージで相変わらず戦っているのだろうな」
「はい。結構トラブルメーカーですけれど」
「結婚してもそれは変わらないか」
「そうそう、いつも暇があると家族の写真見てるんですよ。何かすっかりマイホームパパで」
「それでトラブルメーカーか。やれやれだ」
「それでエメラルド=フォースもこちらに配属になりましたよ」
「エメラルド=フォースもか」
 バルキリーのエース部隊の一つである。金龍のダイアモンド=フォースと並び称されるバルキリーのエース部隊である。
「ドッカー大尉も来られています」
「ふむ」
「そしてメンバーもちゃんと」
「メンバーも」
「はい。神崎ヒビキさんとネックス=カブリエルさん、そしてシルビー=ジーナさんです」
「神崎ヒビキはカメラマンに戻ったのではなかったのか?」
「連邦軍にスカウトされちゃったみたいですよ。その腕を見込まれて」
「幸か不幸かといったところだな」
「本人はあまり乗り気じゃないみたいですけれど」
「そうだろうな。で、エメラルド=フォースの機体は何だ」
「VF-19Sですけれど」
「ダイアモンドと同じか」
「そうですね。まあ実力は同じ位じゃないんですか。あとバルキリーは新型機も届いています」
「新型機!?」
 一瞬だがノインの眉がピクリ、と動いた。
「サイレーンです」
「それがバルキリーの新型機か」
「はい。霧生さんとミスティさん、そしてレトラーデさんに回されるみたいですね」
「そうか。あの三人なら新型機でも大丈夫だろうな」
「はい。きっとやってくれると思いますよ」
「そうか。それにしてもバルキリーも賑やかになってきた」
「そうですね」
「これで音楽でもあればもっと騒がしくなるな」
 ノインはこの時冗談交じりに言っていたに過ぎなかった。この時マクロスの中はちょっとした騒ぎになっていた。
「で、そのイシュタルちゃんはもう地球にはいないのか」
「はい」
 黒髪を先だけメッシュで茶にしたアジア系の男がフォッカーの言葉に応えた。彼が神崎ヒビキである。戦場カメラマンであったが戦闘に巻き込まれ何時しかパイロットになっていたという変り種である。
「残念ですけれどね」
「まあ仕方のないことかもな」
 だがフォッカーはクールな言葉を返した。
「彼女はそうするしかなかっただろうからな」
「はあ」
「御前さんも気にするな。いいな」
「わかりました」
「それにしてもロンド=ベルに来ていきなり驚かされましたよ」
「おっ、どうした」
 フォッカーは今度は金髪をリーゼントにした二枚目の男に顔を向けた。彼の名はネックス=ガブリエルという。エメラルド=フォースの一員である。
「あのカミーユって子いますよね」
「ああ」
「俺の声聞いていきなり『シロッコ!?』でしたから。驚きましたよ」
「ははは、そういえばそっくりだな」
「よく言われますね。けれど別人ですよ」
「それはわかっているさ」
「カミーユもすぐにわかってくれましたけれど。何か嫌な気分ですね」
「御前さんの声は案外敵に似てるのが多いからな」
「そうみたいですね」
「そえを言えば今はここにいねえがヤンロンだってそうだ。セラーナもな」
「ああ、セラーナ外務次官」
「あの人も今ここにいるからな。うちはかなりの大所帯だぞ」
「それは聞いています」
 今度は金髪の大人びた女が言った。シルビ=ジーナである。
「ヘンケン隊の倍以上はいますね、優に」
「そうだな。あっちから来た者も多いしな」
「我々のように」
「そうだ。まあここに来たからには退屈はねえぞ」
「それはいいですね」
 ネックスはそれを聞いて不敵に笑った。
「宜しく頼みますよ」
「おう、ただしストレスはためるな」
 フォッカーはいつもの調子で笑いながらそう応えた。
「さもないと髪の毛が減るぞ、ガムリンみたいに」
「な、何で私なんですか」
「おう、いたのか」
「さっきからいましたよ。私は別に禿てなんかいませんよ」
「そうなのか?」
「これは生まれつきで家系なんです。私の家族に禿はいませんよ」
「だといいがな」
「何でこんなにムキになるんだ?」
「ヒビキ、それは言わない約束よ」
 シルビーが耳元で囁く。
「いいわね」
「了解」
「何かいつもこうして言われるな。何故だ」
「御前さんがそれだけからかい易いってことさ」
「それに禿も悪くはないぞ、俺みたいにな」
「金龍大尉は剃ってるだけでしょ?」
「それがいいのだ。まあ手入れが大変だがな」
「まあもうすぐだから気にするな」
「少佐、ですから私は。全く」
 フォッカーの言葉が止めとなった。ガムリンはただ溜息をつくしかなかった。
 ガムリンが溜息をついている間にマクロスの格納庫では霧生とミスティ、そしてレトラーデの三人が集まっていた。そして新型のバルキリーを眺めていた。
「外見は案外普通だな」
「まあ同じバルキリーだからね」
 レトラーデが霧生にそう答える。
「そんなに形が変わるわけでもないし」
「けれど能力はかなり違うらしいわ」
 ミスティは静かな声でそう述べた。
「そんなにか」
「ガンポッドの替わりにレーザーを装備しているわ」
「レーザーを」
「そして独特な武器もね。何か独立して敵に攻撃するらしいわ」
「ファンネルみたいなものか!?モビルスーツの」
「そうね。どうやらそれに近いらしいけれど」
「何か凄いな。最近バルキリーも性能があがってきたな」
「元々そんなに性能差あるようには思えないけれど。モビルスーツに比べて」
「まあそうだけれどな。けれどレトラーデもやっぱり新型機の方がいいだろ?」
「それはまあそうだけれど」
「じゃあそれでいいじゃないか。これで思う存分暴れようぜ」
「暴れるのは結構だが」
 ここで大人びた声がした。
「あまり早って撃墜されないようにな」
「ドッカー大尉」
「霧生、どうやら元気そうだな」
 そして一人の男が姿を現わした。彼がエメラルド=フォースの隊長ドッカーである。
「ミスティにレトラーデも。どうだ、こっちは」
「悪くはないですよ」
 まずレトラーデが答えた。
「皆いい人達ばかりですし」
「そうか」
「後方支持もしっかりしていますし。戦い易いです」
「それは何よりだ。ところで金龍はいるか」
「金龍大尉ですか?」
「ああ。何処にいる?」
「一般市民のエリアの中華料理店じゃないんですか?さっきフォッカー大尉とそっちに向かっていましたけれど」
「そうか」
「どうしたんですか?旧友と親交を深めにでも」
「まさか。そんな殊勝なことはしないさ」
「じゃあ何を」
「一杯おごってもらう為さ。あいつには借りがあってな」
「おやおや」
「それではな。また後で色々と話をしよう」
「はい」
 マクロスのパイロット達も充実してきていた。そして戦場に刻一刻と近付いていたのであった。
「それで諸君そろそろ戦闘配置についてくれ」
「了解」
 皆グローバルの指示に従いそれぞれの配置に着く。パイロット達はそれぞれの機体に乗り込む。
「レーダーの反応は」
「駄目です、ミノフスキー粒子が散布されています」
「そうか」
 キムの報告を聞いてもグローバルは冷静なままであった。
「ではもういい。総員出撃」
「もうですか」
「そうだが。何か不都合でも」
 早瀬に顔を向けた。
「早いと思うのですが」
「早瀬君、敵は何時来るかわからんよ」
「それはそうですが」
「ミノフスキー粒子が撒かれているということはその必要があってのことだ。違うかね」
「はい」
「それを考えると敵は我々の予想とは違った動きをしている可能性がある。ならばそれに備えよう」
「わかりました。それでは」
「うむ。では君はパイロット達への指示を頼む」
「了解」
「中尉、お手柔らかにな」
 出撃する直前フォッカーはそう早瀬に通信を入れた。
「あまり厳し過ぎると怖いからな」
「フォッカー少佐には厳しくしろと言われていますので」
 だが早瀬はうっすらと笑いながらそう返した。
「さもないと何をするかわからないからと」
「またクローディアからか?」
「はい」
「いつもいつも心配性だな。俺がしくじるとでも思っているのか」
「万が一がありますから」
「そうか。じゃあクローディアに伝えてくれ」
「私はメッセンジャーではありませんよ」
「まあそこはサービスでだ」
「仕方ないですね」
「俺には女神がいる限り大丈夫だってな」
「わかりました。それではラサール中尉に伝えておきますね」
「おう、宜しくな」
「はい」
 フォッカーを先頭としてバルキリー隊も出撃する。そして他のマシン達も。ロンド=ベルはそこに幅広く展開しはじめた。
「さて、どっから来るかね、旦那は」
 ケーンは楽しそうに笑いながら軽口を叩いていた。
「前からか、または横から」
「正面じゃねえの?」
「何でそう言えるんだよ、タップ」
「いや、何となく」
「いつもの気分でかよ」
「まあそう言うなよ。勘は大事だぜ」
「御前のは単なるあてずっぽうだろうが。そんなので戦争ができるかよ」
「ケースバイケースってやつさ」
「何処がだよ。じゃあ後ろから来た場合もケースバイケースかよ」
「そうそう」
「そうやって勝手に撃たれてやがれ。どうなっても俺は責任持てねえからな」
「そんなこんな言ってる間に来るぜ、敵さんは」
「マギーちゃんがそう言ってるのか?」
「いや、これは俺の勘だ」
「おめえもかよ。そんなこと言ってていいのかね」
「少なくともケーンには言われたくねえな」
「同感」
「おい、そりゃどういう意味だ」
「御前が一番いきあたりばったりじゃべえか」
「ヒーローはどんな状況でも負けないんだよ」
「誰がヒーローだって?」
「油断大敵。そんなことじゃ何時かヒーローの座から落ちるぞ」
「そうなったら御前等も一緒だぜ」
「いや、俺もう自分が脇役だってわかってっから」
「分はわきまえてるのさ」
「おい、それでいいのかよ」
「平気平気」
「そんな小さなことは気にしないさ」
「・・・・・・何か面白みがねえな、それって」
「いいんじゃねえの?俺達は俺達で」
「肩を張っても面白くはないと思うぞ」
「やれやれだ。そんなのだから最近影が薄いんだろ。このままじゃギガノスの旦那に主役を奪われちまうぜ」
「もう奪われてたりしてな」
「不吉なこと言うんじゃねえ!」
「まあそれはここで決まることだ」
「皇国の興廃この一戦にあり」
「またえらく古い言葉を知っているな」
 それを横から聞いていた京四郎が話に入って来た。彼とダイモスはコープランダー隊と組んでいた。
「日露戦争のことか」
「あ、やっぱり知っていますか?」
「知らない筈はないだろう」
 京四郎はそう答えた。
「あの戦いの重要さを考えるとな。あれで世界が変わった」
「世界が」
「そうだ。人種主義に終止符を打つきっかけとなった戦いだった」
 日露戦争は今まで劣等人種とされていた黄色人種が近代においてはじめて白人に勝った戦いであった。それにより世界各地のアジア系、アフリカ系の者達が立ち上がった。そして世界を変える大きなうねりとなっていったのである。
「知らないというわけにはいかない」
「へえ、そうだったんですか」
「流石に博識ですね」
「何処でそんなの習ったんですか?」
「学校だが。習わなかったのか?」
「いやあ、俺達授業中はずっと寝てばっかりだったんで」
「早弁とか」
「おかげでいつも追試でしたよ」
「やれやれ。困ったものだ」
「京四郎さんってそういうことに詳しいしね」
 ナナも言った。
「ちょっと特別だと思うよ」
「だがこれで覚えたな」
「さて、それはどうでしょう」
「何?」
「俺達の脳味噌ってあまりよくないから」
「すぐ忘れちゃうんですよ」
「そのせいかアスカには色々言われていますからね」
「覚えなければ身体で覚えさせる」
「ええっ!?」
「じょ、冗談は止めて下さいよ」
「身体って京四郎さんの場合刀が」
「おい京四郎、ケーン達をからかうのは寄せ」
「一矢」
 一矢のダイモスもそこにいた。
「三人共ベン軍曹がちゃんと教えてくれているからな」
「そうか」
「何かケーンさん達にはベン軍曹よりOVAさんの方がいい気もしますけれど」
 エステバリス隊もいた。ヒカルがあっけらかんとして言う。
「おいヒカル、そらyどういう意味だ」
「俺達の頭が小学生レベルだっていうのかよ」
「まあ玉葱とかピーマンって言われるよりはマシか」
「ライト、納得するんじゃねえ!」
「馬鹿にされてるんだぞ!」
「大丈夫ですよ、それは」
「何でだ!?」
 ケーン達はヒカルの声に顔を向ける。
「だってロンド=ベルは皆大体同じですから」
「どういうことだ!?」
「私も皆馬鹿だってことですよ」
「俺達が馬鹿なのは認めるがそりゃどういう意味だ?」
「今一つわかんねえんだけど」
「馬鹿だから正義を大切にしたい」
「何か引っ掛かるがまあそうだな」
「だから戦っているんですよね」
「まあな」
「その通りだ」
「だからですよ。頼りにしていますよ」
「そういうことなら」
「ドラグナーチームの力見せますか」
「よし」
 ドラグナーの三機は前に出た。
「おらおら、敵は何処だ!」
「さっさと出て来やがれ!」
「はい」
 それにルリが応じた。
「敵が来ました」
「おっ、何処だ!?」
「正面です。数にして約四百」
「多いな」
「で、指揮官はあの旦那だな」
「先頭にファルゲン=マッフがいます」
「やっぱりな」
「こちらに向けて扇状に展開しております。どうしますか」
「全軍突撃用の陣を組め」
 グローバルはそれを聞いてすぐに指示を下した。
「モビルスーツ及びバルキリーを先頭に配する。いいな」
「了解」
「それじゃあ」
 それを受けて陣を組む。そして敵に備えた。
「全軍突撃を仕掛ける。戦艦も突撃するぞ」
「はい」
「敵の戦線を突破する。そして月にそのまま向かう」
「何か凄いことになってきたねえ」
 ケーンはそれを聞いて楽しそうに言う。
「敵中突破なんてワクワクするぜ」
「けど撃墜されないようにな」
「わかってるよ」
 タップの声には顔を顰めさせる。
「おめえも用心しとけよ」
「はいはい」
「まあまずはあの旦那を何とかしてな」
「そうだな」
 ケーンはそれを受けて正面を向き直した。そしてサーベルを抜いた。
「一気に突っ切るぜ。いいな」
「おう」
「まあ後ろは任せてくれ」
「よし来た!行くぜ!」
 まずはケーンが突進した。
「ドラグナー様のお通りだあ!邪魔する奴は容赦しねえぞ!」
 三機のドラグナーはフォーメーションを組んだ。そして光子バズーカを放つ。
「どうだっ!」
 それで敵の小隊が一つ吹き飛んだ。それを合図として戦いの幕が切って落とされたのであった。
 マイヨは吹き飛ばされた自軍の小隊を見ていた。だがそれでも冷静さは失ってはいなかった。
「大尉殿!」
「心配は無用だ」
 クリューガーにそう答える。
「クリューガーは右に行け」
「はい」
 そして指示を下した。
「ダンは左だ」
「わかりました」
「カールは私のフォローを頼む」
「わかりました。そして大尉殿は」
「私は正面にあたる。敵の主力にな」
「しかしそれでは」
「まずは敵の攻撃を受け止めることが肝心だ」
 マイヨは澱みなくそう述べた。
「それには正面に最強の戦力を当てるしかない。わkるな」
「わかりました。それでは」
「うむ。では頼むぞ」
「はい」
 ロンド=ベルは既に目の前にまで迫っていた。モビルスーツやバルキリー、そしてドラグナー達がその先頭にいる。
「ローマ以来だな、旦那!」
「ケーン=ワカバか」
 マイヨはケーンのドラグナーを見据えて静かに言った。
「どうやらまた腕をあげたようだな」
「おかげさまでね」
「だが私もここから退くわけにはいかん」
「ギガノスの理想の為にかい?」
「そうだ」
 毅然としてそう答えた。
「ギガノスの理想を実現させる為に勝たなければならない」
「今はそんなことをやってる場合じゃないと思うけれどね、俺は」
「同感」
 タップもそれに頷いた。
「人類でドンパチやってる状況ではないな」
 ライトも同じであった。
「まあそれはそれぞれ見解があるにしろだ」
 ケーンは二人の後でまたマイヨに対して言う。
「あんたはそのギガノスの理念に命を捧げるつもりなんだな」
「それ以外に何がある」
「ならいい。じゃあ俺はリンダの為に戦う。それでいいな」
「リンダか」
 一瞬逡巡がよぎったかのように思えた。だがそれはほんの一瞬のことであったのでマイヨ以外にはわからない。
「勝手にするがいいい。私は私だ」
「そうかい、じゃあ俺も俺だ」 
 ケーンはレーザーソードを抜いていた。
「やらせてもらうぜ」
「来い」
「タップ、ライト」
 二人に対して言う。
「手出しは無用だぜ」
「おう」
「じゃあ任せたぞ」
「やってやるぜ。ってこれは忍さんの台詞か」
「呼んだか!?」
 忍はもう戦闘に入っていた。派手に断空砲を放っている。
「あい、何でもないです」
「俺の台詞はフリーだ。気に入ったら使ってくれ」
「はい。まあそういうことだ」
「そうか」
 マイヨは生真面目にそれに頷いた。
「ではあらためて参るぞ」
「来な!やってやるぜ!」
 サーベルがぶつかり合う。マイヨのサーベルが旋回した。まるで鞭の様にしなる。
「ウォッ!」
 ケーンはそれを受け止めた。そして返す刀で切り返す。ケーンのサーベルもまた鞭の様にしなる。
「ムンッ!」
 だがそれはマイヨに受けられた。ケーンの動きをそのまま真似るかのようであった。
「こちらの腕も上げたな」
「おかげさまでね」
 ケーンはニヤリと笑ってそれに応えた。
「けれどまだまだ腕は上がってるぜ」
「楽しみだ。では見せてもらおう」
「言われなくてもよお!」
 二人の戦いも激しさを増す。その横では霧生の小隊が攻撃に入っていた。
「ミスティ、レトラーデ!」
「わかってるわ」
「あれを使うのね」
「ああ」
 霧生は二人の言葉に頷いた。まずはレーザーを放つ。それで敵のメタルアーマーが一機吹き飛ぶ。
「行けっ!」
 霧生が叫ぶと三機のバルキリーから一斉に何かが飛び出した。そして敵に攻撃して粉砕していく。しかも小隊単位でだ。あまりもの威力の前に敵陣に穴が開いた。
「凄いな」
「予想以上ね」
 ミスティもその威力に驚いていた。
「本当にファンネルみたいね」
「ああ。これはかなりいけるぞ」
「でかした霧生!」
 そこに金龍が入って来た。
「これで一気にカタをつけられるぞ!」
「金龍大尉」
「ダイアモンド=フォース、準備はいいな!」
「はい!」
「何時でも!」
 ガムリンとフィジカがそれに頷く。そして三機同時に突進した。
 稲妻の様な動きであった。一瞬にして敵の小隊を屠った。まるで影のように見えた。
「凄いな、また」
「霧生、驚いてる場合じゃないわよ」
 レトラーデが彼にそう声をかける。
「エメラルド=フォースもいるわよ」
「そうだった」
 エメラルド=フォースも攻撃に入っていた。こちらは閃光の様であった。そして敵を次々と屠っていく。まるで戦の乙女達が戦場に舞っているようであった。
「何か俺も暴れたくなってきたな、おい」
 イサムも乗ってきたようだった。
「なあガルド」
「何だ」
「俺達もちょっとやってみるか」
「御前が暴れたいだけではないのか?」
「じゃあやらねえのかよ。周りは敵ばっかりですっげえ楽しい状況だってのによ」
「楽しむつもりはないが敵を倒す必要はあるな」
「じゃあやるんだな」
「仕方ないだろう」
「へっ、相変わらず理屈ばっかだな、御前は」
「御前が無謀過ぎるのだ」
「まあこれ以上言っても仕方ねえ。じゃあやるか」
「うむ」
 二機のバルキリーが突進を開始した。
「行くぜダブルピンポイント」
「アタック!」
 そして同時に敵に拳を繰り出した。一機だけでなくその衝撃で一気に何機も粉砕される。それで敵の小隊をまた一つ一掃したのであった。
「はじめてやったわりには上手くいったな」
「意外だったな」
 二人はコンビネーション攻撃の成功に機嫌をよくしていた。
「これも俺のおかげだな」
「それはどうかな」
 だがガルドはそれには懐疑的であった。
「何だよ、文句あんのかよ」
「確かに御前の技量は認める」
「素直にそう言いな」
「だがそれも一人ではできなかった。俺もいてこそだ」
「じゃあ御前は俺と同じ位の技量があるってことかよ」
「不服か?」
「言ってくれるな。前は意地でも認めなかったのによ」
「少なくとも御前はパイロットしてはよくなった」
「へえ」
「それを素直に認めただけだ。別に私情はない」
「そうかい。で、また敵が来てるぜ」
「うむ」
 二人の前にまた敵が現われた。敵が尽きることがなかった。
「どうするよ。またやるかい?」
「二度続けてやると読まれるな」
「じゃあ別れていくぜ、いいな」
「うむ」
 二機はバトロイドからバルキリーに戻った。
「俺は右に行く。御前はどっちだ?」
「左しかないだろう」
「じゃあそっちを頼むぜ。いいな」
「了解した」
 バルキリーになっても攻撃の激しさは変わらなかった。二機のバルキリーから放たれたミサイルは複雑な螺旋状の動きをしながらそれぞれの敵に向かって行く。
「死にやがれっ!」
 戦場にイサムの声が木霊する。ギガノスのメタルアーマー達はそれに応えるかのように次々と撃墜されていった。
 ギガノス軍はその数を大幅に減らしていた。しかしそれでもマイヨの指示の下彼等は粘り強く戦いを続けていた。
「流石はギガノスの蒼き鷹といったところか」
 クワトロはそれを見て感嘆したように声を漏らした。
「このような状況においても怯むところがないとはな」
「だがそれも限界のようだな」
 アムロがそれに応えるようにして述べた。
「やはり全体的にダメージが大き過ぎる。彼等はもう限界だろう」
「問題は彼等がそう思っているかどうかだ」
 だがそれでもクワトロはこの場における戦いが終わるとは即断しなかった。
「さて、どうするかな」
「ギガノスの鷹、それ程愚かではないと思うがな」
 アムロの言葉は当たっていた。確かに彼は愚かではなかった。だが彼には引いてはならない事情があった。それは大義故であった。
「大尉殿、このままでは」
「わかっている」
 彼はクリューガー達の言葉に応えた。
「だがここで退くわけにはいかない」
「マスドライバーを守る為に」
「そうだ」
 彼は頷いた。
「今ここで我々が退いては後がなくなるぞ」
「はい」
「確かに」
 プラクティーズの面々はそれに頷く。彼等も自軍がその数を大きく減らしたのに伴いマイヨの側に集結していた。
「しかしこれ以上の戦闘は」
「我が軍の損害を無駄に増やしかねません」
「それでもだ」 
 それはマイヨもわかっていた。だがそれでも退こうとはしなかった。
「今は引くわけにはいかぬのだ」
「ではここに留まって」
「そうだ。それしかない」
 しかしここでマイヨのファルゲン=マッフに通信が入った。
「!?これは」
「マイヨ、まだ戦場にいるか」
「閣下」
 何とモニターにギルトールが姿を現わしたのであった。
「どうしてここに」
「御前のことが気になってな。戦局はかなり危険ではないのか」
「どうしてそれを」
「我が軍の戦力と敵の戦力を考えるとな。当然だと思うが」
「そこまで」
 流石は連邦軍においてその優秀さを認められた人物であった。ギルトールは後方にいながら全てを予測していたのである。
「これ以上の戦闘は危険だ。退け」
「ですが閣下」
「マスドライバーは前線で守ればいい」
 彼は戦線縮小を命じた。
「今はこれ以上同志達を失うわけにはいかぬ。わかったな」
「了解しました。それでは」
「うむ」
「全機に告ぐ」
 マイヨはあらためて指示を下した。
「マスドライバーまで撤退だ。よいな」
「ハッ」
 こうしてギガノス軍は撤退した。戦いはクワトロの予想よりも早く幕を降ろした。
「どうやら撤退したようだな」
「やはり戦局がわかっていたということか」
「それはどうかな」
 だがクワトロはアムロの言葉には疑問を呈した。
「違うというのか」
「彼はまだ戦いたがっていたようだからな」
「そうか」
「おそらく上層部からの指示だ。しかもかなり上のな」
「ギルトール元帥」
「そこまではわからないが。彼に影響を与えることのできる人物なのは確かだろう」
「そうか」
「だがこれで我々の道が一つ開けたな」
「月までのか」
「そうだ。とりあえずは艦に帰投しよう。詳しい話はそれからだ」
「わかった」
 ロンド=ベルはそれぞれの艦に帰投した。そしてすぐに次の作戦についての討議をはじめた。
「思ったより敵が早く退いたな」
「これをどう見るかだが」
 クワトロはブライトの言葉を補足するように述べた。
「何か私見のある者はいるか」
「はい」
 宇宙太が手を挙げていた。クワトロは彼に目を向けた。
「君はどう思っている?」
「ギガノスは内部で分裂寸前だそうですね」
「そうした情報が入ってきているな」
「それでではないでしょうか。今回の撤退は」
「つまりマイヨ=プラート大尉の意思ではないということだな」
「はい。何か退かざるを得ない状況が起こったんじゃないかと思います」
「そうか。君はそう見るか」
「違うんですか?」
「いや、その可能性は否定しない」
 クワトロは宇宙太の考えを完全には否定しなかった。
「だが純粋に上層部の判断という見方も可能だな」
「上層部の」
「そう、彼等が戦局を単純に見て指示を下した。その可能性も否定できないだろう」
「それでどっちがやばいんだ?」
 オデロがここで尋ねた。
「俺はあまり変わらないように思うけれどな」
「確かに大した違いはない」
 クワトロはそれも認めた。
「だがこの撤退がギガノスの分裂が原因ならば問題はより複雑だ」
「複雑」
「例えばの話だが」
 クワトロは仮定の話でワンクッション置いてきた。
「ギガノス内部で粛清が起こっているならば」
「まさか」
「今目の前でドンパチやってるってのにかよ」
「いや、有り得るぞ忍」
「亮」
「ナチスやソ連もそうだったからな」
 ナチスにしろソ連にしろ戦争を行いながら粛清を続けてきた。ヒトラーもスターリンも自分の地位を脅かす可能性のある者や全体主義に批判的な将軍達を次々と粛清してきた。彼等の特徴は平時においても戦局が彼等にとって著しく不利な時でもそれを行ってきたことである。それが独裁者の本質であった。
「ましてギガノスのような全体主義ならばな」
「確かにその可能性はある」
 シナプスはそれに頷いた。
「大佐」
「だがギルトール元帥は粛清は行わない。あの人は仲間をそう易々と消すことはできはしない」
「理想主義者だからな」 
 グローバルもそれに頷いた。
「おそらくそうした場合にはどうしても説得しようとするだろう。無闇な粛清はあの人の好むところではない」
「確かに」
 アムロもそれに同意して頷いた。
「あの人はそんな人じゃない」
「そうですね」
 アヤもそれに続く。
「そうすることしかないとわかっていても。そういう人です」
「何かえらい信頼されてるな、おい」
 ケーンはそれを見てかえって呆気にとられてしまった。
「あのおっさんそれだけ凄いってのかよ」
「真面目過ぎたのだ」
 クワトロはそれに対して口惜しそうにそう述べた。
「それが為にな。残念なことだが」
「そうなのか。真面目過ぎたのか」
「つまり真面目なのはよくないってことだな」
「俺達みたいに気軽じゃねえとな」
「あんた達は別でしょ」
 マリがジュドーと勝平にそう突っ込みを入れた。
「もう少し真面目にやりなさい。危なっかしくて見ていられないわ」
「マリの操縦よりはましだな」
「あら、お言葉ねミスター」
「最近は少し上手くはなったようだがな」
「そのうちミスターを追い越してやるから。見てなさいよ」
「ははは、まあ期待してるさ」
「馬鹿にして」
「けれどマリさんもコープランダー隊にとって欠かせないですよ」
「ありがと、大先生」
「頼みますね、これからも」
「了解。期待しててね、洸」
「まあね」
 洸は苦笑いでそれに応えた。そして話は元に戻った。
「つまりギルトール元帥ならば粛清の心配はないということか」
 ブライトは腕を組んで思索に入っていた。
「そうだな。だが他の者だったらどうか」
「ドルチェノフみたいな奴だったらか」
 アムロはクワトロの言葉に顔を顰めさせた。
「ギガノスにとって大変なことになるな」
「むしろそっちの方が俺達にとっちゃ好都合ですけれどね」
 ライトはあっけらかんとそう答えた。
「有能な敵よりは無能な敵の方がいいですから」
「おっ、戦略家だね」
 タップがそれに突っ込みを入れる。
「流石はドラグナーチームのブレーン」
「褒めても何も出ないぜ」
「そうだったな。俺達は軍人貧乏暇なし」
「可愛い娘ちゃんにももてないときた」
「やれやれってなもんだ」
「それはおめえ等が悪いんじゃねえか」
 今度はリョーコが突っ込みに回った。
「そんな軽いノリじゃ女ってのは駄目なんだよ。こうドドーーーンってなあ」
「ドドーーーンと」
「押すんだよ。女は一に押して二に押す」
「ふん、それで」
「三四がなくて五にも押すんだよ。それが女を陥落させるコツなんだ。わかったか」
「また随分強引ですね、リョーコさん」
「ヒカル、おめえが言ったんだろうが」
「あれ、そうでしたっけ」
「そうでしたっけなあ・・・・・・」
「おっす」
「イズミ、もう無理して駄洒落入れなくてもいいからよう。苦しいにも程があるぞ最近」
「けれどライトさんの仰ったことは事実です」
「おっ、ルリちゃんにはわかってもらえたみたいだな」
「ギルトール元帥であったならばギガノスはそのまま強敵であり続けます」
「そうだな」
 京四郎がそれに頷いた。
「カリスマ性のある指導者というのはそれだけで厄介なものだ」
「ああ」
 多くの者はギレン=ザビを知っている。だから頷くことができた。
「だが今はギガノスの内部よりも我々自身の方が重要だ。すぐにでも行くぞ」
「マスドライバーに」
「そうだ。総員戦闘配置を続ける。いいな」
「了解」
 彼等は月にと向かった。ギガノスの牙を砕く為に。


第四十三話   完



                                       2005・9・9


 
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