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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第三十八話 バイタル=ネット

               第三十八話 バイタル=ネット
 宇宙においてネオ=ジオンとの熾烈な戦いが繰り広げられていたその頃地球においても激しい戦いがはじまろうとしていた。
「バイタル=ネット作戦?」
「はい」
 大文字に対してアノーアがそう説明をしていた。
「ノヴァイス=ノアのオーガニック=エンジンと積載したプレートを配置することで行う作戦です」
「ふむ」
「オルファンの浮上地点を囲み、オルファンを含むオーガニック=エナジーの共振作用を発生させ、オルファンの頭を抑えようとするネットを作り出すのです」
「それでオルファンを止めるのですね」
「はい」
 アノーアは答えた。
「これでいこうと思うのですが」
「ううむ」
 だが大文字はそれに対して懐疑的な声を漏らした。
「そう簡単にあれだけ巨大なものを止められるでしょうか」
「プレートの共振によってオルファンの頭を抑えることができれば」
 彼女はそう説明した。
「そうすれば自分自身のエネルギーの反発を受けて海の中に戻っていくでしょう」
「そうなのですか」
「問題はその際迎撃に出て来るリクレイマーです」
 アノーアはそう言った。
「彼等をどうすか、です。問題は」
「それに対して我々の存在が必要だと」
「はい」
 彼女は答えた。
「ご協力をお願いできるでしょうか」
「勿論です」
 彼は快諾した。
「我々はその為にこの地上に残ったのですから」
「それは有り難い」
「ではそういうことで。喜んでノヴァイス=ノアの護衛に回りましょう」
「お願いします」
 こうしてオルファンに対する方針が定まった。彼等はこうしてリクレイマーとの戦いに備えをはじめるのであった。これについて早速ブレンのパイロット達がノヴァイス=ノアに入った。
「何かここに戻るのは久し振りだな」
「ナンガさん前にここにいたの?」
「そうさ」
 ヒメの問いに答えた。
「俺とラッセはな。ヒメと合流するまではここにいたんだ」
「そうだったの」
「今見ると懐かしいな。古巣に帰るというのはこうした気分か」
「おいおい、懐かしい気分に浸るにはまだ若いぜ」
「そうか、ははは」
「ナンガ君、ラッセ君」
 前から白い髪をオールバックにした老人がやって来た。
「久し振りだね。元気そうで何よりだ」
「ゲイブリッジさん」
「この人もオルファンと関係あるの?」
「ああ」
 二人はヒメの問いに答えた。
「ここにいた時の俺達の上司だったんだ」
「ブレンには乗れないけどな」
「そうだったんだあ」
「ヒメちゃんだったね」
 ゲイブリッジはにこりと微笑んでヒメに語りかけてきた。優しい笑みだった。
「君のことは聞いているよ。これからも宜しく」
「はい」
 ヒメはそれに元気よく答えた。
「こrから、宜しくお願いします」
「うん。ところで」
 彼は今度は勇に顔を向けてきた。
「君のことも聞いているよ。それでだ」
「何でしょうか」
「君に会わせたい人がいるんだが」
「?会わせたい人?」
 勇はそれを聞いて首を傾げた。
「それは一体」
「ノヴァイス=ノアの艦橋に来てくれるか。よかったら」
「わかりました」
「じゃあ俺達も一緒に」
「私も」
「うん、皆是非来てくれ」
 ロンド=ベルにいるブレンのパイロット達は皆艦橋に案内された。勇がまずそこに入った。するとそこには彼がよく知る人がいた。
「ばあちゃん!」
 勇は目の前にいる優しい顔立ちの老婆を見て驚きの声をあげた。
「どうしてここに」
「勇、大きくなったね」
 彼女は孫を見てその優しい顔にさらに優しい笑みを浮かべさせた。
「それに立派になって」
「それでどうしてここに」
「ここにいたら御前に会えると思ったんだよ」
 彼女はそう答えた。
「俺に」
「そうさ。御前や依衣子にね。依衣子は元気かい」
「姉さんか」
 勇はそれを聞いて顔を下に向けた。
「姉さんは今は・・・・・・」
「直子さん」
 ゲイブリッジがここで彼女の名を呼んだ。
「勇君はね、この前まで家族と共にいたんだ。しかし」
「そうだったのかい」
 直子はそれを聞いてあらためて勇を見た。
「御前も色々あったんだね。大変だっただろう」
「いや」
 しかし勇は首を横に振った。
「俺はこれでよかったって思ってるし。それに今ばあちゃんに会えてとても嬉しいんだ」
「おや」
「久し振りに会えたんだから。オルファンにいた時はずっと会えなかったから」
「あたしもだよ」
 直子も言った。
「けれどこれから暫くはこうして会えるね」
「うん」
「あの」
 ラッセがゲイブリッジに尋ねてきた。
「どうかしたのかね」
「直子さんはもしかして伊佐未ファミリーの一員ですか?」
「如何にも」
 ゲイブリッジはそれに頷いた。
「伊佐未翠博士の母だ。勇君の母方の祖母なんだよ」
「そんな人がどうしてノヴァイス=ノアに?」
「私が乗艦を要請したのだよ」
「司令が」
「そうだ。不都合があれば遠慮なく言ってくれ」
「いえ」
 だがラッセはそれには首を横に振った。
「ただ、司令のお知り合いなのですね、それを御聞きすると」
「古い友人だよ」
「左様ですか」
(成程な)
 ラッセはそれを聞いて思うところがあったがそれは口には出さなかった。こうしてノヴァイス=ノアでの再会は終わった。
 ロンド=ベルはノヴァイス=ノアを護衛したままオルファンに向かった。その途中どういうわけか勇は浮かない顔をしていることが多かった。
「ねえ勇」
 それが気になったヒメが声をかけてきた。
「どうしたの?あまり楽しんでないよ」
「何でもないさ」
 彼は不機嫌な顔でそう答えた。
「お婆ちゃんとも話してないみたいだし」
「そうでもないよ」
「いや、そうだよ。話してないよ」
 ヒメはそう反論した。
「どうして?お婆ちゃんが可哀想だよ」
「ヒメには関係ないだろ」
「何でそんなこと言うんだよ、可愛くないよ、それ」
「何言ってるんだよ!」
 勇も腹が立ってきた。
「だからヒメには関係ないだろ!」
「そんなわけない!私勇のことわかる!」
「どういうことなんだ!?」
「やきもち焼いてるんだ!カナンさんが最近オルファンで色々と忙しいから!そうなんでしょ!」
「違う!」
「どう違うの!その通りでしょ!」
「カナンも関係ないだろ!」
 たまりかねたように叫ぶ。
「俺はカナンの生徒でもヒメの生徒でもないんだ!何でいちいち」
「いちいち・・・・・・何!?」
 ヒメはそう言って勇を見上げた。
「何か言ったら!?臆病者!」
「臆病者じゃない!」
「じゃあキスでもして黙らせるつもり!?前みたいに!」
「クッ!」
「何騒いでいるの、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
 ここでケン太が出て来た。
「ケン太君、どうしてここに」
「僕達ここに呼ばれちゃったんだ、ノヴァイス=ノアに」
「どういうことなんだ?」
「よくわからないけれど。クマゾー君達も一緒だよ」
「子供達をか。何かあるのか?」
 勇はケン太からそれを聞いて考え込んだ。
「だとしたら一体」
「バイタル=ネット作戦にオーガニックな効果が期待できるんだって」
「どういうことなんだ?」
「子供達が大人より純粋だから?」
 ヒメも首を傾げていた。
「そういうことなのか?しかし」
「これは私の考えなのだよ」
「司令」
 ゲイブリッジが彼等の前に出て来た。そしてそう語った。
「ヒメ君の言う通り子供達の純粋な心が欲しくてね。それでここに来てもらったんだ」
「そうだったんですか」
「それで僕達は何をすればいいんですか?」
「ここにいてくれるだけでいい」
 ゲイブリッジはケン太にそう答えた。
「この作戦の間だけで。それでいいかな」
「本当にそれだけでいいんですか!?」
「ああ」
 彼は答えた。
「大人しく遊んでいてくれればいいからね」
「わかりました。それじゃあ」
「うん」
「ケン太君、遊んでばかりでは駄目ですよ」
「OVA」
「ちゃんと勉強もしないと」
「わかってるよ。OVAまで一緒なんてな」
「グッドサンダーチームはいつも一緒です」
「ちぇっ」
 こうしてケン太はOVAに連れられ個室に入った。勇とヒメはそれを黙って見送っていた。
「子供の存在がオルファンに影響を与えるということか」
「それもいい影響なのかも」
 しかしそれはまだわからなかった。彼等にとってみればそれは全くわからないことであるからだ。

 オルファンは活動を続けていた。アノーアがコモドに指示を下していた。
「補給作業は終わったわね」
「はい」
 コモドは答えた。
「たった今」
「そうか。では作業要員の引き揚げを頼む」
「了解」 
 作戦準備を着々と進めている。だがそこで艦橋の扉が開いた。
「!?誰だ」
「アカリちゃん」
 見ればアカリが艦橋に入って来ていた。アノーア達はそれを見て少し驚いたがすぐに我に返った。
「ここはブリッジよ。悪いけれど子供は」
「ごめんなさい」
「わかればいいから」
 アノーアはそう言ってアカリを下がらせようとする。コモドに顔を向けた。
「コモド、悪いけれど」
「はい」
 コモドはそれに従い彼女を艦橋から下がらせようとする。だがそれはできなかった。
「まあそう怒らないでくれるか」
 若い男の声がした。
「その声は」
 それを聞いたアノーアの顔が強張った。
「まさか貴方は」
「この子は俺をここまで案内してくれたんだからな」
「君は・・・・・・誰だ!?」
 異変を感じたゲイブリッジが銃を取り出そうとする。だがそれは適わなかった。
 ゲイブリッジの銃が何かに弾かれた。そして床に転がった。
「挨拶が遅れました」
 銃を手にする若い男が姿を現わした。
「私はジョナサン=グレーン。リクレイマーのパイロットです」
「ジョ、ジョナサン!?」
 アノーアはその名を聞いて普段の冷静さを失った。
「ジョナサンだというの!?どうして貴方が」
「フン」
 だがジョナサンはそれに答えずに冷徹な目でアノーアを見据えた。
「リクレイマーって・・・・・・。貴方何時から」
「そんなことも知らなかったのか」
 ジョナサンはそれを聞いて吐き棄てるように言った。
「貴女はそういう人だ」
「クッ!」
「動くな!」
 動こうとしたコモドに対して叫んだ。
「俺の持っている爆薬はこのブリッジなぞ簡単に吹き飛ばすぞ!」
「爆弾まで持って来たか!」
「そうだ」
 ゲイブリッジに対して不敵に答えた。そしてすぐにアノーアを見据えた。
「わかったか!?」
「ジョナサン、貴方という人は・・・・・・!」
 普段の冷静さは何処にもなかった。アノーアは髪を乱し、汗にまみれた顔でジョナサンを見ていた。
「貴女だって嫌だろう?」
 ジョナサンはそんなアノーアに対して言った。
「自分の目の前で息子がバラバラになるのを見るのはな」
「・・・・・・・・・!」
 ブリッジにいた者はそれを聞いて驚愕した。信じられない言葉であった。
「まさか」
「ジョナサンが艦長の・・・・・・」
「ママン、ノヴァイス=ノアの指揮権を渡してもらおうか」
「ジョナサン・・・・・・」
「おっと、今更母親面はするなよ」
 憎悪に満ちた目で母を見る。
「あんたは息子を捨てた女だからな」
「どういうことなんだ」
 ゲイブリッジがそれを聞いて疑問の言葉を漏らした。
「男と愛を育てるのを面倒がった女は子供を育てるのも面倒だったんだ」
 彼は言った。
「だから俺を捨てて仕事に逃げたんだ!」
「違うわ」
 アノーアは首を小さく横に振ってそれを否定した。
「ジョナサン、貴方は私の母よ」
「今頃そんなこと言うな!」
 ジョナサンは叫んだ。
「あんたの言うこtなんて信じられると思うか!」
「それは・・・・・・」
「指揮権を渡せ!」
 彼はまた叫んだ。
「そして俺はこのノヴァイス=ノアを・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 アノーアはそれには答えなかった。だがそのかわりか後ろにあるスイッチを背中向けに押した。それと共に艦内をサイレンが木霊した。
「何を!?」
「非常スイッチを入れました」 
 アノーアはそう答えた。
「これでこの艦の全ての操作は私の肉音のみとなります」
「クッ」
「ジョナサン、貴方の思い通りにはなりません」
「やるね、ママン。なら」
 ジョナサンは次の手に出た。
「きゃっ!」
「来い!」
 アカリを抱き抱えた。
「悪いが御前には人質になってもらう!」
 そして艦橋を後にした。途中でクマゾーも捕まえ、二人を連れて甲板に出た。
「来たな」
 後ろを振り向く。そこにはアノーアがいた。
「ジョナサン」
「フン」
「私が人質になります。子供達を解放しなさい」
「あんたの考えは読めているよ」
 彼は憎悪に燃えた目で母親を睨んでいた。
「子供達を解放した後で俺を撃つつもりだろう。違うか?」
「息子を撃つことはありません」
「嘘をつけ!」
 だがジョナサンはそれを否定した。
「あんたはそういう女だ!あんたにとって俺は単なる実権の道具だったんだ!」
「貴方は私の息子です」
「白々しい演技を!」
 またもや叫んだ。
「もう騙されるか!甲板に俺を追い込んだのもここなら爆発の被害が少ないからだろう!あんたはそういう打算で全てを考える女なんだ!」
「ジョナサン!」
「俺の名を呼ぶな!」
 彼は叫び続けた。
「子供を産むことまで計算する女が!」
「艦長!」
 アノーアの後ろから複数の声と足音が聞こえてきた。
「ジョナサン!」
「勇か!」
「貴様、どうしてここに」
「話は長くなる。だが言っておく」
「何をだ!?」
「俺は御前とは違う、俺は自分の目的の為なら自分の母親だって殺してみせる」
「母親!?」
「そうさ」
 ニヤリと笑ってそう答えた。
「母親だってな」
「どういうことなんだ」
「彼はアノーア艦長の息子なんだ」
 ゲイブリッジが勇達にそう語った。
「艦長の!?」
「そうさ」
 ジョナサンはニヤリと笑って言った。
「俺はこの女の息子なんだ」
「さっきは息子と呼ぶなと言ったのに・・・・・・」
「利用できるものは何でも利用してやる」
 アノーアに対しても悪びれなかった。
「そして生きてやるんだ、それが俺のやり方だ」
「人質をとっても!?」
「むっ」
 ヒメの言葉に反応した。
「それはどういう意味だ」
「君はそんな人だったの!?お母さんを悲しませて」
「こんな女!」
 ジョナサンは激昂した。
「母親でも何でもない!知るものか!」
「小さい男だな、御前は」
「勇」
「そんな子供も人質にとって。何時からそんな小さな奴になったんだ?」
「挑発するつもりか、勇。無駄なことだぞ」
「何!?」
「俺は御前と違って任務に忠実なんだよ」
「そういうふうに逃げるのか」
「勝手にそう解釈しろ。俺は俺の任務を果たす」
「貴方は大変聡明な方の血を受け継いでいるというのに」
 アノーアが三人のやりとりを見ていて耐えられずにそう漏らした。
「そんな行動がどれだけ馬鹿げているか、わかっている筈です」
「あんたは男と女の愛よりまだ遺伝子のことを信じているのか!」
 それを聞いてさらに怒りが昂ぶった。耐えられなかった。
「それでその天才の遺伝子を買ってシングルマザーになったのか!」
「君、そんな言い方はないでしょ!」
「御前は黙ってろ!」
 ヒメを一喝した。
「御前みたいな小娘に何がわかるというんだ!俺の何が!」
「そんなこと言って何なるというんだよ!」
「俺は道具じゃないんだ!遺伝子なんかじゃないんだ!」
 叫び続ける。
「じゃあ俺のこの気性もその天才のものか!じゃあ俺は一体何なんだ!」
「ジョナサン・・・・・・」
「俺は狂人の遺伝子を受け継いだのか!どうなんだ!?」
「それは私の遺伝子に問題があったからよ」
 悲しくなった。
「精子の問題ではないわ」
「まだそんなことを言うのか!」
 どうやらジョナサンの求める答えはアノーアの出すそれとは全く違っているようである。ジョナサンはそれに苛立ちを覚えている。しかしアノーアにはそれがわからないようであった。
「それなら子供なんか作るな!俺の前で母親面するな!」
「ジョナサンさん、いい加減にしなさい」
 直子が見るにみかねたのか前に出て来た。
「婆ちゃん」
「貴方がそうやって憎まれ口を言える理由を考えたことがありますか?」
「理由!?」
「ええ。貴方を生んでくれたお母さんがいらっしゃるからでしょう?そのお母さんにそんな悪態をついて。恥ずかしいとは思わないのですか?」
「恥ずかしい!?どうしてかね」
 それを聞いて口の端を歪めて笑った。
「男を一人も愛せなかった女を。どうして母と呼べるんだ」
「まだそんなことを」
「俺だけがわかるんだ!御前等になんかわかってたまるか!」
「いや、わかるな」
 今度はゲイブリッジが言った。
「ジョナサン君、艦長は毎日君のことを思っていた。私は知っている」
「嘘をつけ!」
「嘘ではない」
「じゃあ一方的な思い込みだ!」
「まだわからないの、君!」
「勝手に思っているだけの思いなぞ子供に伝わるか!」
「どうしてそんなひねくれた考えを持つんだよ!」
「御前等に俺のことがわかってたまるかと言った筈だ!」
「そんなこと言って甘えてるだけじゃないか!」
「五月蝿い!」
 彼等のやりとりは続いていた。だがここでクマゾーがふと呟いた。
「お兄ちゃん、お母ちゃんのおっぱい欲しいんだも?」
「何!?」
 それを聞いて一瞬ジョナサンの動きと声が止まった。
「ママのおっぱいが欲しくてここに来たんだも?」
「貴様ァッ!」
 それを聞いてさらに激昂した。
「ふざけるな!」
 クマゾーを打った。鈍い、嫌な音が甲板に響いた。
「クマゾー!」
「このガキ、何を言ってるんだ、頭を吹っ飛ばしてやる!」
 ぞう言いながら銃を構えようとする。アノーアがそれを止めた。
「その子を撃っては駄目!」
「こんな時に何を!」
「貴方の憎しみの対象は私の筈!」
「そうだ!」
「それなら私が相手なのよ!」
「黙れ!」
「そんなことしてたらおっぱいもらえないも!」
「まだ言うか、このガキ!」
 本当に構えようとした。しかしここでアノーアが叫んだ。
「それなら母が貴方を!」
「遂に本性が出やがったな!」
「ジョナサン!」
 争いが混沌としようとしていた。しかしそれは一つの銃声によって打ち消させた。
「な・・・・・・」
 ジョナサンの手に持っている銃が弾かれていた。それは空しく床に落ちていた。
「誰だ、誰が撃った!」
「わいや」
 十三が後ろで拳銃を構えていた。その銃口から煙が出ていた。
「お約束で拳銃だけ弾かせてもらったで」
「チッ!だがまだ爆弾が!」
「それもやらせてもらうよ」
 また銃声がした。それで爆薬の信管も弾かれてしまった。
「今度は誰だ!」
「危ないからね」
「万丈さん」
「仲間の危機に颯爽と現われるのがヒーローだからね。間に合ったかな」
「ふざけた真似を!」
「ジョナサンといったね」
 万丈はジョナサンに対して顔を向けてきた。
「君の気持ちはわからないでもない。しかしあまりにも見苦しいとは思わないのかい?」
「何がだ!」
「君のその発言は聞いていてどうかな、と思う。少し落ち着いた方がいい」
「御前なぞに言われてたまるか!」
「投降しなさい、ジョナサン」
「何!?」
 落ち着きを取り戻し、静かな声で語りかけてきたアノーアを睨んだ。
「そうすれば悪いようにはしないわ」
「また嘘を言うのか!」
 だが彼はその言葉を頭ごなしに否定した。
「悪いようにしないって言っていつも嘘をついてきたじゃないか!」
「そんなことはないわ!」
「いつも裏切ってきたのがママンだ!」
「私が何時!」
「八歳と九歳と十歳の時と!」
 ジョナサンは叫んだ。
「十二歳と十三歳の時も!僕はずっと待っていたんだ!」
「な、何を!」
「クリスマスプレゼントだよ!」
「!!」
 アノーアはそれを聞いて絶句した。
「カードもだ!ママンのクリスマス休暇だって待っていた!けれど僕に何もくれなかったじゃないか!」
「それは・・・・・・」
 それ以上言えなかった。この時でようやくジョナサンが何を欲しがっていたのか気付いたのであろうか。
「あんたは何もくれなかった!それなのに最初の贈り物がピストルの弾なのか!それが母親なのか!」
「・・・・・・・・・!」
「ジョナサン、それ以上言うのは止めろ!」
「勇!」
「大人しくするんだ!」
「生憎そのつもりはない!」
「何だとっ!」
「行っちゃうも?」
 クマゾーはそれを見てジョナサンの顔を見上げて呟いた。

「クマゾーといったな」
「うん」
「俺だって引き際位は心得ているつもりさ」
 そう言って微笑んだ。それからまたクマゾーに対して言った。
「さっきは殴って済まなかったな。君は立派だったよ、尊敬に値する坊やだ」
「尊敬?」
「そうだ。オルファンに来ればグランチャーをやろう。来るか?」
「ううん」
 だが彼は首を横に振った。
「それよりも僕はヒメ姉ちゃんや皆の側がいいも」
「そうか。それならいい。そこのお嬢ちゃんにも申し訳ないことをしたな」
「・・・・・・・・・」
「これでな。また会おう」
 そう言って甲板を後にしようとする。勇がそれを見て駆けた。
「逃がすか!」
 だがジョナサンの方が早かった。彼は甲板にあった自身のリクレイマーに乗った.そしてその場を後にしようとする。
「させるかいっ!」
 十三が乗り込もうとする彼を拳銃で撃とうとする。しかしそれはできなかった。
「艦長!」
 コモドが甲板に駆けてきた。
「敵襲です!」
「敵!?」
「はい、グランチャーの部隊です。如何致しますか!?」
「すぐに迎撃用意を!」
 彼女は艦長の務めによりすぐに指示を下した。
「ブレンも出撃させる!」
「了解!」
 それに従い勇達が動く。見ればグランガラン等三隻の戦艦が前に出て来ていた。彼等も既に敵の動きを察していたようであった。
「行くぞ!」
「うん!」
 ブレンが出撃する。他のマシンも次々と出る。そしてグランチャーに備えていた。
「ジョナサン、迎えの部隊を呼んでいたのか」
「俺だって二手三手先は読んでいる」
 彼は後退しながら答えた。既にロンド=ベルの攻撃が届かない範囲まで退いている。
「それにオルファンがバイタルネット=グロウブのネットに引っ掛かるのは面白くない」
「アノーア艦長への腹いせか?」
「あんなちっぽけな艦でオルファンを止めようというのが生意気なんだよ!」
「まだそんなことを!」
「ジョナサン!」
「シラーか!」
 見ればシラーのグランチャーがいた。そしてもう一機。
「エッガも」
「フハハハハハハハハハハハ!」
「何だ、あいつ」
「おかしいのかよ」
 ロンド=ベルの面々は彼が異常なテンションで笑うのを見てそう言った。
「どけ、ジョナサン!」
「何!?」
「裏切り者なぞ俺が串刺しにしてやるわあ!勇、覚悟!」
「勇、エッガよ」
「ああ」
 カナンの言葉に頷いた。
「どう見ても様子がおかしいわ。注意してね」
「わかってる」
「おかしいというレベルじゃないな、あれは」
 鉄也がそれを見て呟いた。
「狂っている。勇君、警戒しろよ」
「はい」
「エッガ!」
 エッガの異常にジョナサンも気付いていた。彼に声をかける。
「しっかりコントロールしろ!」
「裏切り者があ!親を裏切るガキなんぞ親不孝以下だろうがあああああっ!」
「何だとっ!」
 ジョナサンは自分のことを言われたと思い顔を顰めさせた。しかしシラーがそれを制止する。
「よせ!」
「何故だ!」
「今のエッガは・・・・・・駄目だ」
 彼女はそう言うだけであった。ジョナサンもそれに従うしかなかった。
「何なんだ、あのチャクラ光は」
「見たこともないぞ」
 ラッセもナンガもエッガを見て唖然としていた。
「どうなっているんだ」
「少なくとも普通の事態じゃないね」
 万丈が言った。
「これは厄介だぞ」
「そうね」
 マーベルがそれに頷いた。
「あのグランチャーを何とかしないと大変なことになるわ」
「しかしこの気」
 ショウは何かを感じていた。
「ジェリルやバーンのそれに似ている。どういうことなんだ」
「どっちかっていうとジェリルだな」
「トッド」
「あの女と同じだ。暴走していやがる。まだあの女はその一歩手前ってとこだがな」
「そうだな」
「剥き出しの悪意と憎悪、そして嫉妬」
 シーラが言った。
「あのグランチャーとパイロットは完全に正気を失っています」
「正気を」
「それだけではありません。邪悪なものすら感じます」
「じゃあどうすればいいんですか!?」
 エルがそれを聞いて不安になった。そしてシーラに尋ねた。
「このままじゃ大変なことになっちゃいますよ」
 ベルもである。
「止めなければなりません。ですがこのままだといずれ彼も」
「自滅するだろうな」
 勇がそれを聞いて呟いた。
「はい。しかしそれは今ではありません」
「やるしかないか」
「勇、どうするの!?」
「俺が行く。エッガは俺が倒す」
「ヒャハハハハハハハハハ!御前にそれができるのかあ!?」
 エッガはそれを聞いてけたたましい、狂気を含んだ笑いを出した。
「御前ごときが、裏切り者があ!」
「俺は裏切り者じゃない」
 勇は彼に言った。
「俺は気付いたんだ、御前とは違う!」
「じゃあそれを見せてみろ!俺が潰してやるからなあ!」
「エッガ、待て」
 だがそこにジョナサンが出て来た。
「ジョナサン」
「勇、もう一度聞こう。オルファンに戻る気はないんだな」
「ああ」
「博士達が待っていてもか」
「俺はもうロンド=ベルにいる。オルファンに俺の居場所はない」
「親がいてもか」
「俺は御前とは違う」
 彼はそう反論した。
「御前みたいにコンプレックスがあるわけじゃないからな」
「コンプレックスか」
 ジョナサンにもそれは何なのかわかった。口の端を歪めて笑った。
「さっきので誤解したようだな」
「誤解!?」
「俺は母親というものを否定した。御前みたいにベタベタするということはない」
「なら」
 勇はそれを信じなかった。
「そこをどけ。俺は今エッガを倒す」
「ふん」
 しかしジョナサンはどこうとはしなかった。彼にも意地があるからであろうか。
「そう言われて易々とどくと思うか?」
「なら先に御前を倒すまで。行くぞ」
「待てよお、ジョナサン」
 エッガは今度はジョナサンに声をかけてきた。
「あいつは俺を狙ってるんだ。俺にやらせてくれよ」
「いや、駄目だ。御前は普段の御前じゃない」
 ジョナサンはそう言った。
「落ち着け。さもないと大変なことになるぞ」
「大変!?何がだ」
 声に含まれている狂気が増したように思われた。
「戦争やってるっていうのにこれ以上大変なことがあるのかよお」
「・・・・・・何を言っても駄目なのか」
「ジョナサン!」
 今度はシラーが声をかけてきた。
「今は話をしている場合じゃない!戦いをやってるんだ!」
「チッ」 
 それを聞いて舌打ちするしかなかった。
「わかった。ではそっちに向かう」
「そうするしかない。エッガは諦めろ」
「・・・・・・わかった。エッガ」
 最後にエッガに声をかけた。
「それではな」
「おうよお!」
 彼にはもう何もかもわかってはいなかった。ジョナサンが今どう思っているのかも。ただ狂気の中に身を置いているだけであった。気付かないのは彼だけであった。
 そして勇のブレンに向かう。剣を取り出し斬り掛かる。
「死ねえええええっ!」
「クッ!」
 勇はそれを受け止めた。
「勇!」
「ヒメ、来るな!」
 彼はヒメを制止した。
「けど!」
「こいつはエゴに溺れているだけだ!そんな奴に負けない!」
「じゃあ任せていいんだね!?」
「ああ」
 彼は頷いた。
「ここは俺一人でやる。ヒメは他の奴等を」
「わかった」
 ヒメもそれを聞いて頷いた。
「じゃあここは君に任せるよ。ナンガさん、ラッセさん」
 共に小隊を組む二人に声をかけた。
「いこ。そして他のことしよ」
「わかった」
「勇、ここは任せたぞ」
「はい」
 彼等は小隊を分けた。そして勇はそのままエッガとの戦いを続けた。
 エッガの攻撃は執拗であった。動きも破天荒なものでありとらえどころがない。だが勇はそれを的確に防いでいた。
「勇さんも凄いんだなあ」
 シンジはそれを見上げて呟いた。エヴァはノヴァイス=ノアの甲板の上で艦の護衛にあたっていた。
「あんなに強いなんて思わなかったよ」
「彼も目覚めたのですよ」
「ジョルジュさん」
「うっ」
 アスカはシャッフル同盟が出て来たのを見て引いた。シンジに言おうとしたところを先を越された形となった。
「人というものは吹っ切れれば、きっかけがあれば変われるものなのですよ」
「そうなんですか」
「シンジ君、貴方もね。かなり変わりましたよ」
「いや、僕はそんな」
 それには謙遜した。
「あまり。というか全然」
「それは違うと思うわ」
 だがそれはレイによって否定された。
「最初の頃と比べると。まるで別人よ」
「そうかなあ」
「少なくとも甲児達には近くなったわよ。あと宇宙に行った三馬鹿」
「おい、そりゃどういう意味だ!」
 不意にタップの声が聞こえた。
「えっ、いたの!?」
「悪い悪い、俺だ」
 驚くアスカの前にヂボデーがモニターから出て来た。
「ちょっとからかってみたくなってな」
「驚かさないでよ。心臓が止まるかと思ったじゃない」
「あれ、アスカの心臓って鉄でできてるんじゃないの!?」
「サイシー、あんたねえ」
 アスカは顔を顰めさせた。
「レディに言っていいことと悪いことがあるってわからないの!?」
「マドモアゼル=アスカ」
 ここでジョルジュがまた言った。
「レディは常におしとやかでなくてはなりませんよ」
「くっ」
「まあそういうことだな。レディでなければ別に構わないが」
「アルゴさんてワイルドなのが趣味なの!?」
「マドモアゼル=アレンビー、貴女もですよ」
「ちぇっ、ジョルジュさんは厳しいなあ」
「とにかくねえ」
 アスカは強引に話を戻しにかかった。
「シンジはまだまだってことなのよ。ちょっとはましになってきたけれどね」
「ホンマ素直やないなあ」
「うっさいわね、あたしはいつも本音しか言わないわよ」
「ではその本音とやらを見せてもらおう」
「どうやって!?」
 ドモンに声を向けさせた。
「戦いだ!それ以外何があるというのだ!」
「・・・・・・やっぱりね」
 予想していたが実際に聞くとかなり呆れてしまった。
「今からそれを見せてもらおう!」
「言われなくてもやってやるわよ。もう来てるし」
 見れば防衛ラインをかいくぐってグランチャーが数機来ていた。
「あんた達もやんなさいよ。海の上で大変でしょうけれど」
「笑止!」
 シャイニングガンダムは水面を蹴った。そして空に飛び上がった。
「海の上であろうと俺は遅れはとらん!食らえええええええええええええっ!」
 敵のグランチャーに攻撃を仕掛ける。そしt一撃で破壊してしまった。
「まだだ!」
 そして別の機も。どうやら彼にとって海での戦いもそれ程苦とはならないようである。
 アスカはそれを見ていささか呆れるものがあったが戦場に心を戻した。そして上空のグランチャーに対して射撃を開始した。
「行くわよ、三人共!」
 ポジトロンライフルを放つ。それで敵を次々と一掃していく。
「ぼやぼやしてるとあたしが全部撃ち落としちゃうわよ!」
「そら無理やろ」
「突っ込む暇があったら攻撃する!」
 トウジに対しても臆するところはない。
「いいわね、これって戦争なのよ!」
「ええ」
 レイはそれに頷いた。そして甲板を蹴った。
「なっ!?」
「上の敵への攻撃は下から撃つだけじゃないから」
 そう言いながらナイフを取り出す。そしてそれでグランチャーを斬り裂いていった。
「何てやり方・・・・・・」
「さっきドモンさんのを見て思いついたの」
 着地しながらそう答えた。
「意外と有効よ。やってみたら」
「うう」
「僕は遠慮しておくよ」
「あら、どうして」
「危ないからね。やっぱり下から地道に撃っていくよ」
「そうなの」
 シンジのその言葉を聞いてもレイはいつもの調子であった。心の中ではどう思っているかわからない。あくまで感情を表には出そうとしなかった。それがあればの話ではあるが。
 ノヴァイス=ノアの方の護衛は万全であった。それがわかっているからこそロンド=ベルの攻撃は熾烈なものであった。それはグランチャー達にとっては実に厳しいものであった。
「まずいな、これは」
「ジョナサン、臆したか」
「そういう問題じゃない。ただ純粋に戦局を見ているだけだ」
 彼はシラーにそう答えた。
「それは御前にだってわかるだろう」
「だが退くつもりはないぞ」
「まだ戦うつもりか」
「今はな。それにあいつも気になる」
「・・・・・・あいつか」
 それに応える形でエッガを見る。彼の狂気はさらに高まっているようであった。
「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「まだ!」
 狂人そのものの笑いを叫びながら攻撃を仕掛け続ける。次第にそれは攻撃というよりは衝動による動作となりだしていた。勇はそれを受け止めていた。
「死ね、勇!死ね、死ね!」
「まだ言うか!」
「あれはもう駄目だろうけれどな」
 一度は見放しながらもシラーはまだ彼を見ていた。
「このままでは破滅するだろうな」
「だが俺達にはどうしようもない。最初にそれは言ったのは御前だぞ」
「私に何と言えというのだ?」
「別に何かを言えとは言うつもりはない」
「じゃあ」
「とにかくそろそろ撤退を考えるぞ。このまま戦っても何にもならん」
「またか」
「仕方ないことだ。今はな」
 ジョナサンの方が戦局を冷静に見ていると言えた。師ラーはそれを実感していたが口には出さなかった。ジョナサンより劣っていることを認めるのが癪だったからだ。
 その間もエッガの勇への破壊衝動は収まらなかった。やがて剣を持っていない方の手でも攻撃をはじめた。足まで使おうとしていた。
「何処までも・・・・・・!」
「どうしたあ!?驚いたかあっ!」
 エッガの目にはもう勇は映ってはいなかった。別のものを見ていた。それが何なのかは自分自身ですらわかってはいなかった。そこまで狂気に支配されてしまっていたのだ。
「まだまだ続くぞおおおおっ!」
「いや、続かない」
「何っ!?」
 勇のその冷静な言葉に反応した。
「今何て言ったあああああ!?」
「御前はここまでだ。もう御前の動きはわかった」
「戯れ言を!」
「戯れ言じゃない、食らえ!」
 勇は剣を一閃させた。
「これが戯れ言じゃない証だ!」
 エッガのグランチャーの腹を切り裂いた。それで完全に息の根を止めてしまったのだ。
「何のっ!」
「まだっ!?」
 エッガはそれでも動こうとした。しかしそれは適わなかった。
「な、どうしたよ俺のグランチャー!」
 空しく力をなくしていっていた。そして所々から破滅の音が聞こえてくる。
「力があるんだろう!?御前はジョナサンにも劣らない力があるんだろう!?」
 だが返答はない。火が噴きはじめた。
「そう言ったじゃないか!御前は俺と一緒に」
「どうやら終わりのようね」
 ミサトはグランガランの艦橋でそれを見て言った。
「あの男は力に溺れました」
「はい」
 シーラの言葉に頷いた。
「そうみたいですね。だから破滅した」
「破滅は自らが招くもの。彼はそれに気付きませんでした」
「オルファンを潰して。うおっ!?」
 爆発した。そして彼は愛機と共にその中で果ててしまったのであった。
「あれがグランチャーに取り込まれた男の最後か」
「無残なものだな、おい」
 ショウとトッドがそれを見て言った。嫌悪感を露わにした顔であった。
「死んだか」
「ああ」
 ジョナサンにシラーがそう答えた。
「エッガは死んだ。グランチャーに取り込まれてしまった」
「馬鹿な奴だ」
「自業自得とは言わないのか」
「・・・・・・言えないな」
 ジョナサンの返答はそれであった。
「あいつとは確かに色々あったが。仲間だった」
「で、これからどうするんだ?仇を取るか?」
「取れたら取るべきだが。今じゃない」
「どういうこと、それは」
「戦力を失い過ぎた。今はオルファンに撤退だ」
「わかった。ではそうするか」
「ああ」
 ジョナサン達も撤退した。こうして太平洋上での戦いは幕を降ろしたのであった。
「敵機の反応、消えました」
 ミドリがレーダーの反応を見ながらそう報告した。
「オルファンまで撤退したようです」
「そうか」
 大文字はそれを聞いて頷いた。
「とりあえずは撃退したか。だが恐ろしいものを見てしまったな」
「ええ」
「グランチャーにも色々と問題はあるようだ。要は使う者の心次第ということか」
「それはどのマシンにも大なり小なり言えますね」
 サコンがそれに応えた。
「モビルスーツにしろそうですしマジンガーにしろ」
「確かにな」
 甲児がそれを聞いて頷いた。
「マジンガーが悪い奴等の手に渡ったらとんでもねえことになっちまう」
「一度ゲッタードラゴンが敵の手に渡ったが。てこずったしな」
 竜馬がそれを聞いて話に入ってきた。
「それを考えるとな。要は使う人間の心次第だ」
「はい」
 エレもそれを聞いて応えた。
「オーラーバトラーもそうです。もし使う者が悪しきオーラ力に支配されていたならば」
「大変なことになりますな。ドレイクのように」
「ドレイク」
 ショウはそれを聞いて眉を動かせた。
「あの男だけであってくれればいいが」
「どうしたんだ、ショウ」
 ニーがそれを聞いて彼に顔を向けた。
「あの男の他にまだ危険な奴がいるのか」
「ジェリルのことを覚えているか」
「ジェリル」
「あの女のオーラ力・・・・・・。どんどん禍々しいものになっていく」
「確かにな。戦う度にひどくなっていく」
「あのままいったらどうなるのかしら」
「そこまではわからないが」
 ショウはキーンにも応えた。
「恐ろしいことが起こりそうな気がする」
「どんなことなの?」
「だからそれはわからないって言ってるだろ」
 チャムにはそう返した。
「俺の取り越し苦労であって欲しいが」
「どっちにしろあの女は危険だね」
 ガラリアもそれに同意した。
「あたしにはわかるんだよ。ああした状態ってやつがね。嫌な気持ちさ」
「ガラリア」
「マーベル、あんたにはわからないかもしれないけれどね。あたしも昔はああだったんだ」
「そうだったな」
 トッドがそれに同意した。
「お互い道を踏み外すところだったぜ」
「まさかあんたとこっちで一緒に戦うことになるなんて思わなかったけれどね」
「おい、それは言うなよ」
「ふん、似た者同士仲良くしようよ」
「お断りだね。御前さんはタイプじゃないんだ」
「おやおや」
 戦いの後のそんなやりとりであった。しかしそれはすぐに中断された。
「大文字博士」
 大空魔竜のモニターにゲイブリッジが姿を現わした。
「何かあったのですか」
「はい。今回の作戦のことですが」
「それなら御心配なく。予定通り続けます」
「いえ、そうではなくて。先程連邦政府から連絡がありまして」
「連邦政府の」
「また何か変なことじゃねえだろうな」
 サンシローがそれを聞いて悪態をつく。
「作戦を中止しろだの」
「その通りだよ、サンシロー君」
「何ですと!?」
 大文字はそれを聞いて驚きの声をあげた。
「作戦を中止ですか」
「はい」
 ゲイブリッジは表情を変えることなくそれに頷いた。
「今こちらに連絡が入りまして。作戦を中止せよとのことです」
「それは何故」
「連邦政府はオルファンの危険性について認識を改めたようです」
「馬鹿な、急に」
「オルファンが危険なのは彼等も承知の筈では!?」
 ミサトも抗議した。
「それをどうして」
「ガバナーの仕業かもな」
「加持君」
 気がつくとミサトの後ろには腕を組んで立っている加持がいた。
「それはどういうこと!?そしてそのガバナーって」
「リクレイマーの統率者のことさ。それが一体誰なのかは俺も知らないが」
「噂では軍や政府にも強い影響力を持っているそうね」
「リツ子」
「そのようです。ですが彼等も力押しでそれをしたわけではない」
「どういうことですか!?」
「オルファン対策会議に代表を送ることを決定したそうだ」
 ゲイブリッジが勇に答えた。
「それは一体」
「君の御父上だよ。伊佐未研作博士だ」
「親父が」
 勇はそれを聞いて複雑な顔をした。嫌悪感と何処か懐かしさをまじあわせた複雑な顔であった。
「そうだ。これについてどう思うかね」
「時間稼ぎだ」
 勇は吐き捨てるようにそう言った。
「そんなの決まってるじゃないか。親父の考えそうなことだ」
「そうかしら」
 だがヒメはそれに疑問の言葉を呈した。
「だったら君のお父さんがわざわざ出て来ないんじゃないかな」
「どういうことだ」
「何かお話したいことがあるのは本当かも」
「その間にオルファン浮上の時間を稼ぎたいだけなんだ!」
 勇はそれを認めようとしなかった。
「よくあることじゃないか!どうしてそんなみえみえの策略に」
「けれど乗るのも面白いわよ」
「ミサトさん」
「勇君、元気があるのはいいけど少し落ち着いてね」
「・・・・・・はい」
 勇は憮然としながらもそれに従った。
「これはチャンスよ。オルファンのことについて知る為にね」
「そうなんですか」
「ええ、そうよ」
 ミサトは満面の笑みで頷いた。
「何か考えがあるわね、期待してるわ」
「任せといてよ」 
 最後に明るい声がグランガランの艦橋に響いた。ミサトの頭脳が今動こうとしていた。


第三十八話   完


                                     2005・8・11

 
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