ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語
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SAO編 主人公:マルバ
壊れゆく世界◆ユイ――MHCP001
第三十八話 死神の鎌が守るもの
前書き
ユイ編もうちょっとで終了です!
「これが、茅場晶彦が隠したもの……?」
「本当にただの石だな。特に怪しい点はない」
全員が石を取り囲んで調べ始めた。アスナは一人、ユイと一緒にそれを見ている。すると、ユイがアスナの手をほどいて石に駆け寄った。
「あっ、ちょっとユイちゃん! 邪魔しちゃだめでしょ!」
慌てて止めようとするアスナだが、彼女が止める前にユイが黒い石に触れた。
その途端。
ヴン、という音とともに石の上方30センチメートルあたりに巨大なスクリーンが現れ、石の上にホロキーボードが浮かび上がった。全員が驚いて一歩引く。ユイを中心に展開したそれらの異質なオブジェクトは、まるで何かの操作機器のように見えた。
画面に文字が浮かぶ。
【Cardinal System Ver.4.5 CUI Console】
Login ID : Yui-MHCP001
Pass EEG checking..........SKIPPED!
Logging in succeeded!
Loading Libraries..........DONE.
Welcome to Cardinal System!
ERROR! There is an error occurd on MHCP's I/O program.
Starting fixing....
次々と浮かぶ文字を、全員が驚いて見つめた。
「これ、ユイが触れたから動いたんだよ、な……?」
「ユイちゃん、これ一体……ッ、ユイちゃん、大丈夫!? ユイちゃん!!」
アスナがユイに話しかけようとして、その異変に気づいた。ユイの身体が脚から消滅を始め、ユイ自身も何が起こっているのか分からずにとても恐怖している。
「ママ、なにこれ、こわい! こわいよ、ママ! たすけて!!」
「ユイちゃん!!」
ユイが伸ばした手をアスナがつかむ前に、ユイは完全に消滅した。
アスナは驚きと恐怖で固まったが、画面から聞こえたビープ音に驚いてそちらを見る。
Starting fixing.........DONE.
Fixing errors..........
Fatal ERROR : Lack of library/libraries found. Library type : Language Dictionary
Loading Dictionary............OK. The dictionaries has successfully added.
Fatal ERROR : Broken AI system(s) found. System type : Memory System / Emotional Simulation System
Rebuilding broken programs.............OK. The systems has successfully rebuild.
Fixing errors successfully done!
Restarting AI.........OK.
Rebuilding polygon figure.........DONE.
最後の行が表示させると同時に、ユイが青い柱に包まれてその場に再び現れた。彼女はショックを受けたようにその場に立ち尽くしている。
「ユイ……ちゃん……?」
アスナが恐る恐る呼びかけると、ユイは泣き笑いの顔で振り向いた。
「全部、思い出したよ……。パパ、ママ……!」
それからユイ自身の口から語られた事実はあまりにも驚くべきことだった。
ユイ自身はAIであり、カーディナルシステムの開発者たちがプレイヤーの精神的な問題を解決するために作られたプログラムだということ。おそらく茅場晶彦によって下された命令によりプレイヤーへの干渉を禁じられ、何もできなくなったユイはただひたすらにプレイヤーの感情のモニタリングを続け……そして、彼女に備わった感情模倣機能が、閉じ込められて狂気に陥ったプレイヤーの感情を見事に模倣し、自己崩壊したこと。そんな中偶然発見したキリトとアスナの感情を観察し、彼らに会いたい一心で彼らの元に現れたこと。
「わたしは自己崩壊と同時にカーディナルの監視対象から外されたようです。以前の権限は失っていますが、システムへの簡単なアクセスは今も可能です。最も、やりすぎればすぐに異物として消去されるでしょうけれど」
「そんな……それじゃあ……ユイちゃんは、消えちゃうの?」
「いいえ、現在わたしはシステムの監視対象から外されています。監視対象に入らなければ消去の対象にはなりません」
キリトがユイに歩み寄ると、柔らかい口調で尋ねる。
「ユイはもう、システムに操られるだけのプログラムじゃない。だから、自分の望みを口にできるはずだよ。……君の望みは、なんだい?」
「わたしは……わたしは……っ!!」
ユイはその細い腕をいっぱいに伸ばすと、キリトとアスナに向かって叫んだ。
「ずっと一緒にいたいです……! パパ、ママ……!!」
アスナは流れる涙を拭おうともせずにユイに駆け寄り、その身体をぎゅっと抱き寄せた。
「ずっと、一緒だよ……っ、ユイちゃんっ」
少し遅れて、キリトの腕もユイを包み込んだ。
「ああ、ユイは俺たちの子供だ。家に帰ろう。みんなで暮らそう、いつまでも……」
マルバは抱き合う三人の邪魔をしないようにコンソールに近づき、調べ始めた。
先ほどユイが言ったとおり、ユイの管理者権限はシステムに簡単なアクセスができそうだった。とりあえずリターンキーを叩き、コマンドの入力画面を開く。
すぐにプロンプトが表示され、キーボードを介した命令の入力が可能になった。ヘルプコマンドを入力し、可能な動作の確認を行う。
カーディナル内部で作動中のプロセス群の一覧からMHCPと書かれているものを探しだせた。そのプロセスがロックしているファイルを検索すると、ロックされているファイルはたったひとつのディレクトリ内部に収まっている。引っかかったディレクトリが恐らくユイそのものなのだろう。
「ユイ」
マルバの問いかけに、ユイが答える。
「なんですか、お兄ちゃん」
「その呼び方、アイリアとかぶるから止めて。にぃでいいから」
「この喋り方だとにぃは合わないと思うんですが」
「じゃあ兄さんでもなんでもいいから。いやそんなことはどうでもいいんだ。これ、ユイでしょ?」
マルバが示したファイル郡とそれが収められたディレクトリ名を見て、ユイは驚いた。
「確かにこれはわたしです。兄さん、すごいですね。よく分かりましたね」
「まぁね。こういうのは得意なんだ。それで、これを例えばキリトのナーヴギアのローカルメモリに転送するとかできる?」
「原理上は可能です。そうですね、行なっておいた方がいいかもしれません。消去不可に設定しておけばいくらカーディナルといえども管理者の許可なく消せなくなるでしょうから」
「バッチファイル組んでくれないかな。僕がやってもいいんだけど、ちょっと不安だから」
「そうですね。私が起動している間はファイルにアクセスできませんから、わたしが自分で転送するのはできませんし。ここにバッチファイルを組みますね」
ユイが作業を始めると、アスナがマルバに説明を求めてきた。
「マルバ君、一体何を?」
「ユイをキリトのナーヴギアに転送するんだよ。現実世界でも君たちと一緒にいられるようにね」
「そ、そんなことできるの!? それじゃ、私は本当にユイちゃんとずっと一緒にいられるの?」
「ああ、もちろん。ずっと一緒さ」
ユイが振り向いた。本来ならバッチファイルは一瞬で作成できるはずだが、カーディナルシステムに見つからないようキーボードから操作していたため作成に手間取ったようだ。
「できました。それじゃ、私は一旦終了するので、転送をお願いします。転送が終了したら勝手に再起動しますので」
「ほいほい、了解。それじゃおやすみ」
ユイが一旦目を閉じると、その身体が溶けるように消えた。マルバがキーボードに短いコマンドを入力すると、先ほどユイが作ったバッチファイルが起動し、一つのプログレスバーが表示される。皆が見守る中、そのバーが埋まり、先ほど消えたままの姿勢でユイが再び出現した。
「これでユイはキリトのナーヴギアのローカルメモリに保存されたから、きっと現実世界に戻っても一緒にいられると思うよ」
マルバの言葉に、キリトとアスナは本当に嬉しそうに微笑んだ。
後書き
最もお粗末な話でしたね、はい。
次回はついにミズキの話に入ります。最も需要が低そうだけれど、私としてはけっこう頑張った話なので楽しみにしていただけたら嬉しいです。
次回予告! ミズキとマルバ、アイリアの関係性が明らかに!! まさかの展開(予測した人はけっこういそうだけれど)にご期待ください!
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