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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第40話 激突!七つの軍団

 場所は戻り、光子力研究所のベランダでは甲児達が平和の時を楽しむかの様にラジオから流れる軽快な音楽に合わせて楽しくダンスを踊っていた。

「ちぇっ、こんな暑い時に良く踊れるわねぇ!」

 ラジオの横でボスは団扇を片手に仰いでいた。どうにも自分は踊る気になれないらしい。
 やがて、曲が終わり皆一息ついていた。

「ふぅ、良い汗かいたぜ」
「ねぇ、これから皆で海にでも行かない?」

 さやかの提案であった。勿論それを聞いて甲児がNGを出す筈がない。さやかの水着姿を拝めるのだから尚の事OKでもあった。

「ところで兜ぉ。シローの奴はどうしたんだ?」
「シローちゃんだったら誕生日プレゼントの買い物に行ったわよ」
「誕生日?」

 甲児が首を傾げた。するとさやかが呆れたような顔を浮かべて甲児を見る。

「何言ってるのよ。今日は甲児君の誕生日じゃない!」
「いけねぇっ! 余りに暑いんで忘れてたよ」

 甲児のおとぼけ発言にドッと回りが笑い出す。その時、突如ラジオの曲が止まる。

【番組の途中ですが、此処で臨時ニュースをお送りします。突如出現した謎のロボット軍団が出現し、世界各国の大都市が壊滅的な打撃を受けました】
「何だって!」

 その放送を聴いた途端、皆の顔色が一気に引き締まった。

「兜、預言者の言った事が本当になりやがったぞ!」
「ちっ、こんな時に…」

 甲児は愚痴った。となれば残るは東京だけとなる。

「さやかさん、俺はすぐにマジンガーZで東京に向う」
「大変! 東京って言ったらシローちゃんが買い物に行ってる所よ!」
「なんだって!」

 よりによってであった。早く行かなければシローが危ない。
 急ぎ甲児はマジンガーZ出撃させに走った。





     ***




 丁度その時、まだその報せを聞いていないシローは一人東京のデパートで買い物の品を探していた。

「う~~ん、兄貴にはどんなプレゼントが良いなかぁ~?」

 シローが兄貴である甲児の誕生日プレゼントを決める為商品の中を右往左往していた。普段は馬鹿兄貴などと言っては居るがやはりたった一人の肉親だからだろう。こんな時はである。

「あれ? シロー君!」
「ん、その声は…」

 何処かで聞き覚えのある声がした。振り向くと其処に居たのは見覚えのある少女であった。
 栗色の髪をし、両端で小さく束ねた髪型をした少女である。

「やっぱり、なのはじゃん! 久しぶり」
「本当だね。今日はどうしたの?」
「あぁ、何時も馬鹿やってる馬鹿兄貴の誕生日のプレゼント探しって奴さ」

 鬼の居ぬ間のなんとやら、である。本人が居ないのを良い事に散々好き放題言っている。そんなシローを見てなのはが苦笑いを浮かべていた。

「あはは、でもそれだと私と一緒だね。実は私も甲児さんの誕生日のプレゼント探してたんだよ」
「へぇ、良く知ってたねぇ。ま、あの馬鹿兄貴の事だからカップ麺でも渡しておけば良いかな?」
「そ、それは幾ら何でもじゃないかなぁ」

 幾ら何でも誕生日にカップ麺はない物である。

「って言うけどなぁ。具体的にどんなのが良いかなぁ?」
「だったら一緒に探そうよ。私もまだ見つけてないし」
「サンキュー。そんじゃ俺は向こう見て回ってるからなのははそっちを頼むよ」
「うん」

 頷く。そしてシローが向った先は、玩具売り場であった。もしかしてシロー自身が見たかっただけなのでは?
 そう思いながらなのはは甲児のプレゼントを探す事にした。なのはが訪れたのは多少手の込んだ小物などが見受けられた。
 どれも値段も手頃なのが多く見た目もそれなりに良いのがある。探すなら此処が良さそうだろう。
 そう思いながら品を物色している時だった。ふと、横を見た際に自分と同じように小物郡を見ている少女が居た。
 髪の色は自分と同じか若干濃い目。ボブカットの髪型で車椅子に座っている少女であった。
 その少女が必死に手を伸ばして何かを取ろうとしているのが見えた。

「これですか?」

 見兼ねたなのはがそれを手に取り少女に渡してあげた。どうやら皿だったようだ。

「おおきに、この間お気に入りのお皿が割れてもうて新しいの買いに来たんやけど、此処って何でも揃ってて便利やなぁ」
「もしかして、君此処の子じゃないの?」
「ううん、私は海鳴出身やで」

 どうやら彼女も自分と同じ海鳴市出身なのだろう。同じ出身のそして同じ年の子を見ると何処か親近感が沸く。

「そうなんだ。私も実は海鳴市出身なんだよ」
「ほんまに? でも、何でその子が此処に?」
「今日は私のもう一人のお兄ちゃんの誕生日なんだ。そのプレゼントを買いに来たの」
「そうなんかぁ。あ、そなら向こうに良いのがあったよ」

 少女が指差す。其処にあったのは小さな箱であった。装飾も綺麗だし小物入れにはもってこいな物だろう。
 なのはがそれを手に取り蓋を開ける。すると開けた中から綺麗な音色が流れてきた。どうやらこれはオルゴールの様だ。

「うわぁ、良い音色だなぁ。有難う! これならきっと喜んでくれるよ」
「さっきのお礼や。そう言えばまだお互い名前知らなかったやん」

 ポンと手を叩いて少女が思い出す。折角知り合えたのだ。お互い名前を知っておくのも良い機会かも知れない。

「私、高町なのはって言うんだ」
「私は八神はやてや。よろしゅうね」

 お互い笑顔を浮かべて名乗った。楽しい時間であった。
 だが、その楽しい時間を裂くかの様に突如緊急勧告が流れ出す。

【お客様にご連絡いたします。突如謎のロボット軍団が襲来したと言う報告がなされました。至急当デパートの地下シェルターに避難して下さい。繰り返します…】
「ロ、ロボット!?」
「そんな、Dr.ヘルが居なくなったのに、何で!?」

 突如デパートの中が大パニック状態になった。辺りで買い物をしていた人達が我先にとシェルターに向かい雪崩れ込んでいく。
 勿論、その波の中になのはとはやての姿もあった。しかし、人と人との怒涛の荒波のせいか二人は何時しか離れ離れなってしまった。

「おい、なのは! こっちこっち!」
「シロー君!」

 シェルター内にはシローの姿があった。どうやら偶然近くだったので苦労もなく入れたのだろう。シェルター内に入った人達は皆安堵の表情を浮かべる。
 だが、周囲を見た時にそれに気づいた。はやてが居ない。

「シロー君、これ持ってて!」
「え? 何だよこれ」
「甲児さんのプレゼントだよ。私ちょっと人探してくる!」
「あ、おい! なのは!!」

 シローの制止を振り切り、なのはは再び危険なデパート内に駆けて行った。
 急がなければならない。でなければ、待っているのは死だ。




     ***




 東京上空では謎のロボット軍団が襲撃に現れた。だが、その前に敢然とたちはだかる巨人の姿があった。マジンガーZである。

「やいやい! 折角平和になったのにそれをぶっ壊しやがって! 日本にはマジンガーZが居るって事をてめぇらに思い知らせてやらぁ!」
「ふん、大口を叩きおって」

 甲児はギョッとした。機械獣が喋ったのだ。今までの機械獣は皆怪獣と同じであった。即ち機械の獣である。自我など有る筈がない。
 だが、目の前の敵は違った。皆機械と言うよりはどちらかと言うと生物のそれに近い。だが、決して怪獣のように生き物とも言えない。どっちつかづな存在に思えた。

「これでも食らえ!」

 突如、目の前に立っていた敵が持っていたソーサーを投げてきた。その姿は正しく悪霊、もっと簡潔に言えば幽霊の類に見えた。不気味な姿をしたそれが投げてきたソーサーがZの首元に命中する。
 余りの威力にその場え一回転してしまう。が、すぐさま態勢を立て直しカウンターにと光子力ビームを放った。
 しかしそれは命中せず、ロボット軍団全員が散らばってしまう。

「くそっ、こいつら以前の機械獣やメカザウルスとはまるで違う。まるで生きてるみたいだ!」

 甲児は気味悪さを感じていた。こいつらは今までの敵とはまるで違う。恐らく強敵なのだろう。
 その時だった。鳥の姿をした敵が鉤爪を振り上げて襲ってきた。狙いはパイルダーであった。
 咄嗟に腕でガードする。金属が擦れる嫌な音がした。防ぎ切った後、腕を見た。Zの腕には鉤爪の跡がハッキリと残っている。恐ろしい威力だった。超合金Zの装甲が抉られたのだ。だが、まだ致命傷じゃない。

「待ちやがれ!」

 憤りを胸に甲児は鳥型の敵を追いかけた。無我夢中で追いかけていた為にその敵の立てていた作戦に気づく事が出来なかった。
 丁度海の上を飛行していた時、海面から突如巨大な魚の姿の化け物が現れてZの足を咥え込むとそのまま海中へと引きずり込んでしまったのだ。

「しまった! あいつら俺を嵌めやがったな!」

 舌打ちする甲児。マジンガーは水中戦でも幾らかは戦える。だが決して得意ではない。その証拠に海中に引きずり込んだ魚の姿をしたロボットがほくそ笑んでいた。

「ホホホ、海の中ではこちらの物。海底でくたばるが良い!」

 そう言うなり尾びれの一撃が飛んできた。水圧の影響もあってかその威力はとんでもない。良い様に攻撃されるだけとなってしまった。




 マジンガーZが海底で足止めを食らっている間。敵ロボット軍団の凄惨は破壊活動は続いた。
 ビルと言うビルを薙ぎ倒し。道路を砕き、あらゆる文明の遺産が破壊されていく。
 地上では逃げ惑う人々が大勢居た。その人々に対しロボット達の無情な攻撃は行われた。ビルの瓦礫、毒液、殺人光線。
 東京は忽ち地獄絵図と化してしまった。




     ***




 なのはは未だにデパート内を探し回っていた。辺りからは凄まじい振動が感じられる。急がなければならない。
 焦りが募る中、なのはは見つける事が出来た。はやての車椅子だ。乗り手は居らず横転した車椅子のタイヤが空しく回転している。
 これがあると言う事は近くにはやては居る筈。辺りに視線をめぐらせる。
 すると、車椅子から丁度10メートル位離れた所にはやては居た。陳列棚に足を挟まれて動けなくなっていたのだ。

「はやてちゃん!」
「な、なのはちゃん…来てくれたんやねぇ」

 今まで恐怖で押し潰されそうになっていたのだろう。はやての目元にはその証拠である涙の跡が残っていた。なのはははやての足を挟んでいた陳列棚に手を掛けた。
 幸い品物が入ってなかった為かそれ自体は重くない。力を込めて少し持ち上げる。少しだがはやての足が自由になれる空間が出来た。

「今なら、はやてちゃん! 早く出て」
「うん!」

 ほふく移動の要領ではやては陳列棚から離れた。そして、ようやく開放された事を知り安堵する。
 そんなはやてになのはは近づき、彼女もまた安堵の顔をした。

「良かった。はやてちゃんが無事で」
「ほんま有難う。なのはちゃん。これで二度目やね」
「ううん、良いよ。それより早くシェルターに…」

 言い掛けた時、突如激しい振動が辺りに伝わってきた。此処のデパートが攻撃されたのだ。その際突如天井が崩れて降って来た。

 「くっ」

 咄嗟になのはは普段ぶら下げているであろう待機状態のレイジングハートを起動させようと手を掛ける。だが、なのはは首に掛けていたレイジングハートを握る事はしなかった。

(此処であの力が発動したら…はやてちゃんは)

 なのははあの時の赤い光を思い出していた。見える者全てを傷つける怒りと憎しみに支配された赤い光。
 もし魔法を使った際にまたあの力が発動したら、はやてにそれを防ぐ手立てはない。
 勿論此処に避難している人達も例外ではないのだ。彼等を傷つける訳にはいかない。だがこのままでは共倒れになってしまう。
 なのはは意を決し、はやてを思い切り突き飛ばした。突き飛ばされたはやては転がりながら、近くにあった頑丈なテーブルの下に転がり込む。それのお陰で瓦礫が彼女に降り注ぐ事はなかった。だが…

「なのはちゃん!」

 はやてが見た時、なのはに向かい無数の瓦礫が降り注いできた。激しい衝撃と砂煙のせいでなのはの姿は見えない。後になって見えたのは、山となった瓦礫であった。




     ***




 海中で苦戦を強いられているマジンガーZ。それをあざ笑う魚型の敵。

「これでもロボットとはねぇ。まるで赤子の手を捻るかの様に簡単じゃないかぃ?」
「ふ、ふざけんじゃねぇ! これでも食らいやがれ!」

 怒りを胸にそいつに向かいロケットパンチを放った。右手が咥えられる。其処へ空かさず両手からドリルミサイルを放った。放たれたミサイルの内数発が敵の胸部にあった顔に命中する。すると魚型の敵が苦しみだす。

「今だ! 光子力ビーム!」

 トドメにと光子力ビームを放った。すると魚型の敵は瞬く間に爆発し、残骸となった。甲児はそれを息を荒くしながら見ていた。
 だが、休んでいる暇はない。すぐ様海面から飛び出した甲児とマジンガーZの目に飛び込んできたのは紅蓮の炎に包まれた東京であった。

「ひでぇ…こいつはひでぇ…」

 それに尽きる。目の前に映っていたのは余りにも凄惨な惨劇の場であった。下では殺された人々の姿が、広がるのは瓦礫の町と化した東京があった。

「もう許さねぇ! 覚悟しやがれ!」

 甲児が敵軍団目掛けて飛び込んでいった。突如、蛇の姿をした敵の口から緑色の液体が放たれる。咄嗟に危険を感じ取りかわす。
 だが、液体はスクランダーの羽に命中し、その羽をミルミル溶かしてしまった。

「野郎! 汚いの吐くんじゃねぇ!」

 蛇の頭部と尻尾に向かいスクランダーカッターを当てる。首と尻尾が切断され、緑の液体と赤い体液が吹き出た後、それは絶命した。
 だが、緑の液体を浴びたもう片方の翼もドロドロに溶けてしまっていた。
 其処へ再びあの鳥型の敵がやってきた。

「馬鹿め、ジャラガの毒液はあらゆる金属を溶かす。その傷ついた翼では思うように飛べまい!」
「何だって!?」

 驚き、甲児はスクランダーの翼を見た。其処には確かに先ほどの毒液でドロドロに溶けてボロボロになった翼があった。

「そぉら、無様に地面に落ちるが良い!」

 鳥型の敵の放った突風によりZはバランスを大きく崩してしまう。立て直そうとするもボロボロの翼ではそれも出来ず地面に叩き付けられてしまった。
 それを待ち受けていたかの様に虫型の敵がZの前に立つ。

「こ、今度は虫野郎かよ!」

 倒れた巨体を立ち上がらせようとするも其処へ虫型の敵の一撃が叩き込まれる。

「うわっ!」

 凄まじいパワーであった。Zの巨体が軽々と吹き飛ばされたのだから。

「くそっ、とんでもないパワーだ! まだ頭がクラクラしやがる」

 頭を振って機体を起こそうとするも、それよりも早く上空に居た鳥型の敵がZの両肩を掴んで飛び上がる。

「こ、この野郎! 何しやがるんだ! 離しやがれ」
「ゲハハッ、ライゴーン! 行くぞぉ」
「よしきたぁ!」

 上空に飛び上がった鳥型の敵が前方に向かいZを放り投げる。其処へすかさず虫型の敵の拳が叩き込まれた。

「げほっ!」

 地面に叩きつけられるZ。甲児は体を動かせずに居た。余りの衝撃の為に体が動かなかったのだ。口の中が鉄臭い。
 恐らく中が出血したのだろう。不快な感じが口の中一杯に広がった。

「野郎! これ以上東京を壊されて溜まるか! 此処にはまだシローが居るかも知れないんだ。これ以上好き勝手されて溜まるかぁ!」

 丁度前後に敵が居る。二体共もうZに動く力などない。そう認識していたのだろう。その認識が甘かった。

「丁度良い位置に居やがるぜ! お返しに食らいやがれ!」

 前方の敵にはアイアンカッターを、後方の敵にはサザンクロスナイフを放つ。アイアンカッターは前方の敵の触覚を切り落とし、サザンクロスナイフは後方の敵の顔を傷つける。双方とも思いがけない反撃を食らった為かもだえ苦しむ。

「今だ! 光子力ビーム!」

 まず後方の敵に対しトドメとばかりにビームを放つ。ビームは敵を貫通し爆発した。残ったのはよろける虫型の敵だけだ。
 よろけながらもZに迫る。しかしその姿にかつての迫力は微塵も感じられない。

「てめぇもお返しだ!」

 Zの胸に赤い熱線が放たれる。ブレストファイヤーだ。それを食らった虫型の敵はその姿を形成しきれずドロドロに溶けてしまった。

「ぜぇ…ぜぇ…か、勝った……そうだ、シロー!」

 急ぎ、甲児はシローの捜索を始めた。内心不安を抱きながら捜索を続ける。頼むから、頼むから地面で倒れてる奴等の仲間入りにだけはなってないで欲しい。
 祈る思いで甲児はしろーを探し続けた。其処で、人だかりの出来ているデパートを見つける。
 建物事態は既に八割崩壊している。その中から大勢の人達が出ている。
 そして、その中にシローが居た。

「シロー!」

 Zから飛び降りた甲児はシローの元に向う。シローも甲児を見つけたのか安堵の顔になる。

「あ、兄貴!」
「シロー、無事だったのか? 良かったぜ」
「あ、あぁ…って、そうだ! なのはも此処に居たんだ!」
「何? なのはが!?」

 よりによってなんでこんな所に。甲児は回りを見回す。
 だが、何処を向いてもなのはの姿は見られない。

「まさか、まだデパートの中に…」
「マジかよ! すぐに探しに行かないと…」
「俺が行く。お前は此処で待ってろ!」

 シローの制止を振り切り、甲児は崩壊寸前のデパート内へと入っていく。中は既に瓦礫の山となっている。まともな箇所など一箇所もない。

「くそっ、何処だ! 何処に居るんだ!」

 甲児の中に焦りが募る。こんな場所だ。急がなければ何時崩れるか分からない。
 そうしている内に甲児が辿り付いた場所はシローが持っていた小物関係のフロアであった。其処もかなり酷い崩れ具合であった。
 その箇所を探し回っていた時、瓦礫の積もっていたテーブルの下に小さな片足が飛び出してるのを見つけた。

「あれは…なのは!」

 名を叫び、甲児はその足の主の下に向う。だが、其処に居たのは全く見知らぬ少女であった。

「お、お兄ちゃん…誰?」
「な、なのはじゃない…って、まだ逃げ遅れた子が居たのか」

 甲児は途端に苦い顔をした。まだ逃げ遅れた子を見つけられたのは有り難い。だが、なのはをまだ見つけられていないのだ。

「なのはちゃんを知ってるって…もしかして君がなのはちゃんの言ってたもう一人のお兄ちゃんなの?」
「それより、君もう一人の女の子を知らないかい? 髪の色は君と同じ位で両端を束ねた女の子なんだけどさ」
「うん…私、知っとる…」

 少女は頷く。それは有り難い事であった。すぐに探さなければならない。

「そうか、すぐに探したいんだ。道を案内してくれないか!」
「御免…私、行けないんや」
「そんな、どうして…」

 甲児は少女の足を見た。

「もしかして…歩けないのか?」
「…うん」
「そうか…だったら場所を教えてくれ! 何処に居るんだ」

 甲児が尋ねる。それに答えるように少女が指を指した。その箇所とは大きな瓦礫が山積みになってる場所であった。

「ま、まさか!」

 最悪の予感が頭の中を過ぎった。すぐさま甲児はその瓦礫の山に近づき、その瓦礫を必死に退けていく。やがて、有る程度の瓦礫を退けた時、見えてきた。
 小さな女の子の手だった。途端に甲児は青ざめた。更に急いで瓦礫をどけていく。
 全ての瓦礫を退け切った時、其処に居たのはなのはであった。
 全身血塗れとなりズタボロになった姿で横たわっていた。

「なのは…畜生! 何でこんなズタボロになっちまったんだよ! おい、しっかりしろ! 目を開けてくれ!」

 そっとなのはを抱き上げて頬を叩く。だが、全く反応がない。最悪であった。
 ふと、なのはの胸元に待機状態のレイジングハートがあった。甲児はそのレイジングハートを掴み取り目の前に寄せた。

「レイジングハート…てめぇ、何でなのはを助けなかった! 自分のマスターだろうが!」
【出来ませんでした】
「何?」
【マスターが魔力をシャットダウンしたんです。私達デバイスはマスターの魔力供給が無ければ結界を展開出来ません】
「なんだって! まさか…」

 甲児の中である光景が映った。かつてジュエルシード事件の際に発動した赤い光。その光の発動を恐れる余りなのはは知らず知らずに自分の魔力を封じてしまった。
 魔力が無くてはデバイスは補助が出来ない。
 今のなのはは、只の女の子となってしまった事となる。

「とにかく、今は一刻も早く此処を出ないと…おい! 其処の嬢ちゃん!」
「は、はい!」

 振り向き、甲児は歩けない少女を見た。いきなり言われたものだから少女も驚く。

「これから此処を出る。だが、生憎今の俺は両手が塞がっちまってる。悪いがあんた、俺の背中にしがみついてくれないか?」
「はい!」

 今は贅沢を言っては居られない。目の前の青年は瀕死の状態のなのはを抱えている為両手が使えない。
 自分が生きて此処を出るには死ぬ気でこの青年にしがみつかなければならない。
 少女は甲児の背中をよじ登り必死にしがみついた。

「行くぜ、しっかり捕まってろよ嬢ちゃん!」
「お願いします! それと、私は八神はやてって言います」
「そうかい、そんじゃ行くぜぇ、はやて!」

 なのはとはやてを抱えて甲児は走った。それと同時にデパートが崩れ始めた。刻一刻と崩壊が進んでいく。急いで出なければ生き埋めになってしまう。

「間に合えぇぇぇ!」

 見えてきた出口に向かい猛スピードで走る甲児。すぐ後ろでは崩壊の魔の手が迫ってきている。圧死か生き埋めか。
 そんな死に方は断じてしたくない。

「うおりゃぁ!」

 ジャンプして出口から飛び出た。その直後、デパートが崩壊し、瓦礫の山と化してしまった。
 無事に脱出出来た甲児はその場に膝をつき息を荒立てる。

「な、何とか間に合ったぜ…それより…」

 安心したのも束の間、甲児は腕の中で抱かれている瀕死の状態のなのはを見た。
 このままでは非常に危険だ。一刻も早く手当てしなければならない。
 だが、東京はこの通り火の海と化してしまっている。とても最寄の病院は使えそうにない。

「シロー、これから急いで光子力研究所へ向う。お前もZに乗れ」
「分かった」

 こうなれば光子力研究所へ連れて行くしかない。あそこなら多少の医療設備が整っている。急げばまだ間に合う筈だ。

「あの、私も連れてって下さい!」
「お前もか…分かった、じゃぁ一緒に来い!」

 今は意見の言い合いをしている場合じゃない。とにかく急ぐ必要があった。
 一同は直ちにパイルダーに飛び乗るとZとドッキングし、大空へと飛び去って行った。
 急いで光子力研究所へ戻る為だ。
 だが、甲児はまだ知らなかった。その光子力研究所も、既に謎のロボット軍団の手により壊滅してしまった事を…




       つづく 
 

 
後書き
次回予告

瀕死の重症を負ってしまった少女。そして傷ついた鉄の魔神。
新たな敵は更なる魔の手を伸ばしてくる。
そして、その魔の手は友の命を奪っていく。

次回「友の死」お楽しみに 
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