| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第6話 死に顔動画【ニカイア】(2)

「本当に、任せてしまってもよろしかったのですか?」

不満を表情に露わにしたノエルが、一歩前に出て自らの主へと尋ねた。

「……置いていかれちゃったんだから、分かりようもないわね」


 月村忍はある方向をずっと見つめたまま、視線を変えることなく自らの従者にそう返した。「……承知いたしました」やはり不満な表情は変えないが、ノエルが一歩後ろへと下がる。

 忍達は月村の屋敷の前、その広大な庭の中心に立っていた。
 初めは忍だけがそうしていた。リリムが嬉しそうに作戦を説明し、彼らが飛び立っていった後からずっと一人で立ち尽くしていたのだが、それを見とがめたノエルやファリン達が後からやってきて、それからずっとこうしている。

「『なれちゃったから』、か」

 口から漏れて出たのは、彼が去り際に忍に向かって言った言葉。
 忍も、彼についていきたいと考えた。実の妹の命がかかっているのだ、誰だってそう考えるだろう。だが、それを押しとどめさせたのが、今忍が口にした言葉だった。
 人の汚くて、暴力的な面を見てしまう事、そして、敵意を向けられることの怖さ。

『ジュンゴは、そういうのになれちゃったから……』

 そう彼は悲しそうに笑いながら言った。すずかと同じような年齢の少年がそう口にした事に、聞いた時は呆然としてしまったが、どうしてそんな事を言ったのか、今なら分かる。
 人の汚ない所を見るのは自分だけでいいと、忍達にそんな事へ関わって欲しくないという思い。世界の崩壊を経験し、その中で僅かでも人の変貌を見てしまった彼だから考えた、忍たちへの彼なりの気遣いだったのだろう。

「結局、彼にしっかり話そうとしなかったのが運の尽き、かぁ」

 しかし、汚れているのは自分たちも同じだ。むしろ、彼よりもずっと長い間そんな感情に向き合っていたはずなのだが、彼も実感を持ってそう言った事に驚いてしまい、結局置いていかれてしまった。

 もし仮に、彼に自分たちの事情を話していたら、こうはならなかっただろう。
 最近になって人を信じる事が少しずつ出来るようになったが、長い間人を信頼するという事を忘れていた自分には、人を遠ざける事で様々なしがらみから月村の家を、家族を守ろうとしてきたのだが、今回はそれが裏目にでてしまったようだ。

「そもそも、彼は本当の意味で独りだったんだし、そんなしがらみなんてあるわけないでしょうに。なら、別に彼に知られても良かったでしょうに」

 そう過去の自分へと、忍は眉をしかめながら愚痴ってみる。
 するとふと、自分が今言った事がとてもいい案ではないかと思えてしまった。初めから人を疑ってかかるのではなくて、こちらから信じようとする事。そんな発想をした事のなかった忍には、それがとても素晴らしい事に思えた。

「そうねぇ、どの道彼には知られちゃってるんだし」

 彼が帰ってきたら、自分たちから“夜の一族”の事を打ち明けてみる。悪魔なんて従えてる彼だ、自分たちの事も容易に受け入れてくれるのではないだろうか?

「……ふふっ。何だか、面白くなってきたじゃない」

 口角が押し上げられるように笑みが自然にこぼれ出てしまう。
 ファリンが自分の様子が変わったことに驚いてるようだが、それが気にならないくらい、今の忍は自分の考えを実行することが待ち遠しくなっていた。

 けど、

「まずは、すずかたちが無事に帰ってこないとね」

 そう言って笑みを消し、真剣な顔で再び彼の飛び去って行った方向を見た。そうして、祈るように呟くのだった。

「すずかを頼んだわよ……、純吾君」





「あっれぇ〜、みんなこっち向いてどうしちゃったのぉ?」

突然現れた存在に始め戸惑っていた男たちが、場違いに明るい雰囲気をだす闖入者が少女———それも滅多にお目にかかれないほどの美少女だと悟ると、包囲をすずか達からその少女へと移した。

男たちは正直退屈していた。
彼らが依頼人から受けたのは小学生二人の誘拐。一人はそれを出汁にして身代金と会社の経営方針の変更を迫り、もう一人はどこかの研究所へ研究材料として高値で売り飛ばす、と聞いたが自分たちが直接やる事は小学生のガキの相手というケチな事だけ。
そんな所に、これから自分がどうなるか全く考えていな様な女が突然やってきたら、興味がそちらに向かないわけが無い。「こいつぁ楽しめそうだ」と、誰かが舌なめずりする。

少女は白いタートルネックの服装をへそから首下までチャックを開け、下も白いホットパンツという煽情的な恰好に伸びやかな肢体をつつんでいる。
興味深げにあたりを見回す純粋な少女のようにらんらんと光る眼や、この場では不自然にも感じるが、魅力的な笑みを浮かべた口元。
 それを見た男たちの間から「ガキみてぇな奴だ」「あぁ、だが本当に今日はついてるぜ」と囁きが聞こえる。
何せ、目の前の彼女は周りに気をとられて、自身の優れた容姿や肢体が男たちの欲望の捌け口としていかに魅力的であるか、考えてもいないのだろうから。

「嬢ちゃん、こんなところに何しに来たんだい?もしかして、迷子にでもなったのかい?」

男の一人が酷く優しく、馬鹿にしたような口調で語りかける。
巻き起こる哄笑。完全に自分たちの優位を信じきった歪んだ笑い声が少女の耳に喧しく響く。

「いやぁ大変だなぁ、もう夕方で真っ暗になってきたし、淋しかったったんじゃないかぁ?」

「そりゃあいけない。お兄さんたちが慰めてやらねぇとなぁ」

そう言いながら、それぞれが獣欲にまみれの濁った視線を少女の顔に、胸に、腰に、体の隅々に向ける。
蜘蛛の巣に捕まった蝶の如く、男たちの中では少女は自分たちのものになったも同然だった。


「ふふっ、おじさん達が私を慰めてくれるの?」


しかし少女はその言葉を聞いても怯んだ色を見せない。額縁通りに言葉を受け取り、先ほどとは違う妖艶な笑みすら浮かべる。

———こいつ、本当はただのイカレ女か?
何人かが思う。
だが、関係ない、むしろ好都合だ。後腐れが無くて済むし、連れ帰ってこのままずっと楽しむことだってできるだろう。

ふと浮かんだ疑問を早々と解消した男たちが、遠慮は無用と少女に近づいて行く。だが
「けどぉ、私が慰めてもらいたいのはぁ」と少女の声が男たちの耳朶をたたく。


「あんたらみたいなむっさい男たちじゃ駄目なの」


瞳から少女のような光がスゥ…、と消え、妖しい光が灯された。
少女の前に立ち、その男を破滅に導く魔女のような光にさらされた幾人かの目から光が失せる。仲間の雰囲気が変わったことに残った男たちはうろたえる。

満足げにそれを見ながら、少女はゆっくりと携帯を男たちの前にかざした。そうして、男たちに向かって軽くウィンク。

「それじゃあ、私の代わりにみんなを楽しませてね♪」

それが、男たちにとっての地獄の幕開けだった。





目の前では、埃がさっきより激しく舞っている。
理由は明白、すずか達を囲んでいた男たちが忙しなく動き回っているから。

だが、埃みたいに男たちも軽々と宙を舞っているのは何なのか?
それを実現させている、あの異形たちは何だというのか!?

 青白い肌の牛頭が、雄たけびを上げながら手に持った長柄斧で男たちを薙ぐ。長大な斧と、牛頭の巨躯から生み出されるその一撃は突風を巻き起こし、男たちの体が悲鳴と血しぶきが上げつつ吹き飛んでいく。
その先にあるのは、積み上げられたコンテナ。轟音と共に飛ばされたからだがめり込み、衝撃でコンテナが轟音を立て崩れていった。

「ブオォォォ!! ヤマに代わってぇ! お仕置きダァァァァァァ!」

コンテナを崩れたほうを見て、興奮したかのように叫ぶ牛頭。あたりを見回し、今の薙ぎ払いで敵がいなくなった事を悟ると別の方角へ走り出していった。
そしてまた起こる、血と男たちの乱舞。



鹿の頭に魚のような胴体を持った獣が、何人かの男を纏めて締め上げる。「げぇ」「きゅっ」と男性にしてはいやに甲高い、絞り出したような悲鳴が上がった。
そんな縛られた男たちを助け出そうと、何人かが一斉に獣に向かってナイフを突き立てる。が、その堅牢な鱗の前に刃がポキリと折れる。呆然とした表情で自分の手に残ったナイフの持ち手を見つめる。獣が首をひねり、それを小馬鹿にしたように見下す。

「仲間ガ大事カ? ソレナラ、返シテヤロウ!!」

縛り上げていた男たちを、自らに攻撃してきた男たちにぶつける様に放る。団子状になって視界から消えていき、再び、蛙のつぶしたような声が聞こえてきた。



青い肌、黄色く逆立った髪、朱の籠手と膝鎧を纏った3つの顔を持つ大男が、6つの腕に持った曲刀を嵐のように振り回し、一直線に屋内を駆け抜ける。

「あ、あんなの近づけねぇよ!!」

「なんのためにハジキ持ってんだ、いいからぶっぱなせ!」

そう罵りをあげながら、何人かが大男の後ろから銃撃を浴びせる。
しかし大男は、「後ろから、そして近づかぬとは利口だな」そう口では賞賛しながらも、全ての弾丸を手に持った曲刀で弾いていった。辺りに金属同士がぶつかる音が絶え間なく響き渡り、彼の足もとに鈍く光る弾丸が散らばっていった。
 その光景を目の前にしても男たちは何が起こったか全く理解できないのか、銃を構えたまま呆然と立ち尽くしてしまう。

「だが、その程度では我が暗黒を払う事叶わぬ!」

そして大男は男たちへと向きを変え、曲刀を振る。曲刀からいくつもの竜巻が巻き起こり、無防備な男たちを巻き込んでその体を宙へと放り投げていった。



コンテナの向こう側だろうか、

「チミも自覚しなよ。ボクにメロメロだろ、チミ」

この場に相応しくない嫌に自信満々な声と、「か、体が動かねぇ」「何だ、何だってんだこの粘土細工やろうはぁ!!」という野太い叫び声。

そして、出口前。
白い煽情的な衣服を纏ったあの少女は、先には見えなかった蝙蝠のような翼を広げ床から少し浮いている。それを守るかのように、うつろな眼をした何人かの男が守るように取り囲んでいる。

「ふふっ、みんな楽しそうね」

この光景を、「楽しそう」と言う彼女の感覚が、少なくとも普通の人間に理解できるはずが無い。ただの年上の少女だと思っていた女性も、異形であった。

「じゃあ、おバカなみなさ~ん。自分たちの仲間と争っちゃってくださ~い♪ 
あっ、でも殺しちゃ駄目だよ。ジュンゴに怒られちゃうし」

軽い口調で自分を囲む男たちに命令する。それに「リリム様、めっちゃ好きやねん…」「人間の女なんぞごみや…」言葉は違うが、その命令を唯々諾々と受け、かつての仲間に群がって行く男たち。

「お、おいどうしちまったんだよ」「く、来るな。こっちに来るなぁ!!」

どうにか正気を保っていた男たちから叫び声が上がり、また新たな闘争が始まる。それを宙に浮きながら、本当に嬉しそうに眺める少女。



月村すずか、アリサ=バニングスの目の前には、正に地獄絵図が広がっていた。



アリサが、信じがたい光景に我を忘れて呆然としていると、

「あ、あれが悪魔、なの……」

となりですずかがそう漏らすのが聞こえた。

「すずか、あの化け物のことを知ってるの?」

「っ!! ひっ、わ、私じゃない。私は、化け物じゃ、なぃ……」

先程の男の発言を引きずってか、すずかはふいに向けられた視線から目をそらし、ぶつぶつと自己弁護をする。

親友の変わり果てた姿に目まいを覚えつつも、アリサはそれでもすずかと生き延びるために考えをめぐらす。
状況は最悪だ。自分たちを誘拐した男たちだけでも脱出は不可能に近かったのに、それに加えて化け物が追加されている。
不幸中の幸いは、男たちも化け物も、自分たちの事をほっといて戦っている、ということだろうか。

だが、それがどうしたというのか。化け物は男たちを一蹴する力を見せつけているし、彼らを蹴散らした後こちらに向かってくるかもしれない。
ではそれまでに脱出できるか、という事になるが、自分たちがいるのは建物の一番奥まった場所、出口から反対の壁際。両手を縛られた状態で——たとえ縛られてなくても——目の前の嬲り殺しという名の惨劇の中をやり過ごす事は出来ないだろう。

「これって、完璧に手詰まりじゃない…」

アリサは愕然とする。
どうあがいても絶望。進めば目の前の嵐に呑み込まれ、座していてもやがて悪魔がこちらにやってくる。

「けど」と一息気合いを入れる。結果は無駄死にかもしれない。だが、自分は座してそれを受け入れるつもりはない。

「最後まであがいて、あがいて、足掻き切ってやるんだから!!」

アリサは自分を奮い立たせ立ち上がり、俯いているすずかと共に脱出をする決意を固める。が、しかしすぐ後ろで突然巻き起こった轟音と衝撃に前につんのめる。両手をつけないから、したたかに顔面を床に強打してしまう。

「いったーい! いきなり何なのよ、もうちょっと気をつけなさいよ、この馬鹿!!」

思い切りぶつけた鼻っ面を真っ赤にしながら、ついいつもの調子に戻り叫んでしまった。
しかし、すぐに後悔に顔を青ざめる。今ここにいるのは自分たちを誘拐した男たちか、化け物だ。どちらも自分に勝ち目はない相手、そんな相手を怒らせてしまったら……

「ん…、ごめんなさい」

けれども、アリサの罵声に答えたのはそんな素直な謝罪だった。
最悪を想定していただけにポカンとしてしまったアリサの前に、濛々と立ち込める埃を掻き分けつつその声の主が姿を現す。

現れたのは、鋭くもどこか優しげで、素直な光を持った目の少年だった。少し大きめなニット帽を目深にかぶっていることで、その光が夜に光る星のように、殊に強調されている。

「じゅん、ご君……?」

呆気にとられていたアリサの横で、すずかが夢の中にいるかのような、おぼつかない口調で少年に話しかける。
 それを聞いた少年は、気難しそうに真一文字に結んでいた口元を少しだけ嬉しそうに緩め、彼女たちに手を伸ばしていうのだった。

「ん…。スズカ、迎えに来た。帰ろう?」

 
 

 
後書き
~仲魔紹介~
レベル、能力値は初期値です。能力値の最高は、40となっています。
仲魔の由来は、作者の知識と原作の紹介とを合わせたものであり、『デビルサバイバー2』に登場する「悪魔全書」の説明文とは違うものとなっております。

【闘鬼】ゴズキ(Lv18)
力:13 魔:4 体:11 速:6
火炎反射、衝撃耐性、氷結・魔(≒状態異常)弱点

閻魔大王(作中ではヤマ)の配下にして、地獄の獄卒。牛の頭を持つ巨人。相方に馬の頭を持つメズキがいる。

【龍王】マカラ(Lv14)
力:7 魔:8 体:6 速:9
電撃反射、魔耐性、衝撃弱点

インド神話に登場する怪魚。水の神ヴァルナの乗り物とされる。ワニを基本とし、カバや象、龍などの特徴を持つ。

【魔神】マハカーラ(Lv22)
力:11 魔:11 体:9 速:7
火炎・電撃・魔耐性、氷結弱点

インドの退魔神。シヴァ神の一化身であるとされ、仏教では大黒天として取り入れられている。

【邪鬼】モコイ(Lv15)
力:9 魔:7 体:9 速:6
氷結無効、火炎弱点

アボリジニに伝えられる人喰い鬼。しかしアトラス作品では緑色の粘土細工の様な姿であり、愛嬌のある仕草が特徴。

【鬼女】リリム(Lv18)
力:8 魔:11 体:8 速:7
電撃無効、氷結弱点

ユダヤ伝承の、女性の姿をした夢魔。アダムを誘惑したリリスから生まれた存在とされ、母同様男たちを誘惑し、その精気を吸い取る悪魔である。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧