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蒼き夢の果てに

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第2章 真の貴族
  第15話 ハルケギニアの魔法の意味

 
前書き
第15話更新します。
 

 
「先ほどは、失礼な言葉使いをして申し訳ありませんでした」

 去り際に、ジョルジュ(竜殺し殿)がそう告げて来た。
 戦闘の緊張が緩み、俺も、そしてジョルジュの方もそれぞれの武器を仕舞い込んだ後の台詞。

 成るほど。矢張りこれがコイツの基本系と言う事なのでしょうね。
 そもそも、最初に挑発して来た時から、彼はそう尊大な態度では有りませんでしたから。直接、挑発されたタバサの方はどう思っているのか判らないですけど、俺の方には蟠りは残ってはいません。

 まして、この模擬戦自体、双方共に無傷で終わりましたからね。

「何故、無理に挑発するようなマネを為したのです?」

 元々出て来た建物の方に向かう大きな背中に、そう問いを投げ掛ける俺。もっとも、聞かずとも答えは判っている心算なのですが。
 振り返って俺を見るジョルジュ。
 そして、少し笑って見せた。

 やれやれ。イケメンと言う存在は、何をやっても絵に成ると言う事ですか。
 何と言うか、中世の城を思わせる建物を背にして微笑みを浮かべるコイツは、とある小説の主人公を思わせます。

 ……山の中にそびえ立つ中世の古城。凄まじい風雨に煽られた木々が不気味なざわめきを発し、
 突如光る稲妻に、その中を走る馬車のシルエットが浮かぶ。

 そう言う、映画なり、物語なりの重要な登場人物として描かれる貴族独特の雰囲気を纏っている青年。

「貴方の考えている通りの理由です」

 先ほどまでと同様、まったく気負いなどを感じさせる事なく、そう短く答えるジョルジュ。

 ……って言うか、何故に、コイツに俺の考えている事が判るのか釈然としない点ではあるのですけれども、確かに、タバサを徴発する理由がコイツにはないと言う事は簡単に想像が付きます。更に、主人を馬鹿にされて怒らない使い魔はいませんね。普通ならば。

 しかし、本当にコイツがタバサの御目付け役なのでしょうか。
 ……って言うか、そもそも、こんな能力の持ち主に御目付け役をさせて、タバサに騎士としての仕事をさせる意味が、何か有ると言うのでしょうかね。
 こんなモン、ガリアに人材が有り余っている訳でないのなら、御目付け役にはもう少し、それに相応しい人物を配置して、コイツには、コイツに相応しい仕事が有ると思うのですが。

 ……可能性として高いのは、お目付け役と言うよりも。

 そこまで考えてから、少し、視線を貴族然とした青年から、彼が出て来た尖塔に視線を移す。このまま、彼を視線の中心に置いて置くと、脱線し掛けた思考を元に戻せなくなりますから。
 そう、それについては、今考えるべき内容では有りませんから。どうやら、世界は案外美しい可能性が有ると言う事が判っただけでも良いでしょう。
 もっとも、逆の方向から見ると、今まで考えていたよりも、更に汚い面が出て来た可能性も否定出来ないのですけど。

「えっと、そうしたら後ひとつ質問、ええかいな」

 俺が更に質問を続ける。
 ジョルジュからの答えはない。但し、踵を返して去って行かない以上、否定された訳でもないと言う事。ならば、この沈黙は、肯定と捉えたとしても間違いではない。

 それならば……。

「何故、陽光が有る内に仕掛けて来たんや?」

 俺の言葉に、明確に言葉にしての答えを返す事なく、ただ静かに目礼を行った後に、そのまま踵を返して元々出て来た建物の方に去って行くジョルジュ。
 但し、その目礼は俺に対して行った物などでは無く、おそらく、俺の傍に近寄って来ていたタバサに対しての物で有ったと思うのですが。


☆★☆★☆


「それで、さっきの戦いの最後の部分は、一体、どうなって決着がついたの?」

 タバサに続いて近付いて来た、ピンク色の少女がそう聞いて来た。それに、彼女には見えていなかったとしても仕方がないですか。
 当然、武道に精通しているとは思えない貴族で、更に魔法使いの少女が簡単に見切る事の出来ないレベルの技術が無ければ、あのジョルジュの剣を跳ね上げる事が出来るとは思いません。

「そうですね。それでしたら、実際にお見せ致しましょうか」

 そう言いながら、ルイズに俺が持っていた模造剣を渡す。そして、自らは、かまどを使用した際に使い残した木切れを手にした。
 それに、百聞は一見にしかず、とも言いますしね。

「そうしたらヴァリエール嬢。その模造剣で先ほどの彼のように突きかかって来てくれますか」

 そう言った俺に対して、何故か、少し不満そうな顔のルイズ。そして、

「ずっと気になっては居たのだけど……」

 そう言いながら、自らの右隣に立つキュルケを指差す彼女。そうして、

「彼女を呼んで見てよ」

 ……と、少し意味不明な事を言って来る。
 何でしょうかね。少し妙な事を言って来ていますが。

「キュルケ」

 俺は、素直に…………。
 ……って、成るほど。そう言う事ですか。確かに、ルイズの事を俺はずっとヴァリエール嬢と言う家名の方で呼んでいましたね。

 それに、才人の方は最初からルイズの事をルイズと呼んでいました。確かに才人は彼女の使い魔ですから、それはそれで正しいのかも知れません。それでも矢張り、俺がヴァリエール嬢と呼び続けるのは少し距離を置いた呼び方のような気もしますね。
 それに、友人関係と言うのなら、名前を呼ぶ方が正しいのかも知れません。

 つまり、このルイズの不満は、俺の方から、彼女に対しての無意識の内に作り上げていた壁に対する不満だった、と言う事ですか。
 身分に対するこだわりはない心算でしたけど、何処かで相手は貴族の姫さんだと言う思いが強かったと言う事だろうとは思います。

「成るほど……。そうしたらルイズ。さっきのジョルジュのようにこの剣で、俺のノドを目指して突いて来てくれるか」

 そう、言い直す俺。
 その言葉を聞いて、今度はルイズも文句を言う事も無く、模造剣を構えて俺に相対す。

「じゃあ、本当に突き掛かっても問題ないのね?」

 そして、もう一度、確認するかのように問い返して来るルイズ。
 当然、そうして貰いたいのですから、大きく首肯いて答える俺。

 そして、ある程度の覚悟を決めたのか、それとも、俺の言葉と俺の剣技を完全に信用したのかは定かでは有りませんが、そのまま俺に対して一気に突き掛かって来るルイズ。

 先ほどのジョルジュの刺突とはまったくレベルが違うのですが、せれでも、それなりに腰の入った刺突を繰り出して来るピンク色の魔法使い。もしかすると、彼女もある程度の剣の技術は教わっているのかも知れないな。

 魔法使いとは言え、彼女も貴族。ある程度の剣技を習っていたとしても不思議では有りません。

 そして、先ほどと同じように切っ先同士が触れ合おうとした刹那、俺の構えた木切れがわずかに沈み、半円を画くようにしてルイズの放って来た刺突の一撃を反対側の下方から跳ね上げ、その次の瞬間。そのまま一歩踏み込む事によって、全身で俺の間合いに侵入して来たルイズの鼻先にその木切れを突きつけていた。

 つまり、判り易く言うと、ルイズの放って来たレイピアの周りを俺の木切れの先が回転して、元から有った位置の反対側の斜め下方から跳ね上げて仕舞ったと言う事です。
 おそらく、ジョルジュと俺の間にもっと剣技の実力差が有ったなら、もっと簡単に軍杖を弾き飛ばすような結果と成っていたとも思いますけどね。

「今、再現して見せた技の超高速ヴァージョンが、先ほどのジュルジュとの最後の場面で繰り広げられた戦いやったと言う訳やな」

 もっとも、想定していたよりも、ヤツの戦闘速度が速かったので、実は薄氷モノの勝利だったのですけど……。ただ、その事に付いては無理に話す必要は有りませんか。
 ……って言うか、この世界に来てから二日で二度目の戦闘。どれだけ、この世界って、実は危険に満ち溢れている世界なのですか。
 さっきの模擬戦だって、運が悪かったら俺は死んでいますよ?

 実際、双方とも、必殺の間合いでは剣を振るっていたのですから。

「でも、それだったら、相手が突いて来ない限り、さっきの技は使えないって事よね」

 今度は、ルイズに変わってキュルケがそう聞いて来る。
 確かに、それは事実なのですが。

「俺の使っていた模造剣や、ジョルジュの使っていた軍杖にしても、どちらもレイピア。刺突を主にする剣や」

 そもそも、刺突専用の武器として発達したはずですから。このレイピアと言う武器は。
 それと、もうひとつの目的は、決闘用の武器として使用された事ですか。

「それに、斬る、と言う行為に対しては、俺の防御……と言うか、回避能力はかなりのレベルの回避能力が有る。おそらく、ジョルジュが最初の攻撃で斬りつけて来た時以外に、最初の一手に突くと言う攻撃しか行わなかった理由は、最初の攻撃の後のように、次の攻撃に繋げるまでの僅かな間に、俺の反撃が加えられるのを嫌がった為」

 最初のジョルジュが斬りつけて来たその斬撃に対して、余裕を持って受け流した直後に放った俺の投げ技。あの攻防が最後の戦いの布石と成っていた、と言う事です。
 それに、そもそも、俺の剣技は日本の剣術。防御の基本は見切り。最小限の動きで相手の攻撃を躱して、その隙に相手に致命傷を負わせる。

 ただ、逆に言うと、刺突専用の武器で突きを放たれた場合、相手の技量にも因りますが、その回避の最小限の動きが相手の攻撃よりも大きくなり、今回の戦いの場合は、結果としてジョルジュに連続で攻撃を受ける事と成っていたんですよね。

「せやから、最後の場面のジョルジュの攻撃の第一手に刺突が来る事は間違いないと踏んで、最後の場面であんな対応を行ったんや」

 それに、この答えなら、一同、納得してくれるでしょう。
 もっとも、実は、わざわざ剣を抜いていた事にも大きな理由も有ったのですが。

 もし、普段通り、剣を抜かずに居合いの要領で相対していたら、あのジョルジュの最後の場面のスピードには着いて行けてない可能性も有りましたから。
 故に薄氷の勝利と言う訳。それに、アイツにしたトコロで、この模擬戦に勝利する事には、あまり意味が無かった事も幸いしたみたいですし。

 何故ならば、最後の場面の俺の誘い……正眼に構えていたのを、少し構えを崩して、隙を作ったトコロに刺突を繰り出して来てくれた訳ですから。
 勝つ心算ならば、あんな誘いには乗りません。大きなマトでは無しに、わざわざ、ノドのような小さなマトを狙うようなマネはね。

 但し、そこまでの事を行っていて尚、最後の刺突を簡単に躱す事は難しかったですし、それに続く攻撃を捌き切るのは、更に困難な作業だったとは思いますけど。

 そう言う意味で言うなら、アイツの目的が俺の能力の調査ならば、十分に目的は達していると思います。
 剣技に関しては、ですけどね。

「せやけど……。それにしても、何て言うハードな模擬戦をやって居るのですか、貴女達は」

 かなり感心した、と言うよりも、呆れたと言う気分で、そう口にする俺。

 これは、矢張り、この魔法学院と言うトコロは、魔法とそれに伴う戦闘技術を学んで、将来は立派な騎士と成る為の修業の場と言うべき学校なのでしょうね。
 あの使い魔召喚の儀と言い、先ほどの模擬戦と言い。これは、かなりのスパルタ教育だと思いますよ、この学校の教育方針と言う物は。

 それに、こんなハードな戦闘が行われるのなら、才人に付加された能力は当然です。
 いや、もしかすると、彼に与えられた能力だけでは足りない可能性が有りますか。

 何故ならば、あのレベルの使い手が、この世界の魔法の使い手のレベルで言うと、二レベルに相当する魔法使いと言うのですから、其処から上の敵の攻撃を才人が捌きながら、ルイズが魔法の呪文を唱える時間を稼ぐと言う事。あの肉体強化魔法だけでは、厳しい可能性も有ります。
 これは、俺の方ももっと性根を入れて掛かる必要が有る、と言う事ですか。

 そんなある意味、これから先の使い魔生活に対して、改めて覚悟を完了させた俺だったのですが……。
 しかし……。

「先ほどの戦いは、魔法戦闘の模擬戦では無かった」

 しかし、俺の御主人様の蒼き姫が普段通りの口調でそう言った。
 そして、その台詞に続けるように、

「そうよね。そもそも、さっきの模擬戦闘は、魔法は使用していないものね」

 ……とキュルケも続ける。

 はい? 魔法を使っていない?

「いや、魔法は使っていましたよ、あのジョルジュくんは」

 一応、そうフォローして置く俺。確かに、彼は判り易い魔法は使用してはいませんでしたが、俺の想像が間違っていないと仮定した場合は、魔法と同じような生来の能力は行使していました。これは、もし俺の想定が間違っていた場合は、彼は間違いなく魔法を使用している。……と言う意味の言葉でも有ります。

 そして、当然のように、同じような魔法を、俺もアガレスに行使して貰っています。ただ、対人戦闘を想定していた為に、少々、強化の具合が足りなかったようですが。
 彼、ジョルジュを相手にするには、対貴族戦闘を想定するべきでした。

「彼は魔法を使用してはいない」

 しかし、タバサは更にそう言って、俺の言葉を否定する。

 ……えっと、つまり、これは、

「もしかして、この世界の魔法には、強化系の魔法と言うのは存在していないのか?
 例えば、加速とか、肉体強化に当たる魔法や、魔法威力を強化する魔法なんかが」

 考えられるとすると、この可能性が高いですか。
 しかし、それにしては妙なような気もしますね。何故ならば、才人に施された魔法は、明らかに強化系に分類される魔法だと思うのですが……。

「わたしには、シノブの言っている魔法についての知識はない」

 タバサが一同を代表するかのようにそう答えた。
 そのタバサの言葉を、残ったふたりが首肯く事によって肯定される。

 それに、タバサが俺に虚偽の申告を行う訳がないですか。そんな事をしても意味はないはずですから。
 俺が、虚偽の申告から誤った結論に達した場合、一番害を被るのは彼女ですからね。

 成るほど。それならば、多少の説明は必要と言う事ですかね。

「俺や昨夜の才人。それに、さっきのジョルジュは、魔法によって肉体の強化を行っている。
 それで無かったら、あの戦闘時のスピードは維持出来ないからな。
 そして、仙術の中で強化系に属する魔法は土行の仙術の中にも有ったから、この世界でも同じような土属性の魔法が存在している、と俺は思ったんやけどな」

 しかし、強化系の魔法が存在していない世界ですか。
 ……と言うか、俺の知っているルーン魔法の中には有ったはずですから、同じ文字を使っていると言うだけで、実はまったく違う系譜の魔法の可能性も有ると言う事でしょうね。

 北欧神話に登場する、ベルセルク系の人狼などは、その典型のような存在ですから。

【彼の家系はガリアでも古い土系統の家系。あの家の独自の魔法が有ったとしても不思議ではない】

 う~む。タバサからの【念話】がこれなのですけど、ヤツの正体が人間なら、それが正しいとは思いますよ。しかし、アイツは精霊を支配していました。
 そして、この世界の魔法使い(メイジ)の魔法は、精霊に嫌われる魔法を使用しますから、精霊との契約はかなり難しいはずです。
 実際、タバサとの契約は、俺の式神の精霊たちに拒否されましたからね。

 そして、実際に見鬼を使用して、ジョルジュを確実に見た訳ではないから定かでは無いのですが、アイツから感じた雰囲気や、その使用した能力などから、俺は有る存在を連想しています。
 時間帯に因っては、間違いなしに(龍種)よりも高い身体能力を発揮出来る種族の名前を。

 ただ、この部分に関しては未だ情報不足ですか。それに、慌てて答えを出す必要が有る訳でも有りませんしね。

「そうしたら、もう焼き芋は食べ終わっているのなら、そろそろ気温も下がって来る時間帯やから、寮の方に帰りますか」


☆★☆★☆


 そうしたら、ここで俺の置かれている状況の説明を行って置きましょうか。

 先ず、ここはハルケギニアと言う地域らしいです。
 尚、地図を見せて貰った感覚から言うと、ヨーロッパ大陸に感じが似ていました。それに、その地図自体が、俺が見ていたような現代社会が使用している地図作成技術を使って作製されている地図と言う訳ではないと思いますから、本当の姿は、ヨーロッパ大陸と同じ物と思った方が良いかも知れません。

 えっと、それで、その中のこのトリステイン王国と言うのは、地球世界で言うなら、オランダとベルギーを合わせたぐらいの国と言う感じですかね。

 それから、タバサの故郷。ガリアに関しては、予想通り、フランスを中心とした国のようなのですが、それ以外に、スペイン、ポルトガルは確実に。後、スイスやルーマニアなどの辺り。具体的には、トルコ近辺までをその領域に含める大国らしいです。
 ……って言うか、これはガリア一国でEUが結成出来るぐらいの大国じゃないですか。

 実際、地球世界のこの一帯の国々の総合計の国力でガリアとトリステインを比べたら十倍では収まらない国力の差が有ると思うな。百倍と言われても驚きはしないか。

 そして、最後はキュルケの出身国ゲルマニア。ここは、はっきりと判っているのはドイツとポーランドを合わせたぐらいの広さらしいのですが……。
 そこから先の国土に関してはかなり曖昧な状態らしいです。雰囲気的にはロシア……と言うかモスクワに近い辺りまでは支配権が及んでいるらしいのですが、確定していると言う訳でもない。
 まぁ、そんな感じですか。

 後、大きな国ではロマリア。地球世界で言うなら、イタリアとギリシャ辺りを所有している国。なんでも、この世界の宗教、ブリミル教の教皇が治めている国らしいですけど、国としては、少々斜陽の感が有るらしいです。

 それに、実際、地球世界でも、この時期ならば聖戦の名の元に、十字軍を何度か聖地奪還の為に遠征させているのですが、その度に失敗。それが、ヨーロッパに置ける封建制度の崩壊とカトリック教の衰退、そして、西欧では絶対王政の時代に突入する直前の時代だったと記憶しています。
 そしてその状況は、この世界でも変わりはないみたいで、聖地奪還の大義名分の元、聖戦が何度か行われたのですが、その全てが失敗。ロマリアの教皇の権威は現在失墜中、と言う寒い状況らしいです。

 それに、既にカトリックとプロテスタントが存在するらしいですから。

 そして、最後が浮遊島……としか表現が出来ない場所にあるアルビオン。
 ……って言うか、これって、まんまイギリスの事ではないですかね。確か、ブリテン島の古い呼び名がアルビオンだったと記憶していますし。

 まして、その島の形も正にイギリスのブリテン島そのものの形。
 しかし、植民地が有る訳でもない、更にブリテン島しかないイギリスでは、どう考えても、そんなに大きな国と言う訳ではないと思いますが。

 えっと、それで。ここまでが、人間が治める国々。そして、ここから先がエルフの治める地と言う事になるらしいです。
 う~む。しかし、これでは地理的に言ってもあまりにも曖昧過ぎますね。もし、この規模の国ならば最盛期のオスマントルコ以上の国土を有している可能性が高いと思うのですが。そして、東方との交易にエルフが積極的とも思えないですから、東方の進んだ文物がこのハルケギニアの地に入って来る事も難しい。

 故に、東方。絹の国などと表現されるべき国が、この世界では非常に曖昧な地域と成っているのでしょうね。

 ただ、一抹の不安が有るのは確かなのですが。
 タバサたちが、東方と表現する際、『ロバ・アル・カリイエ』と言う風に、俺の頭の中にふたつの単語が浮かぶのですが、この言葉を、俺が知って居る意味に置きかえると、『虚空』と言う意味に置きかえる事が可能だったと思うのですが……。
 いや、もっと有名な言葉で表現するのなら、『無名都市』。とある神話に語られる架空の都市で、かつては水の邪神を信奉していたが、現在は風の邪神の支配する地と成っている地域の事を指し示す言葉だったような記憶が有るのですが。

 もっとも、地図に置ける空白地を差して、古代語で虚空と言う意味を示す言語で表現されていた地を、後の世でも、その呼び名のまま使い続けている可能性の方が高いですか。
 まして、この世界に、クトゥルー神話の邪神が関わって来ている可能性は低いでしょう。あんな連中が関係していたら、世界自体の防衛機構が動き出しているはずです。

 それで、1492燃えたコロンブス、が現れていない以上、このハルケギニア世界に於けるトリステインを含む地域に関しては、中世ヨーロッパの封建時代の地球世界と同じ程度のレベルと考えるべきですか。

 つまり、封建制度に支配された中世ヨーロッパと同程度の社会制度や因習、戒律などに支配された世界。それがこのハルケギニア世界と言う事。

 それから、それ以外にも、かなりの長い間、この文明レベルが維持され続けていると言う妙な点や、言語に関しても、何故か名前に関してはフランス語らしき発音を行う名前が多いのに、魔法の名前やクラスに関しては英語表記が一般的と言う、最初の段階で魔法により言語を取得させられていなかったら、かなりの長い時間、言語を習得するまでに要するであろうと言う複雑な言語体系を持つ世界らしいです。

 更に、その魔法を何故かルーン文字で唱えて発動させていますし。

 もっとも、その言語を習得すれば、各国ともにこの言語を公用語として使用している為に、何処に行っても意思疎通に困る事はないらしいのですが。

 但し、実際のトコロは、俺に判り易い形で頭の中で自動的に翻訳される時に、そう言う形となって翻訳されているからなのでしょうけど、半端に知識が有ると、その部分に妙な引っ掛かりが出来て、返って判り辛くて仕方がないと言う非常に矛盾した状況を生み出していたりします。

 例えば、『ド』と『フォン』の違いとかがね。

 そうしたら、次にそのルーン魔法について。
 尚、この世界の魔法の正式名称は、ルーン魔法などでは無く、系統魔法と呼ばれているらしいです。
 もっとも、それも、俺の頭の中で同時通訳されて適当な言葉に置き換えられているはずですから、正式名称と言い切って良いのかは不明なのですけどね。

 そこで、その魔法の基本は、地・水・火・風の四大精霊に対応した魔法で、地と風は相反し、水と火も相反すと言う基本はちゃんと押さえてあるみたいです。

 但し、矢張り、強化系に分類される魔法はなし。結界系に関しては、それなりに存在はしているけど、物理や相反する属性の攻撃魔法に対しては有効ですけど、精神に属する魔法に対しては、まったく効果を発揮しない、と言うタイプの結界しか存在していないみたいです。

 矢張り、この世界の魔法が広がって行った経緯から、こう言う、攻撃力重視の魔法体系が作り上げられたと言う事なのでしょうね。

 それで、その魔法体系についてなんですが……。

 この魔法は、最初、始祖ブリミルと言われる存在によって伝えられたらしいのですが、俺的には何故に、こんなトコロで北欧神話に登場する原初の巨人の名前が出て来るのかが、不思議なのですが。

 それで、当初、この辺りは今の貴族達ではない何者かに治められていたらしいのですが、その圧政者達からこの地の人々を解放したのが、その始祖ブリミルと言う英雄らしいのです。
 まぁ、良くある民族的英雄物語ですから、大して珍しくも無いですし、異教徒、異国人、更に同時に異世界人である俺に取っては感動的な物語でもないのですが。
 所詮、勝者によって適当にでっち上げられた歴史である可能性が高いですから。
 それに、その始祖ブリミルの最後も良く判っていないみたいですしね。

 つまり、太古の昔に、ブリミルと言う英雄が聖地とやらに降り立って、圧政に苦しんでいた我々を救ってくれた。
 その際に伝えられたのが、我らが使う魔法である。と言う事みたいです。

 但し、故に魔法を使う我々貴族は、ブリミル神の系譜を継ぐ高貴なる者だから、この地を支配する権利を有する、みたいな階級意識も同時に発生させているようなので……。

 どちらにしてもかなり昔の話です。今……それも、異世界人の俺が真相を調べたとしても、そう簡単に判るとも思えないですから。
 それに、どちらかと言うと、その貴族達の特権階級意識の方に問題が有るとは思いますが。

 ただ、実際のトコロ、魔法を使える者……つまり、支配する者と、支配される者の身分制度を作る元となった魔法を、圧政に苦しむ民衆の為に伝えたはずのブリミル教の神ではない、人間のブリミルさんは、今のこの世界をどう言う目で見つめているのでしょうかね。
 俺が聞いた話に因ると、この世界は、少なくとも西欧の封建主義の時代です。この時代は残念ながら万人に優しい時代では有りませんでした。

 しかし、俺が感じたこの世界の魔法は、敷居を低くする事によって、かなり多くの人に魔法の恩恵を得られるようにしている魔法だと思います。これは、多分、そのブリミルさんが科学レベルの発達していない世界で、人々が危険から身を守る術を持てるようにと思って伝えた可能性が高いと思うのですが。

 科学技術では、そのブリミルさんが死亡して、彼が作った機械が時間を経て失われた時に、元の原始的なレベルに逆戻りする可能性が高いですから。科学技術を維持するには、人間全体の知識のレベルを上げる必要が有ります。それに、そのレベルを維持する為のインフラも必要ですか。
 とてもではないですけど、一代の天才。それも一人の手で、急速に発展させられる物ではないと思いますから。

 故に、間口の低い、扱える人間が多く現れる可能性の有る魔法を人々に伝えた。
 しかし、現状は、その魔法の性によって、魔法を持つ者(貴族)持たざる者(平民)の絶対の身分差を作り上げた。

 もしかすると、そのブリミルさんは、草葉の陰で……。


☆★☆★☆


 それで。
 何故か夕食に関しては、今晩もタバサの部屋で取るよう成っているのですが……。

 もっとも、その理由が、式神達が毎夜の如く開く宴会に付き合わせられる為にアルヴィーズの食堂で食事を取った場合、二度、夕食を取る事となり、そのままではメタボまっしぐらと成ってしまうから、なので、式神達に対する俺の支配力の甘さが、如実に現れているのですが……。
 更に、この国の状況や魔法の説明。それに、俺的には重要な宗教絡みの話などを行っていたから、今晩も夕食を食いっぱぐれたのが原因なのですが。

 それで、何故か、今晩に関してもお箸で食べる事が前提のコンビニ弁当が用意されています。
 ただ、これに関しては、タバサが早くお箸を使えるように成ってくれたら良いだけですから、大して問題が有る訳でもないのですが。
 それにしても、ハルファスのヤツも、少々オイタが過ぎるような気もしますね。

 もっとも、本人は、タバサと俺が打ち解けやすいように、そう言う事を敢えて為しているはずですから、悪意が有る訳ではない。……とは思うのですが。

 えっと、そう言えば、……俺がお箸を使えるように成るには、どれぐらいの時間が掛かったかな。

 俺は、矯正された右利きで、幼い頃は左手でお箸を持っていたから、実は、結構、時間が掛かった記憶が有るのですよ。何せ、かなりの回数、親に怒られながら右手でお箸を使う練習をした覚えが有りますからね。

 タバサが瞳で追っていた鳥の竜田揚げをお箸で挟んで彼女の口元に運んでやりながら、今と成っては懐かしい事を思い出す俺。
 もっとも、現在は完全に右利きで、左手ではお箸を持つ事も、まして字を書く事も出来はしないのですけどね。

 次にご飯を口元に運んでやりながら、タバサの視線を追う。
 ……と言うか、何故に、こんな事ばかりが上手く成って行くのでしょうか。確かに、彼女の視線の先を追えば、次に何が食べたいかは簡単に判るのですが、それは同時に、漢としてかなり間違っている生き方のような気がするのですが。
 まして、俺は気を読みますから、より細かくタバサの雰囲気を読む事も可能です。

 ……などと言う少し硬派な事を考えながらも、次にタバサが視線を送っていたキャベツの千切りを口に運んでやる俺。
 う~む。矢張り、かなり問題が有りますね。このままでは、飼いならされた龍じゃないですか。
 野生を失ったら、俺は、俺で無くなって仕舞うような気が……。

 瞬間、貴族の子女が住まう寮に相応しい、野卑な喧騒とは無縁の、落ち着いた夜を迎えつつ有ったタバサの部屋の窓を叩く物音がする。
 ……って言うか、ここは確か5階ですよ?

 もっとも、この()に限って、夜這いを掛けて来る男子生徒などいないと思うから問題は無いと思いますが。……って、何を訳の判らない事を考えているのですかね、俺は。
 でも、そうすると、これは何の物音なのでしょうか?

 そんなクダラナイ事を考えながら、俺よりも先に立ち上がろうとしたタバサを制してから、窓の外を確認する俺。
 昨夜と同じように少しずれた蒼と紅の月が支配する夜。

 しかし、その窓の向こう側には、昨夜とは違うひとつの登場人物が、この部屋の中を、まるで伺うかのような雰囲気で覗き込んでいた。

 そう。知恵の女神の使い魔として有名な存在が。

「えっとな、タバサ。妙なデバガメ趣味のフクロウさんが覗き込んでいるんやけど、その飼い主に心当たりは有るかいな?」
                                             
 
 

 
後書き
 少し切り口が甘いとおっしゃる方もおられるでしょうが、実際、見鬼の才が無ければ行使出来ない精霊魔法よりは、間口が広い魔法だとは思うんですよ。ハルケギニアの系統魔法と言う魔法は。

 ただ、虚無魔法に関しては、少し趣が変わると思います。
 それに、この世界の虚無魔法は第13話のオスマン学院長が語った通り、トリステイン魔法学院には、人間を使い魔として召喚した例はない事に成って居ます。

 つまり、オスマンがトリステイン魔法学院に赴任して以来、トリステインの虚無の担い手は現れていないと言う事です。
 もっとも、原作小説でも1巻の段階では、その設定だったとは思うのですが。

 そうしたら次。
 少し、東方の説明の辺りで、ネタバレ的な部分が有るのですが。
 この物語はそんなにクトゥルフ神話に詳しくなくても理解可能な物語と成りますから、そんなに問題は無いと思います。

 そもそも、あの邪神どもの内の一柱でも顕現したら、世界は終わりでしょうから。

 それでは、次回タイトルは『極楽鳥』です。

 但し、この蒼き夢の果てに世界仕様の『極楽鳥』の話となるので、グルメな話では有りません。もう少し、魔に近い話と成って下ります。

 追記。
 私は、必殺技名の絶叫+効果音と言うタイプの戦闘シーンを表現する事は出来ませんので、その辺りは御容赦下さい。
 そもそも、その必殺技名を付ける事が出来ませんから。

 流石に魔法使いが主と成る物語ですから、呪文はない頭を捻って考えますが。
 
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