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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§??? 番外編《短編集》

《4VS1》

「黎斗、今日決行するぞ」

「マジか。とうとうやんの?」

「コレがお前の仮面だ」

 そう言って渡されたのは、紙袋に視界を確保するための覗き穴が二つくりぬかれたものだった。

「……コレハナンデショウ?」

 見てたっぷり十秒は沈黙する黎斗。差し出した三人は平然としている。おかしいのは自分の方なのだろうか、などと不安が脳裏を横切った。

「何ってお前、正体を隠すためのマスクに決まってるだろ」

 平然と答える高木に、二の句が告げなくなってしまった黎斗。コレなんかまるっきり不審者じゃないか、と発言することも憚られる。文化祭ならまだしも平日にこの仮面を被って廊下を移動するのは正直勘弁願いたい。先生方に何を言えばよいのだろう?

「……まぁ、なににしろなんか被った時点で不審者っぽくなるんだからコレじゃなくても一緒か」

 何を言っても無駄ということを数日足らずで知った黎斗は反抗をアッサリ諦める。

「なんか激しく不名誉な納得のされ方されたぞ!!」

 叫ぶ高木を華麗にスルーし、反町へ最終確認を取る。

「次の月曜、なんだね?」

 一回やるとなればもうヤケクソだ。毒食わば皿まで。徹底的にやってやる。

「ああ。次の月曜にこそ、草薙護堂に正義の裁きを下してくれる!」

「「「美少女を独占するクズに呪いあれ!!」」」

 もし、教室に誰か残っていたならば、まず間違いなくドン引きされたであろうテンションで、4人の勇者は爪を砥ぐ。全てはハーレム王を打倒するため……!!






「俺? 平凡だろ?」

 翌日、勇者達は護堂(まおう)に問うた。汝何者なりや、と。その結果が、平凡発言。現実は、彼らに残酷だった。護堂は自分を平凡だと思っているらしい。彼がカンピオーネであることを知っている黎斗としては「嘘つけぇ!! オマエが平凡なら六十億以上の人間は平凡じゃなくなるだろうが!!」と叫びたかったが自制心をフル稼働、抑えることに成功する。

「……」

「……」

 後ろ側に座っている黎斗には護堂の前で会議を開いている三人の会話内容は聞こえないが予想できる。鋭すぎる視線だけでも予想は容易だ。

「……大丈夫か?」

 護堂が心配して声をかけてくるが、元凶に心配されても、と思う。

(黎斗、予定変更だ。今日の放課後に決行する)

(了解。流石にこれは捨て置けないね)

 高木と一瞬でアイコンタクトを成立させる。大丈夫。計画が早まっただけだ。準備は万全、いつでもできる状態にしてある。あとは、放課後を待つのみ。





「今だ!」

 先陣を切って、黎斗が駆け出す。職員室の帰り、今なら周囲に人は居ない。護堂を捕獲する絶好の機会———!!!

「うお!?」

 暴れる護堂。誰だって麻の袋を被せられれば抵抗するだろう。しかし事前準備を重ねに重ねた四人の行動に一切の無駄など存在しない。ただ、黎斗の不幸は階段付近で護堂を襲撃したことだ。護堂の力にインドア派少年黎斗が敵うわけはなく、反町の援護が来る前に黎斗は体勢を崩してしまった。踏ん張ろうと足を伸ばした先にあったのは、ビニール袋。風で飛んできたのだろうか。
 ビニール袋を踏んでしまった黎斗は、体勢を支えきれず、階段下へ落ちていくことになる。

「おわー!!?」

「同志Lよ、お前の犠牲は無駄にはしない!!」

 落ちていく黎斗に投げかけられる頼もしい言葉。見上げれば、護堂確保に成功した反町、もとい同志Sの勇姿。革命の成功を確信し、黎斗は運良く(?)階段の踊り場に放置してあったゴミ箱の中へ、吸い込まれるように姿を消した。





「うぅ……ゲヘッ、ゴハッ……!!」

 黎斗が目を覚ましたのは、外のゴミ焼却場。天に届きそうな高さに積まれた燃えるゴミの山の中だった。夕日が目にしみる。

「おえぇ……」

 口の中にバナナのリンゴの生ごみが入っている。濡れたティッシュと埃まみれ、最悪だ。

「えっと、たしか護堂を捕まえようとして落下したんだっけ」

 やっとの事でゴミの山から脱出する。埃やバナナの皮が気持ち悪い。運んだ人は中に人が居る事に気がつかなかったのだろうか? 平均やや上の身長だから気づかれない訳はない筈なのだが・・・

「うぅ……最悪だ」

 このなりで校舎に入るのはおおいに噂されそうだがやむを得ない。教科書の類は全て教室だ。数学の宿題をサボったら死ぬ。それに携帯電話がなければ天罰の結果がわからない。

「ゴミの中にケータイとかないだけマシか」

 教科書や財布(まぁなくてもどうとでもなるが)をゴミの中から探すことになったらもう絶望するしかない。最悪の結末を回避できたことを喜ぼう。

「さてっと」

 教室までどうにか見つからずに突入完了。人の気配が無いことを確認して扉を開ける。

「……おのれ、護堂」

 教室で見たのは、絶望に倒れ伏す我が同志達。黎斗は天井を見上げ、呪詛を紡ぐ。気配がないはずだ。意識を失っているのだから。
 ゴミまみれの黎斗が恵那&エルに冷水を浴びせられるまであと一時間。
 あまりの冷たさに絶叫を上げのた打ち回るまで、あと一時間。









《風邪風かぜカゼ》

「ぶぇっくし!!」

「……三十八度。完全に風邪ですね。だから水風呂に浸かるなとあれほど」

 エルがぶつくさと小言を言っているが、黎斗にそれを聞く元気など残っていない。声を発することさえままならず、苦しそうに寝返りをうった。今のような状況まで追い詰められたのは久々だ。

「こんな無様な神殺しってマスターくらいじゃないですか? 変質したせいで肉体の成長は止まってるくせに睡眠やら食事やら排泄やらする必要があって更に風邪まで引くなんて。ヤマの権能、メリットよりデメリットの方が格段に大きいんじゃ?」

 エルがボロクソ言っている横で、黎斗は鼻を啜っていた。やっぱり水風呂はマズったか。恵那が風呂から上がった後数時間経過後に入った湯船は見事に水風呂。面倒くさいからとお湯を新たに入れなかった黎斗は水風呂で我慢をしたのだが、朝起きてみればこのザマだ。人間だったころはあまり身体が丈夫ではなかった黎斗だが、風邪を引いたのは実に五百年振りだろうか?

「恵那さんがおかゆ作ってってくれたんですからとっとと食べて薬飲んでください」

 最後まで黎斗の身を心配していた恵那だったが風邪をうつさないためにも普段どおり学校に行かせている。朝の忙しい時間帯におかゆまで作ってくれたのだから感謝はいくらしても足りることは無いだろう。

「おかゆあじないからいや……うめぼしすっぱいしくすりにがい……」

「何言ってんですか…… 良薬口に苦しっていうでしょ。今まつろわぬ神が襲ってきたらどうするんですか。本日急病につき休ませてもらいます、なんてマヌケな展開私は御免ですよ」

「ごどーがいるし……」

「あぁ、もう! この人はー!!」

 エルの怒号が室内に響く。このていたらくっぷりで古参の王と呼んでいいのだろうか。
 皮肉にもこれによって「カンピオーネともあろうお方が風邪なんて引くわけ無いわね」とエリカが黎斗への疑いの視線を弱めることになるのだが、それはまた別の話である。




「ん……」

「あ、れーとさん。どう? よくなった?」

 部屋が夕焼けに染まる頃、黎斗は流れる水の音で目を覚ました。一日中寝ていたおかげか、はたまたエルに無理やり飲まされた薬が効いたのか、体調はすこぶる調子が良い。冷やした手ぬぐいを頭に載せるなどして、かかりっきりで看病していたと思われるエルはすっかり夢の中だ。そっと籠の中へ入れて毛布をかける。

「うん。だいぶ良さそう。ありがと、ご迷惑おかけしました」

「油断はダメだよ? とりあえず山から色々採ってきたんだ。ちょっとまってて」

「……山?」

 激しく嫌な予感がする。山ってなんだ? 採ってきたってなんだ?
 一旦台所へ姿を消した恵那は、洗ったばかりとおぼしき数種類の雑草といくつかの妙な道具を引っさげて姿を現した。黎斗の背筋を汗が伝う。

「え、恵那さん? それはいったい……?」

「何って風邪に良く効く野草だよー? どれもこれもすごく苦いけど効き目は抜群なんだ。今磨り潰して煎じるから」

 いやけっこうです、という黎斗の発言はさらりと流され、緑の粉末が大量に生成されていく。いかにも苦いオーラが漂ってくる。

「できたー! ささ、どうぞ」

「え、ちょ、まっ」

 必死に避けようとするが、弱りきった今の黎斗の身体は上手く動いてくれなかった。避けようとして、恵那の方へ倒れこむ。

「うおっ」

「きゃっ」

 恵那を見つめること数秒。それが黎斗の限界だった。再び風邪が活動をはじめ、黎斗の意識を奪っていく。

「……もう、しょうがないなァ」

 最後に聞こえたのは、そんな声。口の中に何か入ってくるのを感じながら黎斗は眠りにつこうとして———飛び起きる。

「#”$%’$”&#……!!」

 声にならない悲鳴。口の中のものを吐き出しそうになるが吐瀉物が恵那に直撃コースになってしまうので必死に我慢。目を白黒させていると恵那が天使の微笑みを浮かべている。

「どう? すっごい効くんだよ。コレ」

 その言葉を最後に意識が途切れる。殺人ドリンクとはこういうものか、などということを漠然と感じながら。
 あまりの味に黎斗は一週間もの間味覚障害を引き起こすのだが、それもまた些細な出来事である。









《嫉妬狂奏曲》

「質量モル濃度? 溶液100g中の物質量だっけ?」

 今にも泣きそうな黎斗の声に、呆れたようにエルが答える。

「キツネの私がそんなの知るわけないじゃないですか。この時代の子供はこんなのやってんですか」

 日差しが強くなりひぐらしの鳴く季節、夏がやってくる。期末テストが、やってくる。
 赤点をとって追試に追われる学生生活は真っ平だ。元受験生だし大丈夫、とタカを括っていた中間試験では化学が赤点だったのである。これでも元理系なのだが・・・・・・

「今回場合の数と確率は範囲外だから放置でいいな。化学は濃度と物質量を抑えれば八割はいけるハズ」

 明日は日曜なので護堂・高木・名波・反町の四人と教室で勉強会だ。未だかつて高校生活でこんなに勉強したことがあっただろうか、いやない。明日で化学を抑えてみせる。熱意に燃える黎斗の隣でエルが「ふわぁ」と欠伸をしていた。




「なぁ黎斗、この式で躓くのかお前……」

「この式もう少し割り切れるぞ……?」

「これ塩基性塩だから違うな」

「……もうヤダわかんない」

 ある程度予想していたことだが現実はもっと残酷だった。三馬鹿とか呼ばれているから油断した。こいつら普通に頭いいわ、などと思っていられたのは最初の内だけ。問題を解けば解くほど、わからなくて泣けてくる、もう顔面真っ青だ。見かねた三人がつきっきりで解説してくれる辺りで推して知るべし。英語と国語だけは高得点だが、ズルをしているようなものなので自慢にもならない。

「そういや護堂は?」

 現実逃避に周りを眺め、護堂の姿が見当たらないことに気づいた黎斗はそう問いかける。

「草薙の奴、昨日電話したら先約あるからって言ってたな」

 高木から返事がきた。確かに急に言われれば厳しいだろうしやむを得ないか。そう思った矢先、爆弾発言が廊下を通り過ぎるクラスメートから飛び出した。

「草薙君? さっきブランデッリさんと歩いているのを見たよ」

 護堂デートとはいいご身分だな、と軽く妬んだのはどうやら黎斗だけだったらしい。試験対策がしんどすぎて怒るだけの気力が残ってないとも言う。一方、後ろの席からは悲痛な叫びが聞こえてくる。

「うぉぉぉ草薙のヤツ!! こんな時までッ……!?」

「畜生、畜生っ……」

「神はいないのか!?」

 あ、ヤバい。そう思ったときにはもう遅い。悪鬼と化した三人の殺気に、流石の黎斗も後ずさる。このままだとこいつらがいつ怨念を放つ悪霊になっても不思議ではない。

「やってられるかー!!」

「俺達が学生の本分に励んでいるのにアイツはエリカさんとデートだとぉ!!」

「絶対間違ってる!!」

 ここになってようやく地雷を踏んだと認識したクラスメートが縋るような目でこっちを見てくる。止めろというのだろうか。保護者ではないのだけれど。

「まぁまぁ、とりあえずおちつ……」

「れいとぉ!!」

「は、はひぃ!?」

 無理でした。高木の剣幕に竦んでしまったのが敗因、そのままズルズルと、なし崩し的に参加するハメになりそうだ。

「者ども、招集をかけろ!! 第一種非常態勢!! ハーレム野郎を叩き潰す!!」

「無駄にかっこよいのね…… 理由は非常にかっこ悪いけど」

 どこからか無線を取り出した名波の叫びに呼応するように、学校が震えた。まるで学校全体が護堂に嫉妬しているかのようで。

「いくぞ、同志達よ!」

 その言葉と一緒に、黎斗は教室を連れ出される。向かう先は、体育館。何十人いるのかわからない。男子は全校の半分と近くが居る勢いだ。女子がちらほら混じっているのは、護堂の周囲の女子のレベルが高すぎて彼に話しかけられない子なのだろうか? 反町、高木、名波の三人が入場すると水を打ったようにざわめきが鳴り止み、モーセの如く進路が分かれていく。悠然とそこを歩いていく三人+引っ張られる黎斗。

「諸君、私は天罰が好きだ。諸君、私は、天罰が好きだ。諸君、私は、天罰が、大好きだ」

「オイちょっとまて」

 黎斗の静止は当然の如く黙殺(スルー)される。名波の演説を聞きながら絶望に襲われる黎斗。ここまでするのか、全員目がヤバい。みんな、明日のテストは大丈夫なの? こっちはまだ試験範囲の復習終わってないのだけれど。

「更なる天罰を望むか?」

 打ちひしがれる黎斗を尻目に、彼の演説は佳境に入る。

「糞のような天罰を望むか?」

「「「天罰を!! 天罰を!! 天罰を!!」」」

「よろしい。ならば天罰だ」

 ヒートアップしていく場内。もうだれにも止められない。黎斗も嫉妬することはするが流石にこのレベルになるとついていける気がしない。デモ行進やらかしそうな勢いだ。おそるべし、草薙勢力。

「誰か止めて……」

 神に祈る彼に、救いの手が差し伸べられる。もっとも、悪魔の手だけれども。

「こらー!! 貴様ら、何をやっている!!」

 風紀委員と体育科教師の強制介入。こちらの人数が多くテンションが高いことを警戒したためか、いつのまにやら風紀委員が包囲網を敷いていた。体育館を使ってこんなことしていれば当然か。怒られるのはいやだが三人を止められなかった責任を甘んじて受けとめよう、そう覚悟した黎斗だったが、事態は彼の予想の遥か斜め上に向かっていく。

「おのれ、草薙のやつ教師と風紀委員まで味方につけたか!! 全軍、突撃!!」

 名波の声は、黎斗の思考を停止させるのに十分で。

「……ゑ?」

 その一瞬が、明暗を分けた。ここで名波を止めなかったことが、城南高校史上初の学生運動(のようなもの)を引き起こしてしまうなんて、千年の時を生きた黎斗といえども予想出来るわけなどない。

「草薙に独占された美少女を解放するという崇高な使命を背負いし同志よ、敵は強大だが立ち向かうぞ! 我らに負けは許されない!!」

「「「応!!!」」」

 ここに、一人の高校生への嫉妬から始まった、教師陣&風紀委員と生徒達(八割男子)の大乱闘という前代未聞の珍事件、通称「血涙大戦争」が幕を開けたのだ。夜七時まで続いたこの休日に起きた抗争は、生徒側の敗北で幕を下ろした。この日来校していなかった生徒には厳重に伏せられ関係者の心の奥にこの事件は秘められた。最後の方は教師陣も「俺だってなぁ!!」などと泣いていたような気もするが気のせいだ。絶対に。
 参加した生徒は、全員が正座と反省文五枚。富の独占に教師側にも思うところがあったのだろうか。主犯のうちの一人に認定されてしまった黎斗が解放されたのは、午後十時のこと。





「エライ目にあった……」

 長時間の正座で足が痺れるせいで歩くことすらままならない。担任にアパート前まで送ってもらった後、手すりを使いながら必死に階段を上がっていく。背中の荷物が重い。きっと青チャート一冊で十分なのに三冊も持ってきたせいだ。

「た、ただいま……」

「敗残兵ですね、マスター。恵那さんさっきまで起きて待っていらっしゃいましたが寝てもらいました。お静かに」

「りょーかい」

 ふと時計を眺めれば、もう日付が変わってしまう。階段をのぼるのに一時間以上使っていたのか。寝るよう説得してくれたエルに小声で礼を言い、防音術式を展開し、気配を殺して移動する。こうでもしないとせっかく眠ったあの野生娘を起こしてしまう。

「あとで化学最終確認を……」

 そう呟く黎斗の顔は幽鬼のようだったと、後にエルは語っている。





「よう黎……どーしたんだ?」

「ゃぁ」

 誰かと思えば草薙護堂。一瞬誰かわからなかった。頭を活性化させなければ。このままでは非常に不味い。

「……おい大丈夫かお前。今日はなんかクラスの奴ら眠そうな奴がいっぱいいるけどお前特に重症だぞ?」

「多分ダイジョブダイジョブ一限数学か……」

 すれ違う生徒が皆怯えている。そこまで顔酷いだろうか? 恵那やエルが起きる前に家を飛び出したのは失敗だったようだ。

「席につけー、問題配るぞー」

 チャイムと前後して教師が入ってくる。数学は今回の範囲なら楽勝だ。

「はじめー」

 教師の声と共に用紙を表に。眠い。まず問題を一通り眺める。眠い。大丈夫だ、問題ない。眠い。この程度ならすぐ終わらせて睡眠時間にしよう。眠・・・い。まずは・・・平方完・・・成を。

 そこで黎斗の意識は途切れた。





「……」

 もう一度、名前が間違っていないか確認する。間違っていない。ということはこの用紙は僕のものだ。頬を抓ってみる。痛い。ということは間違いなく現実だ。
 水羽黎斗、数学零点。開始直後の爆睡により白紙提出。問題解く姿勢で爆睡した結果、教師もクラスメートも彼の睡眠に気付かなかったらしい。回収の時に気付きそうなものだがなんで気付いてくれなかったのだろう。結果、彼は一限数学から始まるその日のテスト全て零点という人生初の経験をしてしまった。

「護堂、どうだった? この私が直々に教えてあげたんだからそれなりに出来たわよね?」

「あぁ、ありがとう。エリカのおかげで今回のテストは九割いった」

 後ろで何か声が聞こえる。神様、この展開は理不尽すぎはしませんか?

「うわああああああああああああああああああああ!!!」

「ど、どうした黎斗!?」

「ごどー!! お前ー!!」

 ワケも分からず追われる護堂と発狂して追いかける黎斗。血涙大戦争の情報をどこからか入手していたエリカだけが、魔性の笑みで二人を見ていた。
 
 

 
後書き
三馬鹿君成績良いので描写を修正しました
赤点大魔王ここに現る……ッ 
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