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自由気ままにリリカル記

作者:黒部愁矢
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二話~ゴートゥー転生の間~ 2月24日修正。

 「ここは……、死体拘置所か?」

扉を開いた先は一面真っ白な空間だった。
足を地につけた時の少しだけ弾力のある気持ち悪さを意図的に無視して状況把握に努める。
床は決して透明な床というわけでもなく、ちゃんと白い床が見える。
次に周囲を見渡すと、どこまでも続いているかのような白。だが、手探りで歩いてみると大体十メートル歩くことに角に突き当たる感触から、これは箱状の部屋らしい。
そして、上を見上げる。太陽や、星は見えず、何の色も混じっていない白が見える。
しかし、部屋を照らす物など何も無いはずなのに目が眩みそうなほどこの部屋は、眩しい。
この部屋に来た瞬間に俺が広い空間だと間違えたのは恐らく、天井も、床も、壁も、全て同じ白で埋め尽くされているからしきりがあると気づかせなかったのだろう。

「……頭が痛くなるような部屋だ」

米神を右手でほぐしながら、床に目を向ける。
鼻の奥にまで肉が腐ったような、焼け焦げたような、様々な嫌な臭いがツンと突き刺さる。
思わず顔を顰めるが、目を背けない。


最後に……、今まで敢えて無視してきたことについて考える。
ここはおよそ十メートル四方の部屋。
だが、俺は床が白であるということを発見するのに少しの時間を要した。
何故だろうか? 答えは簡単だ。

床を埋め尽くすほどの死体が俺の足元には広がっており、死体の数が多すぎて小高い山がいくつか形成されている。

床のみ、血や、内臓でぐちゃぐちゃで、少し喉の奥が気持ち悪く、胃から何かがせり上がってくる感じがするが、強引にそれを抑える。


「溺死、圧死、焼死、胴体切断……死体にバリエーションがあってもなあ。誰得だよ……ん?」

魔法で、空気で椅子を作り、座りながらあらためてどうしてここに死体があるのか、少し疑問に思いながら観察していた。
皆が皆、射殺された、斬り殺された、などのように死因に一貫性が見られたなら、どこかのヤクザの死体処理場だという考えにも行きつくかもしれないが、そうはいかない。
何故、雷で焼かれたような死に方や、饅頭で喉を詰まらせたみたいな表情をしている死体があるんだ。


死に方の豊富さに若干うんざりしていると足元の死体が消えた。


足元の死体が消えた。


「……は?」

待て待て。意味が分からない。何故死体が消える?
「……まさか、地球に帰れなかったのか……?」
背中に嫌な汗が流れるのを感じた。俺も同じような運命を辿るのか……。
十数年の時を鍛錬と鍵に魔力を籠めることにのみ費やしたことは、無駄なことだったとばかりに俺も、この真っ白な、普通の人間は来ることすら許されないと思わされる部屋に、無造作に浜辺に打ち上げられた魚のような死体が一瞬にして消されるように消されるのだろうか。

そもそも、遠隔で人を消滅させるということ自体が常人の為せる所業でない。

俺が知っている魔法で消滅魔法を使える人物と言えば全て、魔王の側近だとか
どこかの賢者さんだとか最早、一人で軍隊を複数相手取ることが出来る実力の持ち主くらいしか、俺には思いつかない。


嗚呼、そう言えば俺の師匠が殺されたのも消滅魔法の使い手だったかな……。
今の俺の戦い方の基礎を作ったのは師匠と父さんのお陰だったし、その戦い方と精神を身に着けたことで、この世界を偶然にしろ生き残れたこともあるから感謝してもしきれない。
だが、その恩師が目の前で殺されるのを見るってのは中々に嫌なもんだ……。


現実逃避をしている間にも死体は続々と消えてゆき、床が見え始めてきている。


「……もういいや。いつも通り魔力コントロールの練習でもしとくか」
半ばどうにでもなれと思い、毎日繰り返していた修行をすることにした。

皆がいなくなってからは、故郷の近くで朝から晩まで体術と魔力コントロールの修行をしている。
体術は、今までに教わった動きを己の出せる限界を超えた先のレベルにまで洗練させて、魔力コントロールでは、魔力を物質化し、そんじょそこらの魔法使いとは比べものにならないほどの精密なことが出来るようになった。
空気を椅子にするのなんて、序の口だ。


……だが、このことを伝える人はいない。あの世界には俺一人しか存在していないような気がした。あの場所にいたのは俺一人。あそこに近づいた者は魔物であろうと、冒険者であろうと、精霊であろうと、皆殺しにした。

もう、あの世界の住民の誰にも会いたくなかった。

あいつらがいなくなった途端、酷く色褪せた世界に変貌したかのようだった。

「あ、やべえ。死体無くなった」


……本当にどうしようか。逃げ場が無いのだが。

そう思った瞬間に目の前が暗転した。





「ここは……」
先程の血生臭い場所とは一転、事務室然とした部屋に立っており、棚には大量のファイルが並べられている。「第一期転生者」、「第二期転生者」と言う文字がファイルには記されてあり、同じようなファイルがずらりと大量に並んでいる。
ぱっと、最後の方に目を向けると「第五十期転生者」と書いてある。
随分と長く続いていることのようだが、転生者……? 何故転生者という名前でファイルが閉じられてある。……いや、何か思い出せそうな気がするんだが、何だったか……転生する前に何度も聞いたことのある内容だった気がするんだが。


一旦悩むことを止めて、目の前を見ると拳大の光の玉が四つ、事務用の机の上にふわふわと浮いている。そして、その光の玉の中心に緑色の髪を肩まで伸ばした妙齢の女性が肘を机に立てた状態で手を組み、こちらを見ていた。
ただ、この女性は俺を見ているだけなのに体は逃げる体勢を取れと全力で信号を発している。俺よりも実力は遥かに高いらしい。
断言出来る。俺では本気を出しても百回挑んで百回殺される。
その、どこか人間離れした雰囲気を纏う女性が重々しく口を開いた。

「すみません。あなたは私のミスで死んでしまいました」
「いや、俺死んでないんですが」

そもそも、そちらのミスで死んだのなら、俺に伝えに来るのが遅すぎるだろう。
何十年前だと思ってるんだよ。
反射的にそう返すと光の玉4つは、小刻みにブルブルと震え、女性は俺に憐れむような目を向けながら言ってきた。


「最初は皆そう言うんですよ。門音邦介さんの死因は……熊に殺されたことになっています」
「ああ。確かに覚えはありますが、それって確か……35年前の事ですが?」
「そうでしょう?………て、っええ!?」

女性が驚くのと同時に光の玉はまるでその女性の反応を楽しむかのようにクルクルと回る。
慌てて、机に置いてあるファイルをペラペラと捲る様を見ながら少し口を歪むのが感じる。
……しかし、そうだったか。さっきのファイルの内容で思い出せそうな事が分かったぞ。
これ、テンプレってやつだ。

―――ある日、事故で死んだ、明日に向けて眠って、起きるとそこには何も無い空間が。ぼんやりと待っていると、どこからともなく神様が「自分のミスで死なせることになってすみまんでした」というような謝罪文とともにやって来て、そのお礼として特典として三つくらい願いを叶えてあげよう。そしてアニメの世界に転生してもらうよ! そこで転生者達はチートやハーレムでうっはうっはなことに―――

なんて内容の小説をネットでいくつも見ていたんだった。
何度も見ていたからあんなに濃く覚えていたんだろうな。

「ええと……ちょっと待ってね。もう一回調べなおしてみるわ。……何? え? あなた達の親友?」

光の玉に話し掛ける姿に少し引きつつも、俺の親友だという内容に思わず眉を顰める。
俺の親友に光の玉なんていただろうか。

「あなた、今はテオ・ウィステリアでいいわね。 イルマ、アキラ、ヤタ、リサ。……この言葉に覚えはあるかしら?」
「全て。何故お前が知っている」
「そんなに殺気立たないで。その子達の魂がこの4つなのよ」
「……本当か?」
『本当だよ。テオ君』
「その声は秋風さん!?」
『ふふ、久しぶりだね』

懐かしい声がした方向を見るが、同じ形の光の玉がぐるぐるとランダムに回っている。
声の出所を割らせまいとしているのだろうか? 悪戯好きなあいつららしいと言えばあいつららしいか。

「それにしても何でここに? ってかここ何処だよ。イルマの言うとおりにしたらここに着いたんだが」

『うん。なんか死んだら、英霊というものになっていたんだよ。……まだ全く話し足りないけどテオにとってここの空気は有毒だからね。神様、急いで送ってやって』
「え、ええ。分かったわ。特典と送る世界はどうするのかしら? 多分後2分以内に送らないと彼、消滅しちゃうわよ?」
『え、ええ!? もうそんなに時間経ったの!? ど、どどどどどどうしよう』
あなたが落ち着いてください。
……しかし、どうしようか。とりあえず地球に行こうか。
「……地球で。特典はいらないよ」
「地球があるアニメの世界の何処にしますか? あなた達がいた地球には戻れませんので」
「それじゃあ……むう…………」
『それなら俺が決めるぜ! 世界は魔法少女リリカルなのは。特典はテオにリンカーコアを内蔵して、テオの戦いに臨機応変に合わせられるインテリジェントデバイス!そして三つは……』
「俺の限界値を上げてくれ。最近力も魔力量も頭打ちになって困っていたんだ」
『……銀髪オッドアイにしないのかよぉ……』
誰がそんな地雷みたいな容姿にするかよ。この姿でも俺には勿体無いくらいだ。

「はいはい。時間が無いからあっちの世界とあなたの状況についての説明は手紙で送っておくわね。それでは、良い転生生活を。もしかしたらまた会うかもしれないわね」

そう言って彼女は指パッチンを鳴らした途端、焦点が急に合わなくなり、意識が薄れていった。

……簡単に……人に気絶させられるほど…やわな鍛え方はしてないん……だけど………なあ。

『『『『テオ。いってらっしゃい』』』』

「…………行ってきます」
『っあ、ちゃんとあっちの世界で彼女を作りなよ? ちゃんと人生は楽しまないと、私たちが悲しむよ?』

りょーかい……。…………出来れば……ね。
 
 

 
後書き
前から転生の間というものを書いてみたかったんですよね。
まあ、結局すんなりと終わっちゃいましたがorz
 
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