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色々一発ネタ

作者:七織
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IF 聖杯戦争四次五次

 
前書き
過去が違った五次もの。四次ものでもある。短編一発ネタ。
これもなろう時代にレギオスのまえがきに書いたやつ。 

 
「急いだ方がいいぞ、凛。時間は、思うよりもあるわけではない」
『分かっているわよ綺礼。あんたに言われるまでもない』

 電話口から聞こえる声に男――言峰綺礼は苦笑する

「そうは言ってもな、君はいざという所でミスをしてしまう。サーヴァントを呼べない、等という事になったら笑い話にもならん」
『馬鹿言わないで。そんな初歩的なミス、この私がするわけないでしょう?』

 電話口の向こうにいるはずの少女――遠坂凛はいつも通りの口調で返す
 自分が間違うだなんてありえない。そう信じているような口調に綺礼は相変わらずだと思う
 磨き抜かれた稀代の才と、それを支える弛まぬ努力。そうであるが故の自信からの物なのだろう
 毅然としたその言葉に、綺礼は彼女の父親を思い出してしまう
 だからつい、言ってしまう

「そうは言うがな。聖杯戦争と言うのは君の父、時臣氏でさえも――――」
『―――お前が言うな!!』 

 言おうとした言葉は、しかし少女の怒声に遮られる
 しかし、冷静な彼女はすぐさま気を取り直し、言葉を続ける

『……ゴメン。ちょっと感情的になってた』
「いや、君が気にすることはない。私が軽率だった。済まない」

 そう、彼女に非などあるはずはない。自分が軽率だったのだ
 課せられた職務を、全うできなかったのは自分なのだから

「私は十年前、時臣氏を助力するはずだったのにそれを成せなかった」
『……もういい』

 助けるはずだった相手を死なせ、あろうことか自分はおめおめと生き延びてしまったのだから

「それどころか死なせてしまい、私自身が生き延びて―――」
『もういいって言ってるでしょ! 聞け、馬鹿綺礼!!』

 自責の念に包まれていた所を、叱責される

『そんな話、何度も聞いたわ。言ったはずよ、もういいって。あんたが悔やんでることは知ってる。どうしようもないほどに自責の念を感じてることも知ってる。でも、あれはあんたが悪いわけじゃない』
「だが……」
『確かに、あんたの責任も零ってわけじゃない。けど、それでも負けたのはお父様なのよ。強い物だけが生き残り、死ぬのは敗者。お父様の考えが甘かっただけ』

 それは何度も聞かされた言葉。けれど、綺礼には受け入れることが出来ない言葉

『お父様は全力で戦い、そして負けて死んだ。悲しいけれど、確かにお父様は全力を尽くし、その果てに負けたはず。それを、「自分の助力が甘かったから」ですって? ふざけないでよ。お父様の戦いを、あんたなんかが馬鹿にするな!!』

 気にするなと、馬鹿にするなと彼女は声を大にして叫ぶ
強いな。と、そう思えてしまう
その言葉に偽りはないのだろう。それどころか、こちらを気遣ってさえいる
 だが、自分にはそんな風には受け入れられない
 そんな自分を、きっと彼女は苛立ちの眼で見てくるだろう

「済まない。そんなつもりはなかった。……そうだな、凛なら問題はないだろう。せいぜいポカに気を付けることだ」
『言われるまでもないわね』
「……もしも、だが、何らかのミスがあれば教会に来ると良い。かつて果たせなかった盟約に代わり、全力で君の力に成ろう」
『おあいにく様。そんな事にはなりませんよーだ。次に行くのは、聖杯戦争の参加者として。正規のマスターとしての報告よ。監督役の力なんか借りるつもりはないわ』

 規律を重んじる凛の事だ、その言葉に嘘はないだろう
 そもそもズルをして勝つ、等と言った考えを好まない彼女だ
 だからこそそれ以上言わず、伝える事だけを口にする

「既に召喚されているサーヴァントはランサー・ライダー・キャスター・アサシン・バーサーカーだ。早い報告を祈る」
『セイバーを連れて、直ぐに行くわ。待ってなさい』

 そして最後に、付け足すように言葉が続く

『……あれはどうだった?』
「何も。すまないが、何もなかったよ凛」
『そう……また、持って行くわね』

 ツー、ツー、ツー……
その言葉を最後に電話は切れる
きっと彼女なら宣言通り、最優の当たりを引いてくるだろう
ならば自分は、それを待っていればいい
そう思い、綺礼は残してあった執務を行うために部屋を出る

(もし……もしもだが、彼女が何らかのミスをするというのなら――――)

 ―――彼さえも動かそう

 そう、綺礼は誓った






丑三つ時の深夜、遠坂凛は自宅の地下にいた
開けたそこの地面に、液体を垂らしていく
それは溶けた宝石。宝石魔術の遠坂において、魔術の媒体となりうる触媒の滴
いくつもの石を溶かしたそれで、一つの紋様を描いていく
 それは陣。円を基本とした、召喚の陣。聖杯戦争を始めるための、始まりを告げる魔術

「これで……よし」

 描かれたそれに間違いがない事を確認し、小さく頷く
 そして、用意した時計を見る
 針が示しているのは2の数字。自分にとって、もっても調子がいい時間帯だ

(ここでミスしたら、あいつに笑われるわね……)

 昼に電話で話した相手を思い出す
 注意されたというのにミスしたら、合わす顔が無い
 眠気もない、体調も万全。時間帯もいい
 余計な魔術の誤作動を起こさないよう、いらない道具の類も持っていない
 これならイケル。そう確信する

「さて、じゃあ始めますか」

 聖遺物は用意していない
 なくとも、サーヴァントは術者の力量に会った物が現れるはず
 ならば、自分が引く者が最優で有らぬはずがないのだから

 最後に一度、自分の手の甲を見る
 そこに浮き上がる紋様を。礼呪と呼ばれる参加の資格を一撫でし、陣に向け手を翳す

イメージするは、心臓を貫くナイフ
全身の魔術回路を起動させ、魔力を流す
陣が輝き始めるのと同時、言葉を紡ぐ

「告げる―――」

 心臓は早打ち、既に自身は一つの回路
 魔術と言う人外の技を成すための機会に過ぎず

「――誓いを此処に。我は常世全ての善となる者。我は常世全ての―――」

 痛みを訴える痛覚を無視し、一つの部品として言葉を紡ぎ続ける
 もはや、周囲など意識から外れている
 神秘を成すための一つの回路として、只々呪文に集中する

「―――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ」

 背負う物を考えるのなら、止まるわけにはいかない
 自身プライドの為、そしてひたすらに自らを責め続ける一人の兄弟子の為
 そして何よりも、遠坂としての悲願の為に

「天秤の守り手よ―――!」

 その言葉と同時、陣はこの世ならざる場所と繋がる
 吹きすさぶ風と稲妻が辺りを照らす中、眩いばかりの黄金の輝きと共に陣の中央から一つの影が浮かぶ
 分かる。それが人ならざるものだと
 本来人が使役など出来るはずのない、上位の存在だと

「問おう――」

 そして凛は確信した
 最優を引き当てたと
 勝利するのは自分だと
 地下に、声が高らかに響き渡る

「―――汝が我を招きしマスターか」








「来たか、凛」
「ええ、宣言通り来たわ」

 その日の日が変わる前の深夜、凛は教会へと訪れていた
 監督役をしている兄弟子へ、参加の報告をするために

「サーヴァントはどうした?」
「それなら、外で待たしてるわ。呼べば直ぐに来るけど」
「……その様子なら問題なく呼べたようだな」
「当たり前でしょ。だから、あんたの手助けなんかいらないわよ」

 助力などいらないと先に言う
 そうでもないとこの兄弟子は、いらぬお節介を焼くかもしれないのだから

「そうか、それは何よりだ。―――では、問おう、遠坂凛よ。君は此度の聖杯戦争に参加することを望むかね」
「―――当然。私は今度の聖杯戦争に勝利し、父が成せなかった悲願を達成して見せる」

 こちらの答えに、綺礼は首肯する

「よかろう。第五次聖杯戦争監督役とし、遠坂凛の参加を承認する。これで登録は終わりだ。もっとも、君以外のマスターは一人しか来ていないがね」
「来るだけ驚きよ」
「いい意味でも悪い意味でも、彼女は真っ直ぐだからな。愚直と言うべきか」
「綺礼の知り合い?」
「まあ、そんな所だ」

 誰だか知られぬよう、来ないのが普通だ
 凛としては真っ向勝負で勝ちきれる自信がおるのと、兄弟子という事で報告に来たのだ
 それだというのに自分以外に来ていたというに驚きだ

「既に全サーヴァントが出そろっている。気を付けることだ。何か質問はあるか? 答えられる範囲ならば答えよう」
「いいの? 何でも聞いて」
「監督役の所に来るのが決まりだというのに殆どが来ていないのだ。真面目に守ったものに、ほんの少し程度優遇しても、罰は当たるまいよ」
「そう、でもいいわ。知らなくてもいいし。だけど、一つだけ知りたいことがあるわ」
「なんだ」

 問われ、一度だけ自問自答する
 それはずっと気になっていた事。心の中に残り続けていた錘
 聞かなくても問題はない。だが、聞けば疑問は無くなり、憂いなく戦えるというのも事実
 少しばかり考え、決心して口を開く

「―――十年前、何があったか教えて綺礼」
「……それは」
「あんたはいつも言ってたわね。自分のせいだって。ミスがあったって。あんたの責任なんて別にどうでもいい。けど、知りたいの。教えて綺礼。あんたが言ってた、お父様の“最大の過ち”を。一体、何があったのかを」
「……」

 兄弟子は言葉を探すような、苦い顔を浮かべる
 分かっている。自分を責め続けている兄弟子にとって、これが辛い問いなのだと
 だが、自分は目の前の兄弟子の言葉をいつも遮って来た
 だから、何があったのかを知らない
 知れば、何かわかるかもしれない
 この何も感じられぬ男が、空虚しかない兄弟子が悔やみ、自責し続けている事が何なのか
 少しの思考の後、綺礼が口を開き始める

「―――分かった、話そう。一体何があったのか」

 そこから語られるは過去の記憶
 悔恨で綴られた、争いの思い

「ならば最初から、時臣氏の召喚の儀の時から話すとしよう」

 話されるは苦痛の思い
 されど確かに会った、真実の記憶
 血と硝煙に塗れた、一つの戦争の話

「あの夜召喚された、優しげな瞳をした、一人の青年の話から――――」


 今、十年前の記憶が紐解かれる

 
 

 
後書き
設定だけは考えてあるけど書くとなると怠いタイプ。
考えるのは凄い楽しいってよくあるよね。 
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