ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
第四十二話 静かなる御業
「とりあえず、どんな効果があるんだ?」
本の形をした件のアイテムはSAOを含めてもあまり目にしたことのないアイテムだった。もちろんないわけではないが、あれほどまでに強い竜が守る宝箱にあるようなものは知らなかった。知らないものを考えても埒が明かないので、本の形をしたアイテムをタップし詳細を見ようとしたのだが、それは聞き知った声で遮られた。
「おいおい、なんだよ。ここ、すでに攻略済みかよ」
すぐさま本をアイテムウインドウに戻し、声のした方へと振り返るとそこには昨日会った人物がいた。赤い短髪に黒いコートを着込み、背中に野太刀を背負うサラマンダーのプレイヤー。
「・・・フォルテ、だっけ?」
「おっ、覚えててくれたんだな!うれしいねぇ!」
ソレイユが名前を呼ぶと笑顔を浮かべるフォルテ。そのことでフォルテの印象がソレイユの中でがらりと変わった。物静かな人物かと思いきや、結構テンションが高い人物らしかった。そんなソレイユの心の内を知らずにフォルテの後ろに控えていたプレイヤーがフォルテに話しかけていた。
「フォルテさん、知り合いっすか?」
「おう、昨日会ったばかりだがな」
「それにしてもずいぶん美人な方じゃないっすか!?フォルテさんばっかずるいっすよっ!?」
仲間の一人がソレイユを思いっきり指差しながら血の涙を流していた(実際は鎧を着込んでいるのでそれは定かではないのだが、少なくともソレイユにはそう見えた)。どうやら、ソレイユのことを女性だと思い込んでいるらしい。そこで、ソレイユは考えた。このまま悪乗りするのも悪くないな、と。
「いやいや、俺とあいつはそういう仲じゃ・・・」
「そ、そんな・・・わ、私のこと遊びだったの・・・?」
誤解を解こうとしたフォルテの言葉に絶望した表情で反応するソレイユとそれを聞いたフォルテの仲間達がフォルテに冷たい視線を向けている。
「「「フォルテさん・・・」」」
当然の如くいきなりの展開に驚くフォルテは焦ったという言葉では物足りなかった。
「ちょ、ちょっと待てぇぇ!!誤解だ、ってそうじゃねぇ!!ソレイユ、お前何言ってんだっ!?」
「私、あなたの為と思っていろいろしてきたのに・・・それなのに・・・」
誤解を解こうとするフォルテだが、そうはさせじとソレイユは顔を両手で覆い泣いているふりをする。それを見たフォルテの仲間達の視線が氷点下まで下がるのをフォルテは感じていた。必死に言い訳を述べようとするも、泥沼にはまりそうでなかなか言い出せないでいた。
「尽くしてくれた美人な彼女さんを泣かしちゃうとか・・・」
「普通有り得ないっしょ・・・」
「ど、どんなことされたんっすかね?」
ついには、こそこそと好き勝手話し合う仲間達にフォルテは今すぐ魔法をぶちかましてやりたいと思ったが、それより先にすることがある、と思い止まった。何かを決心したように一息つき頭をガシガシと掻き毟りると、こそこそ話していた三人がくわっとフォルテに視線を集めた。しかし、残念ながらその三人が思う展開にはならなかった。
「はあ・・・ソレイユ、もういいだろ?」
「ああ、十分楽しめたからな」
けろりと今までの表情を悪戯な笑顔に変え、フォルテの言葉に頷く。
「お前ってそういう奴なのな・・・」
「ああ、残念ながらな」
若干テンションが下がったフォルテの言葉に、笑顔で肩を竦めながらソレイユは肯定した。その一連のやり取りを見ていたフォルテの仲間達のうち二人はこの展開を予想していたかのように、残り一人は状況を読めないまま軽く混乱していた。
「「こんなことだろうとは思った(がな)」」
「え?え?ど、どういうことっすか・・・?」
「全部あっちの演技だったってことっしょ」
「正解だ。それから俺は男なんで、そこんとこよろしく!」
ソレイユの言葉を聞いた混乱していた人物はぽかんっという表情した後、絶叫した。
「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
その声の一番の被害にあったのは近くにいたフォルテたちだった。洞窟なため必然的に音と言うものは反響してしまう、それは声とて例外ではない。遠くに残響を残しながら声を上げた張本人は仲間達から罵りを受け、ソレイユはそれを面白そうに見つめていた。
◆
「なかなか、愉快な仲間だな。昨日とは大違いだ」
「昨日の奴らは特になんでもねぇ奴らだよ。モーティマー・・・馬鹿領主の命令でな」
疲れたように溜息を吐くフォルテにソレイユは苦笑いを禁じ得ない。領主を馬鹿扱いするとは何とも豪快というか、無謀というか迷うところである。
「それよりも、そこにあった宝箱はお前が開けたのか?」
「ん?ああ、そうだけど?」
フォルテがソレイユの後ろにある宝箱のことを差しなながら尋ねてきたので、ソレイユは素直に答えた。
「何が入ってたんだ?」
「本みたいなアイテムだけど?名前は―――」
メニューウインドウを操作し、アイテム名を探そうとしたソレイユだがそれより先にフォルテの口から名前が上がった。
「―――【グリモワール】」
「そうそう、それだ。そのグリモワールってやつだけだったぞ?」
そのアイテム名を聞いた途端、フォルテの眼光が鋭くなった。フォルテだけではなく、フォルテのお供である三人のうち二人の眼光も鋭くなっていた。
「ソレイユ・・・」
「うん?」
「そいつを渡せ」
今までにないほどの迫力でフォルテはソレイユに警告する。それを受けたソレイユは不敵に笑いながら眼光を鋭くする。
「・・・いやだ、と言ったら?」
その瞬間、一筋の閃光が走った。咄嗟に刀を抜き、その閃光を受け止める。甲高い金属音が円状のフロアに響き渡る。それと同時に軽い衝撃波も生じていた。
「さすが、≪三将≫と称されるほどの実力者。ずいぶんと、速いな・・・」
「≪三将≫のことを知ってるのか?本当に何者だ、お前?」
「さぁ、なっ!」
ギィンッと、より高い音を出してソレイユはフォルテの野太刀を弾いた。フォルテはその力に逆らうことはせず、弾かれた力を利用して距離を取った。
「そんなにこのアイテムが欲しいのか?」
「ああ、欲しいね」
素直に告白するフォルテにソレイユはどうするか迷う。正直な話、フォルテの実力は聞きしに勝る実力だった。
「≪三将≫とか≪七大罪≫に数えられる奴っていうのはこうも化け物揃いなのか?」
「≪種族九王≫には及ばねぇがな」
フォルテの聞き慣れない単語にソレイユは首をかしげた。
「・・・なんだよ、その≪種族九王≫って?」
「≪三将≫や≪七大罪≫知ってのに、なんで≪種族九王≫を知らないんだよ・・・」
「・・・おかしいのか?」
「当たり前だろっ!?≪種族九王≫―――初代領主たちのみに与えられる称号であり、その種族最強であるという絶対不変の証なんだぞ!だから、領民はそのプレイヤーたちを王と呼ぶことで、畏敬の念を表したんだ!そして、その王と呼ばれるプレイヤーたちのもとに集った実力者を総称して≪三将≫や≪七大罪≫と言われるようになったんだよ!わかったか!!」
そのフォルテの言葉に後ろの三人のうち二人は首を縦に何度も振り、残りの一人は今まで知らなかったことに感心していた。
「それは知らなかった」
「まったく、勉強不足もいいところだ」
やれやれといったように肩を竦めながら首を横に振るフォルテ。どこか理不尽を感じるソレイユだが、今はそれは置いておくことにする。
「で、話は戻るけどこのグリモワールっていうアイテムってなんなの?」
「そこまでの親切心はおれにはねぇよ」
そういってフォルテは野太刀を構える。それに合わせてソレイユも構えこそしないが、戦闘態勢へと入っていく。
「だろうな。一応、敵同士だもんな。それより、後ろの三人に加勢してもらった方が楽なんじゃねぇの?」
「そういうのは俺の好みじゃないんだよ。それに昨日の太刀筋を見た時からお手合わせ願いたいと思ってたんだ」
「へぇ、意外だ。結構熱いタイプなんだな、あんたって」
軽口を叩いているが、二人の目は一寸たりとも油断はなく、その気配は鋭いままである。そして、会話が途切れあたりが静寂に包まれると、どちらからともなく地面を蹴った。
◆
ソレイユとフォルテの間に飛びかうのは、二振りの剣でありながらも幾つもの剣閃。並みのプレイヤーでは眼に捉えることもできない速さで宙を翔けている。防がれ、避けられ、去なされ、流される。そんな中、ソレイユの刀の放つ紅色の残光とフォルテの野太刀の鈍色の残光が数えられないほど光っている。
「あの時の攻撃はしないのな!」
斬り合っている最中でも、フォルテは軽口を叩く。フォルテの言うあの時の攻撃とは昨日、ルシフェルを襲っていたサラマンダー部隊の内、二人を撃破した攻撃である。それを悟っているソレイユはその軽口に素直に返す。
「前のタイトルでもそうだったんだが、少しばかり溜めが必要なんだよ!」
「それはいいことを聞いたなっ!一先ずは、あの攻撃を警戒しなくていいわけか!」
そんなことをのたまうフォルテにソレイユは少しばかり頭にくるものがあった。
「・・・あれができないからって、おれが弱いとは限らないぞ!」
その言葉と共に、ソレイユの刀の速度が増した。フォルテはその速度に瞬時に対応してくるが、その顔には少しばかり苦味が出ていた。
野太刀で防御しようにも、それをすり抜けるようにソレイユの刀がフォルテを刻んでいく。何とか急所を外しているが、このまま守っていても徐々にHPが削れるだけなので負けじと反撃を試みるもあっけなくカウンターで返されてしまいあっという間にHPゲージを緑からイエローへと色を変化させてしまう。
「支援魔法も使用せずにその強さかっ!嫌味にもほどがあるだろ・・・」
そうぼやきつつも、ソレイユの猛攻に対処できないと踏んで魔法で牽制しながら距離を取るフォルテ。対してソレイユは追撃はしなかった。かわりに刀を鞘に納め、居合いの構えを取る。それは奇しくも【最上位剣聖剣技≪ワールド・エンド≫】に非常に酷似していた。しかし―――
「あれで来るつもりかよ・・・」
一度ソレイユの居合いを見ているフォルテは逃げる選択肢を捨て、野太刀を正眼に構え肩の力を抜き真っ直ぐとソレイユを見据える。あたりに緊張が走り静寂が空間を支配する。数刻を経てソレイユが大きく息を吐きながら柄に手をかけ刀を抜くのと同時に地面を蹴った。
―――構えこそ≪ワールド・エンド≫に酷似していたが、放たれた斬撃は全くの別物だった。
【それ】は、ただ静かに抜き放たれた。ただ静かに宙を翔けた。そして、ただ静かにフォルテの体を撫でた。迎え撃とうとしたはずのフォルテは何が起きたのかすらわかっていない。いや、フォルテだけではなかった。ソレイユを除くその場にいる全員が何が起こったのかわかっていない。
だが、次の瞬間フォルテのHPがイエローゾーンから残り一ドットまで一気に削れたのを見た全員が気が付かされた。
―――斬られた、と。
ソレイユがやったこと―――それは、『撫でるように斬った』ということだけ。ただ、それだけだった。
何者も反応することを許さず、何者も防ぐことを許さないその技を、美しくすらあるその技を人は畏怖の念を込めて、人外の御業、と呼ぶ。
ソレイユ/月影 桜火の持つ絶刃、静かすぎる【それ】を人は皮肉を込めて『涅槃寂静』と名を付けた。
後書き
魔法使えよ!
ルナ「確かにねー。でも、サラマンダーって種族を考えたらこれでいいんじゃないの?」
うっ・・・
ま、まぁ、魔法戦闘はまた今度ってことで・・・
ルナ「そのまたっている来るの?」
・・・・・・・・・
はい、では感想などお待ちしております!
ルナ「逃げたね」
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