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Fate/ONLINE

作者:遮那王
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第六話 死の恐怖

 
前書き
今回で二体目のサーヴァントが登場します。 

 
あの地下水路の一件から大体一ヶ月と少しが経った。
この日、ケイタはついに目標額に達したギルド資金の全額を持って、不動産仲介プレイヤーの元に出かけていた。

俺達、他のギルドメンバーは宿屋でケイタの帰りを待っていたが、やがてテツオがこんなことを言った。

「ケイタが帰ってくるまでに、迷宮区でちょっと金を稼いで、新しい家用の家具を全部揃えちまってあいつをびっくりさせてやろうぜ」

ホームを買うと言う事で、ギルドの共通ストレージのコル欄はすっからかんになっていた。テツオのその意見に異を唱える者はおらず、そうして俺達は、始めて行く最前線から三層程下の迷宮区を訪れた。

当然俺やセイバーは、そこに訪れたことがあり、稼ぐにはいいがトラップが多発する地域であることは知っている。

レベル的には黒猫団にとっても安全圏だったということもあり、順調な狩りが続いていた。

「……」

だが、セイバーだけは表情をまったく崩さず緊張した面持ちで辺りに注意を向けている。

「どうしたんだセイバー、なんだか様子がおかしいけど…」

俺は皆に聞こえないように小声で問いかける。

「―――実は先ほどから何者かの視線を感じるのです。…いえ、観察されていると言ったほうがいいでしょうか」

セイバーは声を出来る限り抑えながら俺にそう伝えてきた。
ハッ、として俺は辺りを見渡す。
だが、この場には俺たち以外のプレイヤーはいない。

「―――気のせいだと良いですが、充分警戒しておいてください」

セイバーはそう言うと、再び辺りに注意を向ける。

俺はその時、思い出した。
自分が聖杯戦争の参加者で、常に狙われている立場であるという事。
そして、黒猫団の皆にも被害が及ぶかもしれないという事を。

そしてそれは、最悪の結果となって俺達に降りかかってくる。

-------------------

俺の心配とはよそに、ギルドの目標額をあっという間に溜まった。
俺はさすがに心配し過ぎたかなと思いながら、皆で帰路に就こうとしていた。

そんな時、

「おっ!宝箱はっけーん!」

メンバーの一人、シーフのダガー使いが横道の奥にある部屋の宝箱を見つけた。

宝箱を見つけた場所は、四方に通路がありそこにポツンと宝箱が置かれた割と広い正方形の部屋だった。
黒猫団の面々は、この宝箱を開けて資金の足しにしようと箱を開けようとする。

俺は正直、この宝箱を開けるのは反対だった。

皆にも開けるのは止めておこうと言ったのだが、その理由を聞かれるとただ嫌な予感がするとしか言えない。
このダンジョンはトラップの多いので、それを考慮してだが、レベルを隠している以上それを言い出すことはできない。

けど、俺も少しばかり油断していた。

俺の隣には絶対的な力を持つセイバーが居る。
彼女が居ればどんなところでもきっと切り抜けることができる。
俺もそんな慢心を持っていたのかもしれない。

結果、宝箱は開けることになり、鍵を解除しふたが開けられた。

その瞬間、

ジリリリリリリリリリリリリリ!!!

けたたましい大音量が部屋中に響き始めた。

「うわっ!!」
「な…なんだこれ!?」

アラームが引き金だったかのように、部屋の入り口から怒涛のようにモンスターが押し寄せてきた。
俺は切り抜けるのは難しいと判断し、全員に叫んだ。

「全員!クリスタルで脱出だ!!」

今ならまだ間に合う。
モンスターが懐に入る前に、転移結晶で街に飛べば生還できるはず、そう考えた。
だが、

「転移!な、なんでだ!?転移、転移!!」
「クリスタルが使えない!?」
「なっ!?」

その部屋はクリスタル無効エリアに指定されていた。
転移結晶は効力を発することなく、俺を含む全員がパニックに陥った。

「う、嘘だろ!?うわぁぁぁ!!」
「うわ、く、来るなぁぁぁ!!」

宝箱は今もまだけたたましく鳴り響いている。
そして、部屋を埋め尽くすほどのモンスターが俺達に押し寄せてきた。

モンスター達が俺達に剣や斧や槍を向けて突撃してくる。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

だが、そのモンスター達は一振りの斬撃によって押し倒され、ガラスのように砕けた。
斬撃の担い手のセイバーは俺達に向かってくるモンスター達を、触れさせまいと一気に駆逐していった。

「全員、隙を見せないよう背中を合わせて戦うのです!!」

セイバーはモンスターを倒しつつ俺達にそう叫んだ。
ほとんどのモンスターはセイバーによって倒されている。
だが、取りこぼしたモンスターが俺達に向かってくる。
俺たちは背中を向け会い、向かってくるモンスターを迎撃し始めた。

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

俺は叫び声を上げると無茶苦茶にソードスキルを繰り出してモンスターを倒し始めた。
誰も死なせはしないと必死に剣を振り下ろし続けた。
次々と出てくるモンスターをポリゴンへと変える。

目の前で戦うセイバーは、剣や槍の雨を流れるような動きでかわし、さばくと怒涛の勢いで剣をモンスターに振り下ろし、突き刺していた。
だが、いかに大きな力を持つサーヴァントといえどもなまじ数が多すぎるのか、剣がセイバーを掠めることがあった。

俺はそれを見つつ、黒猫団の皆に目を向ける。
モンスターのほとんどはセイバーが倒しているので、俺達の方へはほとんどモンスターは来ない。
少なくなったモンスターを皆は確実に、そして協力をして倒していた。
だけど、さっきから引っ切り無しにモンスターが湧いてくるので、疲労の色が見え始めてきた。

俺も数こそ少ないが、無限のモンスターの壁に正直疲れを隠せなかった。

そんな時、俺の目に留まったのは、最初にあけた宝箱。
宝箱は今もけたたましく鳴り響いている。

俺はもしや、と思い目の前のモンスターを切り捨てると宝箱に突進した。
目の前に宝箱が現われ、俺は一気にそれに向かって剣を振り下ろした。

すると、今まで騒々しくアラームを鳴らしていた宝箱は消え去り、モンスターの出現は止まった。

セイバーはこれを好機と見たのか、目の前にいたモンスター達を切りはらい、剣を構えた。
そして、

「風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

剣から爆風を巻き起こした。
不可視の剣から巻き起こされた暴風は、たちまち部屋に残っていたモンスター達を一気に吹き飛ばし、ポリゴンへと変えた。

風が止むと、部屋には俺とセイバー、黒猫団のみんな以外、残っていなかった。
俺たちはなんとか生き残ることができたようだ。

-------------------

「はあ、はあ、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

誰かが息切れを起こしてその場に座り込む。

「…全員、無事だよな……」

俺は皆に無事を確認する。
突然の出来事で俺もさすがに焦り、全員で生き延びることを一瞬でも諦めてしまった。
だが、セイバーが奮闘してくれたおかげで、俺たち全員が生き延びることができた。
セイバーにはいくら感謝しても感謝しきれない。

「セイバー、ありがとう。あとお疲れ様」

俺はセイバーにねぎらいの言葉をかける。
だが、

「……」

セイバーは無言のまま辺りを気にしている。
剣もまだ構えたままだ。

「…ど、どうしたんだ、セイバー?」
「―――――いえ、気にしすぎたようです」

セイバーはそう言うと辺りへの警戒を解いた。
剣を下し、俺の元へと歩みよってくる。
その時だった。

「ぐあああああああああっっ」

突然誰かの叫び声が聞こえた。
慌てて声の聞こえた方向へと顔を向ける。

そこには左胸から赤いエフェクトを撒き散らしているテツオの姿があった。

テツオはそのまま力なく倒れると、バシャン!という、プレイヤーが死亡した事を知らせる時特有の無情な効果音がその空間に響いた。

「うああああああっ!」
「な…なんだよ一体!!」

突然の出来事に他のメンバー内が混乱に陥った。

「ああああああっ!」

次に叫び声が聞こえたのは俺の背後からだった。
俺の背後ではササマルが体中に赤いエフェクトの華を咲かせていた。

「っ!…キリト!!」

セイバーは素早く俺の側へと駆け寄ってくる。
だがその駆け寄ってくる間に

「うあああああああああっっっ」

ダッカーの叫び声が俺の耳に届いた。

「嫌あああああぁぁぁぁぁ!!」

部屋中にサチの悲鳴が響く。
今この部屋には俺を含め三名しかいない。
だが、確実にこの部屋にはまだもう一人いる。
三人を殺したプレイヤーが。

俺は息を整えてその姿を探す。

「そこっ!!」

突然セイバーが飛び出し、部屋の入り口付近へと切りかかる。
そこに何者かの気配を感じたらしい。
だが、斬撃は何かに弾かれてそこに届くことはなかった。

すると、その空間だけが歪みだし、人の形を象り始めた。

徐々にはっきりとその姿形が認識できる。

ゾクッッッ

―――――突然、背筋が総毛だった。

奇妙な悪寒。
構える間もない。

この感覚は、セイバーを召喚した時に似ている。

それに思い立った瞬間、意識が凍りついた。
……緊張で息が詰まる。

俺達が入ってきた入り口付近にいるのは一人の男。
燃えるような衣装に身を包んだ鋭い目つきの偉丈夫。

「ほう、これに気付くやつがいるとは、なかなか稀有な存在もいたものだ」

恐れで思わず指が痺れるような感覚が起こる。
殺意とはこれほど明確に、
濃密に漏らす事ができるものなのか。

「だが他は脆弱にも程がある。素人とはいえ、ここまで非力では木偶にも劣ろう」

その男は“死”そのものだった。

「鵜を縊り殺すのも飽きた。多少の手ごたえが欲しいところだが……」

一瞬でも目を離せば、命を絶たれる―――!

「小僧共、お主らはどうかな?」
「お前…サーヴァントか……」

絞り出すようにそいつに問いかける。

「ほう、少しは気骨のあるものもおる。作用、此度は暗殺者としてこの地に参戦した。よく踏みとどまったな小僧。だが……」

男は俺から目を外し俺の背後にいるサチへと目を向ける。
男はつまらなさそうな目でサチを見ている。
目を向けられているサチは緊張と恐怖で顔が真っ青になり、今にも気を失ってしまいそうだ。

「小娘…お前からは覇気の一つも感じられん。爪を隠した鷹でも無さそうだ」

男はそう言うと無駄のない動きで構え出した。

「さて、幾分かは楽しませてくれるのだろうな」

そう言い、さらに殺意が男から噴き出した。

「キリト、サチ、下がっていてください」

セイバーはそう言うと一歩踏み出し、男の前へと勇み出た。
俺はサチを庇うように肩を抱えるとセイバー達より後方へと下がる。

「―――やはり相手はお主か…本来ならば儂は一戦一殺を心がけておる。一度の戦いでは一人しか殺さぬし、一人は必ず死んでもらう。だが、今回は令呪によってお主らを襲い、可能な限り討てと命じられた……貴様はどうかな、剣士の英霊よ」
「生憎だが、私はそう簡単にはやられんぞアサシン」

ピンと張りつめたような空気が部屋中を包み込む。

「行くぞ、暗殺者!!」

先に仕掛けたのはセイバーだった。
セイバーは手に持っている不可視の剣で目の前の男へ切りかかった。

「むんっ!」

男は素手でセイバーの剣を受け止めると、開いている手で拳を作りセイバーへと殴りかかる。

「ふっ!」

セイバーは体をねじらせてそれをかわすと、バックステップをもって男から一度距離を取る。
そして再び男へと一気に距離を詰めると男へと切りかかる。
男はそれを後ろに下がることでかわし、セイバーの体へ拳を滑り込ませる。

「…くっ!」

セイバーはその打撃を剣の腹で防御するが、勢いを殺しきれなかったのかその場でたたらを踏む。
だがセイバーはすぐに体勢を立て直し、すぐに迎撃に入る。

俺はその戦いを間近で見ていて、その勢いに圧倒されていた。
一言でいえばすさまじい。
英霊同士の戦いを見るのは、今回が初めてであったが、今二人の戦いを見て自分は無力であると実感した。

その光景はまさに神話の一幕、伝説級の戦いはここに再現されていた。

このレベルの戦闘では、人間の介入する余地はない。
それどころか、近づいただけでその余波を食らい。死ぬだろう。

「くっ」

ずっと膠着状態が続いていたが、徐々にセイバーの方が押され始めていた。
確かにセイバーは最優のサーヴァントとしてクラスに優遇されている。

だが、アサシンはセイバーの剣技を見切り、まだ一撃もセイバーの攻撃をまともに食らっていない。
対してセイバーは、辛うじてアサシンの攻撃を迎撃し、防御しても一発が重いのかやや後ろに下がるという場面が目立っている。

白兵戦においては最強を誇るセイバーが、ここまで追い込まれるのは明らかに不自然だ。

考えられる理由、それはレベルの差だ。

レベルの差があればステータスも明らかに違ってくる。
敵はセイバーよりステータス上に有利な状況なのであろうと俺は考えた。

「卦体な剣を使っているようだが…それにしても攻めが甘いな」
「……っ」

敵の揶揄にもセイバーは言い返せない。
実際、ここまで打ち合ってセイバーは攻めあぐねている。
剣の間合いに入ることも出来ない。

二騎の戦いは佳境に入りつつあった。

「呵々。なるほど、なかなか楽しませてくれるが―――そろそろ時間が迫っておる」

そう言うと男はゆっくりと構え、

「むんっ!!」

一気にセイバーとの距離を潰し、
そして拳をセイバーに叩き込んだ。

「がはっ!?」

セイバーは一撃食らうとそのまま後方へと吹っ飛び、壁に叩きつけられた。
セイバーのHPバーを見ると、まだ余裕のあったはずなのに、すでにイエロー…下手すればレッドに届いていたかもしれない。

「本来であれば儂はこの一撃で貴様を殺すことができた―――だがこれも令呪によって宝具の使用が禁じられておっての。まったく、面倒なマスターに当たったもんよ」

アサシンは軽く愚痴を叩くが、俺にはあまり耳に入ってこなかった。

圧倒的

今のアサシンを言葉で表現するならばこの単語が出るだろう。
たった一発セイバーに叩き込んだだけでセイバーのHPを半分以上削り取った。

「く…はぁ……」

セイバーは剣を杖のようにして、よろよろと立ちあがった。
だが、足取りはおぼつかない。
少し押しただけで倒れてしまいそうだ。

「ふむ…やはりここで地力の差が出るか。名残惜しいが…」

そう言うと、アサシンは俺の方へと目を向けた。

「まずはマスターの方から息の根を止めるか」
「……っ!!」

まずい、このままでは確実に殺られる。
相手はサーヴァント、しかもセイバーを圧倒していた相手。
俺がかなう相手じゃない。

ならば……

(令呪を使うしかない)

不可能を可能にする力、それが令呪。
だがそれを使えるのはたった三回きり。
このままやられるよりは、今その一回目を使うべきだ。

俺はそう考え左手に意識を集中させる。
そして、念じる。

(セイバー、全力でアサシンを倒せ)。

だが、それを念じる前に俺は宙に浮いていた。

「ぐはっ!!」

俺はその勢いのまま壁へと叩きつけられる。
そして、そのままずるずる地面に倒れ伏した。
見ると、アサシンが脚を振り上げているのが見て取れた。

「悪いが令呪を使われると些か面倒なのでな、早めに封じさせて貰う」

どうやら此方の考えていたことを完全に読まれていたらしい。

完璧に積みだ。

此方の切り札、令呪を封じられ俺もセイバーも虫の息だ。

せめてサチだけでも…。

俺は一心に思いながら、サチに視線を向ける。
サチは顔を青ざめながらただ俺を見ていた。
うまく言葉が出てこない。
だけど必死にサチに向かって口を動かす。

『逃げろ、後ごめん』

俺はそう伝えようと口を動かした。
サチに届いただろうか、声は届いてないかもしれない。
だけど気持ちは伝わった、そんな気がする。

「安心せい、痛みは一瞬」

上からアサシンの声が聞こえる。
抗う力もなく、俺は迫りくる拳に身をゆだねた。
 
 

 
後書き
今までの話で、直したほうがよいところや、このサーヴァントを出してほしいなど、いろんな意見お待ちしております。

 
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