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ドワォ青年リリカル竜馬

作者:納豆太郎
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第3話:激突!もう一人の魔法少女

 
前書き
あまりにもダラダラとやっていたせいで年越したどころか二月になりました
しかも1万字オーバーでなっがいなっがい…
後先考えずに書いてるとこうなるって、はっきりわかんだね 

 
 ジュエルシードによって発生した巨大な植物が海鳴の街を覆い尽くした一件から、約一週間が過ぎた。
 いち早く救援に向かった自衛隊が『海鳴巨大植物事件』と呼ぶこの案件だが、実は海鳴市が巨大植物が街を埋め尽くしたことは世間には公表されておらず、海鳴市が『原因は不明だが被災した』ことだけが発表されていた。
 なぜなら、巨大植物の出現から消滅までの時間はごく短時間であり、加えて死傷者がほとんど出なかった為、自衛隊によって箝口令が敷かれるなどを始めとした、日本国内では異例の情報統制が行われたためである。
 そのため、一部週刊誌などは政府が極秘裏に研究・開発中の新兵器の暴走だの、テロリストの仕業だの好き放題に書かれたりしている。
 その一方で、当の被災した海鳴の街は、月村家やバニングス家など、地元の富豪による資金や人材の投入などといった支援が積極的に行われたこともあり、わずか一週間という短期間でありながら、驚異的なスピードで復興を遂げていたのだった。

「おせぇぞ、なのはァ!」
「は、はぁ~い…」

 竜馬の道場がある山の、道場からは少し離れた場所にある坂道を、小学校の体操着を着たなのはが息を切らしながら駆け上る。
 坂の終点には竜馬が腕を組んで立っており、走るなのはを見下ろして檄を飛ばす。

「はぁ…はぁ…やっと、着いた…」
「よし、五分休憩だ。そのあとは、この間教えた正拳突きの型百本!」
「ふぇ~っ!?」

 息が上がって地面にへたり込むなのはの悲痛の叫びが、山々の間を潜り抜けて反響し、山彦となって帰ってくる。
 ジュエルシードが暴走し、なのはが竜馬と出会ったあの日の翌日から、竜馬によるなのはへの指導が始まった。
 本来ならば魔法の特訓の筈なのだが、訓練が始まってからというものの、基礎体力向上を目指す走り込みや、空手の基本の型である正拳突きの練習しかしていなかった。

「えい! えい! えい!」
「もっと声を出せ! 脇も開いてんぞ!」
「は、はい! えい! えい! えい!」

 竜馬に言われるがままに鍛錬を続けるなのはだが、その胸中には当然の如く疑問を抱いていた。
 なのはは魔法をもっと上手に扱えるようになりたくて、魔導士の先輩である竜馬に師事を受けることを決めたのだ。
 なのに、鍛錬の内容は体育会系の部活の練習メニューのような内容ばかり。これでは、竜馬の指導に疑問を抱くのも当然だろう。

「えい! えい! …りょ、竜馬さん!」
「後にしろ、オラ、あと二十本!」
「ご、ごめんなさい! えい! えい!」

 竜馬に異議を申し立てようとするなのはだったが、一喝されて言葉を遮られてしまう。今は黙って練習するしかないようだ。

「よし、今日はここまで!」
「つ、疲れたぁ~…」

 竜馬が本日の訓練の終了を告げると、なのはは疲労のあまりへなへなと地面に座り込む。
 五分の休憩を挟んだとはいえ、坂道を走り込んだ後に中腰になって正拳突き百本は、運動があまり得意でないなのはにとって、中々きついメニューだったようだ。

「…りょ、竜馬さん…ちょっと、いいです…か?」
「何だ?」

「息も絶え絶えになりつつも、なのはは自分の中の疑問を打ち破るため、竜馬に訊ねる。

「わ…私は、魔法の訓練を…お願いした、つもり…だったんです、けど…」
「今のお前には基礎体力が足りてねぇんだ、そんなやつに魔法で教えられることなんかねぇよ」
「で、でも…」
「悔しかったら、この程度で息が上がらないようになってみろよ。じゃあな」

 竜馬はそう言ってバッサリと切り捨てると、なおも意義を唱えようとするなのはを尻目に、飛行魔法で鳥竜館へと飛んで行ってしまった。

「あ、ちょ、竜馬さん!」

 なのはは飛び去る竜馬へと思わず手を伸ばして引き留めようとするが、竜馬はあっという間に姿を消してしまった。

「あうぅ…」
「…なのは、しばらく休んだら帰ろう? 魔法なら、僕が教えられる限り教えてあげるからさ」
「うん、ありがとうユーノ君…」

 ユーノに慰められたなのははひとまず切り株に腰掛け、少しだけ休憩してから帰路に着くのだった。














「師範、お帰りなさいませ」
「おう、戻ったぜ」

 竜馬が鳥竜館に戻ると、四天王の巨漢が出迎えのために姿を現した。

「朝食のご用意はできておりますので、すぐにお運びします」
「おう、ありがとよ」
「…ところで師範、なのはちゃんの様子はどうです?」

 巨漢はこっそり竜馬に耳打ちし、なのはの訓練の経過を訊ねる。

「…まだ今はひいひい言ってるが、剣術の家系だ、素材は申し分ねぇ。剣術は前に諦めたとか言ってやがったが…突きを見る限りじゃ、あいつは剣術よりも格闘向きなのかもしれねぇな」

 竜馬は意外にも、なのはについての感想を事細かに語り始めた。尤も、その内容をなのはに向かって直接言うことはないだろうが。

「…師範。今のあなたはとても嬉しそうな、いい顔をしておられる。余程、なのはちゃんを鍛えるのが楽しいと見えますな」
「ヘッ、うるせぇよ。…オラ、さっさと飯だ飯!」
「フフッ、承知!」

 竜馬は照れくさそうに言いながらも、満更でもなさそうな表情を見せていた。

「おぅいお前ら、師範のお食事をご用意するぞ」
「おう! …しかし、こうやって朝飯が食えるのも、なのはちゃんが我らに仕事を紹介してくれたおかげというものだな」
「うむ、ありがたいことだ」

 四天王の青年が竜馬の朝食を配膳しながら、食事を摂れるありがたみをひしひしと感じつつ言う。
 実はジュエルシードの被害から街を復興させるため、資金や人材を率先して提供していた月村家やバニングス家に級友を持つなのはが、赤貧に苦しむ竜馬や鳥竜館の面々を、作業員として一時的に雇用してくれるよう、両家の友人に打診していたのだ。
 竜馬たちが持ち前の身体能力を披露すると、即時に採用が認められた。
 そうして臨時のアルバイトの形で雇用された竜馬たちは、道路やビルの補修作業を順調にこなしていき、元々急ピッチで進める予定だった海鳴の街の復興が、予定よりも更に早くなったのだ。
 その時に稼いだ報酬があるおかげで、現在鳥竜館では満足な食事が摂れるようになったのである。

「これで残るは、借金の問題だけというわけだ」
「うむ…流石に今回の報酬だけでは、我らの当分の食事で手一杯…。借金返済も早くしなければな」

 巨漢は腕を組み、再び当てもない借金返済の手段について考えながら言う。
 元々、復興の報酬で借金を返す案もあったのだが、膨れ上がった多額の借金の一部を返しただけで全額無くなってしまう試算が出たため、今回は自分達の食事を優先させることにしたのだった。

「…我らもいつまで、鳥竜館の四天王をやっていられるのだろうなぁ……」
「おいおい、何を弱気になっているんだ。せっかく金が入って、これからだというのに。…ほら、師範のお食事の準備ができたぞ、持って行ってくれ」
「ああ、すまんな…」

 配膳された食器の乗った銘々膳を青年から渡され、巨漢は朝食を待つ竜馬の元へと運んでいく。

「…しかし、これからどうしたものかな……」

 廊下を歩きながらこれからの鳥竜館の行く末に不安を感じる巨漢だったが、その不安が比較的早くに解消されることを、このときはまだ知る由もなかった。














 朝食を摂った竜馬は仏堂で仏像を背に座禅を組み、瞑想に入るかのように目を瞑る。
 竜馬の意識は今、ゲッター1によって構築されたシミュレーション訓練用の仮想空間中にあり、竜馬自身の体も、現実のそれと同様に忠実な再現が成されている。
 竜馬の目に映る風景は、切り立った岩山を中心とした山岳地帯。緑は比較的少なく、黄土色の岩肌が目立つデコボコとした地形である。
 竜馬は辺りを見渡して予定通りのシチュエーションかどうか、自身の全身に触感や痛覚などの五感があることを確認する。特にこれといった問題は無いようだ。

『データベースに接続、エネミーデータのロードを開始――』

 構築したプログラムに異常がないことを確認すると、竜馬は目を閉じ全身の力を抜いて意識を集中し、ゲッター1は引き続き訓練プログラムの準備を進める。
 仮想敵として過去に竜馬が戦った、ハ虫人類と呼ばれる種族の国家、恐竜帝国の尖兵――通称、恐竜兵士のデータを読み出して竜馬の周辺に次々と配置していく。
 その数、実に50体以上。いくら訓練とはいえ、通常では一人で相手をするには多すぎる数である。

『エネミー配置完了。訓練を開始します』

 ゲッター1がそう告げた瞬間、配置された恐竜兵士が一斉に竜馬に襲い掛かった。

「――はぁぁぁぁぁあッ!」

 直後、竜馬は目をカッと開いて雄叫びを上げて体を捻り、ゲッター1の刃に当たる部分に発生させた魔力刃で、最も近い位置にいる一匹の恐竜兵士の胴を横一閃に斬り裂いた。
 更にその勢いを利用し、右足を軸に左足を振り上げ、接近しつつある恐竜兵士数匹に内廻し蹴りをお見舞いし、さらにその後方の恐竜兵士も二、三匹巻き込みながら、まとめて数メートル先へ吹き飛ばす。
 このほんの一瞬の間で数匹の恐竜兵士を撃退したが、恐竜兵士は怯むことなく、なおも四方八方から襲い掛かってくる。
 竜馬はそれらをギリギリまで引きつけてから、顔面への正拳突きや裏拳で弾き飛ばし、鳩尾への肘鉄や横蹴りで昏倒させ、顎の下から掌底を突き上げて跳ね飛ばす。さらに同時に複数が仕掛けてくる時には廻し蹴りでまとめて迎撃する。
 そうして竜馬は一匹一匹を丁寧にかつ確実に仕留めていき、手薄になった部分を背にするようにして後方に跳び、更に襲い来る恐竜兵士に向き合って左の掌を突き出す。

『Getter tomahawk』
「トマホゥゥウク――」

 竜馬の左手に通常形態のゲッター1を模したトマホークが出現し、竜馬はそれを握って左腕を体の内側に引き、勢いを付けて正面に見据えた恐竜兵士目がけて投擲する。

「――ブゥゥウメラン!」

 投げ放たれたトマホークは弧を描いて回転しながら飛んでいき、およそ五、六匹分の恐竜兵士の上半身と下半身を切り離した後に地面に突き刺さり、消滅した。
 この時点で50匹以上いた恐竜兵士は、およそ半分程度に減っていた。
 ハ虫人類は人間と比べて優れた戦闘力を持ち、戦闘のための訓練を受けた正規の軍人や、管理局のベテラン魔導士ですら、本来であれば大量に相手にすることはかなりの無茶だ。
 だが、竜馬は今は亡き父によって幼少より鍛え抜かれた空手の腕前と身体能力を活かし、並のハ虫人類兵士であれば素手でさえ容易に屠れる程の実力を持っている。それに加え、効率を求めるためにAAAランク相当――一流の実力を持つ魔法を用いることで、まさに鬼に金棒。竜馬は武道家と魔導士の両面から見ても、人間の域を超えていると言って差支えないだろう。

「ゲッター1、仕上げるぞ!」
『OK. Getter spiral beam, standby』

 そう言うと竜馬は大きく後方に跳躍して滞空し、残り全ての恐竜兵士を正面に捉える。
 さらに竜馬は自身の周囲に複数の魔力スフィアを展開し、同時に魔力で作られた深紅のマントをその身に纏う。
 残った恐竜兵士たちは空中からの攻撃に備え、射撃で竜馬を牽制しながら散開する。

「ゲッタァァア! ビィィィイムゥ!」

 竜馬は散開する恐竜兵士の中心を目がけて突撃し、随伴する全てのスフィアから、不規則に動く深紅の細い光線――ゲッタースパイラルビームを一斉に連射する。
 光は広範囲に拡散し、一網打尽にされまいと散開する残りの恐竜兵士たちを逃すことなく、確実に捉えて撃破した。

『ミッションコンプリート、お疲れ様でした』

 ゲッター1が敵の全滅を確認し、着地してマントを脱ぎ捨てる竜馬に労いの言葉をかける。

「タイムは?」
『1分42秒63――ですが、この程度の敵ならば、あの頃のマスターであればあと二、三十秒は早く殲滅していたでしょう。やはり若干のブランクはあるようですね』
「そのブランク分を取り返すために訓練やってんだろうが。オラ、次行くぞ次!」
『了解。フィールド、エネミーデータ、配置パターン変更――』

 ゲッター1は仮想空間の風景を起伏の激しい山岳地帯から開けた平野へと瞬時に変更し、データベースから他の恐竜帝国の兵士のデータを呼び出し、再度配置する。
 先程と同種の恐竜兵士に加え、今度は獣脚類に分類される小型恐竜に騎乗し、片刃の剣と小銃で武装した騎兵を新たに出現させる。
 竜馬を包囲するような先程の陣形とは打って変わり、今度は竜馬の正面に立ち塞がるかのような陣形に配置される。歩兵と騎兵の比率はおおよそ7:3で、数は合計で60体ほどになる。

「――アギィィィィイッ!」

 先頭の恐竜騎兵が腰の剣を抜いて高々と掲げ、雄叫びを上げて剣を前方に向ける。すると他の騎兵たちはそれに呼応するように叫び、竜馬へ向けて一斉に突撃を開始した。
 小型恐竜の多数の足音が響かせる低重音、力強く地面を蹴って巻き上がる砂埃。それらは騎兵たちが竜馬との距離を詰めるにつれて、竜馬自身の鼓膜の振り幅を少しずつ大きくしていった。
 さらに騎兵たちの後方から、歩兵の恐竜兵士が小銃による援護射撃を展開する。先程のバラバラな一斉攻撃とは違い、非常に統率の取れた動きである。

『Getter wing』

 竜馬の背中に赤い魔力のマントが出現し、竜馬は地面を蹴って跳躍、一瞬で恐竜兵士たちの頭上を取る。
 一瞬で竜馬の姿を視界から失った恐竜兵士たちは、全員で周囲を見回して竜馬の姿を探す。
 一匹の兵士が竜馬の姿が上空にあることに気づき、指さして仲間に知らせると、後方で援護射撃を行っていた歩兵たちが上空の竜馬を狙って小銃を乱射する。

「おおおおおおおッ!」

 竜馬は眼下の歩兵たち目がけて一気に急降下し、対空射撃の的を絞らせずに地面にほぼ激突するように勢いを残したまま着地、衝撃と砂埃が巻き上がる。

「ギイッ!?」
「ギイイッ!」

 衝撃に体勢を崩され、砂埃に視界を奪われた歩兵たちは動揺したような声を発しながら、砂埃に身を隠した竜馬の姿を探す。
 次の瞬間、歩兵たちは自らの視界にトマホークが飛び込んできたことに気付くと、トマホークによって断末魔を上げる暇もなく次々と首を刎ねられた。
 砂埃の外にいる騎兵たちは早急に砂埃ごと竜馬を包囲するが、砂埃のよって視界が遮られているため、味方への誤射を恐れて援護射撃も実行できずにいた。
 騎兵たちはいつでも発砲できるように小銃を構え、砂埃の晴れるのを待っていると、砂埃の中から突然二振りのトマホークが飛び出し、一騎の騎兵に深々と突き刺さった。

「はあああああああッ!」

 その直後、未だ晴れぬ砂埃の中から竜馬がものすごい勢いで弾丸の如く飛び出し、騎兵を一騎殴り飛ばしながら躍り出ると、吹き飛ばした兵士が騎乗していた恐竜の背に着地、更にそれを足場に跳躍して宙を舞う。
 そのまま隣接する騎兵に跳び蹴りをお見舞いすると、兵士の頭から軋むような、砕けるような音が響き、その頭蓋骨を陥没させながら大きく吹き飛んだ。

「ギ、ギャアッ!」

 慌てて騎兵たちは竜馬へ小銃の銃口を向ける。
 竜馬は一番近かった兵士の懐に潜り込み、鳩尾にボディブローをお見舞いしてから、横蹴りで前方に大きく蹴り飛ばす。
 蹴り飛ばされた兵士は近くの兵士の射線と視界を遮り、竜馬の姿を再び視界から見失う。
 竜馬は蹴り飛ばした兵士の頭上を飛び越え、右手に魔力刃を発生させたゲッター1の本体を、左手にゲッター1を魔力で複製したトマホークを構え、左手のトマホークを振り下ろして兵士の頭を叩き割った。
 深々と割られてできた切り口から真っ赤な鮮血が音を立てて噴き出し、竜馬は素早くトマホークを引き抜く。

「トマホゥゥゥク、ブゥゥゥメラン!」

 引き抜いたトマホークを素早く投擲し、弧を描いて騎兵たちの首を次々と刎ねていく。これで歩兵だけでなく、騎兵の半分も片付いた。
 竜馬の背後から、残り半数の騎兵が放った小銃の弾丸が襲い掛かり、竜馬は素早く跳躍してその場を動く。
 宙を舞う竜馬になおも照準を合わせ、我先に仕留めんと小銃を連射する。

「はあっ!」

 竜馬は眼下の騎兵一匹に左手のトマホークを投擲、突き刺さして恐竜の背から転がり落とす。
 さらに竜馬は騎手のいなくなった恐竜を踏みつけて背骨を破壊しながら着地、すぐに地面と水平に低空飛行を始めると、右手に残ったゲッター1で騎兵たちを一匹、また一匹と流れるような動きで斬りつけていくと、最後の一匹を真っ二つにしてから接地、両足で地面を削りながらブレーキをかけて着地した。

『ミッションコンプリート、お疲れ様でした』

 先程と同様に、ゲッター1がまったく同じ口調とセリフで淡々と、竜馬に労いの言葉をかける。まるで訓練に区切りがつけば、指定されたセリフを発するようにプログラムされている、無機質なコンピュータのようだ。
 人工知能が搭載された高級なインテリジェントデバイスの癖に、あたかも思考プロセスをカットして動いているかのようにも思えてくるようだった。

『所要時間は2分6秒24――まあこんなところでしょう。次の訓練に進みますか?』
「ああ。とっとと始めてくれ」
『了解。フィールド、エネミーデータ――』

 二戦連続で訓練をこなした竜馬だが、休憩もなしに三戦目へと突入、ゲッター1も気遣うことなく次の訓練への準備を始めた。
 その後も竜馬の訓練は休憩を挟むことなく続けられ、結局昼ごろまで訓練は続いたのだった。












 月村すずかの自宅であり、海鳴市屈指の広大な土地を持つ豪邸である月村邸。
 この日、なのははすずかの提案により、恭也やフェレット姿のユーノと共に月村邸へと招待されていた。なのはは一足先に到着していたアリサと合流、一方で恭也はすずかの姉である忍と共に、忍の部屋へと向かっていった。
 俗におやつの時間とされる三時ごろ。なのはとすずか、アリサの三人は、屋敷の正面の庭に設置された円形のテーブルに着き、優雅に落ち着いた雰囲気でティータイムを満喫して――

「あいたたた…」

 ――満喫していたのだが、竜馬の指導による鍛錬から来る筋肉痛に、なのはは悩まされていた。

「…なのはちゃん、大丈夫?」

 声を漏らしつつ痛みに耐えるなのはを見たすずかが、心配して声をかける。

「うん、大丈夫。ちょっと筋肉痛がね…」
「珍しいね、なのはちゃんが筋肉痛だなんて…」
「…なのは、あたしらに内緒で何かしてるんじゃないでしょうね?」
「ふぇっ!? そ、それは…」

 アリサに当たらずも遠からずといった所を突かれ、なのはは動揺する。
 貧乏道場の師範に空手の稽古を受けていると言っても二人を心配させそうなのに、魔法の訓練をしているなどとは、まだ教わってもいないがとても言えまい。

「アリサちゃん、もしかして、なのはちゃんは今度の球技大会の練習してたんじゃない?」
「球技大会ねぇ…。なのは、そうなの?」
「え? あ、うん! そう、そうなんだよ!」

 すずかが図らずも助け舟を出してくれたため、なのははなんとかその方向で誤魔化そうとする。

「ふぅん、それならいいんだけど…あんたはあたしたちと違って初心者なんだから、あんまり無茶な練習するんじゃないわよ?」

 アリサはその説明で一応は納得したらしく、その上でなのはに注意を促し、言葉を続ける。

「…なんだったら、今度からあたしたちも、練習に付き合ってあげるわよ」
「そうだよ。きっと、教えてあげられることもあるだろうし…」
「…うん! アリサちゃん、すずかちゃん…二人とも、ありがとう!」

 なのはの身を案じてくれる二人の大切な親友に、なのはは笑顔と共に感謝の言葉を告げた。

「…ふふっ。よかった、なのはちゃんがいつも通りで」
「…ふぇっ? すずかちゃん、それって――」
「ほら、こないだの騒ぎで学校がしばらく臨時休校になったじゃない?」

 戸惑うなのはに、アリサが説明を始める。
 ジュエルシードの暴走によって海鳴の街が被害を被った際、子供たちの安全を考慮し、なのはたちの通う小学校を含めて全ての学校が臨時休校になったのだった。

「それですずかが、なのはや私が寂しがってるんじゃないかって、言ってたのよ。一番寂しがってたのは自分の癖して、ね」
「もう、アリサちゃんったら…」
「にゃはは…」

 親友たちが集うお茶会の席は、和やかな雰囲気に包まれた。
 そんな中、なのはは内心でどうしたものかと考えていた。
 筋肉痛の原因が球技大会の練習のせいだと言ってしまったおかげで、その流れですずかやアリサと球技大会に向け、一緒に練習する約束を取り付けてしまった。
 二人が練習に付き合ってくれるのは心から嬉しいのだが、実際に行うのはバスケットボールでもドッジボールでも、はたまたソフトボールでもなく、竜馬の指導による超が何個付くか分からないレベルの実戦空手だ。
 先ほども言ったが、そんな練習をしていると二人に知れれば、余計な心配をかけてしまうのは目に見えているし、もしかしたら竜馬に止めさせるよう言うかもしれない。
 あの強面の竜馬に意見するということが、あまり竜馬のことを知らない二人にとってどれほど怖く、勇気を振り絞ることになるのだろう。
 そんな辛い思いをさせてしまうことを考えると、やはり二人に本当のことを知らせるのは避けるべきだ。だが、大切な親友の好意を無碍になどできない。

(ど、どうしよう……)

 なのはは九年という未だ短い人生の中で発生した最大級の葛藤に、頭を大いに悩ませるのだった。

















 月村邸の敷地には、邸宅の周囲を覆う広大な森林地帯が存在している。
 枝葉の隙間から日光が差し込んでいて一定の明るさが保たれ、小鳥や昆虫が多く生息している、自然の宝庫である。
 そんな森林に、すずかの家で飼っている子猫が足を踏み入れた。草むらの隙間から、日光を反射して何かキラキラと光っているものを見つけ、興味を惹かれたようだ。
 縦にやや長い正八面体で紺碧の色をした宝石のような何か。子猫がそれに近づいた次の瞬間、日光が反射した光とは違う鈍い光が発せられ、同時にその周囲の空気が震えた。














「―――ッ!?」

 なのはは近くで起きた、ジュエルシードのほんの僅かな反応を感じとり、表情を変える。子猫を抱きかかえてスキンシップを取っているすずかとアリサは、その表情の変化に気付いてはいなかった。
 先ほどまで足元で他の子猫たちに追い回され、やや疲れた様子でなのはの膝の上にいたユーノもスクッと立ち上がり、なのはの顔を見上げる。

(ユーノ君、これって……)

 なのははユーノの顔を見て念話を送る。

(うん。間違いない、ジュエルシードだ。…どうする?)
(え、ええっと…)

 なのははすずかとアリサの顔を見やる。どうにかして自然にこの場を抜け出す方法を考えるも、焦燥感に駆られて妙案が思いつかない。
 そこで見かねたユーノは膝の上から地面に飛び降り、反応がしたと思われる森林地帯へ走って行った。

「ユ、ユーノ君!? …あっ!」

 なのはは突然のユーノの行動に驚くもその意図を汲み取り、椅子から立ち上がる。
 暫定的とはいえ、フェレットが飼い主であるなのはの元を離れ、なのはの目の届かない場所へ行こうとすれば、なのはは席を立ってそれを追わざるを得ない。小動物を飼っていればよくあることだし、実に自然な流れだ。

「あれ、ユーノ、どうかしたの?」

 アリサが訊ねる。

「う、うん。何か見つけたみたい。…ちょっと探してくるね」
「一緒に行こうか? うちの森、結構広いし…」
「大丈夫、すぐ戻ってくるから――待っててね!」

 すずかもなのは一人で行くことを心配するが、何も知らない大切な友人を、危険が伴うかもしれないジュエルシードの封印に連れて行くわけにはいかない。やんわりと断ってから、なのははユーノを追う素振りで森林へ入って行った。
 しばらく森林を走っていると、先ほどと似た魔力の反応を感知した。どうやら、何者かがジュエルシードに触れたようで、完全に発動したようだ。

「――ッ! 発動した!」
「まずいな、ここじゃあ人目が……結界を張らなきゃ!」

 ユーノが足を止め、意識を集中させる。
 結界魔法。通常の空間から一部を切り取って、その外部の空間と隔絶させる魔法である。主に魔法を用いた戦いや訓練が、周囲に被害を与えたり目撃されないようにするために使われる。幸いにも、この系統の魔法はユーノが得意とする分野でもあった。

「結界…?」
「僕が、それなりに得意な魔法!」

 白い魔法陣が地面に出現し、月村邸の敷地程度の範囲を結界が覆い尽くした。結界内であることの証明のように、あたりの風景に一瞬だけだが若干セピア調がかっていた。
 結界を張り終えた直後、なのはの背後でドーム状に閃光が走った。
 なのはが振り向いて光の方角を見ると、中からジュエルシードの影響を受けたと思しき何かが現れた。

「あ……え?」

 なのはとユーノは、光の中から現れたそれを見て言葉を失った。
 二人の前に現れたのは、まるでパソコンのペイントソフトなどでそのまま拡大したような、単純に巨大化したロシアンブルーの子猫だった。

「にゃあああー」

 巨大化した子猫がなのはの方を見て、辺りに響くような声で鳴く。そうしてからドシンドシンと地面を揺らしながら歩き出し、なのはの前を横切って行った。

「あ……あれは…」
「た、多分…あの猫の『大きくなりたい』って想いが、正しく叶えられたんじゃないかな…と」
「あ、あはは…」

 おおよそ想像もしなかったような光景に開いた口が塞がらない二人だが、さすがにこの状況を放置しておくわけにもいかないので、ジュエルシードを封印して子猫のサイズを元に戻さなければならない。あの大きさではさすがのすずかも手に余るだろう。
 幸い、襲ってくる様子もなさそうだ。なのはが封印しようとレイジングハートを起動しようとした、その時だった。

「レイジングハート、セットア―――ッ!?」

 突如として金色の光弾がなのはの背後より飛来し、巨大化した子猫の横腹に直撃したのだ。子猫は突然受けた衝撃に、声を上げてよろめいた。
 なのはは振り返り、光弾の発射された方角を見ると、森林の向こう側にある電柱の上に立つ、魔導士らしき少女を見つけた。

「あ、あれは…!?」

 ユーノが思わず声を出す。年齢はなのはと同じぐらいか、漆黒のレオタードのような衣装の上にマントを羽織ったバリアジャケット。輝くような美しい金髪を黒いリボンで纏めたツインテール。そして、髪の色と同じ金色のコア、バリアジャケットと同じく漆黒の戦斧を模ったデバイス。少なくとも日本人ではない、欧米人のような可愛さと美しさを併せ持ったような、器量のいい顔立ちをしていた。

「――バルディッシュ、フォトンランサー」
『Photon lancer full auto fire』

 少女の構えたバルディッシュと呼ばれたデバイスの先端に電撃を纏った球体が出現し、先ほどとは違って大量の電撃の弾丸が巨大化した子猫へと再び発射される。
 弾丸は子猫に全弾命中し、先ほどよりも大きく子猫の体を揺らす。

「――ッ! レイジングハート、お願い!」

 このまま子猫を苦しめるわけにはいかないと、なのはは我に返ってレイジングハートに再度起動命令を出し、一瞬のうちにバリアジャケットを纏う。
 そして飛行魔法の『フライヤーフィン』を発動、足元に小さな魔力の翼を形成して飛び上がると子猫の背に乗り、降り注ぐ光弾の射線上に一気に割り込む。

『Wide area protection』

 子猫を守るようにして自身の正面に魔力の盾を形成し、光弾を打ち消していく。

「――ッ、魔導士…?」

 少女は自分以外の魔導士がこの場に居たことにやや驚くが、すぐに思考を切り替えて光弾を連射し、子猫の足元を狙う。

「ひゃあっ!?」

 足元を狙われたことで子猫はついにバランスを崩し、近くの木々をなぎ倒しながら倒れこんだ。子猫の背を足場にしていたなのはは勢いよく宙に放り出されるが、飛行魔法を使ってゆっくりと着地する。
 なのははすぐに少女を見据え、剣道での竹刀のようにレイジングハートを構えて相手の出方をうかがう。
 対して少女は一気に接近し、なのはの頭上の木の枝に立ってなのはを見下ろす。

「同系の魔導士――ロストロギアの捜索者か…?」

 少女はなのはに訊ねるが、なのはは少女の佇まいに圧されたのか言葉を詰まらせる。

「間違いない…僕と同じ世界の住人…! それに、ジュエルシードの正体を…!?」

 ユーノは驚いていた。竜馬と出会った時もそうだったが、管理局の手が届いていない管理外世界であるこの地球で、魔法を扱う魔導士が活動していることなど滅多にないのだ。加えて、この少女はジュエルシードが何であるかも知っている様子ではあるが、ユーノと同じように危険だから回収に来た、という雰囲気でもない。
 考えられるのは、ジュエルシードを悪用するために集めているという可能性が、現時点では一番高かった。

『Scythe form set up』

 バルディッシュの斧の刃に当たる部分がスライドし、金色の魔力刃が発生して鎌のような形状を取る。刃を出したということは、交戦の意思があることを示している。

「申し訳ないけど――ジュエルシード、頂いていきます」

 そう言うと少女はバルディッシュを構えて突撃、なのは目がけて刃を振るった。














「…ねぇアリサちゃん。なのはちゃん、遅くない?」

 森林地帯に入って行ったなのはをアリサと共に見送ったすずかは、なのはの帰りが遅いことを心配する。

「そうねぇ…確かに、なのはがユーノを追っかけて行ってから、何十分か立ってるわね…」

 アリサは右腕の若干高そうな腕時計を見て言う。

「…まぁ大丈夫とは思うけど、なのはのことだから何かのっぴきならない状況になって、無茶してるってのも考えられるわね……」
「でしょ? ねぇ、見に行ってみようよ…」
「う゛~ん、そうねぇ・・」

 アリサは腕を組んで少し考える。なのはは昔から――と言っても知り合ったのは一年生の頃だったので二年ぐらいの付き合いでしかないが――何か一人で抱え込む節があった。幸いにも最近はそういうことは少なくなっているが、また何か妙なことを一人で勝手に抱えている可能性も否定できなかった。

「…まったく、しょうがないわね。すずか、ちょっと見に行くわよ」
「うん!」

 アリサとすずかは子猫たちを残して席を立ち、なのはの向かっていった方角の森林へと足を踏み入れたのだった。

















 舞台をなのはが少女と交戦している森林へ戻す。
 なのはは少女の度重なる斬撃を、飛翔するなど立体的な動きで躱していくが、ついに避けきれず、咄嗟にレイジングハートの柄で迫りくる刃を受け止めた。
 その時、なのはが間近で見た少女の顔は、感情というものが欠如しているような、まるで人形のような無表情だった。

「どうして…! どうしてこんなことを…!?」

 なのはは突然攻撃してきた真意を少女に問う。少女はしばらく押し黙った後、口を動かす。

「答えても……多分、意味がない」
「…!」

 少女が小さくそう呟いてから、なのははレイジングハートを押し込んでバルディッシュを弾き、すかさず後退して少女との距離を開く。
 なのはは子猫を背に守るように着地し、少女は再び木の枝に乗る。そして、少女は刃を消してバルディッシュを鎌から戦斧の形状に戻し、切っ先をなのはに向ける。なのははレイジングハートをシューティングモードに切り替え、少女と同様にその先端を向けた。

『Divine buster set up』
『Photon lancer get set』

 両者のデバイスは互いに射撃魔法の発射体制に入り、なのはと少女も互いに睨み合う。まさに一触即発、先に隙を見せた方が敗北するであろう、精神力の戦いである。なのはは未だ9歳、少女も同い年程度と考えると、とても年齢相応の戦いとは思えなかった。
 そんな息詰まる状況に、予想だにしない闖入者(ちんにゅうしゃ)が存在した。

「なのはちゃーん!」
「なのはー! ユーノー! どこ行ったのよー!」
「――ッ!? あの声――」

 なのはの鼓膜を、愛すべき親友たちの声が震わせたのだ。
 先ほどユーノが結界を張ったため、外部からの侵入は不可能なはずだった。少女が魔導士で、結界の範囲内に先に入っていたため侵入を許したのだとしても、魔法も使えないアリサやすずかの侵入を許すなど、おおよそ有り得ない状況であった。

「アリサにすずか!? まさか…そんな、結界は張ったはず――クソッ、完全じゃなかったのか、こんな大事な時に!」

 ユーノはなのはに結界魔法は自分が得意な魔法であると豪語しておきながら、致命的な失敗をしてしまった。ユーノの脳裏に後悔の二文字が浮かび上がり、同時に自責の念に駆られた。
 しかし、そうしたところで状況はなのはの味方をしてはくれない。親友の声に動揺したなのはは、迂闊にも声のした方角を向いてしまい、少女に対して明確な隙を晒してしまった。
 バルディッシュの先端に、電撃を纏った光球が出現する。そして、発射体制が完全に整うと――

「――ごめんね…」
『Fire』

 ――そう少女は呟き、威力を一撃に込めた強力なフォトンランサーを発射した。

「あっ――」

 なのはが気づいた時には、回避することも防御することもままならなかった。ただ迫りくる光弾に、その身を打ち抜かれるのを待つだけだと確信していた、その時だった。

「…ッ!」

 なのは目がけて飛んで行った光弾に、横から飛び出してきた何かが命中、なのはへの直撃を食い止めたのだった。
 威力を重視した光弾だったため、爆風は発生したものの、直撃を避けることのできたなのはへのダメージは少なかった。

「なのは!」
「大丈夫、ちょっと掠っただけだから…でも、一体何が――」

 何が起きたのかわからない様子のなのはとユーノだが、二人はなのはの足元を見て、すぐに何が起きたか理解できた。

「…! なのは、その足元のって――」
「トマホーク…もしかして!?」

 そう、足元に黒いトマホークが刺さっていたのだ。おそらく、これがフォトンランサーを撃墜したのだろう。加えて、このトマホークには見覚えがあった。

「よう、ガキ共。随分と楽しそうなお遊戯してるじゃねぇか。…ちぃと、俺も混ぜてくれや」

 そう言ってなのはと少女の間に割って入ってきたのは、鬼や悪魔も泣いて逃げ出しそうな風貌の、バリアジャケットを纏った目つきの悪い大柄の青年。

「竜馬さん!」

 そう、鳥竜館師範兼フリーランス魔導士、流竜馬その人であった。 
 

 
後書き
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