仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜
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神殿の闘神
この頃ギリシアでは一つの噂が起こっていた。
「二柱の神がエーゲ海に姿を現わしている」
というものである。
一人の神は巨大で角を生やした神である。それは赤い目を持ち海の中を進んでいるという。そしてその身体は鋼鉄だと言われている。
もう一人は赤い仮面を被った神だ。それは神殿に現われ腕の立つ者を探しているという。
「また何とも思わせぶりな神だな」
それは日本の新聞でも話題になっていた。立花はそれをアミーゴのカウンターで読んでいた。
「おい、御前達はどう思う」
そこで史郎や純子に尋ねた。
「どうと言われましても」
「まさか本当に神様がいるなんて」
二人はピントの外れた答えを言った。
「ああ、わかってねえなあ」
立花はそれを聞いて首を横に傾げて言った。
「バダンの仕業かどうか、って聞いてるんだよ。ほら、思いきり怪しいじゃねえか」
「どう思う、純子ちゃん」
「言われてみれば確かに」
二人はようやくそれを理解した。そこへ結城が店に入って来た。
「三人共何騒いでるんですか」
その後ろにはチコとマコもいた。三人で情報収集に出ていたのだ。
「おお丈二、丁度いい時に来た」
立花は彼の方へ顔を向けた。
「いい時?」
「そうだ、これを読んでくれ」
そう言うと新聞紙を結城に渡した。
「そこの国際欄だ」
「国際欄ですか」
結城はそこに目を通した。チコとマコはそれを覗き見る。
「おい二人共、行儀悪いぞ」
立花はそんな二人を嗜めた。だが二人は新聞から目を離さない。
「ねえマコこれって」
チコは相棒に話し掛けた。その眉を顰めさせている。
「ええ、多分」
マコもわかっていた。見れば結城も察している。
「おやっさん、これって」
「怪しいと思うか」
立花は結城に顔を向けた。
「マスター、これってゴッドの連中よ」
「そうよ、間違いないわ」
チコとマコは立花に対して言った。
「おい、御前達には聞いてないぞ」
「何よ、私達だって話に入れてくれていいじゃない」
「そうよ、いつも子供扱いして」
「口だけは減らん奴等だ」
立花はその言葉にいささか閉口した。
「まあいい、言ってみろ」
「マスター、覚えてるでしょ、これ」
チコは結城が手に持っている新聞を指差して言った。
「何をだ!?」
「ゴッドよ、ゴッド」
マコも言った。
「ゴッド!?馬鹿を言えあの組織はとっくの昔に滅んでるぞ」
彼は口を尖らせた。
「だから、バダンってゴッドと同じなんでしょ!?首領が」
「ああ、そうだが」
「だったら話がわかるわ。これキングダークとアポロガイストよ」
「キングダークとアポロガイスト!?」
立花と結城は二人のその言葉に顔をハッとさせ見合わせた。
「おい、アポロガイストはわかるが」
立花はその顔を困惑させたものにしていた。
「キングダークはもう破壊されているよ、ゴッドの崩壊と共に」
キングダークは呪博士共々Ⅹライダーに破壊されているのだ。
「けれどまた作ったんじゃない?今までの大幹部を全員甦らせたんだし」
「すよ、バダンならそれだけの力はあるわ」
二人は口々に言った。
「ううむ、確かに」
「バダンの力をもってすればそれは容易い」
二人はその言葉に頷いた。
「もしそれが事実だとするとすぐに手を打たなければなりませんね」
結城は立花に顔を向けて言った。
「ああ、そうだな。今ギリシアにすぐ迎えるライダーはいないか」
「おじさん、今通信が入りました」
ここで純子の声がした。
「ん!?」
「誰からだ」
見れば純子は店の奥にいた。そこから声だけがする。
「敬介さんからです」
「敬介からか。また妙な縁だな」
立花はそれを聞いて思わず呟いた。
「おやっさん、とにかく通信に出ましょう」
「ああ」
結城に促され立花は通信室に向かった。チコやマコもそれに続く。史郎は店番に残った。
「おい、敬介か」
立花はマイクを手に取ってまずそう問うた。
「はい」
すぐに神の声が聞こえてきた。
「よし、敬介だな。間違いない」
彼はそれを聞いてまずは安心した。
「今何処にいるんだ?実は御前に教えたいことがあるんだ」
「バダンのことですね」
「そうだ」
立花は頷いた。
「ギリシアにそれらしいのが出ているんだが」
「ええ、わかってますよ。今アテネにいますから」
「おい、もういるのか」
「はい、エーゲ海に怪しいのがいると聞きましたんで。今捜査中です」
「そうだったのか。じゃあわしから言うことは何もない。上手くやれよ」
「わかってますよ、おやっさん。こっちは俺に任せて下さい」
「おう、じゃあ頼むぞ」
「はい」
神はこれで通信を切った。
「もう敬介がいるんですか」
「ああ」
立花は結城に答えた。
「これでまあ問題はないだろう。特に海はな」
「そう思いたいですけれどそれは少し楽観し過ぎではないですか?」
落ち着いた顔の立花に対し結城の顔は険しかった。
「アポロガイストとキングダークがいるとしたら厄介ですよ」
「あの連中か」
立花は表情を暗くさせた。
「いや」
だがすぐに頭を振ってそれを打ち消した。
「ここは敬介を信じる。あいつならやってくれる」
彼は自分に言い聞かせているのではなかった。神のことをよく知っていたのだ。
彼はゴッドとの戦いの時は常に彼と共にあった。神もまた彼にとっては息子の様な存在であった。
「あいつのこともわしはよくわかっとる、御前のことと同じでな」
「おやっさん」
結城はその言葉を聞き感じ入った。
「だからここはあいつに任せる。なぁに待ってろ」
彼はここでニヤリと笑った。
「今度あいつがかけてくる通信は勝利の報告だ。それを楽しみに待っておこう」
「そうですね」
結城もそれを聞き微笑んだ。
「じゃあ俺達は心の準備をしおきましょう。そして」
「そして?」
「あいつの故郷を守りましょう。何時戻ってきてもいいようにね」
それが日本であることは誰もがわかることであった。
「おお、そうだな。そうしよう」
立花もそれに対し笑顔で頷いた。そして彼等はアミーゴのカウンターに戻っていった。
ギリシアは長い歴史を持つ国である。古代ギリシア文化が知られている。それは欧州の文化の源泉と言える存在である。オリンピックもそうである。これは古代ギリシアにおいて四年に一度ギリシア圏の全ての国や都市が参加する祭典であった。男達は全裸になりその技を競い合った。
そしてギリシア神話は今も多くの人の心を捉えている。トロイアでの戦いや多くの英雄達の物語なくして欧州の文学はなかっただろう。それは今も彼等の心に生きている。
そこにはロマンがあった。美がり悲劇があった。欧州の文化はここからはじまったと言っても過言ではない。
「ここで全てがはじまったんだな」
神はアテネにいた。この街も古い歴史を持っている。
アテネの名はギリシア神話の知と戦いの女神からとられている。海神ポセイドンとこの街を争ったがアテネのオリーブを選んだこの街の市民によりアテネの街となりこの名を冠したのだ。
アテネはギリシアの中でも特に栄えた街であった。そしてペルシアと戦いそれに勝利を収めている。
「それもアテネの加護だったのかな」
神はふと呟いた。だがアテネの加護が去る時が来たのだ。
この勝利によりアテネはギリシア世界の盟主となった。だが次第に増長し各都市の反発を招くようになった。そしてスパルタとの戦いに敗れ以後衰退していく。
「驕りにより神の加護を失ったか」
神は丘の上を昇りながら言った。見れば所々に古代の遺跡がある。
アテネもギリシアの神々も今でも生きていた。この古代の遺跡の中にいるのだ。
「キリスト教により異端とされたけれど」
だが彼等は生きているのだ。そして今もギリシアの、欧州の人々の心の中にいる。
神はそう考えながら丘の上を昇る。そして頂上にやって来た。
「さてと」
そこは古いイオニア様式の神殿であった。白い大理石である。
「ここに来る、って言っていたけれど」
神は辺りを見回した。そして腕の時計を見る。
「そろそろかな」
そう言った時だった。
「久し振りだな、神敬介よ」
神殿の陰ぁら白いスーツの青年が姿を現わした。
「貴様は!」
その青年が誰か。わからない筈がなかった。
「貴様がここに来ることはわかっていた」
アポロガイストは黒い手袋に覆われた手で神を指差した。
「だからこそここにやって来たのだ」
「何、ではすると俺に連絡をよこしたのは」
「連絡!?何のことだ」
アポロガイストは逆に問うた。
「俺はそんなことは知らん。ただ貴様の動きを呼んでここに来ただけだ」
彼は嘘を言う男ではない。それは神もよく知っていた。
「そして貴様を倒すだけだ」
右手をあげた。すると神殿の陰という陰から戦闘員達が姿を現わした。
「これだけではない」
さらに怪人までもが出て来た。
「ワオーーーーーーーッ!」
ゴッドの三頭怪人ケルベロスだ。もう一体いた。
「チーーーリーーーーーッ!」
デストロンの針棘怪人ハリフグアパッチだ。二体の怪人は前後から神を取り囲んだ。
「覚悟はいいな」
アポロガイストは怪人と戦闘員の輪の外から神に対して言った。
「クッ」
神は歯噛みした。だが構えをとった。その時だった。
不意に神の左右で爆発が起こった。それで戦闘員達が吹き飛んだ。
「何だ!」
アポロガイストは咄嗟に辺りを見回した。右手に彼がいた。
「神さん、遅れて申し訳ありません」
そこには竜がいた。彼は手榴弾を放ったのだ。
そしてそれで戦闘員達を倒した。二体の怪人はそれより前に跳び安全圏に逃れていた。
「クッ、神敬介に連絡を送ったというのは貴様か」
「如何にも」
アポロガイストの問いに不敵に答えた。
「まさか貴様等がここにいるとは思わなかったがな。しかし遅れたのがかえって好都合になった」
「フン、勝手に言え」
アポロガイストはそれに対して言った。
「貴様も神敬介と一緒に葬り去ってやる」
「そうはさせない!」
ここでアポロガイストの上から声がした。
「そこか!」
アポロガイストは懐から拳銃を取り出した。そして声のした方へ向けて発砲した。
だがその銃弾は届かなかった。全て弾き返されてしまった。
「やはり効かぬか」
だがアポロガイストはそれに驚いてはいなかった。当然のようにそこにいる男を見上げていた。
Ⅹライダーはそこにいた。身体の前でライドルを風車の様に回して銃弾を弾き返していたのだ。
「Ⅹライダーよ」
アポロガイストは彼に対して言った。
「降りて来い、そして俺と戦うがいい」
「望むところだ!」
Ⅹライダーはライドルを手に持ち飛び降りてきた。そして着地するとアポロガイストと対峙した。
「さあ来い、アポロガイスト!」
両者は睨み合う。だがそこに怪人達がやって来た。
「アポロガイスト、ここはまず我等にお任せを」
「Ⅹライダーを倒すのは我々の任務故」
ケルベロスとハリフグアパッチは言った。
「やれるか」
アポロガイストは問うた。
「無論」
「この名にかけて」
「そうか」
心の中に思うところもあったがここは彼等に任せることにした。
(どのみちこの者達に倒せる筈がない。だが今のⅩライダーを見ることはできるな)
だがそれは決して言わない。それは隠し彼等に対して言った。
「ではやってみるがいい。見事Ⅹライダーの首を挙げよ」
「ハッ」
「お任せあれ」
アポロガイストは一旦後方に退いた。怪人達はⅩライダーを取り囲んだ。
「行くぞ」
まずはハリフグアパッチが来た。怪人はまず肩から爆弾を放ってきた。
それはⅩライダーに向かって飛んできた。だが彼は臆していなかった。
「ムンッ!」
ライドルをホイップに換えた。そしてそれで爆弾を両断した。
爆弾は空中で爆発した。Ⅹライダーは爆風に隠れるようにして跳んだ。
「トォッ!」
空中でライドルのスイッチを入れる。今度はロングポールだ。
「受けろ!」
そして伸びるそれで怪人を突く。それはハリフグアパッチの胸を貫いた。
またライドルのスイッチを入れる。するとポールは引っ込んだ。
「グオオオーーーーーーッ!」
胸を貫かれた怪人はその場に倒れた。そして爆発して果てた。
今度はケルベロスの番だ。怪人はⅩライダーの着地地点にいた。
「死ねぇっ!」
全身に電気を帯びた。そしてそれでⅩライダーを包み込まんとする。
しかしⅩライダーの方が一枚上手であった。彼はライドルをまた換えていた。
「これならどうだっ!」
それはロープであった。鞭の様に操りそれで怪人の三つの首を絞めた。
「グググ」
怪人はそれを引き離そうとする。だがそれはもがけばもがく程食い込んでくる。
電流を流そうとする。だがそれも効かなかった。
「無駄だ、このロープは電流を通さない」
Ⅹライダーは言った。そして首を絞める力を強くさせる。
次第に怪人の三つの頭の顔は歪んでいく。顔の色もドス黒くなってきた。
「グオオ・・・・・・」
そして力が弱ってきた。最後にガクリ、と膝を着いた。
それで終わりであった。Ⅹライダーがロープを抜くと怪人はその場に崩れ落ち爆発の中に消えた。
「これで怪人は倒した」
Ⅹライダーはその爆発を見送っていた。そして顔を後ろに向けた。
「アポロガイスト、今度は貴様の番だ!」
そしてライドルをホイップにして身体の前でⅩの文字を描いた。そしてアポロガイストに対して身構えた。
「望むところだ!」
アポロガイストも右手でⅩライダーを指し示した。そして両者は前に出た。その剣を打ち合わせる。
忽ち激しい剣撃がはじまった。両者は一歩も引かず互いに剣を繰り出す。
「流石だな。またしても腕をあげたようだな」
アポロガイストはⅩライダーのホイップを受けながら満足そうに言った。
「貴様こそな」
Ⅹライダーもそれは感じていた。二人は互いの腕を認めていた。
「どうやら今はお互いこのまま闘っても決着は着かない」
アポロガイストは間合いを離して言った。
「だがこの戦いは最後には俺が勝つ」
「どういう意味だ?」
Ⅹライダーはその言葉に問うた。
「知りたいか。ならば教えてやろう」
彼は自信に満ちた声で言った。
「見るがいい」
そして丘の上から見える海を指し示した。そこにはエーゲ海の青く澄んだ世界が広がっていた。
だがそれは一瞬であった。すぐにそこから銀の神が姿を現わした。
「あれは!」
Ⅹライダーはその海神の姿を見て思わず言葉を失った。
「フフフ、驚いたようだな」
アポロガイストはそれを見て更に機嫌をよくした。
「忘れたわけではあるまい、あの巨人を」
見れば海に現われたその神は全身が銀でできていた。そして頭から二本の角を生やしていた。
「キングダーク」
Ⅹライダーはその巨人の名を呼んだ。
「まさかキングダークまで復活させているとは」
「ただ復活させただけではない」
アポロガイストは言った。
「見るがいい」
アポロガイストはまたキングダークを指し示した。するとその目が黒くなった。
「あれは・・・・・・」
それは闇ではなかった。何と黒い光であった。そしてそれがキングダークの両目に満ちた。
そして放たれた。黒い光はキングダークの側の小島を撃った。
一瞬であった。その小島は跡形もなく消え去っていた。
「何と・・・・・・」
Ⅹライダーはそれを見て思わず呆然となった。
「驚いているようだな」
アポロガイストは彼に言った。
「これが我がバダンの切り札だ。時空破断システム」
「時空破断システム」
「全てを消し去る究極の兵器だ。そう、全てとな」
「まさかそれを使って」
「そう、そのまさかだ」
彼は言った。
「このギリシア、そして地中海を全て消し去ってやる。黒い光の中に全ては消え去るのだ」
「そんなことはこの俺が許さん!」
「そう言うと思っていた」
アポロガイストはそれを聞くと満足そうに言った。
「ならば来い、Ⅹライダーよ。そしてキングダークを倒してみよ」
「言われなくともそうしてやろう!」
「そうでなくては面白くない」
アポロガイストはそう言うと背中のマントをたなびかせた。風が吹いてきていた。
「俺とキングダークはこの海の中にいる。そして貴様を待ち受けている。さあ来るがいい、Ⅹライダーよ」
その目が光った。
「このエーゲ海の藻屑にしてくれる!」
「それは俺の台詞だ!」
そう言った時にはアポロガイストは姿を消していた。見ればキングダークも青い海の中に姿を消していた。
「アポロガイスト、キングダーク」
彼がゴッドと戦っている時に常にその前に立ちはだかってきた強敵であった。ゴッドとの戦いは彼等との戦いであったと言っても過言ではなかった。
「俺は必ず勝つ、貴様等を倒してな!」
「Ⅹライダー・・・・・・」
戦闘員達を倒し終えた竜はその後ろ姿を見ていた。何時になく激しい彼の気迫を見て声をかけることができなかったのである。
丘の上での戦いはとりあえずは終わった。だがそれは次の戦いのほんの序章に過ぎなかった。それはⅩライダーも竜もアポロガイストもわかっていた。
「とりあえずはこれでいい」
アポロガイストは小島に置いた基地の指令室に着くと言った。既にスーツ姿に戻っている。
「Ⅹライダーは間違いなく海にやって来る」
「宜しいのですか?」
ここで戦闘員の一人が問うてきた。
「何故だ」
アポロガイストはその戦闘員に顔を向けて逆に問うた。
「Ⅹライダーは水中戦においては無類の強さを発揮しますが」
「それか」
アポロガイストはそれを聞くとニヤリ、と笑った。
「俺がそれを知らないと思っているのか」
「いえ」
戦闘員は首を横に振って応えた。
「ならばいい。若しここで首を縦に振っていたならば」
言葉を続ける。
「わかっているな」
「わかっております」
アポロガイストの冷酷さはバダンにおいてもよく知られていた。彼はゴッドにおいては怪人や戦闘員を処刑する権限を与えられていた。それを実行することも多かった。
バダンにおいては大幹部や改造魔人の権限は他の組織に比して大きかった。首領に意見を上奏することもできるし、怪人や戦闘員を処刑することもできた。これまでの組織と違う部分はまずここであった。
「では俺が考えていることも大体予想がつくだろう」
「はい」
「見るがいい」
アポロガイストはここでモニターのスイッチを換えさせた。それまで海面を映していたが基地の中に切り換わった。
そこには怪人達が映っていた。普通の怪人達ではなかった。
ショッカーの放電怪人ナマズギラー、ゲルショッカーの毒粉怪人エイドクガ、ブラックサタンの豪力怪人奇械人ワニーダ、ネオショッカーの宝石怪人ウニデーモン。いずれも海棲動物をベースとする怪人ばかりであった。
「この者達がⅩライダーの相手をする。そして」
アポロガイストはここでニヤリと笑った。
「俺も行く。そしてあの男を完全に叩き潰す」
「アポロガイスト自らですか」
「そうだ。俺は水中戦にも秀でているのは知っていよう」
「はい」
戦闘員はその言葉に頷いた。
「さあ来るがいい、Ⅹライダーよ」
アポロガイストはその顔から笑みを消した。
「今度こそ貴様を倒してやる。貴様の愛する海でな」
モニターは海面に切り替わった。海は戦いへの序曲を知りもせずその静かな動きを続けていた。
地獄大使は東南アジアにいた。彼はジャングルの中にいた。
「行くぞ」
周りには戦闘員達がいる。彼は戦闘員達を急かしながら進んでいく。
そしてある場所に着くと彼等に対し言った。
「ここでいい」
次に目配せをした。
「来るがいい」
「ハッ」
戦闘員達は頷いた。そして密林の中に消えていった。
地獄大使はその中に立っていた。だがすぐにそこから動いた。
弓矢が飛んできた。彼はそれをかわしたのだ。
前に突き進む。だがそのすぐ下から槍が来た。
「甘いっ!」
そこには戦闘員がいた。彼は鞭で槍を弾き飛ばした。
そしてその戦闘員を撃つと上に跳んだ。木の上に止まる。
だがそこにもすぐに攻撃が仕掛けられた。何とすぐ後ろに戦闘員の一人が保護色を使って紛れ込んでいたのだ。
「グググ」
その戦闘員は後ろから首を絞めてきた。地獄大使の顔が見る見る赤くなっていく。
しかし彼はそれからすぐに脱出した。戦闘員の腹を殴ったのだ。
「ガハッ」
彼は腹を押さえてその場に崩れ落ちた。地獄大使は彼を掴むと下に放り投げた。
「まだだ、来い!」
地獄大使は叫ぶ。そして密林の中に飛び込んだ。
暫く気配を立った。やがて痺れを切らした戦闘員が二人姿を現わした。
そこに鞭が襲い掛かった。茂みの中から出て来たそれはその二人の戦闘員を捕らえた。
だがそこに弓矢がまた来た。茂みの中に射る。
「そこか!」
しかし何もなかった。どうやら既に姿を消しているらしい。
暫くはまた静寂がジャングルを支配した。双方息を潜めている。
何かが動いた。茂みの中だ。
「そこだ!」
弓が来た。呻き声があがった。
「やったか!」
だがそれは違った。中から出て来たのは一匹の鹿であった。
「鹿!?」
声をあげてしまった。それが命取りとなった。
「そこかあっ!」
上から声がした。木の陰で弓を持って立っていた戦闘員は思わず顔を上げた。
そこに彼はいた。攻撃する暇すら与えず跳び掛かって来た。
それで終わりだった。彼の喉元には地獄大使の鍵爪が突き付けられていた。
「これで終わりだな」
大使はニヤリと笑って言った。
「ご苦労であった。いい練習になった」
「ハッ」
すると茂みから他の戦闘員達も出て来た。
「お見事でした」
戦闘員の一人が他の者を代表して彼に言った。
「いや、そなた達もご苦労であった」
彼はそれに対しねぎらいの言葉をかけた。
「こうして常に鍛えておかねばな。ライダー達に遅れをとってしまう」
「ハッ」
戦闘員達はその言葉に頷いた。
「そしてあ奴にもな」
彼はここで憎悪をその顔に剥き出させた。
「負けるわけにはいかんのだ。それはわkっておろう」
「はい」
「ならばよい」
彼は一先その憎悪を顔から消した。
「ここにもすぐにライダーがやって来よう。どのライダーであろうが必ず倒す。そしてこの東南アジアを地球から消し去るのだ」
「わかっております」
「その為には気を緩めてはならん。ライダーは手強い」
彼の言葉には普段の豪放さはなかった。険しいものであった。
「ライダーだけではない」
また言った。
「あの男もいる」
「あの男とは!?」
戦闘員の一人がそこに突っ込んだ。
「・・・・・・いや何でもない」
地獄大使はそれを否定した。
「今の言葉は忘れよ。よいな」
「はい」
その戦闘員は頷いて応えた。
「では戻るとしよう。そうだ」
彼はここであることを思い出した。
「さき程鹿を射ていたな。あれで今日は宴といこう」
「それはよろしゅうございます」
「そなた等も付き合うがいい。宴は人が多いにこしたことはない」
「有り難き幸せ」
これも地獄大使であった。彼は陽気さも併せ持っているのだ。
「では帰るぞ。帰ったらすぐにあの鹿を食べるとしよう」
「はい」
彼等は鹿を見つけるとそれを担いだ。そして密林から姿を消した。
ⅩライダーはクルーザーDで海中を進んでいた。アポロガイストの挑戦を受けてのことである。
「アポロガイスト」
彼はふと宿敵の名を呟いた。
「海中戦を挑むとはどういうつもりだ」
それが不思議でならなかったのだ。
彼はカイゾーグである。当然の様に海中戦は得意としている。元々は深海開発用に計画されていたのだから当然といえば当然であった。
だからこそ不思議なのだ。ゴッドも彼には水中戦はあまり挑んでいない。アポロガイストは特にそれを避けていたふしがあった。
「それが何故だ」
彼は考えていた。
アポロガイストがそうしていたのは負けることがわかっていたからだ。むざむざ敵の有利とする場所で戦う程彼は愚かではない。これは戦略の基本である。
しかし今は違う。彼はⅩライダーをあえて水中に誘い込んできたのだ。
「何かある」
普通はそう思う。だがアポロガイストは決戦においては小細工を弄するしない。誇り高い彼は自らの手で倒すことを好む傾向があるのだ。これはバダンの者では珍しいことであった。
「誇りか」
Ⅹライダーはここにハッとした。
そうであった。アポロガイストは誇り高い。そうだからこそ彼はここにⅩライダーを呼んだのではなかろうか。
「あえて俺が得意とする戦場を選ぶ。そしてそこで倒す」
彼の好みそうなことであった。
「だとしたら俺も負けるわけにはいかない。カイゾーグの名にかけて」
父により開発されたカイゾーグ。彼はここでもゴッドい殺された父の心を受けていたのだ。
「親父」
亡き父のことを思い出した。
「見ていてくれ。俺は必ずバダンを倒す。そして」
海中は戦いの予兆なぞ全く感じさせない。普段と変わらない。
「世界に平和を取り戻してやる」
そう思いながら彼は海中を進んでいった。
海藻や珊瑚が下に見える。Ⅹライダーはそれを見下ろして思った。
(綺麗だな。何時見ても飽きない)
彼はこの海藻や珊瑚が好きだった。これ等だけではない。海の全てを愛しているのだ。
だからこそバダンが許せなかった。彼にとって何にも替え難いこの海を汚すからである。
(バダン)
彼は組織の名を心の中で呟いた。
(貴様等はこの俺が倒す。例え何があろうとも)
岩山の側を通り掛かった。そこを横切る。
不意にその岩山が動いた様に見えた。
「ムッ!?」
それは岩山ではなかった。巨大な腕が現われた。
「危ないっ!」
マシンの機首を捻る。そして咄嗟に身をかわした。
腕から逃れた。そして安全な場所にまで退避する。
「キングダークか!」
「その通り」
上の方から声がした。聞き覚えのある声だった。
「その声は!」
Ⅹライダーは上を振り向いた。そこにはあの男がいた。
「よくぞ来た、Ⅹライダーよ。招きに応じてくれて感謝する」
アポロガイストは既に変身していた。そして水中に立っている。
「貴様をここに招いた理由はわかっているな」
「無論」
Ⅹライダーはマシンから降りるとライドルを引き抜いて身構えた。
「ここでキングダークも貴様も倒してやる」
「フフフ、そうでなくてはな」
アポロガイストは下にいるⅩライダーを見据えていた。
「こちらも面白くはない」
そして右手をゆっくりと上げた。
「折角この者達を集めて来たのだからな」
彼の周りに四体の怪人達が姿を現わした。あの四体の海棲怪人達だ。
「さあ行け、そしてⅩライダーを倒すのだ!」
「ハッ!」
四体の怪人はアポロガイストの指示に従い四方に散った。そしてそれぞれⅩライダーに襲い掛かってきた。
「来たか」
Ⅹライダーはその怪人達から目を離さない。すぐにその中の一体が来た。
「ウニニーーーーーッ!」
怪人は棍棒を振り回してやって来る。Ⅹライダーはそれに対してライドルのスイッチを入れた。
「ライドルホイップ!」
それまでのスティックからホイップに換えた。そしてそれを手にウニデーモンに向かっていく。
棍棒が振り下ろされる。だがⅩライダーはそのまま進む。
「愚かな。水中戦を知らないか」
ウニデーモンは確かに海栗をベースとしている。だがどちらかというと鬼に近い。だから海での戦いを忘れていた。
棍棒は重い。その為水中では抵抗を強く受け動きが鈍くなる。鈍くなるとそれだけ衝撃が弱まる。
だがホイップは違う。抵抗が極めて少ない。その差が出た。
ホイップが一閃された。それは棍棒を切った。
柄のところで切断される。それは海の底へ落ちていく。
「ウニッ!」
だがウニデーモンは怯まない。今度は額から光線を出そうとする。
「まだ水中戦がわかっていないか」
Ⅹライダーはそれを見て呟いた。
光線は熱である。熱は水中では弱まる。従ってウニデーモンの自慢の光線もその力は極端に弱まるのだ。
Ⅹライダーはそれを何なくかわした。そしてそのまま前に進む。
「喰らえっ!」
ライドルを突く。それは怪人の首を刺し貫いた。
それで決まりであった。怪人は動きを止めた。ホイップを引き抜くとそのまま下に落ち海の底で爆発した。
すぐに別の怪人が来た。エイドクガーである。
「クエェェーーーーーーーッ!」
怪人は奇声と共に右手の毒針を振るってきた。ウニデーモンのそれとは比較にならない速さだ。
Ⅹライダーはそれをかわす。水中にいるとは思えない速さだ。
「ウニデーモンよりは慣れているな」
Ⅹライダーはそれを見て言った。
怪人の動きもかなり速かった。やはりエイの力を受けているだけはあった。だがそれだけでこの動きは出せなかった。
毒蛾の動きである。空を舞う様にヒラヒラと飛ぶ様に来る。
「舞うか」
「そうとも」
エイドクガーは不敵に言った。
「Ⅹライダー、貴様も舞わせてやろう!」
毒針を振るう。だがそれは流石に当たりはしない。Ⅹライダーは彼の動きから目を離さない。
次第に目が慣れてきた。動きが見えてきた。
「よし!」
ホイップを振るった。それはエイドクガーの右腕を一閃した。
「クエッ!?」
右腕が断ち切られた。だがⅩライダーの攻撃はそれで終わらなかった。
「トォッ!」
怪人の腹を切った。その腹から鮮血が溢れ出る。
「クエエエ・・・・・・」
それで決まりであった。エイドクガーもまた海の底に落ち爆発して果てた。
次に来たのは奇械人トラフグンであった。
「死ね、Ⅹライダー!」
怪人は両手の鋭い鰭の刃でⅩライダーを両断せんとする。左右に縦横無尽に振るう。
だがⅩライダーも負けてはいない。それをホイップで受ける。
「この程度か!」
「まだだ!」
怪人は叫んだ。間合いを離し腰に手を当てた。
「喰らえっ!」
そこからトゲを出した。それをすぐに撃って来る。
「これならどうだ!」
それは一直線にⅩライダーに向けて向かって来る。まるで魚雷の様に。
しかしそれもⅩライダーには通用しなかった。
「甘いなっ!」
それもホイップで叩き落とされた。そしてすぐに前に出た。
怪人はそれに対してまたもや刃を振るう。だがそれはもう見切られていた。
「ムン!」
ライドルを一閃させた。それは怪人の額を断ち切った。
「エェヒィーーーーーーンッ!」
奇械人トラフグンは断末魔の叫び声をあげた。そして彼もまた同僚達の後を追い爆死した。
「残るは貴様だけだ!」
Ⅹライダーはナマズギラーをライドルで指し示した。
「アレレレレレレレレッ!」
怪人はまず全身に力を溜めた。
「何をする気だ!?」
Ⅹライダーは咄嗟に身構えた。これが仇になった。
「アレーーーーーーーーッ!」
怪人は全身から電気を放ってきた。電気ナマズの改造人間だったのだ。
「クッ、しまった!」
Ⅹライダーは自分の迂闊さを悔やんだ。水は電流をよく通すのだ。
「グググ」
しかしそれでもⅩライダーは踏ん張った。顔を上げ怪人を睨みつける。
「ほお、まだやる気か」
ナマズギラーは既に勝利を確信しちえた。電流のダメージはかなりのものである筈だからだ。
「だがこれで終わりだ」
今度は口髭を伸ばしてきた。
「じかに電流を味あわせてやるわ!」
「今だ!」
Ⅹライダーは髭が伸びてきたのを見て咄嗟に動いた。
「貴様の力の源はそれだな!」
彼はナマズギラーの髭に電流が宿っているのを見て言った。
「ならばそれを断ち切ればいい!」
そしてライドルを一閃させた。髭はそれぞれ断ち切られた。
「グオッ!」
Ⅹライダーの予想は当たっていた。それは怪人の力の源であった。
怪人の身体から電流が消えていく。これで勝負は決まった。
「トゥッ!」
ライドルを袈裟斬りにした。怪人は鮮血を水中に撒き散らしその場で爆死した。
「成程な。さらに腕をあげている。戦う度に」
アポロガイストはその戦いぶりを見て言った。
「アポロガイスト、来い!」
Ⅹライダーはそんな彼をライドルで指し示していた。
「言われずとも行こう」
ゆっくりと動いた。そして降りて来た。だがそこで山が動いた。
「ムッ」
それはキングダークの腕であった。彼は両者の間に入るようにして上がって来た。
「キングダークか」
キングダークはⅩライダーの前にその巨体を現わしてきた。アポロガイストはそれを見て後ろに退いた。
「わかった。ではまずは貴様に任せよう」
彼は後方に退いた。そしてⅩライダーとキングダークの戦いを観戦することにした。
「Ⅹライダー、残念だがまずはキングダークと戦ってもらう。俺との勝負はその後だ」
「わかった」
Ⅹライダーのそれを了承した。
「一つ言っておく。キングダークも生まれ変わった」
「どういう意味だ!?」
「かってのキングダークは総司令自ら動かされていた」
最初キングダークは鉄の巨人だと思われていた。だがⅩライダーが中に潜入するとそこにはゴッド総司令である呪博士がいた。彼が脳波でキングダークを操っていたのであった。
「今は違う。話すことはできないが自らの意思で動いているのだ」
「人工知能か」
「そうだ」
アポロガイストは答えた。
「さあⅩライダーよ、この新生キングダークに勝つのだ。そしてこの俺と決着をつけろ」
それこそがアポロガイストの望みであった。彼はあくまでⅩライダーと決着を着けることを望んでいるのだ。
だがキングダークにも意思がある。例えそれが人工知能であったとしても。彼はⅩライダーを見据えるとその岩石の様な腕を振り回してきた。
「来たか」
その腕で掴もうとする。だがⅩライダーは巧みに泳ぎそれをかわした。
しかしそこにもう一撃来た。もう一方の手で殴ろうとする。
だが力が減退されている。やはり水中では思う様に動けない。
「この程度ならば相手にはならん」
Ⅹライダーはその拳をかわしながら言った。そしてライドルを身構えた。
「行くぞ、キングダーク!もう一度貴様を地獄に葬ってやる!」
そして飛ぶ様に泳ぐ。そのままキングダークの懐に潜り込む。
「グオッ」
キングダークの呻き声にも似た叫び声が出てきた。そしてⅩライダーを防ごうとする。
しかしⅩライダーの動きは彼のそれより遥かに速かった。彼はすぐにキングダークの身体に貼り付いた。
「ほお、そう来るか」
アポロガイストはそれを見て言葉を漏らした。手出しをするつもりはないようだ。
「だが通用するかな、キングダークに」
彼はⅩライダーのその戦術をやや冷ややかに見ていた。
「まあやってみるがいい。負けないようにな」
Ⅹライダーはその言葉を聞いてはいなかった。ライドルで?ぎ目を突く。
「トォッ!」
だがその手応えはなかった。いや、見事に弾き返されてしまった。
「何ッ!」
「グググ」
上からキングダークの呻く様な笑いが聞こえて来る。腕が動いた。
「危ない!」
Ⅹライダーは素早くキングダークから離れる。そして止むを得ず間合いを離す。
腕が遂先程までⅩライダーがいた部分を襲う。少しでも遅れていたならば命はなかったであろう。
「まさか以前より硬度が増しているのか」
「その通りだ」
アポロガイストはⅩライダーに対して答えた。
「このキングダークはただ復活したわけではない。以前よりも遥かに強くなっているのだ。水中ではわかりにくいだろうがな」
「クッ、そうだったのか」
Ⅹライダーはそれを聞き歯噛みした。
「そして違うのは力だけではない」
アポロガイストの言葉に合わせるかのようにキングダークの両目に黒い光が宿っていく。
「クッ!」
Ⅹライダーはそれを見て慌ててその場から離れる。そこに二条の黒い光が襲い掛かった。
「やはりな。そう簡単には当たらぬか」
「当たるものか」
「そうでなくては面白くない。だがな」
アポロガイストの声は笑っていた。
「何時までもかわせるものではない。さて、どうする?」
確かにⅩライダーは今はかわしている。だがその動きにキレが次第になくなってきていた。疲れが出てきたのだ。
「クッ、まずいな」
それは彼も自覚していた。危機が近付いているのがわかった。
彼は考えた。敵の守りは硬い。まともな攻撃では通用しない。
「Ⅹキックでも無理だ」
水中ではただでさえ威力が大きく減少する。だからこそ怪人達との戦いもライドルで行ったのだ。
「どうすればいい」
彼は黒い光をかわしながら考えた。攻撃を当てることは容易なのだ。
「あれだけの巨体ならば当然か」
そう、巨体であった。
「待てよ」
彼はここで閃いた。
「攻撃を当てることは容易だ。ならば」
彼はまずは間合いをさらに広くした。
「?どうするつもりだ」
アポロガイストはそれを見て不思議に思った。
「あの間合いならば攻撃は全くできないぞ」
だがⅩライダーはあえて間合いを広くしている。そして彼は叫んだ。
「来い、クルーザー!」
マシンを呼んだ。すると後ろから銀のマシンがやって来た。
「よし!」
そしてそのマシンに跳び乗った。マシンは速度を全く緩めない。
そのままキングダークに突進していく。アポロガイストはそれを見て思わず叫んだ。
「それがあったか!」
キングダークは光を放つ。だがそれはマシンの魚雷の様な動きの前に全く無力であった。
「この程度で!」
Ⅹライダーは突き進む。キングダークは腕を振り回す。
だが当たるものではない。Ⅹライダーはそのまま体当たりを敢行する。
「クルーザーアターーーーーック!」
そしてキングダークの腹の突攻する。激しい衝撃が水中で起こった。
マシンがキングダークの腹を撃ち抜いた。そして背中から飛び出て来た。
「決まったな」
Ⅹライダーは暫くそのまま進むと機首をキングダークの背に向けて反転させた。そこではキングダークが貫かれたままで動きを止めていた。
やがてガクリ、と頭を垂れた。そしてそのまま爆死した。
「キングダークはこれで死んだか」
ゴッド悪人軍団を掌握していた巨大な魔人を再び地獄に葬り去ったのであった。だが戦いはそれで終わりではなかった。
「見事だ、Ⅹライダーよ」
目の前にあの男がやって来た。
「マシンを使うとは思わなかった。流石だと褒めておこう」
「アポロガイスト」
Ⅹライダーは宿敵を見据えた。
「待て、今貴様と戦うつもりはない」
「どういうことだ」
Ⅹライダーは問い詰めた。アポロガイストはそれに対して言った。
「今の貴様は疲れきっている。そんな状況の貴様に勝っても嬉しくとも何ともない」
彼は弱っている敵の相手をする趣味はない。
「日をあらためる。勝負は三日後だ」
「三日後か」
「そうだ。場所はパルテノン神殿」
アテネにあるアテネ女神の神殿だ。
「時間は正午だ。必ず来るがいい」
「言われずとも」
「ふふふ、それでいい」
アポロガイストはそれを聞いて笑った。
「では楽しみにしているぞⅩライダーよ。そこで決着を着けようぞ」
「望むところだ」
Ⅹライダーもそれを了承した。これで決まりであった。
「今日はこれでさらばだ。だが三日後貴様は死ぬ」
彼はそう宣言した。
「それまでこの世に未練がないようにしておくがいい」
そして海中から消えた。あとにはⅩライダーが残った。
「最後の戦いか、アポロガイストと」
ゴッドの時には数多くの死闘を繰り広げた。そしてバダンになってからもであった。彼の行くところ常に彼の姿があったと言ってもよい。例外は日本だけであったが奇巌山で対峙している。
「・・・・・・・・・」
Ⅹライダーは思うところがあった。だがそれは口には出さなかった。
そして彼も海から姿を消した。後には死闘を告げる怪人達の残骸が残されていた。
アポロガイストは基地に帰るとすぐに指令室に入った。そして言った。
「すぐに残りの戦闘員を集めよ」
と。指令室にいた戦闘員達は突然のその言葉に驚いた。
「全員ですか」
「そうだ」
アポロガイストは頷いた。
「基地の外に出ている者全員だ。このギリシアにいるバダンの者は全て集めろ」
「それですとアポロガイスト」
戦闘員の一人が恐る恐る尋ねた。
「何だ」
アポロガイストはそちらに顔を向けた。
「この指令室には収まりきれませんが」
見たところこの指令室はあまり広くはない。少なくともギリシアにいるバダンの者全ては収めきれない。
「そうか」
アポロガイストはそれを聞き口に手を当てて考え込んだ。そしてまた言った。
「では上に出よう。あそこなら問題ない」
「わかりました」
戦闘員はその言葉に頷いた。
「ではすぐに全員集めよ。大至急だ」
「ハッ」
指令室にいる戦闘員達は皆敬礼をして答えた。そしてすぐに召集にかかった。
暫くするとギリシアにいるバダンの者全てが基地が置かれている宮殿の大広間にやって来た。アポロガイストの宮殿であるアポロン宮殿だ。この宮殿は外からは霧に覆われ決して見えないのだ。レーダーにもかからない。将に謎に覆われた城であった。
「諸君等に来てもらったのは他でもない」
アポロガイストはバダンギリシア支部、いや東欧にいるバダンの者全てを前にして言った。ここにはギリシアだけでなく東欧のバダンの者も全て集まっていた。彼が召集したのだ。
「バダン東欧本部は今日を以って解散する。諸君等はこれより西欧本部若しくは南欧本部に落ちるがいい」
西欧本部は今はスペインにある。死神博士の管轄だ。南欧はシチリアだ。百目タイタンがいる。尚北欧本部であるゼネラルシャドウは本拠地を置いていない。これは彼独自の戦略思想に拠るところが大きい。
「な・・・・・・!」
戦闘員も科学者達も彼の言葉に仰天した。無理のないことであった。
「アポロガイスト、本気ですか!?」
「俺が嘘を言ったことがあるか」
アポロガイストは平然とした様子で彼等に言葉を返した。
「俺は言ったことは必ず行動に移す。バダン東欧本部は解散だ」
「しかし」
彼等はそれでもまだ信じられなかった。アポロガイストの性格を知っていてもだ。
「一体何を為さるおつもりですか」
「決まっている、Ⅹライダーを倒す」
その口調も物腰も毅然としたものであった。
「それでしたら我々の力も必要でしょう」
「そうです、是非お供させて下さい」
戦闘員達が次々に申し出る。彼は冷酷であったがカリスマ性も併せ持っていたのだ。
「駄目だ」
しかし彼はその申し出を断った。
「Ⅹライダーを倒すことができるのはこの俺しかいない。足手まといを連れて行くつもりはない」
「しかし」
「くどい」
彼は次に来るであろう言葉を拒絶した。
「それ以上言うとその者を今この場で処刑する」
そして白いスーツの懐から拳銃を取り出した。
「さあ、まだ言いたい者はいるか」
「いえ」
戦闘員達はその言葉と銃を見て口を閉ざした。他の者もである。
「ならばいい」
彼はそれを見て銃を懐に収めた。
「ではすぐにこの宮殿から立ち去るがいい。既に爆弾を仕掛けてある」
「それでは・・・・・・」
「案ずることはない。俺が負けることなぞ有り得ない」
アポロガイストは彼等に対しそう宣言した。
「だから行くがいい。今度会う時はこの手にⅩライダーの首を下げている」
「わかりました」
彼等もそれに従った。そして次々とその場を去って行った。
「さらばだ」
アポロガイストは去って行く彼等の背を見ながらそう呟いた。
「再び会う。その時までの別れだ」
そして彼も宮殿を後にした。暫くしてアポロン宮殿は爆発し炎の中に包まれた。そして後には欠片一つ残ってはいなかった。
バダン東欧本部の者達はアポロガイストの言葉に従い南欧、及び西欧本部に向かった。そしてそこでそれぞれの部に入れられた。
「アポロガイストめ、何を考えている」
死神博士も百目タイタンも彼の行動について首を傾げた。
「前々から妙な考えを持っているとは思っていたが」
百目タイタンは地下の己の宮殿の謁見の間で一人考え込んでいた。
「わからんな。何故一人で行くのか」
「フフフ、貴様にはわかるまい」
そこであの声がした。
「また貴様か」
それは後ろからであった。タイタンは後ろを振り向いた。
「そうだ。ギリシアでの話を知ってこちらに来てやったのだ」
ゼネラルシャドウはマントを翻しながら言った。
「アポロガイストの行動の意味がわかりかねているな」
「否定はしない」
百目タイタンは不機嫌を込めた声で返した。
「何故全力で以ってⅩライダーに向かわない。俺にはそれがわからん」
「あの男は全力で向かっている」
「一人でか」
「そうだ。奴は己の全てを賭けてⅩライダーに向かっているのだ」
「ふむ」
タイタンはそれを聞いて首を二三回縦に振った。
「つまり戦闘員達を足手まといと考えているのか」
「それもあるだろうが大筋においては違うな」
「では何だ」
「貴様はストロンガーとの闘いを他の者に邪魔されたいか」
「邪魔をするならば命はない。そう」
ここでシャドウに顔を向けた。
「貴様といえどな」
その無数の目で彼を睨みつけた。
「そうだろうな。それは俺とて同じこと」
「成程な。奴の考えがこれで理解できたわ」
タイタンは納得したような声で言った。
「つまり奴は自分自身だけの力で決着を漬けたいというのか」
「そうだ。それにはもう他の者の存在なぞ一切不要だ」
ゼネラルシャドウは半ば自分自身に言うようにして語った。
「そう、何者ものな」
今度はその声をタイタンに向けた。
「貴様の言いたいことはわかっている」
タイタンはまた彼に無数の眼を向けた。
「アポロガイストはⅩライダーと一騎打ちで決着を着けたいのだろう」
「そうだ。ようやくわかったか」
「フン」
シャドウの声に対しいささか不服そうな声を出した。
「俺もその程度はわかる。貴様がどう思っているか知らんがな」
「フフフフフ」
「奴のその心意気は認める。だがな」
ここでまたシャドウを見据えた。
「奴のとの戦いは俺のものだ」
「それはどうかな」
だがシャドウも引かない。
「北欧に来たら俺が優先的にやらせてもらう。北欧は俺の管轄だからな」
「勝手にしろ。だがな」
タイタンはここで言った。
「若し南欧に来た場合はわかっているな」
「当然だ。俺もその程度の分別はある」
シャドウは言葉を返した。
「もっとも奴の倒すのは誰なのかは既に定まっていることだが」
「どうせまたカードの結果なのだろう」
「悪いか」
「いや」
タイタンはそれをあえて否定しなかった。
「貴様の占いに口を挟むつもりはない。貴様の好きにすればいい」
「ではそうさせてもらおう」
「だがな」
タイタンはここで目を光らせた。
「これからは言わなくともわかっているだろう」
「フフフ」
シャドウはそれに対しては不敵に笑って返した。
「では俺はこれで帰らせてもらおう」
「土産はいるか」
「土産?」
「持って行くがいい」
タイタンはシャドウに対し何かを投げた。それは一本のワインであった。
「シチリアのワインだ。口に合うかどうかはわからんがな」
「赤か白か」
「白だ。あえて貴様の好みに合わせてやった。有り難く思え」
「心遣い感謝しよう。では俺も返礼をするとしよう」
「何だ」
「受け取るがいい」
そう言うとマントを翻した。すると空中に数本の煙草が現われた。
「ハバナ産だ。貴様にやろう」
「有り難いな。最近ハバナ産に凝っていてな、早速失敬させてもらおうか」
「好きにするがいい」
タイタンはそれを掴んだ。そして指で火を点けた。すぐに口に含んだ。
「フム」
「美味いか」
「ああ」
タイタンは満足した様に口から煙を吐いた。
「葉巻はいい。どうも普通の煙草では味わいがない」
「そんなにいいのか」
「貴様もどうだ」
「いや、俺は煙草は吸わん」
シャドウはそれに対しては右手を出して拒絶した。
「酒は嗜むがな」
「そうか。ではこの葉巻は全ていただくとしよう」
「その為に持って来た。そうするがいい」
「わかった」
タイタンは遠慮なく葉巻を全て手に取った。そしてそれを全て収めた。
「ではな。俺は本拠地に帰らせてもらう」
「ああ」
その時だった。不意に上の方から声がした。
「タイタンにシャドウよ」
「その声は」
忘れられる声ではなかった。あの声であった。
「元気そうで何よりだ」
「首領!」
二人はすぐにその場で片膝を着いた。そして恭しく頭を垂れた。
「フフフ、よい。そう畏まらなくともな」
「ハッ」
だが二人はそれでも片膝を着いたままであった。
「御前達に声をかけたのは他でもない」
「何でしょうか」
「うむ」
首領はここで一旦言葉をとぎらせた。そしてまた口を開いた。
「今度の作戦だが」
「はい」
二人は次の言葉を待った。
「一つに集中させる。北欧本部及び南欧本部は統合させる」
「統合ですか」
「そうだ」
首領は厳粛な声でそう言った。
「そして本部はこのシチリアに置く。そしてここで時空破断システムを使用するがいい」
「わかりました」
二人はそれぞれ時空破断システムを授かっていた。それぞれそれを兵器に装填しているところであった。
「指揮権はそなた達二人に任せる。上手くやるようにな」
「ハッ」
二人は頭を垂れながらチラリと互いを見た。何かを含む目であった。
「この欧州を死の荒野とするがいい。期待しているぞ」
「お任せ下さい」
二人はそう言って上げていた頭を再び垂れた。
「では任せた。思う存分やるがいい」
「ハッ!」
こう言い残すと首領はそこから気配を消した。そして彼は何処かへ気配を移した。
「これで欧州はよし」
彼は既に日本の本部へ移っていた。
「暗闇大使よ」
「ハッ」
その前には鍵爪を生やした暗闇大使が畏まっていた。
「御前の言う通りだ。二人は早速互いを意識しておったわ」
「そうでございましょう」
彼はそれを聞き満足した様な笑みを浮かべて答えた。
「あの二人はブラックサタンでも何かと張り合っていました」
「それはよく覚えているぞ」
首領は思い出した様に笑った。
「思えば滑稽ではあったがな。何かというといがみ合っておったわ」
「そうでございましょう。奴等の属性は水と油の如きものですから」
タイタンは奸智を好む、だがシャドウは策は弄しても戦いは正々堂々としている。戦い方でもかなりの違いがあった。
「対立しない筈がないのです」
「そしてその対立から力を出させるのか」
「はい。おそらくあの地域に向かうライダーはストロンガーです。チャージアップしたあの男の力は凄まじいものがあります」
「それに勝つ為にだな」
「はい。あの二人は確かに強大な力を持っております。しかしそれだけでは足りません」
「フム。タイタンは死神博士から何かを借りたようだがな」
「それでもです。またシャドウもその全力を出すでしょうが」
「それだけでは足りないというのだな」
「怖れながら」
暗闇大使はここでまた頭を垂れた。
「流石だな。かってベトナムにおいてその智略で名を馳せただけはある」
「遠い昔の話です」
だが彼は心の中で胸を張っていた。それは彼の誇りであるからだ。
「ではシチリアはこれでいいな」
「はい」
「ギリシアだが」
首領はここで話を移した。
「アポロガイストは一騎打ちを挑むつもりのようだな」
「そうのようです」
「しかも東欧のバダンを解散させてか。どうやら退路を断ったようだな」
「あの男にはあの男の考えがあるのでしょう」
暗闇大使は考える顔を述べた。
「頭の切れる男だが昔からどうも勝負にこだわるところがある。それが奴の持ち味だがな」
「それがこの度の行動になったのでしょう」
「うむ」
首領はここで考える様な声を出した。
「ここは奴に任せるとしよう。どのみち東欧ではこれ以上の損害は出ない」
「では独断で東欧本部を解散させたのは不問ですな」
「そうだ。Ⅹライダーを倒せばそれでいい。倒せない時はあの男が死ぬ時だしな」
「では今回はあの男の戦いをゆうるりと見守ることに致しましょう」
「そうだな。アポロガイストも強い。奴の力だと必ずやⅩライダーを倒すことができよう」
「ハッ」
「では下がるがよい。そなたも日本での作戦があるだろう」
「わかりました。では」
暗闇大使はマントでその全身を包んだ。そして闇の中に消えた。
「アポロガイスト、期待しておるぞ」
首領もそう言うと何処かへ姿を消した。そして全ては暗闇の中となった。
「健闘を祈ります」
竜はパルテノン神殿に向かう神に対して声をかけた。
「有り難うございます」
神は後ろを振り向いてそれに応えた。その顔には笑みがあった。
「これがアポロガイストとの最後の戦いになるでしょう」
「はい」
神もそれはようわかっていた。
「今回で決着を着けます。向こうもそのつもりでしょう」
「そうでしょうね」
今度は竜が頷いた。
「明日またこの場所で。楽しみに待っていて下さい」
「はい。最高級のシャンパンを用意しておきますよ」
「有り難いですね。俺はあれが大好きなんですよ」
「ではそれを楽しみにしておいて下さい」
「ええ」
神はバイクに乗った。そして今度は振り向くことはなかった。
「絶対に帰って来て下さいよ、神さん。いや」
竜はここで言い替えた。
「Ⅹライダー」
戦場に向かう神の背は神のものであった。だがそこには仮面ライダーⅩの姿がはっきりと現われていた。
パルテノン神殿はアテネのアクロポリスの丘にある。この神殿が建てられたのは遥かな昔である。紀元前四三二年に当時の優れた建築家や陶芸家を集めて作られた。アテネの守護神である知と戦いの女神アテネの為の神殿であることは言うまでもない。
ドーリア様式の代表としても知られるこの神殿もギリシアの長い歴史の証人である。東ローマ帝国の時代には教会となっていた。そこに住む神はアテネではなくなっていたのだ。だがその神は変わった。
東ローマ帝国が倒れオスマン=トルコが支配するようになった。今度はイスラムのモスクとなった。この神殿はアテネから二度も主を変えることになったのだ。
ギリシアが独立すると本来の神が戻って来た。かって戦乱に崩壊したこともあったが今ではその姿を取り戻している。そして今もアテネを見守っているのである。
「これがパルテノン神殿か」
神はその前に来た。感慨を込めて神殿を見上げる。
「思っていたよりずっと巨大なんだな」
ここに来たのははじめてであった。初めて見るこの神殿に対して思いを馳せずにはおられなかった。
神が座すこの神殿で今運命の戦いがはじまろうとしていた。神はそのことを考えると複雑な思いになった。
「戦いの女神の神殿での戦いか」
「我等の決着を着けるのに相応しい場所だとは思わないか」
神殿の柱の陰から白いスーツに身を包んだアポロガイストが姿を現わした。
「確かにな」
神はそれに応えた。
「アテナは戦いを司る。だがそれは決してアーレスの好むような戦いではない」
アーレスもまた戦いの神である。ゼウスとヘラの息子だ。同じ戦いの神であってもアテナと違い粗暴で血を好む。その為あまり親しまれてはいない。
「あくまで知と技による戦いなのだ」
「そうか」
神はアポロガイストのその言葉に頷いた。
「我等の戦いに相応しいとは思わないか。かって日本において幾多の死闘を繰り広げた我等にとってな」
「それは貴様に同意する」
「有り難いな。どうやら気に入ってもらえたようだ」
アポロガイストは口の左端を歪めて笑った。
「でははじめるとしよう。我等の最後の戦いを」
「望むところだ」
アポロガイストは神の前に降りて来た。そして二人は睨み合う。
「行くぞ」
まずはアポロガイストが構えをとった。
アポロ
両手を肩の上まで上げる。そしてそこから一旦左右に大きく開く。
チェンジ!
その両手を顔の前でクロスさせた。白いスーツが黒く変わった。
背中に白いマントが現われる。右手が変形し左手に炎の楯が現われる。
顔が赤い仮面に覆われた。アポロガイストはクロスさせている両手を元に戻した。
「さあ来い!」
神に対して叫ぶ。神もそれに対して構えをとった。
「行くぞ、アポロガイスト!」
そして変身に入った。
大変身
両手を真上に突き出す。そこからゆっくりと左右に開く。斜め上で止める。
身体が銀のバトルボディに覆われ胸が赤くなる。黒い手袋とブーツが現われた。
エーーーーーーックス!
そして左手を拳にして脇に入れる。右手を手刀にして斜め前に突き出す。
銀色の仮面が顔の右半分を覆うと左半分もすぐに覆われた。そして眼が赤くなった。
全身を光が包んだ。そして仮面ライダ-Ⅹが姿を現わした。
「トォッ!」
ライドルを引き抜いた。そしてアポロガイストに襲い掛かる。
「ムンッ!」
アポロガイストはまずそれを楯で受けた。そして戦いを開始した。
楯でライドルを受けると右手のサーベルで突いた。Ⅹライダーは後ろに跳びそれをかわす。
後ろに跳ぶとすぐに反撃に転じた。前に跳びライドルで突く。
それを払う。そして今度は切り払う。Ⅹライダーはライドルでそれを受ける。
「流石にやるな」
アポロガイストはそこで言った。
「貴様こそな」
Ⅹライダーも負けてはいない。彼等は鍔競り合いを開始した。
両者共一歩も引かない。そして同時に後ろに退く。
アポロガイストは今度は右腕を前に突き出してきた。そして銃弾を放ってきた。
「アポロマグナム!」
銃弾が襲い掛かる。だがⅩライダーはそれに対して逃げようとはしない。
「この程度っ!」
そう叫ぶとライドルを身体の前に風車の様に激しく回転させた。
「ライドル地獄車!」
そしてそれで銃弾を全て弾き返した。
「ならばっ!」
今度は左手を大きく振り被った。そこには楯がある。
「ガイストカッターーーーーッ!」
横からその楯を投げる。楯の横の刃が高速回転をしながら襲い掛かる。だがⅩライダーはそれから目を離してはいなかった。
「トォッ!」
上に跳ぶ。そして紙一重でそれをかわした。
「甘いな」
しかしアポロガイストはそれに対して余裕の笑みを見せた。
楯が後ろで飛んでいる。だがそれは急に向きを変えた。Ⅹライダーはそれに気付いてはいないようだ。少なくともそう見ることができた。
だがⅩライダーも伊達に今まで多くの組織と戦ってきたわけではない。それは見切っていた。
「トォッ!」
ガイストカッターが背中に突き刺さるその直前に跳んだ。そしてそれをかわした。
ライドルを使い空中で大車輪をする。そして着地した。
「これをかわすとはな」
アポロガイストは楯を左手で受けながら言った。
「見事なものだ。褒めてやろう」
「あと少し跳ぶのが遅れていたら俺は死んでいた」
「そうか。ならばこれで死ぬがいい」
またマグナムを放ってきた。だがそれは簡単にかわされてしまう。
「フン、この程度では最早通用せぬか」
「言った筈だ、ライダーに同じ技は通用しないと」
「確かにな」
彼はそれを聞くと構えを変えた。
「ならばこのサーベルで決着を着けよう。良いか」
「望むところだ」
Ⅹライダーもライドルをスティックからホイップに換えた。そして身構えた。
「行くぞ!」
「来い!」
そして両者は再び激しく斬り合った。銀の火花が辺りに飛び散る。
「死ねっ、Ⅹライダー!」
「誰が!」
左右に斬り合い、突きを繰り出す。そしてそれを防ぎ反撃を仕掛ける。双方一歩も引かなかった。
アポロガイストのマントが翻る。Ⅹライダーは上に跳ぶ。やがて斬り合いは百合を越えた。
それでも決着は着かなかった。Ⅹライダーは突きを繰り出した。
「フンッ!」
アポロガイストは楯でそれを防ぐ。その瞬間激しい衝撃が彼を襲った。
「何っ!」
楯が粉々に砕けたのだ。Ⅹライダーの突きが彼の楯を打ち砕いたのだ。
さらにライドルを繰り出す。だがそれはアポロガイストのサーベルの前に全て防がれてしまう。
楯を失おうともアポロガイストは怯まなかった。なおも激しい攻撃を繰り出し続ける。
Ⅹライダーもだ。時は流れやがて陽が落ちる頃になった。
両者は徐々に疲れを感じるようになっていた。そして互いに隙を窺うようになった。
(早く勝負を決めなければ)
(こちらがやられる)
Ⅹライダーもアポロガイストもそう考えていた。そして互いに動きを止めた。
(これが最後になる)
それはわかっていた。だが迂闊に動くことはできなかった。先に動いた方が負けだからだ。
(来い)
二人は互いを窺う。だがピクリとも動かない。
そのまま時が過ぎていく。次第に焦りを感じるようになった。
(おのれ)
痺れを切らしだしたのはアポロガイストの方であった。彼の気性がそうさせた。
(何とかして決めなければ)
隙を窺う。だが相手もそうそう迂闊ではない。隙は見せない。
だが一瞬であった。Ⅹライダーはピクリ、と動いた。
(ムッ!?)
右腕が動いた。ライドルを持つ手だ。
胸が空いた。心臓が見えた。
「今だ!」
それを見たアポロガイストはすぐに動いた。
「これで最後だ!死ね、Ⅹライダー!」
そして突きを繰り出す。心臓を突くつもりであった。
突進するアポロガイスト。だがⅩライダーはそれを見ても焦らない。
彼も動いた。そしてスッと前に出た。
「よし!」
そして態勢を崩したアポロガイストに向かった。
「喰らえ」
そしてライドルを繰り出す。
「ライドル三段突きーーーーーっ!」
アポロガイストの胸にライドルを繰り出した。それは彼の胸を激しく突いた。
心臓を、腹を。そして喉を。三つの急所を瞬く間に貫いた。
「ガハッ!」
アポロガイストは思わず呻き声を出した。そして前に崩れていく。
Ⅹライダーはそれをすり抜けた。そしてアポロガイストの背の方に振り向いた。
「終わったな」
アポロガイストは崩れ落ちていく。やはり急所を貫かれたのは効いたようであった。
だが彼も意地があった。かろうじて踏み止まった。
「甘く見るな」
そう言うと倒れ込みそうになるところで態勢を立て直した。
「俺を)誰だと思っている」
そう言いながらⅩライダーの方へ向き直った。
「アポロガイストだ」
そして完全に立ち上がった。
「見事だ、Ⅹライダーよ。まさか急所を三つ攻撃するとはな」
「咄嗟に繰り出しただけだ。成功するとは思わなかった」
「謙遜はいい。俺は貴様を褒めているのだ」
彼はそう言いながら変身を解いた。そして白いスーツに戻る。
「軍人であった頃から、いやそれより前から俺は誰にも負けたことがなかった。俺は常に勝利者だった」
それが彼の誇りであった。
「そしてゴッドに入っても俺は常に勝ってきた。皆俺の前に屍を曝した。だが」
彼はここで口調を変えた。
「その俺を破ったのが貴様だった。復讐の為に甦ろうともまたしても敗れた」
アポロン第二宮殿での最後の戦いの時だ。死期を悟った彼はⅩライダーに対して戦いを挑んだのである。
「そしてバダンにおいても何度か刃を交えたが遂に勝利を収めることはできなかった」
「長江とモンゴルでだな」
「そうだ。そしてここでもだ。俺は遂に貴様に勝つことはできなかった」
彼は言葉を続けた。
「だが俺はそれを恥だとは思ってはいない。むしろ誇りだと思っている」
「誇り」
「そうだ。貴様の様な男と最後まで命を賭けて戦ったのだからな。戦士としてこれ以上の喜びはない」
「アポロガイスト」
「そろそろお別れだ。貴様との勝負実に楽しかったぞ」
そしてニヤリ、と笑った。
「Ⅹライダーよ、さらばだ。俺が戦った中で最強にして最高の戦士よ」
彼は倒れなかった。最後にこう言った。
「バダンに栄光あれ。偉大なる首領の手に世界が収められんことを!」
そう言うと彼は爆死した。その後には何も残らなかった。
「アポロガイスト・・・・・・」
Ⅹライダーはその爆煙が全くなくなるまで見ていた。そしてその風を正面から受けていた。
「見事な戦士だった。味方だったならどれだけ心強かったか」
ギリシアの戦いは終わった。こうして東欧に平和が戻ったのであった。
「そうですか、アポロガイストがそんなことを」
戦いの後アテネの空港で竜は神から戦いの結末を聞いていた。
「見事ですね、バダンにいるのが惜しい位です」
「はい」
神も同じ意見であった。
「しかしそれがあの男の生き方だったのでしょう。いや、戦士にとって何処に属しているかは関係ない。ただ強い相手と戦いたいだけです」
「それだけが望みですか」
「ええ。ですからあの男は貴方との戦いを最後まで望んだのです。バダンにおいても貴方だけを狙っていた」
「確かに。けれど俺はそれを嫌だと思ったことはなかった。常に倒してやると思っていました」
「そういうものです。貴方も戦士なのですから」
「戦士ですか。ライダーではなく」
神はそれを聞いて苦笑した。
「あっと、ライダーであることを否定したりはしませんよ」
竜は笑ってそう弁明した。
「戦士とライダーは同じなのですから」
「同じですか」
「はい、戦いに身を置く者として。しかし」
「しかし!?」
「ライダーは正義の為に戦います。それが戦士であるところにプラスアルファされるのです」
「正義ですか」
「ええ、正義です」
竜は頷いて答えた。
「それがライダーなのでしょう。貴方達は正義の為にライダーとなった」
「・・・・・・・・・」
神はそれには沈黙した。決して望んで改造人間となったわけではないのだから。
「それは否定されたいでしょう」
「ええ」
「お気持ちはわかります。私は貴方達の全てを知っているわけではありませんが貴方達のこれまでの戦いやライダーとなった経緯は知っています」
ライダーと関わる者としてそれを知らない者はいない。特に立花は。
「それぞれそれについて思われるところはあるでしょう。私の考えではそれは全て運命だったのです」
「運命ですか」
神はそれを聞いて悲しげな顔になった。
「運命だったのですか、俺がカイゾーグ仮面ライダーⅩとなったのは」
「認めたくありませんか」
「いえ」
彼は首を横に振った。
「そうなんでしょうね。あの時親父と共にゴッドに殺されかけたのは」
あの時の記憶が甦る。神はゴッドの刺客により父と共に瀕死の重傷を負った。
しかし彼は甦った。その父が最後の力を振り絞って彼を改造人間にしたのだ。
「敬介、御前はもう人間ではない」
父神敬太郎はそう言いながら彼に改造手術を施した。
「だが御前の命を救うにはこれしかない。・・・・・・許してくれ」
その目は泣いていた。父として我が子を改造人間にするには忍びなかった。
だがそれしかなかった。そして彼は改造人間となり甦った。
ゴッドとの戦いでも多くのものを失った。恋人であった水城涼子はゴッドの工作員となって彼に襲い掛かってきた。幾度も命を狙われた。
そして彼女と瓜二つの顔と姿を持つ霧子。彼女達は何と双子の姉妹であったのだ。そして涼子はゴッドに潜入していたのだ。彼を裏切ったわけではなかった。
その彼女達も死んだ。ゴッドに手にかかったのだ。
彼には何も残ってはいなかった。だがそんな彼を立花やチコ、マコ達が支えてくれたのだ。
「そしておやっさんと出会ったのも。アポロガイストとの戦いも運命か」
「はい。そして今も戦い続けているのも」
「残酷な運命だ」
首を横に振ってそう言った。何かを打ち消すように。
「しかし受け入れますよ、喜んで」
そこで笑顔になった。
「そう言うと思いましたよ」
竜はそれを聞いて微笑んだ。
「貴方はそういう人です。だからこそライダーになった」
「運命の女神達が選んだのですかね、俺を」
「そうなのでしょう。貴方だけでなく他のライダー達も。そう」
言葉を続けた。
「貴方達だからこそ選ばれたのだと思います」
「俺達だからですか」
「はい、その運命は確かに過酷です。しかし貴方達ならそれを克服することができます。いえ、しました」
「色々とありましたけれどね」
「それでもです。自分に勝てないとバダンにも勝てません。どれだけ強くとも」
力の強さは本当の強さではないのだ。心が強いことこそ本当の強さなのだ。竜はそう言っていた。
「その強さがあるから貴方達は戦える。そして勝てる」
「バダンにも」
「当然です。そしてその勝利はもうすぐです」
「はい」
「では行きましょう。そろそろ最後の戦いがはじまりますよ」
二人は日本行きの便に向かった。そしてそこから日本に向かった。戦いに向かう為に。
神殿の闘神 完
2004・9・9
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