仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜
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白夜の魔神
「これがオーロラか」
一文字隼人は空に浮かぶ幻想的な光景を見て思わず感嘆の声を漏らした。
「写真に撮っておくか」
彼は早速カメラを取り出した。
「そういえば一文字さんはカメラマンでしたよね」
隣にいる役が言った。
「ああ、おやっさんまで忘れてくれたことがあったがな」
彼はそう言って微笑んだ。
そして写真を撮る。緑のカーテンがカメラに収められた。
「前から一度写真に撮りたいと思ってたんだ。やっと願いが叶ったよ」
「良かったですね」
「ああ。じゃあ行こうか」
二人は白夜の街を後にした。
ここはノルウェー。北欧の湖の国である。
その歴史は古い。北欧神話の発祥の地でもあり湖とフィヨルド、そして森とこのオーロラで知られている。
かって隣国スウェーデンに併合されていたが二十世紀はじめに独立した。二次大戦でドイツに併合されたこともあったが今はこうして独立国となっている。
一文字隼人はこのノルウェーに役清明と共に着ていた。その目的は当然決まっていた。
「それにしてもこんなところまでバダンがいるとはな」
二人は街の外れのレストランで鰯料理を食べながら話をしている。
「それが連中です。世界征服には当然この国も含まれているんですから」
役が言った。
「そうだったな。それにしても凄い寒さだな」
「おや、ライダーでも寒いと感じるのですか」
役はそれを聞いて微笑んで言った。
「当たり前だよ。まあ常人よりはずっと寒さには強いけれどな」
「でしょうね。期待していますよ、戦いの時には」
「ああ、任せておいてくれ。雪山で戦ったこともあるしな」
「ベアーコンガーとですね」
「あ、ああ」
一文字はその言葉に少し戸惑いながら答えた。
「よく知ってるな、そんな昔の話」
「ええ、研究しましたから」
役は笑顔で返した。
二人は店を出た。そして車に乗り氷の支配する雪原に向かった。
それを遠くから見る者がいた。双眼鏡で彼等を見ている。
「そちらへ向かいました」
それは戦闘員であった。携帯で連絡を入れる。
「そうか、わかった」
携帯からは了承する返事が返ってきた。
「貴様は下がれ。後は別の者の監視を付ける」
「了解」
戦闘員はその場を去った。後には白夜を照らす太陽だけが残った。
「よし、準備はいいな」
基地の指令室で誰かが戦闘員達に対し問うた。
「既に全部整っております」
戦闘員の一人がそう言って敬礼した。
「うむ、ならばよい」
彼はそれを聞いて満足そうに頷いた。
「この国に基地を建設する前にライダーだけは倒しておきたいからな」
声の主は鋼鉄参謀であった。腕を組んで言った。
「しかも来たのが二号か。これは都合がいい」
彼はインドでのことを思い出していた。
「あの時は遅れをとったが今度はそうはいかん。借りを返させてもらうぞ」
そしてフッフッフ、と笑う。
「それは頼もしいな」
そこへ何者かがやって来た。
「お主か」
見ればマシーン大元帥である。ミイラの棺が現われその中から出て来た。
「だが二号は強敵だ、俺も以前手を合わせたから知っているが」
彼はデルザー軍団の時の戦いを思い起こしながら言った。
「それは俺もわかっている」
彼はマシーン大元帥に顔を向けて言った。
「あの時はシャドウに助けてもらったしな」
そういう彼の顔が屈辱に歪む。どうあやらそれを恥としているようだ。
「どうやら油断はしていないようだな」
「当然だ、あのきりもみシュートの味は忘れん」
「ならば良いが」
まだ何か言いたそうであったが言わなかった。
「ところで新しい情報が入ったのだが」
「何だ!?」
「荒ワシ師団長が死んだ、アマゾンでな」
「何っ、あの男がか!?」
彼はそれを聞いて思わず声をあげた。
「そうだ、スカイライダーに敗れてな」
「あの男がか・・・・・・」
彼はそれを聞いて顔を下に落とした。
「どうやら何か思うところがあるようだな」
マシーン大元帥はそれを見て言った。
「うむ、色々とあったとはいえ長い付き合いだったしな」
鋼鉄参謀の声はいささか沈んでいた。
「だが死んだものは仕方がないな。失った戦力の穴埋めもあるしな」
「そうだ。これを機に動く連中もいるしな」
「・・・・・・あいつ等か」
鋼鉄参謀はふと脳裏に二人の男を思い浮かべた。
黒い男と白い男。共に影に動くのを得意とする者達だ。
「だが俺には関係のないことだ」
鋼鉄参謀はそう言ってマシーン大元帥から視線を外した。
「俺は二号ライダーを倒す方が先決だしな」
「フフフ、その気性は変わらぬな」
マシーン大元帥は彼のその態度を見て笑みを浮かべた。
「あくまで正攻法のみというわけか」
「そうだ、俺にはこの鋼の身体がある。下手な小細工など必要とはせぬ」
マシーン大元帥に己が鋼の肉体を見せて言う。
「ではそれを見せてもらおうか」
大元帥はその言葉を聞いてニヤリ、と笑った。
「おお、楽しみに待っておれ」
「そうさせてもらうか」
マシーン大元帥はそう言うと棺の中に入った。そして何処かへ消え去った。
「行ったか。何かと忙しいようだな」
彼はそれを見て呟いた。
「まあ良い、俺は謀りごとや裏のことには興味はない」
そして部屋を後にした。その後を機械が響く音が続いていた。
廊下を進む。そこへメガール将軍がやって来た。
「何だ、お主も来ていたのか」
彼は将軍の姿を認めて言った。
「何だ、ではないだろう」
将軍はその言葉を聞いて顔を少し歪めた。
「この北欧における基地の建設計画について相談に来たというのに」
「それは予定変更しなくてはならんぞ」
「何故だ!?」
彼はそれを聞いて再び顔を歪めた。
「ここに仮面ライダー二号がやって来たのだ」
「何だ、そんなことか」
将軍はそれを聞いて少し溜息をまじえた声で言った。
「それならば怪人達を差し向ければ良かろう」
「いや、俺が行く」
鋼鉄参謀は顔を横に振った後で言った。
「おい、馬鹿なことを言うな。ライダーは引き付けておけば問題ない」
「事はそう簡単ではない」
鋼鉄参謀はその話に対して反論した。
「ライダーがいては基地建設も思うように出来まい。だからこそ先に叩いておくのだ」
「いや、まずは防御だ。本拠地を築きそれからライダーを攻撃してからでも遅くはない」
将軍も引かない。話は平行線になった。
「ともかく俺は行かせてもらう。奴にはインドでの借りがあるしな」
「待て、待つのだ!」
しかし鋼鉄参謀は行ってしまった。あとにはメガール将軍だけが残った。
「ああだと何を言っても無駄だな」
彼はその後ろ姿を見送りながら呟いた。
そして自分の基地に帰った。そして指令室に行き戦闘員達に問う。
「基地の建設状況はどうなっている?」
「ハッ、今のところ予定通りです」
戦闘員の一人がそれに対して敬礼で答えた。
「そうか。ならば良いが」
将軍はそれを聞いて安堵の声を漏らした。
「だが鋼鉄参謀の部隊が抜けるとなるときついな。どうしたものか」
「困っているようね」
そこに魔女参謀が入って来た。
「生憎な。しかしそちらの受け持ちの地域も大丈夫なのか?」
「ええ。こちらはまだライダーも来ていないし」
「そうか。こちらは二号が来た。鋼鉄参謀は奴を倒しに出て行ってしまった」
「それは大変ね」
「うむ。だからといって余分な兵はいないしな」
「何なら貸してあげましょうか?昔のよしみで」
彼女はそう言うとベールの向こうで微笑んだ。
「いいのか!?」
「ええ。こちらはまた新しい怪人を甦らせたし」
「そうか。こちらも切り札はあるにはあるのだがな」
「しかしまだ使う時ではないと」
「うむ。あの男を倒す為のものだ。そうおいそれとは出せぬ」
そう言う将軍の眼に強い光が宿る。
「そうね。貴方もあの男のことは色々と思い入れがあるようね」
「それはお主には関係のないことだ」
彼は魔女参謀を睨んで言った。
「私には私の考えがある。それには立ち入らないでもらおうか」
「相変わらずね。もう少し柔軟になったら?」
「ドグマの時から何度も言っているだろう。私には私のやり方があるのだ」
「いいわ。じゃあもうこれ以上は言わないわ」
魔女参謀は左手の平を上に向けて言った。
「けれど怪人は貸してあげるわ。それは安心してね」
「申し訳ない」
彼はそれに対しては礼を言った。
「お礼はいいのよ。私にも私の考えがあってね」
彼女はそう言って笑った。
「お礼を言われたりするのは嫌なの。これはわかってくれるかしら」
「ああ」
将軍は答えた。
「わかってくれたらいいわ。じゃあ怪人達はここに置いていくから」
そう言うと右手をサッと上げた。すると後ろから怪人達が姿を現わした。
「思う存分使ってね。武勲を期待するわ」
「うむ」
「じゃあ私はこれで。そろそろ時間だから」
魔女参謀はそう言って姿を消した。
「行ったか」
マントで全身を覆うとそのまま消えていった彼女を見ながら言った。
「見たところ数は多いな」
メガール将軍は怪人達を見ながら呟いた。
「相手が二号ライダーならあの男といえど分が悪い」
二号の戦巧者は彼もよく知っていた。
「このうちの何体かは奴に送っておくか」
そう言ってその中の数体に対して何かを言った。すると彼等はそのまま部屋を後にした。
「用心しすぎるということはないからな」
彼はそう言うと部屋を後にした。そして指令室に向かい戦闘員達に指示を出した。
一文字と役は雪原を進んでいた。下は半ば氷であり雪も降ってきている。
「そのマシンは氷の上でも進めるんですね」
役が一文字に対して言った。彼はスノーボードに乗っている。
「ああ。何せ空だろうが海だろうが進めるからな」
一文字は答えた。
「あんたもよくこんなの開発したよな。正直驚いてるんだ」
「確かに設計したのは僕ですけれどここまで凄い能力には出来ませんでしたよ」
「じゃあこれはおやっさん達がやったのか」
「そうみたいですね。立花さんマシンに付きっ切りでしたから」
役はマシンを見ながら言った。
「おやっさんが新サイクロンを開発したからな。このマシンはそれの弟みたいなもんだからなあ」
一文字は自身が乗るマシンを見ながら言った。
「それにしてもよくあんな凄いマシンを開発出来ましたね」
「サイクロンのデータがもとになってるんだけれどな。あと本郷も協力したし」
本郷猛は科学者でもありその頭脳はつとに知られている。
「それでも凄いですよ、あんなマシンを作れるなんて」
「いや、それでも」
それ以上のマシンを何なく設計した役を一文字は見て思った。
(しかしこの男は工学をやっていたにしろここまでのものを作るとは。一体何者なんだ)
そうだった。インターポールの一捜査官にしては彼の能力は異様であったのだ。
(とりあえずは俺達の味方のようだが)
信用は出来た。しかし。
(何故皆素性を知らないのだろう)
脳裏を疑念がよぎる。その時だった。
二人を突如として砲撃が襲った。
「来たかっ!」
役はスノーボードから飛び降りた。スノーボードは砲撃を受け爆発する。
一文字はマシンで空に跳んだ。砲撃はその彼も狙う。
「よし、外すなよ」
鋼鉄参謀は傍らでバズーカによる砲撃を続ける戦闘員達に対して言った。
しかし一文字の乗るマシンは速かった。たちまち見えなくなってしまった。
「ムッ、何処へ行った!?」
それを見て戦闘員達は周りを見回した。
「案ずるな、奴はすぐに姿を現わす」
鋼鉄参謀は落ち着いた声で部下達に対して言った。
「そう、すぐにな」
ニヤリ、と笑った。その時爆音が聞こえてきた。
「来たな」
目の前にライダーが現われた。新サイクロン改に乗りこちらに向かって来る。
「よし、行くがいい怪人達よ!」
鋼鉄参謀がそう叫ぶとその左右から怪人達が現われた。ショッカーの兄弟怪人であるシードラゴン三兄弟だ。
「イイーーーーーーチッ!」
まずは一世が来た。二号ライダーはそれをマシンの上から見ていた。
「来たか」
彼は怪人を見ながら呟いた。
怪人は跳んだ。そして右手の二又の鞭を振るわんとする。
「フンッ!」
二号はその鞭を掴んだ。そして横に投げた。
マシンの機首を動かす。そして倒れ込む怪人に向かって突撃する。
怪人は今起き上がってきたばかりだった。だがすぐにその手の鞭を振るわんとする。
しかしライダーの方が速かった。新サイクロン改で体当たりを敢行した。
「イイーーーーーーーッ!」
怪人は大きく後ろに吹き飛ばされた。そして雪原に叩き付けられ爆死した。
「トォッ!」
ライダーはマシンから跳び降りた。そして空中で後ろに宙返りしつつ着地した。
「ニィーーーーーーチッ!」
シードラゴン二世が来た。左手の銛をライダーに突き刺さんとする。
しかしライダーはそれを横にかわした。そして怪人の懐に飛び込んだ。
そしてパンチを連打する。最後には大きく投げ飛ばした。
「ニイーーーーーーッ!」
こうして彼も爆死した。残った三世が二号と対峙する。
「さあ来い、怪人!」
二号は身構えつつ怪人に対して叫んだ。
「ターーーーーーーツッ!」
怪人は奇声を発するとそのまま突進した。そして左手の鋏でライダーの首を断ち切らんとする。
「そう来るか」
二号ライダーはそれを見て言った。そして右の鞭も振るう。
「見切った!」
ライダーはその鞭をかわした。そして怪人の後ろに回り込んだ。
「タッ!?」
怪人は慌てて後ろを振り向こうとする。だが間に合わなかった。
「遅いっ!」
ライダーは振り向いたその首に手刀を出した。
「ライダァーーーーチョーーーーーーップ!」
それは怪人の首を直撃した。鈍い音がした。首の骨を叩き折られた怪人はその場に倒れ爆発した。
「ライダー、そこにたんですか」
そこへ役もやって来た。
「怪人は僕がやります。貴方は鋼鉄参謀を!」
「わかった!」
役はその場に駆け込むとライダーに襲い掛からんとしている戦闘員達に対して拳を振るった。ライダーはその間に鋼鉄参謀のところに行く。
「来たな、仮面ライダー二号よ」
彼はライダーが目の前に来たのを認めて言った。
「ああ、インド以来だな」
ライダーも彼の前に来て言った。
「あの時の借り、一日たりとも忘れたことはない」
彼は右手に巨大な鉄球を掲げながら言った。
「そうか。こちらも貴様のことを忘れたことはない」
二号は身構えて言葉を返した。
「ならば話は早い。あの時の借り今ここで返してやろう」
そう言うと鉄球を投げ付けた。
「フンッ!」
ライダーは上に跳びその鉄球をかわす。そして懐に飛び込んだ。
「なんのっ!」
鋼鉄参謀は鉄球から手を離した。そしてその鋼の拳で殴りかかって来る。
「クッ!」
二号はその拳を手の甲で振り払う。そして逆に掌底を浴びせようとする。
「フフフ、またそれで来るつもりか」
鋼鉄参謀はそれを見て笑った。侮蔑した笑みであった。
掌底が直撃した。次々と胸を撃つ。だが彼は一向に苦にしない。
「甘いな」
彼は余裕の笑みで笑った。
「そうか、衝撃に対しても耐えられるようになったな」
二号はそれを見て言った。
「そうだ。再改造を受けたのは何も貴様等だけではない」
彼は高笑いをしつつそう言った。
「あの時の敗戦から俺も学んだのだ、全ては貴様を倒す為にな」
「そうか」
二号はその拳をかわしながら言った。
「あの時は貴様に遅れをとった。だが今度はそうはいかん」
そう言うと鉄球を引き戻した。
「死ねいっ!」
そしてその鉄球を再び二号に対し投げ付ける。
「トゥッ!」
二号は上に跳んでかわす。そして上から鋼鉄参謀に襲い掛かる。
「ムンッ!」
鋼鉄参謀は二号の膝蹴りを受け止めた。そして空中に投げ返す。
「止めだあっ!」
そしてそこに再度鉄球を投げ付ける。それは唸り声をあげ二号に襲い掛かる。
「させんっ!」
二号はそれを蹴った。鉄球はその衝撃で主に対し襲い掛かる。
鋼鉄参謀はそれを右手で受け止めた。そしてその衝撃を見事受けきった。
「俺を誰だと思っている。この程度の衝撃など何ともないわ」
彼は受け止めた鉄球を下に下ろして言った。
「だが二号ライダーよ、今日のところはこれで終わりにしてやる」
彼は二号に対して言った。
「何っ、どういうことだ」
二号は鋼鉄参謀に対して問うた。
「そうか、どうやら戦いに気を取られ周りに気付かなかったようだな」
「周り!?」
彼は辺りを見回した。
「ム・・・・・・」
見れば周りは雪に覆われている。激しい吹雪が彼等の間に舞う。
「この状況ではお互い満足には戦えまい。俺は双方に不利の無い万全な状況で戦いたいのだ」
「何故だ!?」
二号はその言葉に対して問うた。
「俺は貴様に敗れた。その借りは戦って勝つことで返してやる」
彼は二号を睨み付けて言った。
「だがそれは万全の状態である貴様を倒してこそ意味があるのだ。そうでなければこの鋼鉄参謀の名折れだ」
「誇りというわけか」
「そうだ、俺は誇り高き黄金魔人の子孫、偉大な先祖の名にかけて卑劣な所業はせん」
彼は先祖の名を言う時微かに胸を震わせた。
「また会おう。そしてその時こそ貴様を倒す」
鋼鉄参謀はそう言うとその場をあとにした。後には二号が残った。
「去りましたね」
そこに役がやって来た。どうやら戦闘員は皆倒してしまったらしい。
「ああ、今のところはな」
二号は鋼鉄参謀が立ち去った方を見て言った。
「だが次に会う時はこうはいかない。おそらく互いに命をかえkた決戦になるだろうな」
「はい」
二人は吹雪舞う雪原の中次の戦いに思いを馳せていた。
「そうか、次で決めるつもりか」
鋼鉄参謀の基地に来たメガール将軍は彼の話を聞き頷いた。
「そうだ、今度こそ二号ライダーを倒す」
彼は胸を張ってそう豪語した。
「そうか、期待しているぞ」
将軍はそれを聞いて頷いて言った。
「うむ。しかし」
参謀はその言葉に機嫌をよくした後で尋ねた。
「どうした?」
将軍はそれに対して問うた。
「どうしたのだ、お主は今日はえらく親切ではないか」
「そうか」
メガール将軍は少ししらばっくれるような態度で言った。
「私は普段とは変わらぬ。だがお主のその考えはわからぬでもないのだ」
「そうか。お主もスーパー1と決着をつけねばならぬのだったな」
「・・・・・・・・・」
将軍はその言葉に対しては答えなかった。
「済まん、気を悪くしたか」
鋼鉄参謀はそれに気付き謝罪した。
「いや、そうではない。私もあの男と決着をつけねばならないのは本当だしな」
彼はまなじりを決した表情で言った。
「だからこそお主のその考えもわかるのだ。だが油断はするな」
「うむ、必ずあの男を倒す」
彼は再びそう言った。
「出撃は明後日だ。それまでは英気を養っておく」
「そうだな。次の戦いに備えておくのもよかろう」
将軍はそう言うと一息置いた。
「それではお主の武運を祈り私から送りたいものがある」
「贈り物?何だ」
彼はそれに対して問うた。
「これだ」
メガール将軍はそう言うと右手をスウッと上げた。すると後ろから怪人達が現われた。
「その者達か」
鋼鉄参謀は彼等を見ると言った。
「うむ。是非役立ててくれ」
将軍は彼等の方に顔を向けて言った。
「・・・・・・済まぬな。有り難く使わせてもらう」
彼はメガール将軍に対して礼を述べた。
「礼には及ばん。だが必ず勝つのだ。私が言いたいことはそれだけだ」
彼はその低い声で言った。
「わかった。今度会う時には二号の首を見せようぞ」
「うむ、期待しているぞ」
メガール将軍はそう言うとその場を後にした。鋼鉄参謀も怪人達を引き連れ部屋を後にした。
明後日一文字と役はとある湖のほとりにやって来た。
「鋼鉄参謀、いるか」
一文字は叫んだ。
「おう」
すると鋼鉄参謀が姿を現わした。
「果たし状のあった通りここに来たぞ」
一文字は彼を見据えて言った。
「うむ、よくぞ我が申し出に応じてくれた。感謝するぞ」
彼はそう言うと右手を上げた。すると怪人と戦闘員達が姿を現わした。
怪人は三体いた。ゲルショッカーのヘドロ怪人ウツボガメスとデストロンの軟体怪人ハンマークラゲ、そしてネオショッカーの胞子怪人キノコジンである。
「メガール将軍、有り難く使わせてもらうぞ」
彼は怪人達の方を見てそう呟いた。
「一文字隼人、いや仮面ライダー二号よ」
彼は一文字に向き直り言った。
「今日こそ貴様を倒す、この誇り高き鋼の身体にかけてな」
「面白い、その言葉喜んで受けよう」
彼は一歩前に出て言った。
「俺も敗れるわけにはいかない。この世に悪がある限りな」
そう言うと変身の構えをとりだした。
変・・・・・・
右手を肩の高さで横に伸ばす。そして左手は肘を直角に曲げ右手に水平にする。
そしてそれを右から左に大きく旋回させる。
身体が黒いバトルボディに覆われる。胸は緑になり手袋とブーツは赤くなる。
・・・・・・身
両手を左に持って来た。左手は肩の高さで肘を直角に上げる。右手の肘も直角にし胸と水平にする。その両拳は固く握り締めている。
顔の右半分がダークグリーンの仮面に覆われる。そして左も。全身を光が覆った。
「トォッ!」
そして天高く跳んだ。鋼鉄参謀達の前に着地した。
「行くぞ、鋼鉄参謀!」
二号はそう言うと突進する。
「おお、望むところだ!」
鋼鉄参謀もだ。そして湖のほとりでの戦いがはじまった。
戦闘員達に対しては役が向かった。二号は怪人達と対峙する。
「さあ、来い!」
彼は怪人達に対して言った。
「ファァァァァァーーーーーーッ!」
ウツボガメスが叫んだ。その左手の爪を振るってくる。
二号はそれをかわした。そして間合いをとる。
しかし怪人はそれを見てニヤリ、と笑った。何とそのウツボの首を身体から分離させたのだ。
「何っ!?」
首が飛んで来た。そして二号の喉笛に襲い掛かる。
「させんっ!」
だが二号はそれを拳で弾き返した。怪人の首はその胴に戻って行く。
今度は身体を丸めてきた。そして高速で突進してくる。
「カメの能力か。伊達にゲルショッカーの改造人間であるわけではないな」
二号はそれを見て呟いた。
「だが俺もゲルショッカーとの死闘を潜り抜けてきた。本郷と共にな」
彼はあの死闘を思い出していた。ショッカー壊滅後ゲルショッカーが現われた。彼は南米でゲルショッカーの怪人達と戦い続けた。
そして南米のゲルショッカーを壊滅させると日本に戻った。最早ゲルショッカーで機能しているのはブラック将軍が率いる日本支部だけだったからである。
そこにはショッカーライダー達がいた。彼は本郷と力を合わせこの難敵を打ち破った。
そして彼は日本各地を転戦した。ゲルショッカーの戦力は壊滅状態となり最後にはブラック将軍自ら作戦にあたった。
吸血怪人ヒルカメレオン。ブラック将軍の正体であるこの怪人はその卓越した知略により本郷を絶体絶命の窮地に陥れる。
その危機に彼は現われた。関西のゲルショッカーを壊滅させた彼は関東に戻っていたのだ。
そして本郷を救い出しブラック将軍を倒した。そして遂に首領の最後を見届けたのだ。
その彼にとってゲルショッカーの怪人もまた戦い慣れた相手であった。彼は迫り来る怪人に対して身構えた。
「来いっ!」
ウツボガメスは突進して来る。二号は跳んだ。
だが速い。怪人はまだ来てはいなかった。
「ファァァァァァァァーーーーーーッ!」
怪人は笑っていた。そのまま反転し着地したライダーの背を狙うつもりであった。
しかしライダーは彼の予想を超えていた。速かったのだ。
「喰らえっ!」
二号は空中で回転した。そして真下に急降下する。
「ライダァーーーーーキィーーーーーック!」
怪人はその真下にいた。その蹴りが甲羅を打ち砕いた。
怪人は爆死した。二号はそれから逃れ着地する。
そこに別の怪人が来た。キノコジンである。
「キュゥルルルルルルルッ!」
叫び声をあげる。そして口から胞子の霧を吐き出した。
二号は後ろに跳んだ。だが怪人はそこに体当たりを敢行する。
「さっきのやつと似たような戦法だな」
彼はそれを見て言った。
「だが少し違うようだな」
どうやら体当たりを浴びせるだけではないようだ。それから接近戦に持ち込むつもりらしい。
「ならば望むところだ」
彼は身構えた。そしてその体当たりを受け止める。
怪人は予想通り拳を振るってきた。二号はそれを的確に防ぐ。
拳を大きく振り被った。どうやら一気に決めるつもりらしい。だが大振りになったところで隙が生じた。
「今だっ!」
二号はその拳をかわした。そして懐に飛び込み投げ飛ばした。
怪人は地面に叩き付けられる。ライダーはそこに拳を加えた。
「ライダァーーーーーパァーーーーーンチッ!」
それは怪人の胸を直撃した。キノコジンは息絶え爆発した。
残るはハンマークラゲだけである。怪人は右手のハンマーを分銅にして振り回している。
そしてそれを二号に打ちつけんとする。しかし二号も速い。その身のこなしをもってかわす。
懐に飛び込む。そして拳を浴びせる。
しかし効いていないようだ。怪人は怯むことなく襲い掛かって来る。
「そうか。どうやらこいつには生半可な攻撃は通用しないな」
彼の身体は特殊であった。柔らかい身体がダメージを吸収するのだ。
ライダーは考えた。こういう時にはどうすべきかを。
「ならばっ!」
彼は跳んだ。そして楔状に高速回転した。
「ライダァーーーースクリューーーーーキィーーーーーーック!」
本来は一号の技である。だが再改造と特訓により新たに身に着けたのだ。回転しながら蹴りを放った。それは怪人の胸を直撃し刺し貫いた。
「クラァーーーーーーーーッ!」
怪人は断末魔の絶叫をあげた。そして先の二体の怪人と同じく炎の中に消えた。
「やはりな。普通の怪人ではライダーを倒せぬか」
鋼鉄参謀はその爆発を見ながら言った。
「鋼鉄参謀、残るは貴様だけだ!」
彼は爆発を背に身構えて言った。
「面白い、望むところだっ!」
鋼鉄参謀も身構えた。白夜の湖のほとりで今両者の最後の闘いがはじまった。
まずは鋼鉄参謀が拳を振りかざす。二号はそれを横にかわす。
拳は続けざまに来る。だが二号はそれをその抜群の動きでかわす。
鋼鉄参謀は二号を掴もうとする。だが彼はその手を逆に取った。
そして背負い投げで投げる。投げ飛ばされた怪人は受身を取り衝撃を無効化する。
「ライダー・・・・・・」
そこに役がやって来た。戦闘員達はあらかた倒してしまった。彼の援護に来たのだ。
しかし彼はその闘いを見て動きを止めた。彼が間に入るにはあまりにも激しく凄まじい闘いであったからだ。
鋼鉄参謀はそのパワーで力押しにかかる。二号はスピードで対抗する。
両者の手がぶつかった。そして力比べが始まった。
「グググ・・・・・・」
双方共引かない。鋼鉄参謀が力自慢なのに対して二号もまた『力の二号』と呼ばれている。その力と力が今ぶつかり合っているのだ。
それは続いた。両者共その持てる力を出し合った。
二人は一歩も引かない。互いを睨みつつ力をぶつけ合う。
先に力が緩んだのは鋼鉄参謀であった。僅かに膝が緩みそこで姿勢を崩した。
二号は一気に力を入れた。鋼鉄参謀はその身体を大きく崩した。
「今だっ!」
二号は彼を押さえ付けた。そしてそのまま天高く跳んだ。
「ライダァーーーーースクリューーーーブロッオオオックゥーーーーーーーーーッ!」
鋼鉄参謀の手を取り駒状に高速回転する。そしてそのまま投げ飛ばした。
これもまた一号の技である。改造と特訓が彼に一号に匹敵する技を与えていたのだ。
参謀は地面に叩き付けられた。激しい衝撃が地面に走る。
「グハアアアアア・・・・・・」
彼は呻き声をあげた。身体の各部分から煙が生じる。
「やりおるな。これ程の衝撃を受けてはさしもの俺も持ち堪える事は出来ん」
彼は起き上がりながら言った。
「これは本来一号の技だった。だが俺はこの技を再改造と特訓で身に着けたのだ」
二号は彼に対して言った。
「フフフ、そうか。道理で前のきりもみシュートよりも威力があった筈だ」
鋼鉄参謀は不敵に笑って言った。
「二号ライダーよ、俺の負けだ。見事な技だった」
「そうか」
二号はその言葉をそのまま受け止めた。
「この俺を倒したことは褒めてやる。貴様は見事な戦士だ」
「有り難う。貴様も見事だった」
二号は言葉を返した。
「見事か。フフフ、最高の褒め言葉だな」
鋼鉄参謀はそれを聞いて言った。
「これで心おきなく死ねる。力を出し尽くしたしな」
煙がさらに噴き出した。彼はもう限界に達していた。
「さらばだ。ライダーよ。今度会う時は地獄だ」
そう言うと倒れた。そして大爆発が起こった。
「終わりましたね」
それを見届けた役は二号の側に駆け寄って来た。そして彼に対して言った。
「ああ。敵ながら見事だった」
二号はその爆発が消えていくのを見ながら言った。そして戦いは終わった。
「そうか、死んだか」
メガール将軍は鋼鉄参謀の戦死の報を自身の基地の中で聞いていた。
「ハッ、立派な最後であったそうです」
報告に来た戦闘員の一人が言った。
「そうか、なら良い。あの男も本望であろう」
彼はそれを聞いて呟いた。
「最後の最後まで真っ向から戦いそして死んだのだからな」
そして彼のことに思いを馳せた。
「私もいずれはあの男と雌雄を決せねばならん。あの男の心がわかるような気がする」
「・・・・・・ですか」
戦闘員はそれを聞いて答えた。
「うむ、私とてドグマで兵を預かっていた男だ、それに・・・・・・」
彼はそこで言葉を止めた。
「私もまたあの男に勝たねばならんのだ」
そう言うと話すのを止めた。
「左様ですか」
戦闘員はそれ以上聞こうとしなかった。そして将軍はその部屋を後にした。
白夜の魔神 完
2004・3・31
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