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ソードアート・オンライン ~仮面の鬼人~

作者:綾織吟
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2話 一閃

戦闘が開始してから十数分、戦局はやや苦戦状況にあった。
第一の問題はケルベロス特有の特徴と言ってもいい物だった。頭が3つあると言う事は死角がほぼ無いと言うことなのだ。このゲームに視界の制限があるのならば視点が3つもあるケルベロスに死角が無いと言うことになる。
次にあの獰猛さからなかなかプレイヤー達を寄せ付けなかった。包囲したところでそれが解決することは無く、ただ体力を消費するだけだった。
三つ目に、スピードが高い事が問題だった。あれはまさしくハンターだ。包囲する物のすぐにプレイヤー達を振り払い、次々にプレイヤーを襲っている。
そして一番厄介なのがヒーリング能力だ。正確には後方にある壺だ。ダメージを受けてはプレイヤーをなぎ倒して後方に下がって壺にな言った何かをむさぼり食っている。壺を破壊しようとする物なら逆に潰される。
プレイヤー達は撤退を強いられ始めていた。
幸いなことに死者こそは出ていないが、アイテム消費量は徐々に増えて行っている。
「退け! ここは一旦退くんだ!」
軍の一人がそう声を上げた。それを聞いた軍の連中は転移アイテムを使ってその場から姿を消した。
確かに判断は誤ってはいない。しっかりと対策を考えれば勝てない相手ではないのだ。
ギルドに所属していた連中も続々と離脱を開始し始めた。
「……」
だが、俺が離脱することは無かった。
「おい! お前も一旦退け!」
バンダナを付けた紅髪の男がそう声を掛けてきた。男は戦国風の姿をしており、腰には刀が帯刀されていた。
「……逃げたかったら逃げろ……負けたつもりで居ればいい」
「そんなこと言ってる場合じゃねーだろ!!」
格好付け、そう思える言いぐさだろう。だが、一度挑んだものに退くことは許されない。どちらかが死ぬまで戦うのが道理なんだ。
「おい、クライン!」
ギルドメンバーだろうか、HPバーの所に同じメークが表示された奴がそう声を上げた。この場所に残っているのは俺と戦国風の姿をしたギルドの連中のみだった。
「ああ、分かってる! お前も一旦退け、いいな」
バンダナの男はそう言って転移アイテムでその場を後にした。
この場所に残ったのは俺一人、到底太刀打ちできる相手では無いと言うことはよく知っている。だが、不思議と平然と居られた。
俺は手にした打刀をカチンッと鞘に納め、居合の体勢を取った。
ソッと手柄に手を添え、体勢を低くして構えた。
「グオオオオオッ!!」
猛スピードで襲いかかってくるケルベロス。だが、俺は動じること無く構えていた。
その時、俺の脳裏に一つのモーションが浮かんだ。
深く踏み込み、すれ違い様に切る居合切り。
第一の抜刀術、ソードスキル「一閃」だ。
「……斬る」
襲い来るケルベロス。だが俺には恐怖が無かった。
地面を蹴り、駆けだした。
そしてケルベロスが俺に襲いかかる直前、俺は自分でも認識できないような速度で加速した。そして打刀を鞘から抜き、ザッと切った。
黒のエフェクトを纏った打刀が振るわれた。迸る黒の閃光、ザッと荒い音が一瞬し、一閃が煌めいた。
そしてケルベロスの背後にあった壺も一閃が起きると共に破壊され、俺はその背後に着地した。
ケルベロスの四段あるHPバー1つ半も削られ、大きな悲鳴を上げた。
大きな隙が出来たケルベロスに俺は追い打ちを掛けた。
ザシュッ! ザシュッ! と打刀を振るい、切り続けた。
だが、早々うまい話が続くこと無く、体力を半分ほど削ったところで敵は立て直した。
俺はバックステップを踏み、一旦下がった。
ケルベロスが体力を回復することはもう無い。だが、さっきより獰猛さが増していた。
「冥界の番犬は俺を冥界に連れて行けない……だからここで斬られろ」
俺はもう一度打刀を納刀し、居合の構えを取った。
ケルベロスは撹乱のつもりか、ダッダッ! と音を立てながら辺りを走り始めた。足は速く、捉えるのは難しい。
だが、不思議とケルベロスが遅く感じた。
俊敏を上げ続けた今までの苦労が実を結んだとも思えない。だが、不思議と遅く感じたのだ。
「……」
心を静め、耳を澄ませば自然と敵の位置が分かった。世間では心眼とも言われる物なのだろうが、これは聴覚による位置把握と心を静めた事による精神統一が成した物なのだろう。
背後から襲ってきたケルベロスに対しても体が自然と動き、受け流し様に打刀を抜き、斬り付けた。
何度も襲い来るケルベロスだったが、俺は完全な攻撃に転ずること無く受け流し様に攻撃を続けた。
臆病な戦い方。そんなことは分かっている。だが、もっとも効果的な戦い方を選んだのだ。
「…………これで終わらせる」
納刀した状態で俺は一閃の構えをした。
煌めく黒の閃光、迸る一閃の黒の光は一瞬にして終わり、ケルベロスはポリゴンとなって散った。
カチンッ、と刀を鞘に収めた。
俺の目の前にはラストアタックボーナスのアイテムウインドウが出現した。
そのウインドウには「ナイトブレスレット」と表示されていた。
「俺一人でも戦ってやるさ……」
その姿はまさしく鬼人、仮面を被った鬼人だ。



その後、次の攻略戦にて抜刀術を見せた俺に「仮面の鬼人」と言う二つ名が付いた。 
 

 
後書き
え~っと……すみません。まず先に謝罪させていただきます。
これを読んでくださった方は恐らくですが、リクルートさんの「偽りを本物へ」のザンテツケンを思い浮かべたと思います。ですが、これは決してパクリでも引用でもありません。
そしてダメージが異様に大きいと思った方も居たかもしれませんが、攻撃のタイプとしては溜が大きく、後の隙が大きいという物で、ある程度のデメリットもあるという設定にさせていただきます。
それに加えて、抜刀術の為の際は一歩も動くことが出来ないという欠点があるので、チートではありません。
今後出していく技にも何かしらのデメリットを加えていきたいと思いますので、あえてチートとは言いません。
それでは、また次話でお会いしましょう。 
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