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エターナルトラベラー

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第七十六話

正史編纂委員会東京分室。

ここは甘粕冬馬の直属の上司が居る所である。

上司の名前は沙耶宮馨(さやのみやかおる)

まだ高校生と言う身分で室長の地位に着く男装の麗人である。

「さて、リア充真っ盛りの甘粕冬馬さん。報告と言うのはいったい何なのだろうか。君のただれた性生活については是非とも拝聴したい所ではあるが」

「何を言っているんですかっ人聞きの悪い事は言わないでください」

(かおる)の言をあわてて否定する甘粕。

「おや、違いましたか。毎日毎日うら若き女子高生の家に上がりこみ夕飯をご一緒していると言う噂を聞いたのですがね」

「ぐっ…貴方が監視させているのでしょう。それに馨さんが想像なされるような華々しい事はありませんよ」

ユカリが護堂を(くだ)してから、彼女の監視に就いていた調査員がことごとく気絶させられて寒空の下で発見された。

一応派遣された彼らとて一流の下程度には穏形の法を心得ている。

しかし、彼らは気がつかれない内に気絶させられていたと報告を受けた甘粕は自分でおもむく事になる。

だが、甘粕でさえも黒歴史に封印してしまいたい出来事が起こる。

気配を消してユカリが家へと入った事を見届けた甘粕は以前にポジショニングした監視場所へと移動しようとして後ろからユカリに声を掛けられたのだ。

「甘粕さんですね」

「おやおや、ユカリさん。奇遇ですな」

と、おどけて答えてみせる甘粕だが、自分に気配も悟らせない人間の出現に息を呑む。

しかも自分は確かにユカリが家に入る姿を見届けたはずなのに、だ。

自分でもそれなりに能力の高い方だとは思っていた。

しかし、自分の半分にも満たない年の少女に後ろを取られ、声を掛けられるまで気がつかないとは…

これは黒歴史だろう。

「ふふ。そう言う事にしておきましょう。私なんかの監視のためにわざわざおもむいてくれるとは、うれしい限りですね」

「うれしい、ですか?」

「ええ。どうせアテナが帰るまで監視するつもりなのでしょう。どうせなら家で夕飯を食べていってください。……手料理を作って待っているご家族や恋人がいるのなら無理にとは言いませんが」

「いえ、私にそう言った方は居ませんよ。一人身が寂しい独身貴族ですな」

「そうですか。では是非いらしてくださいな」

甘粕は考えるが、力量が上の存在からの招待を断れるほどの勇気は無かった。

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

と、その後夕飯を一緒に取り、アテナが帰るのを見て帰宅するのだが、甘粕以外の監視が付くとまた気絶させられて捨てられているのである。

そして甘粕が監視に着くとユカリは甘粕を夕食に招待するのだ。







「華々しくないとは…あれですか?ユカリさんの手料理がひどく不味く、口に入れるのもはばかられるほどなのに、自分の口からは言い出せないヘタレな主人公のような状況とか?」

「それはそれで美味しいシチュエーションでしょう。それに彼女の料理のレベルは既に三ツ星レストランを超える領域です。あの料理が食べられるなら、私は寒空の下での監視にも精が出ると言うもの」

この時馨は思った。この男、すでにユカリに胃袋を掌握されている、と。

これは面白い事になりそうだ、とも。

「では何がそんなに不都合なんですか?」

「まつろわぬ神と同席しての食事なのですよ?気の休まる所が有りません」

「なるほど。アテナの威厳に萎縮してしまっている、と」

「ええ。まぁ、最近のアテナはどうにもユカリさんに懐いたのか、単に餌付けされたのか、態度が柔らかくなってきてはいますがね。恋愛シミュレーションなら無表情期が終わり弱デレ期に差し掛かったと言う所ですね。この傾向を持つキャラは総じて幼児体型、ソプラノボイスと言った感じのキャラ設定に多いのですが、まさにアテナはハマリ役ですな」

それは見ていて微笑ましいと甘粕は言った。

「ほうほう、それは後で詳しく聞きたいね。…しかし、今は報告を聞こうか」

さてさて、バカ話もここまでと馨の表情が真剣な物に変わる。

「最初からそうしてくださいよ」

と、愚痴を言ってから甘粕も話し始める。

「デヤンスタール・ヴォバン侯爵が来日されたと言う情報が入りました」

それを聞いて馨の表情はさらに険を増す。

「目的はなんだろうね?」

「かの御人は血気盛んな性格だと伺った事がありますな」

「まつろわぬアテナかい?だが、それは情報を改ざんし、草薙護堂によって放逐されたと流布したはずだけど」

「ですな。しかし、可能性は0では有りません。今のところ一番可能性が高いのはまつろわぬアテナとの闘争。後の事はまだ分かりかねます」

馨は面白そうに口角をあげる。

「最近はこの国も物騒になってきたものだね」

「楽しそうに言わないでいただきたい」

「はは、ごめんよ。しかし、これはどうした物か。アテナと坂上紫には報告した方がいいのかな?」

「それがよろしいでしょうな。アテナはユカリさんがいる限りこの国で自ら戦いにおもむく可能性は低いでしょう。とは言え、ヴォバン侯爵がアテナに襲い掛かればその範疇では無いでしょうが…」

「その時はその時に考えようか。まつろわぬ神とカンピオーネを制御できるなんて傲慢な事は言える立場じゃないしね、僕たちも。それにアテナが討たれればそれはそれで僕たちの案件が一つ減ると言うもの」

「…ですな。…では、今晩それとなくお二方に注意をしてきましょう」

「ああ、何だかんだ言っても今日も行くのだね…そこの所はやはり掘り下げて聞いておかないといけないな」

「…おや、急用が入りましたので御前失礼させていただきます」

と言った甘粕は音も無く退出して言った。

「逃げられたか。しかし、これはまたからかう楽しみができたね」

と、悪魔のように呟く馨だけが残った。




六月も終わりに近づいたある日。

いつものように甘粕を連れ込んだユカリの家。

夕食が終わり、食後のティータイムを楽しんでいた時、甘粕がユカリに対して話があると切り出した。

「デヤンスタール…えっと?」

「ヴォバンです。一般的にはヴォバン侯爵と言われています。世界に7人しか居ない魔王のお一人ですな」

サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン。

通称ヴォバン侯爵はカンピオーネの一人であり、すでに200年を生きる怪物だ。

その間に屠ったまつろわぬ神は、イギリスにある賢人会議を持ってしても容易には知れない。

「そのヴォバン侯爵がどうしたんですか?」

「バルカン半島辺りを根城に持つ方なのですが、どうやら最近来日されたようです」

「へぇ、そうなんですか。ですが、それが私に何か関係あるのですか?」

「ヴォバン侯爵は血気盛んで戦闘に飢えていると聞きます。四年前などはまつろわぬ神を招来させて滅ぼそうとしたらしいです」

いやはやマッチポンプですな、と甘粕は苦笑いをしながら話した。

結局他のカンピオーネに横取りされてしまったらしいのですがと甘粕が言う。

「……つまり、おぬしは妾とユカリが神殺しの標的になると言っておるのか?」

話題がカンピオーネの事であったがゆえアテナは少し興味を持ったようだ。

「その確率は低くないかと…」

なるほど、とアテナ。

「私は面倒な事は勘弁して欲しいのだけれど…特に生死が掛かっているような物は…私はあの子を産むまでは死ねないわ。いえ、産んだからと言って死にたくは無いのだけれど」

ユカリの発言にクエスチョンマークが浮かんでいる甘粕。

「またそれか。それは人間で言う妄想の類ではないのか?そろそろ現実を見て生きても良い頃合だと妾は思うぞ」

と、まつろわぬ神に諭されているユカリ。

「えー?信じてくれないんだね、アテナは」

「未来視の能力は自分には無いと言っていたではないか。それでは考えうるユカリの症状は妄想であると妾は答を出したのだが…もしくは今はやりの『ちゅうにびょう』と言うやつであろう」

「むぅ…養ってくれる人さえ見つかれば今すぐにでも仕込むのだけれど」

「ユカリさん。女子高生が仕込むなんて言ってはいけません。女子高生の三年間は今しか無いのですから。大人など時間が経てば誰でもなれるのですよ」

と、甘粕も諭す。

むー、と膨れながらユカリは鼻を曲げる。

「甘粕さんが協力してくれれば一年後には結果が分かる事なのだけれど、まあいいわ」

今、甘粕は自身にとって何かスルーしてはいけないフラグが有った気がしたのだが、話題を変えたユカリに問いただせずに終わる。

「そのヴォバン侯爵ってどう言う力の持ち主なの?もしも…本当にもしも戦う事になってしまったら、相手の事を知っている方が何かと有利だし、対策も考えられるのだけれど」

「それに関しましてはいくつかの能力は有名ですからお教えできるのですが、彼がいったい何人のまつろわぬ神を屠ったのか、正確な数は分からないものですから、全てをお教えする事は出来ません」

「それでも構いませんよ」

「そうですか」

それから甘粕から語られたヴォバンの権能は4つ。


貪る群狼《リージョン・オブ・ハングリーウルヴズ》

死せる従僕の檻

疾風怒濤《シュトルム・ウント・ドランク》

ソドムの瞳


「ソドムの瞳だったかしら?睨むだけで人を塩柱に変える魔眼。それが一番厄介ね。他の能力はまぁ、何とかなるでしょう」

と、話を聞いたユカリが言う。

「問題は射程距離ね。アテナ、あなたの石化の魔眼って射程はどのくらいなの?」

「ふん。妾の力を持ってすれば視界に収まる全てを石に変える事も可能よな」

「うわぁ…キロ単位かぁ…もしも相手がそれまでの射程を持っていたら打つ手は無いわね。会敵した瞬間塩になってお終い。まぁ、脳と腕を一瞬で塩化されなければ助かる事も可能だろうけれど…」

「草薙さんをあっさりと打倒した貴方にしては弱気な発言ですな」

と、甘粕。

「魔眼は強力よね。プロセスの一切を省略し、見る、睨むだけで効果を発揮するのだもの。大抵の場合向き合った瞬間終わっているわよ」

アテナの石化をレジストできたのは幸運だったわとユカリ。

「仕方ない。ユカリに妾の加護を授けてやろう」

「へ?」

突然のアテナの申し出にユカリは驚いた。

「おぬしが何処で死のうが妾は構わぬ。しかし、妾に勝った人間が、そんな間抜けな死に方をしたとなってはおぬしに負けた妾の恥ゆえな」

アテナは自然体でユカリに近づくとおもむろにその唇を押し当てる。

どこに?

当然ユカリの口にだ。

アテナはそのままユカリ口を蹂躙し、口から体内に自分の神力を流し込む。

「うっんんっ…」

ユカリの体の中に何か熱いものが入ってくる。

唇を離すとつつーと唾液の橋が架かり消えた。

「はぁ…はぁ…あ、…アテナ、今のは?」

「妾の加護を与えてやったまでの事。これでソドムの瞳で塩化する事はあるまい」

「それは…ありがとう」

はっ!?と、甘粕が居た事を思い出し、視線を向ける。

「いやいや、私は何も見ていませんよ」

甘粕は何事も無かったような雰囲気で紅茶を飲んでいたが、実は甘粕に視線が向く前に懐にしまったデジカメには今の光景を写真に収めていた。

「そ、そうでうよねっ!甘粕さんは何も見ていません」

「ええ」

そんな感じで、厄介事などユカリは来なければいいと願いつつ、夜は更けて行った。



東京の街を一人の少女が何か探すように歩いている。

銀髪をポニーテールにまとめた外国人の少女だ。

リリアナ・クラニチャール。

出生はイタリアで、魔術結社『青銅黒十字(せいどうくろじゅうじ)』に所属する騎士だ。

エリカと同年代で、何かにつけてエリカと比較されたりする事も多いが、実際同年代で彼女と実力が拮抗しているのはエリカくらいのものだろう。

そんなリリアナがなぜ日本なんかに来ているのか。

それはリリアナがヴォバン侯爵の騎士として近くに(はべ)っているからである。

そんなリリアナがヴォバン侯爵に命令された事は二つ。

まつろわぬアテナと万里谷祐理の捜索だ。

アテナはともかく、なぜ万里谷祐理を探すのか。

それは星のめぐりで数ヵ月後にまつろわぬ神を招来する儀を執り行える。万里谷祐理の巫女としての素質は高く、彼女を基点とすれば本来なら何百と言う巫女を用意しても不可能に近いまつろわぬ神招来などと言う儀式も少しの労力で行えるだろうと言うヴォバン侯爵の思惑ゆえだ。

リリアナの心境としては親しい仲ではないが旧知の人物である祐理を捜索するよりもアテナ捜索を優先したい所だった。

本来の物語ではリリアナにアテナを探し出せと言うような命令は出されなかっただろう。

しかし、ユカリがアテナを封時結界内で倒してしまった。

カンピオーネとまつろろわぬ神の戦いは回りに被害がつき纏う。

であるのに、今回日本に被害らしい被害は出ていない。

アテナの権能で街に闇が広がり光が奪われると言う超常現象が報告されていたが、それだけだ。

アテナと戦闘を行ったにしては余りにも被害が少なすぎるのだ。

そのためヴォバンはまだまつろわぬアテナが日本に滞在しており、どこかの組織が隠蔽しているのではと考えたのだ。

見つかればよし、見つからねば祐理を使い自ら神の招来を行うのでヴォバン侯爵にしてみたらついでのようなものだったのだが…

それにしてはリリアナ・クラニチャールが優秀すぎた。

かすかなアテナの神気を頼りに、魔女であるリリアナの霊視と言うあやふやな能力も今回はプラスに働き、今リリアナはユカリの家の前まで来ていた。

おそらくこの家はまつろわぬアテナとなんらかの関係がある。そうにらんでリリアナは遠くから監視を続けると、アテナが来訪したではないか。

家の中で何をしているのか。二時間ほど待っていると突如としてアテナの神力が去るのを感じた。

アテナは何かをしにここにやって来て、そして去った。

この事をヴォバン侯爵に報告するか否か。

逡巡したリリアナだが、カンピオーネの前で虚偽を報告する勇気はリリアナには無かった。

ヴォバン侯爵の所まで戻り、詳細を説明するとヴォバン侯爵は色めき立つ。

「案内せよ。すぐに行くとしよう」

「はっ。しかしながら(こう)。すでにアテナは去ってしまわれましたが」

「その家に住むものはアテナと関係を持つのだろう?ならばそいつに聞けばアテナが何処に居るか分かろうものよ。分からねば八つ裂きの末アテナの供物として捧げてやろうではないか」

リリアナはヴォバンの暴君ぶりに自身の正義感を汚される思いだったが、逆らえるはずも無く、結局リリアナはヴォバンを案内する。


時間にして夜の10時と言った頃。

ユカリはアテナと甘粕を送り出した後、今日学校で出された宿題を片付け、後は入浴して睡眠と言った感じの時、並々ならぬ気配を家の外に感じた。

その直後、玄関の扉を破り20匹ほどの狼が家を破壊しながらユカリの元まで駆けて来てユカリを取り囲む。

どう見ても普通の狼ではない。

狼はユカリを見ると、その四肢に食らい付かんばかりに飛び掛った。

『ラウンドシールド』

レーヴェがユカリの周りにバリアを展開する。

狼は突然現れたバリアに激突するも、狼は突進をやめない。

「ありがとう、レーヴェ」

『問題ありません』

突然の襲撃。しかも狼は躊躇い無くユカリの四肢をもぎ取りに掛かった。

…つまり相手はユカリを殺す気で来たのである。ヴォバン侯爵にしてみれば、四肢が欠損しようがしゃべれれば問題なし。たとえ死んでしまったとしても特に感慨は無かっただろう。

ユカリとしては逃げるか、それとも戦うか選択しなければならなかった。

逃げるだけならばおそらく封時結界内に逃げ込めば簡単だ。

アテナからですら逃げきれたのだ。この世界の人間が感知できるとは思わない。

しかし、相手は自分の家に襲撃をかけてきたのだ。

つまり、逃げるのは良いが、逃げたら二度とここへは戻って来れまい。

少しの間考えて、ユカリは戦う事に決めた。

もちろん死ぬかもしれないと言う恐怖はある。

理不尽に命を奪い、奪われる事を目の前で見てきた過去を持つユカリ。だから、これも理不尽な事の一つなのだろうと割り切る。

ユカリに何か落ち度があった訳ではない。

相手が相手の都合でこちらを襲ってきただけの事。

理不尽には抗わなければ奪われる。

ユカリは直ぐに戦闘態勢を整える。漆黒の竜鎧を纏い、二丁の銃剣が現れた。

ユカリは相手がおそらく甘粕から聞いたカンピオーネでは無いかと推察していた。

貪る郡狼…狼を使役するカンピオーネ。

神やカンピオーネに念能力は通じにくいとアテナ、護堂との戦いでユカリは学んだ。なので今回は最初からガンブレイドを握り締めている。

ガンブレイドに魔力刃を纏わせ、目の前の狼を切りきざむと絶命した狼は塵となって消えていく。おそらく生身の生物では無いからだろう。

狼を始末し終えるとユカリは襲撃者を探すべく玄関から外へと飛び出した。

幸いな事に夜も10時を過ぎており、住宅街には人の気配が少ないのは幸いか。

玄関を出ると、道路に一人の初老の男性が立っていた。

その脇には狼を従えている。

「おやおや、中々勇ましいお嬢さんだ。この私に恐れずしてかかって来る者など久しく居ないな」

「いきなり襲われる謂れは私には無いのだけれど」

「それはすまなかったな。まつろわぬアテナが出入りしているのだろう?おとなしくアテナの居場所を教えよ。さもなければ…」

「あら、教えたら引いてくれるのかしら?」

「ふむ、考えるとしよう。ああ、しかし、おぬしとの闘争も暇つぶしくらいにはなりそうだ。最近私は闘争に飢えていてね。分かるだろう?カンピオーネが真に高ぶるのはまつろわぬ神との闘争だけだ」

「いや、知りませんし、私に関係の無いことですね。それと私はアテナの居場所は知らないわ。アテナに会いたかったら明日の夕方に出直してきてくれないかしら」

「ふむ、まことに残念なことだな。無駄足となればおぬしを殺したあとゆっくりアテナを待つ事としよう」

だめだ、こいつにはもはや常識も倫理も持ち得ない。

自分の欲望が第一で周りの雑事は気にかけない。

強い力を持つものが良く見せる歪みの一つの典型だろう。

「そうですか…では貴方も命を懸けてくださいね。自分の命を奪いに来た人間に情けをかけるほど人間出来ていませんので」

アテナとの戦いはまぁ…きっちり首をはねた上で蘇生されたのだ。殺した上で甦るなんて非常識にはどうやって対処すればよいのか。

アテナはその後、戦闘行為を控えていてくれるから助かっているのだが…

しかし、甘粕から聞くに手前のカンピオーネと呼ばれる存在も殺して死ぬような存在では無いらしい。…けして死なないと言うわけでは無いらしいが、生き返っても不思議ではないそうだ。

「はははははっ!ただの人間が言うではないか。では存分に私を楽しませろ」

それが戦闘の合図だった。

ヴォバン侯爵の周りに血の気の引いた人影が突如として4体現れる。

死せる従僕の檻。

ヴォバン侯爵の権能の一つ。自分が殺した人間の魂を拘束し、死後も隷属を強いる。現れた従僕は生前の能力を幾ばくか引き継ぐらしい。

死者の尊厳を奪う力にユカリは嫌悪感を覚える。

ヴォバン侯爵が従僕を呼びつけた瞬間ユカリは封時結界を使用し、辺りを結界で現実から切り離す。

「ほう、結界か何かで私を閉じ込めたか」

もうユカリは相手の問答に答えない。話し合いで解決をはかる時間はすでに終わったのだ。

ユカリは駆け、従僕の四人を切り裂き、滅した。

「ほう、やるではないか」

塵に還った従僕を特に感慨も無くうろんな視線で見つめ、役立たずと侮蔑するような表情で次の従僕を呼び出した。

ユカリに向かってきた従僕は生前に比べればその動きは緩慢で、ユカリの力量を考えればまだ問題は無い。しかし、その物量に剣での突破は難しかった。

ヴォバン侯爵は笑いながら、腕の一本でも塩に変えてやろうと虎の瞳を輝かせる…が。

「む?神の加護に弾かれたか。存外アテナはおぬしを気に入っているようだな」

ソドムの瞳で塩化させようとしたヴォヴァン侯爵の呪力はアテナの神力によって弾かれたのだ。

ならばとさらに従僕を呼び出し、狼もけしかける。

「レーヴェっ!」

『ロードカートリッジ』

ガシャンと薬きょうをロードする。

『フリーズバレット』

剣術で相手をする事を諦め、ガンブレイドの引き金を引き打ち出された弾丸は着弾と同時に従僕と狼を凍らせる。

念能力で風と水を操るユカリだが、古代ベルカに転生する事により得た魔力変換資質。それは『凍結』であった。

両のガンブレイドから打ち出される無数のフリーズバレット。

見る見るうちに従僕達が凍結していく。

弾丸はついに従僕達を殲滅しヴォバン侯爵へと殺到する。

ヴォバン侯爵には驕りも有っただろう。今まで自分の呪力で無力化できなかったものなどまつろわぬ神か神獣の攻撃くらいしかなかったのだから。

当然ヴォバン侯爵に避けるなどと言う選択肢は無かった。

が、それは傲慢と言うもの。

着弾したそれは呪力などものともせずにヴォバン侯爵を凍らせにかかる。

「ぬ?うおおおおおぉぉぉぉぉぉっぉっ!」

着弾した後も撃ち続けるユカリの魔法は着実にヴォバン侯爵の表層を凍らせて行く。

ユカリはヴォバン侯爵が全身凍りつくのを確認するとチャンバーをスライドし入れ替える。

そのユカリの攻撃が止ったとき、ヴォバン侯爵の氷像は内側から膨れ上がり巨大な人狼が現れた。

「なめるなあああああああっ!」

人狼に変態し、激昂するヴォバン侯爵。それは狼の遠吠えに良く似ていた。

ヴォバン侯爵の感情の高ぶりで空に嵐が吹き荒れる。

『レストリクトロック』

「ぬっ!?」

突如とした現れた光るキューブがヴォバン侯爵の四肢を拘束する。

アテナ、護堂と封じ込めた物だ。そう簡単には打ち破れまい。

ユカリは飛びのいて距離を取ると砲撃の準備を開始する。

『ロードカートリッジ・ディバインバスター』

右手のガンブレイドが二発カートリッジをロードする。

「ディバイーーーン、バスターーーーッ!」

「なめるなと言っているっ!」

先ほどの攻撃がレジスト出来なかったヴォバン侯爵は焦り、死せる従僕と貪る郡狼を次々に呼び出し、自らを防御させる。

ユカリの砲撃とヴォバンの従僕達。それは一見均衡を得ているように見える。

さらにヴォバン侯爵は嵐から落雷を呼び寄せユカリを攻撃した。

落雷による攻撃は、その速度は途轍もなく速い攻撃であり、回避が難しい。…しかし、それは例えばアオが使うタケミカヅチのように、何も無い虚空から突然雷が現れた場合だろう。

しかし、今回ヴォバン侯爵はまずその権能により風が吹き荒れ、雷雲が上空を覆っている。この状態で落雷による攻撃を想定しないほどユカリは弱くない。

『ラウンドシールド』

上空からの落雷をバリアでガードするが、しかし。ディバインバスターに力を裂きつつ落雷をガードするユカリは、砲撃に使う魔力を防御に裂かれ、途端に劣勢に陥る。

だが、ユカリにとってこの攻撃は囮であったのだ。

二人から離れた上空。

そこに魔法陣を展開し、すでに儀式魔法の詠唱を済ませていたもう一人のユカリの姿があった。

玄関を出るときに影分身で分身し、その分身をヴォバンにけし掛け、空に上がり必殺の一撃の用意を済ませていたのだ。

「悠久なる凍土 凍てつく棺のうちにて 永遠の眠りを与えよ」

『エターナルコフィン』

振り下ろされたガンブレイドの先から放たれる凍結の魔法。

それは無防備なヴォバン侯爵になんの障害も無く着弾する。

「ぬっ!?ばっばか………」

末期のセリフすら全て言えないままに頭部から凍結していくヴォバン侯爵。

呪力によるレジストは現象としての凍結に対応する事敵わず、ヴォバン侯爵は数秒で氷柱へと姿を変えていた。

表層を凍らせるのではなく、今度は体組織の全てを凍らせているのだ。それは完璧なる死だろう。

影分身の方のユカリは貪る郡狼と死せる従僕の檻によって召喚された彼らのすべてを駆逐した後、魔法を収束させる。

氷柱へと変貌したヴォバン侯爵ではあるが、どうやらまだ彼は死んだわけではないようだ。

氷柱が砕け散り、燃え上がりながら氷を溶かし、バラバラに崩れ落ちるとそこから再び巨大な狼が現れる。

死後、オートで発揮される蘇生の類の能力があったのだろう。

ヴォバン侯爵の前方に居る影分身のユカリは油断無く構える。

「ふっ…小娘にしては中々やるな。…だが、今のでも私を殺す事は叶わない。どれ、今度は此方の番だな」

ヴォバン侯爵は直ぐに嵐を操ると上空にいるユカリと目の前のユカリへと雷をぶつける。

雷の落下速度は楽に音速を超える。

見えたと思った瞬間にはすでに着弾しているのだ。ヴォバン侯爵が本気で操った雷は四方から降り注ぎ、常人ならかわしようが無いだろう。

「なんだ…少しはやるものと思ったのだが、やはりただの人間か…」

地面は抉れ、落雷のあったあたりは焼け焦げている。しかし、一瞬レーヴェの防御魔法の発動が速かったのか、地面に居るユカリは何とか防御魔法で凌いでいた。

それを見たヴォバン侯爵は気色ばむ。もっと楽しませろ…と。

しかし、絶対的な強者の驕りか。矜持と言えば良い様に聞こえるかもしれないが、彼はいつも心の何処かに慢心がある。

「む?」

ヴォヴァンは嫌な気配を感じ振り返る。するとそこには全くの無傷のユカリの姿が遠くに見えた。

空中から凍結魔法を撃った彼女も実は影分身だったのだ。本体のユカリはヴォバン侯爵からは死角になる背後のビルの屋上に陣取り魔法を起動していた。

上空に居たユカリはさっきの雷で消えてしまったが、ユカリはまだ罠を張っていたのだ。

「そう何度も奇襲が成功すると思うなっ!…ちぃ!?」

『レストリクトロック』

しかしやはりバインドによって拘束されるヴォバン侯爵。雷による攻撃で地面に縫い付けられながらも影分身のユカリがヴォバン侯爵を拘束したのだ。

「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け!石化の槍、ミストルティン!」

落雷によるけん制は実はかなり難しい。何故ならその速度ゆえに止っているもの以外は狙いを付けづらいのだ。さらに直射されてくるユカリの魔法に当て相殺する事もまた不可能だろう。

飛んでくる拳銃の弾を自分の拳銃の弾で打ち落とせる奴が居るだろうか?…写輪眼や神速を使えるアオやソラなら出来るかもしれないが…

空間を認識し、落下地点を決め、呪力を行使し、実際に落雷する。落雷はそれこそ一瞬だったとしても、その前にユカリの攻撃は着弾するだろう。

ヴォバン侯爵はもはや直感で従僕達を顕現し、己を守る。

しかし、ユカリの放った石化の魔法は途中で幾つもに分裂し、従僕達をすり抜けてヴォバンに着弾した。

「なっ…んだと…!?」

先ほどからユカリが使っていた魔法が直射だったからだろうか。まさか分裂するとは思わなかったヴォバン侯爵はあっけないほど簡単に石化する。

ユカリは復活を警戒し、その杖を下げない。

ヴォバン侯爵のオーラは目減りしていた。無限に復活できるのか、どうなのかは分からないが、オーラを大量に消費するタイプの技だろうとあたりをつける。

で、あれば復活できなくなるほど殺すまでだ。

ユカリは再び影分身をして魔力を集束する。

しかし今回は変化が起きた、従僕達が今度は塵にならず、光となって天へと上っていったのだ。

その後、ヴォバンの足元からも多数の光が天へと還る。

それはヴォバンの権能のくびきからようやく抜け出すことが出来た魂の輝きだった。

今度こそヴォバン侯爵は復活をすることなく沈黙した。

「っ…はぁ…まったく、次から次へと…面倒はこれっきりにして欲しいわ」

ユカリは警戒のレベルを下げると影分身を回収し、この石像を庭へと移動させると一応バリアを張り、封時結界を解除して家の中へと戻った。




リリアナ・クラニチャールは主の蛮行を離れた所から見ていた。

貪る郡狼が家を破壊しながら突き進み、家人を連れて出てくるだろう。

しかし、その予見は外れる。

進入した狼を皆殺し、悠々と出てきた漆黒の騎士。

彼女がいくつかヴォバン侯爵と会話をした後、二人とも突然に忽然と姿を消したのだ。

リリアナはヴォバンの何かの権能なのかと考えた。

カンピオーネに常識は通用しない。想像を超えた能力を持っていたとしても不思議ではないのだ。

十数分の時間が過ぎて突如監視していた家の庭に大きな人狼の石像が現れた。

傍らには件の黒い騎士が立っている。

ヴォバン侯爵の姿は見えない。

何処に行った?まさか彼女はヴォバン侯爵から逃げおおせたのだろうか?

いや、とリリアナは目を閉じ首を振った。

現実を見ろ。突然現れたあの人狼の石像は何だ?

いや、リリアナは既に答を出している。

あれがヴォバン侯爵だ。

「あり…えない…」

それでも自然と声が漏れる。

残虐非道な振る舞いで他者を圧倒し、暴虐の限りを尽くしてきた魔王が石化している!?

しかし、魔王である侯爵があの程度で本当に死んでいるだろうか?

ヴォバン侯爵に仕える騎士としては命を賭して助けに行く場面であろう。しかし、リリアナには命を賭しても成功するとは到底思えなかった。

なぜなら魔王を打倒した存在が健在なのだから…

それも外傷などはほとんどない。

一瞬で甲冑が解除されその中から出てきた少女はどこもダメージを負っておらず、黒い髪をなびかせて家に入っていく一瞬、リリアナは彼女と視線が合った。

気付かれたっ!

そう思った時リリアナは飛翔魔術で夜空をかけてその場を離れた。

結局そのままリリアナは日本を去りイタリアへと戻る。

しかし、日本で見たことに関しては口をつぐむ事に決めた。

魔王すら打倒する少女に要らぬ恨みを買わぬ為に。



次の日の夜、いつものようにユカリの家にやって来た甘粕は庭に信じられないものを見た。

「あの、これはもしかして…」

「ふん、神殺しもたいした事もないのだな」

と、先に来ていたアテナが鼻を鳴らして答えた。

「御身が打倒せしめたのでありましょうか」

と、甘粕がアテナに問いかける。

結構な時間をこうしてユカリの晩餐で顔を会わせて来ていた二人だ。礼儀を失さなければ甘粕の言葉もアテナに耳に届くようになっていた。

「いや、妾が来たときには既にこのようになっていた」

そうアテナが答える。

「と言う事は…ユカリさん…でしょうね」

「当然よな」

改めて甘粕が料理中のユカリに問いかける。

「あの、ユカリさん。庭のあの石像なのですが…」

「ああ、あれですか。…昨日お二人が帰った後にやって来たんですよ。えっと、何侯爵でしたっけ?」

「ヴォバン侯爵ですな」

「そう、その人です」

それで?と甘粕は促した。

「ほぼ問答無用で私を殺しに来たので、返り討ちにしました」

「…………」

その言葉に甘粕は絶句する。

「正当防衛だと思いたいのですがどうでしょう?過剰防衛になりますか?」

「いえ、確かの彼の御人の性格とカンピオーネの脅威を考えれば正当防衛…に、なりますか?」

甘粕も言葉を濁した。

「えっと…それで、庭のあれは石化したヴォバン侯爵で間違いないのでしょうか?」

甘粕はそれにも驚愕する。カンピオーネの呪力耐性を突き破って石化させたのだ。

魔術師では到底出来る事ではない。

「そうですね。えっと、元に戻せとかですか?」

と、ユカリ。

「いえいえ、まさかっ!今石化を解けば間違いなく暴れ周り、周囲を飲み込み破壊する事でしょう」

勘弁してくださいと甘粕。

「そうですか。それは良かったです。…解除は不可能なので」

「そうなんですか…」

現象として石となり、既に変質しているのだ。それをもう一度元に戻せと言っても難しい。

「…死にましたか?」

「さあ、私には分かりませんね」

「あの石像から魂を感じない。この石ころはもはやただの抜け殻よな」

冥府の女神でもあるアテナのお墨付きが出た。

「すみませんユカリさん。急用が出来まして、今日はこれで失礼させていただきますね」

「え?夕ご飯は要らないんですか?」

「ユカリさんの夕ご飯はとても魅力的なのですが、…少々仕事が立て込んでいまして。今日は顔を見せて帰る予定だったのですよ」

と、即興で言い訳をする甘粕。

「そうですか。残念です。明日はご一緒しましょうね」

ユカリも嘘と分かって話を合わせる。

「ええ、是非に。それではおやすみなさい」

と、そう言って甘粕はそそくさとユカリの家を辞し、外に出ると直ぐに携帯電話を取り出す。

自身の上司に連絡する為だ。

これはかなり頭の痛い問題になると、今から胃が痛くなる甘粕だった。


正史編纂委員会東京分室。

そこには甘粕に呼び出された沙耶宮馨(さやのみやかおる)が一人で甘粕の到着を待っていた。

ガチャリと扉が開き、甘粕が入室する。

「内密な急用と言う事で、今は僕しか居ないのだけど、それは僕のデートの時間をキャンセルをしてまで報告しなければならない事なのかい?」

馨の軽口に甘粕は真剣な表情を崩さない。

「ヴォバン侯爵がお亡くなりになりました」

「………どっち?」

この時間…アテナがユカリの家を訪れ、甘粕が監視に行っているはずの時間にそんな事を聞かされればおのずと犯人が絞れると言うもの。

それ故に「どっち」だ。

「ユカリさんです。どうやら昨日、私どもが帰ってからヴォバン侯爵が戦闘を仕掛けたようですな」

「それで返り討ち?」

「ええ。見事に石化していまして、私も一瞬彫像かと思いました程で…」

「石化…ね。よくもまぁカンピオーネを石化させれるものだね。もはやユカリさんを人間のカテゴリに入れてよいか疑問に思う…。もう一度聞くけれど確かにヴォバン侯爵は亡くなったのかい?」

「ええ。アテナのお墨付きをいただきました」

「なるほど…ね。…いやぁ…これは確かに緊急事態だね。どういう風に事を収めるかが問題だよ」

「そうですな…幸いなのはまだ誰もヴォバン侯爵が亡くなったと気付いてな点。それと…石化していたと言う点ですな」

「…アテナに擦り付けるつもりかい?」

「まつろわぬ神と戦って力及ばず負けた。これがベストではないかと…」

甘粕がこれらの隠蔽を提案する。

「実際私は直接草薙さんを打ち破る所を拝見しましたが、魔術師ですらカンピオーネに打ち勝てる存在は居ないのですよ。まつろわぬ神に負けた…そこが落としどころとして適当では無いかと思いますが」

「仕方ないね。どの道ヴォバン侯爵の不在は時間と共にバレるのだから、その方向で調整するよう努力しようか。しばらくは君にも休まずに調整の任務に着いてもらわないといけないね」

「……残業手当くらい欲しいものですな」

「はは、そこは因果な仕事だと思って割り切ってよ。それにしても、本当に最近は次から次へと神やカンピオーネで頭が悩まされるね」

「魔王を擁する国として当然の苦労とは思っていましたが…さすがにこの結果は予想外の連続ですな」

「本当だよ…」

二人はため息をついてヴォバン侯爵死亡の報の真実の改ざんに取り掛かるのだった。







翌日の放課後、甘粕は七雄神社に祐理経由でエリカ、護堂を呼び出した。

「昨日のヴォバン侯爵来日の知らせから一日しかたっていないのだけれど。呼び出したって事はなにか進展があったのかしら?」

と、エリカが吹っ掛ける。

「はい。なかなか困った事になりました」

「へぇ、あなた達の手に負えなくてわたし達に手を貸して欲しいと?」

「ある意味ではイエスであり、ある意味ではノーです」

甘粕の曖昧な答えにエリカが目を細める。

「実はヴォバン侯爵が身罷られました」

「うそっ!?」
「そんなっ!?」

驚いたのはエリカと祐理。

「えっと、そのヴォバンって爺さんが死んだって事か?」

護堂が二人とはテンションが違うトーンで聞き返した。

「ええ。それはもう見事な石柱でしたなぁ」

「アテナにやられたっていうの!?」

「まさか私共もカンピオーネの最後を報告しなければならなくなるとは…」

と、エリカの問いに甘粕がかぶりをふって答えた。

護堂はカンピオーネでも死ぬんだな程度にしか感じていない。

何故なら、最近悪さをしていないアテナを襲い、その果てに殺されたのなら自業自得であるからだ。

その後、報告は以上だと帰る甘粕をエリカは一人で追いかけ、問いかける。

「…それで?本当はどうなのかしら?」

本当は?と言うくらいだからエリカはユカリが降したのではと疑っている。いや、ユカリの方が可能性が高いのではとさえ思っている。

「事実はヴォバン侯爵が石化して亡くなっていた。それだけですよ」

「そう…そうなのね。分かったわ、わたしの方でもその線で話を流布させれば良いのよね?」

頭の良いエリカは言葉の裏に含まれた事実を的確に認識した。

「はい、お願いします。いやぁ、これからの事を思うと胃が痛い思いでして…」

「…本当ね。…本当に彼女とは距離を取って、絶対に護堂を近づけないようにしないといけないわね。前回の事は護堂も謝ったし、彼女も水に流すと言っていたのだけれど、それは相手が殺しに来たわけじゃ無い…からなのよね。
自分を殺す相手に容赦は無い。そしてカンピオーネすら石化させる事が出来る力を持っている。…今の護堂では確実に殺されるでしょうね」

「さて、私には何を言っているのか分かりかねますな」

と甘粕はとぼけてその場を辞した。

「坂上紫、絶対に手を出してはいけない存在…ね」

そう言ったエリカの呟きは風に乗って消えた。
 
 

 
後書き
今回でユカリ無双もひと段落。次回はおそらく主人公が登場します。
あまり原作キャラの死亡とかはやらない方向で話を作りたいのですが、カンピオーネ!じゃ無理かな…カンピオーネの暴虐さやまつろわぬ神のそのまつろわぬ性を考えると向こうから勝手に襲ってきそうです…ヴォバン侯爵はその典型ですね。スルー不可で向こうから喧嘩売ってくる奴ばかりですよねカンピオーネ!って…
今回の話は魔法が何処まで効くかと言う話ですかね。レジストってきっと大事なんだと思います。どんな攻撃もレジスト出来なければ必殺足りうるんじゃないかな… 
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