仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜
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摩天楼の悪魔
「フフフ、この街の栄華もこれが最後だ」
聳え立つ高層ビルを見下ろしつつ何者かが笑った。
「デェーーーストロンで果たせなかった我が望み、今ここで果たしてやろうぞ」
ヨロイ元帥であった。そのオレンジの鎧と白いマントを夕陽に輝かせている。
「おそらくあの男もこの街に来るだろう」
そう言うとニヤリ、と笑った。
「決着を着けてやろう」
彼は風の中に姿を消した。そして摩天楼は夕闇に包まれていった。
ニューヨークはアメリカのみならず世界の経済の中心地として知られている。高層ビルが立ち並びスーツを着たビジネスマンが街を行き来している。
それだけではない。この街は多様な顔も併せ持っている。
ビジネスマンが行き来するウォール街や国連の本部の他にはかってスラム街と呼ばれ恐れられたサウスブロンクス、高級住宅街やニューヨークヤンキースの本拠地ヤンキーススタジアムもある。俗にニューヨーカーというが文化の発信地でもある。
この街に一人の青年が来ていた。結城丈二、ライダーマンである。
「おそらくこの街にもバダンは暗躍しているだろう」
彼はその鋭い洞察力で彼等の行動を予測していた。
「問題は誰が何をするかだ」
彼はかってツインタワーがあった場所を見上げて言った。世界貿易センターはタリバンの飛行機を使ったテロにより完全に破壊された。多くの犠牲者を出した忌むべき事件であった。
「テロを仕掛けて来る可能性が高いな。連中がよくやることだ。しかし・・・・・・」
彼はそこで思案を巡らせる速度を速めた。
「タリバンと同じことはしないだろう。それでは何をしてくるかだ」
彼はそう言うとヤンキーススタジアムへ向かった。
ニューヨークには二つの球団がある。メッツとこのヤンキースである。両方共日本人プレイヤーにより日本においても有名な球団であるが特にこのヤンキースは古い歴史を持ち熱狂的なファンで知られる。
結城はそのスタジアムの三塁側に座った。彼は特にアメリカの野球に詳しいわけでも興味があるわけでもない。ただここである人物と待ち合わせをしているのである。
「おう、待ったか」
日本語で誰かが声を掛けてきた。壮年の男の声である。
「いえ、今来たところですよ」
彼は声のした方を振り向いて微笑んだ。
「そうか、ならいいんだが」
声の主は立花であった。
「じゃあ行くか」
「はい」
スタジアムに着いてすぐだが二人はすぐにスタジアムを後にした。
「まずは何か食うか」
「はい。じゃああそこに入りましょう」
二人はハンバーガーショップに入った。ありふれた話であるがマクドナルドである。
「やっぱり日本のやつとは味が違うな」
立花はハンバーガーを頬張って言った。
「そうですね。アメリカのハンバーガーの方が大味に思います」
結城も一口食べつつ言った。
「まあボリュームがあるからいいか。しかしアメリカ人ってのはよく食うよな」
彼は店の中で食べるニューヨーカー達を見ながら言った。
「まあ身体の大きさも違いますしね。それに日本人は結構少食らしいですよ」
「ああ、それは聞いたことがある。わしはそうでもないがな」
立花は笑って答えた。
「おやっさんは少し食べ過ぎじゃないんですか」
彼は苦笑して言った。
「何言ってる、悪い奴等と戦う為には体力が必要だろうが」
立花はそう言って反論した。
「ですね。それじゃあ行きますか」
結城はハンバーガーの最後の一片を口に入れ終え言った。
「おい、わしはまだ食べてるぞ」
立花はデザートのアップルパイを頬張りながら言った。
店を出た二人は街を歩いていた。高いビルが連なっている。
「連中はここで何をするだろうな」
立花はビルを見上げながら言った。
「そうですね、まあタリバンの二番煎じはないでしょうが」
結城は先程見た貿易センタービルの跡地を思い出しながら言った。
「だろうな。しかしもっととんでもないことを考えてそうだな」
立花は口をへの字に曲げて言った。
「このニューヨークはビルも人も多いですからね。テロをやるには最適ですよ」
「おいおい、あまり物騒なことは言うなよ」
見れば警官達もパトロールしている。
「疑われたら厄介だからな」
「大丈夫ですよ、FBIやインターポールには話がいってますから」
結城は微笑んで答えた。
「といってもしょっぴかれればそれだけ時間食うだろ。その間が命取りになるぞ」
「心配性だなあ、おやっさんは」
「生憎伊達に歳をとってるわけじゃないんでな」
その時遠くから何か騒ぎが聞こえてきた。
「何だあれは」
「何かのパフォーマンス・・・・・・とかじゃないですね」
結城はその騒ぎ声が歓声ではなく絶叫であることを聞いて言った。
「行ってみよう」
「はい」
二人はすぐに現場に向かった。
現場では爆発事故が起こっていた。
「マンホールが爆発したようだな」
立花は事故現場を見て言った。
「はい。そうみたいですね」
結城も現場を見て言った。
「おい丈二、これはかなり匂うぞ」
立花は結城に顔を近付けて言った。
「はい。怪しいですね」
ここで一文字や城ならば冗談の一つでも言うところだろうが結城は違った。素直に頷いた。
「行くぞ」
立花は顔を引き締めて言った。
「はい」
結城はそれに頷いた。二人は姿を消した。
二人は別のマンホールをこじ開けて中に入った。そして下水道を進む。
ニューヨークの下水道は複雑に入り組んでいる。それはまるでラビリンスのようであった。
入り組んでいるだけではない。危険も多い。豊富な栄養で大きくなった鼠や捨てられた鰐等もいるのだ。
二人は暗いその危険に満ちた地下迷宮を進んでいた。結城は既にライダーマンに変身している。
「気をつけろよ」
立花はライダーマンに対して言った。
「はい。何があるかわかりませんからね」
ライダーマンは答えた。そして事故現場へ向かった。
あと数分で辿り着こうというその時だった。不意に水路から何かが現われた。
「やはりっ!」
出て来たのはショッカーの毒ガス怪人トリカブトである。
「ガガガッ」
怪人は奇声を発しながら右手を伸ばして来た。
「成程、右手が伸びるのか」
ライダーマンは立花を後ろに下がらせそれをかわした。
「ならばこちらも右手を使おう」
彼は腰からアタッチメントを取り出しそれを右手に装着した。
「パワーアーム!」
彼は右手にパワーアームを着け怪人に向かった。トリカブトはその長い右腕を振ってきた。
「確かに長い武器は有利だ」
彼は横から来るその右腕を見ながら言った。
「だが長いぶん防御が手薄になる場合がある」
彼はそう言うとパワーアームを上から下へ一閃させた。
「ガガッ!」
パワーアームは怪人の右腕の蔦を切断した。怪人は思わず叫び声をあげた。
しかしトリカブトの武器はそれだけではなかった。今度は口から緑色の液体を噴き出した。
「危ないっ!」
ライダーマンはそれを上に跳びかわした。そして上にあったパイプにしがみ付き下を見る。
「植物の怪人は溶解液を備えているものが多い」
彼は落ち着いた声で言った。
「かって俺が改造した多くのデストロンの怪人達もそうだった」
彼がデストロンの科学者として開発した多くの兵器と怪人達。そのことは彼にとって忘れられない原罪となっている。
「だからこそその戦法や戦闘力についても熟知している」
彼はそう言うと下へ向けて跳び降りた。
「そしてその弱点もな」
パワーアームを再び一閃させた。そして怪人の頭を切った。
怪人は水路へ落ちようとする。だがライダーマンはアタッチメントを換えた。
「そこへ落とすわけにはいかない」
彼は大型のアームを装着して言った。
「グレネードアーム!」
それで怪人を撃った。怪人は四散し煙となって消えた。
「それが新しいアームの一つか」
立花は消え去った怪人とその初めて見るアームを見て言った。
「はい、海堂博士達に新しく取り付けて頂いたものです」
ライダーマンはアタッチメントを直しつつ立花に対して言った。
「またすげえ威力だな、おい」
「はい、正直俺も驚いてます」
彼は顔を引き締めて言った。
「しかしバダンを相手にするにはこれ位じゃないと。他のライダー達もかなりパワーアップしましたしね」
「ああ。そういう御前も全身を改造したんだろう?」
「・・・・・・はい」
彼は少し暗い顔をして答えた。彼は今まで右腕の多くの部分は人間であった。だが今回の強化改造でその全身を改造したのだ。
「バダンに勝つ為に。さもないと世界は闇に覆われてしまいますから」
「そうか」
立花はそれ以上言わなかった。悪ある限り戦う、そう宿命付けられたライダー達の苦しみと悲しみは誰よりも知っているからだ。
「行きましょう、怪人が出て来たってことはおそらく大きな作戦を考えていますよ」
「そうだな。それが奴等のやり方だ」
二人は再び事故現場へ向かった。そして現場に到着した。
「これは・・・・・・」
事故現場は煙に包まれていた。どうやら爆破されたらしい。所々崩れ落ち火が点いている。
「爆弾テロか。よりによって」
ライダーマンは怒気を含んだ声で言った。あの事件以降ニューヨーク市民達はテロに対して極めて敏感になっていることを知ってのことだとわかったからだ。
「ここまで残忍なことをする奴といえば・・・・・・」
何人か考えた。地獄大使に百目タイタン、ドクロ少佐等か。だが彼等ではないと思った。
(もしかすると・・・・・・)
ある人物が脳裏に浮かぼうとする。その時だった。
「イィーーーーーーッ!」
煙の中から戦闘員達が現われた。そしてライダーマン達に襲い掛かる。
「やはりいたかっ!」
ライダーマンは彼等を倒した。そしてアタッチメントを装着する。
「ドリルアームッ!」
怪人がいると予想していた。そしてそれがどういうタイプの怪人かも。
やはり怪人が現われた。ジンドグマの火焔怪人火焔ウォッチである。
「ウォーーーーーッチ!」
怪人はライダーマンの前に出ると絶叫した。
「やはりな。爆弾を操る機械怪人だったか」
ライダーマンはその怪人を見て言った。
「ならば話が早い。行くぞっ!」
ライダーマンはドリルアームを手に突進する。火焔ウォッチも動いた。
両手を針時計に変えてきた。そしてそれでライダーマンを打とうとする。
しかしライダーマンはそれを素早い動きでかわした。そして怪人の懐に潜り込んだ。
「喰らえっ!」
怪人の胸にドリルを突き立てた。丁度左胸の時計を刺し貫く。
「ギギイイイイイッ!」
怪人は絶叫した。そして後ろに倒れた。
ライダーマンはドリアルアームを引き抜いた。そして後ろに跳び退いた。
「決まったな」
怪人は爆発した。ライダーマンはそれをクールな様子で見守っていた。
「やったな、おい」
立花が戦闘員の最後の一人を倒し終え言った。
「ええ。おやっさんも腕は鈍っていませんね」
「当たり前だ、この日の為にずっと鍛えていたんだ」
彼は拳を振って言った。
「それは有り難いですね。頼りにしてますよ」
「おい、任せとけ」
そう言った時だった。目の前の煙の中から声がした。
「フフフ、だが所詮は我等の前に無残に死ぬことになる」
「何っ!」
立花はその声に振り向いた。
「やはりな・・・・・・」
ライダーマンはその声を聞いて呟いた。彼はその声の主を片時たりとも忘れたことはなかった。
「フッフッフ、久し振りだな、立花藤兵衛よ」
ヨロイ元帥が白い煙の中から姿を現わした。
「ヨロイ元帥、この爆発は御前の仕業かっ!」
「フッフッフ、いかにも」
ヨロイ元帥は立花の言葉に不敵に笑うながら答えた。
「丁度いい再会の場の演出になったようだな」
「何言ってやがる、二度と会いたくないわ!」
「やれやれ、相変わらず威勢だけはいいな」
彼はそう言うと立花から視線を外した。
「貴様とは再会ではないのが残念だがな」
「フン、これが最後の出会いにしてやる」
ライダーマンはヨロイ元帥を激しい視線で睨んで言った。
「来い、この場所が貴様の墓場だ」
「まあ待て。ここでは戦っても面白くはない」
ヨロイ元帥はライダーマンを嘲笑、いや宥めるように言った。
「このニューヨークはそれに相応しい場所が多くあるというのにな」
「ほざけ、貴様は今すぐ倒してやる」
ライダーマンは激しい憎悪の光でもって彼を見る。ヨロイ元帥はそれを楽しんでいる。
「フフフ、相変わらず熱くなるときりがない奴だな」
「言うなっ!」
ライダーマンは叫んだ。
「貴様だけはこの手で倒す、それが今の俺の望みだ」
「フフフ、いい顔だ」
ヨロイ元帥は彼の顔を見て言った。
「何!?」
「憎悪に歪んだいい顔だ」
「クッ・・・・・・」
ライダーマンはそれを聞いて狼狽した。かって憎悪に燃え復讐鬼に過ぎなかったあの時を思い出した。
痛む右腕。自分の為に死んだ部下達。そしてヨロイ元帥に対する飽くなき憎悪。彼にとっては忌まわしい思い出である。
「俺は貴様のその憎悪こそが生きがいなのだ。憎め、もっと憎むがいい」
ヨロイ元帥はさらに続けた。
「そして心を憎しみに捉われるがいい。そして暗き世界に戻るのだ」
「何を・・・・・・!」
ライダーマンは激昂した。右腕にマシンガンアームを装填し射撃する。
「おっと」
ヨロイ元帥はそれに対しマントで身体を覆った。マントが銃弾を撥ね返す。
「これからが楽しみだ。このニューヨークを貴様の墓場に出来るのだからな」
「何をっ!」
ライダーマンの怒りは一向に収まらない。
「この街はもうすぐ死の街となる。そして俺の輝かしい武勲がまた一つ増えることになる」
そう言うとライダーマンを嘲笑しつつ顔を向けた。
「貴様にかって脅かされた武勲がな」
「まだ言うかっ!」
ライダーマンは跳びかかろうとする。だが立花がそれを制止した。
「待てライダーマン、落ち着けっ!」
彼はライダーマンの前に出てその動きを止めた。
「今の御前は頭に血が登り過ぎている。そんなことでは勝てはしないぞ」
「おやっさん・・・・・・」
ライダーマンは彼の言葉を聞き次第に落ち着きを取り戻してきた。
「フフフ、立花に救われたな」
ヨロイ元帥はその間に間合いを離していた。
「今日のところはこれでさらばだ。だがすぐに会うことになる」
そう言うと彼の足元から白い煙が現われた。
「その時が貴様の最後だ。楽しみにしているがいい」
彼はその煙の中に消えていった。
「行ったか・・・・・・」
立花はそれを見送って言った。そしてライダーマンに顔を戻した。
「心配するな、御前にはわしがついている」
「はい・・・・・・」
ライダーマンは落ち着きを完全に取り戻した声で頷いた。煙は消えそこは廃墟に戻っていた。
ヨロイ元帥はニューヨークの下水道の奥深くに設けた基地に戻っていた。そして自室でくつろいでいた。
「フフフ、デーーーーストロンの時とは違うぞ」
彼は豪奢な椅子に座り一人ほくそ笑んでいた。
見れば装飾も何も無い部屋である。暗闇の壁があり床にはバダンの紋章が描かれている。
「ライダーを倒せばバダンでの俺の地位は確固たるものになる。そうすれば大幹部筆頭になるのも時間の問題だ」
彼はニヤリ、と笑って言った。
「あの暗闇大使とかいう新参者にも吠え面をかかせてやる。精々あの瓜二つの従兄弟と仲良くやっていろ」
「どうやらいいことがあったようだな」
その時部屋に何者かの声がした。
「・・・・・・貴様か」
ヨロイ元帥はその声を聞くと憮然とした声で言った。
「貴様か、とは失礼だな。私にもちゃんとした名前はある」
それはブラック将軍であった。扉を開け中に入ってきた。
「フン、一体何の用だ」
「怪人を届けに来てやったのだ。そう邪険にするな」
「べつに邪険にはしていないが。それで注文通りの怪人だろうな」
彼は立ち上がって言った。
「当然だ。約束通りのものだ」
「そうか。ならいい」
彼はそう言うと歩き出しブラック将軍に背を向けて言った。
「このニューヨークでの作戦は何としても成功させねばならんからな」
「貴様の栄華の為にか?」
ブラック将軍は皮肉を込めて言った。
「・・・・・・否定するつもりはない」
彼は後ろを振り向いて言った。
「デーーーストロンもバダンもそれは同じ。強い者が生き残る世界だ」
彼は言葉を続けた。
「だからこそ失敗は許されんのだ。たとえどのような手段を使おうとな」
「フム、それには異論はない」
ブラック将軍はそれを聞いて言った。
「私もゲルショッカーで辣腕を振るった男。所詮世界は選ばれし者だけが生き栄えればよいのだ」
彼はそこで一旦言葉を切った。
「しかしな」
ここで口調が変わった。
「貴様とは少しやり方が異なる」
「フン、他人のやり方にまで口は挟まん」
ヨロイ元帥はそれに対して言った。
「俺には俺のやり方がある。俺は結果さえ良ければそれでいいのだ」
「・・・・・・そうか。貴様らしいな」
ブラック将軍はそれを聞いて言った。
「それでは私は帰らせてもらおう。約束通り怪人は届けたしな」
そう言うと踵を返した。
「待て」
ヨロイ元帥は彼を呼び止めた。
「何だ?」
将軍はその声に対し振り向いて尋ねた。
「怪人達はどのようにして復活させたのだ」
「何だ、そんなことか」
ブラック将軍は表情を変えずに言った。
「私のやり方でだ。そう言えばわかるだろう」
「・・・・・・うむ」
ヨロイ元帥はその言葉を聞いて頷いた。
「それでは吉報を期待する。私は本来の任務があるからな」
「ああ。わざわざ届けてくれて感謝する」
「礼には及ばん。それではな」
「うむ」
こうしてブラック将軍は基地を後にした。
「・・・・・・元ゲルショッカーの最高幹部たる自信か。堂々たるものだ」
ヨロイ元帥は彼が去った扉を横目で見つつ呟いた。
「だがそれだけではこの先生き残れん」
彼はそう言うとニヤリ、と笑った。
「世界は頭のいい者が生き残るように出来ているのだ。奴もいずれそのことを思い知るだろう」
そして床に描かれたバダンの紋章を見た。
「このバダンで最高の実力者になる日ももうすぐだ。俺の時代はすぐそこまで来ている」
彼はそう言うと再び笑った。そして闇の中に消えていった。
「フム、ヨロイ元帥が動いたな」
マシーン大元帥は自分の基地で椅子に座りながらモニターを見ながら言った。
「ハッ、既に手元にある全ての怪人達を出撃させたようです」
側に控える戦闘員の一人が報告した。
「あの男らしいな。戦力が揃ったらすぐに動く」
そう言いながらモニターを眺める。
「それも陰に隠れて狡猾にな」
そう言うと戦闘員へ顔を向けた。
「例の二人は動いていないか」
「ハッ、今のところ動きはないようです」
別の戦闘員が言った。
「そうか。今は様子を見ているというところか」
そう言うと椅子から立ち上がった。
「だが連中から片時も目を離すでないぞ。何か動きがあったらすぐに伝えろ」
「わかりました」
「動くなら動けばいい。しかし圧倒的な力の前には小細工など全く無意味なものだ」
彼はそう言うとモニターに目を戻した。そしてそれに映るヨロイ元帥の姿を見ていた。
ブラック将軍は自身の基地に戻った。そして配下の戦闘員達の挨拶を受け自室に戻った。
「どうだった、ニューヨークは」
そこへ何者かがやって来た。
「別に。これといっておかしなところはない」
将軍は声の方に振り向くこともなく壁に掛けられている地図を見た。全体的にロシア風の装飾が施された部屋である。
やはり彼の故郷であるロシアを思ってのことだろうか。
「そうか。てっきりあの男も動くと思ったのだが」
声の主が部屋の中に入って来た。一枚の巨大なスペードのエースのカードが部屋の中に現われそこから浮き出てきた。
「ならば俺も動く必要は無いな」
ゼネラルシャドウであった。彼は将軍の言葉を聞き満足気に笑った。
「あの男というのは誰だ」
ブラック将軍はそこではじめてシャドウに顔を向けた。
「言わずともわかっていると思うが」
「確かにな」
将軍はその言葉に対し頷いた。
「あの男は今オーストラリアにいる筈だ。わざわざニューヨークの作戦にまで介入するとは思えんが」
「普通に考えればな」
シャドウはトランプのカードを玩びながら言った。
「しかしあの男は伊達に改造魔人で最強の座にいたわけではない」
シャドウの声が脅威を覚えるようなものに変わった。
「貴様がそのようなことを言うとはな」
ブラック将軍はそれを聞いて目を光らせた。
「俺とて自分の力量はわきまえているつもりだ。あの男の力は尋常ではない」
「そうか」
「うむ。聞けばタイタンの奴も水面下であの男と色々と綱引きをしているそうだが」
「それは初耳だな」
ブラック将軍はそれを聞いて言った。
「死神博士とよく会っているというのは聞いたが」
「何っ、死神博士とか!?」
それを聞いてシャドウの顔色が変わった。普段の取り澄ました様子とは違っていた。
「そうだ。あの男のことだ。何か思惑があってのことだろう」
「ううむ・・・・・・」
シャドウはそれを聞き思案を巡らせた。
「あの男、一体何を考えているのだ・・・・・・」
彼はそれを聞き考え込んだ。
「私はそこまでは知らん。ただ二人が会っているという話だけは聞いた」
「そうか」
彼はそう言うとトランプを懐に直した。
「どうやら俺も動かなければならんようだな」
地図を見て言った。
「礼を言う。いいことを聞いた」
「何、礼には及ばん」
将軍はシャドウに対し言った。
「この程度は情報のうちにも入らん」
「貴様がそう思うならそれでいいが」
彼はマントを翻した。
「何はともあれこれで失敬させてもらおう」
そしてマントで全身を包んだ。
「マントフェイド!」
ゼネラルシャドウは何処かへ消えていった。ブラック将軍はそれを黙って見ていた。
「改造魔人の方も色々と動きがあるようだな」
彼はシャドウの消えた後を見ながら言った。
「私も作戦の準備を進めるとしよう」
そう言うと部屋を後にした。
結城丈二は立花と共にニューヨークを所々歩き回っていた。その目的はヨロイ元帥を探し出し倒すことだった。
「おやっさん、そっちはどうでした」
結城はハーレムの路上で立花に対し問うた。
「駄目だ、ここには何も無いようだな」
立花は首を振って答えた。
「そうですか。ハーレムには連中はいないようですね」
結城はそれを聞いて顔を曇らせて言った。
「ああ。サウスブロンクスにもなかったしな」
「ここは色々とありますからね。隠れるにはもってこいなんですが」
よく知られた話であるがハーレムやサウスブロンクスはかってはスラム街で知られた街である。今は治安が良くなったがつい最近までは犯罪都市とまで言われたニューヨークでもとりわけ危険とされた地域であった。
「別のところに行こう」
「そうですね、今度は五番街に行きますか」
その時だった。後ろから声がした。
「おい、そこの東洋人の二人」
二人はその声に振り返った。見ればアフリカ系の若い男三人組である。
「見ねえ顔だが何者だ?中国人か日本人か」
その真ん中にいるリーダー格と思われる男が尋ねてきた。
「?日本人だが」
結城は率直に答えた。
「日本人か。本当だろうな」
彼はまだ問うてきた。
「おいおい、嘘をついてどうなるんだ?何ならパスポートでも見せようか?」
結城は苦笑して言った。
「何だ、本当に日本人なのか」
彼はそれを聞いて言った。
「だったらいいんだ。悪いが疑っちまった」
彼は微笑んで言った。白い歯が口から漏れる。
「ちょっと東洋人で頭にくるこがあったんでな。日本人や中国人なら別になんともないんだが」
「何かあったらしいな」
立花はそれを聞いて結城に対して言った。
「ロスと同じことじゃないですかね」
結城はそれを聞いて立花に囁いた。
「ところであんた達何か探しているのかい?」
その若者はあらためて聞いてきた。
「いや、別に何もないけれど」
結城は答えをはぐらかした。
「おいおい、何もなくてこのハーレムを色々と探し回るわけないだろ。逃げた女でも捜してんのか?」
「女じゃなくて男なんだが」
「男、ねえ」
彼は結城の言葉を聞いて少し考え込んだ。
「そういえばこの前変な男を見かけたな」
「変な!?」
結城はその言葉に反応した。
「ああ。仕事帰りに一杯ひっかけて帰ってたらな。変な奴がマンホールを開けてたんだ」
「マンホール!?」
結城と立花はマンホールという言葉に眉を動かした。
「おう。黒づくめの奴でな。そして下水道に入って行ったんだ」
「おい、黒づくめっていやあ」
「間違いありませんね」
立花と結城はそれを聞いて互いに頷き合った。
「まあ変な男だったな。それ以来見てねえが」
「成程、そしてそのマンホールは!?」
結城は尋ねた。
「ん!?あっちの方だけどよ」
彼はそう言って道路の向こう側を指差した。
「幾らニューヨークが変わり者が多いつっても下水道に住む奴はいないよな」
「ああ。俺だったら絶対嫌だな」
男達は口々に言った。
「とりあえず俺が見たのはそれ位だな。まあ後はこの街じゃ普通にあることしかないな」
「そうか、有り難う」
「いや、いいってことよ。それじゃあな」
彼等は結城達に別れを告げるとその場を後にした。
「おやっさん」
結城は立花に顔を向けて言った。
「ああ、行こう」
立花はそれに対して頷いた。そして二人はそのマンホールに向かった。
マンホールを開け中に入る。そしてその中を進んで行く。
「何か折角ニューヨークに来たのに下水道ばかり入ってるな」
立花は残念そうな声で言った。
「仕方ありませんよ。連中は何処にいるかわかりませんからね」
結城は立花を宥めるように言った。
「奴等は暗いところが好きですからね。まあ一種の習性でしょうか」
「そういえばそうだな。ひょっとすると首領の好みかもな」
「かもしれませんね。宇宙人だというのに変なことだ」
結城はその言葉に苦笑して言った。
中を進む。するとそこに黒服の戦闘員がいた。
「おい、いたぞ」
立花は曲がり角に身を隠して言った。
「はい。どうやら当たりだったみたいですね」
結城も同じ場所に身を隠しながら言った。
「やるか」
立花は結城の方を向いて言った。
「いえ、今はやり過ごしましょう」
結城はその言葉に対し首を横に振った。
「後をつけましょう。そうすれば基地の場所がわかるかも知れません」
「そうだな。そっちの方がいいな」
立花はその言葉に頷いた。こうして二人はその戦闘員の後をつけた。
戦闘員はそのまま歩いていく。二人は身を隠しながらそれを追う。
「随分深いところまで歩いて行くな」
立花は尾行しながらポツリと言った。
「はい。あの男らしいと言えばそうですが」
結城も言った。そして後をつけていく。
やがて戦闘員は辺りを見回しだした。
「おい」
二人は再び身を隠した。そして物陰からその様子を見る。
戦闘員は目の前の壁を押した。すると壁が左右に開いた。
「隠し扉か」
結城はそれを見て言った。戦闘員はその中に入って行った。
「行くぞ」
立花は戦闘員が姿を消したのを見て物陰から出て言った。
「はい」
結城はそれに対し頷いた。そして二人は扉の前に来た。
そして戦闘員がしたように壁を押す。そして中に入って行った。
その中はやはり基地だった。彼等は下水道の奥深くに基地を建造していたのだ。
「ヨロイ元帥らしいな」
立花は暗い基地の中を進みながら言った。
「はい。やはり復活しても考えることは同じですね」
結城は既にライダーマンに変身している。そして二人で基地の中を進んで行った。
「ギッ!?」
目の前に戦闘員が出て来た。ライダーマンは彼に跳び掛かりその首を後ろから羽交い絞めにした。
「言え、ヨロイ元帥は何処だ」
ライダーマンは彼の首を絞めながら問うた。
「こ、この奥の指令室に・・・・・・」
戦闘員は指で廊下の奥を指差しながら言った。
「そうか」
ライダーマンはその戦闘員の首の付け根を手刀で叩いた。戦闘員は気を失ってその場に倒れ込んだ。
「おやっさん、行きましょう」
「ああ」
二人はその奥へ進んで行った。
指令室の前に来た。ライダーマンはスウィングアームを装着した。
「ムンッ!」
そしてそれで扉を叩き壊した。その中に入った。
「ヨロイ元帥、来てやったぞ!」
ライダーマンと立花は咄嗟に動こうとした戦闘員達を倒しつつ部屋の中を進んだ。
辺りを見回す。だがヨロイ元帥はここにはいない。
「フッフッフ、私はここだ」
上から声がした。見れば階段の上の階にあの男がいた。
「ロープアーム!」
ライダーマンはアタッチメントを換填しヨロイ元帥へ向けて投げ付けた。それは彼の首を捕らえた。
「ムンッ!」
そして思いきり引っ張る。するとヨロイ元帥は下に叩き付けられた。
「おい、もう終わりか!?」
ヨロイ元帥は倒れた。それを見て立花は拍子抜けしたように言った。
「いえ、こんな簡単にやられるような奴じゃ・・・・・・」
ライダーマンもそれを見て少し意外そうに言った。そこに後ろから声がした。
「ハッハッハ、残念だな。ヨロイ元帥はもうここにはおられぬ」
見れば一体の怪人が立っていた。ゴッドの神話怪人ネプチューンである。
「どういうことだ!?」
ライダーマンは彼の方に向き身構えつつ問うた。
「ヨロイ元帥は既に作戦を発動されている。もうこの基地に用は無いのだ」
「作戦か。今度は何を企んでいる」
「そうだな。どうせ今から行っても間に合わぬ。折角だから教えてやろう」
ネプチューンは笑いながら言った。
「空から強化した炭素菌を撒くのだ。それも民間用に偽装した飛行船でな」
「飛行船か。確かにそれなら警戒は薄いな」
航空機と違い飛行船は空をゆっくりと飛ぶ。かっては戦争も使われたが今これを警戒する者は少ないであろう。
「ヨロイ元帥はその飛行船に搭乗される。もうこの基地を出発されたのだ」
「そうか。そして何時撒くつもりだ!?」
「そうだな。あと二時間といったところか」
ネプチューンは余裕を含んで言った。
「ニューヨーク中をくまなく回ってな。そしてニューヨークを死の街にしてやる」
「成程な。相変わらず細菌を使うのが好きなようだな」
「フン、よくそんなことを言う余裕があるものだな」
怪人はライダーマンの言葉を聞いて嘲り笑った。
「貴様はここで死ぬというのに」
そう言うと手に持つ三叉の槍を突き出して来た。
「俺が死ぬだと!?」
ライダーマンはその槍を見ながら言った。
「残念だが一度は死んだ身。そうそう何度も死ぬわけにはいかない」
ロープアームでその槍を絡め取った。そして槍を奪い取った。
「貴様等がこの世にいる限り俺は死なん。そのことはよく覚えておけ」
そう言うとネプチューンへ向けて槍を投げ付けた。
「グフッ・・・・・・」
槍は怪人の胸を貫いた。そして壁に縫い付けた。
「おやっさん、急ぎましょう」
ライダーマンはそれを見届けると指令室を後にした。
「あ、ああ」
立花は焦っていた。しかしあくまで冷静な彼の様子に驚いていたのだ。
二人は基地を出た。程無くして基地は爆発した。怪人が爆死したのだ。
ニューヨークの象徴の一つ自由の女神。アメリカ独立百年を記念してフランスから送られた像である。
この像はそのままアメリカの象徴と言ってもいい。自由の国アメリカを守護する女神の像なのだ。
しかし今この像の上を不吉な悪魔が飛んでいた。
「よし、そろそろ作戦を開始するぞ」
ヨロイ元帥は飛行船の中で言った。
「ハッ、準備は既に整っております」
戦闘員の一人が敬礼して言った。
「うむ。ライダーマンもこの街もろとも苦しみ悶え死ぬのだ」
彼は下に拡がる街を見て満足そうに笑って言った。
「そして俺はバダンの最高幹部としてその力を思うがままに振るうことになるのだ」
そして高笑いした。飛行船は今女神像の上を通り過ぎた。だがその動きを阻止せんとする男がいた。
ウォール街。その高層ビル群の中でも一際高いそのビルの屋上に彼はいた。
「来たか」
それは結城丈二だった。マシンに乗りその飛行船を見ている。
「おやっさん、じゃあ行って来ます」
彼は傍らにいる立花の方を降り向いて言った。
「おう、行って来い」
立花は彼に答えた。結城はそれに対し微笑んで返した。
「よしっ!」
結城は構えをとった。そしてライダーマンへ変身のポーズを取る。
トォーーーーーッ
両手を上に掲げる。そこにライダーマンのマスクが現われる。
身体が黒いバトルボディに覆われ胸が赤くなる。そして腹が三色になる。
手袋とブーツが銀色になる。
ライダーーーーマンッ
マスクを被る。腰のベルトの四つの風車が回る。そして眩い光が全身を包んだ。
「行くぞっ、マシン!」
ライダーマンは己がマシンに飛び乗った。そして天高く飛んだ。
「頼むぞ、ライダーマン」
立花はそれを見送って言った。その声と顔はまさしく父親のものであった。
「ん!?」
飛行船に乗る戦闘員の一人が下から来る影に気付いた。
「どうした?」
同僚の戦闘員がそれに対し声をかけた。
「あれは何だ?」
見ればこちらに飛んでくる。
「あれは・・・・・・」
彼等はその姿を認めて表情を一変させた。
「ヨロイ元帥、大変です!」
彼等は大声でヨロイ元帥を呼んだ。
「馬鹿者、そんなに騒ぐな」
ヨロイ元帥はそれに対して不機嫌そうに答えた。
「あ、あれを!」
戦闘員達は不機嫌になった上司を見てもまだ落ち着きを取り戻さない。必死に窓の方を指差す。
「フン、こちらに突っ込んで来る飛行機でもあるのか?」
彼等を横目にジロリ、と睨みながら言った。そして窓の方に目をやった。
「何・・・・・・」
ヨロイ元帥はそれを見て絶句した。マシンに乗るライダーマンがこちらに突っ込んで来ているのだ。
「馬鹿な、あのマシンが空を飛べるとは聞いておらんぞ!」
ヨロイ元帥は思わず叫んだ。
「いや・・・・・・」
だがそこで考えを巡らせた。
「改造されたか。他のライダー達のマシンも強化されていると聞いたしな」
そして窓の外のライダーマンを再び見た。
「案ずることはない。もしもの時の用意はしておる」
そう言うとマイクを取り出した。
「モモンガー獣人よ」
『ハッ』
マイクに返事が返って来た。
「奴が来た。すぐに始末するのだ」
『わかりました』
「よし、頼むぞ」
そしてマイクを元に戻した。
「これでよし。所詮空中ではその力も充分に出せまい」
「それでは進路はこのままで」
舵を取る戦闘員が尋ねた。
「当然だ。蚊の一匹程度で作戦を変更するつもりは無い」
ヨロイ元帥はそう言うと指揮官の席に戻った。余裕である。しかしその余裕が仇となったのだ。
「来たな」
ライダーマンは前にやって来た怪人を見て言った。ガランダーの怪人モモンガー獣人だ。
「モガァーーーーーッ」
怪人は奇声を発しながらこちらにやって来る。ライダーマンはアタッチメントを装着した。
「それはこちらも予想している」
パワーアームを装着した。そして向かって来る怪人に対抗する。
怪人の牙をそのアームで受け止めた。そして一旦は退ける。
怪人は再びこちらに向かって来る。ライダーマンはそれより速くアタッチメントを換装していた。
「マシンガンアームッ!」
マシンガンを斉射した。怪人の身体を無数の銃弾が襲った。
「グガッ!」
それは怪人の全身を襲った。そして飛行膜の内側にある爆弾を撃った。
それは次々に爆発した。そしてモモンガー獣人は空中で爆死した。
「これで邪魔者はいないな」
ライダーマンはそう呟くとマシンのアクセルを踏んだ。
そしてそのまま突進する。窓から飛行船の中に乱入した。
「おのれっ、ここまで来るとは」
ヨロイ元帥は乱入してきたライダーマンを見て顔を歪めて言った。
「言った筈だ、貴様だけはこの俺の手で倒すと!」
ライダーマンはマシンから飛び降りて彼に対して言った。
「ここが貴様の墓場だっ!」
そして右手で彼を指差して言った。あの右手で。
「フン、そう簡単にいくかな」
ヨロイ元帥はライダーマンを睨み付けて言った。
「逆にここを貴様の墓場にしてやる」
その声を合図として左右から戦闘員が姿を現わした。そしてライダーマンを取り囲む。
怪人も出て来た。デストロンのテロ怪人スプレーネズミとネオショッカーの刺客怪人アオカビジンである。
「成程な、細菌を使う怪人ばかりか」
ライダーマンは二体の怪人を見て言った。
「そうだ、この街に炭素菌をばら撒く為にな」
ヨロイ元帥は笑いながら言った。
「だが少し予定が変わった」
彼はそこで表情を引き締めた。
「ライダーマン、まずは貴様を倒す」
怪人と戦闘員達が左右に動いた。
「そして俺はバダンの最高幹部となるのだ」
「そうか」
ライダーマンはそれを聞いて呟いた。
「変わらんな。デストロンにいた頃と」
スプレーネズミと正対しながら言った。
「貴様のその醜い心、一度は死んでもそうそう消えるものではないらしい」
「醜い?心地良い褒め言葉だな」
ヨロイ元帥はライダーマンの言葉に返した。
「そうだろうな、かって俺の右腕と俺を助けてくれた部下達を殺した貴様にとってはな」
左右から戦闘員が来る。ライダーマンはそれを一瞬で倒した。
「俺もかってはその貴様と同じだった」
彼はアタッチメントを装着しながら言った。
「憎しみと復讐に燃えそればかり考えていた」
スモッグアームだ。
「だが今は違う。人々の為に戦うライダーの一員としてヨロイ元帥、貴様を倒す!」
そう言うと煙幕を発射した。
「落ち着け!単なる目くらましだ!」
ヨロイ元帥は叫んだ。その通りだった。
しかしライダーマンは動いた。まずはアオカビジンの前に来た。
「カビィーーーーーッ!」
怪人はライダーマンが来ることを予想していたようである。その拳を振るってきた。
「カビの怪人か」
ライダーマンはその拳を受け止めて言った。
「カビの弱点は・・・・・・」
間合いを離しアタッチメントを装着した。
「炎だっ!」
パワーアームを激しく動かした。そしてその摩擦熱で炎を起こした。
そしてそれで斬りつけた。怪人の身体をその炎が襲う。
「グギィーーーーーッ!」
怪人はその炎を浴びて絶叫した。そして燃え死んだ。
その炎は白い煙幕の中からも見えた。戦闘員達はそこに殺到した。
だがいない。ライダーマンはスプレーネズミの後ろに来ていた。
「ギッ!?」
怪人は後ろに何者かが来たのを察した。そして右手を振るった。
「キーーーーラーーーーーッ!」
ライダーマンはそれを見切っていた。上に跳んだ。
「デストロンの怪人ならば俺もよく知っている」
ライダーマンは怪人の頭を掴んで言った。
「スプレーネズミ、貴様の弱点は・・・・・・」
カギ爪アームを装着した。
「その右胸だあっ!」
そのカギ爪で怪人の胸を撃った。そして二本のパイプを引き千切った。
「グギャーーーーーッ!」
怪人は絶叫した。そして爆死して滅んだ。
煙幕が去った。そこにはライダーマンと彼を取り囲む戦闘員達がいた。
その戦闘員達も次々と倒されていく。遂に全員倒れた。
「ヨロイ元帥、残るは貴様だけだ」
ライダーマンはヨロイ元帥を指差して言った。
「フン、貴様ごときがわしを倒すつもりか」
彼はライダーマンを睨み付けて言った。
「モンゴルの偉大なる覇王、チンギス=ハーンの末裔でありヨロイ族の長であるこのヨロイ元帥を」
彼は左手に持つ鉄球をライダーマンを指しながら言った。
「そうだ、今こそ決着を着けてやる」
「戯言を」
ヨロイ元帥は後ろに跳んだ。
「ならば今この場で始末してくれるわ」
その目が光った。そしてそのヨロイが甲殻に変わっていく。
顔も変わった。それはザリガニの顔であった。
全身をオレンジの甲殻に包んだ怪人であった。左手は鋏となっており背中には甲羅がある。
「やはり正体は変わらぬか」
ライダーマンはそれを見て言った。
「俺の正体を見た者は生かしてはおけん」
ヨロイ元帥の正体であるその怪人ザリガーナは言った。
「死ね、ライダーマン!」
口から泡を飛ばしてきた。ライダーマンはそれを横に跳んでかわした。
「甘いっ!」
腰からアタッチメントを取り出す。そして装着した。
「マシンガンアーームッ!」
銃弾を放つ。それはザリガーナの全身を撃った。
「フフフ、無駄だ」
ザリガーナはそれに対し余裕の笑みで返した。
「俺のこの身体を貫き通すものはこの世には存在しない。例えライダーキックでもな」
「クッ・・・・・・」
「あの時はカァーーーーメンライダーⅤ3に敗れたが今は違う。俺もまた再改造を受けているのだ」
そう言うと左手の鋏を飛ばしてきた。それはライダーマンの首を挟んだ。
「そしてこういうことも出来るようになった」
「グググ・・・・・・」
ライダーマンはその鋏を取り外そうとする。だが出来ない。
「そしてもう一つ言っておこう」
ザリガーナの左手がゴボゴボと動く。鋏が再生してきているのだ。
「その鋏は爆弾にもなっている。もうすぐ爆発する」
「何っ!」
ライダーマンはその言葉に顔を驚愕させた。その口が歪む。
「フフフ、貴様はこの飛行船と共に爆死するのだ」
ザリガーナは邪な笑い声を立てながら言った。
「俺はこれで失敬させてもらうがな」
そう言って飛行船の窓を鋏で壊し出ようとする。
「クッ、待て!」
追おうとする。しかし鋏が首を絞め思うように動けない。
「フフフ、さらばだ」
ザリガーナはそう言うと飛行船から飛び降りた。すると飛行船が爆発した。
「ライダーーマンッ!」
それを遠くのビルから見ていた立花は絶叫した。
「よし、これで奴は死んだ」
ザリガーナは着地したビルの屋上で飛行船が爆発四散するのを見ながら言った。
「炭素菌はまた作ればいい。ライダーがいなくなれば作戦はどのみち成功したも同じだ」
飛行船は空の中に消えていく。それを見たニューヨークの市民達の驚く声がする。
「これで俺の地位を脅かすものは無い。デーーストロン以来の俺の夢が叶うのだ」
そう言い高笑いした時だった。
「それはどうかな」
後ろから声がした。
「その声はっ!」
ザリガーナはその声にハッとして振り向いた。そこにはあの男がいた。
「残念だったな。俺はまだ生きている」
ライダーマンはビルの貯水タンクの上に立って腕を組んでいた。
「おのれっ、あの爆発から逃れるとは・・・・・・」
「新しく生まれ変わったマシンのおかげだ。俺がどうして飛行船にやって来たか忘れていたようだな」
「クッ、そうだった・・・・・・」
ザリガーナはそれを聞いて歯噛みした。
「俺もそう簡単に死ぬわけにはいかない。そして貴様を今ここで倒す」
「フン、貴様に出来るのか!?」
ザリガーナは鋏を振りかざして言った。
「出来なければこんなことは言わん。行くぞ!」
ライダーマンは右腕にパワーアームを装着した。おして下に飛び降りた。
「トォッ!」
両者は打ち合った。銀の火花が飛び散る。
「おのれっ、アタッチメントも強化されているな」
ザリガーナはパワーアームを受けて言った。
「当然だ。バダンを倒す為ならな」
二人はその腕を激しく振るった。そして互いに譲らない。
「だがその程度では俺は倒せん」
ザリガーナは間合いを離した。そして口から泡を吐いた。
「この程度っ!」
ライダーマンは上に跳んだ。そしてアタッチメントを換装する。
「スウィングアームッ!」
分銅の付いた腕に換えた。そしてそれを叩き付ける。
「ウッ!」
それを受けたザリガーナの腕に衝撃が走る。
「どうやら衝撃には弱いらしいな」
ライダーマンはそれを見て言った。
「二号ライダーもそうだったという。全身が鋼で出来た鋼鉄参謀をどうして倒したか」
彼はアームを振るいながら言った。
「内部に衝撃を加えていったのだ。如何に全身を厚い鎧で覆おうとも衝撃までは抑えられない」
ライダーマンは尚も攻撃を続ける。
「そしてそれは貴様にもそっくりそのまま言えることだ」
分銅がザリガーナの鋏を打ち砕いた。
「確かに貴様の身体は厚い甲羅に覆われている」
鋏が再生する。しかしライダーマンのスウィングアームの前に分が悪い。
「如何なる刃でもその鎧を貫き通すことは出来はしまい」
攻撃を続けながら言う。
「しかしその反面衝撃に対しては無力だ」
その通りだった。ダメージのせいか動きが次第に鈍くなってきている。
「衝撃は確実に内部に伝わる。そしてそれは次第に蓄積されていく」
ライダーマンは鈍くなったザリガーナの動きを見つつ言った。
「ザリガーナ、いやヨロイ元帥」
再び鋏を砕いた。そして一気に攻撃のスピードを速める。
「今こそ貴様を倒す!」
ライダーマンはザリガーナの身体を掴んだ。そしてそのまま跳び上がる。
「ライダーマン高速回転投げーーーーーっ!」
ザリガーナを掴んだまま空中で駒の様に激しく回転する。そしてビルの床めがけ投げ飛ばした。
「うおおおおーーーーーーっ!」
ザリガーナは絶叫した。そしてそれまでいたビルの床に叩き付けられた。
床が壊れた。コンクリートの破片が飛び散る。
怪人の身体は大きくバウンドした。そして二度三度と跳ね返る。
「勝負あったな」
投げ終えたライダーマンは着地して言った。
「グググ、まさか衝撃を伝える攻撃で来るとは・・・・・・」
ザリガーナは立ち上がった。そしてヨロイ元帥に戻って行く。
「迂闊だったわ。このヨロイ元帥ともあろう者が」
ヨロヨロとよろめきながら言う。足元がふらついている。
「まだ立てるか」
ライダーマンはそれを見て言った。
「フン、この俺を誰だと思っている」
ヨロイ元帥はそれに対し吐く様に言った。
「かってのデーーストロンの大幹部だ。一人では死なん」
そう言うとライダーマンを睨み付けた。
「貴様も道連れだあっ!」
ライダーマンへ向けて突進した。
だがライダーマンはそれを冷静に見ていた。そして静かに動いた。
「やはりな。最後の最後までそうか」
彼は跳んだ。そして空中で一回転した。
「ライダーマンキィーーーーーック!」
突進してくるヨロイ元帥の胸を撃った。それを受けたヨロイ元帥は後ろに吹き飛ばされた。
「おのれーーーーーっ!」
ヨロイ元帥は断末魔の叫びを挙げながらビルから落ちていった。そして空中で爆発四散して果てた。
「片桐、皆、これで仇は取ったぞ」
ライダーマンはその爆発を見下ろしながら言った。
「俺の右手もこれで泣かなくて済む」
彼は右手を見た。今右手は静かにそこにあった。
「そうか、遂にあいつを倒したか」
立花は戻って来た結城から話を聞き満面に笑みを浮かべた。
「ええ。長かったですけれどね」
結城は感慨深かげに言った。
「色々ありましたけれどね」
これまでの戦いを思い出しながら言った。
謀略に陥れられ硫酸のプールで右腕を焼かれ部下達に救出され組織を脱出した。そしてライダーマンとなり復讐の為に生きてきた。やがて正義に目覚め身を呈してロケットを止めた。そしてその時四人目のライダーとなった。
ダブルライダーに救われ以後悪と戦ってきた。そして今地獄から甦ってきた仇敵を遂に葬ったのだ。
「だがまだ終わりじゃないぞ」
立花は顔を引き締めて言った。
「バダンは滅んだわけじゃない」
「ええ、それはわかっています」
結城も真剣な顔で答えた。
「悪はまだこの世界を覆わんとしていますから」
「そうだ。じゃあ行くか」
「はい、行きましょう」
二人は摩天楼を後にした。その二人の上を太陽が明るく照らしていた。
摩天楼の悪魔 完
2004・3・18
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