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蒼き夢の果てに

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第1章 やって来ました剣と魔法の世界
  第9話  この世界の時代区分は

 
前書き
 第9話更新をします。
 

 
「そうしたら、さっきと同じように魔法を発動して貰えるか?
 その際に、ルーンを唱える事無く、式神に精霊を従えて貰ってな」

 あれから泉の乙女に続いて、森の乙女の封印……つまり、契約も終わり、現在はタバサに先住魔法。つまり、俺と同じように、精霊を友とするタイプの魔法が行使可能か試している最中です。

 それで……。

 これは仮説なのですが、精霊を無理矢理従えて居るのは、呪文の中に存在しているルーンの部分だと俺は思っています。

 尚、何故、そう思ったのかと言うと、その理由は、ライトと言う魔法に有ります。

 ライトと言う魔法を使用した時には、ルーンを唱える事は無かったのですが、その際には精霊の悲鳴が聞こえる事は無かったのです。
 そして、ライトと先ほどタバサが放った氷結系の魔法の差は、ルーンを唱えて魔法を発動させたか、口語で唱えたかの差。

 それならば、その部分を口語に置き換えて、タバサと直接契約した式神に精霊を友にする能力を借りられるのならば、同じような魔法が発動するはずだと思ったのですが……。
 まして、この国に棲む精霊に語り掛けて、一番彼らに話しが通じ易い言葉は、この国の言葉。つまり、この国の人々が普通に話している言葉が、精霊に取っても一番通じ易い言葉のはずなのです。

 少なくとも、俺の住んで居た日本ではそうでしたからね。

 それでも尚、わざわざ、現在、普通に使用されている言葉以外の言語を魔法に使用する。ならば、このルーンの部分に何か重要な意味が有ると考えても不思議ではないでしょう。
 ただ、俺自身がルーン魔法……このハルケギニアで使用されるルーンではなく、地球世界の北欧神話の神々に繋がるルーン魔法について詳しい訳でもないので、この部分に関しては間違っている可能性も否定出来ないのですが。


 太陰星(月の女神)が支配する世界を、陽の精霊(炎の精霊)が切り取った空間。
 俺達以外に生者が存在しない世界。

 その、一切の動く者の存在しない世界で、先ほどと同じように自らの身長よりも大きな魔術師の杖を高く掲げる我が蒼き御主人様。
 彼女により相応しい凛としたその立ち姿は、彼女の存在をより強く感じさせる姿で有った。

「ウィンディ・アイシクル」

 そして、短くそう囁くように、呪文を紡ぐ。
 相変わらず抑揚の少ない、彼女独特の話し方。そして、それまで……俺と出会ってから、此処に来るまでと変わらない口調で……。
 その刹那。タバサの魔術師の杖の先に集まった霊力が周囲の水の精霊に働き掛け、十数本の氷の矢と化す。

 そして、次の瞬間、そのすべての氷の矢が目標を襲った。

 刹那の後、その目標となった空中に浮かばせた直径三十センチメートル程の水の塊に、すべての氷の矢が命中。その水塊を一瞬にして氷塊へと姿を変えた。

 成るほど、良くある氷結系の攻撃魔法と言うヤツですか。大して珍しい魔法と言う物でも有りません。
 それに、この魔法は今までタバサが使っていた魔法のウィンディ・アイシクルと言う魔法ではなく、彼女のイメージ通りの魔法を彼女と契約している泉の乙女が魔法を発動させている、と言った方が正しい魔法なのですが。

 しかし、今回は精霊の生命を消費する事なく魔法が発動したのですから、これで成功と言う事に成ります。後、問題が有るとすると、タバサに取っての霊力の消耗度合いにどれくらいの差が有るのか、と言うぐらいですか。
 今までよりは、少し余分に精神力。つまり、霊力を消耗している可能性も有りますからね。

 従えて居る精霊の総数が変わっていますから。
 それでも、今まで奪うだけだった魔法が、分け与える物に変わったのですから、それはそれで良かったと思いますよ。

 そう考え、タバサを見つめてから、大きく首肯いて見せる俺。
 少し。いや、かなり高揚した雰囲気を発しながら、それでも、普段通りの透明な表情を浮かべ、俺を見つめ返す蒼き俺の御主人様。

 この状況ならば、最初の段階はあっさりクリアー。それならば、次のステップに移行ですかね。

 そう思い、再び水塊を、自らの生来の能力を発動させて、今回は複数。具体的には十個ほど空中に浮かせ、そのままホールドを行う俺。
 そして、タバサの方に向き直り、

「今度は、杖を持たずに口訣と導引だけで魔法を発動させてみようか」

 ……と告げる。何となくですが、俺の仙術の師匠に似ているような口調で。

 それに、何時までも魔法を発動させるのに杖が必要では、杖を奪われるか、携帯していない時は魔法使いもただの人に成ります。これでは、折角の能力も生かせないまま死亡する可能性も高い。
 これは流石に問題が有るでしょう。そう思い、このステップに進んだのですが……。

 しかし、タバサはじっと俺の顔を見つめる。
 ……って、この俺をじっと見つめると言うのは、良く彼女が行う仕草なのですが、俺は、こう美少女に見つめられると言う状態には慣れていませんので、どうも精神的に落ち着かなくなるのですが。
 今のトコロは、へまをしでかしたり、突如、挙動不審に成るなどと言う状態には陥っては居ませんが、それでも、その内に何かやらかしそうで、非常に不安なのですが。
 もっとも、苦手だから止めてくれと言う訳にも行かないですし。

 そんな、現状ではどうでも良い事を考えていた俺の思考など判るはずもないタバサは、そのまま続けて、

「わたし達の魔法は、杖を持つ事が第一条件と成っている。
 全ての魔法は杖を通じて発動し、杖を持っていないメイジは平民と変わりない」

 ……と告げて来る。

 ……って、杖なしでは魔法が発動しない?
 確かに、駆け出しの魔法使いには杖なり、魔導書なりが有った方が魔法は発動させ易い。それは事実です。

 所謂、杖と言うのは触媒。杖などを持つ事によって気分をより魔法的なモノにして、魔法をより発動させ易い精神状態に導くために必要なアイテムでは有ります。
 しかし、故に、上級者に取っては、別にそう必要な物でもないはずなのですが……。

 もっとも、これは俺の世界の魔法に関する知識ですから、この世界では違う可能性も有ります。
 まして、この世界の魔法は精霊と契約を交わさずに、しかし、精霊の力を利用して魔法を発動させると言う少し特殊な方式の魔法の為に、俺の知っている魔法の知識とは多少の違いが出て来ても不思議では有りません。

「成るほど。せやけど、その部分に関しての問題はないで」

 俺は、そう安心させるようにタバサに告げる。
 思い込み、と言う物でも、精神が重要な役割を果たす魔法では問題が有ります。もし、タバサがずっと、杖なしでは自分は魔法が発動しないと思い込み続けると、それはずっと事実と成り続け、彼女は一生、杖なしでは魔法を発動させる事の出来ない魔法使いとなって仕舞うでしょう。

 これは、多少ドコロではない問題が有ります。

 少なくとも、魔法を志す者なら、その固定観念に囚われる事を失くさなければならない。
 ……と俺は思っているのですが。それに、師匠もそう言って居ましたから。
 まして、試すぐらいなら、誰にも迷惑は掛けませんからね。

「これから発動して貰うのは、俺の知っている魔法……仙術の中の氷結系に属する魔法や。
 俺は、タバサの目の前で、杖も振るわずに桃の木に来年の花を咲かせる事に成功した。
 俺の魔法の才……仙骨などは高が知れている。もしかすると、才能の上でならタバサの方が上の可能性も有るからな。
 そんな俺でも、発動出来る系統の魔法なんやから、タバサなら杖なしでも魔法を発動させる事など容易いはずやで」

 それに、今度の魔法は泉の乙女の得意としている魔法でも有ります。この魔法は早々失敗するモノでは有りません。

 魔法などで発動する結果が同じなら、使っている能力は早々違う物では有りません。
 氷結系なら水の精霊と風の精霊。炎系統なら、基本は火で、そこに土や風が関わっているぐらい。この大前提には次元の壁も、魔法の系譜の違いも関係ないはずです。

 科学技術が間に関わって来ない限りは。

 そして、この世界の魔法も、先ほどタバサに発動して見せて貰った魔法は、確かに水と風の精霊力を消費して発動させていた魔法でした。

 俺の言葉を信じたのか、俺に自らの身長よりも大きな魔術師の杖を預け、仙術を発動させる事に同意を示すタバサ。
 その彼女に対して、少し笑って見せる俺。
 大丈夫。彼女ならば、杖なしでも仙術を発動させる事など簡単な事。ようは、思い込みを振り払えば、それだけで充分。

 今の彼女が扱っている魔法は、ルーンを使用しない魔法。この世界の理から外れた魔法ですから。

「導引は省略しても良いんやけど、使用した方が威力は上がるし、仙術を発動させ易い」

 そう言いながら、さして複雑でもない導引を教える俺。もっとも、現状ではこの導引が魔術師の杖の代わりと言うべきかも知れませんね。それか、それぞれの式神を封じた宝石類が杖代わり、と言えるかも知れない。
 その内に熟練して来たのなら、導引なしでも仙術を発動出来るようになるはずですから。

 様は、如何にして契約している式神にイメージを伝達出来るかが重要なだけで有って、それに付随する呪文や口訣、杖、それに導引などはオマケのような物ですから。

「そして口訣は、我、水行を以て氷弾と為す、凍れ。や。
 仙術を発動させるイメージは、先ほどタバサが使った魔法で、アソコに浮かべた全ての目標を凍らせるイメージで」

 コクリとひとつ首肯くタバサ。
 当然、仙術と雖も魔法で有る以上、イメージは重要。これが上手く出来るか出来ないかは、魔法の発動の成否や、威力にも影響を及ぼします。

「我、水行を以て氷弾と為す、凍れ」

 素早く導引を結びながら、口訣を唱えるタバサ。
 刹那、タバサの周りに集まる水の精霊達。
 その精霊達が先ほどと同じような氷の矢を作り上げ、そして……。

 そして、放たれる氷の矢。その数は、数十。
 放たれた氷の矢が、目標と成っていた十個の水の塊を、全て氷の塊に変えるのには、一瞬の時間しか必要とする事は無かった。

「これは、複数の目標を同時に攻撃出来る仙術やな。まぁ、全ては応用やから、おそらく、タバサの使っている魔法にも同じような魔法は存在すると思うけど」

 大体、人間の想像力など似たような物。何処の世界でも、早々変わるとは思えません。
 それに、式神達の所持魔法を発動させようにも、タバサ自身がイメージ出来ない魔法は、流石に発動出来ませんから。

 例えば、俺がハルファスの砦を造る魔法……つまり高レベルの結界魔法なら行使出来るけど、調達魔法……つまり、かなり高度なアポーツ技能の行使や、ダンダリオンの鏡技能などは、イメージする事が出来ない、もしくは非常に難しいので発動出来ないと言う風に成るのです。

 もっとも、その場合には、その式神本人に現界して貰って、直接、魔法を行使して貰えば、問題ないのですが。

「これで、魔法に関しては問題ないか。少なくとも、タバサの魔法に関しては、陰の気を大量に生み出す類のモンでは無くなったからな。
 但し、おそらく現状のタバサの魔法は、この世界で言うトコロの先住魔法と言う種類の魔法と成っている。
 一応、そこに何か問題が無いのか聞いて置きたいんやけど……」

 正直に言うなら、この世界の魔法のすべてをその先住魔法。つまり、精霊と契約を交わして、彼らの能力を借りて発動させるタイプの魔法に置き換えたい。と思っています。
 但し、それが許されない可能性も当然有ります。

 その理由は、最初に、俺の魔法が先住魔法に分類される魔法だと告げた時に彼女が発した雰囲気が、穏当な雰囲気では有りませんでしたから。
 あれは、強敵を前にした緊張感のような物でした。
 つまり、この世界で先住魔法を操るのは、タバサに取って敵となる存在の可能性が高いと言う事に成ると思います。

 そして、先ほどのサラマンダーやウィンディーネの反応を見ても判るように、精霊に近い存在の方からして見ても、タバサ達の操る魔法は敵視するべき魔法だと思います。
 双方の魔法を操る存在が居て、それが人間とエルフと言う外見も、おそらく風習や考え方も違う種族だった場合、お互いに反発し合っている可能性が高い。

 そんな中で、使用者が限定される特殊な魔法をタバサが身に付けた事が周囲にバレると、非常にマズイ事態を引き起こす可能性も有ります。

 人は自分と違う存在を排除する生き物です。ルイズが排除されて来たように。

「人間と先住魔法を操るエルフとは、過去、幾度となく戦って来ている」

 タバサが、大体、俺の予想通りの答えを返して来た。 
 なるほど。矢張り、そう言う事か。
 それならば、

「俺や、タバサが身に付けている先住魔法の事を、他の学院生徒や先生達に知られるのはマズイと言う事になるんやな」

 俺の言葉に、タバサがコクリとひとつ首肯いた。
 想像通りのタバサの答え。そうすると、人類全体の魔法を先住魔法への置き換えはかなり難しい事と考えるべきですか。
 特に、この魔法に関しては、見鬼の才が必須となる魔法ですし、現状の、この世界の魔法使いの中の、更に限られた人間にしか行使出来ない魔法と成る可能性が有りますから。

 あの、召喚の現場でこの世界の魔法使いのタマゴたちの中にも、花神の姿が見えない者たちが存在して居ましたから。

「まぁ、俺は封神演義に登場する太公望や、邪仙や妖魔、妖怪を封印する為にこの地を訪れた仙人やないから、多少の事には目を瞑るしかないのか。
 それにしても、こんな魔法を行使し続けて、陰の気を大量に発生させても世界は大丈夫なんやろうか」

 郷に入れば郷に従え。社会のルールには従うべき。ここで、俺一人が騒いだトコロで、それが万人に受け入れられない内容なら無視されるか、最悪、俺自身が排除されます。
 まして、俺自身が排除されるだけなら別にどうと言う事も有りませんが、俺にはタバサの使い魔になったと言う事実が有ります。俺があまり、この世界のルールについて批判的過ぎると、彼女に迷惑を掛けて仕舞う恐れが有りますから。

 先ずはタバサから初めて、他に信用出来る人間が現れたら、少しずつ、広めて行くだけでも良いでしょう。

 しかし、陰の気を発生させ続けると、陰陽のバランスが崩れ、やがて世界全体の崩壊に繋がって行く可能性も有るのですが……。

 ただ、その世界の崩壊などの危機に対しては、その世界自体が危機に対処する為の防衛機構を用意するはずですから、俺がこんなトコロで心配していても意味はないですか。
 そんなもん、空が落ちて来ると心配していた杞の国の人達と変わらない。実際、俺自身には何の権限もないし、力もない。

 そもそも、現状の俺は異邦人でしかないのですから。

 結局、色々と考えた結果、酷く日本人的な事なかれ主義の答えに到達して仕舞った俺。それに、今は世界平和よりも、自らの身内(タバサ)の事が先ですからね。
 そうしたら、次の質問は、この世界の科学のレベルについてなのですが……。

「取り敢えず、これが何か判るかな」

 俺は、彼女に一歩近づきながらそう問い掛けた。俺の指し示した其処……、俺の左手首にはアナログ式の、2003年の世界からやって来た俺からして見るとかなり古い形の腕時計が巻かれて居た。それにこの時計は、元は俺の持ち物などではなく、昔、お袋が使っていた物を貰った時計ですから、古い物なのは当然なのですが……。

 其処まで考えた後、少し、頭を振って余計な陰の思考を振り払う俺。おそらく、仄かに漂って来た甘い香りが、俺の記憶を刺激しただけでしょう。彼女が、お袋に似ている事など有りませんから。

 そして、この時計に関しての地球世界での歴史は、懐中時計の発祥は貴族社会が続いていた時代にゼンマイ式の懐中時計が既に有ったはずですが、腕時計になると18世紀末ぐらいまで待つ必要が有ったと思います。

「これは時計だと思う。でも、腕に巻くタイプの時計を見たのは初めて」

 タバサが珍しい物を見た、と言う雰囲気を発しながらそう答えた。

 成るほど、この答えから推測すると、時計が発明されているのは確実ですか。しかし、腕時計は未だ存在しない時代みたいですね。
 それに、コルベール先生が何やら書き込んでいた時に使用していた紙も、かなり厚みの有る紙、おそらく綿などのボロ布を再生して紙を作っていた時代のものと思われるから、時代的には19世紀よりも前の時代なのは間違いないでしょう。

 ただ、絶対君主制の時代なのか、封建君主制の時代なのかで、時代区分は大きく変わるのですが。
 ヨーロッパの封建君主制の時代は、十字軍の時代だったように記憶しています。
 絶対君主制の時代なら、朕は国家なりの言葉で有名なルイ14世の時代と成りますか。

 まぁ、どちらにしても、異教徒で、しかも有色人種の俺に取っては住み易い時代でも、地域でも無い事だけは確かですか。せめて、啓蒙思想が有るか、もしくは中世の農奴制度が続く時代なのかが判れば対処の仕方も有るとは思いますが。

 其処まで考えてから、タバサを見つめ直す俺。そう言えば、先ほど……

 彼女は、人間とエルフが何度も争って来た、と証言しましたが、それならば、エルフと人間は何故争っているのでしょうかね。確かにエルフと言うのは、排他的で人間を好いていない種族なのですが、エルフの側から人間を積極的に排除しようとして戦争を吹っかける事はないと思います。
 そこまで好戦的な種族では無かったはずですから。

「それならば、タバサ。エルフと人間は何故、争っているんや?
 俺の知っているエルフと、この世界のエルフが同一の存在ならば、アイツらはそんなに好戦的な種族では無かったと記憶しているんやけど」

 一応、疑問に思った事を直ぐに聞いてみる俺。それに、この時代を知る為には、割と重要な質問と成る可能性も有りますから。

 もっとも、疑問に思ったから聞いてはみたけど……。これに関しては、俺にはあまり関係がない事の可能性が高いと思うのですが。
 何故ならば、タバサの使い魔に過ぎない俺が、この世界の国家間の紛争に関わる可能性はあまり……。

 其処で再び思考を中断して、自らの蒼き主人を、まじまじと見つめ直す俺。
 其処には、地球世界の学生服にも似た、白いブラウスと黒のミニスカートに身を包んだ紅と蒼の月下に佇む少女が存在していた。

 そしてその瞬間に、国家間の紛争に俺が関わる可能性も有る事に気付かされた。現在の、この俺が召喚された時代区分によっては。

「エルフがブリミル教の聖地を支配している為に、聖戦が何度も行われている」

 そんな俺の思考を知ってか、それとも知らずか。タバサがそれまでと同じように簡潔に答えてくれる。その答えは非常に判り易く、また、俺に取っては余り宜しくない答えを。

 つまり、この世界の時代区分が、十字軍の時代の可能性が高いと言う事を……。

 少し眉をひそめて、彼女を見つめ返す俺。大分、答えには近付いて来た雰囲気は有りますね。後、少しで、地球世界に置ける、このハルケギニア世界に対応する時代区分が判明するでしょう。
 そう思い、更に情報を絞り込んで質問を行う俺。

「タバサ、更に質問や。貴族とは国王から与えられた荘園の領主の事なのか?
 貴族は、国王に与えられた荘園の経営を行い、荘園内の農民を支配する。当然、農民からの税を徴収する権利なんかも持っている。
 その代わりに、貴族は国王に対して忠誠を誓い、軍務の義務などを果たす。
 例えば、その聖戦とやらに兵を送る義務が発生する、みたいな社会制度なのか、この世界は?」

 聖地奪還の為の聖戦。つまり、十字軍による遠征にタバサが帯同するような事になれば、当然俺にも国家間の紛争に関わる可能性も出て来ます。

 タバサが俺の問いにコクリとひとつ首肯く。これは肯定の意味。間違いない。この世界は十字軍の時代。

 もっとも、タバサは女性ですから早々軍務に付くとも……。いや、中世レベルの科学力で、魔法が軍属に取って一番強力な攻撃能力の場合は、タバサも軍務に付く可能性も有りますか。
 その為の魔法学院の可能性も有ります。
 所謂、軍に取っての士官学校みたいな物の可能性が。

「成るほど。せやけど、例えタバサが軍務に付く可能性が有ったとしても、俺が傍に付いているんやから、そんなに危険な事もないか。
 俺に求められている仕事と言うのは、つまり、そう言う事なんやろう?」

 所詮はアンダー15で、魔法学院の学生に過ぎない少女なのですから、生命の危機にまで及ぶような危険な事など、今のトコロはないはず。
 例え、この魔法学院が軍の士官学校だったとしても。

 歴史的に見て十五歳で元服した例など腐るほど有るのですが、其処まで戦時色が濃い雰囲気でもないと結論付けようとした俺。

 しかし、
 タバサがふるふると首を二度横に振る。これは否定。そして、

「わたしは、貴方に伝えて置かなければならない事がある。
 わたしは、ガリアと言う国で騎士をやらされている」

 ……と、口調は普段通りなのですが、心の動きが普段通り、あまり上下しない冷静な雰囲気とは少し違う感じで、そう告げて来たのでした。

 少し、眉をひそめるようにして、彼女を見つめる俺。それは、彼女の告白の中に、不自然な言葉を見つけたから。
 そう。務めているでも無ければ、任じられているでも無く、遣らされている、と言う言葉を……。

「それで、その騎士の任務で生命の危険が有ると言う事か。
 せやけど、その程度の事は問題ないで。退魔師の仕事と言うのは、異形の者の相手や。
 そこには、必ず生命の危機は付き纏う。少なくとも、今日のレンのクモとの戦闘のような事が当たり前のように起きる日常を、俺は過ごして来たんやからな」

 そして、敢えて、先ほどの台詞に対してはスルーをして、そう答える俺。
 それに、これは事実です。少なくとも、この少女が出来る仕事なら俺に出来ない訳はない、と思いますから。

 タバサが俺の方をじっと見つめている。
 ………………。
 …………未だ見つめている。
 ……やれやれ。これは、聞いてくれと言う事か。

「タバサに何か事情が有る事は判っている心算や」

 女性の過去に付いて根掘り葉掘り聞くのは柄じゃない。
 なのですが……。

「それでも、俺の前に使い魔召喚用のゲートが開いたのは偶然ではないと思う。
 人間同士の(えにし)と言うのに、偶然などないはずやからな」

 そう、今回の使い魔召喚に関しては、偶然の積み重なった結果などではないと思っています。
 但し、それが、悪意から発した縁なのか、それとも、まったく別の理由から起きた事態なのかは、未だ判らないのですが。

 彼女は何も口を挟もうとはしない。
 しかし、自分の事を親友だと言ってくれる相手にさえ明かしてない秘密を、使い魔とは言え、出会ったばかりの俺に話しても良いとも思えません。
 先ずは、彼女の事を大切に思っていてくれる相手……あの赤毛の少女に対して話すのが筋だと思うのですが。

 確かに、そこまで俺の事を信用してくれると言うのなら、それはかなり嬉しい事に成ります。
 しかし、残念ながら、俺は彼女に対してそこまでの信用を得られるほどの事を為した覚えは、今のトコロは有りません。

 それとも、彼女……タバサの抱えている秘密と言うのは、知って仕舞うだけで、その相手に対してかなりの危険、具体的には生命さえも危険に晒すような内容と言う事なのでしょうか。

 確かにその場合ならば、キュルケには、その秘密を伝えていない理由も判り易く、そして、敢えて、俺のような今日出会ったばかりの人間。しかし、彼女の使い魔と言う、ある意味運命共同体のようになった存在には伝えて置かなければならない内容と成るとは思うのですが。

「例え、本名で俺を召喚したので無くても、俺とタバサの間には使い魔契約。つまり、縁が結ばれている以上、ここには何の問題もない。
 タバサが、俺の事を信用するに値する人間やと思った時に話してくれたらそれで良い。
 もっとも、俺の正体は人間に擬態した龍やから、生物学的に言うと、ヒューマンとは若干異なる部分も有るけど、精神……。つまり、心の部分では人間の心算やからな」

 おっと、イカン。これでは、彼女を拒絶したみたいな感じにも聞こえる可能性も有りますか。
 そんな心算はないのですが、少しフォローを入れて置く必要が有りますね。

「少なくとも、俺はタバサの使い魔に成る事を承諾した。せやから、俺を異世界から召喚した事については、罪悪感を覚える必要は無いんやで」

 それまでと変わらぬ少し軽い調子で、淡々と事実のみを積み上げて行く。

 それに、タバサが俺に対して何か後ろめたい事が有るとするなら、この点だけだと思います。
 しかし、自分の意志で彼女の使い魔に成る事を承諾した以上、俺の方には何の蟠りもないのですが。男子が一度口に出して承諾した事実は非常に重い物が有り、それを簡単に覆す事など出来る訳は有りません。

 まして、俺は龍。龍とは契約を守るモノ。彼女と交わした約束は、俺に取っては、それだけ重い約束である、と言う事ですから。

 しかし……。

 
 

 
後書き
 この辺り、明らかにTRPGやPBMのマスターの習性が出ていますね。
 少し、世界や魔法の説明に時間を取り過ぎていると言う事です。

 世界観やタバサの状況の説明は第10話で終わります。もう少し、スマートな形で説明を為す方法を覚える必要が有りと言う事ですか。ゼロ魔二次小説と言う事は、少なくとも、ゼロの使い魔の世界観や歴史の流れは知って居る可能性が高いのですから。

 尚、この話の中で言及した点。陰の気とか、陽の気とか言う部分は……。重要なのですが、しばらくは気にする必要は有りません。
 後、世界の防衛機構についても。

 それと、(えにし)に関しては、偶然などとは無縁の存在です。
 この物語は、初めから『輪廻転生』を扱う物語ですから。

 それでは、次回タイトルは『To be,or not to be』です。

 追記。
 矢張り、結構、キツイ。今日明日中に、第15話を仕上げて、明後日から第58話の作製に取り掛かり、同時に二話分を暁用に変更するついでに見直しを行う。
 まして、表の方も時期的に忙しいですから……。
 
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