| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第100話:若者たちの訓練について


・・・翌日。

俺は、前日と同じくはやてに呼び出されて、艦長室に向かった。
部屋に入ると、フォワードの隊長・副隊長が勢ぞろいしていた。

「おやおや。お偉方が勢ぞろいですか・・・」

「何言うてんの。ゲオルグくんがそのお偉方のナンバー2やで」

呆れたような口調で、はやてが話しかけてきた。

「それは知らなかったな。びっくりだよ」

「冗談口はそれくらいにしておけ。皆忙しい。お前も含めてな」

冷ややかな声がした方に目を向けると、声に負けず劣らずの冷たい目で
シグナムが俺を見ていた。

「それは失礼」

俺は隊長・副隊長たちの輪の中に入っていく。

「それでや。今日はなのはちゃんの招集で集まってもらったんやけど、
 協議内容をはなしてくれるか?なのはちゃん」

なのはは、はやてに向かって頷くと話を始めた。
俺自身は前夜に聞いたのと同じ内容なので、特に目新しいことはない。
ヴィータとフェイトも俺と同じようで、落ち着いてなのはの話に
耳を傾けているようだ。
なのはの話が終わると、艦長室はしばしの沈黙に包まれた。
静寂ののち、最初に口を開いたのははやてだった。

「うーん。そこまでするんはどうやろか?」

「どういうこと?」

なのはは首を傾げてはやてを見る。

「魔導師ランク試験っちゅうのは、実力を見るためのもんやろ。
 そやったら、あんまり対策立てて訓練するっちゅうのは、ええことやない。
 そう思うんやけど・・・」

「そうかなぁ・・・」

はやての言葉に納得していないのか、なのはは渋い顔をする。

「わたしは、あの子たちに教えられることは全部伝えたいの」

「なのはちゃんの気持ちはわかるけど、あんまり肩入れしすぎるのは
 ようないと思うで」

「でも、あの子たちはわたし達の仲間で教え子なんだよ。
 今までだって、いろんなことを教え込んできたのに、
 なんで今回はだめなの?」

「今までの訓練は、部隊戦力の増強のためにやってきたことやろ。
 それは戦闘部隊として必要なことやからええねんって。
 そやけど今回は違うやろ。今までの訓練の延長ならともかく、
 試験対策のための特別な訓練をやるっちゅうのはな・・・」

はやてが言うのは正論だと思った。
だが、なのはの思いもわかるだけに、俺の心情は複雑だ。

「なのはには悪いんだけど、私ははやての意見に賛成かな」

フェイトの言葉に、なのはは意外そうな表情を見せる。

「フェイトちゃんはエリオやキャロを助けてあげたくないの?」

「もちろん助けてあげたいよ。でも、はやての言うようにあんまり
 深入りしない方がいいと思うんだ。私の立場ならなおのことね」

「そっか・・・。そうなのかな・・・」

フェイトにも自分の考えを否定され、なのはは弱気な表情を見せる。

「私はなのはの考えに賛成です」

その時、シグナムが落ち着いた口調で、なのはへの賛意を表した。
はやてとフェイトは意外だったのか、わずかに目を見開く。
かく言う俺も少々意外だった。
シグナムは周囲の反応を意に介していないかのように、
落ち着き払って話を続ける。

「主はやてやテスタロッサの考えは正論でしょう。
 私もそう思わないではありません。
 ですが、フォワードの4人は我々の部下であり、仲間です。
 以前いた部隊でも、このような場合は全力でサポートしていました」

「ほかの部隊がやっとるからって、私らがやってもええっていうことには
 ならんやろ」
 
「仲間を助けるのがそんなに悪いことですか?」

「そうは言わんけど・・・」

はやては言い淀み、わずかにその目を泳がせる。
そして、はやての目が俺の目を捉えた。

「ゲオルグくん。さっきから一言もしゃべってへんけど、
 ゲオルグくんの意見はどうなん?」

「特に言うことはない」

「そんな・・・」

その時、はやての机の上にある端末が音を立てた。
立ち上がったディスプレイには、グリフィスの顔が映っている。
はやてはグリフィスと二言三言交わすと、通信を切った。
その顔は、苦虫をかみつぶしたような表情をしていた。

「本局の捜査部からお呼び出しや。今すぐ行かなあかんから、
 この話はまた今度っちゅうことで」

部屋の中にいる全員が頷く。
ぞろぞろと艦長室から出ていく人の列に続いて、俺も艦長室を出た。
すぐ隣の副長室に足を向けた時、背後から肩を掴まれた。
振りかえると、フェイトが無表情に俺を見つめていた。

「ちょっといい?」

「なんだ?」

「話したいんだけど」

「なら、俺の部屋に来るか?」

「うん」

フェイトの返事を聞き、俺はフェイトを伴って副長室に入る。

「まあ、座れよ」

俺がソファに座るよう勧めると、フェイトは神妙な顔で頷き
部屋にあるソファに腰を下ろした。
俺は2つのカップにコーヒーを注ぎ、それを持ってフェイトのいる
ソファに向かった。

「どうぞ」

「うん。ありがと」

フェイトは俺が淹れたコーヒーをひと口飲むと、フェイトの表情が
わずかに緩む。

「おいしいね。このコーヒー」

「だろ?実は前にいい豆を売ってる店を見つけてな」

「へー、いいね。私にも教えてよ」

「ああ、いいぞ。後で地図をメールで送っとく」

「ありがとう、ゲオルグ」

そう言ってにっこり笑ったフェイトだったが、次の瞬間には
硬い表情へと戻っていく。

「で、ゲオルグ。ちょっと聞きたいんだけど」

「なんだ?」

「さっきはなんで何も言わなかったの?」

真剣な表情で問うフェイトに向かって、俺は首を横に振る。

「言うことがないからだよ」

「意味がわからないよ。どういうこと?」

俺は思わずため息をつく。

「6課における訓練責任者はなのはだ。
 なのはがその気になりさえすれば、ほかの人間の思惑とは関係なく
 なのはの考え一つで訓練方針は決定できる。
 隊内の戦闘訓練なら、計画書を出す必要もないからな。
 そんな状況であんな議論をする意味があるか?」
 
「確かに・・・」

フェイトは小さな声でそう言うと、何かを考え始めたのか腕組みをして、
うつむき加減でテーブルの上のカップを見つめていた。
静寂の中で、俺は自分の淹れたコーヒーに手を伸ばす。

「まあ、もうそれはいいや」

急に顔をあげたフェイトは、そう言ってカップに手を伸ばした。
コーヒーをひと口飲んだフェイトは俺に目を向ける。

「でも、ちょっと意外だったかな。ゲオルグはなのはを支持すると
 思ってたから」

「なんでそう思ったんだ?」

「だって、ゲオルグはなのはの婚約者じゃない」

「あのなぁ。仕事とプライベートはきちんと分けてるつもりだぞ」

「そうだよね。私も気をつけないと・・・」

「いや、フェイトはきちんと分けられてると思うぞ」

「そう?」

フェイトは少し目を見開いて、首を傾げる。

「ああ。はやてにもなのはにも、言うべきことは言ってると思うよ」

「そっか。ありがとね、ゲオルグ」

「別にお礼を言われるようなことじゃないよ。本当のことだからさ」

俺の言葉にフェイトは小さく声をあげて笑っていた。

「そういえばさ・・・」

しばらくして、ひと口コーヒーを飲んだフェイトが、柔和な表情で俺を見る。

「なのはにプロポーズしたんだよね?」

「まあな。それがどうかしたのか?」

「なのはがね、最近左手の指輪を見て、にやにや笑ってるんだよね」

「あいつは・・・」

俺は思わず頭を抱える。

「まあまあ、別にいいじゃない。
 それだけ、なのはもうれしいってことなんだし。それよりも・・・」

フェイトは真剣な目で俺を見据える。

「なのはを幸せにしてあげてよね。じゃないと、私がお仕置きしに行くよ」

「わかってるよ。なのはの幸せが俺の幸福だからな。
 俺は俺自身の福祉のために、なのはを幸せにするよ」
 
「うん。頼んだよ」

そう言って再び笑顔を見せたフェイトは、残ったコーヒーを一気に飲むと、
ソファから立ち上がった。

「そろそろ戻るよ。コーヒー、ごちそうさま」

「どういたしまして」

部屋を出ようとするフェイトの背中に向かって、俺はもう一度
声をかけることにした。

「フェイト」

「うん?」

俺の部屋のドアに手をかけたまま、フェイトは俺の方を振り返る。

「えっとな・・・、フェイトも早く自分の幸せを見つけろよ。
 言ってる意味、判るよな?」

「えっ・・・。あ、うん。わかったよ・・・。ありがとう・・・」

フェイトはそう言って部屋を後にした。
だが、俺は最後のフェイトの様子が引っかかる。
どうにも、フェイトらしくないように思えてならず、何度か首をひねるのだが、
いつまでもそんなことを考えているわけにもいかず、俺は仕事に戻るのだった。





・・・夕方。

今日のうちにやるべき仕事は概ね片付けてしまい、そろそろ帰ろうかと
思い始めたとき、来客を告げるブザーが鳴った。
ドアに向かって入るように言うと、ドアの向こうから意外な人物が現れた。

「すいません、ゲオルグさん。ちょっと、お話があるんですが・・・」

そう言って部屋に入ってきたのは、スバルだった。

「構わないけど、ちょっと待ってくれ」

スバルに向かってそう言うと、俺は端末に手を伸ばす。
立ち上がったディスプレイに、なのはの顔が映った。

『あれ?どうしたの?』

「悪いけど、ちょっと遅くなるかもしれないから、待っててくれないか?
 用事が終わったら連絡する」

『いいけど、どうしたの?』

「スバルが俺の部屋に来ててな。何か話があるらしいんだ」

『スバルが? うん、わかったよ。アイナさんには連絡した?』

「あー、まだだ。悪いけど頼んでいいか?」

『いいよ。じゃあ、またあとでね』

俺は通信を切ると、スバルの方に向き直る。

「待たせて悪いな」

「いえ。こんな時間にすいません」

「いいよ。それで、話ってなんだ?」

そう尋ねると、スバルは言いづらそうに目を泳がせる。
数分して、ようやくスバルが口を開く。

「実は、お願いがありまして」

スバルは俺の方を窺うように見る。

「何かな?」

「個人戦の訓練をゲオルグさんに見てもらいたいんですが」

俺はスバルの顔をまじまじと見た。
スバルは真剣な表情で俺を見つめていた。

「スバルはヴィータに見てもらってるんだよな。不満でも?」

俺がそう言うと、スバルは首を横に振った。

「不満なんてないです。ヴィータ副隊長には感謝してます。けど・・・」

「けど?」

「この前ティアと模擬戦をやったら前より差がついたなあと・・・」

「それで焦ってるのか?」

「焦ってるつもりはないんですけど・・・」

スバルはそう言うと、目線を落とした。
俺は腕組みして少し考え込んだ。

「教導に関することは俺に決定権はないよ。戦技教導官はなのはだからな。
 俺は構わないから、一度なのはやヴィータと相談してみるか」

俺がそう言うと、スバルは急に顔をあげた。

「ちょっと待ってください! できれば、なのはさん達には内緒で・・・」

「はぁ? 何言ってんだ? そんなことできるわけないだろう」

「そこをなんとか・・・」

俺は思わず深いため息をついた。

「あのなぁ、個人戦の訓練を見るんだったらなのはに隠し立てするのは
 無理だろうが」

「ですから、自主トレとして見てもらえないかなーと・・・」

俺は怒りを感じ始め、思わず机をドンと叩いた。

「ふざけるな! そんな暇があるわけないだろ」

声を荒げてそう言うと、スバルはビクッと身をすくませる。

「・・・すいません」

「とにかく、俺は正規の訓練以外でお前らの面倒を見る気はない。
 お前に限らずな。俺に訓練を見てほしければ、なのはに話をしろ。
 まずはそれからだ。いいな?」

スバルは黙って頷くと、肩を落として部屋を出て行った。
一人きりになった部屋で、俺は深い深いため息をつくと、
なのはに連絡するために端末に手を伸ばした。





なのはと合流して車に乗り込み、発進するとすぐになのはが話しかけてきた。

「スバルの話ってどんな話だったの?」

「ん? ああ、碌な話じゃなかったよ」

そう言ってスバルの話の内容を話すと、なのはは難しい表情をしていた。

「そっか・・・。スバルがね・・・」

そう言ったきり、なのははしばらく黙って何かを考えているようだった。
5分ほどたったころ、おもむろになのはは口を開く。

「あのね、最近の訓練って個人戦中心でやってるじゃない?」

なのはの言葉に俺は頷く。
俺自身も、以前と同じくティアナとのマンツーマンでの訓練に参加している。

「それで、週に何回かあの子たち同士で模擬戦をやってるんだけどね、
 スバルのティアナとの対戦成績が悪くってさ。
 私もちょっと気にはしてたんだけどね」

「そうなのか・・・。エリオやキャロとの対戦成績は?」

「悪くないよ。エリオに対しては勝ち越してるし、キャロとも
 5分より少し悪いくらいだからね」

「え? エリオ相手よりも、キャロ相手の方が成績が悪いのか?」

「やっぱり、ゲオルグくんも意外に思う?」

「まあね。キャロは一番個人戦向きじゃないと思ってるから」

「だよね。砲撃魔法とかを覚えたから最初のころほどじゃないけど、
 キャロは基本的に後方支援型だし」

「そうだな。で? 模擬戦を見てた高町1尉としてはその原因を
 どうお考えですか?」

「百聞は一見にしかずだよ。一回、模擬戦を見に来てみない?」

「忙しいんだけどね・・・。まあ、一度見に行ってみようか。
 次の模擬戦はいつだ?」

「1週間後だよ」

「わかった。明日予定を確認してみるよ」

「うん。 あ、そろそろアイナさんちだね」

「遅くなったから、ヴィヴィオがむくれてるかもな」

「大丈夫だよ」

なのはは自信ありげに頷いた。

「どっからくるんだよ、その自信は・・・」

「だって、わたしたちの娘だもん」

胸を張って言うなのはに、俺は思わず声をあげて笑ってしまった。
そんな俺をなのはが訝しげに見ている。

「ど、どうしたの?」

俺は、心配そうな声で尋ねるなのはに向かって手を伸ばすと、
その頭に自分の手をのせた。

「やっぱり、お前はすごいやつだよ」

そう言って俺は、なのはの頭をゆっくりとなでた。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧