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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第18話 帰還

海鳴市某所に設けられた高級マンション。其処から眺める夜景は絶景であり、一度はそんな部屋に止まりたいと言う願望を抱く者も何人か居よう。
だが、その殆どが一日の宿泊料を見ただけで青ざめる結果となっているのだが。
そんな高級マンションの一室にフェイトは眠っていた。相当疲れていたのかバリアジャケットを纏ったまま横になって眠っている。彼女の目の回りは水で湿らせたかの様な感じになっていた。
恐らく、夜通しで涙を流していたのだろう。
そんな彼女の寝ている部屋の隣では、アルフが壁を背にして蹲っていた。
アルフは内心後悔していた。フェイトが涙を流す原因を作ったのは彼女だったのだ。
あの後、時の庭園を抜け出したアルフにフェイトは駆け寄りなのはの安否を問うた。その結果、彼女の口から聞かされたのはフェイトの心を折るに足る言葉であった。

「御免…フェイト。約束…守れなかった」

その言葉だけでもフェイトはそれが何を意味しているのか理解出来た。約束を守れなかった。つまり、高町なのははもうこの世に居ない事を現している。それを頭の中で認識した途端、一気に感情が溢れ出て来た。フェイトの目からは止め処なく涙が溢れ出て、それから自室に閉じこもり夜通しで泣き続けたのだ。
だが、今は泣き疲れて眠っている。年頃の少女らしく静かな寝息を立てながら眠っているのだ。
今頃は楽しい夢でも見ているのだろう。だが、夢から覚めれば待っているのは悲しい現実だけだ。
それはアルフは知っていた。これから先、フェイトは自責と深い悲しみを背負いながら生きていく事となる。それはあの年齢の少女にはとても辛い事に他ならなかった。




     ***




どれ程の時間が経っただろうか。そして、どれ程の景色が過ぎ去っていっただろうか。
そのどれもが、今となっては無駄な考えでしかなかった。
なのはは今永遠と落下していたのだ。目の前に広がるのは時の庭園から見た不気味な色をした景色が凄まじいスピードで下から上へと過ぎ去っていく光景だった。その光景から察する事が出来るだろう。
なのはは今猛スピードで何もない空間を落ちていたのだ。
真下に広がるのは白と黒の空間が入り混じったり分裂しあったりしている空間。
虚数空間。
そう呼ばれている空間が其処にあった。其処に落ちたら最後、あらゆる魔法が無力化されてしまう。勿論飛行魔法も使えない。しかも、今のなのははバリアジャケットを纏う事も出来ない。従って魔法など使う事すら出来ない状態なのだ。
そんな中、落ち続けている最中だと言うのに、当のなのはは不思議な程落ち着いていた。
嫌、諦めていたと言った方が正しいだろう。全てを諦め、運命に身を任せようとしていたのだ。
このまま永遠に何もない空間を落ち続け、最後には髪の毛一本もこの世には残らない。どんな死に方をするのか。とても苦しい死に方なのか。それとも一瞬で楽に死ねるのか。それは全く分からなかった。
只、分かる事といえば、もう二度と家族にも、仲間達にも会えないと言う事だけであった。

「私……死んじゃうのかなぁ?」

ボソリと、なのはは呟いた。
死。
それは幼い少女が考えるような事ではなかった。当然死と言う意味を知らないと言う事もある。だが、なのはは死と言う意味を知っていた。もう何度も目の前で人が死んでいく光景を目の当たりにしたからだ。
兜十蔵博士、緑川教授、早乙女達人。
彼等は皆なのはの目の前で死んでいった。死んだ人が最後にどうなるのか、それはなのはも触れて分かっている。
とても冷たく、硬くなってしまうのだ。まるで機械の様に。だが、自分はそんな風に死ねるのか?
自分に自問自答しだした。もしかしたらこのまま骨も残らず消え去るだけかも知れない。そうなれば、元の世界に居る皆はどうなるだろう。自分を探して苦しみ続けるのだろうか? それとも…自分の事などすぐに忘れてしまうのだろうか。
なのはは考えていた。死とはどう言う事だろうか。死ぬとはどんな気分なのだろうか。死んだ後、人は何処へ行くのだろうか。
そんな事を考えていた。

「どうせなら…最後にもう一目だけ…皆に会いたかったな……」

最後にそう呟き、なのはは目を瞑った。もう過ぎ去る景色など見たくない。閉じた先に見えるのは何も見えない漆黒の闇だけだった。それで良い。どうせ死ぬなら何も見ない方が良い。このまま深い眠りについて、そして死のう。そう思った。
やがて、なのはの意識が肉体から離れていく。もう二度と意識と肉体が一つに交わる事はない。そう思っていた時だった。
落下していく彼女の周囲を暖かな光が包み込んで行った。柔らかい光だった。その光を浴びているととても心地よく感じられた。
そして、不思議な事にその光の中に居たなのはの落下は止まっていた。先ほどまで地面に頭を向けていた筈なのに、今では横になっている。
そして、柔らかな光の中から現れたのは、銀色の肌をした巨人であった。
その巨人は一目で女性だと分かった。母を思わせる風貌、そして膨らんだ二つの胸。優しそうなその瞳は正しく母その者であった。
その巨人がそっと、とても優しくなのはをその大きな手で掬い取り目の前に持って来た。

【諦めてはいけません。まだ、貴方は死んではいけない存在なのです】

巨人は優しくも、芯の通った口調でなのはに語りかけた。だが、それは巨人の口から放たれた言葉ではない。なのはの心に直接語りかけていたのだ。その証拠に巨人の表情は全く変わっていない。

【貴方は、その身に強い光を宿している。その光は多くの闇に囚われた人々の心を照らす輝きとなります。ですが、その貴方の光を狙って多くの邪悪が貴方を狙うでしょう】

巨人が何を言っているのかさっぱり分からなかった。強い光。闇に囚われた人々。光を狙う邪悪。不思議な単語が幾つも並べられた。

【そして、貴方の中に眠る光は、時として貴方に牙を剥くでしょう。光は決して善ではないのです。そして、貴方の身にこれから降り掛かるのは幾多にも及ぶ辛く険しい運命】

一体全体この巨人は何を言いたいのだろうか。なのはにはさっぱりであった。邪悪を照らす光だと言うのに、その光が決して正義ではないと言う。最早訳が分からなかった。
更に付け加えれば、これから先自分が歩む道は辛く険しい道だと言う。何とも残酷な言葉であった。

【ですが、決して挫けてはいけません。貴方が挫けた時、それは世界の終焉を意味します。強い心…不屈の心を持って運命に挑むのです。私達は、何時でも貴方を見守っています。頑張りなさい……光の子よ】

その言葉を最後に巨人の手から温かく柔らかな光が放たれた。その光はなのはを包み込んでいく。やがて、なのはの体が全て光の粒子となりその粒子はパッと散らばり姿を消してしまった。
残ったのは銀色の巨人だけであった。
しかしその巨人もすぐさま霧の様に姿を消してしまう。あの巨人は何者なのか? それは、今この時では分からない。そう、今この時では……




     ***




アースラ隊の懸命な捜査にも関わらず、一向になのはを見つける事は出来ずに居た。既に彼女が機械獣に誘拐されてからもう1週間は経っている。その間、メンバーの焦りは徐々に募りだしていた。
特に甲児とユーノの二人の焦りは半端じゃない。
甲児は苛立ちを隠さずブリッジの隅を歩き回っており、ユーノもまたはやる気持ちを抑えながらモニターに目を通していた。そんな二人を察してか、ブリッジは酷く静かなものであった。
普段は軽口などが目立つブリッジの中で誰もが一言も喋らないのだ。今はそんな事を言える雰囲気じゃない。そう察しているからだ。
そして、それはハヤタ達も同じだった。苦い思いを噛み締めながら仕切りに移り変わるモニター郡を一面も逃さず見ている。彼等とて心配だったのだ。
まだ10歳にも満たない幼い少女が不気味で狡猾で恐ろしい化け物達の巣窟に一人迷い込んでしまった。今頃恐怖心と寂しさがピークに達し動けなくなって泣いているだろう。そう思うと余計に苦い思いが増してくるのが分かる。一刻も早く見つけ出して安心させてあげたい。そう思いながらも懸命な捜査は続いた。
しかし、出て来るのと言えば彼等の待ち望んだのとは程遠い情報ばかりだ。

「駄目だ! やっぱり俺が探してくる!」

遂に我慢の限界に達したのか甲児が叫んだ。だが、それを竜馬が止める。

「落ち着くんだ甲児君」
「離してくれよリョウ君」
「君一人が行った所で事態は好転しないだろう。闇雲に探しても無駄にエネルギーを浪費するだけだ」

竜馬のその言葉は的を射ていた。禄に情報の無い現状で探し回った所でそれはエネルギーと体力の無駄遣いになる。それではいざと言う時に支障を来たす恐れがある。
そんな事は断じて許されない事だったのだ。

「分かってるよ。分かってるけど!」
「少しは頭を冷やせ。いきりたってたって良い事なんざ一つもねぇんだ」

今度は隼人が甲児を諌めた。キツイ言葉だった。しかしそれも甲児を思ってこその言葉でもある。それを受けた甲児は言う通りにし黙り込んでしまった。再び静寂が辺りを覆う。誰もが早急に見つけ出したいと言う思いの元作業は続けられた。
その時だった。オペレーターのエイミィの下に一通のメールが届いたのだ。

「何? こんな時に……」

本来なら無視するのだが、何故かエイミィはその届いたメールが気になった。こんな時に、しかも一通だけ。
不思議に思うのも無理はない。そう確信しつつエイミィはメールの中身を見た。
其処には簡潔に内容が記されていた。

【人探しで相当苦労しているようだな。今から俺が教える座標を調べてみな。きっとお宅らが探してるのがあるかも知れないぜ。但し、急がないと場所が変わるかも知れないがな。信じる信じないはお宅らの勝手だ。

通りすがりの私立探偵より】

「何? このふざけた内容は…」

一瞬、怒りをぶつけようとさえ思えた。だが、妙に気になった。まるでこちらの心情を知っているかの様な文章だったのだ。そして、「探してるのがある」と言う文面も気になった。
どの道このまま探してても埒が明かないのだ。ならばこの情報に賭けてみるのもありだろう。
藁にも縋る思いでエイミィは記されている地点を調べた。
其処は太平洋のど真ん中であった。見えるのは殆ど海しかない。陸地など一つも見当たらない地点だ。
だが、その地点の中に一つ、たった一つだけだが、微弱ながらも生体反応が検出されたのだ。
まさか、これは…

考えるよりも先にエイミィは行動した。
即座に後ろを振り向き艦長であるリンディの方を見上げたのだ。

「艦長! 太平洋近海で微弱な生体反応が検出されました!」
「本当? すぐに解析急いで!」

他のクルーに解析を命じる。が、それよりも早くに甲児とユーノは飛び出した。確証はない。だが、そう感じられたのだ。その反応は恐らくなのはだと。
だが、先ほども言われた通り微弱な反応と言われている。恐らく酷い怪我をして動けないのかもしくは生死の境を彷徨っているのか。どちらにしても急いで向わねば手遅れになってしまうのは明らかであった。

「急げ、ユーノ! 最高速で向うぞ」
「はい!」

パイルダーに飛び乗りエンジンを始動させながら甲児は叫んだ。その声を聞きユーノもパイルダー内に飛び乗る。その直後、キャノピーが閉じられ、パイルダーはアースラから発進した。向うは太平洋。真っ直ぐパイルダーは指定されたポイントへと向かった。其処には陸地など一切ない殆ど海だけの世界であった。
一面青い空と海しかない。本当にこんな所に居るのか?
疑念と不安を胸に海面すれすれに飛び続けるパイルダー。そして、遂に見つける事が出来た。
それは海面の上に流れていた流木に寄り掛かるようにして浮かんでいた。
ズタボロになった衣服に、傷だらけになったなのはが其処に居たのだ。

「なのは! なのはだ! あいつ、無事だったんだ!」
「良かった。やっと見つけられた!」

甲児とユーノは思わず歓喜した。嬉しさの余り目から涙を零すなどもしていた。甲児は急ぎパイルダーをなのはの側で定着させる。そして、ユーノはパイルダーから飛び出し、なのはを抱き上げてパイルダー内に戻ってきた。
その際に海面に入った為にユーノの服も水浸しになったがそんな事関係ない。今はなのはを見つけられた事だけしか頭になかったのだ。

「なのは…こんなにボロボロになるなんて……それに酷い怪我だ」
「待ってろ、すぐにアースラに連れてってやるからな!」

身動き一つしないなのはの身を案じ、甲児はパイルダーを飛ばす。急いでアースラに戻る為だった。空を飛ぶパイルダーの目の前に丸く開いた次元空間が顔を出す。其処へ飛び込んでいくパイルダー。
だが、その光景を遠くから見つめる影があった。

「フッフッフッ、あれが今世を騒がせているマジンガーZのパイロットか。あんな小僧に苦戦するとはDr.ヘルも大した器ではないわ」

其処に居たのは上半身は古代ギリシャを思わせる甲冑を纏っていた。だが、下半身は違っていた。虎だったのだ。彼の下半身は巨大で獰猛な虎の姿をしていたのだ。

「見ているが良いわマジンガーZ! 何時の日か我等ミケーネ七つの軍団が地上を制する。その時貴様は死の苦しみを思う存分味わう事となるのだ!」

声高らかに言い放ち、そして高笑いをした。
その怪物が言っていた言葉を、知る者はこの場所には誰も居ないのであった。少なくとも、今この場ではの話だが―――




     ***




目を開くと、其処は白い天井があった。そして、体に当たる感覚から察して此処がベットの上だと言う事が分かった。更に鼻に付くアンモニア臭や薬品の匂いから此処が医務室であると言うことが理解出来た。
今度は何処へやってきたのだろうか。疑問を感じながらなのはは身を起こす。すると、其処でなのはを出迎えたのは見慣れた仲間達の笑顔であった。
甲児、ユーノ、ハヤタ、ダン、竜馬、隼人、武蔵、本郷。他にもアースラ隊の皆がなのはを見て微笑んでいた。

「み……みんな……」
「良かった、なのはが無事で本当に良かったよ」
「あぁ、ズタボロのお前を見た時ぁ本当に肝を潰す思いだったぜ」

皆がなのはが目覚めた事を知り安堵の声を出す。皆の緊張の糸が今正に切れた瞬間であった。そして、同時になのはは自分が皆の元に無事に帰って来れた事を認識させた。まだ体には微かな痛みが感じられるもののそれも次第に消えていくだろう。それよりも今はこうして皆の元に帰れた喜びが胸一杯に溢れ出ていた。
そして、それは抑えられない怒涛の波となってなのはの心を突き破ってきた。それはやがて、なのはの目から溢れ出た涙と大きな声で泣く泣き声となった。
怖かった。寂しかった。不安だった。それらの思いから開放された途端、胸一杯に押し寄せる感情に従い、なのはは号泣した。そしてそのまま近くに居たユーノにしがみついたのだ。

「な、なのは!」
「怖かった……凄く怖かったよぉぉぉぉ!」

肩を震わせて大声で泣きじゃくるなのは。如何に戦闘を経験していようと中身は若干9歳の少女なのだ。この反応は至極当たり前とも言えた。
そんな大声で泣きじゃくるなのはをユーノは只、そっと頭を撫でてあげる事しか出来なかった。
だが、それで充分だった。無事になのはが帰ってきた。それだけで皆は嬉しかったのだから。
だから、皆は声に出さず心の中で一言添えた。




「お帰り、なのは」




つづく 
 

 
後書き
次回予告

無事に仲間の元に帰れた少女。
暫しの間平和な時を噛み締める事になった。
だが、そんな少女の元に新たな魔の手が迫り来る。

次回「悪質宇宙人」

お楽しみに 
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