ドラド
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第一章
ドラド
アマゾンにいる魚である。
ドラドは黄金に輝く魚として有名だ、そのドラドをだ。
リオデジャネイロで暮らす銀行の頭取リオ=トニーニョ初老にアフリカ系で大柄で縮れた黒髪を短くしている彼は家で飼っている。それで言うのだった。
「いや、アマゾンの奥にいるドラドをね」
「飼ってですか」
「嬉しいですか」
「そうですか」
「うん、嬉しいよ」
家によく人を呼んで笑顔で話した。
「本当にね」
「我が国でもです」
「アマゾンは独特な場所で」
「そうは行けないですからね」
「そこにいる生きものも」
「こうして家で飼うには」
それにはというのだ。
「そうは出来ないからね」
「その通りですね」
「ドラドにしても」
「実際そうですし」
「そのドラドを飼える」
家でとだ、トニーニョは彼等に笑顔で話した。
「本当にね」
「嬉しいですよね」
「本来アマゾンにしかいないものを」
「こうしてお家で飼えて」
「それで」
「アマゾンでもなければ水族館か」
そうした場所でもなければというのだ。
「飼えないからね」
「それを自宅で飼えて」
「トニーニョさんは幸せですね」
「左様ですね」
「とてもね」
満面の笑みでいつもこう言うのだった。
だがここでだ、ある魚類に詳しくかつマニアと言ってもいい者が彼の家のドラド、アマゾンの中の様にセッティングされた大きな水槽の中で泳いでいる彼のドラドを見て言った。
「違うな」
「何が違うのかな」
「このドラドは色が薄くなっているよ」
彼は批評家の顔で言った。
「飼っているうちにね」
「そうかな」
「そうさ、ドラドといえば金色だが」
その身体を見て言うのだった。
「その金色が野生だと濃くなり」
「飼っていると薄くなるんだ」
「そうだよ、このドラドもだよ」
まさにというのだ。
「同じだよ」
「薄くなっているんだ」
「そうだよ」
こう言うのだった。
「これがね、駄目だね」
「いやいや、薄くなっているとかね」
だがトニーニョはその客に言った。
「関係何よ」
「いや、ドラドはその金色の身体が」
客は彼に顔を向けて反論した。
「大事で」
「濃いならかい?」
「そうだよ、その金色がだよ」
まさにというのだ。
「どうかで」
「いや、ドラドなんだよ」
トニーニョは客に笑って答えた。
「それならだよ」
「いいのかい」
「僕はドラドが好きでね」
この魚がというのだ。
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