コルネットの響き
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第一章
コルネットの響き
放課後になり通っている中学の部活の吹奏楽部に出てだった。寿克己は思った。
「最初にいつもコルネット聴くな」
「橋口暁美先輩だな」
クラスメイトで同じ吹奏楽部に所属している原田武士が応えた、二人共中背で痩せている。寿はやや茶色がかった髪の毛でところどころはねていて大きな目である、原田は細目で長方形の顔で黒髪をスポーツ刈りにしている。
「あの人が吹いてるな」
「あの人いつも真っ先に部活来るよな」
「ああ、そうしてな」
そのうえでというのだ。
「ああしてな」
「コルネット吹いてな」
「練習してるな」
「それがな」
どうかというのだった。
「いつも聴くな」
「今だってな」
「朝練の時もな」
この時もというのだ。
「最初に部活に来られて」
「準備体操してランニングしてな」
「本当に練習熱心だな」
「あんな真面目な人いないよな」
「全くだよ」
こう二人で話した、だが。
ある日だ、部活に出てもらった。
そのコルネットの音が聴こえなかった、それで寿はどうしてだという顔になってそのうえで原田に言った。
「おい、これは」
「どうしたんだ」
原田も言った。
「コルネット聴こえないぞ」
「橋口先輩のコルネットが」
「朝練の時おられたよな」
「ああ、おられたよ」
寿は原田に答えた。
「確かにな」
「そうだよな、俺も見たしな」
「それでどうしてなんだ」
「さぼるなんて絶対にない人だしな」
「一体何があったんだ」
「朝練出ておられたのに」
「何があったんだ」
二人共いつものコルネットの声が聴こえないことに大いに戸惑った、それで部長の花守公子黒髪を長く伸ばし眼鏡をかけた切れ長の目に面長の顔を持つすらりとしたスタイルの彼女に事情を尋ねると。
花守は二人にだ、こう答えた。
「あの娘今日お休みよ」
「えっ、お休みですか」
「そうなんですか」
「歯医者さん行くから」
だからだというのだ。
「それでね」
「早退されて」
「おられないですか」
「そうよ」
こう言うのだった。
「今日はね」
「いつも出ておられたから」
「どうしてかと思ったんですが」
「誰だって色々あるから」
花守は二人に冷静に答えた。
「だからね」
「それで、ですか」
「橋口先輩もですか」
「来られない時もあるわよ」
「部活にですね」
「そうなんですね」
「私だってそうだし」
花守自身もというのだ。
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