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外道戦記ワーストSEED

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流星になった漢達(後編①)

 
前書き
ナチュラルは拿捕したコーディネーターの機体すら使えない。圧倒的な差がある地球圏での今。 

 
さて……流星『群』が月の周りで散るころ、ジョン達は何をやっていたのだろうか。

それは、モビルスーツにナチュラルが一切乗れない現状、避けては通れない話。




世界地図が大きく会議室正面に映り、各国の戦力とザフトの戦力が映される。

世界樹コロニーの一角、特定の手順でしか入れない道の先では、今日も又、熱気と共に生の声で会議が行われていた。

世界樹の一室、特定の港から、複数の隠し部屋を通ってしか行けない、フロアの一室。

そこにいる面子を見る人が見れば、マスコミ関係者は驚く事だろう。

ハルバートン少将の副官や、各連合所属のユーラシア、欧州、アフリカの代表者など、各方面でメディアに露出した経験のある高官がずらりと並ぶ。

その議題は一つ。

その内容を一言で言えば、『どうやって遅滞戦術を実現化し、連合の余力を残しておくか』の会議であった。

ここで、ここまでのお話を読んでいただいている読者目線ではん?となるだろう。

いや、世界樹コロニーで睨みを効かせているのにそんな地球に入り込んでるの?と。

そこについて、大まかにではあるが、説明しよう。

まず、世界樹コロニーは、出資額と『大西洋の死神』が運用している関係上、地球の自転に合わせ、常に大西洋連邦の上を守っている。

だから、大西洋連邦の上から地球に降下しようとすれば即バレするし、当然、主人公率いる部隊が叩き潰しに来る。

……じゃあ、それ以外の地球上空を廻るコロニーなどに、地球降下を止める責務や、実力があるか、という話だ。

一応、プラントの議長であるシーゲル・クラインが私怨マシマシでナチュラルに対し非常に厳しい対応をすることで有名な(とっても穏当な表現)パトリック・ザラ国防長官を抑え、抵抗しないナチュラルの建物や人命に手を出さないよう押し留めているものの、逆に言えば下手に対抗すれば容易く牙を向けられる状態であり、そして現状、ナチュラルが扱える世界樹と月を除く戦力、メビウスだけ。

そんな表現をあまりしたくはないが、例えばクォーターガンダムなどを多少無理して融通出来ても操縦できない以上、『豚に真珠』である。全く戦力として意味をなさない。

だから、現行最もナチュラル側のコロニーが生き残る可能性の高い方法が、『自衛戦力しか持たないコロニーのため、攻撃とか一切しないから攻撃しないでね』という白旗を上げて見逃してもらう事しかなく、当然、そこからはどんどんコーディネーター側の戦力が降ろされてしまうのだ。

なお、ブルーコスモスのタカ派の一部、その現実を見ても開戦時抵抗するよう無茶ぶりする派閥があったが、『何故か』後ろから撃たれてサヨナラした模様。

使えない上に無茶振りの味方とか害悪だからシカタナイネ。



さて、視点は会議に戻る。

ニュートロンジャマーにより、リアルタイムでの更新など夢のまた夢である以上、各国は活発な議論……というか掴みかからんまで議論が白熱していた。

「連合の新型はまだ完成せんのか!」

拳を机に叩きつけ、計画の遅さを非難するものもいれば。

「……もはやナチュラル用のOS等という夢物語から目を覚まして、現実を見る時期では。強迫などしなくとも、親がナチュラルのコーディネーターなら裏切らんでしょう」

現状を打破するため、妥協案を示すものもいる。

「貴様!コーディネーターに屈するというのか!ここまでされておいて!」

当然、思想上譲れないもののため反対するものも多いが……

「貴方方の国はそこまで侵食されて無いから良い!こちらは海からも空からも新型機で攻められ、挙げ句砂漠専用の機体まで宇宙から送りつけられてジリ貧なんだよ!精神論で勝てるか!」

国土が広く、尚且つ防御戦力に不安がある国などはもはやなりふり構わないものも多い。

喧々囂々。

前の話で述べた通り、地球連合は、今の所『詰み』ではないものの、ニュートロンジャマーの引き起こした飢餓と枯渇により、真綿で首を絞めるように追い詰められている。

この状況で辛うじて食らいついているのは、旧兵器で撃墜可能性が高い飛行機乗りやメビウス乗りの命をかけた偵察や陽動。戦車乗り達の特攻あってこそ、だったが……

「我々の正式な新型、GAT-Xシリーズの正式ロールアウトは来年1月末、ここは変わらん……」

予定から一ミリも動かない日付に、ジョンはついため息を漏らしながら、進まない話を進めるために口元のマイクを入れてやや強く呟く。

静止の意思も込めて。

聞こえた皆々方の反応は劇的だった。

そこに欠片も怒気も殺気も込めていないにも関わらず、一斉にほとんどの人間が顔色を悪くし、沈黙する。

その劇的な変化に、ジョンは欠片も喜ぶことなく続ける。

自分の話に黙って聞く耳を持ってもらえるのは、財閥アズラエルのバックがあってこそ。

その影響を考えず奢るほど、ジョンは恥知らずではなかった。

それに、この緊急時、貴重な時間を浪費しなくて済むならば。

ああ、好きに恐怖でも嫌悪でも抱いていてくれ。

低レベルなニュータイプであるジョンは、高レベルのような繊細な心の読み取りが不可能なのでそう断じたが、実はそうではない。

いや勿論、アズラエル財閥も怖いが。

端的に彼らの一番の恐怖を言えば、ここでゴネて『ジョン大佐』が本気で怒った場合、どんな行動をするか読めないのが怖いのだ。

ナチュラルなのに一人モビルスーツを使う特異性。

屈強なコーディネーターに囲まれて、首輪も付けずに共に進撃する精神性。

トドメは、『大佐』にまで上がったのに、自ら志願して最前線に居続ける、得体の知れなさ。

普通、佐官にまで上がれば、ほぼ『あがり』なのだ。わざわざ最前線に、しかも死傷率の高いモビルスーツのパイロットで居続ける義務もなければ必要性もない。

コーディネーターへの怨恨か、死んだ戦友への鎮魂ゆえか。

何も口に言わないからこそ、その『謎』が猜疑と恐怖を生む。

更に、彼の風体も、誤解を招く一助となっていた。

とはいっても、裏社会の人間に見える、などではない。

むしろ逆である。

職務の、特に会議の際は黒髪を綺麗に七三に分け、ワックスで撫でつけた髪型。

黒縁眼鏡を掛け、柔和な笑顔を絶やさない色白碧眼のナイスガイである。

首から上は。

そこに首から下が、特注のスーツでも隠せない筋肉の盛り上がりが見られ、身長も未だ伸びているのか、190cmを超えているというのを加えるとどうだろう?

更には、嫉妬した周りから虎の威を借る狐と揶揄されても、世界樹戦からここまで、被撃墜0でコーディネーターを叩き潰し続けてきた軍歴、更に何故か彼が管理する世界樹コロニー関連のを嗅ぎ回る産業スパイや軍事スパイが根こそぎ捕まっている経歴も加えると?

一見真面目なサラリーマンに見えるのに、彼が実際にやっているのは敵対勢力の殺戮と、スパイの締め上げ。

そのギャップが、恐怖を生む。

実際に目の前に立たれると、ほとんどの人が断言する、普通に怖い。

(((何されるか分からんから、下手に逆らわんどこ)))

一言で会議の面子の心情を示せば、そんな感じであった。

だが、そんな面子の事を知る由もないジョンは、愛用の黒縁眼鏡(伊達)を触りながら、淡々と話を進める。

「面々の疑問点、頂いた意見はすべて拝聴しているが、まずは一つ一つ問題をクリアしていこう」

議長である自身の机に、写真付きの地球圏でのザフトの運用機体の写真を乗せる。

更にオーブの首相、ウズミ・ナラ・アスハに対し大西洋連邦大統領の伝を利用して接触、手に入れた情報も同時にアップ。

(どうせ、俺が努力しようが、七光を使った事実は変わらない……なら、使えるものは使うまでだ)

オーブ国家元首であるウズミ首長と、連合の『大佐』でしかないジョン。

位負けは明らかだったが、そういった伝繋がりで、様々な情報が手に入る。

前世のホスト時代から、ジョンは理解していた。

『知らない』は罪だ。

街の流行、ヤバい客の情報、ヤクザの紐付きの輩。

そういった情報収集を怠ったやつから消えていく。

ならば得よう。中立を謳うオーブを利用してでも。

「貴殿は満足か……この殺し合う世界で……」

世界中から迫害されたコーディネーターの中で、抱えきれない人数を売買という形でオーブに逃がした時に、金銭に加え情報料として得たその時。

送られた惜別の言葉が頭から離れなくとも。

(ワリィなウズミさん、俺はアンタほど、自分や自分の周り以外に責任や愛情を注げないよ)

会議のキモ、新型の説明を続ける。

「出所は察してくれ。先程幾人からも話を出してもらったザフト新型の話をする」

そこに最初に映されたのは、六対の翼を広げる、銀色の機体。

「名称はディン、ザフト所有のコロニーでは、この後説明する2機と同様、ディテールと名称は何故か公表されているので、持ち帰ってもらうデータディスクで現地と共有してもらい、以後正式名称で呼称して頂きたい」

軍事機密?何それ食えんの?という舐め腐ったザフトの態度だが、モビルスーツ技術で遅れをとっていることは事実。

ここはありがたく情報を頂こう。

「この飛行機体、現地の残骸を分析して分かったことだが兎に角『脆い』」

画面では、クォーターガンダムが放った大して口径の大きくないショットガンで、全身がボロボロになるディンが映っている。

「我々が使用しているスピアヘッドやスカイグラスパーなどでも『火力』では追随できる。だが、問題はこれをコーディネーターが運用してるという点だ」

何点もの写真や、動画が映される。

そこには正に死闘、命を掛けて並走するスカイグラスパーや、片腕をもがれても、銃を構えるクォーターガンダムが映っていた。

「六対の翼と、頭部の変形機構で旋回や急停止なども自在に操るこの機体を真正面から対峙し、大破や撃墜するのは至難の業だ。だから現地の対ディン部隊には、こう伝えてほしい」

そこには、ショットガンや対空砲の平射など、小さな弾薬をばら撒き、ディンを数機は撃破、更に残りを逃走に向かわせたとある部隊の写真が写っていた。

「我々の任務は『この後』が本番だ。このように機体の戦闘力を奪うだけでも、十分役に立つ」

座席のコップの水で喉を潤すと、ジョンは続けた。

「小休止の後にも言うつもりだが、戦車も飛行機も、モビルスーツも後から作れるが、人命は戻らない。彼らの命を護り、真正面からザフトのモビルスーツを倒せる機体に乗り換えさせる事が、本作戦の最重要課題と捉えてくれ」

予想の数倍は詳しい敵機体の情報に、生気を取り戻した会議参加者の目を見ながら、ジョンは前半の会議を終えた。

流星になった漢達(後編①)了


 
 

 
後書き
ジョンの髪型と伊達メガネは何故?
→親無しで中卒でホストになった彼は、社会人のまともな格好を漫画やテレビ番組で覚えたため、その影響で今世もそんな格好を好んでるよ。(今世では知識を得て色々選べたが、どちらかというと、カッチリした髪型や服装が好みらしい) 
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