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仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜

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熱砂の騎士

 「そうか、隊長ブランクも敗れたか」
 玄室の様な部屋である男の声が響いた。
 「やはりあの程度の頭ではライダーを倒す事は無理か」
 重く威厳のある声だった。何処か王者を思わせる。
 「その後のアマゾンの動きはどうだ?」
 「はっ、タイを抜けミャンマーへ向かっております。どうやらそちらへ撤退したキバ男爵達を追っているようです」
 戦闘員の一人が報告した。
 「そうか。これでアマゾンの能力もわかった。キバ男爵達にはすぐに本部へ帰還するよう伝えよ」
 「はっ」
 戦闘員の一人が姿を消した。
 「今は戦力を減らすべきではない。キバ男爵にもこれからどんどん働いてもらわねばならぬしな」
 ふと脇に置かれている地球儀を見た。
 「ドイツ、インド、シンガポール、レバノン、中国、そしてカンボジア。これで六つの作戦が奴等に潰された。やはり例の計画を急がねばならぬな。アポロガイストはどうしている」
 「アマゾンのデータを回収し本部に帰還されました」
 「そうか。奴の敏捷性と野獣の如き力を得られる事は大きいな」
 地球儀を回す。指で止める。丁度リビアの部分だ。
 「かってカルタゴという国が栄えた地北アフリカ。ここでまた新たな闘いが始まるな」
 そう言うとニヤリと笑った。
 「この地にはあの連中がいたな」
 「はい」
 戦闘員の答えに満足気に笑った。
 「わしと競おうとする身の程知らず共、精々楽しませてもらうぞ」
 不敵に笑った。哄笑が玄室の中に木霊した。

 北アフリカリビアの首都トリポリはローマ時代の遺跡で知られる。この地に生まれたローマ皇帝がおり彼が故郷の街を立派な街並みに造り替えた事がそのもとである。市内にはローマ皇帝マルクス=アウレリウスの記念門もある。その他にも歴史を語る遺跡は多い。メデューサの神殿や凱旋門等である。
 観光客もいるが何よりもこの街は魚が有名である。
 地中海に面したこの街は市場に行けば多くの魚が並んでいる。日本人が好きな鮪もあるしスズキの仲間や海老もある。海老は養殖ものでなく天然である。
 この地でとれた鮪が日本に運ばれるのだ。はるばる日本からやって来た漁船が釣り上げ運んでいく。実に面白い話である。
 市場は新鮮な魚と行きかう市民達でごった返している。陽性の活気が場を支配している。
 その中を一人の東洋人が歩いている。名を城茂、またの名を仮面ライダーストロンガーという。
 黒い長髪に黒い瞳を持っている。眉は太めで眼は一重である。細めだが筋肉質である。背や腿の部分に薔薇の刺繍が入ったジーンズの上着とズボンを着ている。赤いTシャツには大きくSの文字が描かれている。
 手にはめている黒い手袋は皮製である。何か機械的な印象を与える。
 孤児として生まれた。孤児院で育ち城南大学に進んだ。大学ではアメフト部に所属しキャプテンとしてチームを優勝に導いた。親はいないが幼い頃より友人には恵まれていた。
 その中でも大学で知り合った友人沼田五郎とは親友同士であった。心ゆくまで語り合い飲み合った。腹を割って話せる真の親友であった。
 その沼田がある日突如として姿を消した。下宿も彼がよく行く店も回ったが何処にもいなかった。警察に捜査を頼んでも手掛かりは得られなかった。
 ある日城の下宿に暫くの間姿を消していたその沼田が現われた。全身傷だらけで最早いくばくもない事は一目でわかった。
 死ぬ間際彼は城に言い残した。
 「ブラックサタン・・・・・・」
 と。
 ブラックサタン、それはあの首領がガランダー帝国の次に創り上げた七番目の悪の組織であった。サタン虫という奇怪な寄生虫を使い人間を操り世界征服をたくらむ組織だった。サタン虫の長を首領とし陰から操っていたのだ。
 その存在は人々に知られることなく始まった。だがここにその存在を知ってしまった男がいたのだ。それが城茂だった。
 親友の仇を討たんと決意した彼はブラックサタンのアジトを探した。そして自ら組織に入れてくれるよう志願した。
 ブラックサタンは彼をテストした。全てにおいて優秀なデータを出した彼をブラックサタンは改造人間とした。だがそれこそが彼の狙いだった。
 脳改造を行う直前組織への忠誠を宣誓する場において彼は反旗を翻した。そしてブラックサタンの打倒を宣言し基地を脱走した。
 脱走の際彼は改造室にいた一人の女性を救う。彼女の名は岬ユリ子、電波人間タックルであった。
 やがて立花藤兵衛とまぐり会った彼等は日本全国を回りブラックサタンの暗躍を阻止していく。この事態を重く見たブラックサタンの大幹部一つ目タイタンはストロンガー打倒へと作戦をシフトさせていく。
 多くの作戦を阻止された彼は遂にストロンガーと対決する。だが敗れ去り海の中で爆死する。
 次に首領が送り込んだのは謎の剣士ゼネラルシャドウだった。彼にストロンガーを倒すよう指示するとともにタイタンを改造し百目タイタンとして復活させた。二人の大幹部によって二正面作戦を展開させようとしたのである。
 だが功を焦るタイタンとシャドウは激しく対立し作戦遂行は思うようにいかなかった。百目タイタンは地底王国での決戦に破れた。
 ここで首領はシャドウに全てを任せたかというとそうではなかった。所詮雇われ幹部である彼よりも生え抜きであるデッドライオンを呼び寄せたのだ。
 これに反発したシャドウは裏切った。ストロンガーに組織の秘密を教え何処かへ姿を消したのだ。シャドウの言うまま進んだストロンガーは首領と対峙する。首領は倒れストロンガーは友人の仇をとった。
 その彼の前に新たな組織が現われる。ゼネラルシャドウが呼び寄せた改造魔人からなる組織、デルザーであった。ブラックサタンに見切りをつけた首領がその陰にいた。だがその事には組織の中心人物であるゼネラルシャドウですら気付いてはいなかった。
 デルザーの改造魔人は強力であった。ストロンガーは劣勢を余儀なくされ相棒タックルも倒れる。だが元ブラックサタンの科学者正木博士と出会い彼に超電子ダイナモを埋め込まれた彼は超電子人間として生まれ変わった。
 超電子の力でストロンガーはデルザーの改造魔人達を各個撃破していく。追い詰められた首領はエジプトより切り札マシーン大元帥を呼び寄せる。世界各地からライダー達が集結し決戦の火蓋が切られた。
 首領も岩石の巨人となり闘いを挑む。だが巨人の内部に潜んでいた分身を発見され分身は自爆して果てた。長い闘いを終えたストロンガーは世界に残る悪を討つ為旅立った。
 彼はトリポリの市場を歩いていた。誰かを探しているようである。
 「おかしいな、この辺りだと聞いたんだが」
 首都で最も賑わっている市場だけあって広い。人も多い。イスラム特有の口髭を生やした男達だけでなく観光に来ているヨーロッパ人や黒人もいる。
 「アジア系、といっても多いな。本郷さんや一文字さんの知り合いだっていうけど一体どんな人なんだ」
 後ろから気配がした。さっと振り向く。
 「おいおい、勘がいいねえ」
 男の声だった。そこには地肌の黒いアジア系の男がいた。
 「城茂だな、話は本郷と隼人から聞いてるぜ」 
 男はにやりと笑って言った。
 「と、いうとあなたが滝さんですね」
 城もにやりと笑い返した。二人はそのままレストランへと歩いていった。
 
 二人はレストランでクスクスを注文した。小麦を粉にしてその上からカレールーのようなソースをかける。この辺りの郷土料理の一つである。カレーとはまた違った味わいがあり美味い。
 「インターポールも最近忙しいんですね」
 「まあな。最近また動き出した連中がいるもんでな」
 クスクスを口に入れつつ二人は話している。
 「連中ってデルザーの奴等ですか?」
 「察しがいいな。その通りだ。だが動き出したのはデルザーだけじゃない」
 「他の組織のメンバーだった連中もですね」
 「そうだ。それも一緒に行動をとっている。まあ奴等は根は一緒だからな」
 滝は水を口に含んだ。
 「このリビアでも奴等の影がちらほらしてきている。砂漠の辺りでな」
 「砂漠・・・石油が眠る砂漠ですね」
 「そうだ。リビアは産油国と世界で九番目に入る国だ。その石油に打撃を与えればどうなるか」
 「世界経済には少なからず影響が出ますね」
 滝は頷いた。
 「そうだ。それだけは阻止しなくてはいけない。絶対にな」
 滝の瞳に強い光が宿った。
 「石油はこの国の主要産業だ。石油が無いと食うのにも困る人間がいっぱいいる。奴等の企みを何としても防ぐんだ」
 城は最初インターポールの腕利きが来ると聞いて嫌な感じであった。元々気ままな風来坊の彼は型にはまりがちな役人を心よく思っていない。だが目の前にいるこの腕利きはやけに直情的で熱い男だった。何処か自分に似ていると感じた。
 「解かりました、やりましょう」
 城は微笑んで言った。
 「おう、絶対にな」
 滝は拳を握り締めた。熱い思いがこちらにも伝わってくるようだった。




「やはり来たか」
 床に魔法陣を描いた部屋で例の黒服の男が戦闘員からの報告を聞いていた。
 「はっ、滝和也も一緒です」
 「あの男もいるのか・・・。砂漠には誰が向かっている」
 「デッドライオンと・・・ヨロイ騎士です」
 「ヨロイ騎士か」
 ヨロイ騎士に何か思うところがある様である。だが顔には出さなかった。
 「あの男の一派か。行動次第では厄介な奴だな」
 思案しつつ言葉をこぼした。
 「如何なさいます?」
 戦闘員が尋ねた。
 「そうだな。さしあたっては放っておいても良い。だが奴にストロンガーは倒させん」
 男は毅然として言った。
 「奴を倒すのはこの俺だ。俺以外に誰が倒すというのだ」
 頭から無数の光が放たれる。それは怒りで赤く燃えていた。

 「フッフッフ、遂にな」
 赤いテーブルの前で白服の男は不敵に笑った。
 「この時が来るのをどれだけ待ち望んだか。その為に俺は甦ったのだからな」
 懐からトランプを取り出した。出て来たのはスペードのエースだった。
 「今までこのカードが出て俺が敗れた事は無い。このカードは俺の勝利への道標なのだ」
 カードを投げる。それは壁に掛けられたストロンガーの絵の胸に突き刺さった。
 「待っていろライダーストロンガー、今度こそ俺が勝つ」
 男は自信に満ちた声で言った。

 城と滝は首都トリポリで情報収集に当たった。日本の3倍以上の面積を持つリビアのどの油田でテロを行うのか解からなかったからだ。
 リビアの当局も内密に協力してくれた。その結果アマルの辺りで不審な影を見たとの報告があった。二人はその写真をトリポリのホテルの一室で見た。
 「不審な影・・・・・・」
 二人はすぐに直感した。写真もあるという。
 二人はその写真を見た。そこには鬣とかぎ爪の様な物を持つ人のようなものが写っていた。
 「やはり生きていたのか」
 その姿を見て城は呟いた。
 「知っているのか?」
 「ええ、間違いありません。デッドライオンですよ」
 「デッドライオン?ブラックサタンの最高幹部だったな」
 「はい。組織壊滅後行方不明になっていましたが。やはり生き延びていたか」
 城はブラックサタンとの最後の決戦の時を思い出していた。
 あの時デッドライオンからペンダントを奪いそれを使って首領のところまで行ったのだ。そして首領を倒した。首領を倒されたブラックサタンはその組織と戦力をデルザーに吸収される。つまり彼がペンダントを手に入れた事がブラックサタン崩壊の引き金だったのだ。
 言い換えればそれはデッドライオンの失態がそのまま組織の崩壊になったということだ。首領の信頼を一身に集め最高幹部として君臨していた彼にとっては耐え難い屈辱であっただろう。
 組織崩壊と同時に彼は姿を消した。デルザー軍団の吸収の際消されたとも言われたがデルザーがブラックサタンの基地に進駐を始めた時既に彼の姿はなかった。その後彼の姿を見た者は誰もいなかった。今この時まで。
 「それが今になって出て来るとはな。これも腐れ縁ってやつか」
 右手の人差し指と中指で写真を挟んで言った。
 「しかし厄介だな。奴は御前さんへの恨みを忘れてないぞ」
 滝が言う。それは充分に予想された。しかしそれに対し城は不敵に笑った。
 「望むところですよ。じゃあ今度こそ完全に地獄へ叩き込んでやります」
 左手を強く握り締めた。手袋が擦れる音がした。
 翌日二人はトリポリを出発した。まずは空路でベンガジへ向かった。
 ベンガジからは陸路でアマルへ向かう。バイクで砂漠に敷かれた道を走る。
 滝のバイクは日本製であった。ホンダワルキューレ。重量感溢れる車体である。
 それに対して城のバイクはごく普通のありふれたバイクであった。ワルキューレと比較するとかなり軽い印象を与える。
 「カブトローじゃないのか?」
 運転しながら滝は尋ねた。
 「まあそれはこれからのお楽しみってね」
 城はまた不敵に笑った。何やら意味ありげである。
 それを遠くから見る影があった。二人を見届けると砂の中へ消えた。

 「そうか、来おったか」
 地下の基地の中でヨロイ騎士は報告を聞いていた。
 赤い兜に黒の仮面、全身を暗い銀の鎧で覆いその上からマントを羽織っている。腰には大小二振りの剣を下げている。
 イギリスは古来より騎士道を尊ぶ国であった。アーサー王と彼の臣下である円卓の騎士達の話はとりわけ有名であるがその他にも騎士の話は多い。
 そのイギリススコットランドにある騎士がいた。彼はその地の王マクベスに心身を捧げている高潔な騎士だった。
 当時スコットランドは宿敵イングランドとの長きに渡る抗争だけでなく内部においても深刻な権力抗争を抱えていた。 
 マクベスは先代の王が死去した為その跡を継いだ。彼が先王を暗殺したとの声もあった。だがこの時代よくある話であったし彼も王家の血を引いていたので支持する者も多かった。何よりもマクベスは優れた武人であった。
 だが彼の即位に不服を唱える者もいたのは事実であった。彼等は公然と、あるいは陰に潜みマクベスを倒さんとしていた。
 これに対しマクベスは夫人の言葉に従い一人ずつ隙をついて倒していった。しかしその中の一人バンクォーの遺児マルコムとマクベスにより家族を殺されたマクダフがイングランドと結び反乱を起こした。彼等はバーナムの森の木を切り、その枝を手に取り進軍してきた。
 それに対しマクベスもうって出た。激しい戦いとなった。騎士達もマクベスに従い戦った。戦場となった平野は朱に染まり血煙が草を染めた。
 マクベスは強かった。自分は女の腹から生まれ出た者には負けぬと豪語するだけはあった。だがマクダフとの一騎討ちに敗れた。彼は母の腹を蹴破り取り出された者だったのだ。
 マクベスは死んだ。彼に助言を与えていた夫人も既に病により世を去っていた。一説によると心を患っていたという。以後彼の名は主君を暗殺した簒奪者の代名詞となった。歴史とは時に人を弄び残酷な役割を担わせる。それにより貶められた者も多い。
 彼に仕えていた者達はある者は降りマルコムやマクダフに従った。だがある者は尚も彼等に従おうとせず抵抗を続けた。捕らえられ処刑される者もいれば森や山に逃れ続けつつ戦う者もいた。
 ある騎士もそうであった。彼は森の中に逃れ主君の仇を取るべく戦い続けたのだ。
 だが彼は知らなかった。主君マクベスが何故王の座に就いたかを。それは魔女の予言に基づくものだったのだ。
 森には多くの者が潜む。彼のように世の目を避けなければならない者の他には獣もいた。そしてこの世に有らざる者達も。妖精が魔物、そして彼等を崇拝する者達が。マクベスに予言した魔女達もそうした者達だったのかもしれない。
 森に潜むうち彼は一人の魔女と知り合った。そして彼女と交わり一人の子供を生み出した。
 彼は外見は人間であった。しかしその力は人間のものではなかった。
 長じて彼は親から離れ森を出た。そして漆黒の鎧を身に纏いブリテンの夜の世界に入ったのだ。
 何時しか人々は夜を恐れるようになった。夜の闇の中から首の無い馬に乗った黒い騎士が現われるからだ。
 その騎士は人を見ると斬った。斬られた者は首を持って行かれたそのまま魂も地獄に持って行かれると言われた。
 ある夜の話だ。ロンドン塔にて一人の兵士が詰所で番をしていた。そこへ一人の騎士が現われた。
 黒い闇の様な服を着た騎士だった。彼は何かを手にしていた。
 「この者の魂確かに貰い受けた」
 彼はそう言うと手に持つ何かをテーブルの上に置いた。それは王妃の首だった。
 暫くして王妃は王に不倫の嫌疑をかけられ処刑された。その騎士が何者か王妃の処刑を見届けた後兵士は理解した。
 この騎士はやがて姿を消した。だが何処へ去ったのか誰も知らない。ある者は言う。去ってはいない、夜の闇の中から我々を狙い続けているのだと。
 夜の中に消える者は多い。幾人かは彼に地獄へ連れて行かれたのだという。
 その子孫がこのヨロイ騎士である。剣技に優れ冷静さと勇猛さを兼ね備えた者として知られている。
 「まさか城茂が来るとはな。これも運命か」
 壁に映し出される映像を見て言った。そこにはバイクに乗る城茂の姿があった。
 「こちらに向かっているな。攻撃を仕掛けるか」
 「はっ」
 戦闘員達が敬礼した。
 「怪人達を呼べ。奴が油断しているうちに仕留めてやる」
 「わかりました」
 戦闘員達が動く。ヨロイ騎士は壁に映る城の姿を見つつ笑った。
 「見ていろ城茂、このサハラ砂漠が貴様の墓場だ」

城茂と滝はバイクで道を進んでいた。その前にも後にも砂の海があるだけだ。
 「しかし遠いですねえ」
 バイクを飛ばしつつ城は言った。
 「しかも見渡すばかり砂漠だ。ちょっとは変化ってもんが欲しいな」
 滝も言った。見渡すところ砂しかないのだから無理はない。
 「日本にいた時を思い出すな。タイタンと闘ったのもこんな砂場だった」
 「日本か。おやっさん元気かな」
 滝がぽつりと言う。
 「おやっさんですか?俺が日本にいた頃はもう嫌になる位元気でしたよ」
 「そうか、だといいんだがな。おやっさんには何時までも元気でいて欲しいからな」
 「心配しなくても大丈夫ですよ。おやっさんなら俺達よりずっと長生きしますよ」
 「ははっ、まあおやっさんなら殺しても死なないか」
 談笑しながら道を行く。そこへ何やら不穏な気配が。
 前から何かが飛んで来る。それは二枚の大きな紙と数枚の布だった。
 「!?」
 紙と布は二人のバイクを取り囲む様に飛んで来た。そして二人を包囲する。
 「イイーーーーーーーッ!!」
 布が戦闘員に変化した。二枚の紙は怪人であった。デストロンの隠密怪人吸血カメレオンとゲドンの凶悪怪人トゲアリ獣人である。
 「奴等、やはり!」
 城と滝はバイクから降りた。身構える二人に刺客達が襲い掛かる。
 戦闘員達が四方八方から襲い掛かる。怪人もそれに加わる。
 「くっ、怪人が一緒だとやりづらいな」
 戦闘員達を拳で退けつつ滝が舌打ちした。城もトゲアリ獣人を前に苦戦を強いられている。
 「ここはあれが一番だな」
 城が呟いた。手袋を掴んだ。
 「滝さん、跳んで!」
 城が叫ぶ。咄嗟の事であったが城が何かやるのだと瞬間的に察知した彼はそれに従った。
 「エレクトロファイアーーーー!」
 手袋を剥ぎ取り上へ放り投げる。中から白銀に光る手が現われた。
 その拳を地面へ叩き付ける。電流が地を走り敵を撃つ。
 「イイーーーーーーーーーッ!」
 戦闘員達の断末魔の叫びが響き渡る。電流に全身を貫かれたのだ。
 だが二体の怪人は平然としている。流石にこの程度の電撃では効果が無い様だ。
 跳躍した滝が着地した。そこで彼が見たのは城茂ではなかった。
 否、城茂ではあった。だがその姿は彼のものではなかった。雷のライダー、仮面ライダーストロンガーであった。
 黒の仮面に緑の両眼、口は銀でカブト虫の角は赤い。黒のバトルボディにSの文字が描かれた赤く大きい胸。白い手袋とブーツ。全身には稲妻を漂わせている。
 「ライダー・・・ストロンガーか」
 その姿を見て彼は呟いた。FBIに戻ってからもライダーの話は聞いていた。そしてその姿や能力も知っていた。
 「行くぞ、怪人共」
 二体の怪人に対してストロンガーが向かって行く。滝はその後姿を見ていた。
 「これはかなり強いな」
 それは先程のエレクトロファイアーで戦闘員を一掃した事からもわかった。だがそれだけではない。その気が滝に彼の強さを実感させたのである。
 「リィーーーーーーーッ!」
 トゲアリ獣人が叫び口から強酸を吐く。厚い胸からは想像出来ない速さでストロンガーはそれをかわす。アスファルトが溶け
しゅうしゅうと白い煙を出す。
 次に怪人は全身に生えているトゲの一本を抜いた。そしてそれをナイフの様にして投げる。
 ストロンガーはそれを何と手で掴んで捕った。そして手の平に電撃を発しそれを消し炭にした。
 「ギィッ!?」
 怪人は驚いた。まさか自分の自慢の攻撃がこうもあっさりと退けられるとは思わなかったからだ。
 「イィーーーーッ!」
 今度は全身で体当たりを浴びせて来る。だがそれをストロンガーは受け止めた。
 「電気ストリーム!」
 腕をトゲアリ獣人の腹に突き入れ電流を通す。怪人の身体を高圧電流が通る。その身体を雷が走る。
 「ギィーーーーーーーーーッ!」 
 トゲアリ獣人は断末魔の叫び声をあげた。そして焼け焦げ塵となって消えた。
 「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
 吸血カメレオンは口から長い舌を出して来た。嫌らしいピンク色のヌメヌメした舌だった。
 舌がストロンガーの首を絞める。それを見て怪人は嫌らしい笑みを浮かべた。
 だがそれに対してストロンガーは余裕の笑みを浮かべたかに見えた。次の瞬間ストロンガーはその舌を掴むと思いきり引き千切った。
 「ギャオオオオーーーーーーーッ!」
 怪人の絶叫が砂漠に響く。引き千切られた舌はストロンガーにより砂漠の上に捨てられた。
 苦しみながらも怪人は姿を消した。カメレオン特有の保護色の能力である。
 それに対しストロンガーは冷静だった。構えをそのままに周囲の気配を探る。ふと砂が動いた。
 「・・・そこか」
 砂が動いた方へストロンガーは指を向けた。
 「電気ビームッ!」
 指先から高圧電流が放たれる。それはそこには見えぬ吸血カメレオンの身体を撃った。
 「イギィーーーーッ!」 
 絶叫と共に怪人が姿を現わす。高圧電流に撃たれ怪人は倒れ爆死した。
 瞬く間に二体の怪人が倒された。後には戦闘員達の骸が転がっているだけだ。
 「やはりな。最近よく出て来る連中だ」
 変身を解き城は戦闘員達の死骸を見つつ言った。
 「そっちにも来るのか?」
 「ええ。怪人が出たのは初めてですが」
 滝の問いに答えた。
 「そうか。やはり何かでかい組織が動いているみたいだな」
 「ええ。ブラックサタンやネオショッカーの様な」
 見れば戦闘員達の格好はそれまでの組織の戦闘員達のものと酷似している。
 「だが怪人が出て来るということは尋常じゃない。おそらくそれを指揮する大幹部が近くにいる筈だ」
 「はい。若しかするとデッドライオンの他にもいるのかも」
 「可能性は高い。インドでは鋼鉄参謀の他にゾル大佐と死神博士がいた」
 「あの鋼鉄参謀の他にも・・・・・・」
 かって自分を幾度となく窮地に追い詰めた強敵の他にも別の大幹部が同時に行動している事に城は戦慄した。だがそれは滝に悟られぬよう顔には出さなかった。
 (超電子の力の時間内に全て倒せるか)
 自らの切り札の事に思案を巡らせる。彼の超電子の力は絶大なパワーを誇るがその時間は僅か一分間しかない。それを過ぎると彼の全身が粉々に砕け散るのだ。
 (だがやらなくてはならない。悪がこの世にある限り俺は闘う)
 「おい」
 滝が声を掛けてきた。
 「あ、はい」
 ふと気が付いた。
 「行こうぜ。それはともかく油田へ行って奴等を倒そう」
 「はい、そうでしたね」
 滝の言う事は率直だが正しかった。例え敵がどれだけ強大であろうとも立ち向かい倒すのがライダーなのだから。
 二人は再びバイクに乗った。そして走り去って行った。
 二人の姿が見えなくなった。そこへ一枚の巨大なトランプのカードが舞い降りて来た。それはスペードのキングだった。
 「クックック」
 カードから誰かが出て来た。例の白服の男である。
 「あの時から更に腕を上げたな。そうでなければ面白くない」
 城と滝が走り去った方を見つつ笑った。
 「腕を磨くがいい。貴様は俺がこの手で倒すのだからな」
 男はトランプのカードを放り投げた。そしてその中に消えた。

 リビアの油田のほとんどは砂漠にある。それも北東部に集中している。
 その為パイプラインや施設もその地域にある。ここがリビアの生命線とも言える。
 生命線を守る為警護は固い。あちこちに軍人の姿が見える。
 施設は極めて近代的だ。コンピューターで制御され内部は技術者や科学者達が動き回っている。その施設の陰に隠れるようにして彼等はいた。
 「感づかれるな」
 ヨロイ騎士が物陰に隠れながら戦闘員達に命令する。戦闘員達の手にはそれぞれ鋭い剣がある。
 「施設内に爆弾は付け終わったか」
 一人の戦闘員に聞く。
 「ハッ、既に全て取り付け終えました。あと一時間で設置した爆弾が全て同時に爆発します」
 戦闘員は敬礼して報告する。
 「よし、ライダーが来ぬうちに全てを終わらせてしまうぞ」
 ヨロイ騎士が剣を振りかざしつつ言う。
 「あとはコンビナートを襲撃する。我々がコンビナートを破壊しそれに気を取られている間にここの施設が全て爆発する。ふふふ、これは効果があるぞ」
 ヨロイ騎士は高らかに笑った。
 「はい、ライダーの悔しがる顔が目に浮かびます」
 戦闘員の一人が同調する。
 「待て、そうはさせんぞ!」
 その時声がした。施設の上からだった。
 「ぬうっ、その声は!」
 声の主はあの男だった。施設の上で右手を上げ人差し指と中指を伸ばしファイティングポーズをとっている。その横には滝もいる。
 「話は聞かせてもらった。貴様等の邪悪な企み、この俺が打ち砕いてやる!」
 「ぬうう、ほざけえ、返り討ちにしてやるわ!」
 ヨロイ騎士は短剣も抜いた。長剣でストロンガーを指し示し言った。
 「滝さん、ここは俺に任せて爆弾の方を」
 「解かった、任せてくれ」
 滝は頷くと施設を降りていった。
 「やらせるかあ、かかれえ!」
 剣を振り下ろし言った。戦闘員達が滝の方へ向かった。
 「そうはさせん!」
 ストロンガーが飛び降りた。滝と戦闘員達の間に入る。
 「さあ、今のうちに」
 「済まない、ストロンガー」
 滝は施設の中へと入っていく。それを見つつヨロイ騎士は激しい怒りを憶えながらもなんとかそれを押し殺し命令を下した。
 「ならばストロンガーを倒した後この施設を破壊するまでの事、やれい!」
 戦闘員達は剣を抜いた。一斉に散らばりストロンガーを取り囲む。
 「まだだ、それだけではないぞ!」
 ヨロイ騎士が叫ぶと後ろから三体の改造人間が姿を現わした。ショッカーの地中怪人モグラング、ゴッドの盗賊怪人ガマゴエモン、ネオショッカーの爆弾怪人カニンガージンである。
 「如何に貴様であろうともこの者達には勝てまい。やれい!」
 三体の怪人達が来た。だがそれに対しストロンガーは不敵に言った。
 「フン、たった三体か」
 「何!?」
 ヨロイ騎士の声が引きつった。
 「俺を倒したければ百体持って来るんだな」
 「おのれ・・・その言葉地獄で言うがいい!」
 剣を手にした戦闘員と怪人達が襲い掛かる。ストロンガーの両手に雷が宿る。
 「電パーーンチ!」
 雷を宿らせた拳で戦闘員を撃つ。拳を受けた戦闘員の胸に火花が生じる。
 「電チョーーーップ!」
 手刀を横に振る。打たれた戦闘員が火花と共に吹き飛ぶ。
 「イィッ!」
 戦闘員達が剣を振り下ろす。ストロンガーはそれを難なくかわす。だが数が多い。そこへ怪人達の攻撃も来る。
 「ちいい、少しばかり厄介だな」
 「フン、どうしたさっきの威勢は」
 ヨロイ騎士皮肉を込めて言った。だがストロンガーの耳には入っていない。
 「それではこれを使うか」
 ストロンガーが両腕を胸のところでクロスさせた。
「電気マグネーーーーット!」
 両腕を思い切り広げた。強烈な磁気が飛び散る。
 「なっ!?」
 戦闘員達の剣が宙に舞った。そしてストロンガーに吸い付けられる。
 「うおおおおっ!」
 ストロンガーが叫ぶ。身体中から雷を発する。その熱で身体に吸い寄せた全ての剣を溶かしてしまった。
 「何っ!?」
 これにはヨロイ元帥も絶句した。まさかこの様な方法を取るとは思わなかった。
 「これでやりやすくなったな。行くぞ!」
 全身に雷を帯びたまま敵の中へ突っ込む。戦闘員達が次々と火花の中に倒れていく。
 「グィーーーッ」
 カニガンガージンが左手の鋏をストロンガーの首へ突き立てる。ストロンガーはそれを左手で受けた。
 そこへ口から泡を吹きかける。発火性のある凶悪な泡だ。
 ストロンガーは怪人の鋏を叩き割った。そして怪人の懐へ潜り込む。
 「喰らえっ!」
 電パンチを連打する。これにはさしものカニの甲羅も通用せず割れる。
 怯んだところへ電チョップを入れる。首を直撃され怪人は倒れた。
 ガマゴエモンが斧を構えている。怪人と対峙するストロンガー。だが彼はこの時気付いていた。もう一体の怪人の姿が見えない事に。
 「・・・来るな」
 ボソッと呟いた。そこへ来た。
 「オォオオーーーウ」
 丁度ストロンガーは土の上にいた。その真下からモグラングが襲い掛かって来た。密かに地中へ潜り隙を窺っていたのだ。
 右手の槍で突きを入れる。だがそれより速くストロンガーは跳んでいた。
 「オォ!?」
 モグラングは目が弱い。反応が遅れた。気配を察した時ストロンガーは真上にいた。
 ストロンガーは空中で反転した。頭から急降下する。
 拳を握る。そして雷をやどらせ突き出す。
 「急降下パーーーンチ!」
 拳が怪人の脳天を直撃した。地中へめり込みモグラングは死んだ。
 最後はガマゴエモンである。間合いを取るストロンガー。不意に怪人が斧を投げてきた。
 「ぬうっ!?」
 身体を捻ってかわす。斧を放り投げたまま怪人は右手の指から火炎を放ってきた。
 「うおおっ!」
 火炎がストロンガーを襲う。それをなんとかかわしたストロンガーの懐へ跳びこむ。
 「ウゲーーー」
 投げた。必殺技であるゴエモン投げだ。ストロンガーは空中へ投げ飛ばされた。
 だがストロンガーは空中で身体を捻りその勢いを殺した。一回転し勢いを完全に消すと着地した。
 「なかなかやるな。今度は俺の番だ。トォッ!」
 跳んだ。空中で前へ一回転する。
 「ストロンガー電キィーーーーック!」
 全身の電気エネルギーを右足に宿らせる。そして渾身の力で蹴りを入れる。
 稲妻の蹴りが怪人を直撃した。怪人は吹き飛ばされ爆死して果てた。
 「どうだ、三体では倒せなかっただろう」
 「ちぃっ・・・・・・・・・」
 ヨロイ騎士が舌打ちした。今度は自ら剣を構える。
 「ならばわし自ら相手をしてやる」
 大小二振りの剣に銀の光が宿る。
 「行くぞ!」
 両者ほぼ同時に動いた。雷の緑、剣の銀、二つの光が激突する。
 右手の長剣、左の短剣、それぞれを巧みに使いヨロイ騎士は攻撃を仕掛けて来る。ストロンガーに電気攻撃を仕掛けさせる暇を与えない。
 「フン、貴様のマグネットもわしには通用せぬぞ」
 ヨロイ騎士は不敵に笑った。
 「わしの剣と鎧はオリハルコンで出来ている。磁気なぞ効きはせぬ」
 長剣を斜め上から振り下ろす。
 「ムンッ!」
 それに対しストロンガーは左手に電磁バリアーを作り受け止める。激しい火花が散る。
 「ほう、そうきたか」
 ヨロイ騎士は落ち着き払った声で言った。
 「以前よい更に腕を上げたな。そうでなくては面白くない」
 「ほざけっ!」
 電パンチを繰り出す。しかしそれは紙一重でかわされる。
 「ふっふっふ、もっと怒るがいい。怒りこそ闘いを彩るのに最も相応しいのだ」
 ストロンガーを挑発する。
 「くそっ!」
 それに対してストロンガーは頭に血が登ったようである。攻撃が荒くなってきた。ヨロイ騎士はそれを容易にかわす。
 長剣を斜め下から一閃させた。ストロンガーは後ろにジャンプした。間合いが空いた。
 「かかったなあ!」
 ヨロイ騎士が頭上で二振りの剣を交差させる。剣に凄まじい熱が宿る。
 「喰らえっ!!」
 剣から熱線が放たれる。それは一直線にストロンガーへ向かって来る。
 「むうっ!」
 間一髪でそれをかわした。熱線がコンクリートの壁を粉々に打ち砕いた。
 「ほう、今のをよけたか」
 自信に満ちている。まるで何時でも倒せると言わんばかりだ。
 「だが何時までもかわしきれるものではない。次は外さぬ」
 再び剣を交差させようとする。それを見てストロンガーは胸のSの字に両手の先を当てそこからその両手を斜め上へ上げた。
 「チャーーーージアーーーップ!」
 Sの文字が高速で回転を始める。それと共に胸と角が白く光った。
 胸の一部と角が銀色になった。元ブラックサタンの科学者正木博士により埋め込まれた超電子ダイナモの力だ。
 「くっ、チャージアップか!」
 ヨロイ騎士は思わず舌打ちした。
 「ヨロイ騎士、勝負はこれからだ。行くぞ!」
 一気に間合いを詰め鉄拳を繰り出す。それまでとは全く比較にならない威力だ。
 「うおおっ!」
 そのあまりもの威力にさしものヨロイ騎士もたじろぐ。ストロンガーは次々と攻撃を仕掛ける。
 「今だ!」
 ヨロイ騎士の両肩を掴んだ。そして上へ放り投げた。
 「超電子ジェット投げーーーーッ!!」
 空中へ投げられるヨロイ騎士の両足首を掴んだ。そして地上で自分自身を中心とし駒の様に振り回す。
 そして投げた。遠心力が加わり凄まじい速さで飛ばされる。
 「グォッ!」
 後頭部から地面へ叩き付けられた。砕ける様な衝撃が全身を襲う。
 「ぐうう、何という威力だ・・・・・・」
 ふらつきながらも起き上がる。全身を覆う鎧が無かったならば彼とて生きてはいなかったであろう。
 「どうだ、これが超電子の威力だ!」
 ストロンガーは言った。そして再び構えを取る。止めを刺す為に。
 「くっ、これまでか・・・・・・」
 最早戦闘を続ける力は無かった。立っているのがやっとであった。ヨロイ騎士は死を覚悟した。
 その時だった。不意に何処からか謎の赤い光線が飛びストロンガーを撃った。
 「うぉっ!」
 ストロンガーは赤いピラミッドの中に閉じ込められた。出ようとするがかなわない。
 『ヨロイ騎士、今のうちに逃げるがいい』
 「その声は!」
 謎の声がした。その声をストロンガーは憶えていた。
 「う、うむ、かたじけない!」
 ヨロイ騎士はその言葉に従った。マントで身体を覆うとそのまま撤退した。
 「くっ、逃げられたか!」
 口惜しいと言わんばかりの声だった。だがピらミットからは容易には脱せられない。チャージアップの時間が近付いていた。超電子の力は一分間しか使えないのだ。それ以上経てばストロンガー自身の身体を粉々にくだいてしまう。
 「ならばここで・・・・・・!」
 超電子の力を全開にした。その蹴りでピラミッドを壊した。
 「よし、間に合ったな」
 かろうじて脱出する事が出来た。チャージアップを解く。
 『ヨロイ騎士を退けるとはやるなストロンガーよ。更に腕を上げたな』
 「・・・やはり貴様も甦っていたか」
 辺りを見回す。姿は見えない。だが油断はしない。
 『ふ、安心するがいい。今貴様と闘うつもりは無い』
 声は言った。
 「何!?」
 『今はヨロイ騎士の治療を優先させねばならん。貴様との決着はいずれ着けてやる。その時を楽しみにしていろ』
 「・・・・・・」
 『それにリビアでの闘い、我々の勝利に終わったしな』
 「それはどういう意味だ!?」
 声を荒わげる。
 『ふっふっふ、まだ解からんか。ここに誰がいて誰がいなかったかを』
 「な・・・・・・!」
 ストロンガーは愕然とした。ここにいたのはヨロイ騎士だけだった。
 『やっと気付いたか。貴様はまんまとここに誘き出されたのだ』
 「ぐう・・・・・・・・・」
 その通りだった。戦力を分け一方を陽動に使うのは兵法の基礎の基礎ではないか。それに気付かぬとは迂闊だった。
 『デッドライオンは既にシドラへ向かっている。この国最大の石油集積地の一つにな』
 油田ではなく集積地を狙っていたのだ。確かにそちらの方が効果がある。
 『貴様が今から行っても間に合わぬ。この闘い我等の勝ちだ』
 勝利の笑いを発そうとする。だが先に笑ったのはストロンガーだった。
 「フフフ、間に合わない、か。俺も軽く見られたもんだ、ハハハハハ」
 『何がおかしい?』
 「おかしい?そうだな、貴様等の間抜けさ加減が」
 『何っ!?』
 今度は謎の声が荒わげた。
 『ほざくな、ここからシドラまですぐに行けるものか』
 「ふんっ、黙って見ていろ。カブトロー!」
 愛車の名前を叫ぶ。すると紅い、前部に巨大な閃光ライトを点けたバイクが姿を現わした。
 「トォッ!」
 天高く跳躍する。そしてカブトローに飛び乗った。
 『馬鹿め、それで間に合うと思ったか』
 「それは・・・こうするのさ!エレクトロサンダー!」
 空中へ高圧電流を放つ。すると空に雷雲が現われた。
 雷雲が雷を落とす。それはカブトローとストロンガーを直撃した。
 「行くぞ!」
 雷の力を受けカブトローはその全ての力を出していた。信じ難い速さで走り出した。
 『な・・・しまった!』
 「カブトローの真の力・・・それを忘れていた事が貴様の誤算だ!」
 雷より速く走る。そこへ爆弾の解除を全て終えた滝が出て来た。
 「ストロンガー、こっちは終わった・・・ん!?」
 そこには新たなる敵へ向けて駆けて行くライダーの姿があった。
 「・・・生きて帰って来いよ」
 その後姿を見送り滝は一言呟いた。

 シドラの石油集積施設がある。世界屈指の産油国リビアでも最大とも言われる集積所だけあってその規模はかなり大きい。そこにデッドライオンはいた。戦闘員達にあれこれと指示を出している。
 角の生えた獅子の顔にピラミッドの様な形の鬣を持っている。黒ズボンに上はレンガに似た色をしている。
 とりわけ目を引くのが右手である。左右それぞれ二つに分かれた金属製の爪を持っている。
 ブラックサタンの最高幹部として君臨していた。首領からの信任は厚く、あのタイタンすら凌ぐものであった。
 それは何故か。彼はブラックサタン最初の奇械人だったからだ。南アフリカの刑務所を脱獄した凶悪犯を改造しサタン虫を寄生させたのが彼である。
 常に首領の側にあり権勢を誇った。彼が動くだけで組織の行動が決定される時もあった。多くの怪人を従えていた。
 だが彼と雇われ幹部であるゼネラルシャドウの関係は良好ではなかった。それが為にシャドウの離反を招いてしまう。それがストロンガーにブラックサタンを滅ぼされる一因となった。
 組織崩壊後彼は姿を消した。行方はようとして知れなかった。デルザーは彼を戦力に引き込もうとしたが発見する事は出来なかった。
 その後ネオショッカー、ドグマと新たな組織が結成されたがそこにも彼の姿は無かった。生存すら疑う声もあった。
 しかし彼は生きていた。アフリカの奥深くに潜んでいたのだ。そこでブラックサタンを滅ぼしたストロンガーへの復讐の牙と爪を磨いでいたのだ。
 新たな組織が結成される時彼の下に一人の使者が訪れた。その使者は彼を新たな組織の大幹部として迎え入れたいと申し出た。彼はそれを快諾した。
 この組織においても彼はストロンガーの事を忘れた日は無かった。常に組織の仇を討つ事を願っていた。
 「攻撃の用意は出来たか」
 彼は戦闘員に尋ねた。
 「ハッ、何時でも攻撃が可能です」
 戦闘員の一人が言った。
 「よし、すぐに攻撃に移るぞ」
 デッドライオンは指示を下した。不意に天候が怪しくなりだした。
 空を暗く厚い雲が覆いだした。ゴロゴロと稲妻の轟きと光が空に現われる。
 「雨か。この季節には滅多に降らぬというのに」
 デッドライオンは呟いた。雨が一滴、その次は数滴砂の上に落ちやがて土砂降りとなった。
 「これは都合がいい。襲撃にはおあつらえ向きだ」
 その時何処からか口笛げ聞こえてきた。
 「!?口笛・・・・・・・・・!?」
 戦闘員達が辺りを見回す。デッドライオンも耳を澄ました。
 「そこかっ!」
 左手にある丘の上へ右手の爪を飛ばした。
 丘の上の岩が崩れる。そこに奴はいた。
 「な・・・・・・貴様は!」
 激しい雨の中男は立っていた。その顔には満心の笑みがある。
 「久し振りだな、デッドライオン。まさか生きていたとはな」
 「貴様、アマルでヨロイ騎士と闘っていたのではなかったか・・・」
 戻って来た右の爪で城を指しながら言った。
 「カブトローの真の力を侮ってもらっては困るな。雷より速いんだからな」
 「くっ・・・おのれ・・・・・・」
 「今度こそ貴様を倒してやる、覚悟しろ!」
 そう言うと両手の手袋を投げ捨てた。中から銀の手が現われた。

 変
   右手を右肩の高さで真横に垂直に上げる。左手は肘を直角にし右手に垂直に置く。
 身
 両手を左斜め上四十五度までゆっくりと旋回させる。胸が赤くなりそこから黒のバトルボディになる。足が白いブーツに包まれそこから上半身と同じ黒のバトルボディに覆われていく。
 スト・・・ロンガー!
 右手を素早く引く。一瞬で戻し左手と擦り合わせる。両手を激しい火花が覆う。
 すると顔の右半分が仮面に覆われた。そして次には左半分が。凄まじい雷光が全身を包んだ。
 そこには雷のライダーがいた。仮面ライダーストロンガーである。

 「天が呼ぶ  地が呼ぶ  人が呼ぶ
  悪を倒せと俺を呼ぶ
  聞け、悪人共
  俺は正義の戦士、仮面ライダーストロンガー!」
  ストロンガーの全身を雷が走った。凄まじい衝撃が起こった。
 「貴様等の野望、今ここで潰える。覚悟しろ!」
 「ほざけ、返り討ちにしてくれるわ!」
 ストロンガーが降り立った。戦闘員達がそれを取り囲む。  
 「フン、来たな雑魚共が」
 不敵な言葉を吐いた。それにいきり立つかの様に戦闘員達が一斉に動いた。
 「エレクトロチャーーージッ!」
 腕を交差させ全身から電流を放った。それに襲われた戦闘員達が一掃される。
 「な・・・・・・」
 さしものデッドライオンも思わず絶句した。
 「デッドライオン、残るは貴様だけだ」
 「ほざけえっ、その減らず口二度と叩けぬようにしてやるわ!」
 鬣を外し投げ付ける。それはブーメランの様に旋回しつつストロンガーへ襲い掛かる。
 「その程度!」
 電流を放ち弾き返す。鬣は空しく主の下へ返っていった。
 「今度はこちらから行くぞ!」
 突進した。拳を次々と繰り出す。
 デッドライオンはそれを右の爪で受け止める。そして返す刀で斬りかかる。
 ストロンガーは蹴りを放つ。雨に電流が反応しバチバチと音を立てる。
 だがそれをデッドライオンはバックステップでかわした。間合いが空くと爪を飛ばして来た。
 ストロンガーは襲い来る爪を蹴った。その時激しい電流を流した。
 爪が電流により緑に光る。激しいスパークの音がし爪は塵となって地に落ちた。
 「何ッ!」
 これにはさしものデッドライオンも驚いた。自分の最大の武器が跡形もなく消されたのだから。
 「電流は水を伝う。雨が貴様の不運だったな」
 「おのれ・・・・・・」
 呪詛の声を漏らす。先程は喜んだ雨が今では憎くて仕方が無い。
 「これで決着を着ける。行くぞ!」
 胸のSの文字が激しく回転し始めた。
 「チャーージアーーーップ!」
 角と胸が銀色になる。それと同時にストロンガーは跳んだ。
 「超電子ドリルキィーーーック!!」
 右足を軸として高速回転する。そしてそのまま右足で蹴りを入れる。
 「ガオォォーーーーッ!」
 これにはデッドライオンも耐えられなかった。凄まじい衝撃をまともに受け弾き飛ばされた。
 砂の上に叩き付けられる。身体が粉々になるような痛みが全身を襲う。
 「グ、グウウウゥ・・・・・・・・・」
 それでも何とか立ち上がった。だがそれが限界だった。
 「み、見事だストロンガー、俺の負けだ」
 最後の力を振り絞って声を出した。
 「だが貴様は最後には負ける。悪の力は不滅だ」
 口から血を吹き出した。もはやこれまでだった。
 「地獄で貴様の最後を見届けてやる。悪に栄えあれーーーーっ!!」
 そう言い残すと倒れた。大爆発を起こし死んだ。
 「遂に死んだか、ブラックサタンの残照もこれで完全にこの世から消え去ったな」
 ストロンガーは感慨深げに呟いた。チャージアップも解いていた。
 「それはどうかな」
 何処からか声が響いてきた。
 「誰だっ!」
 ストロンガーは叫んだ。声の主は嘲るように笑った。
 「俺の声を忘れたか。ならば少々手荒いもてなしをしてやらねばならんな」
 声がそう言い終えると先程ストロンガーが現われた丘の上から二体の影が現われた。
 「イイーーーーーッ!」
 ブラックサタンの地雷怪人コウモリ奇械人とジンドグマのボール怪人ドクロボールである。
 「ブラックサタンの・・・・・・!」
 奇械人の姿を見てストロンガーは驚いた。
 「迂闊だったな、ストロンガー。ブラックサタンの力も今や我等の力の一部なのだ」
 声は高らかに笑った。
 「やれいっ、手加減は無用だ」
 その声を待つまでもなく怪人達はストロンガーに襲い掛かって来た。まずドクロボールがバスケットボールに似たボールを投げ付けてくる。
 ストロンガーはそれをジャンプでかわした。だがそこへドクロボールはネットを投げ付けた。
 「むうっ!」
 ネットはストロンガーを捉えた。そのまま地に落ちる。
 「キキィーーーーッ」
 コウモリ奇械人が口から赤い液を吹き出す。それは容赦なくストロンガーにふりかかった。
 「うおおおおおっ!」
 ストロンガーの身体がしゅうしゅうと音を立て焼ける。常人ならば即死してしまう程強力な液である。ストロンガーもダメージを受けた。
 だがここで怪人は一つのミスを犯した。液のせいでネットが溶けてしまったのだ。
 「しめた!」
 ストロンガーはネットを引き千切った。そおへ自らを巨大なボールと変化させたドクロボールが飛んで来る。
 怪人は不気味に空を裂く音を立てつつ飛んで来る。ストロンガーはそれを冷静に見ている。
 「今だ!」
 ストロンガーは回転を始めた。コマの様に回る。衝撃が周りの砂を撒き散らす。
 「ウルトラパーーーーンチッ!」
 ドクロボールを撃つ瞬間に拳に電流を集中させる。ボールが今雷に覆われ緑の光に包まれた。
 「ガオオオオッ!」
 叫び声と共に怪人は元の姿に戻った。そして砂の中に倒れこみ爆死した。
 だがまだコウモリ奇械人が残っていた。怪人はその翼を使い空へ上がろうとする。
 それに対しストロンガーも跳躍した。一直線に怪人へ向かって行く。
 身体を激しく回転させた。ドリルの様な動きである。
 「スクリューーーキィーーーーック!」
 蹴りが怪人を貫いた。ストロンガーは暫くそのまま空を飛び着地した。その後ろでは真っ二つになった怪人が空で爆死していた。
 「フフフフ、そうでなくては面白くは無い」
 先程の声が再び聞こえてきた。
 「ならば俺が相手をしてやろう、久々にな」
 そう言うと丘の上に姿を現わした。
 「貴様はっ!」
 ストロンガーは思わず声をあげた。そこには黒服の男がいた。45
 黒いスーツに白のスカーフを着けている。白手袋をはめておりダンディズムを感じさせる。
 異様なのはその頭部であった。巨大な赤い光を放つ単眼がある。そして黒い頭部全体に無数の眼がある。彼の名は百目タイタン、ブラックサタンの大幹部としてストロンガーと死闘を繰り広げた男である。
 イタリア、シチリアに生まれた。地底王国の王族出身である。彼等地底人の祖先はこの島に暮らしていたと言われる巨人キュクロプスである。炎の神に仕えていた誇り高い巨人の血を受け継いでいるのである。その血の為彼等は単眼であった。
 彼は王家では傍流であった。だが陰謀とクーデターによりライバル達を全て除き玉座に就いた。政敵はあらゆる手段を以って消すのが彼のやり方だった。
 その奸智と冷徹さを買われ彼はブラックサタンの大幹部となった。一説には彼の国は魔の国と関係があったのではないかとも言われている。何故なら彼の出自が人ではなくデルザーの改造魔人達と同じく人ならざる者であったからだ。
 ブラックサタンにおいても彼はその辣腕を振るい続けた。組織の邪魔となる者は次々に消していき作戦を成功させてきた。時には味方ですら平然と使い捨てにした。
 一度はストロンガーに敗れたがその力を惜しんだ首領により甦らされた。この時強化手術を受け無数の眼を持った。これが今の名の由来である。冷酷で狡猾な策士として知られている。
 「タイタン、貴様また甦ってきたのか」
 「悪が栄える限り俺は何度でも甦る。貴様を倒す為にな」
 無数の眼でストロンガーを見下ろしつつ言った。
 「リビアでの我々の作戦は失敗した。デッドライオンも死んだ。だがそんな事は俺にとってはどうでもいい。貴様さえ倒せられればな」
 「望むところだ、来い!」 
 「言われずともこちらから行く」
 ストロンガーの言葉より早くタイタンは丘の上から飛び降りた。懐からリボルバー型の銃を取り出す。
 「喰らえっ!」
 銃を放つ。ストロンガーはそれをかわす。
 「何時までも避けきれるものか!」
 続けざまに発砲する。だがストロンガーは驚異的なスピードでそれを全てかわした。
 「むっ」
 弾が切れた。タイタンは銃を戻した。
 「ならばこれだ!」
 右手を顔にもっていく。眼球の一つをくり抜いた。そこからすぐに新しい眼球が出て来る。
 「ファイアーボール!」
 その眼球を放つ。眼球は火の玉となってストロンガーに襲い掛かる。
 「電気ビーーム!」
 指から電流を放つ。吸血カメレオンを倒したあのビームだ。それで火球を相殺する。
 ストロンガーは一気に間合いを詰めんとする。同時に胸のSの文字が回りだした。
 「ほう、そうくるか」
 それを見てタイタンは不敵に笑った。
 チャージアップしたストロンガーの拳がタイタンへ繰り出される。タイタンはそれを受け止めた。
 「ぐっ・・・」
 さしものタイタンもこれは効いたようである。呻き声が漏れる。
 「だがやらせん!」
 指から炎を放つ。
 「ファイアーシュート!」
 ストロンガーはそれをバク転でかわす。かわすと同時に蹴りを放つ。
 「うおっ!」
 顔を思いきりのけぞらせそれを紙一重でよける。手で着地したストロンガーが再び来る。
 両者は激しく打ち合う。ストロンガーに分があるがタイタンも粘る。やがてストロンガーの方に焦りが見られるようになった。
 「ほう、そろそろ時間か」
 タイタンはいわくありげに言った。
 「何っ、貴様まさか」
 ストロンガーはその言葉に動揺した。
 「そうとも、貴様の超電子ダイナモの事は既に研究済みだ。短時間しか使えないという事もな」
 「くっ・・・・・・」
 ストロンガーは舌打ちした。その通りだったのだ。既に身体は限界に近付いている。
 「俺は貴様が自爆するのを待てばいいだけだ。かって俺が自分の力の許容量を超えた時のようにな」
 かって地底王国の闘いにおいて敗れた時の話だ。
 「チャージアップを解きたいだろう。だがそうはさせん。その暇は与えぬぞ」
 攻撃を繰り出す。ストロンガーの全身がきしむ。
 「くっ、もう限界か・・・」
 その時両者に向けて数枚のトランプが放たれた。
 「ムッ!」
 二人はそれをかわした。その間にストロンガーはチャージアップを解いた。
 「クッ、もう少しというところで・・・・・・」
 タイタンはトランプの飛んできた方を睨んだ。
 「シャドウ、どういうつもりだ!」
 そこに男はいた。あの白服の男だ。
 「フフフフフ」
 タイタンの問いに対し不敵に笑っている。
 全身を白い中世の騎士の様な服で覆っている。マントとブーツも白だ。腰の左右には大小それぞれ一振りずつ剣が架けられている。
 特に目を引くのが顔である。肌が無く肉がそのまま見える不気味な顔である。しかも不自然なまでに紅い唇は耳まで裂けている。その顔全体を透明なマスクで覆っている。彼の名はゼネラルシャドウ。ブラックサタン、デルザーにおいて勇名を馳せた一匹狼の剣客である。
 欧州にはロマニと呼ばれる人々がいる。そのルーツはインドにあるとも言われているがはっきりとしない。欧州で各地を馬車等で転々としながら占いや奇術ショーを見せて暮らしている。メリメの小説『カルメン』等多くの文学作品にも登場している。独特の音楽でも有名である。
 彼等は時として迫害の対象となった。特にナチス=ドイツの虐殺は知られている。その総数ははっきりしないが欧州にいるロマニのうち約半数が殺されたとも言われている。その他にも事あるごとに彼等は迫害、虐殺の対象となっていた。
 そのロマニの子として彼は生まれた。幼い頃よりトランプのカードを使い占いや奇術をして生計を立てていた。また彼は剣の腕も秀でており切れる頭脳も併せ持っていた。長じて彼は馬車を離れフランス軍外人部隊に入った。そこで彼は頭角を現わしていった。彼が入隊してすぐに第二次世界大戦が勃発した。
 フランス軍はドイツ軍のアルデンヌ突破作戦により呆気無く敗れた。強大な陸軍を擁するフランス軍の敗北に世界は驚いた。パリは無血開城し傀儡政権が樹立された。
 だが陸軍の軍人であり後に大統領となるシャルル=ド=ゴールがビジー政権を樹立する。彼はそれに参加した。
 それから彼は世界を転戦して回った。ベトナムで精鋭をもってなる日本軍と刃を交えた事もある。前線に真っ先に行かされる外人部隊だが彼は倒れる事は無かった。顔は傷だらけになり大小無数の傷を負っても彼はすぐに戦場へ戻った。最早彼にとって闘いは生きがいであった。戦場で血まみれになって立つ彼の姿を見て友軍だけでなくあの日本軍やドイツ軍ですら震え上がったという。
 やがて第二次世界大戦が終結した。彼はそのまま外人部隊に残った。敵を求めてであった。
 その彼を誘う者が現われた。あの首領である。首領は彼を更なる闘いと敵をもって彼を己が野望に誘ったのである。
 闘い、そして敵と聞いて彼はその誘いに乗った。そして彼は闘い続けた。その戦場は人の世界ではなかった。暗い魔の国だった。やがてその場所は彼の第二の故郷となった。
 闘いにより彼は更に傷を負った。その度に改造手術を受け彼は完全に人ではなくなっていた。そこにいるのは一人の改造魔人だった。
 ブラックサタンに雇われた彼は仮面ライダーストロンガーの存在を知る。それ以後彼はストロンガーを倒す事に執念を燃やしていく。あえて卑劣な策を用いず正面から闘って倒す為に。そうでなければ彼の誇りが許さなかった。
 後にブラックサタンに反旗を翻しデルザーを結成しその中心人物となる。誇り高い切れ者の剣客である。
 「ストロンガーは今万全の状況ではない。そんな時に勝ったとしても面白くはなかろう」
 シャドウはこちらへゆっくりと歩んできつつ言った。
 「何を言うか、勝たなければ意味が無いのだ!」
 タイタンは反論する。
 「ふん、策に嵌めて倒して何がよいのだ」
 「何っ、それはどういう意味だ」
 「聞こえなかったか。正々堂々と闘えと言ったのだ」
 「ふん、戯言を。我等は邪道こそ得手だ」
 流石にタイタンも退かない。
 「それで勝てるというのならばな」
 「・・・面白い、やるつもりか」
 タイタンの声に怒りがこもる。
 「まあ待て。俺がここへ来た本来の目的は貴様に伝言がるからだ」
 シャドウはそれを受け流す様に言った。
 「伝言?」
 「そうだ、あのお方からな」
 「何っ!?」
 タイタンの態度が一変した。
 「今すぐナイジェリアへ向かえとの事だ。そこで北アフリカの残存勢力を集結させよとの事だ。俺もそちらへ向かう」
 「むう、今すぐか」
 タイタンは眼の一つでちらりとストロンガーを見た。
 「ストロンガーよ、命拾いしたな。その命次に会う時まで預けておく」
 そう言うと首のスカーフを取った。
 「すぐにそちらへ向かう。だがシャドウ、忘れるなよ。ストロンガーを倒すのはこの俺だ」
 「貴様にそれができるのならな」
 「ほざけ!」
 スカーフを投げるとタイタンは消えていった。後にはストロンガーとシャドウが残された。
 「そういう事だストロンガー、ナイジェリアで待っている」
 「シャドウ・・・・・・」
 ストロンガーは敵の名を呼んだ。
 「忘れるな、貴様を倒すのはこの俺だ」
 マントを翻した。
 「その時間まで腕を磨いておけ、マントフェイド!」
 マントで身体を包む。そしてその中へ消えていった。
 「あいつ等までいるのか。これまでになく激しい闘いになるな」
 一人残ったストロンガーは呟いた。

「そうか、今度はナイジェリアか」
 トリポリの空港で滝は城と共にいた。
 先に空へ行くのは滝である。これから欧州へ向かいそこから空路を乗り継いでアメリカへ向かう。リビアとアメリカの関係の為かなり面倒なコースとなっている。
 「滝さんはアメリカですか」
 「ああ、今度はNASAの方へ行かなくちゃならないんだ」
 「何かと大変ですね」
 城は笑って言った。
 「おいおい、それはこっちの台詞だぞ」
 今度は滝が笑った。
 「あの辺りは昔からゲルダムとかキバ一族とかの勢力が近かったからな。何かと大変だと思うが頑張ってくれよ」
 「ええ、奴等を今度こそぶっ潰してやります」
 黒い手袋を握り締めて鳴らしつつ城は言った。
 「まあ近いうちにまた会えるだろう。その時は宜しく頼むぜ」
 そう言うと滝は右手を差し出した。
 「ええ、こちらこそ」
 城も右手を出した。熱く固い握手が握り合わされた。


 熱砂の騎士 完              
                                 
                                  H15・10・21

 
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