脳卒中になって

　　　　　　　　　　　　　　　脳卒中になって
　急にだ、阿南軍司は性格が変わった、それまでは穏やかでまさに定年を迎えて年金生活に入っているお爺さんだったのが。
　異様に攻撃的でヒステリックになった、執念深く愚痴ばかり言い口を開けば悪ぐにになった。その祖父を見てだった。　
　高校生の孫の道人若い頃の祖父そっくりできりっとした顔立ちに濃い鉤爪型の眉を持ち細面でやや癖のある黒髪を真ん中で分けた口の大きい一七五位の背の痩せた彼は驚いて言った。
「祖父ちゃん何か憑いたのかよ」
「親父本当に変わったな」
「一変したわね」
　父でやはり遺伝を受け継がせた外見の好平サラリーマンの彼と母でパートもしている主婦の楓
黒髪をショートにしてやや丸い顔に大きな丸い目と小さな唇を持つ一五二位の背で脚が太いかのじょも言った。
「お義父さん」
「ああ、最近な」
「別人だろ」
　こうもだ、道人は言った。
「もうな」
「そうだな、穏やかで人の悪口なんて言わなくてな」
「感情的にならなかったのに」
「それがもうだ」
「完全に別人よ」
「憑いたかおかしくなったのかよ」
　孫はさらに言った。
「どうなんだよ」
「そのことだけれど」
　祖母で軍司の妻で長年連れ添っていている華が言ってきた、小柄で茶色の髪を短くしていて小さな皺の多い顔を持っている。
「ご近所の都さんにお話したら」
「何て言ってるんだよ」
「病院に診てもらうべきだってね」
「言ってるんだな」
「特に頭をね」
　こちらをというのだ。
「診てもらうことだって」
「頭か」
「そう、性格が急に変わる時ってね」
　今の軍司の様にというのだ。
「頭、脳に何かあった場合があるから」
「そうしたことあるんだな」
「そう言われたの、あの人看護師さんだったから」
　それでというのだ。
「そう言ってくれたの」
「そうか、じゃあな」
「診てもらいましょう」
　好平と楓はそれならと頷いた、そして誰が行くかと怒る祖父を一家全員で拘束する様にして連れて行ってだった。
　診てもらった、すると。
「脳卒中だったなんてな」
「ああ、それで勘定に影響が出てな」
「別人みたいになっていたのね」
「驚いたわ」　
　一家全員で話した。
「本当にそうだったなんて」
「脳には感情に影響する部分もあって」
「それでああなっていたんだな」
「そうだったんだな、それでな」
　道人は顔を曇らせて言った。