仮面ライダーディネクト その男、世界の継承者
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前編:とある世界の話
多次元宇宙、並行世界。
無限に等しい数で存在するいくつもの世界……かつてその世界を侵略しようとした悪の組織があった。
その名は『大ショッカー』、秘密結社ショッカーをはじめとした数々の悪の組織が集結し、すべての世界を支柱に収めるために侵略しようと企んでいた大組織。
だが、その野望はとある"通りすがりの仮面ライダー"と歴代仮面ライダー達によって打ち砕かれた。
大首領となるはずだった『世紀王』も、彼の傘下となっていた『大幹部』もいなくなった今、各世界に潜んでいた大ショッカーの残党達は統率力を失い、独自の侵略活動をやっていた。
世界は未だに大いなる悪意に晒されていた。
――とある男が通り過ぎるまでは。
~~~~
―――とある世界の日本、宮城県某所。
鬱蒼と生い茂る森の中、一人の少年が走っていた。
まるで何かから逃げるように必死に走る少年……頬についた泥と混じった汗を流しながら、少年は悔しい思いを零す。
「クソッ、クソッ……なんでっ、助けられないんだよ!!」
少年は走る、ただ走る。
自分を追いかけているであろう"あいつら"から逃げるべく、必死に走っていた。
何度も何度も転びそうになりながら、この森から抜けて逃げようと必死に……。
だが、そんな少年の前に異形の悪魔が現れた。
『ケケケッ!』
「ッッ!? ば、化け物!?」
そこに現れたのは、蜘蛛を模した異形の怪人。
人間の女性のような顔と乳房を持つ白い体色の巨大なクモの形態を持ったその怪人――本来ならネオ生命体が生み出した"クモ女"と呼ばれる怪人に、少年は足を竦ませる。
唸り声と蜘蛛の長い足でジリジリと近づき、今にも襲い掛からんとする。
あまりの恐怖に少年は目を瞑り、呟く。
「―――姉ちゃん……!」
『キシャアアアアア!!』
奇声を上げて少年へと襲い掛かるクモ女。
その鋭い足を向けて、少年を串刺しにしようと突き出した。
少年へと迫る凶刃に、彼はただ待つしかなかった。
だが、いつまで経っても痛みはやってこない。
代わりに聞こえてきたのは風を切る音と、直後に叫ぶクモ女の悲鳴。
少年が恐る恐る目を開けると、突き刺そうとした二本の足を斬りおとされたクモ女の姿と、そのクモ女と相対する若い青年の姿であった。
茶色の髪に凛々しい顔、黒いジャケットと青いデニムのズボンといった今時の服装を着た齢20前後の青年は、手に持った先進的なデザインの剣のような武器を構えて、こちらへと顔を向けた。
「よぉ、大丈夫か?」
「あ、あんたは……」
「なぁに、通りすがりのもんだ。通りすがりついでに君を助けただけさ」
少年の言葉に笑顔で返す青年は剣を構えて、暴れまわっているクモ女へと向かっていく。
クモ女は迫ってくる敵を見つけると、残った足で刺突攻撃を繰り出す。
鋭く突き出された足を青年は手に持った剣でさばいていき、応戦する。
「おうおう、どうした? 一人の人間すら捉えられないってことか?」
『キィィィィ!?』
「おお怖い怖い。ま、お前のような手がかかりそうな痴女な絡新婦は願いさげだっつうの。ただでさえこっちには手がかかる女がいるからな」
軽口を挟みながら青年はクモ女の攻撃を剣でだけ弾いてく。
一つ一つの鋭い一撃を青年は時に巧みに避けて、剣を振るい斬撃を叩き込んだ。
斬光を残すほどの素早い一振に怪人であるはずのクモ女は引き下がる。
『キキキ……!』
「さぁ来いよ絡新婦。それとも生身の人間相手に圧されて怖くなったか?」
『キシャアアアアア!!!』
不適に笑う青年の挑発を受けて、ヒステリック気味な叫び声を発しながらクモ女は裂けた口から糸を放つ。
幾何にも別れて放たれたそれは青年と少年を捕らえんと降りかかる。
だが、そこへ何処からともなく飛んできた炎がクモ女の糸を燃やし尽くた。
「ほ、炎!?」
少年は炎が飛んできた方向へ振り向くと、そこには一人の若い女性が立っていた。
赤みがかった茶髪と真紅色の瞳が特徴のその女性は手に灯された炎をクモ女へと浴びせながら牽制。
盛年の元へと近づくと、眉を潜めながら青年の首根っこをつかんだ。
「ちょっと、誰が手がかかる女ですって?」
「いや? 俺ぐらいしかお前の傍には勤まらないだろ?」
「私、あんなのじゃないんですけど!」
「当たり前だ、二人もいてたまるかよ」
「それってどういう意味よ!?」
「そのままの意味だよ」
先ほどの口にした言葉によって口喧嘩を始める青年と女性。
怪物であるクモ女そっちのけで繰り広げられる二人の痴話喧嘩……緊張感のないその光景に少年は少し呆れ、クモ女は激怒せんと言わんばかりの鳴き声を上げて襲い掛かっていく。
『キシャアアアア!!』
「「――首突っ込むな!」」
二人の男女へとその瞬間、放たれたのは斬撃と強風。
青年が振るった剣の斬撃と女性の手から繰り出した疾風がクモ女へと襲い掛かる。
二つの攻撃によってた切り刻まれた瞬間、クモ女はそのまま地面へと倒れ、その体は溶けるように消えていった。
自分をおかけていた怪物を一瞬で倒した二人に少年は驚いていた。
「凄い、あの怪物を倒すなんて……」
「おーい、君、大丈夫か?」
「怪我はない?歩けるかな?」
「えっ……う、うん。大丈夫」
戦いを終えてこちらに気づいた二人の男女は少年の存在に気付くと、駆け寄って心配そうにのぞき込む。
青年の差し出された手に引かれ、少年は立ち上がると、交互に二人を見た。
どちらも整った顔立ちをしており、美男美女といえるだろう。
少年を助け出した青年達は自らの素性を明かすことにした。
「私はツバキ。こっちの人は……」
「俺はハルマだ。よろしく、少年……えーっと」
「えっと……ジャガイモ、みんなからあだ名で呼ばれている」
少年――『ジャガイモ』が出会ったのは、謎の二人組。
青年――『ハルマ』と女性――『ツバキ』。
彼らとの出会いが少年、そしてこの世界の行く末を変えた。
~~~~
場所は森を抜けてとある町にたどり着いたハルマとツバキ。
案内してくれたジャガイモ少年によると、なんも変哲もない小さな町らしい。
しいて言うなら、最近『人を攫う怪物』が出没しているそうだ。
最初は若者の戯言かと思われいたが、次第に増える失踪者と多数の目撃情報によって信じ終えざるなかった。
町に入ると、そこにはジャガイモ少年の仲間の少年達がいた。
「ジャガイモ! お前どこ行っていたんだ!?」
「ごめんなさい、姉ちゃんたちを探しに行ってた」
「バカ野郎! お前まで化け物に捕まったらどうするつもりだったんだ!?」
ジャガイモ少年の安否を確かめに群がる少年たち。
中には無事だった事に泣き出す子までいた……それだけ彼が慕われている証拠なんだろう。
そんな中、仲間の一人がハルマ達の存在に気づき、訪ねてきた。
「えっと、アンタたちは?」
「ああ、ちょっと困っていたところを助けたものだ」
「ねぇ、もしよかったら怪物の話を聞かせてもらってもいいかな? 助けになりたいの」
ジャガイモ少年を助けたという事実を聞いた仲間たちは顔を見合わせると、互いに頷いて二人をとある場所へと招いた。
それはジャガイモ少年の実家である民家であり、表札には『小野寺』と書かれていた。
二人は居間に案内され、ちゃぶ台に置かれた湯飲み茶碗に入ったお茶を口にしながらジャガイモ少年の話を伺う事にした。
「で、さっきジャガイモ君から聞いた話だけど、怪物の話、詳しく聞かせてもらっていいかな」
「ああ……事の発端は、一ヵ月前も前だ。変な黒い服装の集団を率いた怪物達が俺達の町や周辺の地域に出回って、人々を攫っているんだ!」
「そいつはまあ、大規模なことだな。治安組織……警察とかはどうした?」
「警察も動いてくれたけど、怪人達には太刀打ちできなかった」
ツバキとハルマが尋ねるとジャガイモ少年をはじめとした少年たちは苦痛の表情を浮かべる。
それほど悔しい思いをしていると二人には伝わると、仲間の一人がちゃぶ台に拳をぶつける。
「畜生ッ……なんなんだよあいつら、大ショッカーとか名乗っていやがったが!」
【大ショッカー】……その言葉を口にした瞬間、二人の顔色が変わった。
ツバキは驚いた表情を浮かべ、ハルマは目付きが鋭くなる……二人の変化をジャガイモ少年が見逃さなかった。
不敵な笑みを向けながらハルマはジャガイモ少年達へ訊ねてきた。
「大ショッカー、ねぇ……そいつらが町の人を攫ったっていうのか?」
「ああ、そうだよ。奴らはそう高らかに名乗っていたけど……」
「そうか……ツバキ、早速だけど動くぞ」
「うん!」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 二人ともどこに行くって……」
ハルマがツバキと共に民家から出ようとするところへ、ジャガイモ少年が止めに入る。
彼に呼び止められたハルマは振り向いて、彼の質問に答えた。
「そりゃ、お前らの大切な人を取り戻すためだが?」
「取り戻すって、大ショッカーと戦うってことか!?」
「まあな、何の因果でこの世界にたどり着いたかわからなかったが、奴らがいるなら俺達の出番だ」
「大丈夫だよ、私とハルマならなんとかするからね」
自信ありげにニヤリと笑うハルマと共に、ツバキがウインクを送った後、二人は民家から出ていく。
その後を追って、民家から出てきたジャガイモ少年が叫んだ。
「待ってくれ! アンタたちだけで行かせるなんてできるかぁ! せめて、せめて俺にできることを!」
「そこまでいうなら、うーんと……じゃあ、ジャガイモ少年。助けにいく報酬代わりと言ってなんだが、一つ絵のリクエストしてくれ。完成する頃には取り戻してやるからさ」
「絵でいいのか……って、なんで俺が絵を描いている事を?」
自分の趣味でもあり数少ない特技のである絵描きについて一言も喋ってないはずなのに、なぜかそれを言及したハルマ。
ジャガイモ少年はそれが不思議でならなかったが、彼の様子に対してハルマは不敵な笑みで返すと、自分のリクエストの内容を伝える。
そのあと、ツバキを引き連れて目的の場所である大ショッカーの元へと向かうことにした。
その二人の背姿を見て、ジャガイモ少年は呟いた。
「……大丈夫かな。あの二人……」
ジャガイモ少年は町から出て再び森へ向かおうとするハルマとツバキの姿を見送る。
自分ですら死ぬ恐怖を味わったにもかかわらず、何処か慣れた足取りであの怪物達が巣食う場所へ向かう彼ら……二人の背姿を見て感じたのは、―――安心感だった。
いうなれば『死にいく背中は思えない』、今のジャガイモ少年はハルマとツバキの姿を見てそう思った後、家に戻り、自室にて描き始めた。
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