ツバサ -DECADE CHRoNiCLE《ディケイドクロニクル》-
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第26話:別れのオクリカゼ
前書き
謎の仮面ライダー・アギト バーニングフォームの襲撃。
追い詰められる2号をディケイド達が助け、なんとか退けることができた。
だが、その正体はアギトを騙る何者か……漆黒に包まれたその身を消しながら、仮面の戦士は去っていった。
謎のアギトを騙った何者かを退けた士達一行。
夕方となった日、彼らは今、旅立とうとする本郷と一文字との会話に勤しんでいた。
「何処かに旅立つんだな」
「ああ、俺達は元々こことは別の世界の人間だ。元の世界に戻る手段を探しながら旅を続ける」
本郷と共に戦ったユウスケは別れの言葉を交わしていた。
―――元々、本郷と一文字はこの"ネオライダーの世界"とば別の世界からやってきた者だ。
元々は【第3の仮面の男】を迎えた後、本郷は行方不明になった一文字を探すべくこの世界まで来たそうだ。
一方、度重なる拒絶反応によって身体の限界を迎えるはずだった一文字……だが死ぬ間際の所へサクラの記憶の羽根が舞い降りた。
長時間の生死を彷徨った後、気が付けばこのネオライダーの世界におり、自身の身体はリジェクションが起きない健康体になっていたという。
巡った因果にとって、一文字にとってはサクラや小狼達に恩義を感じる……と、心の内で留めて置いている。
そんな一文字へ、士と小狼は話しかけていた。
「お前も旅の途中なんだな」
「ああ……どうやら、そうらしい。死にかけることもなくなった今、どこへ向かうかはわからないけどなぁ」
「ありがとうございます、一文字さん。今までサクラの羽根を守ってくれて」
「いいってことよ……誰かのために戦うヤツはどうしても嫌いになれないだけだ」
頭を下げて感謝を述べる小狼へ一文字は気さくに返しながら、隣に立つ本郷へ視線を向ける。
対して本郷はユウスケらのと会話を一区切りすると、士達7人を改めて見て告げた。
「もし、君達に何かあった時は俺達が助けに行く」
「この世界は分からないことがあるからな。何が起こるか分からない以上、俺達が手を貸す」
「頼もしい限りだな。なぁ、士」
「さぁてな、だが悪い気はしない」
本郷と一文字から受け取った言葉に喜びの表情を浮かべるユウスケとニヒルな笑いを浮かべる士。
そして一文字は小狼達へ顔を向けると、自身の癒していた記憶の羽根を小狼へと差し出す。
「大事なモノなんだろ? 受け取れ」
「サクラの羽根……!」
小狼はそれを受け取り、一文字に深々と頭を下げた後、記憶の羽根を見つめる。
桃色の模様が入ったその白い羽根に小狼は顔を綻ばせた。
「ようやく、羽根を手に入れた」
「小狼君、私に渡すのは後にしてね。お二人の別れを惜しみたくないから」
「姫……わかりました」
サクラの言葉を聞いて、羽根を受け取ったままにする小狼。
二人のやりとりを見て本郷と一文字はそれぞれの愛機・サイクロン号に跨ると、エンジンを吹かしつつ、最後の言葉を交わした。
「みんな、また会おう」
「じゃあな、元気でいろよ」
士達一行にそう伝えると、本郷と一文字はサイクロン号を走らせ、瞬く間に去っていった。
まるで吹き抜ける風のように何処かへと消えていく二人を見送る一同。
二人のライダーが旅立ったのを見送った後、タイミングよく起き上がる者がいた。
夏海が気になって振り向くとその声の主はサクラに抱えられたモコナだった。
「ぷぅ! 羽根見つかってよかった!」
「モコちゃん、おはよう」
「モコナ、おはようございます。ところでずっと黙っていたけどどうしたのですか?」
「寝てた!」
「あんな状況で寝ているなんて図太いですねこの子!?」
夏海が戦闘中でも黙って寝ていたモコナに驚きの声を上げた。
そんな彼女へとモコナは抗議の言葉を告げる。
「でもモコナ、羽根の波動、見つけたよ!」
「モコナ、それは一文字さんが持っていた羽根じゃあ……」
「違うの! 他にも羽根があるの!」
「「「「!?」」」」
モコナの驚きの発言に聞いて驚く小狼、サクラ、ファイ、黒鋼の4人。
その場にいた士とユウスケも眉を顰め、モコナに問い詰めた。
「どういうことだ、白毛玉? 羽根は他にもあるって?」
「そうだよ! モコナが感じていた羽根って一文字さんが持っていた物じゃなかったのか?」
「違うの! モコナ、あの時感じたの! あのライダーが戦ってるとき、めきょってしたの!」
「「「めきょって?」」」
「めきょっ!」
「「「うわぁっ!?」」」
今まで糸目だったモコナの目が見開き、思わず悲鳴を上げてしまう士、ユウスケ、夏海。
今まで知らなかった一面に驚くも、モコナの告げた言葉にさらに驚愕した。
「それに、この世界に来てから感じてるサクラの羽根の波動、まだあるの!」
「ああ、そういえば……一文字って人がネオライダーと最初に交戦した日って数日前ってことになるよね」
「おれ達がこの世界に来た時より、少し後なのか」
モコナの言葉を聞いてファイと小狼が思い出す。
サクラの羽根を感じ取れたのは、この世界に来てからすぐの事。
そして2号とネオライダーが交戦した時期と日付はこのネオライダーの世界に来た後。
―――少なくともこの世界には他にも記憶の羽根があるという事実が一同の前で判明した。
それに、モコナが述べた事を信じるのならばあの【アギトを騙った何者か】も記憶の羽根を持っていた事になる。
……状況を振り返れば、あの時羽根を持っていた2号を狙っていたのも、羽根を手に入れるためだと説明がつく。
幸いにも今回は撃退することはできたが、この世界にある羽根を狙わないとも限らない。
いずれぶつかるときもあるだろうと士達はその考えに至った。
「たっく……また面倒事になりそうだな」
「そう、ですね……サクラ姫の羽根を狙う人がいるとは」
「それもあるが、複数あるのに一つも手掛かりがつかめない所を見ると、隠しているヤツがいるな」
「羽根の情報すらない……そこまでして、羽根に固執するのは」
士と小狼が居所のつかめない羽根の持ち主について考察をし始める。
そんな中、夏海の持つ携帯が鳴り響いた。
電話の相手は栄次郎……通話ボタンを押して通話を繋げると、栄次郎の声が聞こえてきた。
『もしもし、夏海かい? 今士君と一緒にいるかい?』
「どうしたんですか、お爺ちゃん?」
『いやね、君達に会いたいって人がいるんだよね』
「えっ、私達に?」
栄次郎の口から述べられた『自分達に会いたい』という人物を聞いて夏海を始めとした一同は首を傾げた。
―――この出会いが後の大波乱になる事も知らず。
~~~~~
某所、とある港。
あの場から逃げ延びたアギトに化けていた黒い仮面の戦士は地面に倒れ、息を切らしていた。
流石に7人をもの仮面ライダーを相手にするのは堪えた模様で、事実立っているのもやっとであった。
変身した黒い姿から元の姿に戻ると、フードで姿を隠したその傷ついた服装を誰もいないその場に晒した。
「……逃してしまったな。無敵の仮面ライダー様も地に落ちたもんだ」
皮肉気味な口ぶりを吐きながら、消耗が激しいその身体を鞭打つように起き上がらせる。
その際にフードがずり落ち、素顔が露になる。
首の所で切った茶髪に、鮮やかな緑色の瞳を持つその整った顔立ちの青年は自嘲するように呟いた。
「こんなんじゃ、壊せるものも壊せねえな……、ああ、我ながらに嫌になるね」
青年は嫌味を吐きながら立ち上がると、今後自分がとるべき行動を思案する。
―――今の自分の目的は、あの力ある羽根を回収すること。
―――現に、今はこの世界で確認されている10枚のうち1枚を確保している。
―――その中で所在が判明している2枚のうち1枚は『ネオライダーの誰か』が、もう一つはあの仮面ライダー2号が手にしている。
―――2号の方は比較的新しく【この世界】にやってきたものだから最悪あのまま手に入れられても別に構わない。
―――だがもし、この世界にある羽根を手に入れようとするヤツがいるなら、それより先に回収しなければならない
―――あの羽根は、【大いなる力】と【災い】、二つの祝福をもらたすものだから。
その考えに至った時、青年は毎回同じ答えに至った。
「やっぱ、羽根をどうにかしないとな……にしても1号はまだしも、なんだったんだ。アイツらは」
苦い顔をしながら青年が思い出したのは、あの時2号を助けるべく加勢しに入ったライダー達の事。
2号と深いかかわりのある1号はともかく、クウガや歌舞鬼にサガ、そしてあのディケイド。
遠く方でナイトも見かけた気がしたが……まるで2号を助けるべく集まった5人のライダーによって羽根を奪われてしまった。
彼らが何者なのかは分からないが、相対する予感がすると青年は思った。
「そういや、前にもあったよな。あいつらと」
溜息を吐きながら思い出すのは、ディケイド達の事。
いつぞや最初にあった時はクソ野郎を打ん殴るためにファイズ・アクセルフォームで追いかけてきたが、その時すでに出会っていた。
あの時は気が進まず手を出さなかったが……彼らの目的は一体何なのか。
だがしかし、青年のやることは変わらなかった。
「だがまあ、今更降りる気はさらさらないんだがよ。さてはて、国盗り合戦ならぬ羽根盗り合戦。やっていこうじゃねえか」
『次の行き先』を見出し、余裕ぶった笑顔を浮かべながら、歩き出す青年。
闇夜に浮かび上がった光で照らす道を歩きながら、当てもない目的地へと向かっていった。
彼が辿り着くのは、闇か、光か。
~~~~~
士達一行と別れ、道路を走る2機のサイクロン号。
そこで一文字はとあるものを見つけ、思わずサイクロン号を止める。
一文字の様子に気づいた本郷も自身のサイクロン号を止めて、彼に訊ねた。
「どうした。一文字」
「悪い本郷、ちと世話になった奴に挨拶し忘れた」
「……そうか。気が済むまで話してみたらどうだ?」
「そんなに語ることもねえよ」
笑顔を浮かべる本郷にニヒルな笑みを浮かべながら一文字はそう返すと、サイクロン号から降りて歩きだす。
目指す場所には傍らに存在する歩道には俊彦と義男と満里奈……傷ついた自分を見つけ、手当してくれた三人の姿があった。
彼ら三人の前に辿り着いた一文字は膝を曲げてしゃがみ話しかけた。
「よぉ、坊主達。出迎えに来てくれたのか?」
「うん……それで、また何処か行くの?」
「ああ、俺達にも帰らなきゃならない場所があるからな。それの手がかり探しだ」
「また、会えるかな」
「俺達、待ってるよ! いつでも、いつまでも!」
「嬉しいことを言うなぁ……そうだな、帰る前に顔出しくらいはしてやる」
「「「ホントに?」」」
「ああ、本当だ。俺の友達も一緒にな」
俊彦と義男と満里奈とのたわいもない会話を交わす一文字。
少しの会話を終えた後、サイクロン号の方へ戻った一文字は本郷と共に再び出発しようとする。
そこへ、自分の背中に向けて飛んでくる声が聞こえた。
「「「お兄ちゃん!」」」
「「「―――ライダー!」」」
子供達から送られたのは、『仮面ライダー』という英雄の名前。
それを受け取った二人は背を向けたまま、代わりに片腕を上げて答え、バイクを走らせるのであった。
―――二人の大自然の戦士の『この世界での旅』は続く。
―――いずれ『帰るべき世界への術』を見つけるために。
~~~~~
時間は夜、晩飯頃。
別の世界からやってきた二人の仮面ライダーの旅立ちを見送った後、光写真館へと戻った士達一行は館内に入った。
すぐさま撮影室へと繋がる廊下から栄次郎が顔を出して出迎え、手招きしていた。
「みんな、お帰り。お客さんが君達に会いたがっているよ」
「随分と大人気みたいだな。俺達」
「でも変な話だよね。俺達ここにきてそう長くないはずなのに」
士とファイが指摘する通り、彼らがネオライダーの世界にやってきてそう長くないはずだ。
知り合いも虎太郎や小室、一条といったライダーに関する人を除けばネオライダーに有名なくらいしか心当たりはない。
どちらかといえば後者は避けたいところと思って、士達が撮影室を覗くと……。
そこには、撮影室に置かれた机の上でお好み焼きを食する若い二人の男がいた。
「豚玉、いっただきー!」
「おいバカ、勝手にとるんじゃねえよ!」
「いいだろ出来上がってるんだから。しかも美味いし」
「たっく食い意地だけは張りやがって」
一人はバンダナを取り付けた少年、もう一人はゴーグルが特徴的な青年。
鉄板の上で焼かれたお好み焼きを前に取り合う光景を見て、士達は呆気に取られている。
そんな中、二人の姿を見て反応したのは、小狼だった。
「龍王!? 笙悟さん!?」
「「へっ……?」」
初対面の小狼に"名乗ってないはず"の名前を呼ばれ、素っ頓狂な声を上げる男二人。
片やバンダナの少年、その名は『龍王』。
片やゴーグルの青年、その名は『浅黄笙悟』。
かつて小狼達が旅した世界にて出会った人達が、また別の形で、初めての人物として、再会することとなった。
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