凍らない酒
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第二章
「軍にな」
「食料と共にですね」
「馬の餌も忘れず」
「そしてウォッカもですね」
「そうだ、送れるだけ送るのだ」
軍にウォッカをというのだ。
「そうしてだ」
「兵達に戦わせ」
「そして大陸軍をロシアから追い出しますね」
「そうしますね」
「そうする」
まさにというのだ。
「兵達に凍らないウォッカを送りな」
「わかりました、ではです」
「その様にしましょう」
「兵達にウォッカを飲ませていきましょう」
「勝利の為にな」
こう言ってだった。
アレクサンドル一世は戦場で戦う兵達にウォッカを送らせ続けた、ロシアの冬の極寒に加えて餓えと疲労に苦しむフランス軍の将兵達は次々に倒れ。
ロシア軍と戦おうにもだった。
「寒くて戦えません」
「これ程凍えては」
「まず冬の寒さにやられています」
「吹雪と氷に」
「どうにもなりません」
「ワインも飲めないのだ」
ナポレオンはボトルの中の凍ったそれを忌々し気に見て述べた。
「しかも馬も死んでいっている」
「寒さの前に」
「馬の餌すらありません」
「それで大砲も荷馬車も捨てていっています」
「どうにもなりません」
「これがロシアの冬か、酒すらも凍る」
ナポレオンは今度は歯噛みして言った。
「恐ろしいものだ、これでは戦いにならぬ」
「兵達は次々と死んでいっています」
「コサック達が絶えず攻めてきます」
「何とかロシアから出ねば」
「さもないとどうにもなりません」
周りの者達も寒さに震えている、寝ても起きても寒さと餓えそれに疲労に苦しめられていた。身体を温めるべきものはそれこそ酒すらなく。
ナポレオンと彼の軍隊は想像を絶するまでの犠牲を出してロシアから撤退した、ナポレオン自身は生き残ったが六十万を超えた大軍はロシアを出た時には五千程しか残っていなかった。その状況を見てだった。
アレクサンドル一世はパリに入城した時に側近達に話した。
「我等が勝ったのはロシアの冬と皆の勇猛さにだ」
「ウォッカですね」
「凍らない酒があったからですね」
「だからですね」
「そうだ、ウォッカもまた勝利をもたらした」
こう言うのだった。
「だからだ」
「ウォッカを讃えましょう」
「凍らない酒もまた」
「そうしましょう」
「是非な、我等の勝利は凍らない酒もあってこそだ」
その整った顔で言った、そうしてだった。
彼もまた酒を飲んだ、その酒は極めて強く飲むとすぐに身体が温まった、そして今もかなり寒いが凍る気配は全くなかった。皇帝はその酒を見て微笑みもした。
凍らない酒 完
2024・7・14
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