自由を求めて
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第一章
自由を求めて
自由が欲しい、そう思ってだ。
学校でロシア語を教えているゲンナジー=マトリョフスキーはソ連からアメリカに亡命した、幸い彼は独身で兄弟はなく両親も死んでいた。
それでアメリカ大使館に飛び込んで亡命を求めると笑顔で迎えられた、英語にも堪能な彼は通訳の仕事を約束されたが。
アメリカに来てだ、彼は驚いた。その大柄で四角い小さな丸い目と砂色の短くした髪の毛が特徴の身体全体でそうなっていた。
「これがアメリカですか」
「自由ですね」
「あれしろこれするなとはです」
アメリカを紹介する政府の者に驚愕したまま話した。
「全く言われないですね」
「当然政権批判も出来ますよ」
政府の者は笑ってこうも言った。
「我が国では」
「ソ連でそんなことをすれば」
マトリョフスキーはそれこそと話した。
「ご承知の通りです」
「ソ連では秘密警察が来ますね」
「KGBが」
その彼等がというのだ。
「それでシベリアにです」
「そうですね、しかしです」
それがというのだ。
「アメリカでは一切です」
「そんなことはなくて」
「あれをするなこれをするなともです」
「言われないですね」
「自由の国です」
胸を張っての言葉だった。
「我が国は」
「そうですね、その自由を求めてです」
マトリョフスキーは真剣な顔で答えた。
「亡命しましたし」
「ではその自由を満喫して下さい」
「そうします」
アメリカ政府の者に満面の笑顔で言った、そうしてだった。
実際に彼はアメリカでの自由な生活を満喫しだした、だが次第に彼は恐ろしさを感じていった。それで政府の者に言った。
「あの、私は何をすればいいのでしょうか」
「何をとは」
「はい、一体」
「いえ、自由にです」
政府の者は何を言っているのかという顔で答えた。
「法律に触れないことでなければ」
「何でもですか」
「そうです、その法律もです」
守るべきそれもというのだ。
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