彼は いつから私の彼氏?
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第11章
11-1
年が明けて、起きたのは久々に6時半だったけど、降りて行くとお母さんがキッチンで何かをしていた。
「おはよう お母さん 寝坊しちゃった」
「いいのよ ゆっくり休んでればいいのにー」
「ううん 何か 手伝うことある?」
「そうねー 後は お餅と海老を焼くだけだからー 7時になったら 焼きはじめよーか」
ウチの元旦の朝は簡単なもので、お雑煮と焼き海老だけなのだ。お母さんが仕事で出掛けるから、2日にお正月が始まって、おせち料理らしきものが並ぶのだ。
皆が揃って、新年のお祝いをして、お母さんが出掛けて行った後、私は、お雑煮の具材をポリケースに詰めて・・・京人参、里芋、筍、椎茸と鶏のササミ、三つ葉。「お昼はお餅でも焼いてたべてネ」と、男ども二人に言っておばぁちゃんチに向かった。
私は朝から、白いブラウスに紺のカーディガンにプリーツスカートだったので、そのまま、お父さんに買ってもらったネックレスをつけて、近くなのでコートも着ないで走っていた。
「おばぁちゃん おはよう あけましておめでとうございます」
「あら まぁー 本当に来てくれたんだねー」
「そうよー 楽しみにしてたんだからー」
と、お餅を電気コンロで焼いて、具材を少し温めて、おばぁちゃんは木をくり抜いた木地のまんまのようなお椀を用意していて、その蓋には五つの丸ぁるいものが彫り込まれていた。中に具材と焼いたお餅を入れると、予め用意していたのだろうか、鍋のお水から昆布を取り出して、沸騰したら火を止めて鰹節をほおり込んで、もう一度 火をつけて沸騰寸前で止めて、一 二 三と数を数えて十になったら鰹節を濾して、もう一度火をつけて、お塩で味を調えて少しだけ味醂とお醤油とお味噌を足していた。
お椀に注いで、上から三つ葉を乗せて、又 蓋をしてテーブルに置いたのだ。
「このお椀 古いでしょう 私がお嫁入りした時に持たされたものなの さあ いただきましょう あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます」
「こんなの 何年ぶりかしら もう 何十年もないわ うれしい・・・」
「そーなんですか あっ 美味しい この味自然なかんじ」
「そう 私は 田舎者だから 味付けは塩だけなのよー この里芋とか おいしいわー お母さんが煮〆たの?」
「ううん お母さんに教えてもらって私が・・・」
「あらっ そう いい具合よ おいしいー 上手よ」
「ねぇ おばぁちゃんは ずーっと ここ? さっき 田舎者って言ってたけど」
「生まれたのは信貴山の奈良側のほう それから柏原のぶどう農家にお嫁にいってね お爺さんがぶどう栽培を始めて、だんだんと広げていったの だけど、ウチの主人は公務員になるからって、後を妹夫婦に任せて、家を出てここにきたのよ 当時はこの周りもあんまり家が建って無くってね 寂しいとこだったわ その主人も20年以上前に逝っちまってね 定年を1週間後に控えていたのに、脳梗塞でね 年末で無理して仕事をしていたからー」
「大変だったんですねー 辛いお正月だったんだー ・・・ あのね ウチのお父さんも奈良の方の出身で、ご先祖様は筒井順慶の家来だったて言ってたわ」
「そうなんかい・・・ 筒井順慶ねぇ・・・」
「ねぇ 聞いて良い?」
「なぁに?」
「お子さんは? ご家族とか・・・」
「主人の実家とは、私等が出た後 連絡も取り合っていなかったし、私も妹が居たんだけど嫁ぎ先もわからないんだよー 実家ももう無くなってしまってね ・・・ 一人息子が居てね 報道していてシリァに潜り込んだらしいんだけど・・・主人が亡くなって、しばらくしたら 死んだって連絡が来て・・・」
「そうだったんですか 哀しいですね 私 そんなだって知らなくって・・・ごめんなさい 思い出させてしまって・・・」
「ううん いいのよ もう昔の話だし こうやって水澄ちゃんが来てくれて 楽しいわー ねぇ ゆっくりしていけるんでしょ 火鉢に炭入れるわ 久々にね お餅でも焼きながら 学校のお話 聞かせてよー 太子女学園でしょ? 朝 制服姿見かけるのよ 上品よねー 水澄ちゃん 運動もやってるんでしょ そのお話なんかも聞かせてちょうだいな」
「えぇー 炭 火鉢? 見たこと無い 楽しそー」
「ふふっ そう? 初めて? 水澄ちゃんって 私にもこんなに可愛らしい孫がいたらなって思えるわー これからも 時々 遊びにきてね 私は いつも時間を持て余してるんだからー」
その後、座敷に移って、おばぁちゃんは座敷用の低い椅子に座りながら、磯辺焼きにして海苔を巻いてくれた。奥の座敷には大きなお仏壇と床の間には木彫りの大きな布袋さん、50cmくらいの花鳥が描かれた絵皿が飾られていた。私は、学校での話とかクラブの話をしていたんだけど、おばぁちゃんは私が卓球をやっていることを知らなかったみたい。
「あっ 私 トレーニングと夕食の準備しなきゃー そろそろ お暇します」もう、3時を回っていたのだ。
「水澄ちゃん お夕食のお手伝いしてるの?」
「ええ 毎日 晩ご飯は私の担当なんです お母さん 働いているから」
「そうなの えらいわねー 毎日・・・ あなたは、外出会っても明るく ご挨拶してくれるし、家でも ちゃんとやってるのねー とっても 良い娘さんだわー」
そして、帰る時 「ちょっと 待って」と、奥から飾りを持ちだしてきて
「これね もう私 する機会もないから 水澄ちゃん 持ってて」と、真珠のネックレスとイァリングのセット。
「おばぁちやん こんなの 私 困ります おばぁちゃん 大切に持っててください」
「いいのよー あなたみたいに きれいな人に使ってもらった方が これも 値打ちがでるわ しまいこんで置くよりもね」
と、無理やり持たされて帰ってきた。急いでトレーニングして、シャワーを浴びて、今日はお刺身なので、お皿に盛りつけて、ジュンサイのお汁を作っていると、今日は元旦で早いお帰りなのだろう お母さんが
「今日は 5時でお店閉めたの」
「お母さん 今日 おばぁちゃんチに行ってきたの お雑煮のね」
「ええ 知ってるわよー 水澄ちゃんも おせっかいよねー まぁ いいんじゃぁない」
「それでね これっ 私に使ってって」と、さっき 持たされたネックレスを見せると
「まっ まぁー」と、それを手に取ってじっくりと眺めて
「水澄ちゃん こんな 高級なもの 真っ白に輝いてー そうとう お高いものよー こんなの いただくわけに行かないわ お母さん すぐに、お返しに行ってきます」と、少し考えて 木箱に入った琵琶湖のごりの甘露煮と小鮎の醤油煮を抱えて出て行った。
お母さんがなかなか帰ってこないので、仕方なくご飯を食べ始めて、しばらくして帰って来て
「水澄ちゃん 仕方ないから、使わせてもらいなさい いただくんじゃぁなくて 使わせてもらうだけね すごく 水澄ちゃんのこと褒められてね 教育とか躾がしっかりしているからって、お母さんも褒められちゃったー それに 時々は遊びに来てねとか 水澄ちゃんのこと 孫って思ってもいいかしらーって そんなの駄目ですって言えないじゃぁ無い?」と、ポリ容器に入ったシジミの炊いたのを見せながらー。私が朝 持って行った入れ物 忘れていたのだ。
「宍道湖のシジミと有馬山椒だって 美味しそうなの 自分で炊いたんだって 食べてみてーって」
「ふ~ん お母さん 褒められると弱いよねー 言いくるめられたんだぁー」
「ちがうわよー! 水澄ちゃんのこと 素敵なお嬢さんって 言うから・・・嬉しくなっちゃうじゃぁない 品がよさそうな人だしー」
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