外道戦記ワーストSEED
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八話 破滅と希望の光
前書き
別の世界、別の宇宙、一人のニュータイプがもたらした人の光が、大質量の物体を地球の引力から引き戻し、地球の崩壊を止めたお話があった。
その目には、人の光が見えたという。
「あ……あっ…人の光が消えて……憎しみと悲しみが(ソラ)に……」
「不味い!」
突如苦しみ始めたイヴが口にした言葉に、ジョンは聞き覚えがあった。
これは、世界は違えど、ニュータイプの資質を持つものが大量の憎悪をぶつけられ、狂う前兆である。
(一刻を争う。俺が救命しなければ)
幸か不幸か、ザフトはすべてステルス艦艇に載せた兵器による自爆戦術という常軌を逸した戦術に、すべて撤退している。
もはやこの宙域にいるのは、物言わぬ死体と残骸だけだ。
「念の為ソンネン先輩は周囲の警戒を!イヴの救助はこちらでやります」
「……了解した。健闘を祈る」
流石先輩だ。話が早い。
伸縮性のある救助ロープを腹に巻き、ダートのようにアンカーをカーペンターズまで伸ばす。
手早く手元のコンソールの緊急項目を開き目を通す。
3機連携機のため、他の機体を牽引する可能性を考えて緊急時用に様々な機能を付けてくれていたメカニックに感謝しながら、パイロットが頭を抱えて蹲っているため棒立ちのカーペンターズに慎重に近寄り、コクピットを外側から緊急コードで開ける。
案の定、ノーマルスーツのヘルメットを拳で傷つけながら、彷徨った目で宙を眺めるイヴがコクピットにいた。
早く、『引き戻さなければ』
「先輩、少し外します!」
コクピットに滑り込むと、直ぐに再閉鎖。
後ろから抱きかかえる形でイヴを抱きしめ、同周波のヘルメット同士での接触通信でイヴに呼びかける。
「……大丈夫。もう怖いものはない。」
瞬間、自分は闇の中にいた。
どんな理屈かはわからない。
どんな場所かも分からない。
ただ、どうしようもない諦観と憎悪と悲哀に満ちた空間が、彼の周りを覆っていた。
だが、彼、ジョンはそれを怖いとは思わなかった。
生まれた時から、両親に捨てられていて、将来が選べない事に対する憎悪。
大事な妹を食わせるため、水商売に精をだしているのに社会から後ろ指差される悲哀。
それら全てを、そういった世の中だから仕方ないで諦めた自身の諦観。
痛いほど、この空間に満ちた情念に覚えがあった。
鼻から鉄の匂いを感じる。恐らく自分は、本来使っていない脳の部分を酷使している。
おそらくこのまま闇の中に二人で居続ければ、二人とも助からない。
それが、何故か分かった。
『それでも』
「イヴ、君は正しい。この世界はその3つの感情で満ち、多くの悲劇を生んでいる。それは確かだ」
でも、『それでも』俺は、足掻きたい。
世界を救う、スーパーヒーローにはなれなくとも、俺の足掻きが、この世界に比してアリのようなものだとしても。
「イヴ、君のことは妻と娘には話してあるんだ」
優しい妻は、イヴの生まれを自分の事のように泣き、幼い娘は、姉が出来ると喜んでいた。
「世界を変えるなんざする力も無ければする気もないけど、君の事は大事に思ってる。嘘じゃない。余り本人には言わないが、アズラエルは悪友だし、俺の妄想と言われたガンダム計画を最初から手伝ったソンネン先輩も、大事だ」
でも、この世界は俺の『大事』を気にしない。
しつこく妻に粘着する記者をどついて、アズにゃんにもみ消して貰ったことがある。
南米出身のソンネン先輩の家族を守るため、同期に圧力かけてもらった事ももあった。
自分から動かなければ、何もかも奪っていくこんな時代。
だからこそ手に入れよう。
奪うためでなく、守るために、地位を権力を。
たとえその過程で、泥をいくらかぶっても構わない。
だから、おれの力の及ぶ限り守るから。
俺にお前を守らせてくれ『イヴ』。
「戻ってこい。そんな暗い所にいないで」
一言に収まらない想いを乗せて、精一杯華奢な身体を抱きしめる。
その時、ジョンは、イヴの体温とは別の何かを感じた。
ジョンがイヴを想い抱きしめたと同時。
その時、近くにいたソンネン中尉とガンダムの母艦は、カメラに映らない、不可思議なものをみた。
それは、全てを暖かく照らす、虹色の光。
『……そう、君にも帰れる場所があるんだ』
『……行け、この世界を忌まわしいものにしないためにも』
光に包まれた二人を、誰かが押し上げてくれた、気がした。
不思議な話だが。
この光は何故かこの宙域すべての者の目に映り。
その光を見た人々は、理屈を越えた、何か暖かいモノをその心に感じたという。
八話 破滅と希望の光 了
後書き
正史からズレてきた世界。
だが、ヒトの善意も悪意も、個人の手のひらに収まるものではもはや無く。
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