ヒダン×ノ×アリア
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第4話 時間が進んで
前書き
今回の話から時間が結構飛びます。
あの後、クルトは数日間ロンドンに滞在した後、日本へと移動した。そして、そこで出会った遠山鐡と、遠山セツの元で修行を行った。
その二人は念能力者でもあり、クルトは念に関する修行も習い、自身の天才的才能を如何なく発揮し、僅か四年程の修行で、遠山家に伝わる武術を完全にマスターした。これには流石の鐡とセツも驚き、「とんでもない奴がおるのう」と唸ったのだった。
そんな修行も一応の終わりを迎え、十四歳となったクルトは、ロンドン武偵局に来ていた。
クルトは二週間程前に知ったのだが、クルトは最初からロンドン武偵局に戻ってくる事前提だったらしい。それも全てクルトの才能に目を付けたレズリーが、優秀な武偵を手に入れる為の画策であった。
(やっぱあの手のジジイは油断ならねえ…)
ロンドン武偵局を目の前にして、クルトはそんな愚痴を内心で零す。
本来なら文句の一つも言ってやりたい気持ちもあるが、今のクルトはそれよりも大事な事があった。
(アリアの奴元気にしてるかな?)
そう、四年前に出会ったアリアの事だった。
あの時は、日本に向かう数日間はずっとアリアと一緒にいたクルトは、アリアに色々な事を教えたし、色々な事を教えられた。
その結果、友達と呼べる程度の関係にはなったと、クルト自身はそう思っていた。
「よし、行くか」
そう小さく呟き、クルトはロンドン武偵局のドアを開けた。
昔来た時と変わらない内装に懐かしさを覚えながら、クルトは受付へと歩みを進める。
「すいません、クルト=ゾルディックですけどレズリー=ウィリスお願いできますか?」
受付のお姉さんにそう告げると、お姉さんは、少しだけ驚いたように目を見開いた。
「えっと、あなたがクルト=ゾルディック…さんですか?」
思わず「君」付けしそうになったのだろう。お姉さんは名前の後、少しだけ言葉を詰まらせた。
その事をあえてスルーして、クルトは次の言葉を待った。
「えっと、レズリーさんからお話は聞いています。こちらへどうぞ」
そう言って、お姉さんは立ち上がり、歩き出した。
いきなり案内された事に多少困惑するが、クルトは黙ってお姉さんの後ろを歩く。
エレベーターにのり、四階に移動。そして、フロアの奥にある一室に辿り着いた。するとお姉さんはすぐにドアをノックし、中の返事も待たずにドアを開けた。
「すいません。レズリーさん、クルト=ゾルディックさんをお連れしました」
「おお、来たか」
中から、レズリーの声が聞こえてくる。
四年前聞いたきりだったが、クルトの記憶力はその声を正確に記憶していたので、すぐにその声がレズリーだと分かった。
お姉さんが小さく「お入りください」と言ったのを合図に、クルトは部屋に足を踏み入れる。部屋には数人の、武偵が椅子に座っていた。クルトは長年のクセから、即座に全員の戦闘能力を把握しにかかった。
(全員が全員手練れってわけじゃなさそうだな。まともな念能力者はレズリーのジジイと、あのピンクツインテール…ってピンクの髪って随分とインパクトある女もいたもんだなって―――)
「お前かよアリア!!」
そう、集まった武偵達の中に、四年前の金髪から一転して、ピンク色の髪になったアリアがちょこんと座っていた。しかも碧眼も、赤紫(カメリア)色の瞳になっている。
「え!?クルト!?」
アリアもアリアで、四年振りに出会った知り合いに驚いている。
そんな中、クルトは再会の喜びも忘れて、アリアを凝視する。
「な、なによ…」
いきなり見つめられ、一気に顔を真っ赤にするアリア。
アリアにとって、クルトは初めて出来た友達であると同時に、初めてまともに接した同年代の異性でもある。意識するなと言う方が無理な話である。
「アリアお前グレたのか?」
「んなっ!?バカクルト!!そんなわけないでしょーがッ!!」
叫んだアリアは、手に持っていたボールペンを思いっきりブン投げた。いや、投擲した。先端がキチンとクルトを方を向いて飛んでくる。しかも顔面目掛けて。
だがクルトはそれを首を傾げる事によって難なく回避。頭の横を通過したボールペンは、壁に当たって落ちるかと思われた。
しかし。
ドスッッ!!
と、おおよそ有り得ない音を立てて、ボールペンが壁に突き刺さった。しかも先端がではない。根本を一センチ程残して後全部がである。
その出来事に、クルトと、レズリー以外の武偵は目を丸くしている。
「おいおい、いきなり“念”かよ…」
クルトは、アリアのとんでもない成長に、少しだけ冷や汗を流すのだった。
その後、落ち着いたアリアを席に着かせ、クルトも、アリアの横に座った。もちろん座る前には自己紹介も忘れなかった。
クルトが最後だったのか、着席すると同時に、レズリーが咳払いして、空気を変える。
「お主らに集まって貰ったのは他でもない。明日、ある犯罪組織の摘発を行う」
その言葉に、アリアの身体が少しだけ震えるのを、クルトは気付いた。いきなりの大仕事に緊張しているのだろう。
(まあ、Sランク武偵であるレズリーが出る必要があるレベルの組織が初めての相手ともなれば緊張もするか…)
当のクルトは一切の緊張をしていなかった。
そもそも、暗殺業を営んでいた時期は、二三度テロ組織の壊滅を依頼された事もある。そんなクルトだが、一つ、疑問があった。
「すいません」
だからその疑問を解消する為に手を挙げた。
「なんじゃ?」
「俺とアリアがこの作戦に選ばれた理由が知りたいです」
「それはお主等が強いからじゃ。それに将来有望な者に経験を積ませるのも大事じゃからのう」
「そんな言葉を信じるとお思いですか?」
クルト自身、自分がこの中でも強い事は自覚している。この中でクルトに勝てる可能性がある者はレズリーぐらいだろう。そして、アリアも、見る限りでは念能力をこの四年間で習得している事を見ても、実力的にはかなり高い。
しかし、だからといって初めての事件が犯罪組織の摘発というのは難易度が高すぎる。経験を積ませるにしても段階というものがある。
(にも係わらず俺とアリアを使うってことは恐らく…)
結論に至り、自分の答えを言おうとしたクルトだが、レズリーに目で睨まれ、これ以上は何も言わずに黙って座った。
「そこは信じてもらうしかないのじゃ。っと、それより詳しい作戦内容を言わねばのう」
その後、レズリーによる作戦の説明が行われ、凡そ三時間後、解散となった。
クルトと、アリアを残して。
「で?キチンとした説明はしてくれるのか?」
少しの間沈黙が続いていたが、しびれをきらしたクルトがそう言った。
「ちょ、ちょっとあんた失礼よ!」
大先輩であるレズリーにタメ口で話すクルトに、アリアは注意する。
「がはは!別に構わんよホームズの娘よ。こやつとは知り合いじゃからの」
「で、でも」
「そんな事より俺とアリアを今回の作戦に入れた意図は、敵の方に念能力者がいるからで間違いないのか?」
クルトのその言葉に、アリアは目を見開く。
「ね、念能力者!?」
どうやらアリアは全く分かっていなかったようで、かなり驚いている。
「そうじゃなきゃいくら俺とお前が強くてもこんな重要な任務でド新人を使う訳ないだろ」
「う…、そ、それは…まあ、そうね」
「納得しました」と言いたげな表情のアリアが妙に可愛く見えたクルトは、無意識にアリアの頭を撫でる。
いきなり頭を撫でられたアリアは、いきなりの事に真っ赤になりながらも、しばらくされるがままになる。しかし、すぐに現状を理解したのか、「にゃ、にゃにすんのよ!!」と怒鳴り、クルトの顎にアッパーを放つ。
それをクルトは難なく回避。
「こら!よけるな!!」
「アホか。よけるに決まってるだろ」
そう言いながら悉くアリアの攻撃を躱していく。
「くぅ~~~!!」
悔しそうに地団駄を踏むアリア。
そんなアリアの隙を突き、再び頭を撫でる。そしてアリアが赤くなりながら暴れる。というじゃれ合いが数分続いたかと思うと、レズリーが咳払いをし、二人はじゃれ合いを止めた。
「お主等、イチャつくのは話が終わってからにしてくれんか?」
「い、イチャついてなんかいないです!!」
真っ赤になってアリアが叫ぶ。
「照れんな」
「照れてないッ!!」
ブンっと、アリアは再びアッパーを放つが、またもひょいっとクルトに躱される。「な、なんで当たらないのよッ!!」と悔しそうに言うアリアを無視して、クルトはレズリーに視線を向ける。
「念能力者がいるって情報は確かなのか?」
いきなり話題を振ってきた事に、レズリーは内心で苦笑するが、その事に律儀に答える。レズリー自身、クルトに対しては、「大人びても何だかんだで中身は子供」と思っている以上さして怒る事のものではないのだ。
「ああ。敵組織に潜入していた武偵からの情報じゃからたしかじゃぞ」
「超能力者という可能性はないんですか?」
アリアが尋ねる。
クルトも、その可能性は考えていた。
そもそもに至り、念能力は、今の世の中そこまで広く認知されている訳では無い。それは戦闘を多く経験する武偵も例外ではなく、Sランク武偵ですら知らない者が大多数という程だ。
その大きな理由としては、念能力の効率的な修行方法が不明というのが主な理由だ。その結果、念能力者は、いたとしても纏が出来る程度という者達ばかり。
ゾルディック家や、レズリー、遠山鐡、遠山セツのように修行法を知っている一族や人物もいるにはいるが、それは極少数となっている。
「その可能性は低いじゃろうな。パンチ一発で人間の頭部を吹き飛ばすなど念能力者にしか出来んじゃろ?」
「…確かに。そんな奴は超能力者よりも念能力者だろうな。ったく厄介だな。まさか犯罪組織に能力者がいるなんて」
クルトは苦虫を噛み潰したような表情をした。
それはレズリーも同様だ。
「確かにのう。本当に厄介じゃ…」
その表情はどこか達観したような、哀愁漂うものだった。
その表情を見たクルトは、どうしたのかと問おうかと思ったが、自分のような子供が口を挟むことでもないだろうと自重した。
その後、念能力者の存在は他のチームメンバーには黙っているという事で、今回の作戦会議は終わりを迎えた。
ページ上へ戻る