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第一話 旅立ちの風
第一話 旅立ちの風
紋章騎士団が占拠する巨塔、グランドクロス。
その最上階には、四神の頂点にして組織の創設者
でもある男、ゼファリオンがいる。
背中まで流れる黒髪に、黄金の瞳。
外見だけで言えば大体35~40歳程度。
そして白く大きなマントをなびかせ、英雄は塔の頂上から
、ただ荒廃していく世界を眺めている。
通称 転生のゼファリオン
その時、一人の男が遅れてゼファリオンのいる最上階に
姿を現す。
『ついに風が動いたか』
その一言を発した者・・・それは闇のローブで全身を覆い、
自身の身長すらも越える長さの刀を片手に持つ、長身で若い男。
彼の素顔を見た者は、ナイツでも幹部のみ。
通称 斬獲のシュラネス
『シュラネスか。君はこの物語の結末をどう見る?』
『さぁな。ただ言えることは、今の風では世界を変えるには
弱すぎる』
ゼファリオンは小さく頷いた。
彼は待っているのだ。
真に力を持つ英雄を。
『この風が希望になるか、絶望に変わるかは、あの少年次第だ』
ゼファリオンはそう言うと、首だけを後ろに向けた。
同時に、一人の女性も最上階に姿を現した。
『おー!みんな早いねぇ♪シュラ君も久しぶりっ!』
外見で言うと23~25歳程度か。
背中まで流れる黄金の髪に瞳を持つ女性。
身長は160センチと、平均よりやや上といったところ。
通称 聖光のシルフィーナ
3人が集結した時、ゼファリオンは静かに口を開く。
『星裁の使徒が揃うのも久しぶりだ。これもあの風が、我ら三人を引き寄せたのか』
星裁の使徒、それはゼファリオン・シュラネス・シルフィーナの
3人で編成される紋章騎士団の幹部であり、その実力は到底他の騎士達の及ぶところではない。
『見届けよう。俺達はその為に存在するのだからな』
シュラネスの一言に、二人は頷いた。
※※※※※※
『ダメだ』
第一声はあまりに唐突だった。
ダーティスの外れにある何もない平地。
そこには男二人が住む、一軒の民家が存在する。
『なんでだよ、親父はこのまま世界が亡くなっても良いのかよ!』
アッシュと父オルガは、ある話でもめていた。
世界再生の旅に出ようとするアッシュと、それを許さないオルガ
の意見が激突していたのだ。
『だからお前が行く・・・ってか?命を落とすことになってもか?』
オルガの一言に、アッシュは言葉を失う。
だが、彼の覚悟は最初から変わっていなかった。
『誰かがやるしかねえだろ!このまま何もしないまま世界が終るなんて
俺には耐えられない!それに俺には親父の剣がある!絶対負けない』
今度はオルガが沈黙する。
『頼むぜ親父。可能性が0じゃない以上は、やってみたいんだ』
オルガは沈黙を続けるが、やがて口を開く。
『・・・分かってるとは思うが、相手は紋章騎士団だ。
だが、お前にそこまでの覚悟があるなら、もう止めはしねえ。
だがなアッシュ、これだけは言っておく』
『なんだよ?』
『アッシュ、お前はいつか必ず大きな壁にぶち当たる。その時が
来たら、迷わず戻ってこい。約束しろ』
父オルガは、まるで全てを見透かしているかのように断言した。
同時にアッシュも、父の一言に今まで以上に戦慄を感じていた。
それでも、彼の意志に一切の迷いはない。
『あぁ、わかったよ』
オルガは自身の腰にさしていた剣を、アッシュに投げ渡した。
それを右手で受け止め、今まで使っていた稽古用のソレと差し替える。
笑顔で軽く礼を言うアッシュと、それにサムズアップで応える父オルガ。
だが、彼が家を出た次の瞬間―――
『ようアッシュ!俺をさしおいて抜けがけか?』
『ジェイルか』
アッシュのすぐ目の前には、同じ歳ぐらいの青年がいた。
名はジェイル=クローヴァー。
二人は幼い頃より、互いに剣の腕を磨きあってきた親友にして、同時にライバルでもある。
アッシュのような異能力こそ使えないが、それでも十分背中を預けられる相棒だ。
『そういう訳じゃねえんだけどさ、お前まで巻き込みたくないっていうか』
それを聞いたジェイルは笑う。
『お前さ、あまり似合わないぜ?そーいう言葉』
『うるせえな』
ジェイルは続けて、
『それに、たった一人で紋章騎士団に挑んでどうにかなると思うか?』
『それは・・・』
アッシュは言葉を詰まらせる。
よく考えてみれば、ジェイルの言うとおりだった。
世界の再生だけに意識がとらわれ過ぎて、冷静さが欠けていたのだ。
そんなことにも気付かなかった己自身に少し腹を立てながらも、アッシュはこう返す。
『OK、一緒にいこうぜ』
『決まりだな!』
ダーティスに住む青年、アッシュ=ランバードはついに旅立ちを決行する。
全てを変える為に。
真実を確かめるために。
そして、これ以上の悲劇を失くす為に。
青年の辛く悲しい戦いは、この時より始まる。
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