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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第3部
グリンラッド〜幽霊船
  再びスーの里へ


 サマンオサでの一件が一段落し、新たに私の幼馴染であるルークを仲間に加えた私達は、次の目的地であるスーの里へと向かうため、船が停泊しているポルトガの港町へと戻ることにした。

 ユウリのルーラであっという間に町に到着すると、一行は早速船着き場まで足を運んだ。

 船着き場にはすでにヒックスさんがいた。船の前で数人の旅商人らしき人たちと会話をしていたヒックスさんが私たちに気づくと、旅商人たちは一言挨拶を交わしたあとその場を離れた。

「おや皆さん、おかえりなさい」

 そんなヒックスさんは私たちを見てすぐに、ルークと目が合った。

「おや、あなたは……?」

「初めまして。これからしばらくの間お世話になります、ルークと言います」

 ルークが行儀よく挨拶をすると、ヒックスさんは深々とお辞儀をした。

「初めまして、私はこの船の船長のヒックスと申します。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 お互い丁寧に自己紹介をして挨拶すると、先程ヒックスさんと話をしていた旅商人たちの後ろ姿を目で追っていたユウリがヒックスさんに尋ねた。

「さっきの奴らは?」

「ここを拠点にしている旅商人たちです。私たちが船で世界中を旅していると言ったら、どこか商売できるところはないかと聞いてきたので、ルカさんのいる町を紹介してたんですよ」

 聞けば、私たちが冒険をしている間、ヒックスさんはしばしば滞在している町で冒険者や旅商人などに、ルカの町のことを話しているそうだ。その話を聞いた人たちの中には、町に興味を持つ人も少なくなく、機会があれば行ってみたいと言う人もいるらしい。

「そうだったんですね。すみません、気づかなくて……。ありがとうございます」

 私がお礼を言うと、ヒックスさんは滅相もないと、両手をぶんぶんと横に振った。

「いえいえ、私どもには、このくらいしか皆様のお役に立つことができませんから」

「何言ってんだよ、ヒックスのおっさん。あんたのお陰でルカの町に人が増えるようになるかもしれないんだぜ?」

「そーだよ! るーくんもきっと喜んでるよ!」

「いえそんな、私など……」

「ふん。どこかの一般人と違って気が利いてるな」

 棘のあるユウリの言い方に、私はつい言い返そうとしたが、ルークが苦笑いを浮かべながら私を引き留めたので、ここはぐっと我慢した。

「皆さん戻ってきたということは、もう出発なされますか?」

「いや、先にルーラで行きたい場所がある。すぐに戻るつもりだからそれまで準備して待っててくれ」

「わかりました。他の者には私から連絡するので皆さんお気をつけて行ってきてください」

 その後ヒックスさんに見送られ、早速スーの里に向かうことに。ところが、ユウリは意外そうな顔で私たちを見回した。

「シーラはともかく、なんでお前らまでついてくるんだ?」

『え!?』

 どうやらユウリはシーラと2人でスーの里まで行くつもりだったらしい。ユウリ以外の4人はなんとなく流れで全員行くのかと思っていたので、思わず面食らってしまった。

「別に杖を渡すくらい、こんな大人数で行くことはないだろ」

 だが、ユウリの意見に賛同するものは一人もいなかった。

「えー、せっかくだから皆で行こうよ〜☆」

「そーだよ! スー族の里なんて、すげー気になるじゃんか! オレも行くぞ!!」

「私も久しぶりにジョナスたちに会いたい!」

「えーと……、ミオが行くなら僕も!」

「……」

 というわけで、結局全員でスーの里に行くことになった。道中ずっとユウリが不機嫌な顔をしていた気がしたが、私はあえて見て見ぬふりをすることにした。



「うわーっ!! 何あれ、不思議な形の建物!! あんな造りの家で本当に生活できるの!?」

「おい見ろよシーラ!! あそこにいる人たち、みんな鳥の羽みたいなのつけてるぜ!!」

 スーの里の入り口から見える独特な建物や里の人の姿を目の当たりにして、騒ぎ立てているシーラとナギ。ルークも初めてサマンオサ以外の場所に来たからか、興味津々であちこち見渡している。

 だがそんな中、ルーラの呪文で私達5人をスーの里まで移動させたユウリは、ぐったりした様子で里の入り口付近の木陰に座り込んでいた。

「大丈夫? ユウリ」

 心配になった私が声をかけるも、彼は無言で俯いたまま。ルーラの呪文は人数や移動距離に比例して魔力の消費も高くなるそうなので、一度に5人を運んだユウリの魔力は相当消耗したのだろう。

「ごめんね、ユウリの呪文に頼っちゃって……。やっぱりキメラの翼、買っておけばよかったね」

 ついユウリの呪文に甘えてしまっていたが、こういうときこそアイテムを使うべきなのだと私は反省した。

「……ふん。別にお前に心配されるほど俺はヤワじゃない」

 そう言うとユウリは、すっくと立ち上がった。どう見ても無理してる気がするが、これ以上は下手に口を出さないほうがいいだろう。

「!! あれは……」

 ユウリが里の入り口に目を向ける。じっと目を凝らすと、里の奥から一人の男性が猛然と駆け出してきた。あの人は……!

「お前たち、余所者!! この里入る、まず私と勝負する!!」

 言うやいなや、その男性は里の入り口で騒いでいたナギに近づくと、彼の足元に向けて手にしていた斧を振り下ろした。

「なっ、なんだ!?」

 ドゴッ、と言う音とともに、ナギの足元スレスレのところで斧が地面を砕いた。男性は地面に突き刺さる斧を引き抜くと、再びナギに向き直った。

「いざ、勝負!!」

「ちょちょちょ、ちょっと待て!! なんでいきなりあんたと勝負しなくちゃなんね―んだよ!!」

 慌てふためくナギに、聞く耳を持たず襲いかかる男性。流石にこれはマズイと、止めようとしたが――。

「いきなり攻撃するなんて、一体何なんですか、あなたは!」

 二人の間に割って入ったのは、ルークだった。彼の手には、すでに自身の武器であるパワーナックルを装備している。臨戦態勢に入ったルークに相手の男性は興味を示したのか、斧の刃先をルークへ向けた。

「お前、強そう! 私と戦う、勝ったら里に入れる!」

「は?」

 わけがわからないといった様子だが、相手の殺気を感じ取ったのか、構えを崩すことなく相手を見据えるルーク。そんな2人に思わず私はため息をつく。

――ああもう、久しぶりの再会だというのに、相変わらずだなあ。

 これ以上傍観するわけにもいかず、私は殺気立つ二人の間に堂々と割って入った。

「み、ミオ!? 危ないよ!」

 慌てふためくルークを尻目に、私はかつてともに旅をしたスー族の男性に体を向けた。

「久しぶり、ジョナス」

「おお、ミオ!! 久しぶり!!」

 ひらひらと手を振る私の姿を目に留めた途端、ジョナスは持っていた斧を放り投げると、私に向かってタックルをしてきた。

「く……、苦しい……」

 否、これは再会を喜ぶ抱擁……のつもりなのだろう。少なくともジョナスにとっては。

「ミオ、元気そうでよかった!! ユウリは一緒なのか!?」

「そ、そこに……げほげほっ!!」

 まるで体を握りつぶされるんじゃないかというほどの手厚い歓迎に、抱きしめられた私は息も絶え絶えになりながらもなんとか声を振り絞る。

「随分と手荒い歓迎だな、ジョナス」

 そこへ、いくらか体力が回復したのか、ユウリもやってきた。苦笑しながらも、かつての仲間との再会に喜びを隠しきれない様子だ。

「ユウリも!! 久しぶり!!」

 ジョナスはユウリの声に気づくと、今度は彼に向かって突撃してきた。体調が悪い上にジョナスに抱きつかれ、ユウリの顔がみるみる青ざめていく。きっとスー族ならではの歓迎の仕方なのだろうが、アルヴィスに次ぐ屈強な体格の人間に抱きしめられたら、いくらユウリであってもただではすまないだろう。

「す、すまないジョナス……、少し離れてくれ」

 ……やっぱり平気ではなかったらしい。それでもジョナスは気づいてなかったようで、ユウリから離れた今も笑顔で彼の背中をバシバシと叩いている。

 一方少し離れたところでは、現状を把握できていない三人が、ぽかんとした顔でこちらを眺めている。しまった、まだジョナスのことを紹介していないんだった。

 私はジョナスの腕を引きながら、3人の前で紹介をした。

「ごめんごめん、こちら、スー族のジョナス。前に一緒に旅をしたことがあるんだ」

 ついでにジョナスが里の警護のために私たち武器を向けたことを説明した。それで初めて、ルークの警戒心も解かれたようだ。

「ユウリたちの仲間、なら安心。里に入っていい」

 誤解も解けたところで、私たちはようやく里の中へと入ることができた。こちらの事情をジョナスに説明すると、エドのいる場所まで案内してくれるというので、ついていくことに。

「おお、何事かと思えば、君たちだったか。今回は随分と大所帯だな」

 私たちのことを聞きつけたのか、里の長であるアナックさんがどこからともなくやってきた。

「お久しぶりです、アナックさん」

 年齢の割に逞しい体躯をしているアナックさんは、今まで狩りをしていたのか、背中には仕留めたウサギを数羽背負っている。その野性的な風貌に、3人は揃ってたじろいだ。

「ユウリたち、エドに会う。私今から、エドのところ案内する」

 ジョナスがアナックさんに報告すると、アナックさんは深く頷いた。

「そうか。ならしっかり役目を果たせ。しかしジョナスよ。最近お前の帰りが遅いと、メイリが心配してたぞ」

「め、メイリが!?」

 アナックさんの言葉に、ぎょっとするジョナス。ちなみにメイリとは、ジョナスの妻の名前である。以前ここに来たときに彼の家にお世話になったことがあるのだが、そのときにメイリと知り合った。驚いたのは、彼女は私より年下であり、さらに二人の間にはすでに子供がいたのである。

「皆、急いでついてくる! こっち!」

 奥さんの名前が出た途端、急にジョナスの足が早くなった。他の皆は何事かと不思議そうにジョナスを見たが、メイリの性格を知っている私だけはやっぱりかと納得していた。

「なあ、ジョナスの奴、なんであんなに慌ててんだ?」

 ナギが不思議そうに私に尋ねる。

「メイリは、ジョナスの奥さんなんだよ」

『奥さん!?』

 いつの間にか隣にいたルークまでもが、ナギと同時に驚いた声を上げた。

「あー、なるほど。ジョナりんにしたら、早く奥さんのもとに帰りたいってワケだね☆」

 さすがシーラ。恋愛に関する理解力が半端ない。てかジョナりんって何!?

「いや、のんびり話してる場合じゃね―だろ! あいつ先に行っちまうぞ!」

 ナギの言う通り、ジョナスはすでにはるか遠くまで走っていってしまった。前に一度エドのところには行ったことがあるが、うろ覚えの記憶でジョナスの案内なしにたどり着ける自信はない。私たちは急いでジョナスのあとを追った。

 
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