未来を見据える写輪の瞳
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六話
濃霧の立ち込める中、ギィンギィンと乾いた音を立てて火花が散る。再不斬の大刀とカカシのクナイがぶつかり合っているのだ。いくら濃霧と言えども目の前に相手がいれば視認することはできる。二人の戦いは完全に接近戦となっていた。
「オラァッ!」
大刀がうなりを上げてカカシへと迫る。並の忍ならばそれだけで足がすくんでしまうかもしれない。それほどの一撃でもカカシは決して焦ることはなく、写輪眼による先読みを最大限利用し手に持つクナイで受け流す。
「チッ!」
そして攻守は入れ替わり、カカシが手数を重視した連撃を叩きこむ。再不斬は大刀を盾の様に活用し、その攻撃を防ぎきって見せた。
互角。互いに一撃も攻撃を受けることなくここまで来た。だが、再不斬にはそれが解せなかった。
(カカシの野郎……忍術タイプじゃなかったのか!?)
忍が扱う術は大別して三つ。即ち体術、幻術、忍術だ。よほど意識してオールラウンドに成長させぬ限り、大体は三つの内どれかに傾倒していくものだ。それは、例え上忍だろうと変わらない。
再不斬は得物の大刀からも予測できる通り、生粋の体術タイプだ。そして、再不斬はカカシを忍術タイプだと思っていた。確かに、先の敗北もあったがそれは自分に少なからず慢心があったから。確かに写輪眼は厄介だがそれでも体術勝負になれば自分が有利と踏んでいたのだ。にも関わらず現実は全くの互角。いや、それどころか若干ではあるが押されつつある。
「はっ! おもしれえじゃねえか!」
それでも、再不斬は己の勝利を疑わない。手に持つ大刀で相手を両断する。それだけを目指して、再び攻勢へと移った。
闘志をたぎらせていく再不斬に反してカカシは心を落ち着かせていた。今は僅かだが勝負を優勢に進めているものの、この程度は簡単に覆ることを知っているからだ。
(あいつには感謝だな)
カカシが再不斬の猛攻に曝されながらもこうも落ち着いていられるのは彼のライバルの存在が大きい。何かと自分に勝負を挑んでくるその男は木の葉でも生粋の体術使い。そのおかげで、カカシは本来忍術タイプであるにも関わらずこれほどの体術スキルを誇っているのだ。
「!?」
だが、そんなカカシの顔が突然強張った。突如感じた巨大なチャクラ。全てを破壊しつくす様な、暴力の塊。この力をカカシは知っている。もし、この力が解き放たれればとんでもないことになる。ナルト……先ほど戦場に現れサスケの助太刀にいったのは把握していたが一体なにが起こったというのか。
「再不斬、悪いがお前の相手をゆっくりしている暇は無い!」
ジャケットのポーチから巻物を取り出して広げ、そこに己の血で線を描く。そして再び巻物を閉じ、印を組む。
「さあ、終わらせるぞ!」
――――口寄せ・土遁・追牙の術!
巻物を地面に叩きつける様にして押し付けると、巻物から飛び出た複数の何かが地面の中へと潜っていく。そして、カカシの行動はまだ終わらない。すぐさま次の印を組み始め、完成させる。
――――風遁・大突破!
普通の風程度では飛ばされる霧も、同じくチャクラを含む風なら話は別だ。再不斬の忍術によって発生した霧は、跡形もなく吹き飛ばされた。
「カカシィ!」
突然のカカシの発言。それはお前等眼中にないと言われるに等しかった。確かに、再不斬もあの強大なチャクラを感じ取っていた。だが、だからといって自分をそのように扱われるなど我慢がならない。
ここにきて再不斬は、怒りのあまり真正面からカカシに斬りかかった。周囲へ、注意を測ることもなく。
「な、にぃ!?」
そして、それは致命的だった。怒りに我を忘れていなければ、気付けただろう地下からの襲撃。再不斬はそれをかわすこともできず、大小様々な八匹の忍犬の全身を噛まれその場から動くことができなくなる。
「これで最後だ」
カカシの右腕に、蒼い雷が宿る。これこそ、カカシの写輪眼に並ぶもう一つの代名詞。その術の名を、”雷切”。
破壊の右手を携え、カカシは再不斬へと疾走する。そして、再不斬の息の根を止めるべく心臓へと突きを放つ。カカシの右手は、確かに肉と骨を切り裂き、心臓を潰した。ただし、
「再不斬、さん……」
「よくやった、白」
潰した心臓は再不斬のものではなく、白と呼ばれたお面の子のものだった。
「!?」
想定外の乱入に茫然としたのも束の間。既に事切れた白ごと自分を切り裂こうとする再不斬を見てとったカカシはすぐさまその場から飛びのく。
飛びのいた先でカカシは白の体から腕を引き抜いた。すると、糸の切れた操り人形のように白の体は力なく倒れようとする。それをカカシは支えてやり、ゆっくりと地面へと横たわらせた。
「再不斬……」
「どうした、かかってこい」
忍犬により全身を傷つけられながらも武器を構える再不斬。だが、そこには何も感じられない。カカシには、何となく再不斬の気持ちが分かった。様は戸惑っているのだろう。白の死。それにどうしようもない何かを感じている自分自身に。
「…………」
最早何も言うまい。そう判断したカカシはクナイを構える。今ここで、忍びとしての人生を終わらせ白の元に少しでも早く送ってやろうとでも言うかのように。
だが、そこへ邪魔に入るものがいた。橋一杯の手下を従えた、再不斬の雇い主ガトーだ。
「てめぇ、なにしにきやがった!?」
今回の件は自分に任せる。そういう話であったというのにこの横やり。ガトーへの怒りで再不斬は一時的に我を取り戻したようだ。
「はっ! 腕利きだというから雇ったというのにその体たらく。やはり忍などに任せるべきではなかった。
ん? そこの小僧……もしや死んだのか? ははは! これは傑作だ! やはり役立たずの下に付くのはそれ以下のクズだな!」
カカシ達は知る由もないが、ガトーはかつて再不斬に触れようとして白に腕を折られている。現に今も片腕にギプスを巻いている。そのためか、白が死んでいることに気分をよくしたのだろう。顔に笑みを浮かべながら再不斬と白を罵倒していく。
「てめぇら……!」
深く傷ついているサスケを案じ、下忍達の元へ移動していたカカシはナルトの憤りの声を聞いた。既に九尾のチャクラはおさまっているが出来れば今は刺激を与えたくないのが本音だ。
「アンタも! アイツ等にあんなこと言われていいのか!? アイツは……あんなにもアンタのことが大切だったんだぞ!」
再不斬のために命すら躊躇いなく投げ出した白。その生きざまはナルト達に強烈な印象を与えた。そんな白を、あのような輩に馬鹿にされるのはナルトには我慢できなかった。
「……小僧」
「……?」
「もういい、何もしゃべるな」
自分の想いをぶつけるナルトの言葉を、再不斬が遮った。その顔には鬼人にはふさわしくない、滝の如き勢いで涙が流れていた。
「クナイを貸せ」
口元を覆い隠していた布を食いちぎりながらナルトにクナイを要求する。血が流れ過ぎたためか既に腕も満足には上げられない。そのため、再不斬はナルトが放り投げたクナイを口で受け止めた。
「ガトー、てめぇだけは……」
再不斬の体からチャクラが滲みだす。ゆったりと立ち上ったチャクラは、やがて再不斬の頭上で鬼の顔を形作った。
「俺と一緒に、地獄へ行ってもらう!」
疾走。再不斬は口にくわえたクナイだけを武器に、橋を埋め尽くすギャングの群れへと突撃する。ガトーの命により何人ものギャングが再不斬を強襲するが、それも全く意に介さない。
刀で貫かれようと、矢が刺さろうとも。ただガトーのみを目指して突き進む。
「貴、様ぁ!」
そして、ついに再不斬はガトーの元へと辿り着く。ここまで来たら、やることはただ一つ。
「死にやがれ」
口にくわえたクナイで、再不斬はガトーの首をはね飛ばした。
「目をそらすなよ」
「…………」
その光景を木の葉の忍達はじっと見ていた。思わず目をそらしそうになっても、カカシの声がそれを許さない。
「あの男の、最後の生き様だ」
「うん」
ガトーは死んだ。では、これですべて終わったかと言うとそうではない。
「あーあ、よくもやってくれちまったなぁ」
ガトーが連れてきたものの中には傭兵の類も数多く含まれていたようだ。彼等は雇い主が殺されたことによって金が支払われなくなったことに怒っているようだ。
(まずいな……)
例え大量の傭兵といえども、普段のカカシなら物の数ではない。しかし、今のカカシは再不斬との激闘を終えた後。写輪眼に口寄せに雷切。正直なところ、チャクラを使いすぎている。今は何とか持っているが、少しでも気を抜けばそのまま気を失いかねない。
「お前達。ここは俺がやる。だから、タズナさんとサスケを連れて逃げろ」
それでも、カカシは上司として部下を守るために戦わねばならない。未来ある子供、そして何より恩師の忘れ形見を。
「待て!」
だが、そんな決意も第三者の登場で覆る。
「あー、お前ってば! イナリ!」
橋に現れたのはイナリを先頭として、ガトーに苦しめられてきた街の者たちだった。皆がそれぞれ思い思いの武装をして、並び立っている。
「もう逃げない! 父ちゃんみたいに、僕たちがこの国を守るんだ!」
イナリの声に賛同するように、皆の声が辺りに響く。ギャングたちも、突然現れた者達に若干だが困惑しているようだ。
「へへっ、俺も負けてらんねーってばよ!」
ナルトが印を組むと、数体の影分身が現れる。それをみて、カカシはこの場を切り抜ける方法を思いついた。
「それじゃあ俺も」
同じように印を組み、カカシも分身 を作りだす。ただし、ナルトとは比べ物にならない数。数十体という規模でだ。
「「「さぁて、やろうか」」」
数いるカカシ達がドスの利いた声で一斉に声を発する。それを聞いたギャングたちは、一斉にその場から逃げだした。本能的に、勝てないと悟ったのだろう。無様に逃げ出していくギャング達を見て、人々は勝ちどきを上げる。
(何とかなったか……)
分身を消したカカシは思わず安堵の息をついた。先ほど出した分身はナルトと違い実態のないただの分身だった。つまり、あれはただのハッタリだったのだ。
「……さて」
「カカシ、か?」
「ああ」
最後の仕事だと体に鞭を打ち、倒れ伏していた再不斬へと歩み寄る。既に事切れていることも考慮していたが、まだ息はあったらしい。
「最後の頼みだ。アイツの所に、連れてってくれ」
「分かった」
再不斬の腕を肩に回し、白の横へと運んで寝かせてやる。再不斬はゆっくりと顔を傾けて白の顔を一度見ると、次はナルト達へと顔を向けた。
「小僧ども、よく聞け」
「何だってばよ」
「これが、忍の死にざまだ。いつ、どんなとき、どうやって死ぬともしれねぇ。だが、これは俺みたいな奴の、だ。お前達は、俺みたいになるんじゃねぇぞ」
ナルトを始め、意識を取り戻したサスケとそれを支えるサクラも、再不斬の言葉に黙って頷いた。それを見届けると、再不斬は再び白の方へと向き直る。
「白……出来る事なら、死んだ後もお前と、同じ場所に行きてぇ、なぁ」
その言葉を最後に、”霧隠れの鬼人”桃地再不斬は息を引き取った。空からは雪が舞い落ちまるで、白と再不斬、二人の死を天が悲しんでいるかのようだった。
こうして、下忍達に大きな影響を与えた波の国での任務は終わった。
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