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Fate/WizarDragonknight

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進化する野獣

 ビーストハイパー。
 青と金により、派手さを強調した姿を、ビーストは見下ろした。

「こいつはすげえ……! 全身に、力が溢れてくる……!」

 頭の中に体内のキマイラの咆哮が響く。
 あたかも自身が獣になったかのような感覚に覆われる。
 ビーストはぎゅっと拳を握り、いつの間にか右手に握られる銃___ミラージュマグナムを見下ろす。

「へえ……銃か。新しいビーストは重火器も使うと」

 ビーストはミラージュマグナムを数回指で弾く。金色のキマイラが彫り込まれた青い銃は、夕陽を反射し、神秘的な光を放っている。

「……」

 フロストノヴァはじっとビーストを睨む。
 そのまま右手を挙げ、氷が彼女の腕を追うようにせり上がっていく。
 そして、再び無数の氷がビーストへ放たれていく。
 数回、銃で応戦して氷弾を打ち落としたビースト。だが、すぐさまビーストは戦法を切り替え、ビーストは腕を振った。
 するとビーストの両腕に付けられた帯が伸びていく。長く金色の刃となったそれは、氷を砕き、散らしていく。

「……っ!」

 フロストノヴァは数歩後ろに下がり、手を伸ばす。
 すると、あちこちから氷の柱が伸びてくる。
 それは、ビーストの反応速度を超えている。ビーストが反撃する間もなく、次々にビーストの体に突き刺さっていく。
 だが。

「コイツ、フロストノヴァの氷を吸収していやがる……!」

 ビーストは、自らの胸元を見下ろした。
 胸に象られる獣の顔。それは間違いなく、意思を持つかの如く動き、体に押し当てられる氷を口に入れ、かみ砕いている。
 例えビーストの背後から襲い掛かってくる氷であっても、無理にビーストの体を回転させ、その大口に含めるビーストの口。

「お、おおっ! いいじゃねえか。すげえ獣らしくてよ!」

 ビーストは自らの腹を撫でる。
 一方フロストノヴァは、再び黒い氷を放つ。
 真っすぐに飛翔する黒い氷。被弾すれば冷凍保存されることは免れないと分かっているそれに対し、ビーストはミラージュマグナムのトリガーを引く。
 ミラージュマグナムから、無数の金色の弾丸が放たれた。黒い氷は次々に粉々になり、地面に落ちていく。

「へへっ、いいねえ」

 ビーストは銃口にキスをする。仮面に遮られ実際はできないが、クルクルと回転させたミラージュマグナムへは、早くも愛着がわいてきた。

「……これほどとはな」

 一方、フロストノヴァは油断なくビーストを睨んでいる。
 深く白い息を吐き、冷たい風が彼女の髪を巻き上げる。

「決着を……つけるか」

 フロストノヴァは告げた。
 すると、顔を上げた彼女の目を見て、ビーストは息を呑む。
 白いウサギの左目は、十字に赤い光を放っていた。

「Sleep Sleep おやすみ 可愛い子よ」

 もう、歌と言っていいのか分からないほど掠れた声。
 吹雪。
 左目が赤く光り輝き、彼女の体が周囲との温度差により浮かび上がっていく。

「これは……!」

 ビーストの新ボディがみるみるうちに氷漬けになっていく。
 空気中の水分さえも凍り付かせるような温度に、ビーストの体でさえも寒さを感じ始める。

「おい……おいおい、お前、まだ手抜いてたってのか!?」
「……ゴホッ……」

 猛吹雪が襲う中、フロストノヴァは咳き込む。やがて少しずつ姿勢を崩していく彼女へ、ビーストは彼女の体から氷が突き出していくことに気付く。

「お前、その能力、むしろその力、お前にも強すぎるものなんじゃ……!?」
「ぐっ……」

 ビーストの予想が的中していると言わんばかりに、フロストノヴァの肩が震えた。
 見れば、真っ白な彼女の服装に、口元を中心に赤い模様が広がっている。

「だとしたら何だ……? 私の全力を持って、お前を倒す。戦士として……!」
「……チンタラしてられねえな」

 ビーストはそう言って、両腕の帯を振るい、吹雪を一瞬切り開く。
 だが、吹雪はすぐさま光景を埋め尽くしていく。
 さらに、本気のフロストノヴァの吹雪はそれだけではない。
 気付けば、ビーストの頭上には無数の黒い刃がビーストに狙いを定めていた。

「さっきまでの氷も当然あるよなそりゃあ!」

 黒い氷の刃は雨となり、ビーストへ降り注がれる。
 ビーストはミラージュマグナムで応戦、次々に刃を打ち落としていく。
 だが、その数が減ることはない。早々に応戦ではなく回避を選び、ビーストは氷上を
 瞬時に黒い氷山が乱立していく。ビーストは吹雪の中、フロストノヴァの姿を見定め、発砲。
 だがその銃弾すらも、瞬時に氷に作り変えられていく。フロストノヴァのもとに被弾したころには、すでに彼女の足元に転がる小石に成り果てていた。

「止まってられねえ……!」

 ビーストは吹雪の中を突っ切りながら、フロストノヴァへトリガーを引き続ける。白い氷に変えられながらも、ビーストはジャンプでフロストノヴァへ接近。

「うりゃっ!」

 蹴りでフロストノヴァの腕を払い、接近戦に持ち込む。ビーストの長い帯に対し、フロストノヴァはビーストの目の前で猫だまし。その中に挟まった冷気を瞬発的に開放。ビーストの体に冷気を浴びせ、動きを一瞬封じる。

「ぐあああっ……!」

 ビーストの体が氷を吸収していくものの、それまでは当然ビーストにダメージが入る。
 膝を折り、倒れ込むビースト。フロストノヴァはさらに、その肩にかけて剣を振り下ろした。

「ぐ……あっ……!」

 起き上がろうとするが、寒さと上からの圧力で阻まれていく。
 フロストノヴァは口から白い息を吐きながら告げた。

「終わりだ。多田コウスケ……この世界の戦士よ」

 右手の刃に力を入れながら、フロストノヴァは左手に冷気を溜め込んでいく。そのまま放たれれば、この新形態でも果たして無事にいられるか分からない。
 だが。

「負けられねえんだよ……!」

 降ろされる左手を掴み、ビーストは少しずつ起き上がっていく。

「……!」
「アイツらにも……お前にも……! これ以上、取り返しのつかねえことをさせるわけにはいかねえんだよ!」
「……!」

 ビーストはフロストノヴァの目の前まで顔を上げる。

「お前にも!」

 唸るコウスケ。
 すると、その全身から金色の幻影が吠えた。
 現実の世界に現れたキマイラの圧が、吹雪ごとフロストノヴァを吹き飛ばしていく。

「ぐっ……!」

 ゴロゴロと地面を転がったフロストノヴァ。起き上がり、睨みつける眼差しには、未だに闘志が冷めた様子はない。

「まだまだやる気みてえだな……」
「私達の願いのためだ」
「家族……か」

 ビーストはゆっくりと立ち上がる。

「お前たちは自分の家族のために戦うんなら、オレは誰かの家族のために戦うぜ。これでも、聖杯戦争で人生を狂わされたなんざ、珍しくねえんでな」

 ビーストはそう言いながら、ハイパーリングに手を当てる。
 上半分のパーツをスライドさせることで、それは縦に伸び、あたかもライオンの口が開いているようなデザインになる。
 そして、丁度ミラージュマグナムにも開いている同じ形の窪みにセット。

『ハイパー マグナムストライク』

 青と黄色の光が、ビーストへ集まっていく。集まった光は魔力となり、腕を使いミラージュマグナムの銃口へと流れていく。
 一方、フロストノヴァの周囲にも白い雪が集まっていく。先ほどまでの広がっていた吹雪が一か所に集まり、より強い冷気となっていく。
 そして。

「りゃああああああああああああっ!」

 そして放たれる銃弾。
 氷によっては妨害されない銃弾は、キマイラの幻影となり、同時に放たれたフロストノヴァの吹雪とぶつかり合う。
 キマイラと吹雪は、互いに接戦。

「負けられねえ……ダチのためにも……負けてたまるかあああああああああ!」
「ううっ……」

 フロストノヴァの体が、一瞬震える。それに伴い、一瞬だけフロストノヴァの吹雪が麻痺する。
 キマイラはその隙を逃さず、吹雪にその牙を突き立てる。吹雪は固体のようにキマイラに捕食され、次々にその量が減っていく。
 さらに、吹雪の量が少なくなっていくごとに、キマイラと雪うさぎの距離が徐々に短くなっていく。
 やがてキマイラの幻影は、フロストノヴァへそのまま命中、彼女の全身から白い力を一気に吸収していった。

「ぐあっ……!」

 フロストノヴァは低い悲鳴を上げる。
 一瞬体が浮かび上がり、地面に投げ出された彼女は、茫然とキマイラの幻影を見上げた。
 半透明の獣は、一瞬フロストノヴァを見下ろし、喰らいつく。
 同時に、白い爆発が彼女を包み込んだ。

「……っ!」

 爆風が晴れ、その場には茫然と立ち尽くすフロストノヴァだけが取り残された。

「……私は、生きて……いるのか……?」

 フロストノヴァは、力なく自らの手を見下ろす。そしてすぐさま、力が抜けたようにその場に倒れ込んだ。

「……」
「ああ、生きてるぜ。なんとか急所は外せてよかった」

 ビーストはそう言いながら、フロストノヴァへ近づく。
 倒れたままのウサギは、目だけを動かしビーストを視線に入れる。

「私のアーツを吸収したのか」
「ああ。やっぱり出来ると思ったぜ。あのまま続けば、お前の体もヤバそうだったしな」
「敵を助けるのか」

 フロストノヴァは問う。
 ビーストは銃口を下ろし、ビーストドライバーを閉じた。
 すると、ビーストの魔力が閉ざされ、コウスケの姿に戻る。

「オレは戦いを止めたい派なんだよ。そりゃあ、イリスやバングレイみてえにどうしても対話できねえ奴は仕方ねえけどよ。お前はまだ話が分かる方だし。戦いを止めて欲しいんだ。加賀にもな」
「……フ」

 その笑みは、どこか安らかなものにも見えた。

「……そうか……」
「ん? 何か言ったか?」
エレーナ(・・・・)!」
「加賀さん、待って!」

 その声に振り向けば、丁度凍った扉を開き、中から香子と祐太が続いて出てきていた。
 二人は走ってフロストノヴァの元にやってくる。香子はフロストノヴァを助け起こそうとするが、フロストノヴァは手で香子の助けを制した。

「これ……多田君……」
「悪ぃ加賀。オレの勝ちだ」

 コウスケはミラージュマグナムを肩に乗せる。

「戦略的にもお前はもう詰んでるぜ。令呪も残り一つで、戦えないマスター。強いサーヴァント一人で倒れた参加者なんざ、いくらでもいるからな」
「……」

 コウスケは次に、祐太へ向き直る。

「祐太。お前だって、加賀に戦ってほしくはねえだろ」
「……ああ」

 祐太は俯く。
 やがて香子へ向き直り、頭を下げた。

「加賀さん、もういいんだ。もう、ひなのために……俺たちのために戦わなくて」
「祐太……」
「もし俺のためにこんな戦いに参加したなら、もう戦わなくていい! もう、香子が危険に飛び込む必要なんてないんだ……」
「でも……」

 香子は戸惑いながら、フロストノヴァへ目を向ける。
 だが、起き上がろうとしないフロストノヴァは、静かに告げた。

「ここまでだマスター。私達の負けだ」
「そう……負け、なのね」
「ああ」

 この日。
 溶けていく氷が満ちる大学にて。
 ゲートキーパーは、矛を収めた。 
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