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第百五十六話 祭りの中でその一
第百五十六話 祭りの中で
一華はバレー部の出店に出た、すると。
「いや、順番が来たから来たら」
「運がよかったわね」
カンボジア出身の同級生が隣から言って来た。
「今丁度よ」
「お客さん多いわね」
「お客さんが多いと」
カンボジアの娘は目をキラキラとさせて言った、長い黒髪を後ろで束ね褐色の肌である。痩せて小柄である。
「やりがいがあるわね」
「それでいいのね」
「ええ、どんどん働くと」
そうすると、というのだ。
「それが徳になるのよ」
「勤労は美徳っていうし」
「そう、そして助かるから」
「そういえばあんたは」
一華は働きつつカンボジアの娘に言った。
「仏教徒よね」
「カンボジア人は大抵ね」
「そうよね」
「叔父さんお坊さんだから」
「そうなの」
「そのこともあってね。いやあれよ」
ここでカンボジアの娘はこうも言った。
「私が生まれるずっと前だけれど」
「その時なの」
「そう、カンボジアって大変だったでしょ」
「あっ、ずっとね」
一華もそれはと返した。
「ポル=ポト派が出たり」
「ずっと内戦でね」
「とんでもない状況だったわね」
「沢山の人が死んで」
ポル=ポト派が全人口の何割も虐殺したのだ、しかも産業も社会も全て破壊してしまい原始時代の様にしたのだ。
「だからね」
「お坊さんも大勢殺されたのよね」
「もう学校の先生でも誰でもね」
「殺してたのよね」
「もう滅茶苦茶だったから」
かつてのカンボジアはというのだ。
「そんなね」
「お坊さんなんてなれなくて」
「働くっていっても」
それでもというのだ。
「畑仕事しかね」
「なかったのね」
「皆それをやれっていう」
「農業だけじゃ駄目でしょ」
「うち実家農家だから」
カンボジアの娘はこのことも話した。
「畑仕事自体はね」
「嫌いじゃないのね」
「ええ、けれどね」
それでもというのだ。
「そんなね」
「畑仕事だけで」
「こうしたお仕事出来なくてよ」
「何もかもが出鱈目だったのよね」
「もう究極の馬鹿がやるみたいな」
一華に実に嫌そうに話した。
「そんなね」
「とんでもない政治で」
「お家も家具もね」
「何か本当に原始時代みたいな」
「そんな有様でね」
そうなってしまってというのだ。
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